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「ら」


2024年鑑賞作品

ラストターン 福山健二71歳、二度目の青春
2024年 98分 日本 カラー
監督:久万真路 脚本:久万真路
撮影:柳島克己 音楽:石塚徹
出演:岩城滉一 高月彩良 淵上泰史 西尾まり 三浦誠己 貫地谷しほり 田山涼成 宮崎美子


2024/5/26/日 劇場(池袋シネマ・ロサ)
この監督さん、初見かと思ったら、「ファの豆腐」覚えてる覚えてる!なんとも不思議なタイトルだったから印象に残っていた。静かな生活の物語な印象だった。
本作もその色合いはあるけれど、悲哀がたっぷりあるけれど、どこか可笑しみがあり、ほんのりと明るい未来が見える。

夫婦二人、どちらかが取り残されるのなら、夫が取り残されてしまうのが悲惨だということは誰もが思うこと。私の両親の年代は確実にそうだったけれど、それより10も若い、70そこそこの彼らでもまだそうなのか、そうか。
このあたりの年代までかなぁ、男子の生活能力が皆無で奥さんがいなくなったら途端にウロウロしてしまうの。仕事以外に社会性を持ち合わせていなかった夫たちは、まず定年を迎えて途方に暮れ、妻を失ったら更に途方に暮れるもんだから。

そして、いまだに老々介護などというものが存在し続ける。この悲劇が叫ばれ続けて結構経ったと思うのに、いまだに。
子供たち世代が親を施設に放り込みたがる、的なことも併せてだが、本作においてもそうした匂いはするけれど、数ある選択肢の一つとして、という時代にようやくなってきているし、最終的には親子はお互いの腹を割って和解するのだから、ほんの少し光は見えている。

ついつい、私もいろいろ考えるところがあるもんだから、映画本筋から離れてしまう、いけないいけない。
岩城滉一氏、26年ぶりの主演映画だという。その26年前のはなんという作品だったんだろう、ちょっと興味があったりして。こんなにワイルドで色気があって個性的な人なのに、いわゆるバイプレーヤー的な感じじゃないのに、意外である。

しかもそんな色男ぶりを封印、愛する妻が認知症の末に亡くなってしまって、今は一人でいる福山健二なんである。絶妙に静かな田舎町。彼の住む一軒家も彼らがモーレツに働いて夢見る一軒家を建てたとおぼしき慎ましき家。急な石階段が辛くなるなんて、その頃には思いもしなかっただろう。
仲の良い夫婦だったことが回想シーンで示される。奥さんは宮崎美子氏が演じるのだから、可愛らしく、ちょっととぼけてて、そんな奥さんが健二は大好きだったんだろうなぁ。

この年頃の男子は生活能力がないとかけんつく言っちゃったけど、健二はちゃんと食事も作るし、正直何の問題もないと思うけどなぁ。
遊びに来た息子家族が、テレビのリモコンを冷凍庫に入れていたことを発見して眉をひそめるけど、そんなん、40代の頃からこちとらやっとるわ。うんうんとうなづいてくれる人が沢山いる筈!

心配だからと、まるで監視カメラのように、てか、まんまあれは監視カメラじゃないの、常に健二の生活を覗き見られるアイパッドを設置していく。健二が難色を示すのは当然だ。落ち着かない、それ以上だよ、これはプライバシーの侵害だよ!!
でも、この人権丸無視な行為に対して、最終的には孫にほだされるオプションもあいまって、ずるずると受け入れてしまうのは正直私はガマンならんのだよなぁ。あれは、ヒドいよ。まるで赤ちゃんやペットの見守りカメラじゃないの。

どうやら住宅ローンの相談、とゆーか、カネの融通を言い出せずにいる、というのが言外に示されるのだけれど、結局それを言い出さずに終わるというのももやもやとする。
まぁ、家族であったって、いや、家族であるからこそ、本音を見せられないあれこれはあるのだろうけれど……。とにかくとにかく、あの監視アイパッドは、ダメだよ。あの是非をどこかうやむやにしてしまっているのが、すんごく気になる!!

……うーむ、どうもメインの外側のことばかり気になってしまう。えっとね、水泳よ。いや、その前に。外のコミュニティへと、健二は出かけていくのだ。息子から、行政がやっているシニア向けのコミュニティクラブのチラシを渡された時、健二も、観客であるこっちも、バカにすんなと思った。
自分の生活は自分で成り立たせている。毎日買い物にも行って、散歩で運動にもなっている。

それでもそのコミュニティクラブに参加することにしたのは、息子に対する反発はあったにせよ、リモコンを冷凍庫に入れたり、準備してあったのにまたサバを買ってしまったり、そんなことが重なったからだっただろうか。
もちろん、認知症の末に亡くなってしまった愛妻の記憶が一番であっただろうと思う。彼がここで得た友達に問う、どう死にたいかという問い、誰にも迷惑をかけずに死にたい、と言うのは、愛妻の記憶があったからなのだけれど、でもそれって、さ。じゃああなたは、奥さんが自分に迷惑をかけたと思っているの?ってことを、判ってるのか、ってことなんだよね。

でもそれは、きちんとラストに回収される。出来る限り、自分自身で生活していきたい。でももしもの時には、助けてほしい。
こんなシンプルなことを、意志疎通出来てるかいないかで、家族関係ってきっとめちゃくちゃ違ってくるんだろうと思う。

で、また脱線したけど(爆)。コミュニティクラブ、そして何より、水泳、なんだよね。このコミュニティクラブで出会う、友達、そう、友達だ……田山涼成氏がサイコーである。エロジジイなんである(爆)。でも、だからこそかな、ヘンなプライドが高いというか、幼稚園ごっこのような体操を強いられたりするのに吠えて飛び出して行って、後悔したりしている。
でも、確かに判らなくもない、というか、判るわ。老人扱い超えて、赤ちゃん扱いされているって、健二も日記に書いていた。日記……孫のジャポニカ学習帳を拝借して、妻に当てた帰ってこない書簡みたいな、大きな文字で、書き綴る健二。

そのエロジジイ橋本さんが、掲示されていた水泳教室のコーチの写真に、イイ女だなぁ、おい、ということで、健二を誘ったのだった。一度は断った。泳げないからと。しつこく誘う橋本さんに強い口調で反論して、気まずい雰囲気になった。
この時に、友達になったのだ。というか、橋本さんが、こんな年になって出来た友達だから、つい甘えてしまった、という表現をして健二は驚き、友達……と妻への手紙の形の日記で反芻する。

きっとモーレツサラリーマンだったであろう彼は、学生時代以来友達という関係性どころか、その言葉さえ忘れていたんじゃないかと思う。
これもまた、シニア男子のあるあるだ。女子は主婦をしてようが仕事をしてようが、いろんな時期の友達を手放さずにいるもんだけれど。

橋本さんとも仲直りして、でも橋本さんは社交ダンスの方に気が行き、健二だけが水泳教室に取り残された。
講師は、選手として行き詰まり、契約から外れたのだろう、スイミングスクールのコーチとして働き始めた香里だった。レッスン内容を見てハードルが高い、と感じた健二は眺めるばかりで最初は参加していなかったし、彼が登録した初心者コースはまさにその理由だろう、受講者がいなくなってゆくんである。

香里を演じる高月彩良氏は実際、ガチでトップ選手を目指したスイマーだったという。彼女の人魚のような泳ぎに、橋本さんはエロを(爆)、健二は……憧れ、いや、なにか、自分が突破すべき何かを感じたのだろうか。
というより、香里の方こそが、初心者の指導者としての未熟さ、それが選手としてのそれに橋渡しされて、全くのカナヅチであった健二を教えることによって、自分の弱さ、傲慢さ、視野の狭さに気づいていくんである。

岩城滉一氏はこんな風に、くたびれたシニア男子を演じても、締まった身体、足の長さ、端正な顔立ち、きれいな白髪、もうどうしようもなくダンディな訳だからさ。すらりとアスリート美女の香里と二人の画がいいわけさ。
恋人同士に見えるという訳じゃない、ちゃんと設定どおり、コーチとシニア生徒には見えているんだけれど、この美しさがなんともいいんだよなぁ。

その対照となるのが、橋本さんである。中学生みたいなもじもじを経て、しっかり友達となる二人。しかし橋本さんは一時途中退場。脳梗塞で倒れてしまったというんである。
見舞いに行こうとするが、病院で治療費が払えない夫婦の姿を見て、同じシニア世代のいろんな問題を思って、足がすくんでしまう健二。

そして健二自身も調子を崩してしまう。孫の小学校入学祝いの写真撮影の日だったのに。嫁さん側の両親の都合もあったから、息子は父親を口さがなく罵倒するんである。
これはキツい。足をくじいてしまったというのに、事前になぜ言わなかったのかとか、ぶつぶつ言うんである。それなのに、孫が風疹になり、自身も出張で、妻と息子を隔離しなければならない状況で助けを求めてくる時、健二もまた発熱で倒れているのに、自分の状況ばかり強硬に主張して、親が助けに来るのが当り前だろってな態度。きっさまー!
それは、写真撮影の時もそうだったよね。ちょっと足が痛いぐらいで、予定に合わせてくれないなんてありえないとか、めちゃくちゃ自分だけ主導でさ。もー腹立つ腹立つ!!と思っていたのだが……。

いたというか、今でも腹立ってるよ(爆)。でも、親子であっても、別の社会、別のコミュニティで暮らしている、ってことなんだろうなぁ。孫息子が、ランドセルは黄色じゃなくてピンクが良かった、などと、健二からのプレゼントに小生意気な正直をかますのが、今になって思い起こされる。
序盤のこのシークエンス、私はこの孫息子に対して、複雑な気持ちを抱いたのだった。おじいちゃんからのプレゼントに感謝よりも文句が先に出る、でもそれは、まだ一桁の年齢の子供に空気を読めとか、察しろとかいうのはむしろ、キショい大人に育ってしまうことだから別にいいのだ。

ただ……ピンクじゃ女の子みたいと思われるから、黄色で納得したでしょという母親の台詞で、うっわ、そーゆーことか、いまだにそんな、化石化したジェンダー感覚でいるんだと思い、納得させられたこの子に同情してしまう。
そして……健二はその経過を見ていたのかどうか、というのが気になってしまったけれど、これが冒頭、そしてラスト、黄色のランドセルを背負った孫息子に、さらりと、良く似合ってる、とぽんぽんと叩いてみせるのが、何もかも、判っていたんだろうなぁって。

この年代、ジェンダーやら多様性やらハラスメントやらが一気に押し寄せてきて、サラリーマンとしてその対処にあたふたしたまま定年を迎えた、ってな世代だと思う。きっと頑固な芯を持っているだろうに、嫁さんや孫には決して見せずに優しいおじいちゃんに徹しているのが、さぁ……。

香里は健二をコーチすることによって自分ののびしろが判り、2年ぶりに記録を更新する。アスリートは、一握りどころじゃないスター選手じゃない限り、引き際とその後の人生を考えなくてはならない。
香里が嬉しくて嬉しくて、誇らしげに掲げた賞状は4位、表彰台には上がれない成績だけれど、アスリートにとって、記録更新、納得のいく試合、それこそが大事なことなのだろう。
こんな風に、年代の違う関係性が築き上られるのは、難しいけれど、でも、これからはさ、そうでなきゃさ、お互い、やっていけないもの。てゆーか、……昔は、そんなこと、考えずに、出来ていた筈なのに。

ずっと、気になっていた。ワンワンと吠え続ける近所のわんこ。近隣から苦情が出ているらしく、いつも飼い主はびくびくとしていた。世話をしていた母親が亡くなり、息子は仕事で忙しく、愛情を注げていない、つまり散歩に行けてないってことが見て取れた。
もう!健二!!散歩を請け負ってやってよ、早く早く!!と劇中ずーーーーっと思っていたから、最後の最後、ようやくでさ!

しかもそれが、まずは社会性ゼロ男子として放たれた健二が、ここまでさまざまあって、わんこが吠えてる家のチャイムをならして、時間は売るほどありますから、散歩をさせてもらえませんかと、見た感じは穏やかにこなれているけれど、きっとドキドキで言いだしたんだろうと察しられる。
相手はもう感謝感激で、その後はさ、わんこを介したまた新たなコミュニティーが産まれる訳さ!最高じゃないの!!

私は独身のままここまで来て、だから彼らとは違うバージョンなんだけれど、すんごく若い時からこういう道筋は考えている。急に考え出すと、きっと大変だろうなとこんな作品に接すると思ったりするが、果たして血縁とつながっているのが、その方が良いのか、幸せなのかと、結構若い頃、ティーンエイジャーの頃から考え続けている。
そして、いまだに日本という国は、そのもやもやに応えてくれなくって、基本的に、家族が世話するのが当然でしょ、親や子どもを看ないだなんて人にあらずとか強いるスタンスなんだよなぁ。と。

その方向性では、ちょっと甘いなと思わなくもなかったけど……ちょっとね、岩城滉一氏かぁ!というのがあったから。こんなスタイリッシュな人が、しょぼくれた老人を演じるのはそらぁ難しかろうなって。★★★☆☆


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