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「な」


2017年鑑賞作品

夏の娘たち ひめごと
2017年 75分 日本 カラー
監督:堀禎一 脚本:堀禎一 尾上史高
撮影:渡邉寿岳 音楽:虹釜太郎
出演: 西山真来 鎌田英幸 松浦祐也 志水季里子 下元史朗 速水今日子 ビノシュ 和田みさ 櫻井拓也 小林節彦 川瀬陽太 外波山文明


2017/7/31/月 劇場(ポレポレ東中野/レイト)
タイトルがいい。なんとも詩的だ。さらりと裸やむつみごとを見せられるピンク系作品はこういう時、野暮な隠し方に幻滅しなくて好きだ。
ヒロインの西山氏は「乃梨子の場合」で強い印象を残した。その後いくつかの作品で彼女を見るたび、あ、乃梨子の彼女だ、と、顔の覚えられない私が即座に膝を叩いたぐらい。
なんというか、独特の風貌、いでたち。ひどくスレンダーで長い手足、脱ぐ女はおっぱいが命、なんていう気持ちを見透かすようにぺたんこの胸、モデル体型とかいうより、ちょっと異形の雰囲気さえする。
お顔立ち、こんなに強烈(爆)だったっけ……。大きく角度をつけた眉がヤンキーぽくてちょっと怖いというか(爆爆)、とがった歯並びといい、なんとも言い難い独特の雰囲気がある。

でも確かにそうだ、お姉ちゃんという感じはするのだ。この物語はまず、姉と弟の禁断の愛が再燃するところから始まる。彼女なら妹ではなくて、確かに姉なのだ。
禁断の筈なのに周囲の家族があっけらかんと、「お姉ちゃん、お兄ちゃんと結婚してあげなよ」と言うのにはあぜんとしたが、彼らは二人の血がつながっていないと思っているんである。いや、二人もそう思っていた。というか、そうであればいいなと思っていた。
本作はちょっと、家族関係や町の人たちの関係、先に相関図見たーい!とアホな私は思っちゃうような感じ。小さな田舎町ではあるあるな感じの、「ええ?あのちっちゃかった〇〇ちゃん??」みたいなことも起こるし、結構私は頭抱え系(爆)。

お姉ちゃん=直美は死の床についている父親が入院している病院のナースである。そこで先述の会話が繰り広げられるんである。家族の筈なのにどこか見えない壁があるような会話。駆けつけた長男の裕之はこの姉の携帯番号すら知らない。
この父が死に、葬儀となった時、「こちらは養女、私は養女の母」と直美の母がおどけて自己紹介。養女、義理の娘じゃないんだ、と思う。連れ子で結婚するなら普通は義理の娘、だよね??と思うのだが……何か複雑な事情がありそうな気もするのだが、本作中で受け取る限りでは、そこんところはよく判らない(爆。私がバカなだけかもしれないが……)。

死にゆく父親は下元史郎。ああ相変わらず素敵(照)。彼なら確かに、二人(以上かもしれない)の女の間を渡っていったのが判る気がする。直美の母と、裕之とその妹の母は、普通に考えたら顔を合わせたくないぐらいの関係だと思うのだが、後妻さんは直美の母のもとに踊りを習いにきたり、「(先妻さんが愛されていたのは前提で)、私だって大切にしてもらいましたヨ」といたずらっぽく言ったりして、なんか不思議にいい関係なんである。
一人の男を二人の女で取りあう、というよりは、分け合ったと言いたいこの感じ、でも一人の女を二人の男でとなると、やはり取りあう感じになって悲劇的な結末を迎えるのは、意外のようでもあり、当然の様でもある。男の方が嫉妬深いというのはまああるけれど、女だって基本?男を分け合ったりしたくない。でもここではなぁんか、それが通っちゃうんだよなあ……。

それは、先妻後妻の間だけではなく、その次の世代、ヒロインである直美とその友人の間にも起こっているんだから、これはしっかりと確信犯的に違いないんである。直美の前に突然現れた、風采の上がらない上にキザなとんがった靴を履いた男、義雄は、直美は覚えていなかったけれど、かつてこの町に住んでいた幼馴染だった。
その、再会だけれど彼女は初対面だと思っている出会いの場面が、イイ。直美の母親は旅館を営んでいる。旅館というより民宿というか、後の会話からはどうやらかつては置屋をやっていたらしい、風情があるんである。直美が義雄の三味線に請われて扇子を手に一節舞歌うことが出来るのも、そんな下地があるからなんである。

ああ、だからか、養女と言っていたのは。先妻さんじゃなくて、お妾さんだったのかもしれない。今頃そんなことに思い当たるバカ(爆)。
だって彼女はいかにも玄人なんだもの。着物を着慣れている。ささっとお茶漬けをすする感じだけで、ああ、と思う。でもつんと澄ました風はなくって、可愛らしい感じのお母さん。でも男には寄りかからない、って感じは凄くする。不思議なんだよなあ。

そう思い当たると、一時は道祖神のような運命の相手だと思っていた直美と裕之が、そうではなかった、確かに直美と裕之であったんだ、と納得してしまうのだ。
だって裕之は汚れた作業着が似合う(いい意味でね)、この町の林業に生きる男。あるいは、言ってしまえばそれしか出来ない男。直美は粋筋の血を引いて、ちょいと一節歌えるし、夏ということもあっても、浴衣を普通着のように着こなすことが出来るのは、ヤハリ一味違う女、なんである。
そして義雄もそういう筋を持っている。最初の出会いではそれをキザと感じてお客さんとしてしか接していなかった直美だったんだけれど。

義雄は一時、フーゾク嬢、とまでは言わないのかな?セクシーダンサーの女の子(ゴメン、役名忘れた)と付き合う。かなり、一瞬である。その間、そんな仲間たちと川で実に楽しそうに遊ぶ場面がある。本作の中で最も夏らしい、そして不思議に脳裏に焼き付いて離れない場面。西山氏のうすぺったんな水着姿がひどく印象的である。
そして直美の妹、そのセクシーダンサーの女の子(は直美の友人)、裕之、義雄、もう一人、直美の妹にご執心な青年、とで無邪気に遊ぶ。まあ、エロサービスな場面もあったりする(照)。

この時には、義雄はセクシーダンサー彼女と付き合っていた。普通に上手くいっている感じだった。しかしその後、直美の宿に二人が前後してやってくる。彼女は妊娠し、義雄と結婚する、と言っていたのに、それはウソだと突然言う。それは……義雄を気になり始めていた直美を慮って言ったことは、明白である。
この時の麗奈(名前、思い出した)の、疲れた表情のザ・スッピンを鏡に映した場面は思わず、息をのんだ。え?誰??と思ったぐらいだった。いつも華やかに笑いさざめいていたのに。この表情を見たから、妊娠がウソだというのが、ウソだというのは、観客にはハッキリと感じられた。

麗奈はきっと、義雄のことが本気で好きだったんだろうなあ。その後、紆余曲折あって直美が義雄と結婚することになって、大きなお腹をかかえて結婚式に出席する。直美の妹に耳打ちする子供の父親は、当然義雄だろう。でも彼女は幸福そうに笑っている。直美とも、まるで同志のように親密である。
一人の男を二人の女で取りあう新旧は、なぜこんなにも平和協定が結べるのか。男の幻想と言いたくもなるけど、そうとも言いきれない魅力を感じる。 そして直美のお腹の中にも……いや、あれは、裕之を諦めさせるためのウソだったのかもしれないが……。

ずっとずっと恋焦がれてきたお姉ちゃんと結婚寸前まで言ったのに、姉のまさかの心変わりで捨てられた弟君は、首をくくってしまった。あまりに早い展開に正直アゼンとする。ああでも、あの弟君なら、そんなことしそう。
弟、なんだもの、本当に。お姉ちゃんと結婚できなければ死んじゃう、そんな弟。お姉ちゃんを付け回して、諦めきれなくて、何度も何度も、俺のこと、嫌いになったのか、なんて、なんて、幼くみじめな言いぐさなの。
タイトル通りひと夏の物語であった筈。このラストシークエンスだけはそこから外れている、そこに彼は一人たどり着けなかったのか。一人の男と二人の女、一人の女と二人の男、その結末があまりにも明確に分けられていることに残酷さと、不思議にユーモアを感じる。

やっぱりこれはね、女の物語だったということなんだろうなあ。タイトル通り。ひめごとにだけ収められてしまう女の強さよ。男は人生をかけちゃう。
二人の女に支えられてその人生を全うできた直美の父は幸せだった。直美の母、そして義理の母である後妻さんは、直美の父親は町にやってきたデビット・ボウイに似たイケメン、なんていうおとぎ話をまことしやかに信じさせて、それによって愛する男のメンツを死ぬまで守り続けた、のだ。

小さな町の中でミニマムに回り続ける物語、ちらりとしか示されないけれど、直美と義雄はそれぞれ、都会の生活からこの故郷に帰ってきたのだ。この要素だけでも、直美にとっての理解者であり伴侶は、家族と町に守られ続けてきた弟ではなかったということは明白ではあるけれども、でも一方で、裏切り者同士、という痛さも、運命なんていう言葉を強く印象付けるのだ。
ただ、なぜこの地に戻って来たのか、という理由を、直美は明確にしなかったし、義雄の理由は……早くに両親を亡くし、祖母の残した家に住みたいと戻ってきた、という理由は、男の子っぽいロマンティシズムにしか感じられなかったのはもったいなかったかなあ。一度出た故郷から戻ってくる理由は、そんなゆるいものではないと思うんだけれど。

直美と麗奈が直美の旅館で盛り上がってあられもない姿で踊りまくり、じゃあビールで乾杯しますか、という場面があるんだけど、もーう、確実に麦茶なの。あんな泡の立たないビールあるかっ。ノンアルぐらいにはできるんじゃないの、いや、そんなしみったれたことは言わぬ、インディーズの意気ある映画なら、こんなぐらい、本物のビール飲ませて芝居してもらったっていいじゃないの。凄い、ガッカリした。
女の子同士(でなくても)が盛り上がってキャー言って、おっとっと、かたじけない、なんて冗談めかしながら飲むのがおいしそうなビールでなくてどうするの!めっちゃテンション下がるわ。カラミで乳首隠させるぐらいのガッカリだよー。★★★☆☆


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