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「も」


2022年鑑賞作品

桃色サークルは乱れまくり (恋愛相談 おクチにできないお年頃)
2021年 80分 日本 カラー
監督:竹洞哲也 脚本:小松公典
撮影:創優和 音楽:與語一平
出演:あけみみう 詩音乃らん しじみ 山本宗介 赤羽一真 細川佳央


2025/7/30/水 録画(チャンネルNECO)
大学のサークル内、男女5人プラス1で展開される物語。大学、大学生、という世界ながら、キャンパスも出てこなければ、他学生も、劇中で語られる学園祭への出店が描かれる訳でもない。
サークル活動をする殺風景な一室と、彼や彼女の暮らすアパートの部屋が語らいの場面として登場するぐらいという、ピンクらしい非常にミニマムな世界観で、改めて、それでちゃんと映画として成立するんだよなぁ、などと思う。この周囲にはどういう世界が広がっているかという想像力を、彼らの関係性や設定で観客に任せてくれる。

プラス1というのは、サークルの中でちょっとネジが飛んでいるような女の子、ミナミの彼氏で、彼はシェフだというのだけれど、これもまたそう語られるだけで仕事の場面なぞ一切出てこなくて、ミナミとセックスばっかりしている。
でもこれが実にあっけらかんとハッピーで、結婚というストレートな幸せに突入するのが、うじうじしてばっかりの残り四人に決定的な啓示を与えるのが面白くて。

またまた見切り発車してしまった。整理していこう。ちょっとね、面白い設定と、意外な結末だったのだった。もうオチバレで言っちゃうと、ぜぇったいにすべてがハッピーエンドで決着すると思っていたのが、うじうじ男女四人はいずれもその恋心が違う方向に交差してしまって、失恋してしまうのであった。
ウッソー、誤解が絡まっているだけで、きちんと確認すれば二組とも両想いだと思っていたのに。

そもそもの始まりは、優吾がサークルに来なくなったことであった。それを、彼に恋する初美は自分のせいだと思っている。優吾とサークル室で二人きりになったとき、初美は胸キュンで、いつもと違った服、イイねと褒めた。優吾はチクショウ!と心の中で叫んで踵を返して出ていき、そこからサークルに来なくなった。
心の中の声が、初美には聞こえてしまった。他人の心の声が聞こえる。すべてではない。好きな人だけ、しかもその心が強く動いた時だけ聞こえるのだ。だから前後の感情が判らず、でも自分のせいだと初美は思い込んでしまう。

そしてもう一人の女子、藍もまた、特別な能力がある。今自分が行くべきか否か、ゴーかストップか、それがまるで信号のように、赤く見えたり青く見えたりするんである。
後にこの能力を告白しあった時、すべての人のそれが見えたんだったら、占い師として稼げたのに、と自嘲気味に笑い飛ばす。そう、初美も藍も、自分にとっての恋する相手に対してしか、それが発動しない。でもそれって本当に正解を示しているの?勇気がない自分の気持ちが反映しているんじゃないの??

あれ、これって、最近観た映画の設定に似てる!と思ったのであった。「か「」く「」し「」ご「」と「」他人の気持ちが見えてしまう高校生たちの、だから一歩を踏み出せない、甘苦い傑作であった。
本作はこの映画よりも先に作られているけれど、そもそも人気小説が原作であったのだし、ここからアイディアをいただいたかも??などと勝手に想像して楽しい気持ちになる。男女の友情と恋心がこじれるあたりもなんだかそんな感じがするし……。

見てる時にはさ、恋心を言えないだけで、初美と優吾、藍とミチタカは両想いだとばかり思っていた。いや、鑑賞後に至っても、そうだったんじゃないかと思ってる。女子二人が意を決して告白して、それぞれにフラれたという結末に至っても、そうじゃないかと思っている。
藍は新入生の時、酔った勢い、というか、それを口実に、ミチタカの部屋に転がり込み、セックスした。しかも藍はそれが初体験であった。このシークエンスは本作中で一番好きかもしれない。好きな人とセックスしたかったのだ。でもそれを、申し訳なさげなミチタカに、経験して見たかっただけ、とうそぶいた。

バカ!バカ!!ここまで勇気を持ったなら、なぜそれを突破しないの!!
ミチタカもまた経験があるという感じじゃなく、近くに住む兄の家にダッシュでコンドームをとりに行ったり、いざ自分でそれを装着する時、藍に背中を見せて余裕がなかったり、めちゃくちゃ初々しいのだ。この時の感じで、ぜぇったいミチタカは藍を好きだと、好きになったと思ったのに……。

そして優吾である。優吾が好きなのは藍なんじゃないかと、やたらと周囲が邪推し、……結局それはホントだった訳なんだけれど、だからこそチクショウ!を初美は聞いてしまった訳なんだけれど、本作の面白いところは、確かにその時はそうだった、ということが検証的に描かれつつも、でも今の彼の気持ちはその時とは違う、と思わせてくれること。
“特殊能力”を持つ女子たちが、悩みながらも恋する男子たちにアタックするまでに至る成長物語を見せる一方で、男子二人の気持ちの変遷が、こちらが予想していたのとは真逆の決着に至ったのがビックリで、恋は判らんなぁという切なさで。

ピンクだからもちろん、セックス場面はふんだんにあるんだけれど、リアルなそれとして提示されるのは、ほとんどないというのも、ピンクの面白いところ。初美が優吾とのそれを妄想するシークエンスはそりゃ主演だから最も長いんだけれど、長いだけに、その締めが、優吾のチクショー!で締められるのがとても辛い、切ないのだ。恋する相手とのセックスを妄想して、オナニーもしちゃうというザ・ピンクの展開ながら、結局それって……一人モンが一人の部屋でやるやつじゃん、と思っちゃう。

そして、藍もまたそうである。経験したかっただけだから、とうそぶくそれは、処女を捨てたセックスであり、痛くて死ぬかと思ったという彼女にミチタカはうろたえるけれど、その後はまるで、まるで恋人同士のようにじゃれ合うもんだから、なぜ藍がミチタカに気持ちを伝えられないのか、よく判らなかったし、想いを伝えてフラれるだなんて、本当にビックリだった。
ミチタカは優吾にやたらと、藍のことが好きなんじゃないかと探り入れていたのに。つまりそれって、おめーが藍を好きだってことじゃないの?そうだったのに、友人を思って封印したってこと?バカバカ!!

藍は初美のことを思い、自分が先に失恋し、初美に行ってこい!と背中を押す。その前にね、あのネジのゆるんだミナミちゃんよ。うわ、そうか、しじみ氏か!実に40超えて、いやこの時はまだ40前か、ゴメン、とにかく女子大生役、すげー!なるほど、めちゃくちゃ深みがあるわ……。
インスタントラーメンサークルの活動で、一番イキイキとしていたのは彼女だったと思う。ミチタカが主導権を握っていたけれど、明らかに腐ってるんじゃないかという危ない激辛ソースを、口飲みで飲んじゃって、ダラダラ垂らしながら、エヘヘ、みたいな、怖い怖い!

恋人とはセックス場面が大半なのだけれど、あれこれ面白い描写があるのよ。恋人君がバックから彼女を突きまくって、金縁の眼鏡を何度も飛ばしまくったり、フェラやってる途中に彼女のケータイが鳴って、思わずかんじゃったのか、イッテー!!となった彼に構わず、あ、ごめーん、てあっさりしてたり。
極めつけは、そのワザはどこで覚えたの、と恋人から、これは単なるイチャイチャコミュニケーションで聞かれたのに、前カレ!と威勢よく、しかも二度も答えちゃうのも笑ったなぁ。彼氏、ズコーン!と倒れちゃう。ズコーン!て!昭和かよ!!
うじうじ若者四人組に比しての、一見して幼稚に見えるぐらいにラブとセックスが結びつているこの二人こそ、愛こそすべてを体現しているんである。

そんな二人がズコバコヤリまくるのは、ボロボロに亀裂が入ったきったないソファーに、ボコボコに傷がついている冷蔵庫、ラックにぐちゃぐちゃに衣類が放り投げられている部屋、あのアイテムは用意されたものなんだよね??
いやさぁ、初美とミチタカの部屋も登場するんだけれど、大学生の一人暮らし部屋、という感じにそれなりに整えられていたのに比して、テキトーっつーか、とにかくあのきったないソファーに驚愕しちゃったからさぁ。あれはわざわざ持ってきた感じがしちゃったからさぁ。しかもあれはどうやら……銭湯に出かける彼らの台詞から推測するに、彼氏じゃなくてミナミちゃんの部屋、なのか??すげー!

で、そう……ハッピーエンドは、ミナミちゃんとその彼氏、セックスに充足し、この幸せを続けるためには、と二人してひらめいちゃって、九州と東北のそれぞれの親に挨拶しに行くから、と退部届と退学届けをミチタカに押し付けて、ラッタッタ、と旅立つ。最高すぎる。
ミチタカはずっとミナミちゃんに翻弄され続けているのがこれまた最高で、最初にミナミちゃんが登場した時には、この子が彼らの恋愛事情、セックス事情を引っ掻き回すのかと思ったら、ぜぇんぜんで、ミナミちゃんは彼氏とヤリまくりのラブラブで、そのシンプルなラブが、うじうじしまくりの四人を動かすのであった。

明らかにヤバい女の子だし、しじみ氏はさすがベテラン、嬉々として演じてサイコー。その振り切り方が、恋愛は素直に、好きな人と、一緒にいたいってこと!というのを、示してて、翻弄される女子たちが、結果的に、あの子、いい子なんだよね、と同性として認めるに至るのが、とてもイイ。

だからこそ、背中を押されたのに、二組とも撃沈してしまったのがメチャクチャ予想外だったけど……でも、初美が聞いた声、今はまだ、というのが未来への期待、希望になっていたと思うので、良かった!★★★☆☆


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