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「ゆ」


2014年鑑賞作品

夕日と拳銃
1956年 123分 日本 カラー
監督:佐伯清 脚本:沢村勉
撮影:藤井静 音楽:古関裕而
出演:東千代之介 山手弘 加藤嘉 村瀬幸子 日野明子 宇佐美淳也 三條美紀 小沢栄太郎 高倉健 坂本武 春日とも子 藤田淑子 浦里はるみ 花澤徳衛 須藤健 佐々木孝丸 進藤英太郎 南原伸二 岡田敏子 今井俊一 朝比奈浩 滝沢アキ和 高宮淳 古殿紀子 深見恵子 高木二朗 神田隆 南川直 滝島孝二 波島進 千田是也 香叡子 沢彰謙 山本麟一 大東良 岩上瑛 牧野狂介 片山滉 佐原広二


2014/5/16/金  京橋国立近代美術館フィルムセンター
うわっ、これって結構な歴史モノじゃないのお。一番苦手なタイプだった、ヤバい(汗)。
日本の初期カラー映画という企画、東千代之介の現代劇初出演作、時に和服に拳銃、そしてタイトルがカッコイイし、なんとはなしにふらふらと観に行ってしまったが、ヤバいヤバい、歴史バカな私は混乱をきたし、そして途中、結構重要なところ(多分(汗))でかーっと寝てしまった。ヤバい!!

しかも東千代之介の現代劇初出演作とか言いつつ私、彼の出演作自体を見たことあったかしらというていたらく。かなり近年まで、ご存命中長く活躍していたお方だし、お名前に覚えはあるような気はするのだが、なんたって俳優の顔と名前が一致しない(そんなんで映画ファンやるな!)ヤツなもんでよく覚えてない。
ひょっとして初見で(てことはないけど。現代ドラマとかバラエティー番組とかでは見てる筈だし……あくまで当時の映画作品で、ってことで)いきなり現代劇の東千代之介を見てしまったんだったらどーしよー!

どーしよーもこーしよーもないが、とにかく壮大すぎてめまいがするような話。123分という長尺で予測がつきそうなもんだったのに(涙)。
しかしまず、キャストクレジットにちょっと食いつく。高倉健(新人)。おおおー!!(新人)とゆーことは、デビュー年の作品ということだよね!感動!!
ほんのチョイ役で、特に特徴もない、ヒロインの弟のツメエリ学生。台詞も極端に少ないあたりは決して芝居が上手いタイプじゃない(爆。ゴメン!)健さんならではで、幼くちょっとふてくされた感じはなんか新鮮だなー!!

と、壮大すぎてめまいがしているので、そんな寄り道から始めてみる……。
ところで、えっと、この人はマジに実在の人なの。きっとそうなんだろうなあ……あそこまで実際の土地や実在の人物の名前が出てくるんだから、きっとそうなんだろうな。
だって“まだ二十歳そこそこの青年の金日成”が出てきた時には、さすがの私も目が覚めたよ!ウッソー!!と思って!!……というのはもうずっとずっと後の展開で。

ところで見てもないくせにこんなことを言うのはアレなんだけど、現代劇初出演作というイメージを最初に入れてしまって見ているせいか、整い過ぎた眉とか、つるんとしたお肌とか、何よりその端正すぎるお顔で、どうにもこうにも次の瞬間にはしゃなりと踊り出すか、美しい姿勢で刀を構えるかしそうな気がしてならない。
そうそう、チャンバラスターだというのは知っていても、最初にしゃなりと踊り出しそうと思ったイメージは当たっていたのね。日本舞踊の大家だったんだ。やっぱりなんか、お顔のみならずお身体から出てくるしなやかさが違うもの!

だからなのか、物語の最後まで……本作の中で彼演じる伊達麟之介は満州に渡り、地元民の独立運動に参加したり、満州国の未来に尽力する大人物となる訳なんだけど、着ている洋服が違うぐらいで、あんまり印象が変わらない。なんか最後まで美しくつるんとしたままのような(爆)。
うーん、そう感じてしまうのは、彼の後見役として満州に渡った、髭面がいかにも豪傑、それでいていかにも人の好さそうな逸見が見た目も、それ以外のにじみ出る印象もどんどん精悍に、そして渋く、深く変わっていくから、なんか東氏がちょっと見劣りしちゃう……。
この逸見を演じる宇佐美淳也、ってお名前からして私、初めてのような気がする!初めてじゃなかったらゴメン(爆)。でもとにかくとにかく、本作はこの、逸見が裏の主人公と言ったっていいような気がする!!

でもまあ、東氏が演じる伊達麟之介は、原作は檀一雄の小説で、きっと、実在の人物なんだろうと思われる。先述もしたけど、あれだけ実際のシチュエイションが出てくるんだもん。
冒頭は、いきなり満州の放浪から帰ってくるドラ息子として描かれる。姉の婚礼に満州ファッションに馬で乗りつけて、老両親からきつく叱られる。しかしきょうだい友人等は驚き呆れながらも、彼をあたたかく迎え入れている雰囲気。
かなーり説明的に、老母から彼の出自が明らかになる。
「あの母親はうちの家風に合わないから離縁したんです。それでもあなたが、母親から引き離すのは不憫だと言うから学習院に入るまでは預けてしまって、だからあんな浮浪児、無頼漢に育ったのですよ」

う、う、うわー、全ての言葉が、こんな世界がホントにあるのと思ってザワザワと寒気がする。そらまー、こんな境遇に生まれたら、満州にでも行きたくなるかもしれない(爆)。
麟之介の後見とされた逸見は、「あの人が勝手に言ったことです」とこのセレブ老母が言うところの、まあつまりは麟之介の母親の郷土の、いわば山出しの男。
最初はただの髭面のはかま姿の男って感じだったのだが、とにかく男気まっすぐで、彼が一番、この世界の中で男になっていくのよ!!

だってさー、麟之介ってば、あまりにもあっさり、殺人事件を犯すんだもん。後半はともかく、前半のおぼっちゃま麟之介のあっさりさ加減にはかなり口アングリだよ!!
そもそもピストルの名手としてキャラづけされている彼、いくらそうした法律がない時代だとしたって、めくらめっぽう、自由自在にピストルばんばん撃ちすぎだろ!町のヤクザに目をつけられて、ドスを突きつけられたからといって、相手を射殺するか、フツー……。

最初は膝に撃ち込んだから威嚇で済ますのかと思ったら、ホントにドンピシャに心臓にバスン!だもん。あ、あ、アホかー!!
僕は打ち首になるから、その前にライスカレーを食べたい、とやたら陽気に言い、しかもおかわりまでする。それが豪快には見えずにただのアホに見えるのは困っちゃうんだよなあー。

そんな彼のそばにはもう、愛しき人がいる。どうも関係がピンと来ないんだけど、縁戚関係なのか、単なる知人なのか、とにかく麟之介が最初おばさま、と呼んでいる三歳年上の美女、山岡綾子。
彼女から姉様か綾子様と呼びなさい、と叱られ、外国で買ったこの素敵なピストルをあげるから、私に接吻しなさいとか、やたら積極的。
「あら、西洋の紳士は感謝のしるしに女性の手に接吻するものなのよ」そ、そうか、ビックリした……。しかし当時の日本ならこの描写だけでも相当に刺激的な筈。今見てもドキドキするし、この時に二人の距離は当然、縮まったに違いないんである。
だから次の場面ではもういきなり、「姉様、僕と結婚してくれませんか」は、早っ!しかもいきなり!!しかしこのいきなりさ加減が胸ときめく!!

でも結局最後まで、二人は結婚することはない。この後は麟之介は信じられないほどの壮大な人生を送るし、それに対して綾子は基本、反対し続けるし……。
ヤクザの親分を殺しちゃった後、新聞記事の“無罪放免”の小さな記事だけでそれを示し、お祝いパーティーをあっけらかんと開くある種の無神経さにはかなりアゼン!
鶏の丸焼きだの、今見てもゴーカなご馳走が並び、ドレス姿の綾子さん、「シャンパンを持って来て頂戴」と、きちんと満タンの氷に沈んだ高そうなシャンパン登場!アゼン!!……なるほど、華族様な訳だ……少しでも一般的生活を知っている麟之介が息苦しくなるのも当然か……。
綾子に対する気持ちは変わらなくても、やっぱり彼女もまた、お嬢様なんだもんなあ……。離婚歴があったり、ヨーロッパ歴訪したりしていても、いやだからこその、お嬢様なんだもん。だって彼を探している間にも、麟之介様、私ヨーロッパに行ってきます、だものね!

だって綾子以外の、麟之介が出会う女たちが、生命力にあふれていてみんな魅力的過ぎるんだもんなあ。
まず、強烈なのが最初にドーンと。彼が殺したヤクザの親分の妹、おこう。いかにも崩れた生活をしている、おミズの匂いたっぷりの彼女は、出所後、自分を撃ち殺してくれと訪ねてきた麟之介を当然撃てず、まあお定まりに、ホレちゃう。
一晩飲み明かそうよ、と言ってあのゴーカなパーティーを袖にした麟之介と彼女の間の“一晩”に何があったのか、こーゆー時代だからそらまー明らかにはされない。
でも綾子がプレゼントした“ポーランドで買った”服を手に持ったおこうの姿を綾子が見ただけで、そうと思って嫉妬するのはまあ当然だよね。

結婚して一緒に満州に行く筈だったのに、これでヘソまげて東京駅から帰ってきちゃった綾子、ヘソまげた描写で激しくグランドピアノを弾いている、しかも華麗に、とゆー、これまた予想外な描写にまたまたアゼンとする。お、お、お嬢やなー!!
もうこの時点で、この先どんな展開が待っているのか知らんが、確かに彼女が奥さんという立ち位置になるのは難しいかも……と思っちゃう。嫉妬してグランドピアノ見事に弾かれた日にゃ(爆)。

さて、麟之介が満州に渡ったあたりからかなりな睡魔が(爆)。彼がこの地に礎を築くこととなる“馬賊パプチャップの独立運動に加わる。”(まんまコピペ(汗))あたりの記憶がない訳(爆爆)。
結局それは失敗に終わったらしく(らしく、て(汗))、みなしごになってしまった幼い女の子、チチクを引き取ることになる、のは結局は逸見であった。
というのも麟之助は綾子からの使いで現れた馬賊の男に、オレは半分日本人、だからワレラは兄弟、一緒にデカいことやろう。綾子はここに連れてくるから、とかアヤしさ満点のこと言われてこともあろうに信じちゃって(アホー!!)、ここにとどまってる間に綾子は渡欧。そんな綾子の行動もお嬢すぎて解せないのだが……。

なんといってもこのシークエンスではこの男の妹、アロンが強烈。いくら顔を黒く汚して男装していて、弟だと言われたって、一目で女の子だって判るだろ。窓からこっそり麟之介の様子をうかがっている彼女が、恋する乙女というより警戒心の強い野生動物のようで、コワすぎる(爆)。
次のシーンでいきなり顔の汚れも落とし、女のカッコで現れ、「やあ、女だったのか。どうりでヘンだと思った」麟之助、お前ニブすぎるだろー!!しかもいきなり遥かなる草原だし!馬乗ってるし!!

嫉妬の鬼と化したアロンはいきなりナイフとか出すし、不用意に火事とか起こすし、そこに「あ、そうだ手紙忘れた」と風情ないにもほどがあるあっさりさ加減で今生の別れから引き返す麟之介にもアゼンとするし!
……登場する女たちはそれぞれに個性的なのに、彼があまりにあっさりつるりとしすぎるんだよう。

んでもって、次に現れる女はというと、再会するおこう。麟之介を追って満州にやってきたんだけど、そこで先に再会していた逸見と、彼が連れて来ていた幼いチチクと共に家庭を築き、今身籠ったところなんである。
ずっとずっと、麟之介を恋い慕っていた彼女は、でも長年、恐らく10年ぐらいは経っていて、そこで麟之介に再会して、お腹に逸見との子供がいるのにやはりちょっと、動揺してしまうんである。

その前に、お腹に宿す前に、麟之介が生きていることを知った時点で動揺し、チチクに「誰かを思い続けたら、他に揺れてはいけないよ」と諭すシーンなんぞがあって、それを思うと逸見がなんとも切ないのだが、でもこれはしょうがないよね。
だっておこうだってさ、逸見との間の子供が出来て、とても喜んでいた。逸見のことは、麟之介に対する恋心とは違った、これはやっぱり愛だったと思う。思いたいもの。

逸見は言ったのだ。戦場と化している満州だけれど、ここを平和な地にしたいと思う気持ちは同じ筈。ならば真心を通して、時間がかかってもいいから人々を説得して、ここを桃源郷にしたい。もう自分は武器は使わない。
そして、覚悟の上で、兵士たちと共に居を構えた、そんな大きな器の逸見を、おこうが愛していなかった訳はないんだもの!!
本当にね、本作のウラの主人公は逸見だったと思うよ。彼が生き延びてくれて本当に良かったと思う。麟之介が更に危険な地に赴くのを金日成が見送るラストシーンよりも、逸見が留まる事の方が、未来を感じるもん!!

おっと、金日成であった。でもその重要なシークエンスの前にやはり言わせて。
逸見の理想をスパイに入っていた馬賊が耳にして、それを親方に伝える。それがあったから、敵方が逸見の守っていた桃源郷を壊滅させ、身籠ってたおこうまでも死んでしまった(でも彼女は、敵方の前で、自らのこめかみに銃弾を撃ち込んだの!!)のだけれど、「日本人はキライだけど、あなたは好きになった」というこの馬賊に助けられるのだ。
……この台詞、現代でもちょくちょく耳にすることがあって、それは希望がある反面、この台詞が続く限りは、真の理解と交流はなしえないのかもしれない、と思う。

でもやっぱり逸見、なんだよね。この凄惨なる現場に送り届けてくれた馬賊の男は、血眼になって愛する妻と娘を探し回る逸見に、心配げについて回るんだもの。なんかそれだけで、胸が詰まってしまった。
その前のシークエンスで、麟之介が既に、皆殺しになった惨状を見ていて、もうその場面はまさに惨状で、見るに耐えなくて。
でもこの、それがすべてキレイに片づけられた様でも、逸見にとっては、耐えがたいものだったんだ……。

逸見を信じてくれた、慕ってくれた馬賊の親方が、日本軍にとらえらえる。暴れている馬賊を殺せば治安が良くなるとか、バカ丸出しの考え、とゆーか、つまりお手柄主義の当時の日本軍である。その親方のみならず、奥さんと子供まで容赦なくぶっ殺す。
親方の殺害シーンは本当に赤裸々に描写していて、こういうあたり、この当時ではもう、戦争というもの、当地での日本軍の鬼畜ぶり、きちんと検証していたと思う。

まあそれを責めるのが同じ日本人で、当地で信頼されているという立場、というのが甘いのだろうけれど、でも想像していたよりも早く、自省の感覚があったのだということにちょっとほっとしたりもする。
それはつい最近見た、あからさまにB級戦争アクションでも感じていたことで、でもそれを当地に判ってもらえなければまあ、意味がないんだけれどね……。

でもでも、このシーン、背筋を伸ばし、目を見開き、誇りをもって鬼畜日本軍に撃ち殺された親方さん、そして無残に殺された奥さんと幼い娘、その母と娘を静かに抱き上げて門を出てくる麟之介と逸見、胸がつまったなあ……。
でも日本軍の下っ端たちを腹いせ気味に投げ飛ばす、単なるアクションケンカシーンは、むーん、アクション娯楽だから仕方ないのかなあ、とちょっと残念な感じはしたけどさっ。

そして、そうそうそうそう、金日成よ。思いっきり目が覚めた名前よ。
逸見がね、言う訳。この満州を巡って対立しているけれど、この金日成という男は二十歳そこそこの若い青年なのに大した度胸の持ち主で、理想も我々と似ていると。
なのになぜ闘わなければならないのだろう。膝を突き合わせて話が出来れば、きっといい方向に向かうに違いない、と。

本当にビックリしたんだよね。この当時の日本の、韓国、朝鮮に対する情報事情が分からないからさあ。
本当に、ほんの最近、文化交流が正常化になってどわーっと入ってきたけど、そういう、国際政治軍事歴史的な部分って、特に私のよーな、先述しまくったからお分かりかと思いまするが(爆)、ホント無知で。
で、今は、ことそっち方面だととにかく緊張状態、嫌悪状態維持しまくり、じゃない。金日成に対して、こんな理想的な男、的な描写がなされるなんて、本当にビックリだった。
それこそ当時はホントにそうだったのかもしれないし、実際、金正日はアレだけど、金日成は偉大だ、みたいな感覚はあるかなあ。あれ、でも拉致やったのは金日成の方だっけ……??

という具合に、色々色々、カルチャーショック含めて衝撃の多い作品だったんであった。
とりあえず、そんな気軽にピストルぶっぱなしちゃダメだと思う。いくら映画だって(爆)。まさかのウィリアムテル状態。まーさーかーのー。
幼い頃にみかんでごっこ遊びをした「あの時は可愛かったな、おかっぱで」という娘がこれまた麟之介に恋する女の子で登場。一体何人の女に思いを寄せられてんの(爆)。
演じる春日とも子、可愛かったなあ!めっちゃ活動期間短い!!全然データ出てこない!香椎由宇似のかわいこちゃんなのに!!★★★★☆


夢は牛のお医者さん
2014年 86分 日本 カラー
監督:時田美昭 脚本:
撮影:音楽:
出演:丸山知美

2014/4/27/日 劇場(ポレポレ東中野/モーニング)
本作の素材が、半ば伝説化したようなローカルニュースだということを本当に知らなくて、まったくプレーンな状態で観たもんだから、もうズキューンドキューンドカーンと感動してしまって、ただただ涙があふれるばかりだった。
感動という言葉は、本当はあまり安易には使いたくない。世の中には感動と名のつくものがあふれまくっているから、それ自体にリアルな意味合いを持つことが難しくなっているから。
でも、本当に本当に、感動したと、素直にまっすぐに言いたい気持ちだった。胸がいっぱいになるという感覚って、本当にそうなんだと。

正直言って、AKBのコがナレーション務めるっていうのはちょっと不満足で、なんかいかにも客寄せパンダだなあ、と思いもしたものだったのね。実際、彼女がトークに出た日の整理券だけ当然ながらあっという間に売り切れていたしさ。
でも、こういうローカルニュースを素材に商業映画を作り上げるというリスク、黒字を出さなければ意味がないという切々たる事実を知り、そんな当たり前のことにすら思いが及ばなかった自分を恥じた。AKBのコだってそんなことは百も承知で、この素晴らしい作品に関わっているに違いないのだ。

普段は自分の気に入らない映画を、ジコマンだとかなんだとかクサしまくっているくせに、そういう意識はいかにも映画ファンの甘さなのであった。
でもその商業映画としての収支を考えて作られた中に、一体どれほどの良作があるのか。本作が、いかに伝説化したローカルニュースだとしても、それは断片的な映像資料に過ぎなくなってしまうのだ。映画にすれば、映画にすれば、なのだ!!

きっと、そのローカルニュースの時点で感銘を受けた人も、数多く足を運んでいるんだろうなあと思わせる。全く知らなかった自分がウソみたいに思えるほど、これは奇跡の素材なのだった。
そもそもの始まり、過疎の集落、新入生のいない年に牛の新入生、育てる子供たちの素朴さ純粋さ、出荷を卒業とみなし、涙涙の別れ……。
ここらあたりまでは、いかにもテレビ局が目をつけそうな素材である。実際、ここらあたりまでは、既に泣きまくりながらも(爆)、ありそうありそう、と自分を自制しながら見ていた。

雪深い集落とか、その中に暮らす純粋な子供達とか、いかにもテレビ的、その中に暮らしているから純粋だという決めつけが単純すぎるとか、そうやって自制しながら。
でもその時点でボロ泣きだったんだけど。だってだってだって、真っ赤なほっぺの子供たちが牛たちとの思い出をつづった歌を歌いながら泣きじゃくるのを見て、泣かない人間は鬼か悪魔だっ。

でもね、ほら、ここ数年、こういう話はなくもないじゃない。ペットとしてじゃなくて、動物を飼育すること。自分たちが食べている肉が命あるものだと知ること。実際、映画化されたものもあったしさ。
つい先日観た農業高校の青春ドラマ も、そういう描写を積極的に取り入れ、当然私は号泣の嵐だったんであった(何が自制だ)。

でも本作は、まさにそれが本物の映像で、牛たちと運動会だのなんだので楽しく暮らした子供たちの引き裂かれる思いは想像を絶し、本当にこんなことをしていいものやらと、子供たちの柔らかな心のトラウマになるんじゃないかと勝手な心配をし、……でも大人だったらきっとそう思う。子供たちと共に牛の出荷を見送る大人たちも、一様に涙しているんだもの。
それは、その涙は、子供たちを思っての涙だろうなあ、きっと。だからやっぱり、ここで直面しているのは子供たちなのだ。しかも驚くべきことに、この牛の話一発ではないのだ。
後に「知美さんには豚にも懐かしい思い出があります」まさかと思ったら、今度は豚でも同様の体験をさせてる。何ということ!なんという、厳格、冷徹な情操教育なの!!

そうか、そう考えると、私の子供時代はなんとまあ、生ぬるかったことだよなあ……。知美さんという本作の主人公の存在は奇跡のように思えたけれど、やっぱりもう、基本の叩き込まれ方が違ったのかもしれない。
本当に、奇跡のような主人公。後に解説なんぞをちょい読みしてみると、やはり最初から彼女を追っていた訳でもないし、獣医になりたいという夢を本気にしていた訳でもなかった。
後にそれをテレビマンとして恥ずかしいことだ、などと悔いている文章を残しているけれど、そりゃ無理ないよ。子供時代の夢をそのまま叶えた率なんてコンマ以下でしょ。子供時代の夢を覚えてないぐらいのモンでしょ。大体、私なんて子供時代の記憶自体があいまいだもん(爆。それは問題だ……)。
だから本当に衝撃だったのだ。知美さんが、本当に夢を叶えていくことが。言ってしまえばそれだけの展開なのに、震えるほどに感動してしまったのだ。

AKBのお嬢さんは「やっぱり夢は思い続ければ叶うんだ」などと、この場合、最も言っちゃいけない言葉をあっさり口にしてかなりガクリとしたが……。
だって知美さんは思い続けていただけじゃないじゃない。信じられないほどの強い意志で努力を貫いたじゃない。
いや、それが“思い続けること”だと言われればミもフタもない。しかし信じられないほどの意志と努力を持っていたって、夢がかなわない人だってきっといる訳で、こんな台詞をアッサリと言ってしまってはやっぱりダメだと思う。

じゃあ知美さんが夢を叶えていくことに、震えるほど感動するのはなぜなのかと言われると上手く言えない自分がホント、ヤだけど(爆)。
でも知美さんの夢は、AKBのお嬢さんが言う、夢という漠然としたイメージじゃないんだよね。例えばそれこそアイドルになりたいとか、女優さんになりたいとか、そういう成功願望のような夢のイメージがある、このお嬢さんが言うのは。

んでもって、それはやっぱり、思い続けていれば叶うなんてもんじゃないじゃない。そういうおおまかなことと一緒にしないでほしいという思いがある。
そんなこと言うと差別的かなあ。でも知美さんが、牛たちを送り出して泣きじゃくった時から、しかと胸に抱き続けてきた「牛のお医者さん」の夢を、まず両親に打ち明けるところから始まり、幼くして反対され、しかし頑張って進学校に進み、気の遠くなるような倍率の国立大学を突破し……という過程はやはりやはり、“思い続けていれば叶う”なんてゆるいもんじゃないんだもの!思い続けていれば叶うのは、運のいい人だけだよ!!

えーと、なんかこの感動を上手く伝えられないのがもどかしい。こんなこと言うとアレなんだけど、10数倍の倍率の国立大学、そこしか目指さない。落ちたら諦める、家に迷惑をかけてまで獣医を目指せない、という、それこそ言ってしまえば単純な泣き所で号泣してしまう私(爆)。
だって、だってさ、私みたいなヘタレにとって、国立なんて途方もない夢の果てだったんだもの。親に甘えて甘えていくつも私大受けさせてもらって、やっとよ。恥ずかしい、私(爆)。

牛のお医者さんになるんだという固い決意の元、県内一の進学校に進み、親元を離れた三年間は「テレビを見ないと決めた」しっ、信じられない!!
……と思うほど世の中はテレビなんぞというものに毒されているんだろうが、でも高校の三年間だよ??一番多感で、娯楽に敏感な年頃じゃない。ああ、なんと……。

正直ね、こんな雪深い寒村で、低学年、高学年のふたクラスにしか分かれていないような小学校、父親が心配するように、「うちの娘に獣医になるだけの高い学力があるのか」と思っちゃう。
それこそ偏見もはなはだしいんだけれど、それこそそれこそ、牛や豚が経済動物であるということを教える教育方針のこの村、それは実際、畜産に携わっている家庭が多いからであり。そうなるとやはり、獣医学科の中では最もレベルが高いという国立大学、岩手大に彼女が受かるなんて展開、奇跡にしか思えないじゃないの。

正直さ、私は凡百人間だからさ、国立とかハイレベル私大に受かる人たちを、どこかヒネた目で見る訳よ。えーっ、あんないいとこ出て、芸人になるのとか、余計なお世話なことを(爆爆)。
でも実際、そう思っている下地があるから……結局いいとこ出た人たちも、それが世の中につながる結果にはならないんだとか、自分が世の中に貢献してないくせに(爆爆)ついつい思っちゃってた訳。でも知美さんは……。

実際、先述したけど、単なる子供の夢だと思って、舞台となっていた小学校が廃校になってからはノータッチだった制作サイド、本当に夢を目指して進学校に進み、下宿生活をしていると聞いて仰天するんである。
と、いうのは後にオフィシャルサイトを覗いて判ったことで、なあるほど、中学時代の彼女の映像がない訳で。
小学校の卒業式にね、次に入学する中学のセーラー制服姿で臨んでいる。懐かしいなあ、確かに私らの頃も、セーラー服の下に白のカッターシャツって、やったようなあ。
テレビマンたちが一時離れる最後の映像であろう、近眼が進んだか眼鏡をかけて、ほっぺたあたりがぱっつんぱっつん、オンザ眉毛の知美さんは、多分一番イケてない時期で(爆)。

小学校時代はね、スラリと手足がのびて、短パンから太ももをむき出しにして牛の散歩をする姿がなんともまぶしかったんだよね。でも卒業式の彼女は、メガネがあの当時のデカフレームで、やぼったくて、いかにもブサイク。
でもこれが、どんどんきれいになっていくの!時間を経て登場するたび、一皮二皮向けていくのが見える。
まあ、現代に近づいてきたからともいえるし、後に結婚したお相手が高校の同級生だったというから、自らを磨いたかな??この時期って、女の子が太りやすい時期なんだよね。あー、なんか、判る判る判る。

で、そうそう、牛の散歩。学校の牛たちを送り出した知美さんは、誕生日プレゼントに子牛をリクエスト。
世の子供たちの多くがそうであるように、生きものを飼いたがっても結局は世話を親に任せっきりになるってことが常道なのに、知美さんは妹二人と毎朝5時に起きてエサや糞そうじ、そして子牛を連れての散歩は村の風物詩になったという。
この頃の知美さんは枝っきれのように手足が長くて、長いウェーブがかった髪を無造作にまとめて、本当に無垢な、何も知らない少女。でもその中には私たち子供時代には考えられないまっすぐな意志がぴんと渡っている。

牛を飼いたいということ、そして後に大学に入った後に実験動物の犬をいつも散歩させていたのが知美さんだったということ、彼女の中にはペットとして哀願する動物という意識ではなく、彼らが自分たち人間のために、言ってしまえば人間の勝手で死にゆく運命だということが明確にある。
あの時、子供たちの手で育てた牛や豚を送り出す時泣きじゃくっていたその中にも、もうそれはきちんと芽生えていて、それが本当に途方もないんであった。

後に大学生となった彼女が帰省し、両親と久しぶりの会話を交わす。実験動物になった犬にも感謝して、一人前になったらどんな動物の病気も治さなきゃね、と言う母親に、いやいやいや!と彼女と父親が同時に否定をするんである。
全てを治せはしない。そして、死にゆく動物たちに涙を流す感覚は大事だけれど、毎回それではやっていけない。ビジネスなのだから。それは慣れて行ってしまうものだけど、だからといって全くそういう感覚をなくしてはいけない。そのバランスだよね、とこの父と娘は共感を交わすんである。

これなんだなあ、この感覚が、全然違うのだよなあ。お母さんだってお父さんと共にずっと畜産をやってきたのだから勿論プロなんだけれど、お父さんの全きプロ感覚と、今、別の方向から来た娘のプロ感覚が一致して、なんだかここは、なごやかな食卓のシーンなのに、一つのキーポイントになる気がした。
後に一人前の獣医となり、故郷に職を得て帰ってきた知美さんが、「治療費が売る値段を上回ってはいけない。そこはビジネスだから。ここで治療をあきらめて、肉として売るように提案する時が一番辛い」と語る場面も、あの食卓の会話シーンからつながっているように思った。

その辛さは、勿論獣医として、牛を愛する自分として見放してしまう辛さもあるだろうし、その牛を最大限に生かしてやれなかった……それは命の長さも、命の価値も……という辛さもあるんだろうと思う。
それはここまで見てきての、あくまで素人の憶測でしかない。屠畜を見ただけで肉を食べるのが辛くなるようなヘタレなんだもん(爆爆)。

そう、獣医の国家試験も無事突破する知美さん。大学合格の時もボロボロに泣かされたけど、この時も涙と思いが後から後からこみ上げてヤバかった。
言ってしまえばさ、大学合格も国家試験合格も、そういう経験を経てきている人は沢山いる訳だし、彼女一人にそんなに感動の嵐になるのはおかしいのかもしれない。
でもさ、本当にこんな人、奇跡だと思ったんだもの……小学生の時に抱いた夢を中学生になって明確にさせて親に通達、高校三年間をその夢のためにがむしゃらに勉強して難関突破、そして医師国家試験も突破、だなんて!!もうほんとうに、ぼろぼろぼろぼろ泣いてしまうんだもの。

あのね……その夢の原点、今は廃校になってしまった小さな小学校の子供たちが育てた牛たち、お腹を壊すことが多かったというその牛たちを治してあげたいというところから出発していた。
この頃は知美さんだけに特化することなく、先述したように心温まるローカルニュースとしての発信だったから、子供たちと牛たちの様子を大枠でとらえている。

でもその中でもやっぱりやっぱり、知美さんが、子牛をかき抱く……幼くあどけない顔をしていても子牛はやっぱり知美さんよりずっとずっと大きくて、その子牛をかき抱くその一瞬が、これはその一瞬を元にしたイラストがポスターにもなっているけれど、本当に素敵な一瞬で心つかまれるのだ。
そして牛とお昼寝をするショット。この時にはやっぱりまだ、彼女の中にはペット的な感覚はあっただろうと思う。でも泣きじゃくりながら送り出して、そのシーンでも充分号泣に次ぐ号泣だったけど、後半、ついでエピソードみたいにさらりと挟まれてくる後日談にヤラれた。

獣医となった知美さんが、古い知り合いの牛舎を訪ねる。それは彼女たちが育てた三頭の牛をまとめて買ってくれたおじさんである。
「正直高かったけど、(仲良しの三頭だから)一緒に買ってください、って約束しちゃったからね」と笑顔を見せるおじさん。
そう、ストレスなく育ったこの牛たちは評価が高く、一番人気だったんである!!今の知美さんだったら、一緒に育ったから一緒に買ってほしいなんていう子供っぽいことは言わないに違いない。それはやはり、あの頃の子供たちの、判っていたけれどせめてもの、という気持ちが言わせた言葉だっただろうと思う。でもそこが、あのキーポイントのバランス、という価値につながっていくんだろうと思う。

競り場にまで子供たちを見学に行かせていたという後に示される場面に、なんという志の高さ!とあぜんとし、泣きながら別れを惜しんだ牛たちに高い値がつけられて一緒に買われて、最高の笑顔を見せる知美さんたち子供たちに、こんな高レベルの教育はないなと本当に思った。
学力では測れない部分だけれど、そうした部分で鍛えられているから、知美さんのように学力を上げる力も鍛えられるんだと思うもの。

冒頭、いかにもなタイムカプセル発掘から始まり、AKB嬢といい、正直若干引き気味の感あれど、知美さんがどんどん磨き上げられ、綺麗になっていき、カッコ良くなっていき、最後の現在時点では、二児の母となって、素早く的確な診断をするベテラン獣医師として絶大な信頼を得ているところが示されるにあたって、改めてこの奇跡に涙がこぼれるんである。
彼女に言わせたら、ただただ夢に向かって突き進んだのだと言うのかもしれない。実際、そうかもしれない。でもそれが、これほどまでに奇跡で、これほどまでに胸を打つなんて、どうしようもこうしようも説明がつかないんだもの!!

彼女のそばにはいつでも家族がいて、下の妹たちもそれぞれに畜産研究を学ぶ道、看護師を学ぶ道に進んだ。命のために働く仕事に、家族全員がついている。
すぐ下の妹は、豚を送り出す時に牛の時の知美さんのようにボロボロ泣きじゃくっていた子、だよね?豚の時は知美さんも泣いていたけれど、少しだけお姉ちゃんらしく、控えめになっていたように思う。
自分たちはこの命によって生かされているのだと、そう言ってしまえばホント陳腐なんだけど、でも彼女たちはそれを身をもって学んだし、だからこそ強く、だからこそ美しいんだよね。

お父さんがカッコイイんだよね。彼女たちが子供時代から端正な顔立ちでカッコ良かったが、年を経ると渋みも加わりますますカッコいい。
仕事柄の筋肉がしまった身体、いい感じの訛り。大体一般的日本の家族ならば、娘となると近しく言葉を添えるのは母親の方が多いけれど、父親、なんだよね。
大学受験に付き添うのも父親。お母さんはこういう可愛いお母さん、ちょっと私の母親に似ているかもしれない、ちょっとだけ頼りなくて、オロオロ系なお母さん。獣医となった娘を頼りにし、牛の出産に家族全員で待機するシーンでは、心配そうながらもどっしり構えているベテラン獣医師の娘をすっかり頼りにしている。

そしておばあちゃんがイイ!可愛い孫をいつも大事に見守ってて、「獣医になったらお祝いをあげるために年金をためている」何かなと思ったら、そのおばあちゃんが亡くなった今も、知美さんが大事に乗り続けているライトバン。
あーもう、何から何まで泣ける。なんかさあ、なんかさあ、こういう、テレビが入って家族を追うドキュメンタリーで、まあ昨今、判りやすくすれまくりの事例があったじゃない。そりゃ、取材されて全国に流れちゃうんだもん、無理ないよなと思っても、あれはヒドかったじゃない。
そんなことを思うにつけても、本当に彼らは自分を見失わず、まっすぐであり続けた。奇跡だよ、ホントに!! ★★★★★


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