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濡れた唇 しなやかに熱く
1980年 59分 日本 カラー
監督:中村幻児 脚本:水越啓二
撮影:久我剛 音楽:
出演:小川恵 楠正道 笹木ルミ 豪田路世留 武藤樹一郎 国分二郎 市村譲 立川ぽるの
ヒロインの小川恵は「さすらいの恋人 眩暈(めまい)」の切なさが忘れられない女優さん。ファニーフェイスで何てことないOL姿が良く似あってる、つまり普通の女の子なんだけど、なんだろう、彼女のこの可愛さ。脱いでも華奢な手足と薄めのおっぱいがエロというよりさらりと可愛くて、その幼めの無邪気な笑顔を向けられると、女であっても手を伸ばして抱きしめたくなるような愛らしさ。
彼女が演じると女の愚かさが、バカな女と吐き捨てきれない。バカなんだけど、切なくて、いとおしくて、抱きしめたくなる。幸せになってほしいのに、どうやら幸せにはどうにもなれない運命の女の子、そんな風に見えてならなくなる。
冒頭、時間軸が少し経過している。小川恵と青年、いかにもウダツのあがらなそうな青年がベッドに横たわってる。「私が邪魔になったらいつでも言ってね」「僕が邪魔になっても……」
そこからカットが替わり、ギネス記録に挑戦するキスマラソンに二人が参加している。仕切っている快楽亭ブラック(だよね?クレジット一切なかったから)におお!と思わず目を奪われちゃうもんだから、まさかこのシーンが後々、後々っていうか、エンドマークを飾るシーンとして、どうして、どうして、と、彼女はなぜ幸せになれないの、どうして二人は別れなきゃいけないの、好き合っているのに、と胸をかきむしられなきゃいけないなんて、思う訳がない。
とまあ、いきなりオチバレ(爆)。でもまあ、この作品の魅力はオチにある訳じゃないから(と言い訳してみる)。
そのツカミの冒頭シーンが終わってから、二人の出会いが描かれる。マンガチックと思えるほどのボーイミーツガール。角を曲がったところで二人がぶつかり、青年の持っていた原稿が雨水のたまったゴミ箱に落っこってしまう、と。
マンガチックと思えるほど、だけど、こんなにも王道のボーイミーツガールを直球でやられてしまうと、単純にズキュンと撃ち抜かれてしまう。
それでもね、これはピンク映画だから、この出会いからホテルに行っちゃうのかなとか、ヤボにも程があることを思ったら、そうではなかった。
今日が締め切りのシナリオ公募原稿の書き直しを喫茶店で彼女も手伝って、ありがとう、じゃあ!と青年はコーヒー代も払わずに出て行った。「……あいつ!」とつぶやいた彼女は、でも決してイヤそうじゃなかった。
ピンクのカラミ要素としてはその後、遅れて職場に戻った彼女が上司から「今日、いつものところで」と囁かれて、きちんと埋め合わせされる。
勿論、後に恋人同士となる青年とのカラミシーンだってたっぷり用意されているけれど、なんたってボーイミーツガール、恋人同士になるまではピュアラブなのが、これまた甘美なマンガチックで(いや、だから、ピンクという前提があると、こういうのも効くっていうかさ)キュンとくるんである。
この上司、眼鏡を外して彼女の身体をヤラしく愛撫しまくり、しかし不自然に「あのネックレスほしがってたよな」などと言うから彼女はピンとくる。「結婚するんでしょ。手切れ金代わり?」あら、不倫かと思った。だって上司、老けてるから(爆)。
結婚してからも今までどおり時々会おうよ、と言う都合のいい上司をピシリとさえぎり、この爛れた関係を終わりにする彼女。
思えば、ここで既に伏線はあったのかもしれない。この関係をこのキッカケでピシリと終わらせるのは確かに賢いし、正解だけど、でも好きな相手が、相手も自分が好きなのに、あるひとつの、やってはいけない出来事で、その後の修復をお互い努力しないで、ピシリと終わらせる決断をその時も彼女の方がしたことを考えるとね。
あなたは、あなたは、幸せになる気持ちがあるの、好きな相手なのに、例え方法が間違っていたとしても、そこから仕切りなおす気持ちはないの、そんなんじゃ、いつまで経っても幸せになれないよ!!と歯がゆくて。
なんか相変わらずワケ判らんが(爆)。えーとね、そう、青年は脚本家志望、あるいはその先の演出家志望もあるのかな?今の仕事はピンク映画(AV?)の助監督。今日もオネエ系の監督に叱り飛ばされている。
女優としっぽりな関係にある青年は、今日も彼女の身体のうずきを慰める代わりに、監督へのとりなしを勝手にされちゃってるんである。ここはいかにもピンクのカラミ要素である。
その後、青年はそのとりなしも、この肉体関係も終わらせようと告げる。イヤイヤ、と首を振り、脱ぎだす彼女だが、これが最後だから、という青年の言葉に特に異を唱える訳でもなくセックスに身を任せるのも、いかにもピンク要素。
ここは青年のバイト先なのか、洋ピン映画がかかってて、イタリア語かなんかのあえぎ声が聞こえてくる中、っていうのが、青年は誰かに見つかるんじゃないかって焦ってるし、刹那的だし愛はないし、凄く、上手いんだよね。
つまり、要素を消化するための相手であることをスパッと示しているのが。その後、いくつかセックス場面は出てくるけど、そのどれもが痛く切なく、物語から切り離しようもない、愛や憎悪や決意や決別のセックスなんだもの。
なんか相変わらず先走り気味だが(爆)。でね、ちょっと後先どっちだか忘れたけど(爆爆)、あの上司との関係を切り捨てた彼女と青年がバーで偶然(これまたありえないマンガチック偶然だなー)行き会う訳。
ベロベロに酔って客の男に言い寄られていた彼女を、家まで送っていく青年。青年の前であっさり脱ぎだす彼女。いかにもエッチが始まりそうだけど、ここでも、ここでも、ないの!!
彼女の方はもうヤケになってるし、男なんてヤルことしか考えてないんだろって目が据わってるし、ある意味ヤル気マンマンな訳(爆)。
でも彼の方が、彼の方が言うのよ「何もしないでね」って!で、それじゃ応じてこう言うしかない。「うん、何もしないよ」と彼女。こたつにもぐりこむ彼を、足の指先でつついてみたりする小川恵が、おっぱいまるだしのぱんついっちょなのに、なんとも可愛くて。
でね、こんなあり得ない偶然があった後、青年はボーイミーツガールの彼女の元に転がり込む。彼女を傷つけた上司をボコる筈が逆にやられ、このあたりではすっかり心が通い合っていた。
せっかく手伝ってくれた脚本は落選、俺って才能ないのかナ、と落ち込む彼に彼女は言った。「私、何にも出来ないけど……慰めてあげようか」
これまた確かにベタではあるんだけど、でもここで彼女の存在意義がまさに決定付けられてしまったように思う。彼女は、愛されたくて抱かれるんじゃなくて、男の何がしかの役に立ちたくて、身体を差し出すんだ。時に、好きでもない男にさえ。
で、この後、青年が彼女の部屋に転がり込む形で二人は一緒に住み始めて、絵に描いたような幸せな生活が始まる。二人のイチャイチャモノクローム写真がカシャカシャと挿入され、セックスも同じようにこちらはカラーでカシャカシャと挿入される。
思い出になるモノクローム写真、刹那のカラーでのセックス、だなんて、いくらなんでもうがちすぎ、だろうか?でもこの描写の仕方、やっぱりすんごく、刹那、だよね。幸せそうであればあるほど、そうではない結末が待っていることを確信させて、辛くなる。
青年の、あれは学生時代の友人だろうか、同じくシナリオライターを目指していた友人とおでん屋で行き会う。思えばこれもまた、ベタな偶然である。
テレビドラマのシナリオ公募に受かり、今度放送されるんだというのに、当の友人はイマイチ暗い顔をしている。その、まさに、その時、彼の奥さんは代償としてプロデューサーに抱かれていたんである。「現代の山之内一豊の妻だ」なんて悦に入りながら奥さんをバックで攻め立てるプロデューサー、キチク!
青年は無邪気に友人の成功を喜び、うらやみ、更には焦って彼女に当たったりもするけれど、彼女はまた更に無邪気に「焦ることないわよ。スタートがちょっと遅れたくらいで、先は長いんだから!」と青年にハッパをかけ、青年もまた、そうだよな!と笑顔を見せる。
ああ、なんて、なんて、なんて、邪気がなさすぎるよ。どうしてそんなに、確かなものなど何もない、可能性だの才能だのを、信じられるの。
友人の成功に、一度は彼は言ったじゃないの。俺って才能ないのかな、って。なぜそれに対して、そんなことないよ、と安易に励ませるの。
「あなたはキラキラしていた。優しさと強さがたまらなく好きでした」印象的に挿入される彼女のモノローグは、彼が自分の才能を信じていたから、あるいは彼女も信じていたから、成立することだったのに。
友人の脚本はズタズタに書き直され、奥さんを陵辱されてまでの侮辱に彼は絶望し、奥さんと聖なるセックスをしながら、ガス自殺して果てた。
その部屋には、友人を祝福しようと青年がかけた電話のベルが鳴り響いていた。「ちくしょう、やっぱり採用されるものは違うな、あいつ、いいもの書きやがったな」などと悔しがりながらも友人の成功を喜んでいた青年、よもやそれが書き直されたものなんて知る由もなくて。
いいもの?書き直されたから、いいものになったの?それとも、世間向けに直されたものを、それと気づかずに、いいものと思ってしまうの?
青年の才能を彼女はずっと信じてたけど、いや、信じてた、んだろうか。単純に、好きなことにまい進する姿が好きだっただけじゃないんだろうか。あるいはただ、自分を好きだと言ってくれるから……。
彼の脚本が同じくドラマの公募の最終まで残って、最初は喜ぶだけだったけど、最後に選ばれる自信が持てない彼を見かねて、彼に黙って彼女は、あの友人の奥さんと同じ行動を起こす。
友人の奥さんの行動は、友人も承知済みだったから、その違いは大きいけど、ただ、友人の奥さんはダンナに頼まれたのか、それとも自身で決意したのか、ふと、それが気になったり、した。
ガス自殺してしまったのは悲劇だけど、死ぬなんて絶対ダメだけど、涙を流しながらの最期のセックス、シューシューとガスが充満する中、ぴったりと抱き合って死に行く彼らは、……こんなこと言っちゃいけないけど、ある意味、そう、ある意味、あくまである意味、幸せそうだったんだもの。
彼女は一人で出向き、プロデューサーに身体を預けた。その様が、驚くほど、あの勤め先の上司との感じにソックリで、眼鏡をおもむろに外すエロジジイな感じとか、ソックリで。
彼女の行動がバレて、青年は激しく怒る。彼女はバーで隣り合わせた客についていったんだ、あなたがシナリオにかかりきりで、寂しかったから……などと見え透いたウソをつく。
これも、哀しいウソすぎる。ウソだ、ウソだ、と、ウソに決まってることは判ってるのに連呼しながら、彼は吠える。
もう終わりね、と言ったのは、特に何キッカケもないまま言ったのは、彼女だった。そんなこと言ってない、二人ともお互い好きなのに、なのに、なのに、どうして……。
彼女の行動は確かに愚かだったけど、でも彼が好きで、彼のことを思うがゆえにやったことなのに、彼だってショックを受けてはいても、許せない、別れる、なんて言ってないのに、なのに!!どうして!!!
この時の、もうどうしようもないほど出口のないセックス、イヤだ、イヤだと駄々っ子のように、ベッドの上の彼女をコタツに入っていた自分のところに引きずり下ろして、子供のようにむしゃぶりつく彼。
そして、ベッドの上で悄然としている二人はもう、もう、恋人同士じゃないのに、あのキスマラソンに参加しようってことになる。
最後までキスし続けて、記録を作る。記録達成となった後に、名残を惜しむように情熱的に舌を交わす。そしてさよなら、愛を確かめ合う記録の筈なのに、さよならを交わす。
セックスがいちいち切なく痛ましく、胸がぎゅっと痛む。恋人になりたての頃の幸せなセックスシーンはスライドショーのように切れ切れで、ホント計算ずくで。
小川恵、この人の可愛らしさ、こんなに可愛いのに、心をぎゅっとつかまれるのに、どうしてこんなにもはかないんだろ。
★★★★☆