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「な」


2012年鑑賞作品

名無しの十字架
2012年 93分 日本 カラー
監督:久保直樹 脚本:稲本達郎 松田知子
撮影:千足陽一 音楽:坪野竜也 濱崎明寿
出演:神尾佑 松尾れい子 小林聡 和田聰宏 米沢瑠美 吉田侑生 みのすけ 前田健 外波山文明 金山一彦


2012/12/13/木 劇場(銀座シネパトス)
なんか本作と「僕の中のオトコの娘」は唐突に公開されたような感があって、配給の流れも位置づけも全くわからず、双方共に監督さんや主演の俳優さんのお名前もピンと来なかったんでうーむという感じだったのだが、本作に関しては松尾れい子の名前に慌てて足を運ぶ。
松尾れい子!どこに行ったかと思ってたよ!……と思ったら、2時間ドラマあたりを中心にコンスタントに活動を重ねているのね……失礼しました。
いやあ、映画で出てきてその時期結構活躍していたのがふっつり見なくなると、もう消えたかと思うのは悪いクセか(爆)。でもどうしたのかなあと思って結構その後探したつもりだったのだが……。
ならばやはりそう思っていた真野きりなも実は……と思ってウィキったら、彼女はやっぱりすっかり休業状態だった。ガッカリ。

まあそんなことは関係ないのだが……。そう、松尾れい子。私的には久しぶりに見た彼女は(いや多分、そう言いつつ結構見かけてるんだろうが(爆))、あのブアイソっぷりが萌えポイントだった美少女の名残を残す、意志の強い、というか意地っ張りっぷりが可愛い大人の女になっていた。それはまあ役どころではあるけれど、私の中に残っている松尾れい子からすると、それはまさにイメージピッタリなんである。

なんでそこまでして真太郎をかくまうのかと三上が言うと呆れたように、しかしきっぱりと言う。「好きだからに決まってるじゃない」。
これを理由にされたらサスペンスの意義も何もなくなってしまうリスクありありなんだけど……だって女って、こういう台詞、いくらだって吹くじゃん……でも彼女が言うと、それ以外に何があるの、とちゃんと思わせてくれるんだよね。ウラも何もないんだと。
まあ彼女が真太郎をこんな事態に合わせたことにはウラも何もあったにしても、さ。

て進めていくとワケ判らんから軌道修正。とりあえず主演さんである。神尾佑。名前は見たことなかったが、何となく顔は見覚えが。でも主演は多分初めての人じゃなかろうか……いや私の見た中だけでは……多分……(自信ない)。
活動歴を見ると、これで彼のことを知らないなどと言うのは失礼極まりないほどだし、確かに見ているハズ。でも、こんな大人のイイ男いたかなあ、と素直に思ってしまうバカ(爆)。

だってさあ、だってさあ、このぐらいの年齢の俳優で主演張ったことない人なんて、なかなかいないじゃない。準主演ぐらいはありそうじゃない(いやあったのかもしれない、私が知らないだけで、ていうか、覚えてないだけで(爆))。
主演の名前でピンと来なかったけど、明らかに確かな場慣れの芝居、年相応の男くささの魅力で、おーっと思ってしまった。えーっ、こんなイイ男いたのと素直に思ってしまった(爆)。なあんで彼、今までキてなかったのかなあ。もったいない。

とはいえ、彼は確かに主演だけど、キーマンというか、そもそもこの映画の企画を立てた人物こそが大きな存在なんである。
神尾氏演じる三上はプロレスショップを細々と経営しつつ、地下に眠っている格闘技系のレアフィルムの発掘でこそコアファンに定評があって、生計を立ててる。
借金にヤクザが絡んじゃって、もうこの生活から足を洗いたいと思って、伝説のスナッフフィルム「トラ対人間」の映像を探し出すことになる。
まあ実際はスナッフフィルムではなく、トラに人間が食い殺されるなんていうのは都市伝説に過ぎなかった訳で、そのトラと闘ったキックボクサーは壮絶なトラの爪あとを残しつつも、記憶をなくしつつも生きているし。
都市伝説になっている間こそが花だというオチかと思いきや、そのフィルムをめぐる闇組織との攻防に巻き込まれていくんである。

で、そのキーマンっつーのが当然、キックボクサーの真太郎、演じる小林聡氏である。劇中の設定そのままに、ムエタイチャンピオンを倒したことがあるという伝説のキックボクサーだという。
記憶喪失という何か懐かしい設定も手伝って、ストイックなキャラそのままだし、芝居力どうのは案外感じないが、でも彼がホレこんだというこの原作、映画化に当たってどこまで忠実だったのかは判んないけど、イマイチツメが甘いというか……。

いや、このスナッフフィルムの存在を追ってくる金融グループの御曹司とその取り巻きは容赦ないし、非情だし確かにブキミだけど、じゃあ彼らが、ていうか彼、その御曹司のカキヅカが執拗に真太郎たちを追い、ぶっ殺すだけの理由が何だったのか。
だって、真太郎はトラに食い殺されたわけじゃないし、賭博がバレたらヤバいとかいうことでもなくって、最初にこのフィルムの存在、そう、スナッフフィルムだと思っていたからさ。
そりゃーヤバいさ、世に出たら、殺人罪とかあるわけでしょと思っていたら真太郎は生きてるし、じゃあなんでこのカキヅカは真太郎の恋人の雪江までも殺そうとするのか、何か重大な秘密があったのかと思ったら……。

メッチャ単純。強烈な遺恨なんてないの。ドーパミンが出まくるような殺し合いが見たかったのに、期待はずれだったから。それだけが理由なの。
……まあある意味、それだけが理由でこんなにしつこく何年もかぎまわってぶっ殺そうとするんだから、恐ろしいヤツなのかもしれんが、どうも、解せない。まあ確かにそういうキャラを楽しそうに演じてはいる。でもちょっと鼻につくイッちゃってるキャラだよなあ。もうけ役だとは思うけど……。

それだけに、彼らから必死に逃げる真太郎、雪江、もちろん主人公の三上が光るのだけど。うーん、でもさー、途中三上がフィルムの売上金を独り占めしようと二人を見捨てるシークエンスは、納得いかないなー。
いや確かに三上は二人を見捨てきれずに戻ってくるけど、そこまでの展開で、格闘技を心から愛する三上のバックグラウンドも語られるし、真太郎のことを尊敬しているのもウソじゃなかったし、自分の替わりに殺されてしまった友達になりすましてまで真太郎を支える雪江に感銘を受けていたのもウソじゃなかったし……。

なのに唐突に、裏切るんだもん。裏切るなら最後まで裏切って、ええーっ、コイツってそーゆーヤツだったの!というオドロキを最後まで持ってきてくれればいいのに、結局は観客に示し続けたキャラをちゃんと戻してくれる。
ちゃんと、と言っちゃったけど、だからこのウラギリはあまりに説得力なさすぎだよー。

結局さ、真太郎が記憶を戻して……あ、そうそう、こんな大事なこと言い忘れてたけど、彼は記憶を失っていた訳さ……で、こんな結局は暴力で囲むチンピラどもなんて、真太郎の腕さえあれば蹴散らせるのに!とまるでウルトラマンか仮面ライダーを待つ子供のような論理を三上が振りかざし、そりゃーねーだろと思ったらホントにそうなっちゃうんだから素直にビックリした(爆)。
いやこれは、先述したように、裏組織とか黒幕とか何もない、こんな単純な遺恨でターゲットをつけまわすような信じられないほどの子供っぽい敵であるからこそ成立する話なんだけど、つまりは今時信じられないある意味“オチ”なんだけど、ちょっと久々にスッキリしたなあ。

誰も勝てない無敵の男がアチョー!と蹴散らせば万事解決!そーいやー、三上がコアな客との取引で、その客が賞賛した彼との出会いのエピソード「ブルース・リーのリアルファイトの映像を探し出してきた時のことは今でも忘れないよ」なんだものね。
伏線ってほどじゃないけど、そうなのかもしれない。リアルファイトってトコが、トラとの対決ともつながるし……。

でもまあ、そんな風に単純と言い切れない印象を与える要素を用意しているのが、上手いところなのかもしれない。三上の腐れ縁でいい情報を提供してくれる、まあありがちなタイプのチンピラ。
テキトーにデリヘル派遣して、そのデリヘル嬢とイチャイチャしてるようなタイプの男。てろてろの安っぽいハデなシャツといい、ホント最下層な男なんだけど、トラ対人間の映像の情報をもたらしたのは彼だし、……そうか、この時点で彼の“おしゃべり”がもう自身の運命を決めていたのか。

この仲間の男を演じる和田氏は、かねてよりお気に入りの役者さん。それこそ主演級、メイン級に出れそでギリギリな感じがもったいないと思いつつ、皆判ってないよなーっと思いつつ、まあ色っぽいからいいやと見とれる(爆)。
おしゃべりな男、そしてその男を売る女がキライだからと、さんざ脅された上に残忍にブチ殺される。これがまた、先述の、御曹司お抱えの、いかにもな黒づくめの殺し屋なのさ。
タランティーノあたりに影響バリバリな感じの、黒スーツに黒ネクタイで、表情変えずに、いやちょっとだけの狂気を口元目元にありがちにたたえてターゲットを“クールに”(そんなあれこれがあるから、ちっともクールじゃなく、ヤボにしか見えないけど)ぶちのめす。

血まみれでもう微動だにしない彼らを、いかにもハデハデの安っぽい男女、ハタから見たら一文の価値もなさそうな彼らだけど、観客にとっては、なんか心の片隅に引っかかって、かすかな哀れみをもよおすような二人……かすかな、ってあたりがまた、何とも哀れなんだけど。

監督さんはホント知らないと思っていたら、解説に一作だけ書かれていた作品のタイトルには見覚えがあった。ただ、観てはないの。なんか誰からか、どこからか勧められたかなんかした覚えがあったんだけど、観れずじまいで、タイトルだけ妙に覚えてた。
結局観れなかったからアレなんだけど、そのイメージとは全然違ってて、なんていうのかな、懐かしい感じがした。まず率直なイメージは、安心して見られる感じ。それは、かつての青春アクション映画的なの。三浦友和あたりが出ていそうな、っていうか。

最後、無敵の鉄拳で勝利しちゃうとか、山分けの筈の賞金を「倍額言っていた」とウソをついて相手にそっくり持たせちゃうとか、スッキリ解決、青春の青臭さバリバリなんだもん。
全体のカッティングやフラッシュバックのような回想の入れ方もそうだし、何よりカネを全て真太郎と雪江にあげてしまって、ジーンズのポケットにはもう小銭しかない、まあ何とかなるさ!みたいな風にどことも知れず歩き出すラストなんて、60〜70年代あたりの青春アクションそのもの!なんかほっぺた赤くなっちゃうわあー。

真太郎と雪江の情報を探しに郊外の町に出かけた三上が、オカマなママに“面接”と下半身を審査される、しかもそのママは昼と夜とで双子の二役のマエケン!
……コメディリリーフなんだろうけど、マエケンは女性系ゲイではないのになあ……三上の巨根(多分。あくまで表情でのアレですから(爆))に、あらぁという顔を、双子の役で二回とも示すのは面白かったけど……。★★★☆☆


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