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「る」


2018年鑑賞作品

ルームロンダリング
2018年 109分 日本 カラー
監督:片桐健滋 脚本:片桐健滋 梅本竜矢
撮影:江崎朋生 音楽:川嶋可能
出演:池田エライザ 渋川清彦 伊藤健太郎 光宗薫 木下隆行 つみきみほ 田口トモロヲ 渡辺えり オダギリジョー

2018/7/9/月 劇場(渋谷HUMAXシネマ)
TSUTAYAのシナリオ企画で、「嘘を愛する女」のグランプリに次ぐ作品の映画化だという。この並びを見ると、アイデア勝負というか、ツカミが大事というか、そこがTSUTAYAっぽいということなのかもしれないなぁと思う。
いや、どーゆーことと言われても困るが(爆)、独りよがりなインディーズ映画にヘキエキすることも少なからずある昨今だからさ、古今東西の作品が集まっているTSUTAYAという場所が発信するには、人の興味をきちんとひき、引っ張り切らなければいけないということなのかもしれんと思って。そして二つも劇場公開作品が製作され、新人監督の発掘の場にもなる、いいんじゃないかしらん。

ルームロンダリング。つまりワケアリ物件に一度住んで、その過去を帳消しにする仕事。“住人に説明する義務がある”というのはそうだろうが、“しかし、その回数(期間だったかな)は限られていない”というのは本当なのかどうか。
しかし上手いところに目を付けたなというのは確かに確かに。ありそうだもの。殺人事件はそんなにないにしても、自殺や孤独死は今の時代、珍しくもないことなんだもの。そしてそこには確かにそんな幽霊も出るであろう……実際それをネタにした作品はざらにあるのだから。
だから、なんでその先、それを商売にするというアイディアが今まで出なかったのか、と思い、これは見つけたもん勝ち!という気もし。

しかしそのアイディアだけでは勿論、ドラマは産まれない。正直個人的にはもっとコテコテのコメディになるのかな、と思っていた。幽霊が見えて見えて困る、相談持ち掛けられて困る、もーっ!!みたいな。
いや、その通りなんだけど、その見えて見えて困るのがすっかり引きこもり女子の八雲御子(なんつー名前だ。あまた引き寄せまくりではないか)であり、人に心を開かないのに、幽霊に心を開く訳はない……って、逆か??いや、最終的に幽霊に心を開き、人にも心を開くんだから、逆ではないか??いやいや!あーもう、確かにアイディア勝ちなんである!

そう、思った以上にシリアス人間ドラマ、なのよね。それは結構最初から、その雰囲気は充満している。父親が早くに死に、母親も突然失踪、おばあちゃんに育てられた御子だけれど、そのおばあちゃんも御子が18歳になった時にこの世を去ってしまった。
そこに突然現れたのが、初めて会う叔父、悟郎。悲しみを隠すためなのか、ただ単にヘンな人なのか、悪態をつきながら葬儀場に入ってきて、有無を言わさず「俺が世話するから」と御子を連れて行った。
そしてあてがった仕事がルームロンダリング。御子に幽霊が見えちゃうという能力も承知していた……というより、途中から明らかになったというテイだったかな??少なくとも、悟郎に連れられて行った時には、御子にその自覚はなかった訳なんだから。

そう、悟郎は最初から彼女にその能力があるのは判ってた。てか、彼も能力者だったから。それは最後の最後に明らかになり、結構ビックリする訳なんだけれど、その時には大好きだったお母さんがなぜ突然失踪してしまったかの、謎も解き明かされるんである。
あーもう、物語のメインの内容に行く前にすっ飛ばしてオチを言っちゃうと(ガマンきかねぇな)、お母さんは死んでしまう運命にあり、立て続けに親を亡くしてしまうことになる御子にそれを告げられず、御子が能力を得て、受け入れられると判断した時に、悟郎は二人を合わせる……つまり片方は幽霊な訳だけど、っていう展開。母親役はつみきみほ。うわー、久しぶりに見た。そのまま年とったなーって、当たり前だけど(爆)。

ところで、本作に足を運んだ最大の理由は、またしても渋川清彦目当てということなんである。いつものことである(爆)。繊細な理由で(つまり、具体的にはなんだっけ(爆))この世にオサラバしてしまった彼は、それを最終的に激しく後悔することになる。
髪を金髪に染めたパンク野郎は渋川氏にピッタリ……とも思ったが、もう年相応のいい加減さ加減が似合う彼だから、むしろパンク野郎が時代遅れの古臭さに見えてしまって、それもネライじゃなくて、ちょっとしたミスキャストのような老け加減で、かなりハラハラとしてしまった。
いつもの渋川清彦のチャーミングさは発揮されているんだけれど、金髪のせいで、かえって白髪っぽくて老けて見えるっていうかさぁ……。

普通の人間みたいに見えるし喋れるし、でもやっぱり物はつかめない、食べれない、飲めない、特に大好きな田酒が飲めないと思い知らされたシーンの彼は、「本当に、死んだことを後悔している」と悄然とし、その彼の目の前で、御子はグビグビ日本酒を飲み干すんである。
彼は、ミュージシャンになる夢があった。デモテープが隠されていた。本当にデモテープ、CDじゃない。いや今はもっと、USBメモリとか、なんかデータを送信するとか、そういう時代なんだろうと思うし。
デモテープなんだよ!!!と力説する彼は、まぁ確かに私に年は近いが、でもミュージシャンになろうと思った頃は、もうテープはなかったと思うけどねぇ。
この音源をレコード会社に送ってくれないか、と彼は御子に懇願する。そうでなければ死んでも死にきれない、というところなのであろうが。

しかし、御子は引っ越してしまう。だって、彼女の仕事はルームロンダリングだから、いつまでも同じところにはいられないんである。それでもちょっと渋る態度を見せた御子に、悟郎は少しいぶかしげだけれど、金には代えられない。
だって、悟郎は御子のことを、本当に思っているんだもの。表面上はやさぐれで、ムリヤリ御子を引っ張って行ったような感じだったけど、違うんだもの。

母親のことも姉のことも大好きで、でも自分は飛び出してしまって、だから今、帰ってきて、母や姉の代わりになろうと、絵の好きな御子の将来を応援してやろうと。
美大のための学費稼ぎに、まぁそれに当人を稼ぎ頭にするというのもアレなんだけど(爆)、彼自身も外国人に偽造身分証を融通したりのヤバい橋を渡っているんである。

とゆー、シークエンスが挟まれたりするもんだから、もうなんか捕まっちゃったりして、切羽詰まるなんていうクライマックスが訪れるのかしらん、と思ったら、それはなかった。
だったらなんだったんだろうという気もしないでもないが(爆)、まぁキャラづくりといったところだろうか。

んでもって、御子の引っ越し先は殺人事件のあった場所で、見ず知らずの男に押し入られて刺殺されてしまった、無念バリバリのコスプレOLの幽霊が現れる。
彼女は犯人の顔をハッキリ見ていて、それを御子に伝えて無念を晴らしたいと願っているが、御子は、「私に出来ることなんか、何もないですよぅ!」と言った相手は、「オレ、デモテープに魂が宿ってるらしいんだよねー」と人懐っこい笑顔でワープしてきたパンクの彼!
しかもこの殺されちゃった彼女に同情する形から発展して、恋に落ちちゃう!幽霊同士の恋!!彼は手首を切った片手がぶらんぶらんで、彼女は背中にナイフを突き立てられたまま。画になるわ……この画を思いついて、物語が出来上がったんじゃないかと思うぐらい。

もう一人、交通事故に遭って死んでしまった、学芸会で自分を発揮する前だったから、その未練が残っている男の子も登場し、彼が御子の心の奥底を最も掘り起こす存在ではあると思うのだが、正直、渋川清彦、光宗薫のインパクトには勝てないかなーという感じがするんである。
そして何より御子がとらわれているのは、“自分を捨てた”母親への想いであり、彼女が最後にプレゼントしていったアヒルのランプをいつも抱えている。

この感じ、毛布を持ち歩くライナスか、バムセを抱え歩くロッタちゃんか、といった……どちらにせよ、ちょっとトウがたちすぎている。まぁ、可愛いけれども、なかなかに、イタい。
このアヒルが明滅すると幽霊が現れるというタイミングだから、それが触媒、というか、霊媒?担っているのかなと思ったが、カンシャクを起こした御子が叩き割って、悟郎が包帯よろしく修繕して、とにかく使えなくなっちゃった後も、御子の霊力は当然、続いているし……。結構エポックメイキング的な存在だったから、あれーっ??というガックリ感はあったけれども。

殺された彼女のウラミを晴らすために、それまでは、自分には何も出来ないと思い込んで、耳をふさいでいた御子が、立ち上がる。それは、叫び声を聞いていながら怖くて通報できなかったことへの、呵責の念に駆られている青年との出会いと、恋の予感によるものなんである。
まぁ正直、この経緯での呵責の念は相当なものであると推測されるのだが、彼からそこまでの自責の念を感じるかと言ったらそうでもなく、ただ単に、あの問題のある隣の部屋に越してきた女の子が気になる……といった印象しか与えないのはかなり残念。
だって、「自分が声をかけていたら、隣の人は死ななかったかもしれない」って、まんまの台詞だけど、相当の強烈な後悔だと思うのだが、御子の閉じこもり感の方に焦点が当たりすぎているのか、それとも彼自身の演技プランの問題なのか??

殺された彼女から聞き取って似顔絵を描いて、亜樹人に頼んで交番に持ち込んだら……そのおまわりさんこそが犯人だったというオチ!!どうりで、豪華なゲストだったわ、TKOの木下氏!
そして前述したように御子は今は亡き母親と再会し、自分の能力に向き合い、叔父と祖母も同じ能力者として自分を見守っていたことを知り、新たな一歩を、亜樹人と共に踏み出すんである。

公比古の渾身のデモテープが、実際レコード会社から好感触を得る、というまでは、かなり出来すぎのような気もするけどねぇ。だったらその先、例えばCD化されてどうなるのかとか、考えちゃうじゃない。「生きてるうちに送っとけばよかったのに」という結論を得るための展開だろうけれども、これはちょっと甘い気がしたなぁ。★★☆☆☆


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