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「け」


2013年鑑賞作品

県庁おもてなし課
2013年 123分 日本 カラー
監督:三宅喜重 脚本:岡田惠和
撮影:山田康介 音楽:吉俣良
出演:錦戸亮 堀北真希 関めぐみ 甲本雅裕 松尾諭 高良健吾 船越英一郎


2013/5/26/日 劇場(TOHOシネマズ錦糸町)
今一番、映像化作品の原作者として名前を見る有川浩氏は、へえーっ女性なのかと今更ながら。
いやいや、そういやなんかのテレビで見てた筈だし、今、現代の日本の女性作家の勢いは、なかなか小説までには手が回らない私なんぞにも聞こえてくることだから今更“女流作家”(という言い方、いまだにするのね!)に驚く訳でもないけど。

でもそのストーリーテリングの巧みさは、なんかそういうタイプの書き手というのは、やっぱり今まで男性の方に譲ってきた感が、古い頭の私なんかにはあったからさあ。
オンナはやはり、感情で生きる存在だからと、多分それは男社会の中で言われているから、女自身もそんな風に思い込まされていた部分があるように思う。

「図書館戦争」のような物語を書いた人が女性……いや過去にだってそういう女性作家(そう、せめて女性作家と言ってほしい。女流作家という言い方は……なぜかあんまり好きじゃない)は思い起こせば確かにいた。
いたけれども、こうしてドラマとか映画とかいう、つまりは一般的認知度、社会的認知度としてはなかなかなかったように思う。

しかしこれは、“恋愛物語”なのね。そういうカテゴリーなのね……。いやそういうカテゴリーという訳でもないのかもしれんが、なんかオフィシャルサイトにやたらハートマークが飛び散っているのを見ると、きっとそうなのだろうと思う。
本の人気投票でも、総合ではもちろんだけど、恋愛ものとしての1位を獲得しているという事実が何より物語っているのだろう。
それはあんな、骨太のテーマ性を持っていた「図書館戦争」でもしっかり胸ときめかせるメインテーマに据えられていたことでもあり、この原作者の強みでもあるんだろうと思う。
なるほど、女子がときめく訳だ。女、女と言ってしまうのは同じ女としてアレだとは思いつつ、やはり女子のときめくツボというものは、あるんだもの。

本作にはしかも、2つのラブが同時進行するぜいたくさである。
タイトルであり、メインストリームはあくまで、他県にどうにも遅れをとっている高知県が観光事業を盛り上げる“おもてなし課”の設立。
過去に先見の明で観光立国論を打ち立てて、その早すぎる先見の明ゆえに疎まれ、追われた伝説の男を招へい、自然豊かな県全体をレジャーランドとして整備、アピールするという壮大な計画を推し進めるワクワクではある。
話題になった“うどん県”=香川県が隣接県であるということもあって、巧みにそれを取り入れる面白さもある。あれ、実際の要潤のCMだもんね。インパクトあるわなあ。

この大いなるメインストリームに、ラブを2つも同時進行するとは、思えばかなりの強引さのようにも思う。
原作においては、映画のような尺の限度はないからどうなっているのかは未読だから判らないけど、映画においてはこれはどうなのかなあ、と思わなくもない。

いや、不満だったとか、物足りなかったとかいうんじゃない。むしろ、そう、確かに恋愛的にはメッチャときめいた。
メインの二人、県庁の若手職員、掛水と、外部スタッフとして招き入れた、細かいところまでよく気が付き、しかも仕事が早い女の子、明神多紀はもちろんのこと。
セカンドの二人、人気作家の吉門喬介と、その異父母妹、つーか、今はもう子連れ同士再婚の両親も離婚しているので、彼の言葉を借りれば“他人”である佐和とのラブも、充分にドキドキさせた。だからその点について不満がある訳じゃ、ないんだけど……。

うーん、だからと言って、県庁がその伝説の男、清遠と共に動き出す、壮大な計画の進行に不満があるという訳でも、ない、ない……かな?なんか書いてるうちに、色々微妙な気がしてきた……(爆)。
この伝説の男、高知にパンダを誘致しようと提案して冷笑され、却下され、県庁を追われた男。しかしその後、他県に誘致されたパンダによって観光客は見事に流れた。
この時点で彼の先見の明は明らかだった筈なのに、だからこそか、彼の存在は県庁の中でタブーとされ続けてきた。
最終的に、清遠と同期だった現在の上層部によってこの計画、以上に清遠そのものがハズされてしまうし、そういう展開も含めて充分にスリリングではある。あるんだけど……。

どっちかというとね、原作は未読だからアレなんだけど、この映画化作品においては、おもてなし課としての奮闘、つまり仕事エンタテインメントではなくて、過去の因縁、恋愛、そうした人間関係、言ってしまえば“人間関係エンタテインメント”に重きをおいているんじゃないかと思う。
映画という尺の中では、そうした取捨選択は当然なされるべきだし、言ってしまえば仕方のない部分でもある……。
有川浩という書き手の魅力、読者を惹きつける一つの大きな要因が、ストーリーテリングと比肩する形でのラブであるから、なのだろうと思う。

本作の中で、レジャーランド化計画は頓挫、まではいかないまでも、清遠を外すことこそを念頭に置いた保留の形で握りつぶされる。
掛水が吉門のテレビ出演にのっかる形で世の中にこのプランをムリヤリ知らしめ、ベールの向こうの県知事をニヤリとさせる予感を感じさせても、現時点ではこのままなんである。

それはそれで、ワクワク度を映画の外に持ち出すからいいんだけど、同時に、つまり、本作は、それが成就されないということは、その成就が目的じゃないということは、やっぱりラブ、ラブストーリーなのかね、と思う。
それならオフィシャルサイトにハートマークが飛び散っているのも確かに納得出来る訳だ。

ヤダな、ガラにもなく、皮肉っぽい言い方しちゃって(爆)。
メインラブの二人、錦戸君と堀北譲は実に見目麗しい。彼女の自転車がやたら早いというのは、もっとユーモラスに強調してほしかったように思う。
そう、基本的にね、堀北譲はただただ愛らしく、それはもちろん、こんなに可愛いんだからそれでオッケーなんだけど、彼女の持つそうしたちょっとした意外性、ギャップをもっと強調してほしかったように思う。
せっかくこんなに可愛く、こんなに意外性のあるキャラクターなのに、なんか、大人しいというか……はじけないというか。

いや、確かに彼女はハジケるタイプの女優さんではない。彼女は彼女であるだけで充分オッケーなんだけど、なんていうのかな……この人物造形ってさ、言っている以上に深いと思うんだよね。
県出身ということで観光特使に任命された人気作家、吉門が、お気楽民間意識のお役人に「外部のスタッフを入れること。それも若い女性」と進言したのは、若い女性が旅やグルメが好きなこと、財布のひもが固いこと、といった、具体的な理由はもちろんあるし、明神さんはしっかりその期待に応える。
恐らく原作通りに、“外部の若い女性スタッフ”の有効性を忠実に示したんだとは思うのね。

でも、これが、先述したように女性作家の原作であると知ると、そんな単純なことだったんだろうか、と思ったりする。
上手く言えないけど……こういう“若い女性の視点の有効性”っていうのって、それだけで言えば男性的視点のように思う。
外部=責任がない。若い=責任がない。女性=責任がない。そんな風に思っているように見えちゃう。
もちろん、そんな筈はない。明神は、こんなにデキる女性なのに就職できなかったというところに、いまだに男社会の見る目のなさを示してるし、若くても収まるところに収まっちゃうと何も見えなくなる男社会、金銭感覚がいまだにない男社会、を痛烈に批判しているのだと思う。

でも本作においては、先述のような単純なスタンスに見えちゃうんだよね。それに立ち向かうようなキャラ設定でもない、慎ましい可愛い女の子だからさ。ラブに包まれてしまうと、余計に見えにくくなる。
もう一組のカップルと巧みに交差させてジェラシーをかき立てたりするのはときめくけど……。

ていうか、ラブに関しては、そのもう一組の方がスリリングだからさ!
伝説の男、清遠を演じる船越英一郎の義理の息子が、掛水に外部スタッフのアドヴァイスと、清遠を紹介した吉門。
演じるのが、もう出まくりの美青年、高良君。ホント出まくりだよなー。

都会の夜景を全面ガラス張りの高層から一望できる、ザ・億ションの部屋で、殺風景という名のオシャレ部屋で、白シャツをアンニュイに着こなした高良君は、シニカル全開にして掛水にアドヴァイスの電話をする。
観光特使の依頼をしてから1か月放りっぱなし、県出身有名人をズラリとリストにあげただけで満足してるんじゃないの。クーポン券だのなんだの、安易な発想は店同士の不満や混乱を招くだけで中途半端に終わるのは目に見えている、と的確ながら辛辣に言い放つ。

その辛辣な物言いは確かに高飛車だけど、わざわざ電話をかけてきてこんな懇切丁寧に指摘してくれるなんて、冷静に考えればこんな親切な人はいない……つまりそこには、彼の思惑があって、というところであるんだけど、そこらへんのアマノジャクさを面白く提示できなかったのは、もったいなかったかなあ。

実際のラブに関しては、一時はきょうだい同志だったという、女子的にメッチャ萌える障害が用意されている“喬兄ぃ”&佐和のトキメキがメインに打ち勝ってしまうというのが正直な印象。
だって高良君はその美しさでこんなツンデレやられたらもう撃沈だし、彼の相手となる異父母妹の佐和を演じる関めぐみ嬢がまた……。

私的には彼女、久しぶりに見た感があったんだけど、だからこそ、嬉しかった。彼女は見るたびにその成長のあとが見られる女優さんで、ちょっと間をおいて遭遇しても、それは変わらず、ドキドキさせてくれたから。
こういう、気の強い感じとか、メッチャ似合うし、なのに実は乙女なところがある、これまたツンデレも、よく似合う、揺れる繊細さがたまらんのよねー。

父親が県庁から追い出されて一家ともども苦労したことで、そうした時代のことは知らない掛水に対しても初対面から敵意むき出し、いきなりバケツの水をぶっかけちゃう。
でもその掛水にして、「凄くふてくされれて、本当は不本意なんだろうけど」そこが可愛い、と思われてしまうような、愛しい単純さ、純粋さ。だからこそ明神が、思わず嫉妬してしまう訳だけど。

そうそう、明神が、掛水が佐和を気にかける様子に嫉妬する様子は可愛いし、掛水が信じっられないほどドンカンで、吉門と佐和の再会に「空気も読めずに」邪魔ぶっこいちゃうことにイライラするのは、それもまた、「佐和さんのことは、追いかけるのに」自分は電停に置き去りにするのか、なんていう可愛さがあるんだけどね。
掛水と明神の口喧嘩は2度ほどあって、その大きな方、電停に置き去りにしてしまった方では、掛水に吉門から電話がかかってきて「バカか、すぐ戻れ」と言われ、すぐ戻り、鼻を赤くした明神(堀北譲、メッチャ可愛い!!!)をゴメンと抱きしめる。
しかも彼女の方は泣きながらも、腕をだらりとさげたままなのが純情ラブで実に良く、本作の中でも大いなるラブクライマックスではある。

あるのだが……。

ちょっとね、控えめ過ぎたかなあ。いや、吉門と佐和が、彼らの場合はもうプロポーズという場面まで行くからさ。それも、掛水から復讐のように「バカか、早く戻れよ」と言われて舞い戻っての告白だからさ。
二人のカップルの交差は感情を上手く絡めて、ホント、上手く出来てるんだけど、その重点は、展開的にも役者の力量的にも、吉門と佐和の方に行っちゃったからさ……。

あくまで本作は、タイトル通りおもてなし課の物語である筈だし、あるべきだし、それだって充分、展開しているとは思う。
海も山も川も、自然のすべてが、その中にぎゅっと収まっている高知県。言ってみればそれしかない高知県、と自嘲しながらも、それを身をもって体現する……のは、実はかなりさらりとした触れ方で、ある程度じっくり触れるのはパラグライダーだけで、しかも錦戸君だけ。ここで堀北嬢も挑戦してくれればねえ。

高所恐怖症っぽい掛水が「女性にやらせる訳にいかない」と顔面蒼白になってトライするんだけど、この台詞自体、どうなの……と思うし、見たいじゃん、フツーに、堀北嬢がキャーとか言って空飛ぶところ。
なんかね、こーゆー風に、細かいひとつひとつで、彼女のインパクトが稼げない気がするんだよね。可愛いんだけど、それでいいんだけどさ……。

決して悪くはなかったんだけど。なんとなく、ね。例えば予算を上層に掛け合う課長の泣けちゃう一生懸命さとかさ。
甲本氏の、一見しての頼りなさげな印象とのギャップ、これもまたツンデレで、どうしても清遠氏を外さなきゃいけなかったこと、予算も通らず、それを部下に告げなければいけない場面とか、キューンとしたしさ。
でも、この課の中で、一人だけがメッチャワキのまんま終わっちゃったんだよね。
名目は、田口浩正扮する近森(経理?)のサポート。いわば、この課の正規職員としてはただ一人の女性、紅一点だったのに、マトモな台詞もなく終わってしまったこと彼女に、……それなら最初から出してくるなとさえ思う。

オフィシャルサイトの人物相関図にさえ、いないんだよ。“おもてなし課”のカテゴリがあるのに、彼女だけが外されている。
それって、あんまりじゃん。外部スタッフとして入ってきてのメイン、つまりギャップの魅力を醸し出しつつも結局はおもてなし課の正職員ではない明神=堀北嬢のみ、ていうのってさ、女が認められるのは、お金がかからずそれなりに使えて、ついでに可愛ければお得、てことなの??
男は男ってだけで、掛水みたいに“なんとなく県庁に入って”も、空気読めなくてもなんでも、結果的に女の子にサポートされて“かっこいい男”になれればオッケーなのに!!

……すいません、一瞬前の愚かなくだりは忘れてください(爆)。
空気読めない=色恋にドンカンな掛水が「今よりカッコイイ男になったら……多紀ちゃんって呼んでいい?」とその……の余韻で彼女と観客に期待させる向きとはあらぬ方向のトンチンカンを言い出すのはたまらなく可愛かったし、そこからつながる、吉門に便乗したテレビ出演、後から思えばメッチャ勇気ふりしぼった場面で、両手ピースして「多紀ちゃん!」と笑顔全開には爆笑しちゃったしさ。
そうですよ、そうですよ。充分トキメキもらったのに、錦戸君の200パーセント人懐こすぎ笑顔がたまらんかったのに、イマイチ焦点の合わないままの文句言っても仕方ないわな。

この壮大なる計画実現への余韻を残したまま終わるのは、大ハッピーエンドではないあたりが、日本映画的なのか、あるいは日本の現実ということなのかな。
個人的にはやはり、高良君&めぐみ嬢。めっちゃドキドキであった。両親が離婚すれば、血がつながってなければ、元きょうだいでも結婚OKなの?
そんなことがついつい気になるのは、これってすんごい女子的に好きな設定だけど、実際はどうなのかなー、と長年気になってたところだったからさー。★★★☆☆


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