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(LOVE SONG)
2025年 119分 日本 カラー
監督:チャンプ・ウィーラチット・トンジラー 脚本:チャンプ・ウィーラチット・トンジラー 吉野主 阿久根知昭
撮影:サハラット・ミートラクール 音楽:近谷直之
出演:森崎ウィン 向井康二 ミーン・ピーラウィット・アッタチットサターポーン 藤原大祐 齊藤京子 ファースト・チャローンラット・ノープサムローン ミュージック・プレーワー・スタムポン 逢見亮太 夏目透羽 水橋研二 宮本裕子 筒井真理子 及川光博
特に観終わった後、なんだけど、ぎゅうぎゅうの観客はほぼほぼ女子で、連れだって来ている女子たちはキャーキャーと言い合って、もう!ってアンタを叩くのをこらえたわ!!という会話とか聞こえてきたりして。
森崎氏の相手である向井氏のことも知らず、ラストのキャストクレジットで、そうかそうか、Snow Manのお人か、と認識するぐらいの無知で恥ずかしかったんだけど、でも、いくらスーパーアイドルだからと言っても、ここまでの現象は起きないと思うし。
タイのBL……そういえば、大人気だっていう話題を耳にしていたっけ。その火付け役となった大ヒットドラマの監督さんの初長編であること、そしてもともとのBL好き、腐女子と言われる層、アジアの美しい俳優が好きな層、そしてもちろん森崎氏のファンも含めて、あらゆる層が交わり合って、しかも、観客の感じ、空気で判っちゃう、リピーターが相当多いんだろうってこと。
BL作品に対するコアな熱量は「性の劇薬」の観客層でも感じていたけれど(まぁBLでも本作とはジャンルが違いすぎるけど)、本作のそれはちょっと、凄かったなぁ。
こういう感覚を味わえるのは、やっぱり映画館に行く醍醐味。平均的な話題作では味わえない臨場感。正直、脚本的にツッコミどころは満載だと思ったし、どこか懐かしい学園ドラマのようなクサさやわざとらしさが今の日本の作品ではあり得なかったり。
何より、もう恥ずかしくなっちゃって見てられないピュアボーイズラブストーリーで、あぁ、こういう感じをキュンキュンしながら見られた時代は遠く過ぎ去ったのかとも思ったが、逆に、異文化に触れるような感覚で、楽しく観られた。
そう、森崎氏のルーツは知っていたけれど、スーパーアイドル、Snow Manの向井氏がタイルーツだというのは知らなくって、彼こそがこの作品にかける想いがハンパない訳で。
劇中のタイ語のナチュラルさ、メッチャ練習したんだろうなぁとか思っていたが、ネイティブだったということか!なんと!!
ホント不勉強でハズかしいんだけれど、Snow Manというグループの中にどんな方々がいるのか、よく判ってなくって、本作を見た直後にラジオから彼のはっちゃけた関西弁が聞こえてきて仰天してしまった。むしろ、知らないで本作に接して良かった……。
向井氏演じるカイは、寡黙でクールという仮面の中に、いわば内気な、言い出せない自分を持っている。カメラマンであり、趣味の音楽もプロ裸足で人気バンドのボーカルとして脚光を浴びている彼は、キラキラなのに、好きな人に好きと言えない。
そして、その好きな人であるソウタも好きな人であるカイに好きと言えない。惹句である、両片思い、というのは、なんと上手いキャッチコピー!!と思うんである。
ソウタとカイは幼なじみ、ということだよね?冒頭、校舎の屋上シーンは大学時代だと思われるけれど、その後、回想シーン、カイ側から、自分が音楽をはじめるキッカケとなったことだと描かれるのは、中学か、高校か。
ソウタが学校に忘れたスマホを届けたカイが、そのままソウタの家に三日も泊まってしまったという、楽しいだけの記憶の筈が、二人の恋心と共に、決裂を産んでしまう場面にもなっているんである。
この時、二人は初めてのキス。それも、ソウタが寝ているカイにこっそりしたこと。このこっそりキスは、タイで再会した時にも繰り返され、相手が気づいているのかというドキドキで展開されるのは、まーこりゃ、いにしえから伝わる王道の少女漫画スタイル。
でもこのシーンこそが、この時から想い合っていた二人を引き裂くところであって、で、ツッコミどころでもある。つまり、ソウタの母親が、二人の、というか、息子のアイデンティティに気づいちゃって、そう、それはアイデンティティであったのに、息子を息子でなくしてしまうのがカイであるかのように、諸悪の根源かのように、息子の見えないところで、カイに言い渡したんであった。
とても辛いシーンで、カイがその後、それを一人で抱えて、結果的にソウタの前から姿を消したことを考えると胸が痛いんだけど、でもソウタが、その母親にカミングアウトするかどうかで悩んだりとかいった描写は一切なくって、そもそもソウタは最後までカイのその苦悩を知らないままであるというのは、正直ちょっと、あり得ない。
純粋にBLラブストーリーを楽しむためには、そんなヤボなことを言うなってことなのかなぁ。でも、日本における橋口亮輔監督に代表されるBLアイデンティティは、それこそが不可欠だったから、映画ファンとしてはそこで育ってきちゃったからなぁ。
もう一つ。ソウタはカイが、自分と同じ同性愛者であるとは思いもしていない。それは、大学時代、可愛い後輩ちゃんがカイにつきまとっていたから。
そしてその時、カイは大切な人に一番に聴かせるのだと、未完成のラブソングを作っている途中だった。その完成を聞くこともなく、突然カイは姿を消し、その後輩ちゃんもいなくなってしまった、というんである。
この後輩ちゃんがどうなったのかが、その後全然触れられないのが、メチャクチャ気になってしまう。学内では、カイが彼女を妊娠させたという噂さえ広まっていたという。
ソウタがカイに近づけなくなるほど、やたら入り込んできていた可愛い後輩ちゃんが、一体カイにとってどういう存在だったのか。カイと共に姿を消したと語られ、その後そのまんま何にもなしで捨て置かれるのはさすがに気になってしまう。
ソウタとカイを分断させた存在として、母親もこの後輩ちゃんも、その時点でかき回せばそれでいい、というスタンスなのか。そういうあたりが、日本とタイの物語作りの違いなのかな。確かに、そんなことが馬鹿馬鹿しくなるようなハッピーキュンキュンな展開ではある。
気になること満載で進めなくなってる、良くない良くない。冒頭は、先述したようにカイに可愛い後輩ちゃんがつきまとっているのを、ソウタが何も言い出せずにたたずんでいるところから。
ソウタは化学研究員としてとある企業で働き、ある日突然、メンズコスメの共同開発プロジェクトとしてタイへ派遣されるんである。それは、ソウタの同僚かつ、カイと大学の同期であるヒカリが、ソウタの気持ちに気づいていて、カイがどうやらタイにいるらしい情報を得て、彼を推薦したんであった。
いい子。まさしく、BLに理解あるのは女子である。だからこそ、ヒカリの貢献に対する彼らの感謝や想いを聞かせてくれよと思ったところもあったかなぁ。女子はほしがりなもんだからさ。
本作はなんたって、日本とタイの合作、ソウタが上司と共にタイへ出張、そこにカメラマンとして働いているカイがいて、人気ミュージシャンとしても活躍している。
ソウタと共に派遣される上司、ジン氏に及川光博氏、彼はなんつーか、どんなカルチャーにも順応するというか、どこか懐かしくマンガチックな、タイエンタテインメントの世界に、バッチリハマっている。これぞミッチー、瞬時の表情や動作、ファンサよろしい目配せ等々、さっすがミッチー!と思っちゃう。
この頼もしい先輩がいるからこそ、若い二人がのびのび羽を伸ばせている感じ。その点では特に森崎氏が。
でこぼこ部下と上司コンビで、カルチャーショックに出会いまくるこのタイで繰り広げる会話がとてもチャーミングで可笑しくて、笑っちゃうんだよなぁ。
それに比すると、見事にカイは、寡黙でシリアスで、クールな男、なんである。先述のように無知な私は、向井氏がザ・関西男子で、カイのキャラとは真逆なことを知らなかったもんだから、後に大いに驚くことになるんだけれども、ホント、知らなくて良かった。
めちゃくちゃミステリアスでカッコ良く、バンドメンバーを引き連れてのライブシーンの歌声もしびれる。ソウタはちょいと泣きすぎだけど(爆)、でも、まぁ判る。
カイのポスターに思わずカッコイイ……とつぶやくソウタ、それを、自分に言われたとカン違いして、バンドメンバーである美少年にロックオンされちゃって、その後も積極的にイチャイチャかまされちゃうのが楽しい。
それをカイがヤキモチ焼きながらもクールな性格だからどうにもできなくて、もんもんとしているのがたまらんのである。
ソウタの勤める会社と共同でビジネスを展開する、タイの化粧品会社、その社長はムダに(爆)イケメンで、泥酔したジン氏がこの社長を美女と見間違え、あわや一夜を共にしたかも、みたいなシークエンス。
離婚した妻と娘に未練を残しまくっているジン氏が、タイにこのまま残って仕事をすることを選択するそのそばには、そのイケメン社長がいて、ムエタイをやりあったり、なんつーか、絶妙にそばにいて、これは……すべてをBLにしようとしているのでは……?とちょっとハラハラしちゃったり。
なんたって、カイとソウタの、もうはがゆくてたまらん、なかなかに進まないヤツラなのだ。つーか、カイがソウタの前から姿を消したこの間、実に6年も経っていたというんだから、お互いよく辛抱したよ。
再会したシーン、屋台でごろつきに絡まれたソウタをさっそうと助けて、しりもちついてるソウタに手を差し伸べ、引き上げる。思いがけず、仕事を一緒にすることになり、顔合わせの温泉プール(どんなシチュエイションだよ)で遭遇して動揺する。
……もうこんな具合にさ、タイならではのシチュエイションで、ソウタとカイは失われた時間を急速に埋めていき……そんで、お互い両想いなのにさ、まさに惹句そのまんま、両片思いをこじらせた結果、夜の街に迷い込んだソウタをカイが救いだし、自分の家に招き入れ、そして……。
まぁ、キスだけよ、それでも、ソウタは、酔って現実じゃなかったかもと思って判然としなくって。メンドくさいな!!この時確定してれば、一丁上がり、だったのにさ。
一丁上がりの筈が、そんな具合にハッキリしないもんだから、ソウタガキレちゃうのは判らんでもないが、でも、筋道が通ってないというか、具体的に何に対して怒っているのかよく判らない感じで、また二人は決裂してしまう。
雨に打たれてごうごう泣いているカイ=向井氏の、目に張り付いた前髪がツラそうだなぁ。
その後、ソウタは帰国。また時間が流れ、カイのバンコクのライブに駆け付けようとしたソウタだけれど、飛行機が遅れて思い叶わず。撤収している会場を呆然と眺め、翌日と思しき、明るい日の元で、カイの歌声をイヤホンで聞きながら歩いていると、現れる本物のカイ。
片方のイヤホンを自分の耳に入れて、近い距離で、同じ音源を聞く。あーもう、これは昭和、せいぜい平成やんか。反則反則。しかもこんな、絶妙アジア、リアリティあるイケてる男子。やば。
昨今は、美容に敏感な、完璧な美しい男子が跋扈してるからさぁ。そういう意味で、ソウタとカイ、森崎氏と向井氏は、絶妙のリアリティなんだよね。
めちゃくちゃ見ていてハズかしいピュアさだったけど、この作品を愛する観客たちのリアルな熱量を感じることが出来た、もうこんなん、めったにないんだもの、幸せ、尊さをおすそ分けして頂いた、感謝。★★★★☆