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「ち」


2024年鑑賞作品

違う惑星の変な恋人
2023年 116分 日本 カラー
監督:木村聡志 脚本:木村聡志
撮影:山田笑子 音楽:渡辺雄司
出演:莉子 筧美和子 中島歩 綱啓永 みらん 村田凪 金野美穂 坂ノ上茜


2024/2/7/水 劇場(新宿武蔵野館)
「階段の先には踊り場がある」の監督さんの新作だと知り、間違いなし!と思って足を運ぶ。22年度の私のベスト4位、本当にヤラれた!っていう作品だったから。ゆるいけれど妙に緻密で途方もなく続いていく会話劇にうなるのは本作もまた素晴らしい。
「階段の先には……」には思いがけないどんでん返し、というか、そういうことか!と超びっくりした構成の妙と言うか抜群のアイディアがあったが、本作はそこまで思い切ったひねり具合はない、ないんだけれど、やっぱりビックリする部分はあり、うわ、やっぱりキタッ!と思った。その驚きが心地いいんだなぁ。

四人の男女の四角関係、見事な四角関係、どこも交わらない、右回りの関係。それが、二人ずつ、チャプターを区切って描かれていく。
これは、「階段……」でも覚えのある構成で、アホな私は、自分、理解しきれるかしらん……と身構えるが、二人ずつを、一人ずつ重ね合わせながらすすんでいく絶妙な構成で、一風変わったニックネームのような名前もその流れですんなりのみこめていく。一人一人のキャラクターもじわりじわりと胸に染み入っていって、まるで旧知の友達たちの秘密を覗き込んでいるような親密さを感じていく。
こういう図式だとやっぱりね、誰に共感するかとか、この人を応援したいというのが出てくる、それは、私を含め、きっと圧倒的得票数を得るのはモー君だと思われるんだけど!!

まぁ、最初からかみ砕いていこう。てかまず、ダサオシャレなオープニングが最高である。アメリカ映画、いや違うな、香港映画的なテイストでメインキャストをアルファベット表記で紹介していくんだけれど、その場面に登場している、ボウリングをしている男女たちのうちの二人しか、メインキャストにはいない。
このボウリングの場面は中盤、むっちゃんとモー君の、お互い好きな人が別の人を好き、という相談をしあう場面で描かれるのだが、その四角関係とは全然関係ない、モー君のボウリング仲間がまるで本編で重要な役割を担っているかのように、スローモーションで意味ありげに存在感を放つのが、後から思い返して、笑っちゃうんである。

そういう具合に、とにかくハズしたセンスがたまらなくいいんだよね。まず、このタイトルが最高だし。
このタイトルが、ラストシークエンスでモー君のむっちゃんへの愛の言葉に披露されるってことは、やっぱり作り手側もモー君に重きを置いているんじゃないかしらん!いやいやいや、ついついひいき目になっちゃうけど!!

だから、落ち着いて仕切り直しますと(全然進まない……)、まずね、むっちゃんがグリコと仲良くなるところから始まる。美容院の同僚、てか、グリコの方が先輩の雰囲気で、むっちゃんは新入りっぽいのかな?
むっちゃんのスマホに貼られたステッカーが、グリコもまた同じものを貼っている、同じミュージシャンを好きなのだということが判って、話してみたら音楽の好きな傾向が似ていて、ぐっと距離が縮まる……縮まる??

むっちゃんは独特の距離感の詰め方というか、いや、客観的に見ればそんなにヘンでもないんだけれど、グリコに言わせれば、知り合ったばかりでそんなに距離詰めないよ、ということらしいんである。
どうなんだろ、確かに全編、むっちゃんは独特のスタンスで人と接しているけれど、言うほど空気が読めないとかヘンな女の子とまでは思わない。グリコは、自分は全然平気だけれど、と言ってむっちゃんと結局仲良くなる訳なのだが、一般的常識人みたいにむっちゃんに相対していたグリコもまた、なかなかの人物だったんだから。

音楽の趣味が似ている、だったら一緒にライブに行こう、ということで、そこでむっちゃんは、色気ダダもれ男に一目ぼれしちゃう。グリコの昔からの知り合いだという、ライブに出ていたミュージシャンを担当するベンジーと呼ばれる男。
演じる中島歩氏が、もう彼はさぁ、こーゆー、タガがゆるみまくった、女にもてていることを自覚しまくっている、好きになられれば流され、自分が好きになったら当然その相手も自分を好きになると思ってる、そんなクズ男がどーしよーもなく似合っちゃう。
先述した、誰に感情移入するかっていうのから、いっちばん、サイテーの、マジコイツだけは許せん!!とゆー男さ。言い訳ばっかで、別れ話切り出されても自分が悪者になりたくないからぐずぐずする、意中の相手に手ごたえがないと思うと、二番手の相手にきっぱりと断れない、ホンット―にサイテーの男が、めちゃくちゃ似合うんだよな……。

だって、むっちゃんと、ヤッたよね??むっちゃんがベンジーに一目ぼれしたのを見てとって、グリコが二人きりで話せる場を用意してくれて、そこでむっちゃんはベンジーのLINEをゲットした。
そこからなかなかムズかったんだけれど、モー君の協力も経て、恋愛は団体戦だと、四人の飲み会を実施、途中まではむっちゃんは全然喋れなくてこれはヤバい感じだったのだが、モー君との作戦会議の末、トイレに立った先でベンジーと行き合い、「秘密を増やそうか」とベンジーからキスされたのだった。

おいおい、おいおい、おいおいおいー!もーマジでこいつ、やりそう!!むっちゃんは張りきってオシャレをしてきたのに全然話せなくて、つまり、この時点でベンジーとグリコはいい感じになってた訳でさ、少なくともベンジーはグリコに対して、長年の付き合いだったところから気持ちを移してた訳でさ。
それでさ、むっちゃんの気持ちをそらー判ってて、とりあえず手ぇつけてさ、しかも、長年の付き合いである、グリコとむっちゃんが観に行ったライブ、シンガーソングライターのシューコがいてさ。

しかもこのシューコが事態を察して別れを切り出すと、そもそも俺たち付き合ってないよね、とか、言う訳!ささ、サイッテー!!ならば何、付き合ってないなら、彼女からの提案は無効で、今まで通りのセックスだけする関係続けようって訳!!
ここでシューコが激怒しないのがフェミニズム野郎としては歯がゆかったが、付き合ってなくたって、別れるということはあるんだという、彼女自身が納得するために、そんな自分自身との決別を思って静かに語るのには、そ、そうか……と引き下がらざるを得なかったのは、悔しいなぁ。

でもそんなだから、そんなヤツだから、結局彼は愛を得られないのさ!!むっちゃんからの電話を無視してイチャイチャしていたのは、なんとグリコ!!この場面はマジでビックリした!!だってグリコは、むっちゃんがベンジーに一目ぼれしていたのを見て取って、仕事先で二人きりになれるように気を遣ってくれていたのに。なのに!!
これは友情裏切り、サイテー!と思っていたら、ベンジーがむっちゃんに対して好きな気持ちはないのに、期待させたままなのはいけないと、むっちゃんの友人としてベンジーを諫めるような態度で、えーっ!!何それ!!ここでまた、付き合ってないよね?という台詞が、今度は女子から発せられるの!!
キスはしたよね?と困惑するベンジーに、したけどさぁ……みたいな。一歩踏み込んだ男友達としては最高だけど、彼氏はないなぁ……みたいな!!

一歩踏み込んだ男友達って、何!!それってセフレってことやん!!!……いやでも、キスだけでセックスはしてないのか……あっ……でも……そういや……むっちゃんはベンジーと……セックス、したんだよね、そういう描写だったよね?思い違い??
むっちゃんが夢想していた、ベンジーとも話していた、ホテルの朝食バイキングで妙に贅沢しちゃう、パンとごはん、オレンジジュースと果物のオレンジ、どっちもとっちゃう、それを実現しちゃった。朝食に降りていく前、ベッドで一緒に寝ているシーンがあって、その後の朝食、これは、確実にやったやん、と思われた。
でも、それでもむっちゃんは、グリコがベンジーを、付き合っていると誤解させたのがいけない、と責めても、私もそう思い込んだから、だなどと、引き下がったのだった。

そんな、そんなこと、あるかい!!……その点があるから、誰もがモー君に肩入れしちゃう、んだろう。まぁ、グリコだって、一線は超えてないのかもしれない。いかにもイチャイチャしてキスまではして、超えてんちゃうんという雰囲気ありありだったけれど、超えてたにしても、グリコは、このゆるゆる男とカレカノになるつもりはないんだろう。

グリコはモー君を自分から手ひどく振って、ストーカーよろしく勤め先まで来られてメーワクセンバンみたいな顔していた彼のことを、変り者なところが似ているかもだから、むっちゃんに会わせたい、とまで言っていたのに、最終的にはモー君のことが好きなんだと言うのにはビックリ仰天である。
しかもそれに対してビックリするむっちゃんに、だって最近まで付き合っていたんだから、あり得るでしょ、みたいに、当然のように言うんだから、さらにさらにビックリ仰天である。 はっきりイヤだと思ったから別れたんじゃないの、その後付きまとわれたら更に気持ちが後退するもんなんじゃないのかなぁ……いや、これぞ恋愛の不思議。きっと、モー君とむっちゃんが、そもそもは自分が、二人が似た者同士かも、会わせたい、とか言っていたのに、実際、なんだか、いい感じになっていたのが、無意識化で彼女のプライドを傷つけたのか。
そんなね、シリアスな感じはない、ないんだけれど、この四人の中で、まぁビックリさせ要素人物だから、ついつい深堀しちゃいそうになる。

だってさ、この四人の中で一見、いっちばん、しっかりした社会人に見えるんだもん。むっちゃんはまだ若くて、どこかふわふわしている女の子。モー君は、そもそも何の仕事をしているかも判らないような不可思議さ。ベンジーは、なんたって中島歩氏、そして本作に通底する、一見して深い議論をしてそうで、客観的に聞いていると着地点が判らない会話こそ、ベンジーそのものでさ。
だからグリコが最もしっかりしてそうだった、友達思い、恋愛に対しても厳しい、しっかりした社会人に見えていたのに、中盤、むっちゃんからの電話を散々無視した挙句ようやく受けるベンジーのかたわらにべったり寄り添っているグリコにまじビックリし、あぁ……世間というものは本当に判らんと思い……。

でもね、最後の最後、まさしくこの四人が相まみえるクライマックス、スポーツバーでワールドカップの試合を観戦しながら決着をつけようという場面。
結局は、なんか、何の解決にも至らないし、ベンジーのいい加減さが浮き彫りにされたりもするし、全員片思いが何一つ崩れないまま終わるんだけれど、それでも、先述したように、タイトルになっている、違う惑星に行っても、という言葉でモー君は必死にむっちゃんに想いを伝えたし、絶対、ぜぇったい、観客の誰もが、この四人の中でモー君を応援したいと思ったと思う。

確かに風変りな男の子で、元カノのグリコに対しての執着にグリコが引くのも判る感じではあったんだけれど、でも結局、グリコも彼に戻ってきちゃったのは、その魅力故なのか、愛されることの方がラクだと思っちゃったのか。
グリコとベンジーのズルさというか処世術っぷりがあるから、ベクトルが交わらない四角関係だけれど、少なくともモー君の気持ちが報われて、むっちゃんと幸せになってほしいとシンプルに思っちゃう。

一人年かさというのもあるけれど、ベンジーを演じる中島歩氏の圧倒的な大人のズルさが際立ってた。声の独特さもヤバいよね。本当に、クズ男にしか見えなくなっちゃう(爆)。★★★★☆


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