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「ふ」


2024年鑑賞作品

ファーストキス 1ST KISS
2025年 124分 日本 カラー
監督:塚原あゆ子 脚本:坂元裕二
撮影:四宮秀俊 音楽:岩崎太整
出演:松たか子 松村北斗 吉岡里帆 森七菜 YOU 竹原ピストル 松田大輔 和田雅成 鈴木慶一 神野三鈴 リリー・フランキー


2025/3/6/木 劇場(TOHOシネマズ錦糸町楽天地)
大人の夫婦愛、ラブストーリーに、松たか子という正真正銘の実力ある女優を持って来て、タイムスリップを絡めてくる、というのは意外というか、凄い冒険とさえ思う。タイムスリップ恋愛モノはどこか……そうね、そもそもは大林映画のイメージもあるからだろうか、青春の味がする思い込みが確かにあったかもしれない。

本作は、もう予告編で示されているからここはネタバレにはならないと思うが、事故死してしまった夫を、15年前にタイムスリップすることで救えるんじゃないか、それは私と恋に落ちず、結婚しないこと、私と結ばれない運命にいざなうこと、という、それはそれは切ない基本線。
そして、しかしそれは、過去を変えることによって未来を変えてしまうこと。タイムスリップにおける禁断の、タイムパラドックスに真正面から斬り込んでいる。これが、どうなるのか、という見応えがある。

結果的には、実に大人の対応として、タイムパラドックスは起こさなかった。大人の対応をしたのは、事故で死んでしまう未来を知ってしまった夫であった、というのが、彼を救おうと何度も何度も15年前に旅する妻の、言ってしまえば浅はかさを示すことになったんじゃないかと思ったり。
なんだかもやもやしたのはそのあたりだったのかもしれない。どうやって回収するの?彼女の浅はかな行動に対してさ!とかひっそり思っていたのかもしれない。なんだか心の中であらさがしばかりしながら見ていた気がしたもの。

あんなにお互い好きになって結婚したのに、なぜこうなるのか、という、世の中の夫婦事情を社会的検証したモデルケースのように描く前半。離婚届に記入し終わり、それを夫が今日、仕事帰りにか提出するというところまで来ていた。
いや、物語の冒頭はもう早速、夫の非業の死の場面からだった。ホームに転落した赤ちゃんを乗せたベビーカーと若い母親、彼女たちを助けようと迫りくる電車をものともせず飛び降りた夫の駈(カケル)。

後にタイムスリップした先で、そんな運命が待っているとは思いもしない彼に、妻のカンナは、見知らぬ人を助けて死の危険にさらされる時、家族のことを考えないのかと、責め立てる。
まさにそれを回避するためにカンナは過去へと何度も何度も舞い戻っているのだからその問いは当然とは言えるのだけれど、ほぼ離婚決定だった夫に対してそんなこと言うのは理屈が合わなくない??

タラレバは良くない。そう思うのは、本作がタラレバありきの物語だから。もう冷え切った夫婦生活だった。お互いがお互いを思いやれなくなっていた。こういう場合、それぞれ自分が正義になっている。そしてそれは、決して客観的に見ることはできない。夫婦の問題を、客観的に見る立場の人なんていないから。
だから、同性としては、夫婦生活に突入した途端、思いやりを失った夫に対して失望したカンナの気持ちは凄く判るけど、でもそれは、やっぱり同性から見るからなのだ。なのに、破綻した夫婦生活に関しては、夫側の視点は排除されている。カンナ側からの視点で、どんどん自分から距離を置いて行ったように見えてしまう。

これが、夫と離婚してその後一人で生きていく女性の物語なら、それでいいのよ。ワキ役となる夫の事情なんて、主人公の視点だけで語られていいんだから。でも本作は、最終的には二人は対等、じゃない?
15年後の未来から来る、未来の妻と恋に落ち、自分が事故死する運命を知り、結婚生活で愛する妻を哀しませたことを知り、まだなぁんにも悪いことしてない若き夫が、入れ替える必要もない心を入れ替え、未来の自分の尻拭いをして幸せな結婚生活を15年送って、死ぬる運命の日を待つ。

うっわ、こう書いちゃうとめちゃくちゃ悲惨。こんなの耐えられるの。駈は  学者で、何万年もの歴史を刻んできた学問を通して、タイムスリップという現象を、ファンタジーではなく、学理的にあり得ることとして受け止められる器を持っている。
だから、突然目の前に現れた、年の離れた女性であるカンナに惹かれる理由を、そういう運命があるならなるほどと、過去現在未来は、レイヤーのように同時存在しているという認識を、学問的に自然に会得している彼はすんなり受け入れるんである。

すみません、なんか文句ばっかり言っちゃってるけど、15年前にタイムスリップした、つまり若き駈と40半ばのカンナが、これはたった一日よ、たった一日で、駈の方が運命感じて彼女と恋に落ちるという繰り返しが、まぁ、キャラメルのように甘くて、キュンキュンしまくって、もうこれだけですっかり満足、お腹いっぱい。
それこそ劇中のカンナが若き駈から言われる殺し文句「これ以上僕をドキドキさせないでください」にズキュンときて、タイムスリップのおかわりを繰り返して、そのたびにメイクもファッションもオシャレしてイイ女にランクアップしていくところとか、笑っちゃうけれどトキメキラブストーリーとして最高でさ。

そう……タイムスリップしている、真冬から真夏の15年前に旅しているカンナである。その日は、まさに駈とカンナが出会う運命の日でもあるのだ。新進デザイナーとして意気揚々とオシャレホテルの開幕式にやってくる若きカンナと、大学教授の助手として、古生物学者の駈が出会う日だったことは、ここにうっかり迷い込んだカンナは当然、その瞬間に判っていた筈。
でも、なんとなく、ぼんやりと、そこんところは観客には曖昧にされていたような気がする……いや、ニブい私が気づかなかっただけかもしれんが(爆)。

過去現在未来がミルフィーユのように同時に存在している、という世界観を、駈はすんなり受け入れていたけれど、さすがに時空が違う同一人物が同じ場面で存在することは難しく、若き自分を遠く視界の隅にとらえただけで、カンナは足腰が立たなくなるほどになってしまう。それで駈に事の次第がバレてしまう訳で。

現在の時間軸でカンナを糾弾する、駈の師事していた大学教授の娘、里津。これはねぇ……。こんなん、言わせんなよ。同性としてこんなこと言いやがるヤツはサイテー、ぜぇったいに友達にはなれない。
判る、判るよ、言いたい気持ちはさ。久しぶりに偶然再会した、かつて恋していた男が、どうやら今は不幸らしい、疲弊していて、その直後に事故死して、私だったらそんなことにしなかった!と。

でも、これこそ究極のタラレバだよ。言っちゃダメなんだよ。あんただって、こうなる、こうさせちゃう可能性はあるんだから。誰と結婚したとかじゃなくて、駈が非業の運命となったのは、彼自身の避けられない運命、まぁ……こんなことは言いたくない、哀しすぎるけど、まっとうで、優しい人だったから、なんだもの。

そうね……この、元カノにさえなれなかった教授の娘の、あまりにもあまりな言い様にイラッとしたよね。駈と離婚直前であった冷ややかな夫婦生活を送っていたカンナだから何も言えずにいたけれど、いや、どんな状態であったって、こんなこと他人から言われる筋合いないね!
だって、テメーが結婚相手になったからって、上手く行ったかなんて判らないじゃない。あんなにお互い恋しあった駈とカンナでも破綻したのに、なんでオメーだったら上手くいくとか思うわけ??

女子がこんな軽率なことを言うような生き物だと思われている、とか極端に反応してイラつくあたりがフェミニズム野郎の悪いところさ。軌道修正。
15年前にタイムスリップして、自分と出会う前の若き夫とキュンキュンしまくるカンナ=松たか子氏のチャーミングさには、さすが!!である。遺影の夫に浮気じゃないからね、あなたなんだから、といちいち言い置いてタイムスリップするのが可愛い。まぁ基本的に女子は若くて可愛い男子に弱いからね(爆)。

あ、そうか……それこそが、女子的には弱点というか、そこを突かれている気がして悔しい気持ちがしたのかな。40半ばのカンナと出会って運命を感じた駈が、これから15年若い彼女と出会って恋に落ち、15年後の君に出会えるんだと嬉しそうに言うのはそらぁグッとくるけど、でもさぁ……。
つまりは、15年若いカンナはことの事情が判らず、未来の自分を反省した夫の優しさで幸せな夫婦生活を送り、ある日突然、夫が事故死しちゃう展開になる訳でしょ?

……うーん、うーん……。私もさ、何にもやもやしているのかよく判らないんだけれど……、幸せな夫婦生活を送ることになった二人が、夫の方が運命を判っていたという結末が、イヤだと思う。悔しいと思う。納得できないと思う。
物語のほとんどは、その事情を握っている妻、女性側、カンナが奔走する、まさにエンタテインメントで楽しませるからうっかり騙されそう(というのは言い過ぎだが)にもなるけれど、結局は、あんなに頑張ったカンナは何の記憶も残らず、彼女からもたらされた事情を飲み込んだ駈が、自分勝手な夫の態度を(未来の自分なんだからある意味濡れ衣なのに)改め、妻を愛し、穏やかで幸せな15年を続ける。

これはさ、ズルいよ。なんか結局女の文句たれを正義に転換させることで、男が理不尽に反省させられ、良き夫となり、でも運命を受け入れて死んじゃう、美談!!みたいになっちゃうじゃん。
そんなこと、女は望んでないよ。それは、前半でカンナが言ってたように、世間からいい人と思われるより、愛する家族のために無責任にも生き続けてほしいんだよ。いや、そこまで極端な言い方はしてなかったけど(爆)、でもそういうことでしょ?

美談をドラマ化したいとか言って、わっかりやすいマスコミ関係者を登場させたりして、しかもそのキャスティングにYOU氏を当てたりして、これはかなりわざとらしくあざといと思っちゃったんだけれど、その回収は特段なされてない感じだったから、これもまた気になったかなぁ。松たか子氏、松村北斗氏のカップリングはとても素敵で、ドキドキ、キュンキュンしたけれど、あーあ、つまんない私のモヤモヤでごめんなさい。

あ、もうひとつ。これもまた同性として気になっちゃったんだけど、今の技術は素晴らしく、若く見せる、老けて見せる技術は繊細に素晴らしいんだと思う。だからこそ、今現在の松たか子氏が、現在時間軸を演じているんだと思って見ていると、若き日のカンナとして登場する彼女に、メイク、ファッションは当時、それは当然、それ以上にちゃんと若い、これはどこまで技術的修正してるの?
そこに気を取られちゃって、つまりさ、15歳違いの恋愛事情を、片方その年数技術的に若返らせている訳で、めっちゃ目を凝らしてしまって、これは……同時期に生きていて、彼女の年齢が判っちゃうからこその理不尽さだってことは判っちゃいるんだけど。でもさぁ、ズルいよね。男子側は、老けメイクになるからそんなに苦労しないだろうもの。若くピチピチの状態が現状の彼なんだもの。ズルいズルい!!

でさ、結局……幸せな結婚生活を15年続けて、駈は運命通り、事故死してしまう。それを駈は判っていたから、妻のカンナに手紙を残すんだけれど、逡巡した結果、そもそもの事情、カンナがタイムスリップしてきて、自分が事故死する運命にあることを告げちゃったことを伝えないんだよね。
この日事故死する運命は判っていた、でもそれが何故なのかを書けずに、妻への愛を綴るだけ。いやいやいや。これで妻のカンナが涙を流して終わるってのはないよ。だって、夫が、自分が今日死ぬと判っていたから妻に残した手紙、なのになぜそれが判っていたのか説明できずに、君を愛していたよで終了、それを読んだカンナが涙を流して終わりって、ないないない。そんなんで騙されると思ってるのか、女をバカにすんなよ!

なんなん、これ。お互い好き合って恋に落ちて、結婚したのに辛い思いをさせた妻に、先々死んでしまうという免罪のもと、完璧な夫を”演じて”いた、とさえ思えちゃう。
昔に比べて比較的自由に離婚できる今の時代が、家父長制に苦しめられてきた女性にとって良くなってきたと思ってるから、男子に生き直すチャンスなんか与えんなよ、女子は一人で楽しく自由に生きていけるんじゃ!!と思っちゃう。

あーあ。もうこの時点で私、ダメね。あ、でも一つ、結婚した夫婦という題材ならば、子供を持つかどうかは当然発生する事象、少なくとも今の日本ならば、というところもスルーされたのもガッカリだったなぁ。
もちろん、そんなことが関係ないことが常識の社会になってほしいとは思ってる。でも、今は違うじゃない。だから、みんな、苦しめられているのに、夫婦生活を描いてそれに触れないのは、悪い意味でのファンタジーと思っちゃったかなぁ。★★☆☆☆


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