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ぼくのおじさん
2016年 110分 日本 カラー
監督:山下敦弘 脚本:須藤泰司
撮影:音楽:きだしゅんすけ
出演:松田龍平 真木よう子 大西利空 寺島しのぶ 宮藤官九郎 キムラ緑子 銀粉蝶 戸田恵梨香 戸次重幸
松田龍平。この人はどんどんオンリーワンになっていくなー。彼が何よりイイのは、“芝居”をしようとしていないこと、なのよね。そんなこと言ったら、しようとしてるよと言うのかもしれないが(爆)、まぁ判りやすく言えば、芝居っぽい芝居をしようとしない、大きな芝居をしようとしない、ということだろうか。
それが判りやすいのは後半がっつりの共演になる戸次重幸氏とのシーンで、シゲちゃんは凄く判りやすく芝居、なのよね。まぁ彼は舞台の人だしね。それに対しての松田龍平のフラットぶりが、ヘタすると芝居がヘタな人みたいな(爆)いやいや(爆爆)。
特に、お互いへべれけに酔っぱらってのシーンは、シゲちゃんムダに上手いのが、あっさり加減の酔っぱらい演技の松田龍平に比して妙に可笑しくてさぁ。
てな、おじさんである。北氏自身がモデルになっているという。そうかそうか、お兄さんがあの斎藤茂太氏であるのか。北氏自身は確かにちょっと変わり者というか焦点がズレた神経質というか(爆)、そういうイメージがあるから、確かにこのおじさん、だったのだろうなと思わせる。
判りやすい芝居、といえば、実はシゲちゃんだけじゃなく、おじさんが居候するこの家庭、モタ氏であるところのクドカン、ザ・お母さん、ザ・奥さんである寺島しのぶ、ちょっと生意気な妹、おじさんを心配している優しきお兄ちゃん、皆が皆、芝居!!!なのよね。まさしく、ザ・芝居!って感じ。
寺島しのぶのこんな口うるさくて、プンスカしてるお母さんの演技なんて、なかなか見られないんじゃないかと思う。あの、ザ・お母さんなエプロン!!(妙に嬉しくなってしまう)。
だからこその、松田龍平の際立ち方である。そうそう、脚本家の名前が、伯父さんに比しての甥、語り部、いわばタイトルロールの影にいて、もう一人の主人公とも言うべきお兄ちゃんの役名と同じだからあれっと思ったら、「探偵はBARにいる」のプロデューサーであり脚本家の方のペンネームなのだという!
そのペンネームの付け方に並々ならぬ本作への愛を感じ、松田龍平がもう少し年を取るのを待って、本作の製作にこぎつけたというのが、なんかその思いに、な、泣けちゃう。
おじさんは、グータラな居候。カッコもまるでおじいちゃんみたいなくすんだグレー系や茶系の、いまや化石となったかと思われるベストなんぞ着たりして、お兄さん家族の元で居候。
万年床に積み上げられた本。しかし本を読んでいるより、甥っ子の雪男(この名前も凄いが……)が購読しているマンガを読んでいることの方が多い。大学で哲学を教えている、といえば聞こえがいいが、教授でも准教授でもなく非常勤講師、しかも週一回、退屈そうに居眠りしている学生の前でなすすべもなく黒板に字を書きつぶやくように講義をしている姿が痛々しい(笑)。
当然金欠だから、甥っ子のマンガもワリカンで買わせるし、家にいると肩身が狭いから「雪男が退屈しているから」と連れ出す名目でお母さんから昼飯代をもらうセコさ。
しかも期限切れのクーポンに気づかず、カレー屋でコロッケ代をとられてガックリ肩を落とすショボさ。ああ、おじさんよ、これがいつもの日常だと雪男は痛ましげにおじさんをながめやるんである。
幼い兄妹に作り物のムカデで驚かせたり、そのムカデに何より驚いてお母さんがキュウと倒れたり、てなあたりはいかにも児童文学な感じだが、でもそれは、「大人にお土産を買って来てもらえる。それも希望の」という子供のわがままを見事に皮肉っているともいえるんである。
メインのエピソードへとつながる、ハワイ旅行をゲットするためのポイントシール集め、そのために飲みかけのジュースを早く飲めと他人に催促したり、お父さん(つまり彼にとってのお兄さん)の缶ビールを、節約のためにと発泡酒にさせたり、なんてことはいかにも大人のコソクさで笑える!!
こういうことを恥ずかしげもなく、という意識すらなく、淡々と行い、自分の念力とこの確かな計画力があれば当たらぬはずはない、と子供に対する子供だまし(?ヘンな言い方?)のように一見聞こえながら、実は本気でそう思ってるだろ!!てな雰囲気を醸し出せるのは、豊富な俳優の人材がいる日本といえども、絶対に松田龍平しか考えられない!!本当に彼は松田優作の息子で、松田翔太の兄なのかと思えるほど(オイ!)。
で、彼がなんでこんなに必死になってハワイ旅行に行きたかったかといえば……恋をしちゃったから、なんである!!この辺は、どうなのかな、映画化に際して大人な要素を添加したんじゃ、ないのかしらん??
お相手は日系四世の写真家。演じるは真木よう子。おせっかいなおばさんに“お見合い相手”として紹介されるには、あまりに上玉すぎる、というのも、その前に寺島しのぶが紹介するお見合い写真を散々、ネアンデルタール人だのゴリラだの、それも至極まじめに見事な動物例えであしらってきたからさ。
うーん、ギリだわ、女としては。笑っちゃったけど、ギリだわ!!結局は美人がいいのか、みたいな!!まあその通りだけど!!!結局は失恋するからいいんだけど!!いやいや!!!!
彼女のお母さんがお相手かと思って逃げ出そうとするエピソードでまずひと笑わせした後、目の前に現れる真木よう子だからインパクト充分。
その前に、お土産を買う老舗の和菓子屋さんで、並んで待ってるお客さんにお茶と試食をふるまう若旦那役でシゲちゃんが出てくるもんだから、えーっ、こんなチラ役、昔なら確かにこの程度の役でオワリというのはあったけれど!!と心配していたが、まあ杞憂だった。この美人さん、エリーの元カレだったんである。
エリーは写真家の夢よりも、大切な故郷のコーヒー園を継ぐことを決意する。そのエリーに会うための、ハワイ旅行だったんである。
結局ポイントシール作戦は撃沈し、おじさんを救ったのは、雪男の作文。そもそもこの物語は彼が宿題の作文を書き始めるところからスタート、周りの大人、つまり両親が余りに平凡(公務員と専業主婦)なことから書きあぐね、おじさん、とひらめいたところから彼の筆が滑り出す。
その題目「ぼくのおじさん」を書いたその文字がそのまま、タイトルとなる。周りの友人たちがセレブリティ両親たちを書いているのに対照的に、個性的なおじさんを書いた作文は担任の先生の目にとまり、コンクールに出品、見事入賞!副賞がなんと出来すぎたことにハワイ旅行!!
子供の頃の、家族を書いた作文、というのが、曲がりなりにも文章好きの子供時代のまま今の大人になった自分としては、なんか甘酸っぱい気持ちになるんである。
おじさんが北氏自身をモデルにしていると言うけれども、この雪男にも作家の北氏自身が反映されているんじゃないだろーかと思っちゃうんである。
しかも担任の先生の、その続きを読みたい!という気持ちに盛り上がって連載を持っている作家のごとく書き綴り、先生を喜ばせる訳でしょ。文章を書きたい気持ちをおじさんへの興味の上手いこと絡ませて、そうと気づかせないあたりが上手いじゃん!
そして時代性というか。現代のようで現代じゃない。生意気な妹との距離感といい、彼ら兄妹の言葉遣いとかも、妹の女くさいおしゃまな言い方とかちょっとレトロな感じで、そんな印象を深くさせ、何とも愛しいのよね。
そしておそろいのアロハ姿でハワイに降り立つおじさんと雪男。エリーの携帯電話にかけるも、「また同じ女の人にかかっちゃったぞ」と番号違いの案内に戸惑う様は、予告編でも使われていたけどまさしく松田龍平!!なオフビートの可笑しさ。
結局エリーはどこまでおじさんのことを意識していたのかなあ。まあ大人の目から見れば、雪男に対するのと同等な、あくまで好ましさ、といった程度で男としての意識には到底行ってない感じは正直、したけれども。
おじさんのエリーに対する態度はまるで、小学生の初恋レベル。これが児童文学だからという訳ではないと思うが。最初こそ、ホノルル大学への移籍の話が出てるとか大ウソこいて雪男を心配させるけれども、そもそもエリーはその虚栄の部分は大して聞いてなくて、じゃあまた会えるのね!とアメリカンな感じで無邪気に喜ぶだけだったし。
携帯がつながらないシークエンスは、こんな風に笑わせるだけのようにも思えたけど、元カレ、青木さんを拒絶するためだったのかと、後から思い至る。
エリーの部屋に伏せてあった写真立ての写真が、青木さんだったのに気づいたのは雪男。そしてその後、偶然のように現れた青木さんと結びつけ……子供ながらに思い至った彼は、おじさんがエリーさんに首ったけなことに心配を募らせるんである。
コーヒー園で働きます!!とまで言い、「じゃあ、体験ワークしてみる?」とイマイチ判ってないのか、判っててそらしているのか判らないエリーさんの提案に喜び勇むおじさんが、しかし体力不足でぶっ倒れてしまう。もう、思いっきりコメディリリーフ。青木さんとの対決シーンでも情けなく酔っぱらって、仲良くなっちゃうような感じだしさ。
ヤバい“タバコ”をうっかり買っちゃって逮捕されるなんていうシークエンスもあったっけ。恋にはオクテなのに、自分の欲求にはぎこちないながらも案外アグレッシブなところもおじさんの魅力。こうでなければ作文で入賞するまでのキャラクターにはなるまいと思われる。結果的に敵に塩を送る形で撃沈したおじさんを、雪男は「見直したよ」という言葉以上の親愛と尊敬の気持ちで寄り添っただろう。
これが子供のリアルな気持ちかどうかは、判らない。大人から見ても、理想の子供像かもしれない。あるいはおじさんのような大人に、本当はなりたいんだという、社会に迎合するしかないほとんどの大人たちのまなざしかもしれない。
最後に、この作文をコンクールに推薦し、入賞に至らせた担任の若くて可愛い戸田恵梨香先生が、「おじさんを紹介してよ。会ってみたいな。可愛いと思う」というエンドで締めくくるのも、そんな大人の理想や願望に過ぎないかもしれないけれど、でも確かに大人の女にとっては、こんなおじさんがたまらなくいとおしく感じる、ダメ専な気持ちは間違いなくあるんだよなあ。 ★★★★☆