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「の」


2012年鑑賞作品

のぼうの城
2012年 144分 日本 カラー
監督:犬童一心 樋口真嗣 脚本:和田竜
撮影:清久泰延 江原祥二 音楽:上野耕路
出演:野村萬斎 榮倉奈々 成宮寛貴 山口智充 上地雄輔 山田孝之 平岳大 西村雅彦 平泉成 夏八木勲 中原丈雄 鈴木保奈美 前田吟 中尾明慶 尾野真千子 芦田愛菜 市村正親 佐藤浩市


2011/11/6/火 劇場(楽天地シネマズ錦糸町)
まあそのー、私はホンットに歴史は大の苦手で、日本史の時間には100%居眠りして、先生にフルネームで起こされるというハズかしい過去があるので、普段ならこの手の映画には絶対手を出さない。まあまず間違いなく観ない。じゃあなぜ足を運んじゃったかといえば……。
やはり、野村萬斎氏に尽きるだろうなあ……。
いや正直ね、ここまで史実に裏打ちされた話だとは思ってなかったのだ。いやいや、史実に裏打ちされた話だと判る知識さえないけど(爆)。

なんたって野村氏は「陰陽師」があるし、歴史ファンタジーというか、時代フィクションというか、そういうものなのかなとちょっと思ってた。いや、そう思いたがっていたのかもしれないけど(恥)。
それに予告編の作り方もさ、私のよーなアホな観客も取り込むために、この奇抜な殿様=萬斎さんの魅力爆発の予告編でさ、榮倉奈々ちゃんとのシーンをふんだんに盛り込んでいるあたり、やはりそうした老若女子を取り込む寸法じゃない。
男子はきっと、石田三成だのなんだのっていう(二番目からもうダメか(爆))史実上の人物にこそきっとワクワクするんだろうし。

いや……今は歴女なんていうのもいるらしいし、つまり私のように、歴史に名を残す人物もロクに知らないのは非常識人か、あるいはひょっとして非国民か……ムニャムニャ……。
などと書いていると落ち込むばかりなので(爆)、私ゃー、歴史、史実の側面からは近寄ることが出来ないんで、もうとにかく、萬斎さんの、この主人公の、成田長親なる人物にホレこむことで、入り込むしかないんである。

でもそれで、充分なんじゃないのかなあ。だからこその、萬斎さん。いやね、そう、そんな私だから、長親の城が秀吉の軍勢によって攻め入れられる、という、もうそれだけがストーリーであるって所に至るまでの、つまりなんでそうなったのか、当時の時代背景や人物背景をザクザクと説明していく前段部分、あの、ウン十年前の日本史の授業を思い出しちゃって劇場から逃げ出したくなったが(爆)、カンパクだのホージョーだの判んなくても(ホントに判ってないあたりが(汗))、のぼう様こと長親の気持ちは、判るんだなあ。
長親と言うとカタイから、民衆の言うように、のぼう様と、言いたい。おっとり、ノンキで、農民の中に紛れ込んで赤ちゃんをあぶうとあやしたり、そんな殿様を、メーワクな思いさえもあからさまに出来るほどの親しさで接する民たち。

まるで出来は悪いけど心根の優しい近所の子供を愛しく思うような、そんな感じ。農民たちはやっぱりサムライたちは居丈高でいけすかなくてキライだけど、その中にのぼう様は入ってないのだ。
確かにとても武士には見えない。それこそ萬斎さんならではの、役者のような色の明るい衣装を身にまとって、ちんまりとしたどじょうひげがまた気がヌケている。
若いならまだしもそれなりの年なのに子供みたいなところが、頼りなさを醸し出してて、幼い子供でさえ、「見てるだけなら、手伝え!」と叱咤するほど、放っておけない、んである。

原作は未読だけど、まるで萬斎さんに当て書きしたような、他の役者では考えられないキャスティング。いやいや、萬斎さんがオバカな子供みたいな、なんていうんではなくて、決してなくて(汗)。
いや、そう、決して、ない。むしろその逆。結局は、こののぼう様、いやこの場合は長親様と言った方がいい。長親様は、民衆に見せていた顔、仲間に見せていた顔、親に見せていた顔さえ、実は実は、虚構だったんじゃないのと、仮面だったんじゃないのという、ちょっとゾクリとするようなものを感じる。
……いや、そこまで言うのはさすがに言いすぎかな。人にはあらゆる面があって、のぼう様ののどかな人柄と、実は頭が切れて、人心を巧みな心理戦術で掴み取る部分は、彼の中では等分なのだろうから。

しかしそれがね、萬斎さんに、コワイぐらい、ピタリとくるの!もともと萬斎さんは、頭の切れるイメージ、優しげな面立ちにあいまって絶妙な色気に結実したのが陰陽師だったんだけど、本作では、頭の切れるイメージをまずどーんと覆しておきながら、結局それがしっかりと取り戻されるもんだからさあ。
この人、実は何考えてンの?でくのぼうなんて、騙されてるだけ??という怖さを与えつつ、でもそうと言い切れない、圧倒的で開けっぴろげなチャーミングさがあって。
いやいややっぱりのぼう様はのぼう様なのだと、我等が助けてあげなくちゃと思ったところに思いもよらぬ言動や秘策を突然投入して見事成功。
この人は、バカに見せていて実は全てが見えていて、私らを高みから見物している恐ろしい人なんじゃないかなんてことまで思わせて、でもそれでもいい、それでもこの人は、我等に命をかけてくれて、我等を信頼してくれたのだから!と思っちゃう。

つまり、陰陽師にしても、こののぼう様にしても、とらえどころのない、言ってしまえばこの世のものとも思われない人物像という点では共通しているかも。
ホンット、萬斎さんでしか考えられないもんなあ。原作はベストセラーということだけど、あのクライマックスの場面がなくったって、萬斎さんの、このアヤシイ(怪しい、妖しい両方だ)魅力がなければ、考えられない。

天下統一を猛然と進めている秀吉、その寵愛を受ける家臣、石田三成。寵愛と聞くとドキドキし、秀吉=市村正親と石田三成=上地君のそんなことを頭に思い描いて勝手に盛り上がる。
いやー、時代的にもそーゆーことはあったんでないの。それこそ疎いから知らんが、ひょっとしたらそーした説もあったんではないの(ワクワク)。それこそ歴女が好きそうなトコだよなあ。

なーんてことをついつい妄想してしまうのは、市村正親がバックヌードで露天風呂に入るシーンが意味があったのかしらとついつい思ったり、そのお供をするのが、上地君以上に濃厚なソレを思わせる(ソレってなんだ(爆))山田孝之だったりする萌え萌えがあるからかしらん(爆)。いやー、この場面はヤバかったわぁ、ホホホ。

山田孝之が演じるのは、石田三成を支える参謀、大谷吉継。純粋で子供っぽいところがある三成をハラハラしながら見守る。山田君は言わずもがなの上手さだが、意外、予想外に良かったのが、その三成を演じる上地君。
ちょっと、ビックリした。見ている間中、いや、お顔は上地君だよなあ、そうだ、彼はこんな端正なお顔だったんだっけと思いながらも、本当に上地君?とずーっと疑いながら見ていた。
駆け引きや心理作戦が苦手で、敵の中にも正義や人道を見たがる三成は、そのキャラ自体は確かに上地君のイメージの中にあるけど、それをあくまで冷徹な仮面の下に隠して、敵の反発を引き出すために横柄な男を使者に送り込んだりといったキレも見せる。
なんか私、上地君を見くびっていたかも(爆)。ドラマをなかなか見てないせいもあってか、彼の役者としての姿に遭遇する機会、あんまりなかったもんなあ……。彼は、思っていたよりも、ずっとずーっとイイ役者さんだったのね(反省)。

多勢に無勢で、当然開城してくると思っていたところが、のぼう様が「戦いまする」と言い放ったもんだから、敵も味方もどビックリ。
この時の、はいー??という雰囲気はとてつもなく可笑しく、クワーッ!と爬虫類みたいに威嚇したりも噴き出しちゃうし、そうした場面は戦況が盛り上がってきてもそこここに張り巡らされているから、ホッとはするものの、でもあの水攻めにはやはり、やはりやはり……。
どう見ても、津波。こんな大掛かりな戦法が、つまり膨大な人力を金でめしあげて広大な堤防を作って、城を囲んだ集落に向かって水脈を決壊させるなんていう戦法が本当にあって、しかもそれが映像化されるなんて。まー、CGってヤツってことは判ってるけど(爆)、やっぱり今は、やっぱりやっぱり、見ていられない。
しかしこれが、どのぐらい時間が経ったら、そんな思いもある程度薄れてエンタメとして受け止められるのか、もうアレは起きてしまったから、やっぱり、ムリだよね……。
案の定、「ご観賞に際してのお知らせ」なんつーものがオフィシャルサイトでわざわざ別枠になって用意されていたのは、やはりやはり、当然だった。

実際は、あるいは原作では、この水攻めによってこそ、多くの人命が失われたに違いない。まさしく、津波であるに違いない。そこは周到に避けたようにも思われる。
すべてが終わって皆が片づけをしているシーンでは、水死と思われる遺体も数多くあって、皆が神妙に手を合わせているけれど、水攻めが行われるシーンでは、それは直接的にはあらわされないんだもの。
それどころか、水攻めが怖くないのか、と右腕の丹波から問われたのぼう様は、それを作っているのも我が民だ、何を恐れることがあるのか、と鷹揚に笑った。
それはクライマックス、敵に落ちて堤防を作った民衆はもとより、敵兵の心さえもつかんだ、死を賭した田楽踊りのシーンに通じる訳だけど、津波が来るのが判っているのに、何を恐れることがあるかと言っているみたいに思えて、そして水死者の描写を周到に避けているように思えて、ちょっとヒヤリともしたのだ……。

巨軍を率いる秀吉勢との戦に恐れて敵方に落ち、堤防を作った民衆の中に、のんきなのぼう様を苦々しく思っていた“筈”のかぞう(中尾明慶君)がいる。
妻子がいるのに敵方に落ちたのは、女房言うところによると、「私がサムライにてごめにされたのを、いまだに気にしている」からだそうなんである。
その事件は、榮倉奈々ちゃん扮する男勝りの姫が下手人をたたっ斬り、のぼう様がやいやい言う下手人の家族を黙らせて収拾した。外見からはただのアホにしか見えない(爆)のぼう様がどうやってコトを収めたのか誰も知らない……ていう彼の才能を、本作がつぶさに見せていく訳。

でね、かぞうは、恐らく自分が何も出来なかったふがいなさを、外見のらりくらりしているのぼう様にイライラしてぶつけていたと思うのね。で、敵方に落ちたんだけど、そののぼう様が撃たれると、逆上する。我らののぼう様に何するんじゃ!と。
彼と同じ思いを抱いた仲間たちが大勢集まって、自分たちが作った堤防に穴を開けて、逆決壊させるんである。

かぞうが捕まり、三成のもとに引き出され、しかし純粋な人道に飢えている三成が感動して彼を解き放つ、ってのは、確かに甘いファンタジックかもしれない。
でも顔つきは冷徹な悪魔のように引き締まり、その中の純粋な魂が透明に昇華している様が見えるようなたたずまいの上地君が本当に素晴らしく、そんな風に思わせない。
ホント、ちょっと驚いたなあ。尺的にはね、のぼう様の右腕の丹波を演じる佐藤浩市とかの方が断然あるし、佐藤氏はそこはね、ソツなく演じるんだけど、まあ、ソツないよなあ……。それ以上でも以下でもないのが、彼にしてはちょっともったいない気もした。

かぞうの女房はオノマチちゃん。そして娘は芦田愛菜ちゃん。思いっきりウレセン。オノマチちゃんの静かなる上手さは当然としても、マナちゃんは、彼女の上手さは知っていたけど、あまりにも売れすぎて、ムジャキさを大盤振る舞いしまくっていたんで食傷気味でさ(爆)。
でも、こうして見るとやっぱり、憎たらしいぐらい上手い(爆)。だって私、見てる時にはマナちゃんって、判ってなかったもん。
現代の役をやってるのしか見たことなかったからかもしれないけど、本作での彼女は、“時代劇の子供役”っていうのを巧みに表現しているっていうかさ、絶妙なたどたどしさというか、子供らしさというか。いい意味でのアンナチュラル。
あ、こういう時代劇の子役、いるいる、素朴な感じが可愛いんだよねー、みたいな。コワいなあ、この子(爆)。

のぼう様の忍城陣営にはぎょろりとした目と巨体が強烈な、ぐっさん演じる力自慢の柴崎と、とにかく戦略自慢で、見るからに優男で見るからに口だけの、成宮君演じる酒巻がツートップで、でもこの二人だからかなり現代の俗世感アリアリ(爆)。
成宮君なんて、今の世のチャラ男にしか見えない(爆爆)。彼の笑顔は人懐っこくてカワイイのだけれど、歯ぐきの出具合とか、口角の上がり方とか、何よりキャラが、ワンころに見えて仕方ない(爆爆)。それっていいのか、悪いのか??

酒巻は奈々ちゃん扮する甲斐姫に一目ぼれするんだけど、その時の台詞が「……あれは人間ですか?」……うーむ、確かに奈々ちゃんはカワイイけど、肩ががっしりしすぎて、姫というより格闘家(爆)。
いや確かに、馬を乗りこなし、武道に長け、のぼう様を組み伏せるだけの姫なんだからそれでいいのかもしれんが、何か微妙に違う気が。うーむ、うーむ。

でものぼう様が「戦いまする」と言ったのは、開城の条件に、秀吉に甲斐姫が差し出されることを、しかもメッチャ横柄に言われたから、なんだよね。
彼はそれをそのおっとりのらりくらりで「んな訳ないでしょ」と否定し、怒った姫から組み伏せられるけど、それしかないの。戦に巻き込んでしまった民衆に「みんな、ごめーん!」と子供のように泣きじゃくるのは、いかにものぼう様らしいけど、でもそれも全てが終わって彼の深遠な考えの恐ろしさを感じとると、それも作戦だったのかと……コワーイ、コワイコワイ、コワーイ!!

本城である小田原城が落ちてしまった知らせによって、この戦いには幕が下ろされた。長親に会いたいと、総大将自ら乗り込んだ三成が完敗を認め、サムライ魂を褒め称えて100年言い伝えられるほどの「いい戦だった」と高らかに宣言する。
いい戦、という言い様は、とてもとても、現代では言える場面がない。戦争映画は常に作られるけど、それはいつでも現代の価値観に目配せしている。
戦争映画のてらいのないカッコ良さ、いい戦とまっすぐに言えること、初めて見た気がする。それはでも勿論、沢山の逡巡を抱えてのことではあるけれど。それは無論だけれど。
でも、そうまっすぐ言えるエンタテインメントを作れる、それだけの後ろ固めをきちんとして作れることって、凄く凄く、大事なことだと思う。ていうより、基本。基本って、それほどに、責任が重く、強さが求められるものなんだ。

甲斐姫を秀吉に渡すという条件に、えっと思うほどあっさりとのぼう様は受け入れる。開城ではなく、戦いさえすれば、まだ一縷の望みがあったからこそ、甲斐姫を渡さないために戦ったのかと、またも思う。
士気が下がった農民を鼓舞するために、不気味に凪いだ水を漕いで小船を進め、死を覚悟しての田楽踊りさえ、そうなのかと。なんてヤツ、なんてヤツ!!なんて甲斐姫は、幸せなの!!

「どうせサルに抱かれるのだから、その前にホレきった相手に抱かれなさい」と酒巻に言われ、それまで泣き伏していた甲斐姫が、そうする!とはじかれたように立ち上がる。
ああ、ラブ、ラブだわ。女子的に大好きさあ。物見台ののぼう様と、下にいる甲斐姫が遠く目をかわすラブなラスト、好きだわー。

しっかし、狂言師としての萬斎さんの出場の圧倒的なことときたら。クライマックスの田楽踊りは、萬斎さんヌキの原作が最初にあったなんてとても思えない。臨場感、緊張感、その中のユーモア、息を詰めて見てるけど、敵兵と一緒に踊りたいとも思う。何それ!★★★★☆


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