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NO CALL NO LIFE
2021年 107分 日本 カラー
監督:井樫彩 脚本:井樫彩
撮影:早坂伸 音楽:松本淳一
出演:優希美青 井上祐貴 犬飼貴丈 小西桜子 山田愛奈 駒木根葵汰 篠原篤 熊木陸斗 大水洋介 和田聰宏 諏訪太朗 木下ほうか 永岡佑 桜井ユキ
それにしては有海の従兄である航佑は、まるで真洋と彼女を親密にさせるような工作に出た。しかし有海が真洋と出会ったのは至極偶然であり、後から考えればこんな必然はなかった。
その場には航佑もいた。三人で出会った形。航佑の可愛がっている後輩が真洋。
そしてその出会った場所は、有海が見知らぬ電話番号からかかってくる留守番電話のメッセージをたどって、その電話番号がかつて使われていた場所に行ってみる、というものだった。そこにはすでに誰も住んでおらず、埠頭で子供たちが花火に興じていた。
ぼんやりそれを見ていた有海がそれに誘われた。子供たちが許可を取ったのは、春川、と呼ばれるオレンジの髪をした青年だった。それが真洋。
しばらくの間、有海は彼の下の名前を知らなかった。後輩との偶然の出会いに驚いた兄も名字でしか呼ばなかったし、学校での問題児である彼は常に名字でのみ、呼ばれていたから。
NASAと書き込んだ進路希望用紙の彼の名前を見ても、ピンときてなかったのは、観客の方も同じ。真洋、普通に考えてまさひろ、ぐらいに思うだろう。有海の携帯に残された幼い男の子は、まひろ、と名乗っていた。つながらなかった。これなんて読むの、と有海から問われて彼がまひろ、と言うまでは。
かなり、説明が必要である。有海は従兄の航佑と一緒に暮らしているかの如くだが、彼曰く、「父さんがたまには帰って来いって」と告げるように、大学生と思しき航佑の一人暮らしの家に入り浸っている状態だと思われる。
そして、航兄(こうにい)と呼ぶ彼が従兄であるということは、彼のいう父さんというのは有海のおじであり、彼女は幼いころ実の親の元から引き取られている。
しかしその原因はしばらく明らかにされないし、彼女自身の記憶が欠落している。航佑が心配げに有海を見守る様子や、ことに真洋と近しくなって急に、二人を近づけるべきじゃなかったと焦りだす感じに、だんだんとイヤな予感がむくむくと芽生えてくる。
そもそも有海の両親はどうしているのか。死んでしまったから引き取った?ならばなぜ死んでしまった?それ以外の事情?ならばその事情は??
有海の記憶が欠落しているということは、彼女自身が本能的に消し去りたいと思っていた記憶だったのだということに、のちに開陳されて、愕然とするんである。
それはのちの話。真洋の方は、記憶はハッキリしている。シングルマザーの母親が夜な夜な引き込む男たち。誰もが単なる母親の恋人であり、その子供である彼はジャマな存在でしかなかった。
こびたり、無視したり、するぐらいなら良かった。暴力を振るわれ、しかもそれを母親が冷たい目で眺めていた。真洋はその男を刺した。殺してしまったのかもしれない。そこまでは明らかにされない。
ただ、「人を刺したのは今回が初めてじゃない」と言って語りだした過去だった。ああ、この二回目のあやまちが、二人の運命を破滅に向かわせるのだ。
かなり、先走ってしまった。有海と真洋が恋に落ちるまでさえ、至ってないじゃないの。
それまでには、長い道のりがある。運命的な出会いだったし、航佑が二人の相似性を感じ取って、仲良くなればいいぐらいの気持ちだったのかもしれないけど、意識的に近寄らせた。
有海は航佑のことが好きだったから、そのことに歯がゆさを感じたし、真洋もうすうす感じ取っていた。
真洋は最初から、有海に惹かれていたのだろう。それは、同類のにおいを感じ取ったのか、そんなことは言いたくないけれども……。
でも、航佑が言う、似た者同士だから埋めあうことができずにボロボロになるだけ、という言葉は、私は首肯したくないのだ。結果的にはそれを証明してしまったかもしれない。でも……。
もう、言っちゃうけど、有海の失った記憶は、父親から受けた性的虐待だった。まだ言葉もたどたどしい幼い彼女が受けたのが、どんな残酷な行為だったのか……想像もしたくない。
そして彼女は父親を、殺してしまったのだろうか。手に刃物を握って、刺した。そしてそれを、”そそのかした”のは、なんと未来の、つまり現在の時間軸の有海であった、という展開である。
有海の携帯に残されていたまひろ君が、春川真洋だとつながった。その電話番号にかけてみると、時空を超えて、幼い彼とつながった。
そして、有海はかつて自分が住んでいた場所の電話番号にかけてみるのだ。語呂合わせで、覚えていた。現在使われておりません、のメッセージの後、混線しているような雑音の後、幼い自分自身が出た。
真洋と同じ時代、同じ時空で、同じ苦しみの中にいる自分自身に、我慢することない、台所に行って、そして……とささやいた。幼い手に握られていた包丁は、真洋の幼き日の記憶なのかと思っていたのだ。
いや彼もまた、なのだが、時空を超えて、有海は当時の真洋の勇気に押される形で、同じ時を生きている幼き自分の背中を、押してしまった、ということなのか。
でもその記憶を、真洋は覚えている。彼は追われる身になってしまう。有海との親密な関係を、航佑と付き合ってる有海の友人、日野ちゃんが心配し、真洋の喫煙をチクってしまったからだ。
いや、心配、だなんて。その傲慢な神経を、有海が言う前にもう一人の友人が糾弾するのだけれど、そもそも有海が航佑への気持ちを言えないまま日野ちゃんとの仲を取り持つようなことをしたんだからさあ。それなのに有海もまた、私の大事なものを次々取っていく!!と日野ちゃんにキレるのは、どうなんだか……。
確かに日野ちゃんは余計なことをしたし、空気読めないし、偽善者であることの自覚がないことはイラっとするけど、でも有海がそもそも気持ちを言えず、つまりは彼女こそが偽善者だったんだから、これは仕方ないかなあ。
真洋は誤解に誤解を重ねられ、殺人未遂犯ぐらいになっちゃって、追われる身になる。それを有海は探し回る。
冒頭の航佑の台詞はこの時に彼女に対して発せられたものであり、つまりこの時すでにラストの悲劇が見えている。
大人の目から見ればさ、有海が証言できるのだし、未成年だし、出頭すれば、そら少年院にぶち込まれて何年かみたいなことはあるだろうけれど、そもそも情状酌量が効く事情があるんだから実刑にはならんだろうし、出てきなよ……と思うのだが、やっぱりそのあたりは、ワカモンの刹那なのかなあ……。
本作には、彼らの頼りになる大人が一人も出てこないんだよね。有海を引き取ったおじ夫婦なんて、文脈上では決して憎むべき大人じゃない筈なのに、まるで存在しないがごとき扱いで、その中で従兄の航佑にだけ心を許し、恋しちゃうというのは、かなり、かなーり、少女漫画的非現実的逃避の心理だと思っちゃうのは否めないかなあ。
若者の苦悩の作品の中で、大人は確かに必要度は低い。ないまま成立できちゃうすぐれた作品は確かにある。でも……ただ大人は敵だというままの位置に据えちゃうと、それはかなり幼稚というか、幼い視点、価値観に陥ってしまって、せっかくの純粋な運命的な刹那的なラブストーリーが、純粋に昇華されなくなってしまう、気がする。
有海が真洋を追っていくのを、航佑が「連絡はとれるようにしろよ」と送り出してくれた、あの起点になった場面、この台詞はめっちゃ重要だったのに、有海はそれを無視したというか、思い出しもしなかったというか、つまり重要視しなかったということ、なんだよね、多分……。
この場面では、グッとくる表情を浮かべてはいたけれど、真洋と出会えてしまうと、この先二人で生きていくためにはどうするのか、ヤバい道を進むのか、という展開になってきちゃう。
いやいやいや。確かにエラいことしちゃったけれど、相手死んでないでしょ。死んでないよね??だって、カッターでぐさぐさやったぐらいで死なないでしょ!(テキトーなこと言ってるが……)
ここからのシークエンスがね、納得できない部分だったんだよね。若さゆえの無鉄砲さ、もう姿を消すしかないという思い込みに物語の盛り上がりを託しちゃって、実際はそうじゃないでしょ、。っていうさ。
だって今回の事件は殺人じゃなく傷害、しかも未成年な上に、そもそもの原因は被害者側にあったことを証言できる人物がいるんだから。
正直言うと、彼ら二人が直面したしんどい過去が、ノスタルジックな過去電話にぬるぬるされちゃった感はある。そして二人がそれを、真に直面しないまま、傍観しちゃったかなあ、という感覚も。
正直言って、二人が本当に恋に落ちたの?と思っちゃったのは、有海が真洋を発見してからの展開が、ことさらに刹那的な恋情を盛り上げる義務感を感じるがまま展開していく感じがしたのもあって、しっくりこなかったんだよね……。空き部屋に住み着いているっていうベタな理由であっさり追跡されて、二人引き離されてしまう、だなんて、言いたかないけど、頭悪すぎと思っちゃう。
正直言うと、過去からのメッセージ、雑音混じった留守電とか、さっむーい!ないわ!!というのが素直な気持ち。
本作はところどころは、とても美しい作品だと思うのだが、なんか、立ち止まっちゃうよね。★★☆☆☆