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「め」


2023年鑑賞作品

新・夫婦善哉
1963年 118分 日本 カラー
監督:豊田四郎 脚本:八住利雄
撮影:岡崎宏三 音楽:団伊玖磨
出演:森繁久彌 淡島千景 淡路恵子 小池朝雄 浪花千栄子 若宮大祐 山茶花究 八千草薫 中川ゆき 田中春男 八代万智子 藤田まこと 三木のり平 辻伊万里 松村達雄


2023/6/6/火 劇場(神保町シアター)
なんとあの大傑作、大大大好きな「夫婦善哉」の後日譚が作られていたとは!!女にだらしないダメダメ男、柳吉はまさにモリシゲの当たり役だし、浮気とカイショのない柳吉に泣かされてばかりなのにホレ切ってて別れられない蝶子に、絶世の美人の淡島千景が切なくて愛しくて。
時に早口すぎて聞き取れないほどのポンポンとリズミカルな関西弁の応酬が、私なんぞにはとてもここに文字起こしできないのが悔しい。

本当にもう、最高なんだもの。柳吉が浮気していると聞きつけた蝶子と、すっとぼける柳吉の攻防戦、柳吉は、さ、あっち行ってナニしよか、みたいな、もうモリシゲの真骨頂、おっぱいをちょちょいとつついたり、ちょっと後ろからハグしてみたり、くっそー!!と思うぐらい、もうホントに、スケベなダメ男がなぜか愛しくて、たまんないんだよなぁ。

そらね、もう本作の柳吉は前作以上にダメ男っぷりがひどく、さすがのモリシゲラブな私も、てめーいーかげんにしろ!!と怒鳴りたくなるんだけど、でも、ダメなの。
それは蝶子のみならず、ニューヒロイン、いわば本作の真のヒロインはこっちかも、と思わせるあばずれ(懐かしい言い方だが、まさにそんな感じ)娘のお文もまた、最初は金づるでしかなかった柳吉にホレこんじゃうところからも、判るってもんで。これはもう、モリシゲでしかできない、こんな男になぜホレちゃうの、女は!というさぁ!!

そうだそうだ、柳吉はいいとこのボンボンで、蝶子とイイ仲になったことで勘当されたんだっけ、そうだった。でもそれこそ前作でもそうだったように、勘当されて、数年後の今も変わらず蝶子のヒモ状態である彼は、更に今も変わらず実家に無心をする。勘当されたことなど忘れたかのように、である。
面の皮が厚いというか、無邪気というか。実家と蝶子に対しては、甘えたら金を出してくれるという根拠のない自信があるというか。
いや、彼だってそれが、もうムリだってことは薄々判っているのに、虚勢を張ることがやめられなくて、自分を愛してくれているところ、存在を認めてくれているところは、この二か所しかない、としがみついていると思えば、なんだか切ない。

そんな風に思わせちゃうところが柳吉=モリシゲのズルいところなんだけどね!
んで本作には前述したお文とさらに二人、重要人物がいる。柳吉の妹で、実家で婿養子を迎えた筆子と、柳吉の一人娘、みつ子である。
筆子、うっわ、八千草薫か!判んなかった!!婿に入った夫からは当然、そらまぁ当然、もう勘当したんだから、関係ないんだから、金など出せないし、出入りも禁止だと言い渡され、兄からはあの守銭奴が、と夫をののしられ、板挟みになって苦しい立場である。しかもみつ子の縁談が柳吉の知らない間に進んでいて、柳吉は更にヘソを曲げるもんだから、筆子の苦悩たるや推して知るべしなんである。

でも……案外、筆子はしたたかだったかもしれんなぁ。なんたって八千草薫サマが演じているんだから、可憐で奥ゆかしく、夫と兄の間で困り果てている様はそのとおりなんだけれど、困りながらもお兄ちゃんには耳の痛い通告をきちんとするし、夫に対しても、みつ子の花嫁姿を見せるために柳吉をこっそり呼び寄せた時に浴びせられた暴言を敢然と受け止める度胸があるんだから。

みつ子もまた、良かったなぁ。彼女もまた複雑な立場だよね、考えてみれば。お父ちゃんが他に女を作って出て行った。叔母がそのために婿を迎えて実家を継ぐことになった。肩身の狭い立場であるに違いない。思うがままに訪ねて来ては、勝手気ままに難癖をつけるお父ちゃんに、さすがに腹を立てて声を荒げる娘ちゃんの気持ち、めちゃくちゃ判るなぁ……。
それはね、柳吉が娘が嫁入りすることに、まぁ自分が無視されてコトが進んだことに子供っぽく腹を立てていることもあるけれど、やっぱり娘の嫁入り、ってことに言い様のない気持ちを抱えて、祝いの品物をことごとくののしるもんだからさ、そりゃぁ怒るさ。
先方には父親はいないってことになってる、って聞かされた柳吉の気持ちを思うとキツいけど、そうするしかなかった娘ちゃんの気持ちの方がキツいわ。だってこんなお父ちゃんなのに、娘ちゃんはやっぱお父ちゃんのこと、大好きなんだもんなぁ……。

そしてそう、あばずれ娘のお文である。淡路恵子。いやぁ、ヤラれました。東京から大阪に、いわば出稼ぎにきた、まぁ今風に言えばパパ活っつーか、金のありそうなおっちゃんを引っかけに来た、現代娘である。
柳吉はお文をメシ屋でナンパ。まさしくナンパ。あっという間にねんごろ(これもまた、懐かしい言い方だ……)。スリップ一枚で柳吉を翻弄するお文はまるで猫、いや、ヒョウのよう。
夏真っ盛り、汗だくで、くんずほぐれつ、いやー、エロエロすぎる、やば!おっぱい出すとか、舌レロレロとかじゃないのに、めちゃくちゃエロい。これは逆に(なんの逆?)今の役者さんでは出来ないかもしれんなぁ。

柳吉が無心した金は、もうあっさり、あっさりあっさり、このお文という女に巻き上げられちゃうのよ。最終的には、蝶子が柳吉とささやかな果物屋を開こうとしてこつこつためていた虎の子さえもよ。
柳吉が、妹から、蝶子から、拝み倒して出してもらった金を、ちょっとお文にしなだれかかられると、まーいともあっさり手渡しちゃうのにはアゼン!!ホントになんで、この男にアイソつかさんのか!!と何度も思うのに、なんでだよ……ホントになんでか判んないのに、判っちゃう、なんで!!

蝶子と二人話し合って、果物屋を開こうという話になっていた。なのにいつの間にか柳吉は、養蜂事業という夢を持ってきていた。今までも浅はかな考えで何度も金を食いつぶしてきた柳吉だから、蝶子がその夢を一蹴したのは当然だったし、観客側も当然そう思って見ていた。
はちみつではなく、ローヤルゼリーという商機をいち早く見出した柳吉のことを、でも今までのことがあるからそらまぁ周囲は、またボンボンの夢物語だと、聞く耳持たなかったのだ。

結果的には、結局は、どうだったかなんて、それは判らない。ただ、本当にラストのラスト、たった一人放り出された柳吉は、房州の養蜂家で働きながら夢を目指している。
そこへ蝶子がやってくるラストシークエンスはもう、胸を突かれまくりなのだが、そこまで行くのにはまだまだ、まだまだ、いろいろありすぎるの!!

だからね、お文にすっかり取り込まれちゃうのよ。でもそれには、養蜂をやりたい、という柳吉の想いがあったということは、まぁ……そうかなぁ。
お文は柳吉の夢をまともに聞いてくれた。現実的に聞いてくれた。彼女の故郷が養蜂で有名な土地であるから、と誘いをかけたからこそ、柳吉はお文と共に東京に出奔したんであった。

そらまぁね、柳吉は勝手よ。結局は現実から逃げ出しただけよ。養蜂の夢を誰も聞いてくれない、お文だけが聞いてくれた、養蜂が出来る土地へ彼女と共に行く、手紙を出せば、妹の筆子か蝶子はカネを送ってくれる。本当にそう思っていたのか。その場しのぎで、お文に対する執着と、自分は出来るんだと思い込みたいことと、そんな程度じゃなかったのか。
……まぁそうだろう、そうなんだけど、養蜂の夢を、蝶子も実家も全否定してたところに、お文が肯定してくれたってことが、やっぱり大きかったんだと思う。結局はお文は柳吉のカネだけが目当てで、自身のヒモである男を兄と称してカネが来るのを暑苦しい下宿の二階で待ち続けていたんだけれど、来る訳がない。

この、東京での無為な日々。兄と称した男とお文と柳吉の奇妙な共同生活。雑魚寝をするも、男二人はお文とよろしくやりたいもんだから、眠れないったらない。
階下の大家さん、アイスクリームのカップづくりの内職をしている。中国か韓国か、独特のなまりでおどおどとした柳吉をぶっ飛ばすのがたまらなく爽快でたまらなく可笑しい。当時は、いや今も日本人から差別的意識をこうむっているであろう彼らが、愚かで情けない日本人に比して実にたくましくイキイキと生きているのが嬉しい。

結局我慢の限界で、蝶子が東京に訪ねてくる。虚勢を張って、お文に対峙し、虎の子の貯金通帳をまるごと柳吉に渡すんである。蝶子は料理屋で働いているんだけれど、そこのお客から、柳吉が語っていた、夢物語かと思われた話が、実際に、しっかりと現実味のある商売ネタであることが判ったからなんであった。
これがね、何とも言い難いというか……。結局は、柳吉自身を信じて通帳を渡したんじゃなくて、他人の、世間の評価を信じた訳で。そう思えばその通帳が、そっくりお文に持ってかれたって、確かに柳吉のだらしなさからそうなったにしても、文句は言えないのだ……蝶子も柳吉も。

まんまと奥さんからの虎の子をだまし取って行方をくらましたお文が、やったった!!というはずのお文が、逡巡して、ヒモの男に、金と私とどっちが大事?だなんて、古今東西、陳腐の代名詞な問いかけをして、躊躇した男にゲンメツしちゃう。
これはまぁ……柳吉だってそう問われれば同じなのだから、この問いはね、しちゃいかんよ、と思うけど、古今東西、絶えない問題なんだろうなぁ……。しかし、お文がそんなにも、柳吉にハマってしまったとは、オドロキだった。したたかな現代娘、ヴィヴィットな淡路恵子のチャームがはじけていて、本作はまさに彼女に持ってかれていた印象だったから。部屋に戻ったら柳吉がいなくなっていた、うわー!!と号泣する彼女にこっちがビックリしちゃう。

奥さんである蝶子もまた、号泣していたんだよなあ。我慢限界で柳吉を迎えに行った。ため込んだ通帳が最大の武器。お文とも対峙して、女の意地を見せた。
夫婦ゆっくり逗留しようと用意した宿から、こつぜんと柳吉は姿を消してしまう。蝶子が発した、娘みつ子の結婚式の日取りを聞いちまったからだった。

あぁ……なんて罪な男。判ってる。妻より、恋人より、愛人より、男親にとって、娘が大事、一番なんだってことぐらい。
フツーに家庭、家族生活を営んでいるなら、そんなことに引っ掛かりはしない。でも、蝶子も、お文も、その当たり前からはじかれているから……。何も言わずに、いなくなっちゃうんだもの。それが、娘ちゃんのためと言われたら、もう、勝てないんだもの、何も言えないんだもの。

みつ子の花嫁姿を目にし、実家の稼業が株式会社として旧態から解体され、柳吉の居場所がなくなる、この一連を見せるシークエンス、祖先の写真を無造作に外され、どんどん引っ越し作業が進んでいく。
この時にもう、柳吉は自分の居場所がなくなったことを知っていた訳で、蝶子がそのことを知るのは……もう自分では手に負えない、柳吉を支えられない、と、ハッピー株式会社となった義弟のもとに訴え出た時にようやくであった。
柳吉はもう、判っていたのに。そのことを、蝶子がこの時ようやく知ったのだということを思うと、胸が詰まる。

蝶子は柳吉に会いに行く。房州。養蜂農家の地である。なんでそんな突然にそんな気持ちになったのか判らんけど、なんか、もう、一緒に死のう!!みたいになる。手首を一緒にひもで結んで、海の中に進んでいく。
ざっばーん!!と激しい波が打ち寄せた時、蝶子が、やめよう、と、ああ、これがね、関西弁、リリカルな関西弁で言ったの、ごめんなさい、再現できなくて。でも、それに答えた柳吉、モリシゲは、おおきに、と言った。もう、噴き出しちゃった。
もうこれまで、もうマジで、どうしようもなかった、これからもそうかもしれないけど、生きて行こうと。蝶子は柳吉にマジにホレてるし、柳吉だってさ、結局そうさ、そうだと思いたいが……。

めちゃめちゃ言い足りない。蝶子に横恋慕している、かつて柳吉の家の番頭だった男だったり、蝶子にマジに申し込んでる、お堅い警官だったり、いろいろサブストーリーがありすぎて。
そうだ!娘ちゃん、みつ子の結婚相手の青年医師が、藤田まこと!!うわ!!モリシゲとの、丁々発止の、聞くところによるとアドリブ満載だったという場面、メチャクチャ面白い!!娘の婿になる男を偵察に行くっていう下敷きでの、老若役者のバトルが素晴らしいじゃないの……藤田まこと、めっちゃイケメンだったなぁ。★★★★★


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