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2006年鑑賞作品

釣りバカ日誌17 あとは能登なれ ハマとなれ!
2006年 107分 日本 カラー
監督:朝原雄三 脚本:山田洋次 朝原雄三
撮影:近森眞史 音楽:信田かずお
出演:西田敏行 三國連太郎 浅田美代子 石田ゆり子 大泉洋 加藤武 小野武彦 鶴田忍 中村梅雀 益岡徹 笹野高史 


2006/8/18/金 劇場(有楽町 丸の内プラゼール)
どんどん中央で大活躍する大泉先生が、もう何に出ても驚かないとは思ったけど、さすがに釣りバカにご出演とは驚いたもんね。どうでしょうで釣りバカ対決やってた彼が、ホンモノの釣りバカに出るなんて!(笑)
しかも、ラストクレジットの位置にも驚く。もったいぶった後半の位置。凄い重要扱いじゃないのお。

でもね、実際大泉先生、イイのよ。彼に関しては評価が甘甘になっちゃうけど、本当にイイのよ。役者としての彼は今回の役が一番イイ、というか好きだな。
ナイーブで不器用で、酒の力を借りなきゃ告白もプロポーズも出来ない。でもその一世一代の大決心のピュアな突進が、たまらなく愛しい。ヒロインの、「しょうがないか。こんなどうしようもない人を私が好きになっちゃったんだから」とゆー台詞がああっ!
監督は、大泉先生のことは知らなかったけど、会ってみて、「ナイーブさと、男前じゃないところが自分の好きなタイプの役者」だと即決したという。
これって、凄く嬉しいコメントじゃない?だって一般的に知られている先生のイメージから入ったら、なかなか出てこない印象だもの(特に前半部分は(笑))。
大泉先生のことを知らない監督だからこそ、凄くイイ面が出せたんじゃないかなあ。

とまあ、釣りバカなのに、さっそく大泉先生の話ばかりする。まあだって、彼が出るから久しぶりに観に来たんだもん(爆)。
そう、久しぶり、一時期結構観てたんだよな。「てなもんや商社」でホレた本木克英監督がメガホンとってから、数作観てた。それまではガッチリベテランの山田&栗山カラーで固められていた釣りバカを、この若い力がかきまわしてくれるかと期待もしてた、けど彼は三作で終わっちゃった。もっと冒険させてほしかった。
その本木監督が、今度は「ゲゲゲの鬼太郎」で大泉先生と組むというのも嬉しいニュースなのよね(あ、また先生の話に戻ってしまった)。

で、朝原監督は、恐らく本木監督と同期ぐらいだよね?名前の印象は老けてるけど(笑)、お顔を拝見したら若かったわ。この若き松竹お抱え監督は、本木監督を抜いて四作目に突入、すっかり釣りバカ監督が定着しちゃったのね、なんか悔しい。
あ、でも私、彼の作品も好きだったんだわ……今更ながらフィルモグラフィ観て気がつく。「サラリーマン専科」って朝原監督だったんだ。ピン公開になった釣りバカからバトンタッチして、「男はつらいよ」の同時上映シリーズとして登板した「サラリーマン専科」。今更チェックが遅いな、私。
「男はつらいよ」が渥美清の死去で終わっちゃったせいで、二作しかシリーズ続かなくて残念だったけど、あれはホント好きなシリーズだった。三宅裕司の可笑しさは当然、意外や加瀬大周が良くてさ。

などと関係ない話は続くのだが……もうひとつやや関係ない話。そうそう、釣りバカはもともと「男はつらいよ」のオマケ的な同時上映で始まったんだもんなあ。
私ね、この日、渥美清特集で「男はつらいよ」の一本を観てからハシゴしたんだけど、その「噂の寅次郎」が、「男はつらいよ」のイメージを裏切る、しっとり系の作品だったんだよね。そしてヒロインの持ち込む離婚という問題がもたらす、どこか重苦しい雰囲気っていうのも、本作に共通してる。
大原麗子がその雰囲気の決定打になっているというのも、本作の石田ゆり子の存在感と似ている気がするし。と、勝手に自分の中で偶然の一致だと喜んでるだけだけど。
朝原監督の釣りバカはこれで二作しか私は観ていないんだけど、監督もキャストも言うように、今回は確かに今までの釣りバカと違うと思う。しっとり大人系なんである。

その、雰囲気の違いを決定付けた、ゲストの石田ゆり子のエピソードで、彼女の相手役となるのが大泉先生。そういう条件下だからこそ、彼のナイーブな良さも引き出されたと言えるのかもしれない。
石田ゆり子が演じるのは、鈴木建設の女子社員再雇用制度で、7年ぶりにスズケンに帰ってきた、かつてのマドンナ的存在の弓子である。
その7年前は結婚退職したんだけれど、実は彼女、夫の暴力が原因で離婚、2年がたっていた。
という事実を、後に彼女はハマちゃんやみち子さんに打ち明けるんだけど、人事部もこの事実は知ってるのに、彼女を営業三課で紹介する課長が、彼女をその結婚した姓で呼ぶのはおかしいよなあ。ていうか、なぜ彼は人事部から知らされてないの?
まあいいけど。あ、課長、谷啓から益岡徹にバトンタッチしてるー、と今更ながらここにもタイムラグがっ。ちゃんと太田胃散も引き継いでるー(笑)。

で、ハマちゃんやスーさんの方には、どうというエピソードがあるわけでもない。ハマちゃんがとってきたケアセンター建設事業が弓子の故郷の能登に建てられることになって、帰省中の彼女と偶然出くわしたりというお約束的ご都合主義が展開される。つまりはゲストの彼女の話がしっかりメインになってる。
このあたりは、なんかだんだん釣りバカも「男はつらいよ」化してるわね、って感じ。
ハマちゃんスーさんがエピソードのメインになるには、老いちゃっててツラくなってきてるのかしらん(爆)。寅さんで満男の恋物語がメインになっていったように、ゲストヒロインの話がメインになるっていうのは。

確かに正直、この二人はだんだんツラくなっている。何作か前、病気して撮影、公開が伸びた時の西田氏の顔色はヒドかったし。思い切ってキャストを若返らせる選択も、ある時点まではアリだと思ったけど、もはやここまで来るとそれも出来ない。
劇中スーさんは奥さんから「そんなに疲れるならもう引退したら」と言われ、「それはずっと考えてますよ!」と返すシーンなどもある。一般的常識から照らし合わせても、こんなよれよれに年とっちゃったトップのまま行くのもキツくなってくるんだよね。

それに、このケアセンター事業である。施工式に出席したスーさんのスピーチが、「世の中には利益を優先して世間からお叱りを受けた同業者もおりますが、そんな建設会社ばかりではありません」なんつってね、あの手抜き建設事件をあきらかに意識してて、あまりに世間をうかがいすぎてる感があるっていうか、正直これはちょっと冷めちゃうのよね。
ケアセンター建設なんて、あまりに慈善事業っぽいと思ったわけでもなかろうが。
それに、輪島塗の工程や歴史を弓子がハマちゃんにレクチャーするシーンも、まるで開き直ったようにマニュアル的なのも冷める。
確かに能登の街はしっとりと美しい。その美しさと彼女の声のしっとり感がかろうじて支えてはいるけど、教育用ビデオみたいなんだもん。

で、弓子の話である。弓子のことはスーさんも気に入っていて、寂しげな彼女を心配してハマちゃんに相談に乗ってやるよう指示したんである。で、あの離婚してたのって話。
彼女は法事で能登に帰るんだけど、その時兄から一方的に見合いの話を押し付けられて、険悪ムードになってしまう。
昭和かよっていう、時代錯誤の兄なのよね。「もう二度と縁談は持ってこないからな!それでもいいんだな!」なんてさあ、ちょっと今じゃ考えれられない台詞だよねー。この場面では兄の嫁さんもそうそう、と同調してるのもさあ。あとで味方になってはくれるけど……うーん。
まあ、弓子が、ここは保守的な街だからと、それがイヤで出たんだとハマちゃんに説明はするんだけどね。ましてやお兄さんは、輪島塗という伝統を誇りを持って守っているお人でもあるし。
だから、輪島塗や能登と完全に離れたところに行ってしまう妹を、どこか無責任のようにも感じる部分もあるのかなあ。で、なんとかこの土地に呼び寄せるためにっていう気持ちが出てしまうのかもしれない。

もう結婚が、他の人と暮らすのが怖いと語っていた弓子だけど、心和む人はいるのであった。
一人は、いつも明るく可笑しいハマちゃん。「あの人のことを思い出すと自然に頬が緩んじゃうの」というほどの、弓子にとっての癒し系なのかもしれない。弓子があまりにハマちゃんと仲良くしてるので、「確かに前の夫とは真逆だ」とただならぬ仲になってるんじゃないかと、お兄さんが心配するぐらいなんである。
で、同じく真逆だと評されて登場するのが、大泉先生なのであった。
弓子のマンションの隣人(というか、あれ、向かいって感じに見えるが)である、高校の美術講師、村井徹。いつも楽しそうに鼻歌を歌い、友達のように生徒たちに囲まれているこの青年は、明らかに弓子に対してドギマギしており、弓子の方も彼を見かけるとなんとなく心が和むような感じである。

彼が弓子にホレているのは誰の目にも明らかなんだけど、それが展開されるのがまた唐突で、その唐突がとてつもなくドキドキするんだよね!
予告編でも使われてる、「急にあなたの顔が見たくなって」と徹が弓子の部屋を訪ねるシーン。ここからの展開が、あんなにドキドキだなんて思いもよらなかった。
もう2年もお隣りさん同士だったのに、どうしても自分の気持ちを伝えられなかった徹が、いきなりの大胆行動!だってそのまま「あがりますよ」と彼女の部屋に上がりこんじゃうんだもん!(もう私、タオル握りしめて身悶え)
確かに予告編で使いたくなるぐらい、あの時の、もう後がない!という大泉先生の表情はすんごいグッとくるのよね。

彼がこんな強行手段に出たのは、仙台に正規の教員のクチが決まったからなのであった。それまでの2年間、何も言えずにいた彼が、この時も酒の力を借りて乗り込んでくるっていうのが純で、キュンときちまうんである。
でね、この場面、ハマちゃんがいつも乗ってる釣り舟の船頭さんの八っちゃんね、彼は弓子に岡惚れしてるんだけど、正装して彼女にヒラメを届けにきて、鉢合わせしちゃうのだ。
八っちゃんは、恋する男の直感で、ここでもう判っちゃったんだろうなあ。徹が弓子の相手となるって。
この時はまだ告白されたばかりだから、そんなんまでは全然行ってないんだけど、結局そういうことになって、そのことをハマちゃんの口から聞かされても、八っちゃん、そんなに驚かなかったもの。
それにしても、「ルックスは……あっちの方がちょっとだけ上かな。でも同じようなレベルだ」て、ハマちゃん、もう(大笑)。

んで、“そういうことになって”、というのもいきなり飛ぶのよ。だってだって、次の場面でいきなり「ただいま」って、徹がスーパーの袋下げて弓子の部屋に入ってくるんだよ!過程飛ばしすぎだよ!
「ただいま」っていう関係はただならぬよ!そーんなことも、あーんなこともしちゃったの?その後プロポーズするぐらいだからさ!
でもそのあたりをこだわらずに飛ばさないと、釣りバカは成立しないもんなあ。ラブストーリー映画じゃないんだから。

そう、プロポーズである。能登に行って、お兄さんに二人の結婚を認めてもらおうと、徹は言い出すんである。!!
「それって、プロポーズなの?私の返事も聞いてないのに?」
彼、やおら立ち上がり、バナナをマイクに見立てて(笑。カワイイ)改めてプロポーズ。「この2年間、ずっとホレてました」なんて純情なのー!も、もうダメ……。
ひざまづいて、カウンターにもじゃもじゃ頭だけが見えて見切れてる(これはネライだよね!)よーちゃんが愛しいッ。

まああのお兄さんだから、そう簡単に承諾はもらえないんだが……というか、またしても酒の力を借りて行っちゃうもんだから、許してもらうどころか逆鱗に触れちゃうの。
でも、このどこか可笑しな純情青年が、おばと姪っ子はいたく気に入ったらしく、おばさん、ダンナにとりなしてくれるのね。
お兄さんは、弓子にはもっといい人がいるはずだとどうしても思っちゃうんだけど、でも同じ真逆でもハマちゃんという存在がいたことも手伝ってか、二人のことを許すわけ。
なんかこの辺はね……昭和を明け渡したお兄さんの寂しい気持ちも感じちゃうんだけどね。
なんか、さくらが結婚した一番最初の寅さんの、あのお兄ちゃんとしての顔をついつい思い出すんだよなあ。

しかしやはりこれは、石田ゆり子のための釣りバカだったかもしれない。彼女は最近、ようやく本格的に映画に出るようになってくれて嬉しい。妹よりも、彼女こそが残っていく女優だったんだなあ。この人の雰囲気というか空気感はとてもクラシックで、スクリーンにしっくりと肌合いが合うのよね。
そして前述したように、彼女自身の存在が、映画のカラーを決定づけるような女優さんである。それは、やはり釣りバカにヒロインとして迎えられた、あの宮沢りえ嬢でも出来なかったこと、なのだもの。

んで、石田ゆり子のような美女には、美男を当てちゃつまんないのよ。だから今回大泉先生が当てられたことで、彼女の魅力がより引き出される結果となってる。
美女と野獣ってわけでもないが、でもそういうことだ。どんな恋愛映画よりも、彼が乗り込んでくるシーンがドキドキするのは、監督が言うように、大泉先生が決して美男子ではないせいだもの。
ダンディ坂野なんかもなにげに出演してるのに、ホントになにげ……彼、一世を風靡したのに。
それを考えると、大泉先生の役どころとその魅力がいかに大きいかわかる。期待以上の答えを出してキュンとさせた先生はスバラシイ!(あ、結局また戻った)

ラストのオチ?が、スーさんが昔馴染みの美人女将とランデブーっつーのがなかなか効いておるのである。
いや、ラストは仙台に引っ越しする弓子と徹か。結局、弓子はスズケンにちょっとしかいなかったのね。
でもこの引っ越しシーンの、新しく始まる生活に対する期待と喜びを感じつつも、からっぽになった部屋のなにがしかの寂寥感が対照的になってて、ちょっとじんとするんだな。
あの時、「最後にあなたの肖像画を描かせてくれませんか」と言って乗り込んだ徹、最後にその絵が出てくるんじゃないかとちょっと期待したんだけど、それはあの台詞だけだったのかあ。

松竹が押す新人の女の子、姪っ子役の彼女は確かにカワイイが、顔だけ頑張っててちょっと手持ち無沙汰気味。うーむ、がんばれよお!★★★☆☆


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