home! |
ウェディング・ハイ
2022年 117分 日本 カラー
監督:大九明子 脚本:バカリズム
撮影:中村夏葉 音楽:
出演:篠原涼子 中村倫也 関水渚 岩田剛典 中尾明慶 浅利陽介 前野朋哉 泉澤祐希 佐藤晴美 宮尾俊太郎 六角精児 尾美としのり 池田鉄洋 臼田あさ美 片桐はいり 皆川猿時 向井理 高橋克実 八木将康 川野直輝 山田佳奈実 おくつようこ 大森つばさ 久保田磨希 中川大輔 伊勢志摩 永島聖羅 鈴木もぐら 水川かたまり 岡野陽一 ヒコロヒー 河邑ミク
篠原涼子氏主演ということだけれど、確かに最後まで見ればそんな気もするけれど、すべての人が主人公みたい。中盤までは特に、篠原氏の登場場面も少ないので、主演??と思っちゃうぐらい。
結婚式のトラブルを題材にするといったらそりゃぁ誰もが「卒業」の花嫁奪還を想起し、それをしっかり組み込みつつ、でもそれはサイドストーリーなのだというあたりが心憎い。
そして、結婚式のトラブルということから凡人が想像するのはヤハリ、漫然としたスピーチにあくびをかみ殺すとか、つまらない余興で場が冷え切るとか、ケーキ入刀やキャンドルサービスといった、新郎新婦が主人公となるイベントなのだから必須なのだけれど、結構これこそが見てられないとか。
それを、すべて、見事にくつがえして見せて、それこそをトラブルにしてみせるという発想が天才的過ぎて。
結果的に、素晴らしい披露宴となるそのトラブルというのは、時間が押していること。実にシンプル。それを完成させるために、見事に伏線が張られまくっている。
新郎が挨拶を頼んだ上司、乾杯の音頭は新婦の上司、新郎新婦の出会いVTRを作った新郎の後輩らが、自分たちの完成度にこだわって実に1時間もの時間が押してしまう。
それ以降の余興やスピーチを、ウェディングプランナー、篠原氏演じる中越らが削ることなくどう短縮していくか、そのことによってより感動が高まるといミラクルを産み出していくか、というスリリングな展開!
トップバッターを任されるのは、新郎の高校時代の後輩で、バラエティ番組のディレクターをしている相馬。正直、彼のところだけがあれ?と思ったのはあるんだけれど……。
本当は映画を作りたい、高校時代ロシア映画に目覚めて、でも今は下品なキャプションの色をチョイスしたりするときに、何やってんだ……と思ったり、している。
そこに先輩からの、相馬らしく自由に作っていい、という紹介VTRのオファー。彼が作り上げたのは、高校時代に憧れたロシア映画そのものの、なんつーか前衛的な画作りで、映画の観客であるコチラ側は正直ポカン。
スタンディングオベーションされて、スタッフも涙するようなものには到底思えなかったから、これは彼の妄想に違いないと思ったのに、その後の展開からすると、どうやらマジらしいのだよ……ね??
その後、新郎の上司が、職場での自分の落ちた立場を取り戻すためにと、徹底的にお笑いの研究をして練り上げたスピーチ、その彼に触発されて、即物的な乾杯挨拶を考えていた新婦の上司が、頭をフル回転させて彼もまた見事に当意即妙な乾杯音頭をとり、拍手喝さい。
この二人が終わった時点で1時間押しが判明し、つまりそれだけウェディングプランナー側もすっかり彼らに魅了されていた訳で、その後の時間をどうまとめあげるか、というミッションが湧き上がるのだ。
やっぱりこれは、バカリズム氏が芸人さんだから、お笑いに対する情熱をこの二人にメチャクチャ託してて。
お笑いのメソッドというか、本当に、アカデミックと言いたいほどに、詳細に分析していて、それを新郎の上司は事前の準備で、新婦の上司はその場のアドリブで、ってうのがさ、芸人さんのありとあらゆる能力をちりばめたいという感じがひしひしと伝わってくる。
だからこそ、その前に立たされた映像作家がどっかイジられているように感じるのは……これでスタオベされねーだろと思っちゃうのは……映画ファンとしては、哀しかったなぁ。
この中でマジに素晴らしいVTRで感動させるというのは、コメディとしては違うのかもしれないけど、うーん、でも、マジに感動VTRにしてほしかった気がする。
まぁそれは、おいといて……その後の時間短縮ミッションは本当にワクワクした。お見事。削るんじゃなくすべてをやり切る、短縮し、コラボすることで、二倍にも三倍にも完成度、迫力、盛り上がるという、これは、仕事とかすべてにおいて、見習わねばいけないと思わせる素晴らしさである。
和太鼓とダンスとマジックとマグロ解体ショーを一緒にしちゃうなんて、それだけ聞いたらマジでギャグだけど、スクリーンのこっち側で観ている私たちも思わず感動してしまう奇跡のコラボレーション。
マグロ解体していた新婦のお父さんが、マジックのイリュージョンで思いがけないところに飛ばされるといういきなりのファンタジーもあれど、これもまた、新郎の叔父さんがやりたがっていた縄抜けイリュージョンを想起させるのだから抜け目がなさすぎる。
その縄抜けの縄が、叔父さんが未練がましく持って来ていた縄が最後の最後で活躍するという、もう伏線の嵐で言いきれないのだが、ここでちょっと軌道修正。
そもそも新郎は、結婚式はやりたくなかったんだよね。まぁ気が進まない程度、というか、興味がない、というか。お金もかかるし。
でも、結婚式をやらないことが、夫婦のその後に関わってくることを経験上知っていた。そして、結婚式のあれこれを決める煩瑣に向き合わなければ、それもまた同じことであることも。
前半部分の、結婚式に向けての彼のやる気のなさ、あるいは彼女のやる気満々は、まぁよく聞く話ではあるけれど、いまだにそうなのか、とちょっとがっかりする部分もあったりして。結婚式に興味のない女子もいるだろうし、結婚式をやりたい、こだわりたい男子もいるだろうと思う、思いたい。
ちょっとね、こと結婚式に関して女子だけが前のめりという図式が、将来の夢はお嫁さん、だなんていう昭和時代を思い起こさせちゃって、フェミニズム野郎はケッと思っちゃうのだ。
でも最終的には、ミラクルな結婚式に彼も感動したのだし、そんなヤボなことは言いっこなし。それに良かったのは、式場の見学の時に、ちらちらと映りこんでいた他のカップル、それが男性同士だったことが、それを別に揶揄することなく描いていたのは、ああ、いいなぁと思って。
しかもこの時彼らが手にしていた引き出物アイテムが最後に効いてくるんだから、もうホントに伏線の嵐すぎる!!
なんてめんどくさい含みを持たせるのは苦手なので(爆)、二人が引き出物としてチョイスしたのはパンツ、なんだよね。男物、というんじゃないだろうな、引き出物なんだから。ユニセックスなボクサーパンツ。
引き出物は悩ましい、想像がつく。かさばらないもの、重くないもの。負担にならないという点では消えものがいいとも思うが、この二点で引っ掛かることが多い。消えものじゃなくても、負担に思われるものは避けたい。
そういう意味で普段使い出来て荷物にならないものといったら確かにパンツはいい。こっぱずかしいデザインでも、下に履いちゃうのならば人に見られることもないんだし。
でも、この引き出物が本当に有効であったことは、ラストのラスト、見事なオチで示されるのだけれど。
ようやくサイドストーリーにたどり着くことが出来た。そうよ、卒業よ。新婦の元カレの花嫁奪還作戦よ。でも結局それは、実行されることはない。てゆーか、間が悪すぎてあれこれしている間に、元カレ君はうっかりご祝儀泥棒に遭遇し、追っかけっことあいなるんである。
結婚式のタイムバトルだけで相当なボリュームなのに、サイドストーリーながら一本の映画になり得る展開を持ってくるのが凄すぎる。しかも、ノーテンキで間の悪い元カレに岩ちゃん、ご祝儀泥棒に向井理というイケメン極まりない二人を配置し、二人とも基本バカっつーか、特に元カレ岩ちゃんのアホさ加減が愛しく、ホントにこれで一本映画を作ってほしかったぐらい!
元カレ岩ちゃんが卒業よろしく元カノの結婚式に乗り込もうと思ったのは、同じ時を大学サークルで過ごした仲間たちとの温泉旅行で知らされたからであった。仲間たちはあくまでノリで、冗談でそそのかしたに違いないのに、なんかうっかり、俺が彼女を救い出す!!とか思ってしまった。
このあたりをリアルに深堀りしたら、ないないない、ということにはなるが、岩ちゃんと向井理という稀代のイケメン二人にくっだらない追っかけっこをさせるという贅沢極まりない展開こそが、しかもそれがサイドストーリーだというのが最高なんだから。
仲間との温泉旅行で、牡蠣が食べられない友人のをぶんどって食べまくって。しかも生牡蠣だからさぁ。都合6個は食べたんじゃない?確かにこれはハッキリとした伏線。新鮮な牡蠣であったって、6個は食いすぎさぁ。
ご祝儀泥棒との追っかけっこの途中で何度もトイレに駆け込んで、最後は、この泥棒の顔にまたがってブシュ―!!そして仲間が待つ小さな車に乗り込んで、臭い臭い言われながら、引き出物を開けてみると……仲間たちがいらねぇと笑う中で彼は、助かった、という最高のオチ!
そしてそうそう、新郎の叔父が未練がましく持ってきた縄抜けイリュージョンの縄が、半ばムリヤリ招待させられた、新郎の仲間たちが集うバーのマスターの、「ボーイスカウトやっていたから」という縄投げによって、泥棒キャッチ!伏線多すぎるわ!!
新婦が元カレ来ていたことも知らずに、知らぬが仏でお礼を言えなくて残念とか言っている、作り手側の優しさすぎよ。
ラストは、この急場を見事乗り越えた中越さんが、次の現場のトラブルに駆り出される。このオチで篠原氏主演というスタンプを押したような感じだけれど、やっぱりやっぱり、すべての登場人物が主人公と言いたいぐらいの素晴らしい配置で、本当にそれこそがミラクルだった。
コラボレーション余興のシーンは本当に素晴らしいエンタテインメント、見ごたえあったなぁ。★★★★☆