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「つ」


2015年鑑賞作品

罪の余白
2015年 120分 日本 カラー
監督:大塚祐吉 脚本:大塚祐吉
撮影:アイバン・コバック 音楽:鈴木ヤスヨシ
出演:内野聖陽 吉本実憂 谷村美月 葵わかな 宇野愛海 吉田美佳子 堀部圭亮 利重剛 加藤雅也


2015/10/22/木 劇場(渋谷HUMAXシネマ)
悪魔的な女子高生、といううたい文句だけで充分にそそられたが、「スープ 生まれ変わりの物語」の監督さんだということがその足をなんとなく鈍らせてしまい、後回しにしているうちに上映回数もすっかり少なくなって、慌てて駆け込んだという次第。
結果的には、観てよかった。充分に期待に応える悪魔的ヒロインを堪能できたし、つまりそれは、新たなる美少女女優、若き才能の発見でもあった訳だし。
観ている間は彼女の魅力に引きずられる形で監督さんの前作のことは忘れていたのだが、後から思い返すと重箱の隅をつつくように、やっぱりなんとなく気になる部分は出てくる。こーゆー見方は良くないんだろうと思うのだが……。

物語は、こう。冒頭、一人の女子高校生が、教室のベランダの柵の上に乗り、バランスを崩して転落死してしまう。その直前までのほんの数分のやりとりで、彼女たち三人のグループの力関係というか、この死んでしまった女子高校生、加奈がどうやらこの二人にいじめられていることが明確に判る作りになっている。
ハッキリと、そうと指摘される台詞や行動がある訳ではない。表向きは友達通しのたわいのない会話だ。テストの点数が一番悪かった人に罰ゲーム。
やりたくなかったらやらなければいいんだから、と無邪気そうに言う一方で、リーダー格、咲の瞳は氷のように冷たい。いや、瞳、というか、天使のような美しい笑顔の一瞬後に能面顔になるその表情が、南極のように冷たいんである。

加奈がこの場面のみならず、それまでもこの二人、というか咲に追い詰められているのが一発で判る、のは、加奈の表情もまたひどく雄弁であるからである。
やりたくなければやらなければいい、こんな目に遭いたくないのなら付き合わなければいい、のだけれど、加奈の表情は、なぜこんなことになってしまったのかという戸惑いと、そんな複雑な感情のそれまでがあったからこそ、ここから容易には逃れられない怯えが見事に浮き彫りにされている。
本作の女の子三人は、そういう意味では判り易い芝居ながらも、なかなかに達者ぞろい、なんである。

もう一人の女の子が、そういう意味では最も難しい芝居どころ、だったかもしれない。咲の腰ぎんちゃく、とでもいったような位置である真帆。
この冒頭のシーンで、咲と仲良く会話して、しかしその一瞬後には咲に冷たく視線をそらされる、というのは加奈も真帆も一緒なのだけれど、それに対するリアクションの微妙な違いが、この二人の立場はどう違うのだろうと観客に興味をそそらされる面白さになっている。

加奈の父親にとっては、二人にいじめられて追い詰められて娘は死んだ、そのリーダー格が咲、という単純な図式なのだけれど、実際は、スターである咲という華に吸い寄せられた蜂が加奈と真帆であり、立場は同じだった筈なのだ。
咲は真帆を子分につけて、いまいち気に入らない加奈を小突き回す、という、彼女自身にとっては罪のないイタズラをしていた、というところなんだろう。彼女は女王様、誰もがかしずくのが当然なのだから。

ベランダから転落して死んだ娘、事故か自殺か。警察の動きも鈍く、父親である安藤はじれまくる。行動心理学の教授である彼は、娘の心さえつかめていなかったことに深く苦悩、休職し、酒浸りの生活に突入する。
安藤を演じるのは内野聖陽。演技派中の演技派。彼に激突する形になる咲は相当の子でなければと危ぶまれたが、咲役の吉本実憂嬢は、見事な上から演技で、この名優を圧倒する。

咲ははじめ、地味なクラスメイトの名前を騙ってこの父親に接触する。こんなん、すぐバレるやんか……と思い、こういう、甘さのある描写はそこここに見受けられる。
頭のいい女の子、だからこそ恐ろしい、というスタンスがあり、実際あらゆる危機をクールに切り抜けるのに、とっぱじめでそれはねぇだろ、と思う。その他にもいろいろあるツッコミどころのひとつではあるのだが、彼女自身の自信満々の芝居で見事にカバーしてしまう。
誰もが憧れる美人、勉強もよく出来る学園のスター。国民的美少女コンテストグランプリの名に恥じない美しさ。
ちょっとアゴちゃんなのが時々気になるが、彼女自身が、この女王キャラを完璧に自覚して演じているので、まさに完璧、なんである。

それに対比されるのが、全ての女の子たち。勿論死んでしまった加奈、そして咲を独占したいあまり加奈を死に追いやるのに加担してしまった真帆、そして安藤を想う彼の助手の小沢。
小沢を演じるのはもはやベテラン女優の感ありの谷村美月。咲から、「あのダッサイ人」と切って捨てられる、ファッションもメイクもヘアスタイルもことごとに咲からクサされて、果てには「だからあなたには女として子供を産む資格もないんですよ」とまであざ笑われる役どころ。

美月嬢自身を思えば充分に可愛らしいし、確かにマジメな役どころが似合うところはあるけど、ここまで言われる筋合いはないってなもんである。
安藤を想い、安藤の娘の加奈が追い詰められたことを想い、彼女がけなげに頑張る姿にこぶしを作って見ているこっちとしては、本当にこの小生意気な咲をぶっ殺してやりたいと思う。おめーなんか、この狭い世界の中で女王様のつもりかもしれんが、外に出ればフツーの子供なんだと、言ってやりたい。

実際、そんなシークエンスはある。咲の夢は女優になること。そのためにオシャレして意味ありげに交差点に立ってみたりする。スカウトから声をかけられても、自分に見合わないと思うと名刺を放り投げるほどの自意識の高さ。
そして見事、彼女の希望に合致するプロダクションから声をかけられ、面接に行く場面がある。社長は加藤雅也。整った顔から繰り出す弾丸関西弁で、あんたクラスはいくらでもいる。映画だけとかワガママだし、いい作品なら脇役でもとか、志が低い、今までは自分で自分をプロデュースしてきたんだろうけれど、これからはそれはこっちの仕事や、と、彼女をけちょんけちょんにする。
でもそれは、確かに有望そうな素材に対してだからこそ投げかける言葉だろうし、今までただただ女王様だった咲が見せる涙は、それまでの、明らかに芝居だろう!と思わせるそれとはちょっと違っていたような気がする。もっと早く、彼女がこういう人と出会っていたら違っていたのだろうか??

でも判らない。咲の涙はどれが本当なのか。加奈が転落した時だって、咲は真っ先に顔をゆがめ、涙を見せていた。あの時には、さすがの咲もショックを受けたのかと、後になってから思った。その時には、まだ彼女たちの関係性が判ってなかったから、単純に、本当にショックを受けたのかなと思ったものだった。
その後折々に見せる涙は、加奈の父親の安藤が嗅ぎまわる真実を何とか隠ぺいせんとする芝居の涙だというのは明確だけど、それが続いた後だっただけに、このプロダクションの社長の前で見せた涙が、果たしてどっちだったのかと、ちょっと悩んでしまう部分があったのだった。

というのも、咲のキャラクター設定が、後から思えば案外雑だったような気がして……。
彼女は確かに見るからに女王様。キレイで、勉強も出来て。でもとりあえず、キレイ、という部分は見た目でクリアできるとしても、勉強も出来て、学内の憧れの存在である、という部分は、後に、クラスの地味な女子の名を騙った、その女子によって語られるだけ、なんだよね。
作品の中では咲は単に、イジワルな気質で友達を追い詰めて死に至らしめた、という図式にしか過ぎない。それが凄く、もったいないと思う。
このミッションスクールという特殊な場所で、女王的にあがめられる、しかもここ、女子校でしょ??余計に独特の付加価値が付される筈。

実際、咲に憧れるがゆえに加奈の気持ちを思いやることが出来なかった真帆の気持ちを充分にコントロールしていたからこそ、こんな事態になった訳だし、その象徴を、怯える真帆に「真帆は私が守るから」という殺し文句と共に柔らかいキスまでおみまいする、というシーンで充分に表現しているんだし。
だったらだったら!ここはヤハリ、そういう感情を学園中の女子に持たれている、ぐらいの、圧倒的なカリスマ女王感が欲しかったよ!!下級生からほおっ……とため息をつかれるようなさ。

キレイな女の子だけど、クラスメイトの他の女子とのカラミも全然ないし、完全にこの三人組の中だけで話が完結しちゃってた。
名前を騙られた笹川さんという存在はあったけど、彼女はいわば、咲の人格や、三人の関係性を安藤に対してヒントをもたらす、という立ち位置に過ぎず、それは笹川さん的地味系キャラで青春時代を黙々と過ごしてきたこっちとしては、何とも忸怩たる思いが否めないんであった。重要そうなキャラに見えて実際は、ヒントや説明を与える存在でしかないなんて。

谷村美月演じる小沢さんも、ちょっとそういう匂いは感じる。娘を亡くして、しかもその真相が判らなくて、酒浸りになる恋する男に懸命に尽くす。
料理を食べてもらえなくて、それどころかタッパごと捨てられて、料理教室にまで通う。
正直、こういう描写は好きじゃない。女は料理、という時点でダメだし、そもそも彼は父子家庭で娘に毎日弁当を持たせてたんだし。
だからハードルが高いんだ、という明確な対比もなされぬまま、ただ料理を捨てられて、それが女として拒否された姿なのだとゆーのが、納得できない。

そもそもこの父子家庭であるという描写事態にきちんと重きを置いているように思えない。大体、子宮がんをおして赤ちゃんを産んだ、という描写自体が、私は気に入らないのだ。こういうのを感動ファクターにしてほしくないのだ。
それを言ったら設定自体が成立しなくなるけど、こういうのって、良くないと思う。生きてなんぼよ。赤ちゃんを産むために死ぬことないよ。まるでそれを奨励してるみたいじゃんか。そういう作品、結構あるんだもの。子供を産むためなら死んで良し!と言われてるみたいじゃんか。

……おっと、またしてもフェミニズム野郎になってしまった。修正修正。
で、なんだっけ。あぁ、そうそう、真帆のキャラクター描写、だよね。この中では最も難しい役どころだと思う。演じる宇野愛海嬢は、端正な顔なんだけどちょっと首が埋まっている感じが、森三中の黒沢さんみたいだわ、と思って見ていた。年頃的に、ちょっとふくよかになる時期かな??
安藤に呼び出されての最終決着、クライマックスの場面、自分には聞かされていなかった咲の女優の夢を聞かされて、ショックとこの場の恐怖のあまり失禁する真帆。
あぁ、真帆が一番哀れだったかもと思い、それだけに、彼女の描写をもっと丁寧に見たかったかも、と思った。明確に役どころが判る二人と違って、最も興味深いキャラ設定だったから。

ところでこの学校は何階建てなんだろう……。転落して一発で死んじゃうほどの高さ。実際、見た目にも高校の建物とは思えないほどの高層建築。ミッション系というから、中学との合同校舎なんだろうか?
そもそも、ミッション系という独特さもあまり生かされていないのももったいないなと思った。安藤が、突然死んでしまった娘と、そして娘を産んで亡くなった妻が眠る墓にお参りする場面で、あれっと思ったぐらい。外国みたいな平置きの墓。
敬虔なクリスチャンである笹川さんを揶揄する場面が唐突にしか感じられないぐらい、この学校がミッション系であるということが、まるで生かされていない。

だって、安藤の妻の墓の時点でそうなんだから、少なくとも安藤の家系はクリスチャンであり、そこまで設定しているのなら、この学校がミッション系であるということは、それなりの意味を持つんじゃないだろうか。
単に雰囲気だけの問題ではなくて。だって実際、笹川さんに対して、十字架を取り上げたらどうなるだろう、なんてイジワルなことを咲が言うぐらい、一方では敬虔な信者がいるのは当然の、ミッション系なんだからさ!
ミッション系って、凄く魅力的なファクターなのに、しかも女子校となると尚更、しかもしかも、文化祭なんていう、凝縮されたイベントまで用意されているのに。それが全然活かされていないのが、もったいないよ!!

全編、やたらと音楽が垂れ流し的に聞こえ続けているのが、気になる。なんかクラシック系の癒し系の感じなのが、余計に。メリハリがない気がする。
こんな、緊張感ある展開で、役者も緊張感ある芝居をしているのに、と思う。こういうところでせっかくいい仕事をした役者をガッカリさせることはしないでほしいし、観客の意識も弛緩してしまうよ。
観客の注意を喚起する、感情をコントロールするぐらいのことをするのが、作り手だと思うからさ!★★★☆☆


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