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「さ」


2011年鑑賞作品

臍帯
2010年 108分 日本 カラー
監督:橋本直樹 脚本:橋本直樹 いながききよたか
撮影:柳田裕男 音楽:神津裕之
出演:於保佐代子 柳生みゆ 滝沢涼子 さくまひろし


2012/7/6/金 劇場(新宿武蔵野館/レイト)
作品世界的に、かなり良さげな期待感を抱いていたのだけど、なんか色々と……。
見た目的には確かに良さげ。切り取られる画はどれも映画的魅力に満ちていて、そのダークグレーの色調、寒々しい海にのびる桟橋、がらんと広々としているのに閉塞感の恐怖ただよう監禁現場の二人の女の子の配置、どこをとっても確かに才気に満ちている、と思われるんだけど……。

この作品に、えーっ、ツメが甘いよーっ、と思ってしまうのは、私の感じる能力が浅いのだろうか……?
どうも小心になってしまう。だってこれが劇場長編デビューだという監督さんなんだけど、結構な経歴の持ち主なんだもん。
それこそ画は上手いと思うしさ。でも画が上手いだけに、なんかこう、その自信のある感じ、言っちゃえば、自信満々な感じの演出にもちょっと、私、かなり、どっと……いやその……ヘキエキしてしまった、かもしれない。

あのね、もうめんどくさいからいつもどおりネタ、オチバレで言っちゃうとね。赤ちゃんの時に捨てられたヒロイン、ミカが、何事もなかったように幸せそうに暮らしている母親を探し当てて復讐を誓い、その一人娘、つまりタネ違いの妹、綾乃を誘拐するのね。
何日も監禁して綾乃がヘロヘロになったあたりで解放するんだけど、結局その母親に殺されてしまってオワリ。

まあ、ざっくりすぎるほどざっくりと言ってしまえばこんな具合。ざっくりだな……。
でも、アイディア自体はめっちゃメロドラマとしての魅力があるし、見せられる要素は満載だと思う。正直、その要素を放棄してしまったとしか思えないぐらい、ツメが甘いというか、なんというか……。

あのね、冒頭、ミカが母親一家の様子をしんねりと観察する描写から、ながっ、と思ったのよ。
雨の降る中傘をさし、木立の影からずーっと観察しているミカ。こう書いてみると結構古い描写の仕方かも、と思う。
で、恐らく日にちをまたいで、しつこくしつこく観察し続ける様のしんねりさが、なんかこの時点で、演出の自信満々さをうすうす感じてちょっとイヤな予感がしていた。

このしんねりさは、物語のキモである監禁場面で最も発揮され、つまりは冒頭の描写は前哨戦というか、伏線ではないけど、まあそんな感じでね。
でもまあ、いいのよ。この冒頭の場面はまだ意味があったんだもの。私はたった一人放り出されて孤独に育ったのに、あんたはしれっとこんな幸福な家族を築いて、しかもこの娘は、私が得られなかった幸せを……云々、的なさ。うーむ、こう書いてみるとそれもまた古い感じかも……。
でもね、クライマックスのしんねりさはね、……おっと、ちょっと待った。また先走りそうだから、今回は押しとどめて(爆)。

ミカがこの母親に捨てられた経緯は、かなり中盤になってから明らかになる。それをじりじりと待っていた感はある。一体どういう事情で、生き別れたのかと。
いや、そもそもミカがじっとたたずんでいるその一家の母親が、彼女の母親であるということは別に言われないんだけど、まあちょっとチラと情報を見ちゃったせいもあって(爆)。
ていうか、まあタイトルからも予測できるし、ミカが観察しているその主たる人物は母親であるし、まあ判るわなと思うんだけどね。
ちょっとね、その捨てられた経緯と、ミカの今の現状が、そりゃないだろーっ、と思っちゃったんだよね。それは私の認識不足??

母親は当時の交際相手、つまりミカの父親と上手くいかなかった。次第に暴力をふるうようになった相手と別れた時には、もうミカを妊娠していた。
そして出会った今の夫に妊娠が知られたら結婚話が壊れてしまうかもしれないと恐れ、数ヶ月距離をおいてミカを出産。
産院から姿を消して、都会の雑踏のゴミ捨て場に赤ちゃんのミカを放置し、その後結婚、綾乃も産まれ、幸せな家庭生活を築いている、と。

お、おかしくない? だって、ちゃんと病院で出産してるってことは、身元は知れてるってことでしょ。いまどき正体を明かさず入院だの出産だの出来っこないじゃん。
万々が一そういうことをしていたとしても、そういうことをしていたという描写すらなく、さらりと、出産後産院から姿を消したってだけで、その後ゴミ捨て場に赤ちゃん捨てられてたら、フツーに捕まるでしょ。タイミングといいバッチリなんだからさ。
そして今結婚生活をフツーに送ってて、それこそ結婚、出産を考えたら身元を偽れる訳もないし、それこそ万々が一そうしていたとしても、そういう描写もやはりないし。

これをツメが甘いと感じるのは、単純すぎる気もして、ひょっとして私、何かを見落としてる??と怖くなるぐらいなんだけど、でも、このとおりとしか思えないんだけど……。
なんかさ、なんかなんかなんか、捨てられた母親に復讐というアイディアだけで満足して、あとは自信満々のしんねり描写に没頭している感じしかしなくて、もうそれが、それが、耐えられないのよー。

ああうう。なんか私、つまりはこの玄人めいた演出の雰囲気にこそ、耐えられない、その一点だけなのかもしれない……。
でもさ、だってさ、それこそキモの監禁場面、まあ、「綾乃ちゃんが気になってるっていう男の子がいる」ってだけで呼び出しに応じる娘のバカさ加減も、今時あるかそんなの、と思わなくもないけど、まあ、とにかく監禁場面よ。

ミカはただ、綾乃を監禁するだけ。しかもその場に自分もいて、椅子に座ってじっとしている。
トイレは片隅ですませ(すまさせ)、飲み物も食べ物も与えない、のは、自分も同じ。
ミカが綾乃をどうしたいのか、口では「あんたの大事なものを壊してやる」と母親にドスの聞いた声で告げるけれども、壊すための何をする訳でもなく、びっくりするぐらい何もしない。
ただただ、薄暗い倉庫の中で一緒にいるだけ、なんである。

確かにこれは、アイディアとしてはいいかもしれない。どんどん憔悴する綾乃を演じる柳生みゆ嬢、彼女だけが本作の中で収穫と言えるほどの熱演を見せてくれる。
確かに、相手の目的も判らず、監禁された相手も一緒に何日もまんじりともせずに閉じ込められているのは、壊れるだけの要素はあるかもしれない。
でもそれを見せられたかといえば……正直、その“画”に付き合わされた観客を徒労感に襲わせただけのような気がしてならない。

この“アイディア”を実のあるものにするには、やはり本当の力ワザがないと難しいと思う。それこそ、画の魅力にとらわれてしまったら、意味がない。
四日めあたりになると、水も与えられていないことで、雨の降ったその雨水が天井からつるされている荒縄のしずくにつたってくるのを見つけて、狂ったようにそれを得ようとし、ミカともみあいになったりもするんだけど、そういうのを見せられてもねえ……。
壊れるってことは、心理的な部分をつかなければダメじゃん。ていうか、簡単じゃん。綾乃の母親がミカを捨てたことを告げればいいだけ。

まあ、この時点では綾乃もそれを察してはいるんだけど、でもそれが彼女が壊れる作用になっていたかどうかは……そもそも綾乃が壊れたかどうかは……。
ミカは綾乃が身体的に衰弱しても、まだ壊れてない、とつぶやく。でもその直後なんだよね、唐突に諦めて、歩けない綾乃を抱きかかえて監禁場所から出るのは。え?何キッカケ??と呆然としちゃう。

まあその……つまりは、その母親がビックリするぐらい何の動きも見せなかったから、なんだけど。ツメの甘さというか、練りの甘さを感じた最も大きな部分は、そこだったかもしれない。
あのね、本作に足を運んだ理由のひとつは、この母親を演じる滝沢涼子よ。私にとってはあの引地めぐみ以来、気になる女優の一人さ。
そうかー、こんな大きな娘のいる母親の役の年齢だよね、などと感慨にふける、が、お、おおお?ええ?彼女って、一番のキーマンだよ、ね?キモは娘二人に任されているとはいえ、そもそもの原因を作った人物なんだからさ。
なのにー、なぜー(若者たち♪)アンタ、何にも動かへんの!(なぜ関西弁……)

そりゃあね、そりゃあ、苦悩してる様子はあるさ。ウンザリするぐらい間をおいた後にミカから、綾乃の携帯を通じて送られてきたメールに事の真相を知り、苦悩はするけど、なーんにも、動かない。三日経っても四日経っても、まんまほっといてる。
おいおいおいおい、その間に綾乃、悪くすれば殺されてるかもしれないのに!かつての罪を夫に告白するとか、自首しようと思うとか、とにかく探しまくるとか、一切、ないの!ただ、ぼーっとしてると言ってもいいぐらいなの!!

あまりにも彼女が動かないから、これは彼女の残酷さを示す手法なのかと思って。かつて我が子をゴミ捨て場に放棄したぐらいの女だから、今回もこの事態から逃げて、家族をボーゼンとさせるとかさ。
でも彼女は、娘(どちらもね)を救い出す何の行動も起こさず、ただ頭を抱えて待っていた、待ってもいない、頭を抱えていただけだった。
それで、解放された綾乃を見つけて泣きながら抱きしめても、捨てた娘を憎悪のあまり刺し殺しても、はぁ?って感じじゃん……。

正直、ミカが、こちらも何もしなかったミカが、こちらは、加害者という立場の違いこそあれど、綾乃の衰弱ぶりとはやたら対照的に元気モリモリで、対峙したお母さんに「一度でいいからギュッとして」と、初めて見せた笑顔で迫っても、そう、初めて見せた笑顔がインパクトにならなきゃいけなくても、ムリ、ムリ、ムリムリー。
だってあんたのやりたかったこと、サッパリ判らないし、なんでこの時点でこの計画をやめようと思ったのか……思ったより母親が動かなかったから??
そうかもしれないとは思ったけど、それもまた、特に明確に示されないから、何キッカケ??と思っちゃうんだよね。
それならホントに、衰弱した二人がこのまま果てて発見される方がよっぽど衝撃……いやいや私、何言ってんだ(爆)。でも正直、そうかも……。

母親が夫に相談する場面は一切ないまま、最初のうちはそりゃあさ、年頃の娘で遊びたい盛りで、お前からちゃんと言っとけよ、なんていう夫婦間の会話のシーンもあるけど、三日目、四日目となれば夫だって、ていうか友達や学校から、これが異常事態だと判ってる筈なのに、夫婦間のそうしたやりとりも、全く示されないまま。
ミカが彼らの職場である港に綾乃を放り出した時、最初に発見した妻のあとから駆けつけて、救急車!と叫ぶだけ。
……うーん、うーんうーんうーん……そんなメロドラマ的な描写を望む私こそが、ベタで古いの??

でもさ、でもさでもさでもさ、冒頭も、キモの監禁場面も、先述したようにメッチャしんねりとした描き方でさ。そりゃまあ監禁場面のしんねりさは、綾乃が衰弱していく様子をリアルに描く効果を狙うこともあるだろうし、それによく応えてみゆ嬢は素晴らしかったと思うけれども、でもこらえ性のない私には、長すぎる(爆)。
正直、20分ぐらい尺切れるよ、とか思っちゃう(爆爆)。その分、必要な描写が沢山あるよとか思っちゃう(爆爆爆)。
まあそのう……ヒロインであるミカが、準ヒロインの綾乃の熱演に負けてしまっているというのが最も大きな要因かもしれないなあ、ひょっとしたら。

綾乃を熱演の柳生みゆ嬢、どっかで見てる、絶対見てると思って、なぜ思い出せなかった!「カーネーション」糸子の上の妹、ずっと見てたのに、あの、復員した恋人を水玉のワンピースで迎える場面とかメッチャ良かった、あの彼女をなんで思い出せなかった!!
いやー、本作の、衰弱していく、汗でベッタベタになって、目が半分サイズにおちくぼんでいく、つまりブッサイクになっていくこの熱演は素晴らしく、本作の唯一の収穫、ホントに。
てゆーか、言われてみれば「それでもボクはやってない」の被害者の女の子、言われてみればこの顔!
うーむ相変わらず私はなんでこう、人の顔をおぼえられないっ。何気にキャリアあるだけあるわ!

ミカが赤ちゃんの時捨てられてからの来し方行く末、次々と大人たちの手を引かれ、手と手を経由し、つまり、ずっと手をつなぎ続けてくれる大人のいないまま、養護施設で育つさまを、言葉もなく、音楽だけで綴るのは、上手いとは思うけど、これもまたちょっと古い気がする(爆)。
ここまで丁寧に、赤ちゃんから小学校中学校高校、そこから出て都会の雑踏にまぎれ、なんか怪しげな男と会ってるとこまで示さなくても、赤ちゃんの時捨てられた描写と、養護施設のカット一発でいいような気がする。悪
い意味でのメロドラマだよね、これって。観客はそこまでバカじゃないよ。判るよ、それぐらい。

しかも綾乃が今風の(というのも古い言い方だが)ミニスカにベストにリボンの制服なのに、ミカとは大して年は違わない筈なのに、こっちは古めかしい紺サージのクラシックなセーラー服。
いやまあ、今でもこういう制服はあるんだろうとは思うさ。あってほしいとも思うし。でも少ないよね。やっぱり意図的だよね。
今風制服姿の綾乃がどんどん衰弱していく描写に対してのコレは、ど、どうなの、と思っちゃう。孤児は古いセーラー服って訳でもないでしょ。意図的もその意図がこうもワザとらしいとなあ。

ミカが綾乃を拉致する時、彼女も今風の制服を来て、別の学校の生徒のフリして、で車で連れ去る時には運転席で冷たい顔して元の、大人のカッコに戻るんだもの。
でもそれも、なんかダラダラしたシャツにロングスカートで、これまた時代錯誤というかホラーヒロイン的なダサさ??顔にかかる黒髪の感じとか、うーん、どうもね……。
その暗さは、冒頭、この町に降り立つミカがふらふらして車にぶつかりそうになったりする場面から示されてはいるけれど。
こんなこと言ったらミもフタもないけど、それこそ孤児で、養護施設で育っても頑張ってまっとうに生きていってる人たちに怒られちゃうよ、なあ。

ミカが雑踏の中で会ってた怪しげな男は特に意味はなかったのか、ね?それとも母親の調査を依頼していたとか……判らん。
そんな意味を追うこと自体が意味ないのかも(爆)。 ★☆☆☆☆


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