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「ろ」


2013年鑑賞作品

ロケーション
1984年 99分 日本 カラー
監督:森崎東 脚本:近藤昭二 森崎東
撮影:水野征樹 音楽:佐藤允彦
出演:西田敏行 大楠道代 美保純 柄本明 加藤武 竹中直人 中本賢 大木正司 神童累 草見潤平 ふとがね金太 イヴ 角野卓造 花王おさむ 河原さぶ 殿山泰司 大塚国夫 根岸明美 麻生隆子 初井言栄 大林隆介 和由布子 矢崎滋 岩倉高子 森塚敏 佐藤B作 乙羽信子 愛川欽也


2013/11/26/火 劇場(オーディトリウム渋谷)
若い頃の柄本明は、息子の柄本佑に似てる……などとぼんやり思いながら、今段々と思い返していくうちに、これって、すんごい傑作だったかもしれない!!と思い始めてきた!いやー、なんか最近寝不足と飲み過ぎで頭がぼーっとしてて、そんな記憶まで遠のいてしまっていけないいけない(爆)。
超低予算のピンク映画のロケ現場というシチュエイションも涙モノ。「俯瞰を撮りたいからヘリコプター?バカ言うな!」と滑車でカメラマンを宙づりにするオープニングから、映画愛に満ち満ちあふれてて、うっと熱いものが込み上げてしまう。

スタッフが役者もこなしながらほとんどガチで進んでいくピンク映画現場の熱に、ああこれは、お金をたっぷり使った商業映画にはない、まさに映画愛だよなあ、と嬉しくなる。
そりゃお金がたっぷり使える方がいいに決まっている、ここにいる彼らだってそれをいつかと夢見ているに違いないんだけれど、やっぱりやっぱり、こういうの、胸が熱くなっちゃうのさあ。
でも森崎監督はピンク出身ではないのだよね??こういう映画って、いかにもピンク出身のたたき上げの人が作りそうだけれど……。

でも、本作の若い方の(爆)ヒロイン、もうキラッキラの美保純はまず、そうだし、伝説の作品を数多く残す竹中直人だってそうだし、ピンク映画の熱を感じさせるキャストがちらほら散見されるのはやはり大きい。
こういう雰囲気って、大事。ホントにもう、キャストがみんな、キラキラ、ギラギラ、熱、熱、熱!!なの!

主演は西田敏行。もうからないピンク映画はやめて、女房と二人、ほかほか弁当をやろうかと思っている矢先。ていうか、夫婦、って言ってたっけ?
そこに彼女に横恋慕していると思しきシナリオライター、柄本明が絡んでくるし、何かまだ、恋人に毛が生えた?程度の関係かなあ、と思って見ていたんだけれど……。

豆腐屋の二階に下宿している二人。台所にどーんと湯船が設置されているのが凄い。
ロケ現場からフラフラになって帰ってきた西田敏行が風呂に入る。電話が鳴る。相手は柄本明。
「奈津子?寝てるよ、いびき聞こえないか。様子がヘンだったって?」
大量の睡眠薬を飲んで昏倒していることに気づいた西田敏行=べーやんは、上半身裸のまま慌てて彼女をかついで、近所の病院に駆け込んだのであった。

そうだそうだ、この奈津子は大楠道代。これまた雰囲気たっぷり!特にピンク出身という訳ではないけれど、なんかそういう雰囲気も感じさせる。
自殺未遂は常習、きっと女優としての才能もあまりなくて、彼女に横恋慕する若きシナリオライター(ん?柄本明の方が若い?ような雰囲気……)にもフラリとする。そんな、頼りない女。
なのに、後に二役として別人格で登場する彼女は、過去に一家心中をもくろみ、今は売女稼業に身をやつしているふてぶてしい雰囲気の女。
そして、フィルムに刻み込まれた彼女を監督は、「奈津子、芝居が上手くなったなあ、後半は別人だ」と絶賛。別人、同じ人なのに、別人!!

……興奮のあまり、最後まで言ってしまった。修正修正。
てか、それこそ最初のうちはさ、ピンク映画のロケの熱を伝える、そんな映画だと思ってて、その側面は確かにあるんだけど、なんかどんどんどんどん、話が複雑になっていくのよ!
それは美保純が登場してから。このピチピチのヒロインがまあとんでもない過去を背負ってる。
最初こそ、もうそりゃー美保純だからいきなりぷっちぷちのおっぱい、ぱんついっちょで走り回るなんて登場さあ、胸わくわく躍るのだが、この娘がまあまあ、とんでもない過去を持っていたのだった!!

てか、てか、うう、主人公は西田敏行なんだってば!でもね、彼にも、ビックリした。
だって西田敏行ってもう今や、好々爺の一歩手前、って感じじゃない??池中玄太から釣りバカに続くイメージが、彼の人となりのイメージとしても定着しちゃったような感もあるしさあ。

でもここでの西田敏行、べーやん、ぜんそくで入院しちゃった監督からその後を任されるピンク映画のカメラマン、スタッフからの人望あつきこの男、ギラッギラしてるのよ、なんか、精悍なのよ!
いや、西田敏行だから、この頃からまあ、あの体型ではあるんだけど、なんか、男臭いのよ、なんというか!
西田敏行に精悍だの、男臭いだの、ギラギラしてるだのといった形容詞を使うことになるなんて、思いもしなかった!
ロケ先の宿屋で働く娘、美保純を見つけた時の彼の顔も、イイ女を見つけた男の顔と、映画人としてのプロの嗅覚の顔と、両方がないまぜになってて、うっそー、西田敏行がさああ!とのけぞってしまう。

でもね、やっぱり西田敏行だからさ。福島出身だということになってるの。
でね、美保純もそうだと言って、彼女が墓参りしたいということになって、いわきに行くのよ。常磐ハワイアンセンター!なんか今となっては色々思って、涙が出ちゃうよ。
でね、美保純の恩師という設定で佐藤B作よ。もう福島祭りよ!もうもう、なんか、涙が出ちゃうなあー。

……で、興奮しすぎてまた訳判らんまますっ飛ばしてしまった。えーとどこまで戻ったらいいのやら(爆)。
そう、そうそうそう、もうかなり最初のところに戻るけれども(爆)、そもそもこの映画は奈津子主演の筈だった。
でも奈津子はクスリ飲んで昏倒、それにもう、女優はやめて、べーやんもこの世界から足洗って、二人でほかほか弁当やろう、そう決めていた筈だった。

悩むべーやんがロケ出発の駅前で、前金を監督に返して、降りる、と言う。
テレビドラマの撮影隊やらがごちゃまぜに待機してるこの雰囲気も、きっと当時のままなんだろう、とワクワクする。
結局べーやんは、ギリギリ踵を返してロケ隊に乗り込む。奈津子が心配でも、そして彼女が女優としての才能がどうやらなさそうだということを判りはじめていても、それでもべーやんは、映画への思いと一緒にやる仲間たちを捨てきれなかった、んだなあ!

で、そのロケ先で出会う美保純。登場のなんと鮮烈なこと!
「この子は地べたで寝るのが好きだって言うから」と、機械室みたいなところの地べたに、死体よろしくシーツかぶってぱんついっちょの仰向けで寝ているんだから、スタッフはビックリ仰天なんである。
本当に美保純のキラキラ度といったらハンパなく、やはり女優は若いうちにおっぱい出しとくべきネ、などと見当違いのことを思ったりする(爆)。いや、そうそう見当違いでもないと思うけどね!

なんか口下手で、行動がとっぴで、ヒロインに抜擢されて了承したのに、突然、お盆だから墓参りに行かなきゃいけないとか言い出してスタッフたちを困惑させる。
もうろくろく睡眠時間もとれないような、ザ・雑魚寝。男の役者はほぼゼロ、つまりスタッフたちが入れ代わり立ち代わり役者に扮して、スリリングで、なんともドキドキするんである。

俳優もやってスタッフもやり、そして監督にもなる、この伝統はピンクならではだよね。俳優が監督に“挑戦”して、おサムい映画を作っちゃうような“恵まれた世界”とはワケが違うんである!
そう思うとますます竹中直人が本作に参画していることにワクワクするんである。
竹中直人は昔から現在まで竹中直人そのままだけど、でもやっぱり若くって、映画の先行きにやきもきしてウロウロして、なんかやっぱり今より血気盛んな若者。ああ、若者、竹中直人が若者ー!!!

……だから、興奮しすぎだってば。で、そうそう、墓参りに行きたいから、という彼女の事情に合わせて、ロケ隊は福島へ。
このあたりからそもそもあってないに等しかったシナリオ事情も、どんどん改変されていく。
彼女にまとわりついていた人殺しの噂は、故郷に帰ることでほぼ確定的になっていく。
一家心中の形だったけれど、父親を殺した母親に激昂して、娘である彼女が母親を殺したのだと。それを彼女自身が言い触らして歩いていたのだと。

到着こそ、常磐ハワイアンセンターの陽気な雰囲気、笑子がここでダンサーになって、なんて映画にしてもいいんじゃない、なんてノンキこいていたスタッフたちは、笑子の姿が消えていることに気づいて焦って探し回る。あ、笑子ってのは美保純。言ったっけ?
濡れたように暗く光るお盆の夜の街は、にぎやかな盆踊りが催されていても、ふと路地に入るとしんと冷たい静寂で満たされている。
べーやんは、紙風船を作っている老婆のそばにぼんやりと座っている笑子を見つける。彼女はさらりと万引きして、店を出ていく。
見上げた妾宅風の二階から覗いた女の顔を見てべーやんは愕然とする。奈津子に生き写しだったんである。

吸い寄せられるように入り込んで、このあたりから、夢かうつつか、本当に判らなくなってくる。
この、奈津子そっくりの女が笑子の母親だというのだって、最終的にはなんだか、まるで夢のようで……。

自分の女房とそっくりなのに、中身は全然違うこの娼婦の女と同衾、雷の光に映し出される、障子の向こうからうかがっている影におびえながら“喘ぎ声”を演じ、布団にくるまる西田敏行、彼のそんな色っぽい場面ってかなり予想外だったから、これまたうおーっ、て感じなんである。
でもホント、本作の西田敏行は、……こんな、先の見えない夢や熱にうかされるように生きている男臭さは、本当に、見たことなかった。意外、だったなあ……。

この“母親”と出会ってから、笑子は段々、まるで正気をなくしていくよう。
一家心中の結果、父を殺した母を娘が殺した、という噂が本当なら、なぜ母親は生きているのか。それともこの“奈津子そっくりの女”は幻なのか。
ロケ現場の海岸の廃屋に母親を呼び出した笑子は、カメラが回っているのを知ってか知らずか、母親を罵倒しだす。
全てが彼女の中の計算だったんだとしたら、こんなしたたかな女もないんだけど、でもこの笑子の、計算のない計算高さ、とでもいうような、無垢のファムファタル、とでもいうような、矛盾の中の魅力はまさに、今に続く美保純そのもので、目が釘づけになってしまう。

今起きているリアルをフィルムに収める、もしかしたら人が死んでしまうかもしれない、という、映画バカたちにとってはきっと究極の夢であろうこと。
そういやあ最近「地獄でなぜ悪い」がまさにそんなテーマだったけど、それより30年も前に、こんな、本当に観客側もリアルかと見まごうような、こんな作品が作られていたなんて!!

だってね、本当の本当だったかなんて、なんかもう、判らん訳よ。いやなんつーか、いい意味でさ。
監督はぜんそくで途中降板しちゃう訳でしょ。このぜんそく監督のくだりは、絶妙に笑わせてくれる本作の中でも抜群のコメディリリーフ。
笑子のヘマで消火器をぶちかましちゃって、とっさに監督とヒロインが入った小部屋の窓を閉めたのがべーやん。
確かにその部屋以外には被害は出なかったけど、真白になった前バリだけの女優が飛び出してくるのには、爆笑!
いやそれよりも、真白になった監督のボーゼン自失と、ぜんそくの発作には、ぜんそくの人にはホントとんでもないことだと思うんだけど、ついつい爆笑してしまう……ゴメン!

でね、まあちょっと脱線しましたが、そんな訳で監督がべーやんに後を任せて、もうその後はほぼ笑子に引きずられる形で、最初のシナリオも完全に捨て去っちゃってさ。
笑子の暗い過去を、最後にはドキュメントタッチで……タッチどころか、本当にそのまま、カメラに収めることになる訳でしょ。

母親を廃屋に呼び出した笑子が、“その時”のことを二人で呼び覚ましていく……スタッフが、これはただ事ではないと気づく。とっさに、父親役を買って出る。
母親は、二人が心中を決意して最後のむつみ事をしていたのを、殺そうとしているだなどとカン違いしたのだ、と主張する。娘は承知しない。
すったもんだの挙句、廃屋から飛び出して、その現場、波しぶきが寄せる断崖絶壁の上に駈けていく。
火スぺみたいだなどとジョークが言えないほどの臨場感で、あまりにマジな役者たちに、本当に彼ら、崖から落ちて死んでしまうんではないか……と、今ちゃんと生きてる(爆。ヒドい言い方だが)のが判ってても、思わず心配になってしまうほどなんである。
めくるめくカメラワークは、“ドキュメントタッチ”などとゆー言い訳のもとに、メチャクチャガチャガチャに振りまくられるよくある稚拙さなどは無論なく、しっかと抑え、しかし共に熱をはらみ、高揚していく。

ああ!なんと美保純のエネルギーの素晴らしいことよ!!この年齢、そして女の子、そしてそして才能とエネルギー、やはりこのタイミング、この瞬間に、女優は、いやさ女の子は、見せられるもの、出せるもの全てを出さなければイカンのだよ!!
ちょっとすねたようなこの顔立ちが、幼さの残る美しいおっぱいに連動して、なんと美しいことよ……天から与えられたものなの、女の子の美しさは!!

でね、またまた脱線したけど(爆)。この一部始終を見届けたのはこの場にいたスタッフたちだけだし、しかもこんな具合に、熱に浮かされたような現場だった。
福島に舞台が移ったあたりから、お盆の濡れて光る夜のあたりから、なんだか夢かうつつか、こんな力強い夢もないだろうけど(爆)、本当に、そんな感じがした。
途中降板した監督だって、この子をヒロインに、と決めてはいたけど、その後の経過は見ていないし。
結果、最初のシナリオが全くボツになった状態の本作を見て、傑作だと言ってくれたけれど、あまりにムチャクチャな展開に、配給先から試写に来ていた社員からはボツを食らう。いかにも若造って感じの矢崎滋!!新鮮―!!

そう、ボツをくらって、つまりはお蔵入り。劇中映画ではあるけれど、日の目を見ない映画の中のヒロイン、笑子は、いくら彼らが実際に出会った、ぴちぴちと光り輝く女の子だったとしても、本当に存在したのかどうかさえ確証のない、幻の女、になったんだよね……。
あの美保純、あのぷるぷるおっぱい、汗にまみれた映画バカ男たちを翻弄した不思議な肉感少女が、本当に存在したかどうか判らない女の子になってしまったなんて!
しかも、この劇中映画の両主演と言うべき、奈津子に瓜二つの母親も、「別人みたいに芝居が上手くなった」と監督から言われて、思わずべーやんは黙り込んじゃうんだもの。

で、ラストには、その奈津子が今度はちゃんと?健康に?普通の??寝息を立てていて、べーやんはほっと安心する。
これって、さ。まるで、女優、本当の女優、才のある女優は、現実には生きられないとでも言ってる気もして、ふとヒヤリとしてしまう。
なんかさ、女優は男優よりも、そういう、別世界感、言われるよね。女優とは結婚すべきじゃないとかなんとか……。
なんかやっぱり、ヨメには現実の安らぎを求めるのかね、と、こんなところでフェミニズム論をしてはいけない、いけない(汗)。

最初が柄本明から始まったのに、なんかうっかり言いそびれたまま終わりそうになっちゃう(爆)。
いや、だってさ、このキラキラ、ギラギラ、プリプリ、ぴちぴちの中では、彼があまりに繊細なんだもの。
柄本明が繊細!!今の彼のアクの強さとはちょいと違う、そう、息子の柄本佑君な雰囲気なの!!
息子に似てる、なんて逆だよ、と怒られるかな……でもなんかさ、それが凄く新鮮でさ!

奈津子に横恋慕している、でもべーやんのことを尊敬してて、奈津子とべーやんどっちとかそういうことじゃなくて、つまりは子分なのよ、どちらにおいても!
あの柄本明がめっちゃ純粋な目をしてロケ先の福島に現れて、それこそまるで夢か幻かみたいな場面でさ、で、彼が促した先に、捜しに捜していた笑子が、墓の前で横たわってる。
やたら白くて現実感のない海岸だし、時間も判然としないし、べーやんは奈津子そっくりの女に翻弄されてるし、そこに突然脈絡なく現れる紺野(あ、これが柄本明ね)だし、なんかもう、……夢、なのよ。
まさかの柄本明が白シャツ似合う、まさかまさかの透明感(爆)。ああなんだろ、どうしちゃった、この映画、色々奇跡が起こりまくってる!! ★★★★★


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