「え」

Ｍ／村西とおる狂熱の日々 完全版
２０１８年　109分　日本　カラー
監督：片嶋一貴　脚本：
撮影：音楽：
出演：村西とおる　本橋信宏　玉袋筋太郎　西原理恵子　高須克弥　松原隆一郎　宮台真司　片岡鶴太郎

そもそも本作が作られた経緯は、２３年前に敢行された“４時間超のＶシネと３５本のヘアヌードビデオ”を撮るためにあまたの女の子を引き連れて大撮影隊を組んででかけた、そのドキュメント映像が残っていると、本作の監督さんに連絡、というか、この場合なんかリークっていう感じよね、という話が流れてきたところから始まるんである。
だから村西とおるという人物を描くドキュメンタリーではない。あくまでその、地獄のような数日間をあますところなく収めた、“４時間超のＶシネと３５本のヘアヌードビデオ”のドキュメント、なんである。

わざわざそのドキュメントの監督まで立てて撮られているということは、その映像素材自体が商品としてなにがしかの成立を成されたのか、あるいは壮絶すぎてドキュメント映像はお蔵入りになったのか、判然としない。
本作は“完全版”と銘打たれ、その前にたった一日だけ公開された“通常版”から何が足されたのか。村西とおるがどういう人物だったのか、ということを、よく判らないチョイスの芸能人たちのコメントによって（しかもやたら前衛的にぶったぎってつなげて）説明させたあの場面なのか。

確かに私のように、村西とおるをなぁんにも知らない輩にとって、この人がそもそもどういう人なのか、知りたい、それを解説してほしい気持ちはあった。この芸能人たちのコメントが個人的感情的スタンスであり、後半にしんねりとした村西氏へのインタビュー映像（意味なくシリアスなモノクロがうっとうしい）がまぎれもない本人側からのこれまでの系譜を語るという点で、相互に補完し合って、まぁ成立しているのかなぁとは思うが……。
個人的な気持ちとしては芸能人のコメントいらんかったし（特にあの夫婦が競い合うようにコメント残すのは意味不明。個人的かかわりがあるのかもしれないけど）、村西氏が時代に残した鮮烈な爪痕を描写するには、もっと確実な方法があったんじゃないの？と思っちゃう。

村西氏は知らなかったけど、もうちょっと新しい世代のＡＶ監督ならば、有名どころはそれなりには知識がある。ただそれは、本当に純粋に、ＡＶ監督として全うしていらっしゃるお方たちである。つまりは、結構根はマジメにクリエイター志望で、ＡＶという映像で何ができるか、と考えていらっしゃるようなお方たちで。
それよりも一昔、ふた昔前にあたる村西氏は、ＡＶ業界の黎明期だから、その業界に対する思い入れとか作品性とかじゃなくて、一発当ててやろうという山師的な気持ちこそが強かったことは、後半のインタビュー映像からもひしひしと伝わってくる。だから、芸能人のコメントはいらんのである（爆）。

まるでおしんのエピソードを聞いているかのような極貧時代を経験した村西氏は、とにかく貧乏だけはしたくないと、フツーのサラリーマン生活から一歩抜け出し、バカスカ儲かるエロ本（当時の名称はビニ本、裏本）の製造、販売に至り、あの、くっだらない罪状、「わいせつ物なんたら」で全国指名手配に至り、逃げ回る。
全国指名手配！！それって凶悪な連続殺人犯とか強姦魔とかじゃなくても、エロ本売ってただけでも、あるんだ……。つまり“だけ”っていう程度のことじゃなかったっつーことであろうが、二度と貧乏にはなりたくない、という彼の根っこを後のインタビューで聞くと、狂ったようなメインのドキュメント映像の彼の鬼神ぶりに、思わず納得してしまうんである。

しかし、よく喋るね。なんか吉幾三に顔もキャラも似てる（爆）。そしてよく食べる。しかもムチャクチャな食べ方である。それはドキュメント映像を通しても充分に伝わってくるが、スタッフ間でも有名な話だったという。
通常の食事シーンも凄い迫力だが、車中でバナナだのおにぎりだのポテチだのを無差別食いまくりのしかも無表情は、まるで食べ続けていなければ死んでしまうと思い込んでいる、泳ぎ続けるマグロのようである。

そしてそう、よく喋る……それは応酬話法と呼ばれたという。どうもおかしいな、矛盾してるな、と思うスキを与えない。説得というより話法、そしてもっと言っちゃえば洗脳である（爆）。
きっと数々の人に真似されたんであろう、あの独特のイントネーションのマシンガントーク。あ、そうか、そういう意味では片岡鶴太郎氏のコメントはちょっと必要だったのかもしれないのか（爆）。

経緯から見ると、貧乏から脱却するための、これしかない道、エロ道に彼は身を投じるんであって、別に女の子大好きとか、エロやセックスが大好きとか、そういうんじゃない。いや、そーゆー見方こそ、偏見に違いないのだが（爆）。でも不思議なぐらい……なんか、先生みたいに見えてくるんだよなあ……。
それはプロ意識の薄い観光気分の女の子たちを多く集めてしまった、というか数的にやむを得なかった、という、もうまとまらないことこの上ないこの状態において。それなりにプロ意識のある女優さんはキレちゃうから更に収拾がつかない、そしてここには……もう令和の時代になったけれど、昭和な人情感覚の村西監督と、平成のビジネスライクな女優陣との、埋めようもない溝が横たわっているのだ。

私も昭和女だからさ、村西氏の言う、そんな甘い考えで仕事なんて成立するか！という気持はめっちゃ判る。それは、この過酷で無謀で無計画な（爆。それこそが、女優たちの怒りに火を注ぐのだ……基本的人権も無視されてるからねー）現場において、昭和と平成以降の考えの別れるところだろうと思う。
スタッフ側は、若いスタッフもいるけれど、作り手としての修業時代だという気持もあるのだろう、村西氏のやり方に賛同している雰囲気はある。……私がそれなりに年をとってしまったからかもしれないけど、立場の違い、若さもあるにしても、若さがそんなにも自信につながるのか、と、ザ・正論を振りかざして、何か間違ったこと言ってます？と顎をあげて、そんな思いしてまでこの仕事する理由ないんで、ぐらいな顔で言い放って去っていく女の子たちに、ああ、ああ……。

判る、判るけど、確かに間違ってはいないけど、正しさだけではいい作品は作れないし、世の中自体回らないし、替わりはいくらでもいるから見過ごされるんだよ。
その先があると無邪気に思えない年齢になると、こんな恥ずかしいほどの自信満々なんて、絶対にできない。なんだか今の周囲に起きている状況に重ね合わせてしまって……全然違う業種なのに……。

これは仕方のないことなんだけど、ほぼほぼお顔にボカシが入っちゃう。ドキュメント映像を撮ってるっていうんだから、そしてＶシネもＡＶも皆出演しているんだから、出演者の女の子たちまでもボカシ入れる必要……ああでも、映画作品として公開するという契約は入ってないのか……でもやっぱりこうなると、まるで指名手配だし（爆）表情が見えないのは、これだけ映像が残っているのに逆効果を生みだしてしまう。
全員に連絡は……とれないのか、あるいは皆ノーと言ってしまうからなのか。確かに凄い映像ではある。撮影中の交通事故、すさまじい滝での撮影、寒風吹きすさぶ中での撮影で体調不良者続出、素裸で運動会やらせて、負傷者続出。そらまぁこんなの見ちゃったら、キッパリと異議を唱えた彼女の気持ちは……判るわなぁ。

だってつまり、村西氏は逮捕やら倒産やらの波乱万丈で、実に５０億の借金からの再起をかけたのが、このムチャな撮影だったのだから。多分、女の子のことなんてコマぐらいに考えてたところは否めないだろうし、大所帯のスタッフも制御しきれてない感満載だったし、もう、もう……途中で引き揚げてしまうのかと思ったぐらい、ボロボロだった。
Ｖシネの女優も超絶ワガママで、自己管理も出来ないくせに泣いて済ませて、しまいにはスタッフのせいにし、公衆の面前で叱られたことを泣きながら抗議するという、女優と呼ぶ訳にはいかないうぬぼれ者！！
……今でも活動している女優さんなのかなあ。名前もお顔もバッチリだったけど、これはなかなかに黒歴史だと思うが、彼女にとっては、自分こそが正義だという気持は揺らがなかったのか。

そういう意味では、役者としての衝突をシビアに活写する男優パートや、女優たちをまとめるスタッフが面目を潰されたと監督に詰め寄ったり、重鎮スタッフが女優とイイ仲になって叱責されるとか、男性パートに関してはまぁ情けないエピソードはあるにしても、なんか甘い目というか、男って頑張ってるでしょ、みたいなところに落ち着いちゃってる気はしちゃうかなあ。
女の子に対しては、ワガママばっかり言って、みたいに感じる描写なのよ。きっと彼女たちは彼女たちなりに必死だったと思うのにさ。

しかしとにかく面白い人物ではある。現在も衰え知らず、ポルノが解禁になった中国でのビジネスをもくろんでいるという。そういやあ、日本のＡＶ女優さんやセクシーアイドルさんたちが、海賊版やネットでそうした地域に多くのファンを持ち、ひょっとしたら日本以上に熱狂的な需要があるんだと聞いたことがある。
なんか凄いな、凄いな。それはでもきっと、裸の女の子をずらっと並べておもちゃのチャチャチャを歌わせるようなことではないのだろうと思うが（爆。あれでヌケるのだろうか……）。★★★☆☆

その役者、というのが年の離れた親友の浅田美代子氏であり、二人でずーっと、ニュースを見ながら、これは映画になるね、なんて世間話をしていたというのだから、浅田氏は、それがほんの世間話だと思って聴いていたのが、樹木氏はずっとずっと、本気で彼女が輝くネタを探し続けてきたということなのか。

出来すぎなぐらいだ。でも映画という特別が産まれるのに、そういう運命は時として起こりうるのだろうと思う。浅田氏が優れた役者だというのは判っていたけれど、確かに悪役、汚れ役をやるなんてとんと思いつかなかった。
彼女自身の欲のなさが、そんなチャンスを遠ざけていたことを、樹木氏は歯がゆく思っていたのかもしれない。アンタは自分を判ってない、過小評価しすぎだと。

なんたってあの樹木希林の初にして最後のプロデュース作品なんだから、それだけでも注目を集めるに決まっているのだが、それを浅田美代子という、実はこんなにも底知れぬ役者だった存在が、軽く飛び越えてブチかましてしまったことに、樹木氏の、ホラね、私の言ったとおりでしょ、なんていう顔が浮かんできたり、しちゃうのだ。
見た目のチャーミングさがまず必要なこの役柄だが、あの事件を覚えている私たちにとっては、彼女の若づくりのうさん臭さ、痛々しさが凄く残ってて、それをどう表現するか、納得させるか、というところが問題だったのだが、浅田氏は表現よりも納得よりも、無邪気ともいえる入り込みで凌駕してきた。
と思わせるだけで、彼女自身は苦労したのかもしれないが、そう思わせちゃうところが浅田美代子の浅田美代子たるゆえんである、という気もする。

あの事件……その全貌を、私は、そしてきっと一般的世間も、ちっとも判ってなかったんだなあと、思い知る。
衝撃的な事件が次から次へと現れ、流れ流れて消えていく世の中、一時期は狂ったように報道されても、次のエサが見つかれば、パッと消えていってしまう。

ホントハズかしいんだけれど、自分の興味あるもの以外はほとんど触れることなく、いわゆる世間が騒いでいるニュースにもほぼ無関心の私にとって、切れ切れに聞こえてくるこのニュースは、ミニスカートをはいて、異国の美青年を恋人にして、６０過ぎてるのに３８と偽っていた、という“イタい女”という印象しか残っていなかった。
投資詐欺で国際手配されて逮捕された、ということ自体が重要なのに、マスコミ的には大胆不敵な年齢詐称とファッション、それにまんまと騙されている異国の恋人、ということにばかり焦点を当てていたような気がする。
実際、この恋人に対しては詐欺を働くどころか貢いでいたのだから、余計、その二つの要素は乖離しているのに、やっぱり年増女のイタい部分にばかりクローズアップしていたんだなあと思う。

勿論これは事実を元にしたフィクションだから、すべてがその通りという訳ではないんだろうけれど、恥ずかしながら、事件の全貌を、私は初めて知ったのだ。
つまり、エリカこと聡子の影には黒幕がいたこと、いわば、彼女はスケープゴートにされたに過ぎなかったのではないかということ。今、めちゃくちゃ事件のことをウィキりたい衝動にかられているが、映画は映画で別物だから、ガマンする（爆）。

しかしもともと、このエリカこと聡子の行動力というか、自己発露欲にはそもそもの才能というか、天性の……結果的に悲劇の運命を引き寄せた才能を感じる。結果的に彼女を利用する形で暗躍した黒幕がいる訳だけれど、彼らもまた、聡子の魅力に引き入れられた、という形なのではないかと思うのだ。
海外から輸入したサプリメントを、女たちを使って売りさばく商売をしていた聡子に声をかけたのが第一の黒幕、木内みどり扮する伊藤。彼女は実にもったいぶりまくって、第二の、そしてこれぞメインの黒幕である平澤を紹介する。
演じるは平岳大。もう、もうそれだけで、色気ムンムンで、ここで既に浅田氏との年齢差はかなりあるが、何が起こるか、判り切っている。

しかしそもそも、平澤は本当に、何者だったのか。本当に最初から、百パーセント詐欺師だったということなのか。彼を高く評価する伊藤もそうだったのか。
映画を観ている以上はそこのあたりは判然としない。どうとでもとれるというか……。

途上国支援という名目で平澤は金を集め、聡子がその優秀な手先となる訳だが、配当が生じるシステムも明らかではなく、平澤は証拠が残ることを極端に恐れ、配当の加減もずさん、というより、人を従わせる、人を黙らせるために、という大胆不敵な計算が透けてみえていた。
途上国支援は全く行われていなかったのか、いなかったんだろうな……少なくとも劇中でも、例えば写真一つ、出てこないんだから。それであれだけの資金を、いわば聡子の口八丁ひとつで集めたことが凄いし、それは……結局は配当金に目がくらんだということに、そんな自分の暗い部分に人々は気づく訳なんだけど、でもやっぱり、聡子のトークと人間的魅力は、本当に大きかったのだろう。

それを思わせる、浅田氏の演じる聡子は、本当に魅力的だった。ポジティブで、一緒にがんばりましょう！とあの笑顔でぎゅっと握手をされたら……私だってあの場にいたら、判らない。
一緒に、がんばりましょう。このワードは、後から思えばなんとまあ、そのままキーワードだったのかとも思うのだけれど。

ラストクレジットにかぶせる形で、当時の被害者たちの実際の音声が、載せられる。彼らは、聡子に対して、本当に騙されたと思ってはいなかったんだと、吐露する。今でも思わないんだと。
劇中では、実際に金を集めていた、いわば実行犯の聡子に、私だって被害者なんだ、何も知らないんだとのらりくらりと笑顔で交わす聡子に、狂った野獣のように債権者たちが問い詰めるクライマックスが用意されているから、かなりこの感覚は意外だった、のだ。

支援、というのがまさに逃げ道だったのだ。支援なのに、配当があるのがおかしい。人の善行欲と金銭欲という、相反する欲につけこんだ、そう考えると卑劣極まりない詐欺だ。
いいことをしたい、という気持は確かにあったんであろう人々の心の底に、それで大金を出すオレ、ワタシ、という自己満足、統括する聡子に認められたいという恋のような気持ち、そして何より……それで配当金が出る、つまりもうかるという欲。
支援でもうかるなんて、落ち着いて考えなくても、フツーにおかしな話だということに、なぜこんなに気づくのが遅れたのか。

現金、いや、現ナマと言いたい、このアナログな札束、現金主義は、いかにも日本だなと思う。跡が残らず、追跡されにくい。今や世界中が電子マネー社会になっているのに、先進国と言われる日本がこんなていたらくである、何か一つの、象徴する事件だったように思う。
聡子と平澤は当然のように深い仲になり、平澤は色男だから支援者の一人とも深間になって、聡子と修羅場になるんだけれど、なんたって小気味いいのは、聡子がそれを恋愛的修羅場にせず、彼のオカネを持ち逃げした、ということなんである。そしてタイで若く美しい青年と恋に落ちるなんて、サイコーではないか。

ワイドショーで報じられていた彼女に対する、世間の冷笑的視線は、年増の女がイタい若作りしやがって、ということであり、いずれそんな年になる同じ女として苦々しい気持ちでいたのは事実だ。
でもあれは、マッチョな目線だったのだと、気づかされる。女は若く美しく、男がそれを選び取る。そんなバカな男の価値観が判ってるから、聡子はそれを演じてみせただけなのだと。
勿論、ポルシェに対して本当に恋に落ちていたとは思う。チャーミングな女としてセックスを務められるんだったら、充分じゃないのさ。実年齢なんて、そんな関係、ある？？

実際には、どうだったのだろう。映画では、最愛の恋人であった筈のポルシェこそが聡子を売り、これが本命とばかりピチピチの若い女の子の肩を抱き寄せるのだが、私は私は……ポルシェは本当に聡子を愛して、最後まで信じていたと思いたいのだが。
でもやっぱりやっぱり、金をくれるからであり、だからこそ愛と忠誠を誓い、どうやら犯罪者であることが判って、金の切れ目が縁の切れ目、ということなのだろうか。
そうなのだろう、きっと。でもでも、私は信じたかった。せめてこの美しい恋人の愛情だけは。それは私が、聡子の年齢に近づいているからなのだろうか。 ★★★★☆

８ミリでのエロ映画の製作に、間貸ししてくれる相手から電気のメーターまでチェックされてブツブツ言われながら、こそこそ撮影する様子なんてさぁ。
……そもそもこの作品が、８ミリ映画の試写のようなカタカタ映像から始まってカタカタ映像で終わる、という、なんつーか、映画愛にも満たされてるし、もはやなんと言ったらいいのか！！

かなり、混乱している。正直、どっから手をつけていいのやら。小沢昭一扮するスブやんは、かなり年上の豊満な後家さんのところに転がり込んでいるテイ。一応、後釜ということになってはいるし、彼女のふたりの子供たちにもお父ちゃん、ということにはなっているけれど、この後家さん、春も、彼女の子供たちもちょいちょい、緒方さん、と口にする。微妙絶妙な他人行儀。
そんなハッキリ年齢事情を明かしてはいないけれど、春が経営している理髪店に下宿していた、下宿っつーと、やっぱり青臭い青年のイメージですな。で、その時から横恋慕していた色っぽい奥さん、彼女の夫が死んで、その仏壇の前で、ええがな、あかん、とまるでそれこそが前戯のようにエロエロイチャイチャする様がたまらん。

おおーっ、坂本スミ子て、なんか伝説的な名前！えーっ、私初かもしれない（いや、自信ないが……）。年若い後夫にイマイチ自分に自信が持てない、だなんて、そんなエロエロな身体してたらそんなことないのに！！いやー……豊満な坂本スミ子と愚鈍な（失礼！）顔した小沢昭一がくんずほぐれつしている様の、なんとエロいこと！
結果的にとゆーか、最初から最後までとゆーか、スブやんは春のことを愛し続けていたのだ。死んでからさえ。春の娘の恵子に心揺れた（どころじゃないが）にしたって、それは春の娘だからなのだから。

そうなのよー。そういうキチクな展開になるのだが、それすら大したことないかもしれないという描写が満載で、もうどっから手を付けていいのやら（二回目）。
そもそもこの二人の子供たちは、春が甘やかしているのか、スブやんが甘やかしているのか、どっちもなのか、なんかもう、ダメダメな子供たちなのよ。

うーん、お兄ちゃん、幸一の方がヤバいな。えっ！そうか！近藤正臣だったんだ……言われてみればの端正なお顔立ちとスレンダーな長身。しかしてこれが、超マザコン＆他力本願、他人見下しのサイテー息子。
冒頭から、寒い寒いとお母ちゃんの布団にもぐりこむ、どんな幼子かと思ったら、高校生って！

その前に、スブやんと春はええことやっとるので、二人は焦りまくるのだが、とーぜん、幸一はそれを見越していたに違いないのだ。ぜぇったい彼、本当はおかあちゃんとセックスしたかったと思う。いや、見えないところでしてたかも（爆）。
おかあちゃんの息子の迎え方も、尋常じゃないんだもん。そら母親は息子にベッタリとは言うが……。スブやんがかなりの年下男だということも、そんな疑念を助長させるに十分で。

そーゆー意味では、スブやんと義理の娘の恵子だって、恋人同士になれるぐらいの感覚の年の差だったのかもしれんが、もーそんなことを考えてきたら、頭がワヤになる。
思春期の女の子だから、やっぱりスブやんには微妙な当たり方をする。その点、どこまでも計算ずくなお兄ちゃんとは全然違う。……もしかしたら、彼女もねじれたファザコンで、スブやんのことがちょっと好きだったのかもしれないとまで、思う。

つーか、春が先回りして二人の仲を邪推して嫉妬して、妄想の果てに心臓悪くして入院して、もうそっから先は、死を待つぐらいの悪化を辿るという、ちょっとオドロキの激しい展開で、結構ついていくのに必死である（爆）。
恵子は中学三年生なんだけどワルい仲間と付き合って、スブやんに見せつけるような形でグレていく。それが、スブやんにとっては、愛しい娘なのか、愛しい女、なのか、判らなくなっていくのか……。

てゆー、なんかヒューマンな家族ドラマと並行して、エロ事師としての仕事の多彩さ、ヤクザとの攻防、警察からの摘発、なんていう展開が花盛りなもんだから、もー、ついていくのもハァハァである。
大体、エロ事師の仕事と家族の物語を並行して描こうなんて、ムチャっつーか、贅沢っつーか。

でもそれが、成立しちゃうんだもんなあ。ムチャクチャだけど！！だってさ、春はもう、嫉妬から気が狂っちゃうんだよ！セーラー服姿の娘の写真の目ん玉にマチ針をぶすぶす突き刺すのには恐怖！！
スブやんは彼女との子供を欲しがっていたのに、一度出来た子供を堕ろしてしまった、という経緯があった。しかし、この闘病中に子供を授かり……でも、春は心臓病の悪化以上に、気がふれてしまっているから、さ。

ああ、あの場面、ヤバすぎる。病院の外の、道行く人に、乳房もはだけた姿で、窓枠の柵にしがみついて、狂乱するあの姿！！
「緒方さんにいたずらされた」という娘の告白を、嫉妬で裏返してしまって、あの子と結婚すればいい。世間にはよくある話だと、しおらしくスブやんに書き口説いた後の所業である。コワい、コワい、コワすぎる！！

この疑似家族の間にはエロの妄執が、亡霊が、渦巻いている。それが、純粋な想いの上に成り立っているようなところがあるから、不思議である。
実際、スブやんは不良少女に成り下がってしまったとはいえ、義理とはいえ、娘の恵子と一線を越えてしまうのだが、それが欲情というより愛情、愛しく思った延長線上にある、と観客にもすんなり思わせてしまう恐ろしさ、なのだ。

そうだ、それには、ひとつのエピソードがある。エロ映画を撮っている。父親が実の娘を犯す、という設定である。こともあろうに、ホントに実の親子が来る。しかしてその娘は精薄である。……この表現も、今はコンプライアンスアウトであろうと思われる。
実の親子ということの方に、スブやんは躊躇をしているようであるが、演技どころか自分が今置かれている事態が判っていない、ただただ目を見開いているばかりのこの精薄娘に対して、殿山泰司（！！）演じる実の父親が、こういう映画を撮る、という以前に、娘とセックスをするということが、欲望ではなく、愛情からそうするのだと、狂気ではなく、本当に親の愛情なのだと、しみじみと、しかもそれを観客に納得させちゃう。コンプライアーンス！！

いやその……それこそ、今年の大問題作「岬の兄妹」の例もあるさ。大人の身体になって、性的欲求を当然持つ、知的障害を持った家族に対して、どう対応するのか。
それを本作は、当然家族の愛情としてさ、こともあろーに殿山泰司にやらせるっつー！！まぁだから、それを受けてスブやんが、家族として愛しているからと、義理とはいえ娘の恵子に、しかも１５歳、中学生である彼女と一線を超えちまうというのは、コンプライアンス、コンプライアーンス！！

……年齢を言うのは、ヤボかもしれない。特に女の子は、大人になるのが早いから。スブやんの所業を母親の春に恵子が耳打ちしたのは、こと彼女に限って言えば、計算しかなかった訳なんだもの。そんなしおらしい女の子じゃない。
ただ……義理とは言え、父親のスブやんになついていた、愛情があったのは確かだから、でエロ事師だし、時には捕まっちゃうし、もうネジレにネジレまくっちゃうし。

思えばスブやんは、ザ・髪結いの亭主であったんだなぁと思う。勿論、エロ事師として稼ぎ、必死に家族を養おうとしてはいるが、中盤まではかなり、春の稼ぎにぶらさがっている感はある。
エロ映画の製作の描写に尺をかなり割いていたことも手伝って、何かこう……映画屋さんの自嘲的な風も、感じなくもないんである。外にはフツーに仕事をしている背広姿のサラリーマンたちが行き交う中、こっそり借り受けたアパートの一室でこっそり撮影したり、あれはサウナ？三人首まですっぽりとゆだりながら、それを部屋の外から俯瞰的に眺めてみたり。

フツーの仕事をしていない。前科がある。今も捕まることにビクビクとしている。子供たちがそれでケーベツしている。
……映画屋さんたち、特に当時の映画屋さんたちが抱えているアンビバレンツを、すんごい、露悪的に、いや正直に、差し出しているような気がして……。

春は死んでしまう。狂乱の末で、それも衝撃だったが、死んでしまった春、顔に白布がかけられた春の布団に、なきじゃくりながら息子の幸一がもぐりこんでいるシークエンスは、そらまぁマザコン以上のマザコンであることは判っちゃいたけれど、なかなかの衝撃である。見ちゃいけないもんを見ちゃったなという……。
彼はとーぜん、スブやんに対して最初から最後まで反抗的で、裏口入学のためだの、自活するためだのと言って巧妙に金をせびるんである。

最後には……あれは、母親の幻覚だったのかもしれないと思う、この人と結婚するからさ、と病院の遠い遠い廊下の奥からカツカツ、と近寄ってくるスレンダー美女は……どー見たって、ＳＭ女王！！確かにこれもエロのひとつだが……もうワケわかんない！！
あらためて、近藤正臣だったのかぁと、ちょっとしたショックな気持ちもあるが、この若さで、青臭い子供っぽい青年の衣をまといながら、小沢昭一という怪優を相手に、翻弄しまくるこの青臭青年！！いやー……凄い凄い、あらためて凄い近藤正臣！！

春を見送り、恵子を愛するもソデにされ、しかし時が経つと、あれほど恵子はイヤがっていたのに、家業を継いで、美容師として腕を振るっている。しかして、こ、これは、ガングロギャル！いや、この当時はそんなのないが、まさに、ガングロギャル！唇白いし！！衝撃！！！
恵子はあんなに両親を困らせたのに、あの頃は若かったから、とか、その風貌で言い（！！）、これが案外、店を仕切っていて、テキパキ従業員に指示をし、そして……お父ちゃんは……。

ああ、もうねもうね、ここに至るまで、ヤクザに商売を横取りされたり、それを娘にもやられたり、散々苦労したのさ。でも、スブやんは、なぜそれほどまでに、エロ事師であることに執着、というか、誇りを持っていたのかなあ。やはりそれは、求められる誇り、そして自分自身も求めている需要、だったのか。
彼が今、最後まで残ってくれている仲間と共に情熱を注いでいるのは、究極のダッチワイフ製作、である。ここに至るまで、単純にカネを求める仲間はヤクザに引き抜かれ、裏切り、道具も何もかも失った時も、あった。それでもただ一人、残ってくれた仲間がいて、何より、自分が情熱を注ぎこめるものが見つかった。

それまでは、家族を養うための妥協は合ったかもしれない。でも今、子供たちも独立し、家の裏の川にボロ船をつないで研究を重ねているスブやんは、これ以上なく幸せに見える。恵子から新鮮な切りたての髪の毛をホレ、と投げられ、ありがたい、と受け取り、気味悪いほど生々しいダッチワイフのアノ場所に丁寧に植毛していく。
コンプライアンス、コンプライアンス！！ああもう、……ガングロギャルが投げ入れる切りたて新鮮な女子の毛髪を白髪のおっちゃんが受け取り、リアルダッチワイフのアソコの毛に植毛って、コンプライアンスー！！！

この川は、混沌の象徴、って感じがする。春は最後まで、死んでしまった夫の妄執にとらわれてて、このドブ川からわざわざ引き上げたフナを水槽に飼っていて、スブやんとエッチするとフナが飛び跳ねるんやわ、と言った。
フナ越しの、水中チャプチャプの映像も、別にギャグじゃなく、しんねりと描かれる。松本清張を思わせる、目玉もおちくぼんだ、ぱくぱくと、機械的に呼吸するフナの水中映像の繰り返しに、結構な戦慄を覚えるんである。

少なくとも二回は、スブやんはこの怨念のようなフナを裏の川に放す、というか、投げ捨てる。そらー、春さんの妄想、迷信めいたものからくる思い込みには違いない。
近所の友達っつーか、奥さんっつーか、ていうのが、そういうのが好きで、そういう都市伝説を持ち込んでくる、というのもあるけれども（ありそう……こういう密集した感じでは）、もうなんかね、どんどん、洗脳されていく感じというかさ。魚、ていうのもさ、なんか日本的、神的感じだしなあ。

やたら悲しかったし、でもやたらちょっと、可笑しかった。スブやんは、一心不乱にダッチワイフのマン毛を植毛しているうちに、川っぺりにつないでいたボロ船の綱が切れて、知らないうちに、大海原に出て行く。アホらしくて、壮大で、笑っちゃって、でも人生そのもののような！！
で、８ミリフィルムのカタカタ映像でキューッと収束していくなんてさ、幸福すぎるじゃないの。こんなにエロエロでムチャクチャなのに！！なんなの！！★★★★★