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「け」


2014年鑑賞作品

ゲノムハザード ある天才科学者の5日間
2013年 120分 韓国=日本 カラー
監督:キム・ソンス 脚本:キム・ソンス
撮影:音楽:川井憲次
出演:西島秀俊 キム・ヒョジン 真木よう子 浜田学 中村ゆり パク・トンハ イ・ギョンヨン 伊武雅刀


2014/2/5/水 劇場(TOHOシネマズ錦糸町)
相変らず情報を入れてないので、本作の予告編に遭遇した時はものすごーくビックリした!西島秀俊が韓国映画……まではありそうだが、実は韓国人だったというキャラ設定、そんでもってメッチャアクション!!なことに、予告編の段階からぶっ飛んだ。
一時期、韓国映画の質の高さにかなりのめりこんで観ていた時期もあったんだけど、近年はかなりご無沙汰していた……のは、別に毛嫌いしている訳じゃなくて、韓国映画に限らず、日本映画を追いかけるのに精いっぱいで、しかもそれも追いきれなくて、外国映画に割く時間がとても出来ない、という単純な理由。
しかもこういったザ・エンタメ映画は、余計になかなか足が向かない。なんかしかめつらしく映画に意味を求めている自分に気づいて、ツマンナイ映画ファンになっちゃったなあ、と今回思わず反省してしまった。つまりそれぐらい、うん、面白かった!のだ。

うー、でもでも西島秀俊が、あんなイイ男が韓国で認知されたら、困る困る!色々引っ張りだこになって、とられちゃう!
いやまあ、日本文化も伝わっている韓国だから、西島秀俊もまたそれなりに人気はあるのかもしれないが、何より悔しいのは、日本でさえ全く意外だった、アクション俳優、西島秀俊の誕生、を本作にとられたことなんである。

く、く、クヤシイー!!そんな潜在能力があったのなら、なぜそれを日本映画で出来なかった!!
西島秀俊ってさ、日本においては物静かな知的俳優イメージじゃない。アクション方向にもハジけなかったけど、コメディ方向にもなかなかハジけない人(だから「真木栗ノ穴」は希少価値アリなのだ!)。それって、すんごくもったいなかったのかもしれないという気がしてきた!
だってつまりは、そういう狭いイメージに彼を閉じ込めてきたってことじゃない。いろんな作品に出ているし、いろんな役柄を演じているし、そんなことは一度も感じたことはなかったけれども、実はそうだったのかもしれない、と思ってしまった。
時々垣間見える素の彼は、実にほがらかで気のいい青年、という感じだしさ……。

近年、西島秀俊のやたらめったらイイ身体は、なんかムダにイイ身体ね、と思っていたが、ちっともムダではなかったということなのか。実は彼は、アクションをやりたい人だったのか。ただの見せ筋肉ではなかったのか。
いや、それこそ西島秀俊にこびりついているイメージは、見せ筋肉を鍛えるようなバカ男では決してないんだから、そういうことには早々に気づかなければいけなかったのか!
ああ、何ということだ。彼が横国出身の秀才ってイメージもそんな方向をついつい妨げていたのかもしれない。まさかの西島秀俊アクション俳優志向。ウギャー!
アクション俳優には不可欠の、走り姿の美しさも申し分なく、ああ私らは、一体彼の何を見ていたんだと思っちゃう!!

……ううむ、西島秀俊ショックばかりを言っていてもしょうがないのだが。そう、面白かったのよ。
久方ぶりにこんなザ・エンタメを見たっていうせいもあるかもしれないし、私がアホで、こーゆーミステリにあっさりと騙されたりビックリしたりしちゃうってのもそうだろうとは思うんだけど、でもワクワクしたなあ。
科学者の権威として伊武雅刀が出てくるだけでなんかインチキくさくてワクワクする(爆)。いや、いい意味で(いい意味??)。
だってさ、物語の最重要アイテムである、記憶を書き換えるウィルスが、無造作にシャーレにたぷたぷと入れられ、しかもそれがお風呂の洗剤みたいに真っ黄色、ていう安っぽさが、なんかたまらなくワクワクするんだもの(いい意味……なんだろうか……)。

いや、ね、だってこれは、まあリアリティたっぷりには描いているし、科学は進んでいるんだし、こういうことはあり得るのかもしれない。
実際、似たような話は近年、聞くじゃない?SFの世界でしかあり得なかったようなことが起こるだけの科学技術力が確かに、発達している時代。

でも本作の原作が、原作者曰く、携帯もパソコンも普及していなかった時代、ていうのが、本作に与えるテイストに微妙に影響しているのかもしれない。
いや、最初に発表したものに対して、近年そうした時代背景を加味して大きく加筆、校正したというんだから、それは払しょくされているというべきなのかもしれないけど、記憶サスペンス、別人サスペンス、医療、国際間、企業間争い、切り札となるクスリ、身代わりの死体、なんかいちいち、ちょっとしたノスタルジーを感じるんだよね。いや、いい意味で(しつこい(爆))。

予告編でもう明らかにしちゃってるし、実際本作のキモなんだから仕方ないとはいえ、日本人として普通に暮らしていた男が、実は韓国人だったことが決定的に明らかになる、口から飛び出る韓国語、のシーンまでも先に流出されているのはなんとなくもったいないような気もしてしまう。
何も知らずに本作を観たら、本当にここでビックリしたと思うもの。うーん、もったいないなあ。

気になるのは、西島秀俊の韓国語の発音が、どの程度通用しているのかということ。
共演で、女性側の主演とも言うべきキム・ヒョジンも見事な日本語を駆使しているし、その尺は西島氏よりもずっとずっとあるけれども、彼女は日本で仕事をするためにおぼえた日本語、基本は韓国人のままだから、なまりがあってもいい訳じゃない?でもなまりもほとんどない、本当に素晴らしい習得で、ドギモを抜かれたけれど……。
でも西島秀俊は、天才科学者である韓国人、オ・ジヌが基本ベースであり、記憶を上書きされた、つまり第二の人格、言ってしまえばニセの人格の方が日本人、石神武人であり。その韓国語は、韓国の観客に対して少しも不自然を感じさせちゃいけない訳で。

その辺どうだったのかが、すんごい、気になる!!確かにほんの少しではあったけれど、ほんの少しであるからこそ、リアリティには影響するように感じる。
吹き替えではなかったよね、西島氏自身の声だったと思う。あれだけアクションにも完璧を貫く彼だから、きっときっと、文句を言わせない発音だったと思いたいけど!!こういうのってホント、重要だからさ!!!

で、もういい加減、このあたりでどんな話なのかを言っとこうか(爆)。てゆーか、頭の悪い私は、かなり後半まで頭がコンランしていたのだが(爆爆)。
まあ、サクッと言っちゃえば、アルツハイマー治療薬の研究をしていた研究所があってね。健常な頃の遺伝子を、アルツハイマーになってしまってから注入したら、元の人格が取り戻せると、まあそんな具合の研究をしてて。
で、動物実験ばかりじゃラチがあかん、とうっかり人を車ではねちゃった所長が出来心を起こして、その男性の培養液をオ・ジヌに注入しちゃう訳。
なんてことが明かされるのは当然、物語も中盤になってからで、その男性、イラストレーターとして働いていた石神武人、実はオ・ジヌが、次々と遭遇する事件や不可解な記憶を通して、その事実があきらかになっていく、とこーゆー訳。

で、どのあたりでアホな私が混乱しているかとゆーと、ほぼ、石神武人=オ・ジヌの混乱に巻き込まれているような形なのだが、まつまり、二つの人格がある訳だから、二つの人生があり、それぞれに伴侶がいる訳よ。
で、もう石神=オ・ジヌは物語早々からそれを混同、コンランして、部屋の中で死んでいる妻に向かって美由紀!と呼びかける訳。
確かに石神氏の妻は美由紀なのだが、ここで死んでいたのはオ・ジヌの妻であったユリであった。
勿論それが明らかになるのはずっとずっと後のことで、実際は生きている美由紀から「今日は実家に帰ってるの」という電話を受けて、石神、そうこの時点ではまだ全き石神氏は混乱の境地に陥るのだ。
しかも警察の名を借りた怪しげな追手から狙われることになるし。

徐々に、オ・ジヌの人格が見え出して、偶然彼を助けることになった韓国人記者、カン・ジウォンの協力もあって、二つの人格、二人の妻、が明らかになっていくんだけど、本当に私はアホだから、ずーっとコンランしている(爆)。
石神氏が結婚した美由紀の姿がなかなか見えないこともあって、美由紀と呼びかけられるユリ、そして訪ねて行った妻の実家は表札が違ってすげなく追い返されたり、ミステリに慣れてないこっちは、もうすっかり頭がこんがらがっているんである。
ホントの美由紀である真木よう子が登場してからも、しばらくうーん、うーん、と頭の中をかき回してたなあ。やっぱり私、こーゆー物語は苦手だ……そりゃ、真木よう子と中村ゆりは全然似てないけど、そうなんだけど……。

こんな風に、女性の方がキーマンに見えながらも、アホな私の頭をややこしくしているのは、むしろ男性キーマンの方のような気もする。
石神氏の友人として彼が助けを求める、伊吹というバーレストランを経営する青年は、「ここ一年の友人」だと石神はカン・ジウォンに説明する。
「交通事故にあってから、記憶力がない」と語り、後々になってそれが、伊武雅刀がはねた石神氏の記憶がオ・ジヌに注入された故、と判るのだが、それこそ見終って改めて考えてみるとああそうか、と判る感じ。
ミステリ不慣れにはなかなか厳しい……ずっと、そうか、石神は高次脳機能障害なんだと思い、その要素こそがこのサスペンスに関係しているんだと思い込んで見進めたからさあ。実は別人、別人の記憶、別人の写真、それぞれの二人の妻、等々にムダに頭を悩ませちゃったんである。
えーえー、そーですよ、それは私の勝手な思い込み故ですよっ(ヤケクソ)。やっぱ、エンタメ、ミステリ見慣れてないとダメよね。フレキシブルな対応が出来なくって……。

で、ちょこっと脱線したけど、この伊吹という青年は、どもりがあるんだよね。ひそやかに、どもってる。ひそやかだったから、彼が最初に登場したシークエンスあたりでは、あれ、聞き違いかしらと思った。
でも、キーマン中のキーマンである研究所の佐藤博士=伊武雅刀と接触があったり、妻が死んでいるのか死んでないのか、意味不明な追手にも悩まされた石神が唯一信頼して家を見に行ってほしいという相手だし、重要人物には違いないし、そのたびにやっぱりどもりが確認できるから、なんだろなんだろとずーっと思っていたんだけど……。

明確になったのは、伊吹と、石神の妻となった美由紀が施設で育った同士で、石神の友人となり、妻となることを世話になっていた佐藤博士から依頼された、と、その点だけ。
あ、もうひとつ、息吹はその見返りとして、店を持つことが出来た、と。……それがどうして伊吹のどもりにつながるのかが、判らない……。

彼のどもりはその出自ゆえの根っからのものだということも出来るけれども、でもそう断じてしまうのも、施設出身イコールなにがし、みたいなあまりにもな単純さがあると思う。
いまはアノドラマとかで世間の目も厳しくなってるしさっ。この大役に重荷を感じてどもりを発症した、というのもちょっとこじつけすぎかなあ。
少なくとも石神は、どもりのある友人、という認識である以上、出会った時から彼はどもっている訳で、この大役を任じられてどもりはじめたと考えられなくもないけど、そこまで親切に推測するのもどうかという気持ちがあるし……。

本作の一番のクライマックスは、この、いわば不老不死の技術を狙う米国企業に委託された韓国企業とのアクションで、警察を装うとか疑念たっぷりの手を使いながら、あなたに会いたがっている人に送り届けることだけが目的だとか言って、思う存分のガンアクション、カーチェイスを繰り広げてくれる。
結果的に企業間の争いだということが判っても……それが国際的なそれだということが判ってさえも、うーむ、やっぱりやっぱり、エンタメゆえのやり過ぎ感はあるなあ、と、むしろワクワク感を強めて思うんである。
冷静に考えれば、国際間、企業間の争いがあってもこれはないだろ、と思わせるようなことを映画の世界では成し遂げちゃう、そんなワクワクに久しぶりに出くわしたような気がする。
だからこその伊武さんのインチキくささであり(爆)、お風呂の洗剤みたいなウソくさい真っ黄っ黄の溶液だったんじゃないかと思う。……優しく思い過ぎ??

ネタになるから、ということだけで石神=オ・ジヌを助け続ける記者、カンジウォン=キム・ヒョジンは日本語も見事だったしとても美しく、魅力的だけれど、語り部的な部分に陥ってしまった感もなくはない。
女、というキャラでいえば、キーウーマンが重要過ぎたからなあ。こういう物語で主人公の恋愛対象になるのは確かに難しいが、ならばなぜ女性記者でなければならなかったのか、とも思い……。
真実を明らかにする、触媒みたいな存在が男であろうと女であろうといい筈なんだけど、異性であること、しかも美人、ということについつい意味を感じちゃうことこそが、フェミニズム気質なのかもしれんなあ。

そんなフェミニズム気質をそそるラストではある。保たれる記憶はもうあとわずか。注入された石神としての記憶も人格も消える。
つまりこの技術は失敗だった。だから、全てを教えてくれとぶるぶる震えながら石神=オ・ジヌは美由紀に懇願し、全てを知り、一つの人格がこときれる。

そして時間も空間もかわり、さっぱりとした風情で……そりゃこれ以上、さっぱりとした状況もないわな……で、純粋無垢なオ・ジヌが現れる。
何も覚えていない、まるで赤ちゃんみたいなオ・ジヌとしてカン・ジウォンの前に無防備に現れるオ・ジヌに、カン・ジウォンははじめまして、と言う。
彼が、どこかで会ったことがありませんかと言っても、はじめまして、と。
「食事をしながら話さない?食べる時間もないのは、イヤなの」それは、彼女が作った韓国ならではの鍋ごとのラーメンを、彼が食べないままだった、出会った頃の記憶……。

西島秀俊、マジでアクション俳優になっちゃうのかもしれないなあ!その場合、日本にはチャンスがないから……ああ!ホントに韓国にとられちゃう。こんなイイ男だもの、好きになっちゃう。とらないでーっ(泣)。★★★★☆


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