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「さ」


2024年鑑賞作品

サイレントラブ
2024年 116分 日本 カラー
監督:内田英治 脚本:内田英治 まなべゆきこ
撮影:木村信也 音楽:久石譲
出演:山田涼介 浜辺美波 野村周平 吉村界人 SWAY 中島歩 円井わん 辰巳琢郎 古田新太


2024/1/31/水 劇場(TOHOシネマズ錦糸町オリナス)
昔懐かし昭和の少女漫画のような物語。それはそれで美しいラブストーリーになり得るけれど、説得力というものが必要になると思われる。
リアリティとまでは言わない。リアリティはなくてもいいから、説得力、力づくでも納得させてほしいというか。いや、納得させる前に泣かせてほしいとか。

声の出ない清掃員の蒼、視力を失ったお嬢様音大生の美夏、漫然とピアノを習わされ、今やカジノで借金まみれのおぼっちゃん北村……なかなかに、勇気のある人物設定であると思う。
基本的には日本人は全国民中流意識が強いと思うけれど、確かに一方では格差はあり、それを見事に突いた「あのこは貴族」なんて作品も思い出す。つまり、隠れた格差社会はそれだけに根っこが深く、美しきラブストーリーと合わせようとしたら、こんな風に良くない意味でのマンガチックに陥るように思っちゃう。

過保護の母親とおばあ様まで登場(それともあれは、祖母ではなくて、世話係のおばあっぽい)、もちろん運転手付きの車で送迎。まぁそこに反抗して、白杖を手に美夏は一人行動するのだが、そこには、彼女の目には見えていない蒼の誘導がある訳で……。おっとっと、またしても訳判らんまま突っ走ってしまった。最初から最初から。
蒼と美夏の出会いは、美夏の通う音大。屋上で蒼がペンキ塗りの作業をしているところに、おぼつかない足取りでフラフラやってきた美夏が、手すりを乗り越えようとした。
それを身体ごと抱きとめて止めたのが蒼だった。美夏が落としたガムランボール(ちっちゃい鈴みたいなやつ)を蒼は拾い上げ、その後彼女とのコミュニケーションツールとなる。

ところで、オフィシャルサイトでは、蒼は「声を捨てた」となっていることにあれっと思うんである。彼の喉には傷があり、その事件は後に回想の形で明らかにされるのだが、観客側は当然、声を失った、喋ることが出来なくなったと受け取っていた訳で、これが自分の意志で声を捨てたとなると、全然話が違ってくる。
そんなこと、無いと思うんだけど。本当は喋れるけど、喋んないってんじゃ、ないよね??

この、声を失った経緯もドラマチックに描かれるけれど、ど、どうなんだろう……。地元の若者たちのトラブルなのか、単にキ印だったのか、ナイフをもって暴れまくっていた男に、蒼の友人、今現在の時間軸でも親しく付き合っている子が切りつけられた。蒼が立ち向かい、喉を切られた。
その男は、ヤッタった!俺が勝った!!とかイキっていたから、やはり地元のツマラナイ縄張りトラブルだったのかもしれない。それは今現在の時間軸でも繰り返されているから、その下地がそもそも、蒼をがんじがらめにしていたということなんだろう。

蒼は、イキったこの男を、首から血を流しながら、突進し、ナイフを腹に突き刺した。……そらダメだわ。クライマックスに至って、蒼が殺しの前科があると示される、死んじゃったのか……そらダメだわ。
そりゃこの男はサイテーと思うし、友人だって蒼だって死ぬかもしれない傷を負わされていたにしても、なぜ腹にナイフを突き立ててしまったのか……。憤ったその気持ちは判るけれど、そう、こういうところ。

説得力、なのよ。ついうっかり、じゃ済まされないのよ。同情というのも違うけど、納得できないのよ。うかつなだけじゃん、と思っちゃうのよ。
そして蒼がこの過去の傷に対して、どう向き合って生きて来たのか特段示される訳じゃない。殺しの前科があった、それが声を失った原因だった。
何も殺しにまでしなくてもいいんちゃうの。殺しにまでするのなら、彼自身の過去を捨てている想いを教えてよ。それが声を捨てたということなのかもしれないけれど、観客には、声を失ったとしか受け取れないもの。その昔からトレーニングしていたんであろう格闘技でバッキバキに喧嘩強いのも、まぁカッコイイけど、マンガチックだしなぁ。

美夏の人物設定も、もどかしい。交通事故で、視覚を失い、手のしびれもあって、思うようにピアノが弾けない。視覚に関しては手術の成功によって徐々に回復することは判っている。それでも美夏は、いつなんですか、と医者にかみつく。
むしろ手のしびれの方がいつ治るのかどうかということが示されなかったから気になっていたのに、それはスルーされてしまう。そりゃまぁ、映画的には、声を失った男の子と視覚を失った女の子、というシンプルな図式が美しいし、彼のことが視覚で確認できない彼女、でも手の感触や気配で判る、というのがグッとくる訳だけれど……。

美夏が、お嬢様キャラで、心配する友人にも、ライバルが減ったでしょとか減らず口叩いて、心配する教師たちにも反発して、結局、蒼と北村としか関係性を持たないっていうのが、ちょっと、ヤだったかなぁ。
だって、蒼は地元の友人と凄くいい関係を築いていて、学生時代、蒼に助けられた友人は、彼を心配するあまり、北村と美夏をチンピラたちに売るような齟齬も生じるぐらいで。
でも美夏は……視覚を失った、美しきお嬢様、可哀想な女の子、顔を見たこともない愛する蒼を探し求める、だなんて、なんか、なんか、フェミニズム野郎としては、納得できない!!
白杖を手に一人行動していても、その先には常に蒼がいて、彼女に知られぬように障害を排除したりして、それって、愛なの??彼女は結局、助けられて歩けただけ、それは感謝すべきことなの?それが愛に発展することなの??

ズルいと思うのは違うとは思うけれど、彼女の視力が回復する、それも最初から判っていたこと、というのもこのもやもやを更に加速させる。もちろん、そうは言われていても、いつ回復するのか、美夏は医者に問いただしていたし、本当に回復するのかという不安も当然あったであろうとは思う。
でも、回復が予想される前提とは思えない、本人含め、母親、おばあ、学校のスタッフ側の、可哀想な美夏ちゃん、という対応がおかしいと思うし、そんな対応されたら、そりゃ本人だって態度を硬化させるだろうなぁと思ったり。

北村の人物造形が一番謎だったかもなぁ。蒼たち貧民グループの前にエラソーに立ちはだかる、高級車を乗り回すおぼっちゃま。
北村が入り浸るカジノのスタッフに、蒼たちと敵対しているザ・チンピラがいて、このおぼっちゃまにイラついている雰囲気満点なのが、クライマックスのボッコボコ事件に至るのだが、地元同レベル貧民同士でもケンツクやって、更にその上のセレブリティを敵視して、そこに蒼たちが巻き込まれるという、複雑なのか適当なのかよく判んない相関関係。

これは……いらなかったんじゃないのかなぁ。蒼と美夏の美しき純愛ラブストーリー、そこに、蒼の替わりにピアノを弾く北村、その奇妙な友情関係、それだけで、良かったんじゃないのかなぁ。
声を失った蒼のバックグラウンドは確かに必要とは思うけれど、そこに殺しの前科まで付け加えなければ、美夏を守って姿を消すまでの重い格差が出なかったのか、そうなのだろうか。

蒼は北村に金を渡して、自分が弾いているテイでピアノを弾かせていたのだが、美夏は薄々、気づいていた。視覚を失えば、それだけ他の感覚が発達する。何より、屋上から飛び降りようとした時に抱き留められた、あの武骨な手の、胸の、腕の感触を、覚えていたに違いない。ちょっと妄想働けばエロに傾きそうな、全身の、感覚だったのだから。
首席なぐらい優秀な学生なのだから、その武骨な手が、ピアノを弾く手じゃないことも判っただろうし、北村と蒼の気配の違いも、次第に気づいていたに違いない。

北村を演じる野村周平氏は、音大のピアノ学生という優雅さから自ら反発しまくっている、でもやっぱりお坊ちゃん、という、泥臭い男くささがありつつ、気が良くてツメが甘い感じが良く似合ってる。ギャンブルの借金が三桁もあるのに、蒼の申し出に、値切りにまで応じるなんて、意外にイイヤツなんである。
美夏に岡惚れしちゃうのは想定の範囲内だが、チンピラどもに拉致され、手にぐるぐるネジを貫通させられ(ヤメようよ……)、美夏がやめてー!!と、鉄棒を手にスイカ割りよろしく、振り下ろす……いやそりゃ、二人対峙しているところに振り下ろしたら、振り下ろしたいヤツに当たるかどうか、50パーセントの確率やろ、アホか……マジでスイカ割りやん……。

こんな具合に、ここまでも言ってきたけど、美夏の人物設定、行動、なんかなんか、ないやろ、と思っちゃう。なんかね、基本的に、見えない女の子、守ってあげなきゃ、それが、愛情だと男どもがカン違い、みたいに見えちゃうのよ。
美夏の罪をかぶった蒼、北村はその彼に後ろめたさを感じながらも、美夏への愛のためにプロデューサーとしてそばにいて、彼女が立派なピアニストに育った時に、蒼の居場所を教える。いやいやいや、美夏を愛してるんなら、愛してる女を、力づくでも手放すなよ。

正直さ、オバチャン的視点では、蒼はズルいよ。なんも言わず、勝手に姿消して、俺の世界線とは違うとか、友達を使って言わせるとかさ、卑怯だよ。
友達君は、蒼に近づいたら俺が許さないとか見栄を切るけど、結局その後、現れないよね(爆)。テキトーだよなぁ。

時間が経過して、美夏がリサイタルを開催、見事な成功。華麗にドレスを着こなし、それを北村が見届け、蒼の居場所を伝え、ラストシークエンスとなる。
美夏が、明らかに場違いの美夏が、蒼がいると聞いた工事現場に、優雅なワンピースにヒールを泥たまりにつっこみながら、敢然と突き進んでいく。

隠れまくる蒼だが、結果的に見つかっちゃって、冒頭と同じように、トラックにはねられそうになった美夏を抱き留める。ぬかるみに突っ込んで、顔を見合わせ……キスをする。
これは、どうなの。あれだけ、蒼は、美夏とは世界が違う、だから彼女の罪をかぶって、そもそも自分は汚れているんだからとクサってたのに、見つけられたらあっさりかよ、しかもあっさりキスするかよ、と思っちゃう。せめて、問答があってしかるべき、あっさりキスはないだろー。

最初に言ったけれど、説得力、なのよ。納得させてくれなければ、どんなに役者さんが熱演してたとしても、冷めちゃう。ダブル主演の山田君と美波ちゃんは、まさに美男美女なのに、それを放棄して、仏頂面、山田君は顔を汚して前髪で目の表情もよく見えないし、難しい役柄をこなしたと思う。
でもでも……もったいない!!あんなにも美しき美男美女なのに!!ああでも、キャリアを積んで、このぐらいの年齢になったら、そういう役柄の経験もしたいと、すべきと、いうことなのかなぁ。もちろん、この素晴らしき才能に、クリエイター側がお願いしたい、ということだったということもあるだろうけれど。

それと、教師が盗撮で逮捕されるっていうオチがあんま意味が判らんかったが……。盗撮疑惑で蒼に職質させるのと、蒼が北村にカツアゲされていたと勘違いしていた友人がチンピラにチクったのと、どうつながったのだろう??私頭悪い??

古田新太氏がさ、まぁその、明らかに、ヤッツケっつーか(爆)このポンコツラブストーリー、まぁいいでしょ、という感覚を感じてしまったから、余計にやっぱそうよねーと思っちゃったかもしれない。
すみません、古田氏に勝手な責任をおっつけてしまったけれど。でも、そーゆーのって、判っちゃうじゃん。そうでしょ、古田氏。★★☆☆☆


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