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「ま」


2023年鑑賞作品

まなみ100%
2023年 101分 日本 カラー
監督: 川北ゆめき 脚本:いまおかしんじ
撮影:近藤実佐輝 音楽:大槻美奈
出演:青木柚 中村守里 伊藤万理華 宮崎優 新谷姫加 菊地姫奈 藤枝喜輝 下川恭平 日下玉巳 諏訪珠理 野島健矢 高橋雄祐 詩野 濱正悟 オラキオ


2023/10/2/月 劇場(新宿シネマカリテ)
立て続けに青木柚氏の主演作に遭遇して、新たな才能の開花に立ちあっている気がして嬉しくなる。そのどちらも意欲作で、本作は監督さんもとても若くて、若いのにもう自伝的なような作品を作って、見せ切って、凄いと思った。
自伝的……そう、青木氏演じる主人公、データでは“ボク”としかなっていないが、確かに名前を呼ばれていたのに思いだせない(汗)、そう、そのボクが、今は映画監督となっていること、そしてラストクレジットで、瀬尾先輩に捧ぐ、と出てきたことで、あぁ、そうなんだ、やっぱり、そうなんだ、と。

だって、現代劇なのに、描いているのは平成が終わるところを一番手前において、そこからさかのぼる10年の物語なのだもの。
今や平成も、甘く苦く思い返す時代となった。年号が変わるタイミングが、社会人としてや、結婚を迎える年齢である彼らにとっては当然のことだ。
彼らの高校生時代はほんの10年前、私にとってはついこないだなのに、まるで私たちの高校生時代を思い出すような甘酸っぱさがあるのはどうしたことだろう。

高校生映画はいつの時代もあまた存在するけれど、常にその現在の、それまでの時代を切って捨てるような、新しカルチャーとファッションにキラキラとしていることに腐心する作品が常だった。
だからオールド観客は眩しく眺めるばかりだったのだけれど、本作の彼らは、まるで私たちの高校生時代を思い返せるような甘苦さがあるのは、彼らもまた、若いながらも大人となり、子供だった10年前を思い出すからなのか。

主人公のボクは、調子が良くていい加減で、常に彼女はいるけれども、高校生の時も、大学生の時も、社会人の今も簡単に約束を忘れたり、浮気がバレたりするようなヤツである。
大学では映研に所属するけれども、どんどん部員が辞めていってしまう原因が、自分には人望がないから、と自嘲でもない調子で分析したりする。監督の分身であるであろうこのボクにそうしたキャラ設定をするのが、なにかこう……可愛らしい自己否定というか、きっと実際はそんなことない、だってちゃんと映画愛がなければこうして商業映画としての作品をきっちり作り上げるなんてことは出来る筈もないんだから。
自分の分身であるボクを徹底的に叩きのめして、自分を成り立たせてくれた友人や、恋人や、永遠に片思いの女の子たちを鮮やかに浮かび上がらせる。それがなんだか愛おしくて。

冒頭は、恋人に浮気がバレて、ぱんついっちょで外に放り出されるシーンから始まる。つまりこれが、一番手前の時間である。
ボクを待っているノッポ君とオチビ君の二人は、これから明らかになる、高校時代からの腐れ縁である。体操部で青春を分かち合った仲間だが、そもそもその入部の動機が、華麗にロンダートを決めるまなみちゃんの存在であった。
ボクはこの10年、まなみちゃんに愛の告白のみならず、プロポーズまでし続けた。花火デートもしたし、しまいにはラブホ宿泊までしたのに、まなみちゃんは軽く受け流し続けた。

そりゃそうだ。だっていつでも、ボクは軽い調子だったんだもの。結婚しようよ、結婚できる年齢になったから、と18になったボクは言ったのだった。そりゃ、まなみちゃんが本気じゃないでしょ、と言うに決まってる。決まってるけれども……。
ボクは本当の本当は、まなみちゃんがいつでも一番で、一番だから冗談に紛らすことしかできなかったようにどうしても思えてしまうし、まなみちゃんもそれを感じた上で、でも本気に向き合えないんだったらそれはダメでしょ、と思いながら、でも、どこかで、待っていたようにも思えて。

高校時代というのは、進学か否か、地元から出るか否かでその先の関係性を決定づけてしまう。まなみちゃんは順当に進学し、地元を出た。ボクは浪人し、第二希望の大学に進学した。
実際にそうだったのかもしれないけれど、こういう描写に自己否定の照れくささを感じて、第二希望であったにしても、この大学で得た恋人や、サークルで打ちのめされたことが彼を形成し、成長へと導いたのだろうからさ……。
何かね、ホント自己否定の照れくささが全編通じて感じて、きっとそれは、まだその形成期からそれほど時が経っていないからなのかなと思ったり。絶対にそんなことないよ、と思うのだけれど。

でも確かに、女の子の方が男の子よりどんどん先に大人になる。メイクやリクルートファッションでハッキリ差が出るし、特に社会人になったまなみちゃんとまだプラプラしているボクが再会するシーンは顕著である。
まなみちゃんはばっちりメイクにオシャレなリーマンファッションで、ボクはだるだるのスウェット姿なのだから。

高校時代は体操部で、まなみちゃんの華麗なロンダートに男子三人刮目して、バク転出来たらモテるかな、なんてありがちなヨコシマ心で入部。
それでもマジメに取り組んで、先輩の立場になると、文化祭に“うつつを抜かして”やる気のない後輩女子部員に憤り、顧問に直談判したり、商店街のごみ箱を荒らして叱責されたり、納得いかない!と髪の毛をハサミでザギザギに切ったりするような……あぁ、情熱のもどかしさをどこに持っていったら判らないザ、青い高校生時代、なんである。

その中で、マドンナ的存在の瀬尾先輩、瀬尾先輩と付き合ってるんじゃないかという噂のイケメンのサトシ先輩、三人の頭を小突いてホレホレー、というようなアフロ頭の安藤先輩女史は、ああ、いい感じの緩衝材である。
彼ら男子三人にとって、学校中のマドンナである瀬尾先輩や、ボクが10年間片思いし続けるのに本気でアタックできない美少女のまなみちゃんのような女の子たちだけが、女の子、であり、気軽にジャブできる安藤先輩はその範疇の外にいる。
だからガキだというのだ。安藤先輩のように男女、先輩後輩、先生、どの立場にもするりと入っていける女子こそが最強の女子。一見ユニセックスに見えるあたりがギャップ萌えの魅力なのさ!

おっと、フェミニズム野郎の好みの女の子だったからつい深追いしてしまった(爆)。ボクは何故、本当は本当に好きだったまなみちゃんに、いつも軽口をたたくような形でしか思いを伝えられなかったのだろう。
まなみちゃんは、ひょっとしたら、いやきっと、真剣に、想いを伝えてほしかったに違いない。やっぱり僕と結婚しようよ、なんて調子で言われたら、それを本式に進めてなんていけないじゃない。本当にリアルにイエスが欲しかったら、絶対にもらえないアプローチの仕方。

ボクはだらだら大学に通っている時に、就職活動中と思しき瀬尾先輩と偶然出会う。瀬尾先輩は後に病を得て亡くなってしまうのだが、この再会の時、なんたっていつでもテキトーに女の子に接しているボクだから、っていうキャラ付けな感じもあって、路上で飲み交わしてへべれけになった先輩、公園の地べたに寝っ転がっちゃって、笑い合って、ふとボクは先輩に、キスしましょうか、なんて言ったのだった。

誰もが憧れるきれいな瀬尾先輩。高校時代はボクではなく、一緒に体操部に入部したオチビの熊野君が告白して玉砕したのだけれど、ボクだってきっと、憧れの存在ではあったに違いない。
そして、瀬尾先輩にはまなみちゃんへの想いを見抜かれていたし、そんな先輩にキスしましょうか、だなんて、おめー良く言えたなと。

でもそれが、それが……。シーンが飛び、ボクは病院に見舞いに来ている。まなみちゃんも来ている。ベッドにいるのは瀬尾先輩。あの可愛らしいお顔が不自然に腫れあがっていて、何の病気かは明らかにされないまでも、その後のシークエンスでまなみちゃんが、瀬尾先輩、死んじゃうのかな……と決定的な一言をどうしようもなく吐露しちゃうことで判ってしまう。
ダメだよ、なんで言っちゃうんだよ。でもそれは、ボクに対してだから言えたのか。ずっと苦しくて、誰かと共有したかったことを、ボクだから言えたのか。
でもそれでも、まなみちゃんとボクは、一度だって、恋人同士にはならない、なれないのだ。これ以上なく、理解し合い、思い合っているのが判るのに。

瀬尾先輩の葬儀にまなみちゃんは来なかった。後輩たちが傍からやきもきして見ていた瀬尾先輩とサトシ先輩は、お互い思い合っていたことが最終的に明らかになったのに、彼女の病気のタイミングも邪魔して、ついに付き合うこともなく……。
でも、何が正解なんだろう。付き合えば、彼氏彼女になれば、ゴールなのだろうか。ボクとまなみちゃん、サトシ先輩と瀬尾先輩、どちらもきっと両想いだったのに、どちらかに、あるいは両方に、真剣に行けない怯えがあったのか。

タラレバは言うべきじゃない。でも……ボクとまなみちゃんの場合は、お互い今生きているからいいさ。何度も失敗を繰り返して、今選択した自分が正解だと思えればいいのだから。でも、瀬尾先輩は亡くなってしまった。もしかしたら悔いを残して。

ボクの悪友たち、ノッポの町君はまなみちゃんの結婚式に向かう道中で、自分もまた授かり婚に至ったことを報告する。そう、今彼らは新しい年号へと向かう途上、社会人としても、伴侶を得るタイミングとしても、岐路にいる。

まなみちゃんの結婚式、映像のプロとして撮影係としての立場としても出席しているボクは、最後の告白を、まさにダスティン・ホフマンの卒業をやるか!ぐらいのノリでウエディングドレス姿のまなみちゃんにかますのだけれど、この時も真剣じゃない。笑いながら、やっぱり僕と結婚しなよ、なんていうノリである。
切ないというか、歯がゆいというか、彼は……どうしたかったんだろうなぁ。まなみちゃんの存在は、彼にとっての彼女の存在は、判るような気もする。本気で好きなんだけど、そうじゃない、みたいな。子供のように純粋すぎる好きだから、冗談めいてしか伝えられない。本気なのに、みたいな……どう言っても上手く言えないけど、こんな風に、好きなのに、どうしても本気で伝えられない相手って、いるのだろう。

ラストは、冒頭、浮気がバレて、まなみちゃんの結婚式に行く朝で、ぱんついっちょで放り出された、その恋人に平謝りする場面である。高校時代、どうしようもない苛立ちを体操部顧問(オラキオ!)にぶつけ、職員室でザッキザキに髪の毛をハサミで切った、その思い出を、マイルドに、恋人に対する懺悔の形で再現するんである。
まぁその、これで許しちゃう、彼の手を止めて自ら優しくカットしたげる彼女は甘いなあと思いもするが、彼女が最後の彼女、彼と共に歩んでいく彼女なのだとしたら……ボクのキャラ設定は必要以上に自虐的傾向にあったから、この結末で救われたのかもしれないなぁ。★★★★☆


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