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「す」


2019年鑑賞作品

スナックあけみ (スナックあけみ 濡れた後には福来たる)
2018年 85分 日本 カラー
監督:山内大輔 脚本:山内大輔
撮影:田宮健彦 音楽:project T&K
出演:霧島さくら 佐倉絆 黒木歩 里見瑤子 川瀬陽太 森羅万象 野村貴浩 安藤ヒロキオ 世志男 満利江 しじみ ケイチャン フランキー岡村


2019/8/27/火 劇場(テアトル新宿)
ヤハリ、川瀬氏が固めると抜群の安定感。一般作品にも頻々と出ていて相当忙しいと思うのに、作品と仲間を大事にする彼の姿勢は全くぶれずに嬉しいこと。
それは山内監督が「大好きな俳優さんたちと……」という、ここに集う誰もがそうなのだろうけれど。やっぱりピンクは女優さんの入れ替えが激しく、かつての名作に出ていた女優さんはほぼ、残っていないから。

そういう意味では本作で里見瑶子が、しかも難しい役どころで顔を見せているのは嬉しく、でも本当に少ないなぁと思う。
今回の特集で、本作の主演である霧島さくら嬢は二度目のお目見えだが、狂言回し的な一度目 の作品と全く違って、暗い過去がありながらもそれを感じさせない天真爛漫で、そして強い、キュートな女の子を見事に演じていて、芝居も素晴らしく、残って行ってほしいなあと思うけれど。

タイトル通り、舞台はとあるスナック。しかし物語の冒頭は、家出少女のスミレがおじさんに声をかけられて一発2万でヤッているところからである。エンコウでセックスの相場は暴落したが、それにしても安すぎる……とかいうところでつまづいてはいけない。
東京に出てくる家出娘をターゲットに食い物にしているオッサンは、これみよがしに財布の札束を見せびらかす。イヤな予感があたり、それをスミレがこっそり失敬しようとしているところを見つかってボッコボコにされ、という描写はすっとばして、両方の穴から鼻血ブーの状態でへたりこんでいるスミレに思わず笑っちゃう。

てな感じで、ことスミレに関しては、深刻になるのを注意深く避けている感じ。中盤にはもう一人のヒロイン、というか、タイトルロールともいうべきあけみが事故で死んでしまうという悲劇極まりないシーンがある。
母子家庭で母親が死んでしまったスミレにとっては二度目の母の死、という悲しさなのだが、充分に悲しい描写なのだが、でもそれも過去だという、過去の回想だという展開にさせて、今のスミレは、あけみたちのところに来た時と同じ天真爛漫な魅力をふりまいているんである。

あけみたち、そう、スミレを最初に発見した、というか、スッカラカンでボッコボコのスミレが客として強引に迫った相手が、あけみの夫のゴロウだったんである。結果的にあけみは死んでしまうし、なんたってピンクに大いなる足跡を残す川瀬氏だから、この二人が残されて、そんな展開になったらやだなぁと思っていたら、ならなかった。思わず一安心。いや、ピンクの展開はカラミ主導で物語が動くからさ、なんか心配になっちゃって。
心配になっちゃう、ぐらい、スミレはあけみ夫婦の元に、まさに娘として迎えられたのだ。あけみとゴロウは身寄りのない子供として施設で育ち、ゴロウは一時極道に身を転じ、しかしあけみ言うところの「お人好しだから」他の組員の罪をかぶる形で刑務所入りを複数回、最後に出たのが六年ぶりの夫婦の再会だってんだから、そりゃー、燃えるってな訳で、良かった良かった、夫婦のアツいセックスだけだった(何を心配しているんだ……)。

二人とも子供を欲しがっていたが、そんな状況でそれなりに年を重ねていたから、ちょっと諦めかけているところがあった。そんなところにスミレが飛び込んできて、境遇的には彼らと似たような感じだったからすんなりと、娘のように受け入れられたんだろう。
そこまで年の差はないと思うけど……でもゴロウの方とはそれなりにあるか……この感覚が伏線になっていたことを思うと、う、上手い……と思う。あけみはお腹に待望の赤ちゃんを宿したまま、トラックにはねられて死んでしまうんだもの。

時間軸や、人物が、かなりてんこ盛り並列ジグザグに語られるから、あれー、盛り込み過ぎじゃないの、と最初の内は思ったんだよね。まず思ったのは、スミレが紹介されたのが事故物件で、マジでユーレイが出るってこと。「お風呂だけ別の部屋みたいにきれいだよ!」とスミレが弾んだ声を出すのに、よ、良かったね!!と真実を言えないあけみに思わず噴き出してしまう。
シャワーを浴びている時に血だらけの手が伸びてくるとか、引きの画面で遠い押し入れからじわじわと白い手がせり出してくるとか、ムダに(爆)ホラー描写にリキ入れてて、結構ビクビクしてしまう。

おーい、これ、物語にちゃんと作用するんだろうな!と半ばキレ気味に思っていたら、最後の最後、その時点では死んでしまっているあけみが、怨念を残して出現する幽霊に、正座してひざ詰めでお説教(爆笑!)。そしてスミレの元には悪霊が出なくなるという……オチか!!
でもそれをスミレから聞かされて、「……なんで俺のところには出ないかな……」と夜深き、一人ぼっちの台所で一人酒をやりながらつぶやくゴロウ=川瀬氏が切ないのだ。

里見瑶子の登場も突然だったが、その前に、彼女の娘である深雪(佐倉絆)の登場はそれ以上に突然である。突然、彼女が育った施設の先生と喫茶店で会うシーンが本当に突然挿入され、だ、誰??と驚いてしまう。
里見瑶子が演じる容子に関しては、スナックあけみの常連さんなので、その後の描写で彼女が風俗で働いていて、なじみのお客さんとカラミを繰り広げるのには特に驚きもなかったが(ピンクだからね)、そもそも容子が、杖を突いてようやっと歩けるぐらいの障害を持っている設定にしたのは何でなのかなーと。

それがきっと明かされるんだろうけど、それにしてもここまでに人物も展開もてんこ盛りなのになー、とか思いながら見ているので、突然深雪が登場し、誰誰?と思って。
それがあけみが搬送された時に担当されていたお医者さんの結婚相手で、ゴロウはこの時に、このお医者さんにマジで食ってかかっちゃったから三回忌を迎えるにあたってようやく気持ちが落ち着き後悔し、改めて挨拶に行って、今やこのお医者さんをお店のお客さんとして迎えるに至っている。……頭の中で人物相関図を構築させて……おいおいおいー!そんな偶然、あるかーい!!

……そもそも容子さんは、なんでこのお店に来ていたのだろう。いや、なんでってことはない、容子さんの娘の深雪が、あけみとゴロウの育った施設にいたのだから……つまり、そうなった原因を容子さんが作ったのだから、その辺のOB的?つながりがあったのだろうかと推測もするが、でもそんなニュアンスは出してなかった、よね??
でもあけみの三回忌に「ゴロウさんには渡しづらくて……」と香典を持参したぐらいだから……いやでも、常連さんたちも渡していたしなあ、判らない。同じ施設つながりってこと、判ってて、容子さんは来ていたようにも思えるのだけれど、そこは判然としなかった。

深雪はとにかく、母親を嫌悪している。男を作って自分を捨てた、自分にとって母親は15年前に死んだんだと、執拗にそう言い募る。お相手の父親が父子家庭で再婚もせず、サラリーマンながら息子を医学部まで出したということが、彼女にとって余計にその感情に拍車をかけているのだが……まさか、そのお父さんが母親のお客だとは思いもせずに(爆)。
この四者で顔合わせをして、どう決着させるのかなあとハラハラ、まさかすべてを告白してしまうのか……と危ぶんだが、マジメなお父さんというイメージは、「私だって、男だから、女遊びはした。風俗に10年以上のなじみの相手がいた」というだけで、横にいた息子をギョッとさせ、そしてホッと安堵の爆笑を観客に届けることができるんである。

もうそれだけで、「人間は、きれいなところばかりではないよ」という、いわばベタな台詞を、本当はお母さんを愛していることを自分で認めたいのにそれが出来ないでいた深雪の心を溶かすことが出来るんである!!
……上手いなあ、上手い上手い。いやさ、容子がなぜ歩行困難な足の障害を負っているのか、そして深雪の額に深い傷が走っているのか、そうか、ゴロウちゃんがそれを知っていた、ってことは、ヤハリOB的つながりがあったということなのかもしれない。

まだ幼い深雪をかばって、女の子だから顔をかばって、自らは足に大けがを負い、娘の額に傷を残してしまった。自分の怪我のことより、娘の顔に傷をつけてしまったことを、ずっと悔やんでいたんだと、ゴロウは今や娘同然であるスミレに語って聞かす。
スミレは、母親が生きていて、しかもこうして心配して愛していてくれているなんて、めちゃくちゃ幸せじゃん!と深雪にくってかかり、ゴロウから頭を冷やせ!と外に出されてぶんむくれるんだけれど、そのスミレを、ことさらにヘラヘラと身軽く迎えに出るゴロウが泣かせる。
スミレがあけみのことを、第二の母だと言ってくれたことが嬉しかったに違いないんだもの。二度もママに死なれたという、その悲しみの共有を、嬉しさとして受け止めたに違いないんだもの。

あけみはスミレに、店で出している手料理を伝授して、客たちには「ママと同じ味だね!」とお褒めにあずかるほどになっている。
けれど、スミレは、納得いっていない。ことに、この店に初めて来た時、何日も食べてなくて、がっつくように頬張った焼きそばだけは、どうしてもどうしても、ママの味に追いつけないと感じている。焼きそばが、ゴロウをはじめ常連さんたちの一番のお気に入りということも手伝って、どうしても納得がいかない。

まず冒頭に、スミレがそうつぶやく場面が示され、この複雑で悲しくて暖かくて、結果的にはとても幸福な物語が収束するラストになって、冒頭で示されたこの場面が、忘れてただろ?てな具合で戻ってくる。スミレがつぶやいた後の、ゴロウの台詞が用意されているという訳なんである。
「同じじゃなくてもいいだろ。これがこの店の味なんだから」
うわー!ヤラれた!!そして「ごちそうさま」と立ちざま、スミレの頭をぽんぽん!こ、こ、こ、このやろー!!泣かせる!
それを受けた娘、スミレの照れたような、泣くのを我慢しているような、残りの焼そばを頬ばる表情がたまらない!そしてスナックあけみは、スナックスミレとして再スタートを切るのだ。

「そんなに好きでもないのに、焼きそば死ぬほど食わされた」と舞台トークで語った川瀬氏に思わず笑ったが、焼きそばという、おふくろの味にもなり、親戚のおばちゃんの味にもなり、友達のお母さんの味にもなるようなさ。
そしてなんたって炭水化物で、哀しい時にも即座にエネルギーになって、頬張れば頬張るほど、哀しい時には涙があふれ、幸せな時は笑顔があふれるような……絶妙な、チョイスだったと思う。あー私も、お母さんのイカ焼きそばが食べたいな! ★★★★☆


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