「と」

２０２４年鑑賞作品

ドキュメンタリーオブベイビーわるきゅーれ
２０２４年　95分　日本　カラー
監督：高橋明大　脚本：
撮影：高橋明大　小林雄一郎　音楽：根田義市
出演：髙石あかり　伊澤彩織　池松壮亮　前田敦子　大谷主水　カルマ　水石亜飛夢　中井友望　阪元裕吾　園村健介　鈴木祐介

２０２４／１１／１３／水　劇場（池袋シネマ・ロサ）
ドキュメンタリーはあまり観る習慣がないのだけれど、これは、やっぱり、観に行っちゃうよねぇ。三作目でなんとなくラストの雰囲気を醸し出している寂しさもあり、ドキュメンタリー出してきたのはやっぱりそういうことなのかなぁと涙ぐむ気持ち。
でも、あぁ、幸せな気持ちになった。髙石あかり氏が、一生ちさととまひろでいたい、と言ってくれたことが凄く嬉しくって、心に刺さって。
観客にとっても幸せな作品との出会いだったけれど、当然彼女たちにとってこそそうだったんだというのが、インタビュー場面はそんなに多くないんだけれど、その少ない言葉の中に宝石のように凝縮されていて、たまらんのよ。

そもそも女子高生二人組の殺し屋、という設定が、髙石氏は確かにそのとおりの若さなのだけれど、伊澤彩織氏とは８歳の年の差。こちとら半世紀も生きちまうと一桁の年齢差はないようなものになっちまうが、２０代のそれは先輩どころじゃない、大人と子供ぐらいの組み合わせ。
伊澤氏の可愛らしい童顔もあって全然違和感なく女子高生二人でスタートしたし、第三作目まで作られての二人も、同じ年ごろのバディに間違いなく見える。むしろ伊澤氏演じるまひろの、社会に上手く適用できないぽんこつキャラ（これは、可愛いっていう意味でね！）に比して、髙石氏演じるちさとがそのあたりをそつなくこなす、というキャラ対比の絶妙さもあって、伊澤氏の方が時に幼子のように見えるというマジック。

でもそれでも、この年の差だからやっぱりスクリーン外では、伊澤氏はあかりちゃんと呼ぶけれどもやっぱり髙石氏は伊澤さんと呼ぶんだなぁと、それを最初に耳にした時にはちょっと寂しく思ったりもした。当然のことなのに。
でも、今回、このドキュメンタリー作品で、髙石氏の口から、一生ちさととまひろでいたい、という言葉を聞いて、もうぐっときちゃったのだった。そして、そうした、ちゃんと先輩としての相手をリスペクトしつつ、やっぱりこの二人はバディなのだと、スクリーン外でもそうなのだと、まだ年若い髙石氏の悩み相談を電話で受けた伊澤氏のエピソードとか、そんなささやかなところに感じて、もう泣きそうになっちゃう。

本作は第三作目の製作に密着したドキュメンタリーで、キャストやスタッフのインタビューにおいては、第一作目からこれまでにおける経過や裏話などが披露される。そもそもの第一作目の前に二人が同じく女子高生の殺し屋を演じた作品があって、その編集作業に製作会社のスタッフが目をとめたのが始まりだというエピソード、そして第一作目は単館スタートで、本当に、これぞ、口コミというものが、SNS時代ということもあって劇的に広がっていったことを目の当たりにすることが出来た幸福を思い返したりする。
そこまでのある種の奇跡はままあるけれど、その後、シリーズ化となるという流れは、なかなかないと思う、いや、ないと思う。私の半世紀の記憶でも（爆）、インディーズから始まってのシリーズ、テレビドラマにまで至るっていうのは、なかったと思う。

伊澤氏が第一作でやりきって、もう死んでもいいと、私が死んでもこの作品のことを、というようなことを言ったら監督さんがそんなことを言うなと怒ったという。うわぁ……と思う。第一作目に出会った時の衝撃、この小柄でふわっとした可愛らしい女の子が、ジャッキー・チェンもかくやというアクションを繰り広げた、本当にドギモを抜かれたし、スタントウーマンである彼女が、まさに全身全霊をかけて臨んでいたんだということを裏付けるインタビューで、だからこその、シリーズがあり、今があるのだと。
その上で本作の最大の魅力は、まさにギャップ、ほわほわした女子二人の生活があって、いや、殺し屋稼業もそのマインドでやってるんだけれど、でも、めちゃくちゃ非情、というのが本当に、今まで見たことがなかった。

この第三作目で投入されたぶっとびの大ゲスト、池松君のガチアクションには本当にビックリしたから、その実際の撮影風景を見られるのが本当に心躍る。このドキュメンタリーのメインオブメインはまさにここにあって、後半はもう解説も何も必要ない、という感じで、池松氏と伊澤氏のアクションシーン撮影をつぶさに見せてくれるんである。
ほんっとに、凄い……。最初の方こそ、女性の腹にケリを入れるなんて生理的に出来ないと思ったという池松君が、伊澤氏のマジの強さに触れて、こんなに人間の身体って壊れるんだと、ボロボロになりながら撮影していたその裏側を、ほんの少しではありながら垣間見れることが、なんとなんと、ファンとしては感涙ものか。

池松君自身が言っていたように、……彼は誤解されないように言葉を選んで言っていたけれど、判る判る、全身ストイック役者の彼がこの作品に呼ばれるということが、ある意味では意外だったというのは、判る。アクションはガチだけど、それとのギャップのほんわかさがこのシリーズの魅力であるから、自分がその世界に入れてもらえるとは……と語っていた。
この表現が凄く良く示しているというか、謙遜もあるけれど、彼の役者としてのスタンスと、一見して合わなそうに見えるというのは、観客こそがきっとそう思うだろうという危惧があっただろうことはメッチャ判る。

その上で、池松君は、演じる冬村かえでを、まったくのオフビートなく、ゆるみなく、最初から最後まで、狂気の殺し屋として生きた。いや、そう言い切るのも違うかも知れない。登場シーンの、トランクスいっちょにコートを羽織って血だらけ泥だらけのいでたちは確かにちょっとオフビートだし、妙な信念に突き動かされてる、間違ったストイックさ、みたいなところに可笑しみは確かにある。
あるんだけれど……それさえも怖いと思わせるほどの、ツッコミを許さない狂気の純粋さを、ボロボロになるまでに突き詰めたアクションをもって全身全霊で演じ切ってる。

伊澤氏のインタビューで、監督から言われたことだと、まひろがちさとと出会わなかった世界線が、かえでなのだと。まひろとかえでは表裏一体、殺しへの純粋なプロ意識やスタンス、不器用で社会に適応できないところ……確かに、めちゃくちゃ、似ている、相似形と言ってもいいぐらい。
だからこそなのか、三作目の後半は、ほぼほぼ二人の格闘であり、それはきっと、二人の、そしてお互いが自分自身との対話をしているのだ……。そうなると当然、ドキュメンタリーとなる本作においても、言葉などいらず、解説などいらず、二人の格闘、対話が描かれる。言葉はないのに、撮影シーンを示しているだけといったらそれまでなのに、なんて尊いのだろうと思う。

一見してそこには登場しないし、一時的に離脱しているようにも見える髙石氏なのだけれど……そんな風に思っちゃうのは、池松君と伊澤氏の後半のがっつりアクション撮影こうだったよシークエンスが濃厚だからなんだけれど、でもやっぱり、ベイビーわるきゅーれは、ちさととまひろであり、演じる髙石氏と伊澤氏なのだ。
伊澤氏は、髙石氏のことを、あかりちゃんは太陽だと、私を照らしてくれる太陽だと、言ったのだった。かえでは、ちさとと出会わなかったまひろなのだとそのキャラクターを説明されたと、伊澤氏がそれを語った時の表情は、まさにそれを百パーセント理解出来たというものだったと思うし、ここまでシリーズを見続けてきた観客にとっても、めちゃくちゃイメージ出来た。
だから、まひろ、ちさとと出会えて良かったね！と思い、そんな人に出会えなかったかえでの、演じる池松君の壮絶な演技に胸が苦しくなる。それを、そうではない世界線に行けたまひろとの対決にすべてがぶつけられるのが、本当に凄くって。

今までもそうだったけれど、三作目の中では特に、本当に壮絶なので、ちさととまひろ、それぞれに、本当に死んでしまったんちゃうん、という場面があって、血だらけでぶっ倒れている相手に恐る恐る近づいたら、ぶはー！！と息を吹き返して、ヤメてよ！！ていうのが、繰り返されるのね。
それが、二人の絆、いや、もう、これは愛よね、と思う、作品を観ている時にも思っていたから、この時の芝居する時の心持を髙石氏が語ってくれたのが、本当に、ムネアツでさ……。
まひろが死んでしまったかもしれない、血だらけで倒れているところに、恐る恐る近づいた時のシーンを、髙石氏は、泣いたか泣いてないか覚えていない、と照れくさそうに笑っていた。めっちゃ泣いてたよ！！実際の作品を観た時にも震えるシーンだったけれど、それを聞くと本当に……あぁ、ちさととまひろだよ！！って思えて。

伊澤氏が、あかりちゃんは太陽なのだと。いつもいつも明るく照らしてくれるんだと。その上で、ちさとと出会わないまひろの世界線がかえでなのだということを、キャラクターとして深く理解出来た一方で、役を離れたところで、髙石氏が悩みを抱えているのが思いがけないとか、萌えポイント爆裂で、やっぱりベビわるサイコー！と思う。
うーむ、このドキュメンタリー作品の中には、たくさんたくさん、豪華キャストのインタビューやアクシデント、髙石氏、伊澤氏が交互に体調不良となって撮影がストップしたり、めちゃくちゃ見応えあるのだけれど、やっぱりついつい、この作品のファンということは、二人のファンということだからさ！ついついそっちを追ってしまうよねぇ。
とにかくとにかく、なによりなにより、幸せなリアタイに出会わせてもらったことに感謝しかない！★★★★★

トップに戻る