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野獣の青春
1963年 91分 日本 カラー
監督:鈴木清順 脚本:池田一朗 山崎忠昭
撮影:永塚一栄 音楽:奥村一
出演:宍戸錠 木島一郎 渡辺美佐子 鈴木瑞穂 小林昭二 川地民夫 江角英明 金子信雄 香月美奈子 柳瀬志郎 三木正三 上野山功一 河野弘 山口吉弘 信欣三 郷英治 星ナオミ 木浦佑三 黒田剛 青木富夫 玉村駿太郎 清水将夫 平田大三郎 緑川宏 山田禅二 花村彰則 久松洪介 高緒弘志
宍戸錠扮する水野錠次、そうさ、ジョー!が解説言うところの“カッコイイ風来坊”として街のチンピラどもをのして歩き、首尾よく野本組に目をつけられて引っ張られる。
いや、ジョーは最初から野本組の経営するキャバレーに客として乗り込んで、カネをばらまきつつも、群れる女たちを邪険に扱い、背中に氷を入れてみたりなんだり。
その様子をマジックミラーだろうな、あれは、ガラス越しに眺めている野本組のメンメン。きらびやかな店内はしかし、流れている音楽はオン・オフが効くから、ピンク色の羽を揺らしながら踊るストリッパーが股を広げても、しんと静まり返っているこの構図!
しかも店を見上げる形で、下にはコワモテの野本組が控えていて、この構図が、カラフルで騒々しいのに静まり返っているこの構図が、す、す、鈴木清順―!!
ジョーは親友の仇を討つために野本組と、敵対する三光組にもスパイになると持ちかけて入り込むんだけど、この三光組の根城がまた画になる訳!
まさにヤクザ、興行、映画館を経営してて、そのスクリーンの裏にちんまりとした事務所がある。スクリーンの裏側、映画の画が裏から見れる。当然クレジットも逆さ字である。
こういうの、映画ファンにはたまらなく憧れる場所!かかってる映画がいかにも俗っぽい感じの、当世風俗を描いたラインナップなのも、イイんだよなあ。
この当時の日活、そして宍戸錠を、うっかり観る機会がなかなかなかった。一本目にして既にそのセクシーさにヤラれたが、本作はしかもカラー(一本目はモノクロだったの)、存分に暴れまわる宍戸錠の魅力満開である。
とはいえ本作では、彼はストイックなんだよね。一本目の宍戸錠はイイ身体を見せまくり、女を抱きまくりだったのに(爆)、本作の彼はただただ、親友を心中に見せかけて死に追いやったヤクザどもへの復讐心に燃えている。
そう、脱ぐどころか、女を抱くシーンも、女のハダカもない!いやいやだって、あまりにも一本目がそーゆーあたりサービス満点だったからさ!さっすが日活と思って(いやちょっと意味が違うが……)。
ジョーにスッカリ心酔した、“酒と女がダメ”という三下が、彼と共に三光組のトップの根城に乗り込んだらその奥さんにすっかり恋しちゃって、しかしほんの数時間の恋のうち、そのトップと共に奥さんも銃撃戦で死んじゃう。
あまりにも色恋、セクシー関係がなかったから、なんか付け足しみたいにも思えるエピソードだけど、まるで初めて恋したみたいな彼の様子が妙に可愛くて切なくて、忘れられない。
おっと、またしてもかなりすっ飛ばしてしまったが。そうそう、先述したようにね、ストーリー的には王道、それを語っていっちゃえば、相当時間かかりそうな(爆)緻密さなのさ。
それはメンドくさいから適当に割愛するが(ひどいなー)、とにかく、ジョーは復讐に燃えている。刑事であったジョーはある事件を追っていて、自分だけは確証があるんだけど、上層部を口説けるだけのネタがない。
後から返すつもりで拝借したカネのことを、その事件側の組織から横領だと、投書の形で投げ込まれた。ジョーを信じ、その投書を握りつぶしてくれたのが心中の形で殺された竹下刑事。
ジョーは結局敵にしてやられて、横領、暴行の罪で網走にブチ込まれることになってしまった。その間、竹下はジョーの病身の妻のことも面倒を見てくれた。「結局、死んじまったけど」とはジョーがかつての同僚に漏らした弁。
そう、バレちゃうの。ジョーが何をしようとしているかを。竹下の四十九日に姿を見せたジョー、見つかっちゃうの。
ジョーがおまわりさんやパトカーや刑事からやたら姿を隠したがるのは、そりゃヤクザだからだとすんなり思ってたんだけど、かつての仲間に自分の計略がバレるのがヤだったからなのだ。
仲間を引き入れればもっとコトは簡単だったと思うのに、実際ジョーを案じるかつての同僚はそう進言し、“銃不法所持”の咎で現行犯逮捕という形で彼のムチャを諌めようとさえするのに、親友を殺した相手をぶっ殺したいジョーは、それをことごとく拒否するのだ。
ていうシーンもね、凄くスリリングに活写されてるんだよなあ。かつての同僚を振り切るようにタクシーに乗るジョー、同僚も負けじと乗り込む。振り切るように自分だけ降りてしまうジョー、同僚も負けじと降りる。
タクシーの中から、降りた二人の様子を揺れるカメラで映し出す。荒涼とした荒地のような場所に降ろされた二人、その地と都会的タクシーとのギャップ。なんともなんともスリリングで、ドキドキしてしまう。
しかしメッチャ突っ込んだ、そのまんまのセキララネタを運ちゃんは聞かされてるのに至極冷静、いや、それはプロだということで処理出来るが、こんな超極秘ネタを、タクシーの中であっさり披露しちゃうジョーと同僚、おいおい君達刑事&元刑事だろ!!
そうそう!荒地と言えばさ、ジョーが野本組の闇の一端を突き止めるため、野本の妻とお近づきになる。お近づきになるけど、シャワーだって浴びるのに、何もないあたりが超ストイックなんである。
その妻は、野本の“六番目の女”を殺してほしいと言う。竹下と“心中”した女は、野本組の抱えるコールガールの一人。新聞にはBG(って言い回しが時代ね!でもOLよりこっちの方が好きだなあ)って出てたゼというジョーに、「素人っぽい女」がウリだったの、と妻は言う。
で、荒地と言えばから随分離れちゃったが(爆)、結局この妻の目論見が野本にバレちゃって、嫉妬深い野本は荒れに荒れて、奥さんを殴りつけるうちに……豪奢なマンションのベランダの外は、まるでマカロニウエスタンのような荒涼とした荒地。
確かにその奥には都会の灯火が見えるんだけど、ゴウゴウと砂嵐はけぶってるし、そして窓の外にバトルが移るとまたしても音声がふっとオフになって、あの奇妙な静寂。
喧騒が想像されるのにしんと静まり返り、それをこちら側で見ている感覚、そしてそして、見えている“喧騒”があまりに非現実的で、マカロニウエスタンで、しかもその荒地で野本は、奥さんをシバいてる間に興奮しちゃってコトに至っちゃうし、なんかもう、なんともあっちこっち?なの!
日活的クライマックスは、ジョーが仕掛けた野本組と三光組の抗争だけれども、物語的にはそれはさして重要でもない。
あ、でも確かにこのシーンで、いったんは野本組に素性がバレちゃって天井から吊り下げられちゃって、そこに爆発かけられちゃって、大体のヤカラがくたばってる中で、しぶとい野本と逆さ吊りのジョーとが噴煙で真っ白になりながら死闘を繰り広げるシーンは、こんなん見たことない構図!と思うアクションの魅力に満ちていて、やー、やっぱり日活だよなー!と思っちゃう。
当然ジョーは勝つ訳だし、真のクライマックスはここではないのだ。最後の最後に突き止められた黒幕は、まさかの人物。ジョーが無念の死を遂げた竹下同様に同情を寄せ、いわば彼女のためにも復讐を、と思っていた、竹下の妻。
きちんと着こなした和服姿が、いかにも貞淑そうに見えることにアッサリ騙されたのがクヤシイ!
彼女もそうだけど、インパクト的にはこっちの方が大だと思われるのが、野本の弟、秀夫である。そ、そうか、川地民夫、そうだわ!!!キャー!!なんか萌えるー!!
色白で、妙に女くさくて、組員たちから「あのオカマ」と陰口叩かれてる。彼こそがコールガール組織の元締めだとジョーは踏んで近づくんだけど、それは確かに間違ってはいなかったんだけど、本当の元締めが、竹下の妻、イコール野本の愛人のくみ子だった訳だからさあ……。
この秀夫、妙に女くさいキャラの真相は何なのか、ゲイなのか、あるいはマザコンやら甘やかされている立場がそうさせたのかイマイチ判然としないんだけど、とにかく彼は、母親が“クロ相手のパンパン”と言われるとスイッチが入ったように逆上し、かつてそれで女の顔をカミソリでスダレのように切り付けてしまったことがあるんだという。
そのことを耳にしたジョーは、彼こそが元締めだと踏んで近づいた時にまずそのことで揺さぶりをかけ、いつもカミソリを持ち歩いていることを観客にも知らしめる。
そして、物語の最後の最後、くみ子をぶっ殺すことが結局出来なかった替わりに、彼女にあの禁断の台詞を言わせて秀夫を逆上させ、カミソリを持ち出したカットを示して、スッとふすまを閉めてしまうんである。
そうかそうか、川地民夫か。結果的には彼が一番もうけ役だったかもなあ。宍戸錠、食われたかもしれない。
男くさい展開とキャラの中で、“おかまみたいなヤツ”とさげすまれた彼だけが、異彩を放ってた。実は彼こそが一番、ジョーよりも燃えさかる情熱を、……母親に対して持っていて。
そう、自分にとって大切な人が、侮辱される怒りという点では、ジョーと彼は同じ、なんだよね。なのにジョーは主人公なのに、彼の思いに負けてしまったということなのだ。
いや、それ以上にズルいかもしれない。女をぶっ殺すことが出来ず、彼女が女の武器を使って泣き落としにかかってることを判っていながら出来ず、秀夫の弱みにけしかける、なんてさ……。
てか、川地民夫は本作で初めて鈴木清順に起用されて以降、重用されたんだという!てことはこれは、川地民夫を観るための作品だったかもしれんなー!!
しかしこのタイトル、野獣はともかく、青春はどこにあるのと……。いや、野獣だってかなりアレだけど。なんとまあテキトーなタイトル。
大御所大藪春彦の原作の題名とも違うし、確かに日活アクションぽいタイトルだけど、て、テキトー過ぎる。鈴木清順監督、よく納得したよな、てか、彼ってそういうこと、あんまりこだわらなさそうな感じはするけど。★★★☆☆