home! |
二重生活
2015年 126分 日本 カラー
監督:岸善幸 脚本:岸善幸
撮影:夏海光造 音楽:岩代太郎
出演:門脇麦 長谷川博己 菅田将暉 リリー・フランキー 河井青葉 篠原ゆき子 宇野祥平 岸井ゆきの 西田尚美 烏丸せつこ
大胆に脚色、などと書かれると、原作とは違う部分が、実はそのモヤモヤにつながるんじゃないでしょうね、などと、こんどは監督さんの方に勝手に原因を探りたくなってしまう(爆)。
心理サスペンスの側面を持っている本作は、著作の内容を探っても詳しくは出てこないんだけれど、恐らくヒロイン、珠の尾行が、自らの内なる発露から出たものではなく教授からの指示であること、そして教授へのひそかな想いというものが、映画の珠にはないということ、あたりが違いなのかな、と思う。
映画の本作でも思わせぶりにキーマンならぬキーブックとして示される、ソフィ・カルなる芸術家の著作「本当の話」から、原作の珠は直接影響を受けて尾行を始める、というくだりらしいんだけれど、映画化となる本作では、論文の指導を受けている教授から、哲学的考察の上での、いわば理由なき尾行、として勧められるんである。
どちらにしても珠がのめり込んでいくんだからその展開は同じとはいえ、自分の中の発露から出る尾行と、マジメな大学院生が教授からの提案で始める尾行、というのではやはり印象としては若干の差が出る気がする。
それに教授に対する想いという点で、原作にはあった(らしい、多分)部分が削られることによって、後半、珠が尾行の標的を変えるのが教授自身、という理由も弱くなるような気もする。
そもそも教授が、論文のためという目的であっても尾行を勧める、というのは、まぁリリー氏の独特のオーラと、心理サスペンスという雰囲気でついつい流されて見ちゃうけれど、やっぱり唐突感は否めない気がしている。
彼はその手にソフィ・カルの著作を置いているけれど、例えばその著作に心酔しているとかいう描写もないし、教え子に指導するにはふと思いついたという感覚なのか、それにしては、「決して対象に接触してはいけませんよ」などと経験者みたいなこと言うし。
そのあたりのミステリアスさがリリー氏からは確かに出ていて、それがいいのかもしれないけれども。そして実は彼こそが一番のキーマンで、冒頭で示された自殺が、彼のものであったということが明かされて衝撃を受けるんだけれども。
おっと、いきなりオチバレ。オチバレだけど、この自殺にも、なんでやねん、と思わなくもなかったが、まあそれは後述。
さらりと概略を示しますと……。門脇麦嬢演じる珠は哲学科の大学院生。ゲームデザイナーの卓也(菅田将暉)と同棲している。「これから、お互いに忙しくなるね」という、彼は後に賞を獲ることになる仕事の正念場。大学院生の珠は修士論文にとりかかるところ。
この二人の朝の目覚めとその流れでのセックスが実に自然に、そして清潔なエロティックで描かれていてドキドキとする。さすが何をもいとわぬ麦ちゃんと菅田君である。
まぁ結果的に今回は麦ちゃんはそのゆたかなおっぱいを出さずにしまったが、素敵なお尻を丸出しにしてくれたから、そこらへんは凡百の若手女優じゃないねってことで許してやろう(爆)。でもセックスでおっぱい無しは、やっぱりないと思うけどねー。だって彼女はちゃんとやれる実績がある訳だし……。
おっと、つまらぬ方向に脱線してしまった(爆)。んでね、珠は論文のために100人アンケートを予定していたんだけれど、それは社会学的考察であって、哲学的ではない、と教授からやんわりと却下される。
だったら一人の人を徹底的に追ったらどうですか、と教授は言う。戸惑う珠だけれど、その時から頭の中に浮かぶ人物はいた。一服するアパートのベランダから、いかにもな幸福そうな様子がうかがえる豪邸に住む三人家族、その主人。
後から思えば珠は最初から、この主人、石坂に惹かれていたのかもしれない。後に「論文を書くために」という名目で酔った勢いで彼と寝るけれど、そう思えて仕方ない。
尾行というのは、見つめ続けること。それは恋がなす自然行為に他ならないんだもの。その要素に集中するために、教授への想い、という部分をカットしたのかな。原作では尾行相手に対する想いはどんな風に表現されていたんだろう。
おっと、またついつい思いにふけってしまう。尾行される石坂を演じるのは長谷川博己。決してハンサムではないのに、細身の体から発する独特の色気で釘づけにしてしまう。確かに彼なら、尾行したい、と思わせる何かがある。
近所のおばちゃんから「セレブ」と呼ばれるこの一家。あ、ちなみに、このおばちゃん、珠たちのアパートの住人でゴミ出しに口うるさいのだけれど、「監視カメラもつけたのよ」と言い、実際、監視カメラの映像が何度も思わせぶりに挿入される。
だからさ、このカメラの映像を証拠にどうとか、おばちゃんがカメラ映像を証拠になんとかとか、なんかそーゆー展開があるのかと思いきや全然で、えっ、じゃああの監視カメラはなんだった訳、ちょっとサスペンスな感じを演出するためだけ??と最後まで待ち続けていただけにかなり拍子抜けしてしまった。
まぁそりゃこっちの勝手な期待なだけではあったけれど、でもさぁ……と。
で、まぁいちいち脱線しますけれど(爆)。優秀な編集マンである彼は、一方で華やかな浮気を満喫している。ザ・自立した自営の女、つまりそれは自分で自由に時間が使える女、という風に登場する相手との不倫現場の目撃が、珠の尾行への欲望に火をつけたことは明らか。
不倫現場、というのは通常はね、決定的にこの人と不倫している、なんて現場は抑えられないよ。まあフツーに、探偵さんが抑えるのはホテルに入るところ、あるいは出るところ、そんな感じよ。
なのにこのお二人さんはビルの隙間でヤッチャうんだもの。おいおいだよ。珠の尾行への激しい欲求を駆り立てるだけの、ムリな展開に思えちゃうなあ。
だって結果的に、石坂もその不倫相手も、彼女の尾行に気づいていた訳でしょ。まぁそらそーだ。あんな素人全開の尾行、タクシーに飛び乗って追ったり、二人が食事をする高級そうなレストランにカジュアルなカッコでしかも一人で入って、グラスワインにカルパッチョだけでじーっと眺めてるとか、不自然通り越してバレバレもいいとこだもの。
ホテルでずーっと待ち構えているのだって、ホテルマンが不審そうにちらちらと目線を送ってきているぐらい不自然で、このホテルマンに通報されちゃうのかと思ったぐらいだよ。そりゃ気づくってね(爆)。
そのバレバレの尾行がまず、本作の一番のツッコミどころだと思ったんだよなあ。
それだけ珠は夢中になっていたということなんだろうけれど、先述したように自分からの発露ではない、という部分でまずちょっと無理な部分、それでも自分には判らない衝動だとはいえ、こっち側にそれを感じさせてくれるなら良かったんだけど、なんか成り行きっていうか……。
そのレストランでの逢瀬の外に、奥さんが待ち構えていて、修羅場になる。以前から疑っていたのだろう、GPSで特定されちゃっているんである。
後に不倫相手からも石坂からも、奥さんに頼まれて尾行していたんだろうと珠は糾弾され、石坂に至っては「君が尾行しなければ、こんなことにはならなかった。僕は普通の生活をおくれていた」などとゆーのが解せない。
奥さんは珠の存在さえ知らない。珠からの視点でも、奥さんが夫の不自然な行動に気づいていたのは明らかだったし(車の中で電話してたりね……このあたりの描写、立ち尽くす奥さん、にはドキドキする)、まったくの言いがかり。
んでもって、この言いがかり、を言いがかりだよね、という明示がなされればいいんだけど、なんか珠はその通り、みたいな感じで流されちゃうし、作り手側も、珠の尾行のせいだよね、みたいな示し方をしているように思えちゃって、凄く違和感があるんだよね……。
尾行や、遠くから見ているだけでも判る奥さんの不信感や(河井青葉が上手い!)石坂と珠との対峙や、さすがテレビマンユニオンのドキュメンタリー出身、とベタなことを言いたくなる(爆)スリリングな上手さがあるんだけど、でも結局はそんな映像的な上手さに拘泥するだけだったような気もするしなあ。
教授側、である。リリー氏である。彼が珠を高く評価しているということで他の院生(冴えない男子(爆))にうらやましがられる、という描写があるから、それこそいろいろ期待したが、全然である。
この描写、飲み会でのシーン、古色蒼然とした価値観だけで盛り上がる哲学科院生男子たちに、まず一人の女子院生が盛り下がる。「こんなことなら院になんて来ないで、普通に就職すれば良かった」
女子の意識の高さを示してくれるのは嬉しいが、当の珠自身は、それこそ”教授に気に入られている”のに院に対してどう思っているのか、判然としない。教授への想い、という部分も削り取られてしまうと、一体彼女はどういう思いで院に残り、論文に対峙しているんだろうと、思ってしまう。
尾行がバレて、自分のことを書いてくれるなと石坂から言われると、必死に追いすがり、泥酔した勢いとはいえ自ら誘いをかけてまで「論文を書かせてください」というまでの情熱が感じられないのだ。
それこそ、ね。事後に彼女が語る、恵まれなかった家庭環境、それゆえに人に心を開けない、一緒に暮らしている恋人にも腹を割って話せずなあなあに過ごしている、なんていう独白は、石坂氏に吐き捨てられる「陳腐だな」のひとことなのだ。
このひとことこそが真実をついていると思うのだけれど、見え方としては尾行された怒りでヒドいことを言っている男、にしか見えない。作り手側はどう考えているの??
教授側、を書こうと思ったのにまた脱線しちゃった(爆)。教授側よ、教授側。思いがけず教え子から尾行を受けた彼は、ガンで母親を亡くした。その母親を安心させるために代行妻を雇った。
それとは知らずに珠は彼を尾行し、「妻」としてその女性を記述した論文を提出した。教授は「優れた論文です」と評価しつつ、「でも、この対象者Bには誤りがあります」と、彼女にヒントを与えるんである。
これは、ルール違反だよね。哲学的考察ならば、事実がどうあれ、尾行した側、つまり調査した側の受け取った事実こそが真実なんじゃないの。
客観的事実が主観的なそれと異なるということは、世間にはいくらもある。その違いを考察するのはそれこそこの教授がいうところの、社会学的なそれなんじゃないの。当事者の意見を取り入れていたら、尾行による哲学的考察なんて成り立たないんじゃないの。
まぁ、心理サスペンスだから。哲学的考察じゃないから、ということなんだろう。でも最初から感じていた、これこそが原作とは違うのかもしれないという、教授こそが尾行を推奨するというムリがここにきて出たのかなとは思うけれど……。
でも、結局事実は違った。つまり、尾行だけでは人間の内実はつかめないと言いたいのか。でもそれじゃ、彼の指導と矛盾するんじゃないのか。
ただ、魅力的ではある。やはりそこはベテランである。彼が最愛の母親のためについたウソが、代行妻に対する淡い恋心を生み出す描写がとてもリリカルに表現されてる。
正直、彼の恋物語が一番、ドキドキしたのだ。きっと、恋だったと思う。妻になってもらうために用意したペアリングがめちゃめちゃ本気モード。一体どこで彼女の指のサイズを調べたのかとかいうツッコミも忘れるぐらい(爆)。
代理妻となる西田尚美のリアリティが素晴らしくて、「彼女は実は代理妻、本業は小さなコヤで興行を打つしがない舞台女優で、腕にえげつないタトゥー入れてる」とかいうつまんないネタ明かしにガックリきちゃう。こーゆーのを無粋っていうんじゃないのかしらん。代理家族だったって言うだけでいいじゃん。
なんか思いっきり言いそびれているけれど、珠の恋人、卓也を演じる菅田君がなかなか良くて。彼もまたエロシーンをいとわぬ役者で、男優さんの場合それが女優さんほど称賛されないのだが、なかなか彼のエロキスはイイんである(爆。評価するとこ、そこか)。
珠が、恋人に対しても腹を割って話せないゆえに、この事件によって彼らは別れてしまうのだが、んでもって珠のその、話せない理由ってのは先述したようにどうも甘くてうーんという感じなのだが、それを受ける卓也、菅田君のもどかしい感じが実にイイのよ、肌に迫る切実な感じ。若い恋人のナマな感じが、良かったなあ。
★★★☆☆
高倉健との鉄壁のコンビ。女侠伝と言いつつ、女博徒ではなく、芸者。博徒ではなく堅気者であるというのが、このシリーズの特徴なのだという。
前回見た作品は呉服商のお嬢さんから九州炭鉱の女主人に飛び込むという役どころだった。覚えてないけど(爆)。
あ、でも九州炭鉱!そこは共通してる!!あれ、このシリーズは九州……という訳じゃ、ないよねえ。いや、それはない。タイトルだけ見ても舞台がそれぞれ違うはずなのだが、でも藤純子がきっぷよく放つ九州言葉がとてもカッコよく、かつ色っぽく、そーゆー評判の良さが二本も作らせたのかもしれない。だって本当にこの頃の藤純子の美しさときたら、ないんだもの。
冒頭は、馬賊芸者と呼ばれる信次が、権力をかさに荒っぽく口説いてきた坂田陸軍大臣の頭をとっくりでブチ殴って、色めき立って刀を抜く軍人たちに向かって堂々と啖呵を切る、もうツカミは大オッケー!!なかっこよすぎる美しすぎる場面から始まる。
ところで馬賊芸者とは何だろう……と検索してみると他の映画がヒットし、成金たちからあぶく銭を巻き上げる意地と侠気を持つ芸者たち、という意味合いで出てくる。
なるほど、確かに劇中の彼女たちはそうである。馬賊、という意味だけだとネガティブな意味合いの方が強い感じだったから、なんだろうなとちょっと思っていたのだ。
時は石炭の景気にあふれていた明治末期、炭鉱を経営する成金、権力に物言わす軍人たちが札びらを見せびらかして遊びに来る。そんな彼らの持ち物まで全部質屋に総入れして、「たぶんなご祝儀ありがとうございました」と華やかな着物に身を包んだ美しい芸者たちがずらりとひしめいて慇懃無礼に頭を下げる爽快さ。
タイコ持ちとして彼らの持ち物を芸者たちからコッソリ受け取って質屋に流す藤山寛美が最高!その怪しげな姿に警官が見とがめても、「馬賊ですがな」と言えば、そうか、馬賊か、と通ってしまうんだもの!!
で、そう、坂田陸軍大臣。若山富三郎なの。もうこれが、最高なの!!先述の通り売れっ子芸者の信次、つまり美しき藤純子に迫りまくり、めっちゃおっぱいもみもみ!!
それでなくても、ぐっと襟足を後ろに下げた首筋から背中の真っ白な色っぽさときたらなく、その上胸元もぐっと開けた色っぽさときたらなく、なのにあの強気の啖呵でしょ、でその声がまたあの藤純子の感じだからさ、めちゃめちゃ色っぽいんだもの!!
色っぽいけど、考えてみれば彼女は濡れ場がある訳じゃないタイプの女優さんだし、高倉健との鉄壁のコンビでも思いっきり純愛だしなあ……と思って見ていると、後々になってちょっと気になる台詞が……というのは後述!次行く!!
でね、この若山富三郎はこの時はメンツ潰された!!って感じで引き上げるんだけど、でも次来る時にはニッコニコなの。もともとこの冒頭シーンでも単純エロバカって感じだったし(爆)、なんていうか、お母さんに叱られた子供のようというかさ。
すっかりこの一件で信次に逆に惚れこんじゃって、でもその惚れ込みはまた口説いてナニしようとかじゃなくて、そのきっぷの良さに惚れ込んじゃったってことなのよ。だからもうがっはっはと笑ってあっぱれ!と称賛してその場を素敵に収めてしまう。
おっと、そこに至るまでには高倉健様にご登場願わねばならなかったのだっ。高倉健様扮する島田は九州炭鉱の一つの山を親方から受け継いだお人。お山に入る作業員たちが、その前に一度こんなところで遊びたいとなけなしの金で乗り込んできたところから話は始まる。
彼らにとっては大金でも、馬賊芸者たちが集うこの高級料亭ではあまりのはした金。しかし信次は日ごろ成金たちにウンザリしていることもあって、心意気でもてなすんである。
そこに島田がやってくる。お前たちそんな金で足りると思っているのかと一喝する。払おうとする彼に信次が、ヤボなこと言いなさんなといさめる。いさめる、っていうか、怒る。
「遊びってのは心意気だ。それ位判んないのかい」
この一件でカタブツの島田と売れっ子芸者の信次は一発で心通わせる。奇しくも彼は、信次に金ずくで言い寄って、妾にしようとしている実業家、大須賀島田の天敵。
島田は親方からこの山だけは守ってくれといまわの床で言われ、それを守り抜くことだけを考えている。勿論、作業員たちも共に、である。
しかし大須賀はとにかく金にあかせて九州中の山を買収しようとしている。炭鉱王になることが彼の野望なんである。そのためにはどんな汚い手もいとわない。
大須賀を演じるのは金子信雄。言うまでもない悪役フェイスだが(爆)この頃にはまだすっごく若くって、だからこそこのずるがしこくて、なのに金があればなんとでもなると思っているあたりのバカさ加減がいかにも若いぽよぽよさで、逆にちょっと、カワイイと思っちゃう(爆)。
金にあかせているのは買収の部分だけで、鉱夫たちの環境は劣悪。そのあたりが片手落ちというか、まあケチというか、でも本当に賢い人ならば、その部分こそを手厚くすることによって、つまりは人心掌握よ、そのことこそが炭鉱王になるのには大事だったのに、彼には判らない。
脱走しようとする鉱夫を連れ戻して折檻するという場を、信次は目の当たりにしてしまう。一方で、小さな山を大切に守っている島田は作業員たちを何より大事にしている。だからこそ料亭まで迎えに来て金を払おうとしたんだし、まかない小屋の様子を見るだけでそれは一発である。
そこに手伝いに来た信次に鉱夫たちは色めき立つ。あの時なけなしの金で遊んだ男たちがすっかり喜んじゃう。確かにたすき掛け姿の信次の美しさと言ったらなく、まさに掃き溜めに鶴とはこのことである。彼らのために信次はまかないばあさんの三味線で一曲舞うんである。馬賊芸者の心意気。
てか、信次がこの場所に来たのは、もーう、いろいろすっ飛ばしちゃったけど(爆)凄く色々、経緯があってさ。
まず、島田と大きく距離を縮めたエピソードを披露しなくちゃ。陸軍大臣と大須賀の主催する宴に招かれた島田。でも島田は下戸だから、それを知っている信次はお茶入りの徳利を用意するけれども、大臣の前に手招きされてはそれも通用しない。
私が代わりに受けます。だって私は島田さんに惚れておりますから、と売り言葉に買い言葉という形ではあったけど、二人が心を確かめ合うシーン。
嫉妬した大須賀は、飾り物の大盃を持ってきちゃうのね。観客たちから思わず笑いが漏れたほど、冗談でしょ、ギャクだろ、ってなおっきい盃!でもそれを青ざめながらも受け止めた信次、何本ものとっくりからどぼどぼ継がれて満杯になったそれを、ひとしずくもたらすことなく、飲み干すの!
ダメだよー!!急性アルコール中毒になっちゃうよう!だって一体何ミリリットル……いや、何リットルよ、って量よ!!
その後、ふらふらとよろめきながら退出する信次に、芝居だと判っててもハラハラし、しかもその後、舞まで披露……したのは、彼女の夢の中の出来事だったのかしらん。
はっと目覚めると傍らには島田がいて、ずっと看病していたと。もう夜が明け、二人は外に出る。あの時の言葉はなかったことにしてください、と島田は言うけれども、脛に傷持つ立場は一緒だと、信次はきっぷよくはねつける。もうこの時、二人の気持ちは決定してしまったんであった。
更に、足抜け女郎を助けたのね。彼女だけじゃない、てか、彼女を助け出した形で恋仲の男と共に逃げまどっていた。
芸者も色を売る仕事だけど、それ以上にストレートに仕事内容の違う女郎。足抜けに至る経緯を思うと、なんかもう、いたたまれなくなる。そして客であったのか共に働く相手だったのか判らないけど、それをつぶさに見てきた男がもう辛抱たまらなくなって救い出したのだろう経緯を思うと、更にいたたまれなくなる。
それを行きがかり上救おうとする信次はあまりにムチャだけれど、彼女を慕う芸者たちがみんなで協力する。けどヤクザの追手には負けそうになってそこに通りがかった大須賀に助けられちゃうんである。
地元の顔だから、まあ成金だから(爆)、俺が親分さんに話しつけるよ、という形で収めてくれちゃう。コイツに借りを作っちゃうのか……と今後の展開に暗澹とする。でも信次の気質は判るからさ。この若い恋人たちを何とか助けてあげたい、って。
男の方は島田の山に鉱夫としてもぐりこみ、女郎の方は信次が面倒みることになり、そして手打ちが行われた、そのためにお山に行っていたんであった。
島田と同じく小さなお山の持ち主で、信次の料亭で遊んでいた気のいい炭鉱主が、ハメられた。彼の右腕を寝返らせられ、全てを失ってしまった。手続き上は正当だったから、何も言えなくって、そしてこの炭鉱主はなじみの芸者の前で自殺してしまった。
その芸者は信次の先輩格で、仲良し。最初その場面が映った時は、彼が自殺した拳銃を抱きしめて、呆然と亡骸を見つめている画だったから、彼女が殺してしまったのかと思ったのだ。でも違った。彼女にすべてを言い残して、愛しい彼女の前で命を絶ったのだった。
賭場で遊ぶシーンからなんとも可愛らしいおじさんで、信次もとても快く言葉を交わしてた。先輩格の姉さん、「ひょうけた人だった。でも、こうなって、どんなに大事な人だったか判った」と泣き崩れる。そして思い詰めて、大須賀を襲撃しちゃうんである。たかが芸者と客の関係、なんだけど、それが凄く、心に迫ってさあ……。
大須賀襲撃事件によって、芸者たちのストが勃発。新聞にも大きく報じられる。その先頭を切ったのが信次であり、明治という新しい時代に新聞という媒体が使われるのもワクワクするんである。でも大須賀がこのまま黙っている訳もない訳でさあ……。
石炭の積み荷をストップさせたり、もーわっかりやすい嫌がらせを大須賀はする訳よ。で、島田の亡き親分さんのお嬢さんが彼のいいなずけとかいう話に信次がショック受けちゃって、大須賀のもとに身を寄せようとするバカ(爆)。でもそこは女心で、積み荷を出させてあげるのが条件だとか言って。もうバカ(爆爆)。
そこに島田、いやさ健さんが飛び込んでくる。キャー!お約束とはいえ、キャー!!で、「俺の惚れた女だから」とかいうの、キャー!!健さんがそんな、そんなストレートな!!!
大須賀はもっと汚い手に出てくる。島田の炭鉱を爆破させるんである。バカか、と思う。そんなことしたら、もう先は見えてるじゃない、だって任侠映画なんだから(爆)。
炭坑を守って死んだ鉱夫たちの中には、あの女郎の恋人も含まれていた……。大須賀を撃たん!と色めき立つ鉱夫をおさめ、島田は一人立ち向かう決意をする。
その彼に行かないでとは言わない、とか言いながら、結局行かないで!!と言っちゃう信次。「あの時のお前さん、きれいだったぜ」そう言い残し、立ち去る島田に涙にくれる信次。
え?えっ、えっ?この台詞どーゆー意味?あの時って、どの時?いや、いつだって藤純子はメチャキレーだったから、成立する台詞ではあるけれど、ここまでハッキリと言い切れるほどの直近のエピソードが見当たらないんですけど!
ひょっとしてこれって、つまり、ナニしたってことなんじゃないですカー!!とか無粋なことを思っちゃう、訳!!
先述したけど、これほどにメチャ色っぽいのにむしろ清純で、そーゆーカラミ的なシーンどころかそれを想起させるくだりさえなかったからさ、この台詞一発で、もーう、なんか血がのぼっちゃったよ!と勝手に興奮(爆)。
さて。健さんが仇の成敗に出た場合、彼が死ぬのか生き残るのか、とゆーのが、この手の任侠映画を見ていると気になる、というか予測したくなる、というか。
一人対大多数だからそりゃ毎回ムチャなんだけど、そこは任侠映画で健さんですから(爆)。今回は、死んじゃったんだよね……ちょっと意外だったなあ。死にはしねえよ、と信次に言い残した台詞をどっちに解釈するか、というのも確かに悩むところではあったけれど。
島田と大須賀たちの立ち回りに、真っ赤な頭を振り回す歌舞伎シーンが挿入される。涙目が何度もアップにされるあれは、だ、誰?まさか藤純子じゃないよね??
凄く様式美にあふれる描写でインパクトがあって、本作のメインエベント的なシーン。なぜ歌舞伎?というのはヤボかもしれない。なぜも何も、素敵なのだから。でも、とっても気になるんだよなあ。
島田が死んでしまう結末は、信次に恋してる亡き親分のお嬢さん、という存在がネックだったのかねえ。でも無邪気で恋に恋する女の子って感じで、そんな、ねえ。
でもそれを察して島田の家を辞する信次の、一気に土間が暗くなり、格子戸から見える戸の外も雨が降ってくるかのような暗さに塗り込められるあの描写が、その様式にハッとさせられる。
愛する人が死んで、それでも芸者として生き続けなければいけない。暗い部屋の中で呆然と座り込んで、お座敷ですよと声をかけられ準備する周囲がざわめきだす。
信次はそのままの姿で姿見に向かって化粧をし出す。乾いた唇に紅を指す。ただただ涙があふれだすどアップの藤純子に、うわ、寺島しのぶソックリ!!と……。
時代を超えて乗り移ったようなゾッと感を感じる。役者としては違うタイプの母娘だから、今まではそんなに似てるとか思ったことがなかったからさあ……。
★★★★☆
いやぁ……これをコメディに仕立てたのは確かに正解なんだわ。原作は未読だけど、本人が書いている(!)限り、告白本なのだから、コメディにはきっとなっていない筈だもの。
いやいやいや、本作をコメディと思っちゃうのがおかしいのか??確かに殊更に笑わせようとしている訳ではないのよね、確かに。本人たちは大まじめ……なのか??
でもそれこそがコメディの神髄。本人たちが大真面目でなければ、人を笑わせることなんてできない。
この大バカ一代の諸星(名前からしてバカそう……と思うのは、うる星やつら世代だからだよね(汗)スイマセン(汗汗))を演じる綾野剛には舌を巻く。彼は決してイケメンじゃないのに、色気があるからイケメン枠に押し込められていたのが、自分からどんどんその枠をぶち破っていくのが爽快でならない。
本作も彼の代表作の一つになるに違いない素晴らしい熱演で、見るたびに面白い役者だよなあと思う。
そう、バカ一代なの。基本、バカなのよね、この諸星という男。こんな大それた犯罪を次々に犯すんだからある意味では頭がいいとも言えるのかもしれない、度胸と機転という点では。
でも大それたことを大それたことと気づかないところがバカで、そもそもの根本、始まりの部分で間違ってしまったことに最後まで気づかない(最後には気づいたかもしれない、さすがに)ところが、本当に大バカ。本当に判ってないの??と劇中、何度もツッコみたくなる大バカさ。
つまり、彼以外は、それがおかしなこと……つまり、自分たちの保身のためであり、誇れることでなんかないこと、をちゃんと判っているのに、諸星はそれがイマイチ判ってない、ってあたりが大バカなのよ。
それが端的に現れているのが若手刑事とのあの会話。「お前、何のために刑事になったんだよ」「公共の安全を守り、市民を犯罪から守るためです」「……」あの時、彼はあれ?俺だってそうだった筈なのに……と思ったのだろうと思う。本当に、バカ!!
諸星はそもそも、柔道部員としてスカウトされる形で北海道警察に入るのね。そんなことって、可能なの?公務員試験、受かってるの??と思っちゃうのは、先述したように諸星君、判りやすくバカなんだもん(爆)。
最初は凄く、初々しい。先輩に罵倒されながら、調書を書き写す練習してる。ワイシャツにきっちりネクタイしてるサマからして、他の先輩刑事たちとは全然違う新人サラリーマンみたい。
犯人追跡の手柄もとられちゃって、先輩からは更に罵倒される。けれど、そんな彼に刑事のなんたるか……てか、出世する方法としてのそれを、つまりつまり、間違った方法を更に上の先輩、村井から教えられるのだ。
お決まりのバブリーなキャバクラでセクシー姉ちゃんたちに取り囲まれ、おどおどとする諸星。
村井はねえちゃんの豊満なおっぱいをもみもみしながら、「ヤクザの中に飛び込めばいいんだよ」とアドバイス。つまり、内部に協力者、ありていにいえばスパイ(彼ら言うところのS)を作って、確実に点数をあげろと。拳銃、覚せい剤、その確実な情報をつかめと。
諸星がバカなのが、それを名刺やらちらしばらまき作戦で行ったことで、ほんっとバカなんだけど、バカにバカが引っかかる(爆)。
若手ちんぴらが兄貴分を売ったんである。確かに覚せい剤、そして拳銃の摘発には違いない。別に何も間違っていない。でも……この時点で何かのおかしさに気づくとすれば、それが悪を根絶することにはならないということ、なんである。
そりゃそうだ。内部に協力者をあおいで所持者をしょっぴくということは、交換条件として、そのルートを探るとかいうことはありえないということなんだもの。
まさに村井のアドバイス通り、点数をあげるためだけ、出世するためだけのこすいやり方であるのだが、問題なのは、諸星がその最も重要な部分にどうやら、気づいていないらしいこと、なんだよね。彼ってばさ、中盤になっても結構本気モードで、「治安を守ってきたという自負がある」的な発言を咆えまくってるんだもの。
この流れなら当然のごとくって感じで、とりあえず摘発する拳銃の数だけあげときゃOKてなことになり、そらーヤクザを協力者としてとりこんでたら、いくらだってそら可能だわさ。
でもカネが必要になる。それも膨大なカネが。”市民の治安を守るために、拳銃を摘発する”目的の資金として、覚せい剤を売りさばくようになる。
あ、アホか!!である。……どうやら諸星、本気でそう考えているみたいなんだもの。そして、猪突猛進、血の熱い諸星に引きずられるような形で心酔する舎弟たちさえもさ。
なんかさらさらっと重要なところまで行っちゃったけど(爆)。そう、最初はこんな単純なことだったのよ。点数を稼ぐために、出世するために。確実にシャブやチャカのある場所を得るために。
でもそれじゃあ仁義がなってない、ってんでヤクザ側からねじ込まれ、なけなしの度胸でそのヤクザとタイ張ったことで、”キョウダイ”という取引関係が成立する。
恐らく、これが取引関係だってことに、諸星はバカだから最後まで気づいていなかったに違いない。まあそりゃー、そのヤクザ、中村獅童(彼も凄い!)演じる黒岩だってそれなりには、”キョウダイ”として諸星との絆を感じていたとは思うけれど、でもやっぱりそこは、持ちつ持たれつ、だもん。
次第にそれを、諸星がそのことをちゃんと判ってるのか??という部分が揺らいでくると、そらぁ、トンでもない裏切りは避けようがない訳でさ……。
先述したけど、諸星はホント、最初、めっちゃ初々しいのよ。しかし、本作が彼の転落人生を20数年に渡って描くことも影響しているとは思うけれど、次のシークエンスでは、まー、あっという間に大転落、スーツは既に着てない、わっかりやすいチンピラシャツに、わっかりやすいチンピラサングラス。
最初のシークエンスで「俺、日本一の刑事になるんで、自分の女になってください!!」とバックで突っ込みながら拝み倒したキャバクラの美人ホステスとの立場も逆転。
諸星にゾッコンほれ込んでいる彼女はヒモ状態の彼が、次第にシャブによるあぶく銭を得て浮気するようになっても止められず、ついに彼女自身がシャブ中に堕ちていってしまう。
女だけではない。出所したての、オツムの弱そうなハルシオン中毒の太郎もまた、諸星の魅力に心酔する一人。演じるYOUNG DAIS君の純真な魅力が素晴らしくって、AKIRA氏に初めて遭遇した時の驚きをふと思い出したりした。
ただミュージシャンというだけではない、パフォーマーという存在の才能が、芝居の世界に新鮮な衝撃を与えているのが面白い。
北海道、旭川、なのね、彼は!監督さんも北海道の人だし、ヤハリこの題材だからこそという部分があるのだろう。
音尾氏がチョイスされたのも当然、そうだろう!!いかにもエリート然とした警視庁の人間。彼は警察関係の人間の中でただ一人、真の意味で頭がよく、地雷を踏まない。悪事に目をつぶることはしても、保険はかけるし、それは確実に自分たちの得になることにしかしない。あくまで表面上とはいえど、「公共の安全を……」の前提を踏み外すことはしないのだ。
それが当然のことなのに、不思議に、そんな彼らの方がズル賢く見えてしまうのが作り手の腕、してやったりというところなのだろう。
摘発する拳銃の数だけで点数が上がることの無意味さは、判り切っている。それに本気で気づいていないのが諸星で、気づいているけれどその欲に抗えないのが彼の上司たちで、それを利用して手を染めずに出世するのが真にトップの人間たち。
つまり、確かに諸星が返答に詰まったように、「公共の安全を守り、市民を犯罪から保護すること」なんて、無駄な努力なのだと。
諸星の舎弟の一人、ロシア人にも顔が利く中古車販売業者、顔は外国人そのものなのにバリバリ日本人、として売り出しているデニスの植野君やら、摘発拳銃として密輸する代わりに覚せい剤密輸を見逃すというクライマックスで登場する超コワい関西ヤクザ、TKOの木下さんやらが素晴らしい。
ホント、ネタじゃないんだもん、植野君はその地の特性でラシードを見事に体現してる。木下氏もマジに怖かった。でもやっぱり芸人さんというバックグラウンドがいい感じに作用して、大真面目なんだけど、だから笑える極限コメディに、彼らだからこそのスパイスが絶妙に生きていた、のよね。
最終的にはさ、かなりかなり、シリアスな展開にもなるのよ。恋人のホステスはヤク中になって、諸星自ら「刑務所に入らなければ治らないから」と送り込んだ。
信頼していた黒岩は大量の覚せい剤を持ってトンズラし、それが決定打となって諸星は飛ばされ、すっかり初老になって後、太郎の告発によって逮捕される。
当時の上司と、太郎が共に自死を選んでしまう結末は、そのことを劇中で諸星が知らされることはないんだけれど、ないだけに……北海道警察への忠誠と、明らかにムリに決まってるのに、刑に服したら戻りたいと語る、初老の諸星が余りに哀れでならない。
まあ正直、さすがに初老の男はいくら特殊メイクでもムリがあるけど、でも、最後のシーンが、ムリに作ったように見えるにしても満面の笑顔で、道警への感謝と忠誠、なのが、凄かったなあ……。
で、その後、クレジットで、二人の自殺を知らされて彼は道警への態度を転換させたことが明らかにされる。ああ、こんな、最後の最後にならないと、判らなかったのか。
これはやっぱり、作り手は北海道出身じゃないとね!瞬く間に出世した監督さんが、その出世作とは全く違ったテイスト……犯罪モノという点では共通しているけれど、迫力のあるコメディに見事に仕立て上げた。圧倒的だった。★★★★☆