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「つ」


2002年鑑賞作品

月は上りぬ
1955年 102分 日本 白黒
監督:田中絹代 脚本:斎藤良輔 小津安二郎
撮影:峰重義 音楽:斎藤高順
出演:笠智衆 山根寿子 杉葉子 北原三枝 安井昌二 三島耕 佐野周二 増田順二 小田切みき 田中絹代 汐見洋


2002/10/31/木 第15回東京国際女性映画祭(東京ウィメンズプラザ)
イメージとしてはね、古き良き日本の奥ゆかしい女性たちのアンサンブルによる、しっとりと美しい物語、なんていうものを想像していたから、ビックリした!あまりに、面白くて。もう、会場大爆笑につぐ大爆笑。前々日に観た「ナタリー・グランジェ」があまりにも理解不能だっただけに、ナタリーの千倍面白いよ!と「ナタリー……」は観に来ていて、この日はこなかった知人にまくし立ててしまった。いやー、意外だったなー。私、田中絹代監督作品は初見なんだけど、こんなテキパキと物語を綴る人だなんて想像もつかなかったし。思えば脚本を提供した小津安二郎という人も、一般的なイメージより、結構コミカルな描写に長けている人であったことも思い出した。そしてその脚本を得た田中絹代は、それは存分に活かすだけの才能の人であったということも、意外中の意外。っていうか、監督としてこんなに才能のあった人だったなんて!いわゆるベテランの男性監督に比べれば任せられた本数は少ないかもしれないけれども、監督としてもっともっと語られてもいい人なんではないか?このたった一本を観ただけで、ここまで思ってしまうぐらい。

お話は、三人姉妹がそれぞれに世話を焼きあって、自らの恋を成就させていく物語。この時代だから女は自分だけで自立することなどかなわず、女の幸せといえばいい人を見つけて結婚、ということであり、フェミニズム全開の私を満足させるには難しい時代の物語なのだけれど、やっぱりこのあたりは女性としての自立に成功していた田中絹代の手にかかったせいなのかなあ、こんなにも痛快なのは!女の弱い部分も確かに相当、描かれてはいる。男と結婚しないと憧れの東京で生活することも出来ないし、適齢期になると結婚は他人が決めてくれるものというのがまだまだ横行していて、強引にまとめられてしまいそうになるし、男がゆっくり煙草をくゆらしている間も、炊事、洗濯と一日中働きまわらなきゃならないし。そして何より、恋愛が人生にからんでくると、今もまだまだ、そしてこの時代はもちろん女はひたすら相手にゆだねるしかないのだ。しかしそれを充分にふまえながら、どうしてこんなにも楽しく、こんなにも切なく、そしてこんなにも幸せな彼女たちに心が躍るのだろう。

それは彼女たちに相対するそれぞれの伴侶の男性が、まず一様に魅力的だということがある。最初にめでたく成就するカップルの男性、雨宮は技術系の仕事に没頭していて、気になる女性がいても興味のないフリをいわば巧妙な演技で包んでしまって、彼の気持ちに気づくのは恋愛に敏感な年頃の末妹、節子だけというほどのテレ屋なのである。そしてこの雨宮と次女の綾子を結びつけるのに躍起になる節子の相手が昌二。長女の亡き夫の弟である彼は、節子の暴走に悪ノリするような快活さを持っている一方で、困っている友人をどうしても見捨てておけず、そのあまりの優しさが歯がゆい節子とケンカしてしまうほど、それほどに本当に心優しい青年なんである。その友人からたまねぎばかりをもらうというのも、何だか微笑んでしまって、それでたまねぎはいつでもあるからすき焼きをやろうというのに、肉はもちろん、しょうゆも砂糖も、それどころか鍋もなーんにもない、というのが、たまらなく好きだなあ。長女の千鶴が頼りにしている大阪の先生、高須役は佐野周二で、彼のヌーボーとした土臭い人柄はまさしく癒し系、いや和み系かな?そしてもう一人、この姉妹たちを温かく見つめる笠智衆。彼が父親役に据えられただけで、もう楽勝。娘たちに去られるのは寂しいに違いないのに、いつもにこやかに笑っていて、彼女たちの幸せを心から願ってる。最後のシーン、残った千鶴の心をズバリと言い当てて、「今度は死なないような男を選びなさい。あの男(高須)はいい。丈夫で、なかなか死なない」なんて、笑いながらもちょっと涙が出ちゃう。

それにしても、このポンポン言い合う調子の生き生きとした台詞の応酬にはホント、驚いた。特に末娘の節子役、北原三枝のおきゃんな可愛さときたら!彼女が綾子の見合い相手を形容する時の「お腹はこんなで、頭も薄いのよ。それで若いの!」とジェスチャーを交えながらさもイヤそうに言うその言い方があまりにキュートでもう大爆笑してしまう。この見合い相手は天橋立の近くに住んでおり綾子が「いくらキレイだからって、毎日天橋立ばかり見て暮らせやしないわ」というのにも笑ったが、その台詞に「そうね」と笑って返す千鶴にも思わず手を叩きたくなってしまう。こんな風に、立場的にはどうしても下に置かれてしまう女なのに、そして表立っては強硬に主張はできないんだけど、でも女同士で言いたいことはズバズバ言ってる、この強さ、この明るさが、なんとも言えずたくましくて。

節子は綾子と雨宮がお互い好き合っている、と主張して、二人を結びつけるために奔走する。この二人の気持ちに気づいているのはその時点で彼女だけで、ハタ目には自分の理想系であるカップルに仕立て上げようとしているだけにも見えるのだが、実際、この二人は本当に好き合っていたわけだから、彼女の観察眼にはなかなか感服させられるのである。雨宮に気持ちを正した昌二が、綾子のことは何とも思っていないと言っていた、と節子に告げると「そんなはず、ないんだけどな。昌二さん、その時雨宮さんの目を見た?」「いや、サングラスをしていた」(思わず爆笑しちゃった!)「まあ、ズルいわ。だめよ、目を見なきゃ判らないのよ」綾子が雨宮のことを好きなはずだと主張する節子は「だってお姉さま、いつもなら三杯は召し上がるのに、今日は一杯しか召し上がらないのよ。だから私がどこか体の具合でも悪いんですか、って聞いたら、雨宮さんの方をこう(流し目で)見て(この綾子をマネするしぐさのおませで可笑しいこと!)、いいえ、ですって。この気持ち、判るでしょ。絶対お好きよ」このねー、お好き、という言葉づかいとか、お姉さま、と姉たちを半敬語で喋るあたりが、何か、いいのよね。絶対服従、っていう感じじゃないんだけど、目上の人として尊敬し、畏敬しながらも、同じ姉妹同士としてのそして女の子同士としての親愛がすっごく感じられちゃうのが。

雨宮を二月堂におびき寄せるところも最高である。まず、老女中(田中絹代自身!)を使って綾子を装い雨宮に電話をかけさせるのだけど、その芝居の稽古をつける場面にまず爆笑し、首尾よく現われた雨宮を見て「ほら、目の色が違うでしょ」「ホントだ」とやりとりする二人にまたしても大爆笑なんである。だってさー、目の色が違う、ってそんなに……いやそうなのかなあ、でも即答なんだもん!コソコソと身を隠しながら雨宮をつけまわすその姿、リズムがまた絶妙で本当に可愛くてユーモラス。そうそう、こういう場面はいくつかあって、月夜のデート(これもまた節子がセッティングしたのだ)から帰ってきた綾子の様子をうかがうのに、腰をかがめて女中と二人、ウロウロとするシーンなんか、もう可笑しくて可愛くて仕方がないのだ。こっそり部屋の様子をうかがおうと開けた障子にしっかり穴をあけちゃって手がニョッキリと出てたりするし。しかもこの月夜のデートに出かけている間に節子と昌二が交わしている会話もおっかしくて。昌二はいろんな文学作品で月夜の晩に男女の気持ちが盛り上がっているというのをいちいち例に挙げ、「もう手ぐらい握ったかな」「握ったかしら」「握ったな、絶対握ってる。もっとやっているかもしれない」「やっているって?」「接吻だよ」「やっているかしら」「やっているよ」昌二はどこか楽しそうで、節子は真剣にその真偽を推理している、というこの対照が面白い。

首尾よくお互いの気持ちを確かめ合った雨宮と綾子、雨宮は仕事のために東京に帰ってしまうのだけど、綾子に東京から電報が届く。それは3755、と数字だけ。そして綾子が打ち返したのも、666、と数字だけ。周りの者たちは一体どんな暗号なんだと皆で首をひねるのだけれど、なかなか答えが出ない。寺の和尚さんにまで持ち込むんだけど(笑)どうしても判らない。666でむーむーむー、などとずっと言っているのがすっごい笑っちゃうのよ。のちのちそれが恋の合言葉みたいになって。笠智衆が節子に向かってしたり顔で、、なるほどむーむーむーだな、だなんて言ったりするのも可笑しいし。結局、それは万葉集の歌の番号で、お互い離れていて思いが募っていることをその歌に託して伝え合っていたと、じっつに風流で、そしてじっつに高まる思いが伝わる愛のやりとり。電話技師の雨宮は、遠距離でも電話が簡単につながるように、そういう仕事をしにこの奈良に出張に来ていたのに、愛のやりとりは電報で行う、というのが、その対照がホント粋なのよね。

長女の千鶴はもっぱら和服、次女の綾子は半々、そして末娘の節子を演じる北原三枝は、洋装が多くて、和装は月夜の晩と法隆寺へ行った時旅館で着ていた浴衣ぐらい。あ、そうそう、この時、男二人とおんなじ部屋に彼女だけが女の子なんだけど、こんな風に彼女がおませでおきゃんな女の子なもんだから、ヘンな気詰まりとかが全然なくって、昌二が枕にしていた座布団をフン、と言って平気でぶんどったりするしぐさとか、ホント可愛くてね。で、この洋装がおにんぎょさんみたいに本当に良く似合うのだ。パラソルみたいに腰からふわりとふくらんだデザインのワンピースに、胸ぐらいまである豊かな髪は少しカールしていて。その姿でさっさかさっさか歩き回っているんだけど、こと自分のこととなるとどうしても素直になれなくて涙に濡れ、その動きが鈍くなる。昌二が友達に職を譲ってやったことでぐずる彼女に、自分が東京に行きたいからそんなことを言うのかと昌二に言われてケンカになるのだが、節子は昌二と一緒に、東京に行きたかったんだもんね。彼と一緒じゃなきゃ、意味がなかったんだもんね。この節子と昌二のやりとりは、もうお互いに好き合っているというのを自覚しているから、観ている方もハラハラして切なくて、だから昌二が東京に行くのを遅らせて節子を待っていたあの場面、本当にドキドキしちゃうのだ。「俺のことが好きか、大好きか」だなんて、うっわー、今思い出しても顔が赤くなっちゃうよ!それに対してはにかみながら「好き、大好き」と彼の手に顔をうずめる節子。それこそ手は握っても接吻もない、ラブシーンとしては現代のラブストーリーよりずっとずっと純情なんだけど、気持ちのドキドキは、こっちの方が感じちゃう。

映画の命の一番は、台詞が生き生きしていることなのかもしれないな。アート系映画でやたらと沈黙、静寂をもてはやすような向きもあるけれど……それもまた、リアルに迫ることもあるけれど、こんな風に台詞がはじけ、とびはね、時に生々しいほどに真に迫っていたり、めまぐるしいほどに応酬してみたりという魅力には抗えない。それは現代の映画「ハッシュ!」にも通じてくる映画の面白さのハズせない部分。人間は愚かでバカだから、言葉がなきゃ伝わらないのよ。でもその言葉はそうやって伝えるために発達したものだから、もしかしたら時に本当の気持ち以上にヴィヴィッドに伝えてくれることもあるんだから。★★★★★


釣りバカ日誌12 史上最大の有給休暇
2001年 111分 日本 カラー
監督:元木克英 脚本:山田洋次 朝間義隆
撮影:花田三史 音楽:大島ミチル
出演:西田敏行 三國連太郎 浅田美代子 宮沢りえ 吉岡秀隆 加藤武 鶴田忍 柴俊夫 荻島真一 笹野高史 中村梅雀 青島幸男 辺見えみり 梶原真弓 大杉漣 中本賢 谷啓 奈良岡朋子

2002/3/22/金 池袋サンシャイン劇場
松竹大ベテランから期待の若手、元木監督にそのメガホンが渡ってから、何作目になるだろうか?しかしいまだ脚本は大御所が握っており、松竹=山田洋次の手のもの、という感じは否めないものの、作品のムードを決する音楽は一番ノッてる俊英、大島ミチルによって賑々しく、フレッシュな印象。初期のころに旬の音楽家をとっかえひっかえしていたようなノリの良さを久しぶりに今作に感じる。これまた山田洋次印の吉岡秀隆に絡むのは、北の国からのコンビを即座に思い出させる宮沢りえ嬢、ということで、これまた山田ムードからの脱却を感じさせる。その上、今回お出ましいただいたのは、何と青島幸男元都知事!しかも、テーマ曲まで作詞作曲願っちゃうという贅沢ぶり。ノー天気なところが逆に意味深い(?)幸福感ただよう青島節がラストに流れると、何となく鼻先がツーンとするものを感じるのだ。あー、やっぱり青島幸男氏にタヌキの化かし合いである政界は似合わないよ。この人にはこんな素敵な才能があるんだもん!

というわけで、本作はとにかく青島幸男に泣かせられるのである。青島氏演じる高野は社長の必死の引きとめにも応じず、会社を辞めて生まれ故郷に戻り、晴耕雨読(セイチョウウドク、と発音していたけど……確かに耕すじゃないからなあ。この場合のチョウは何だろう?)の生活を送りたいという。子供たちも独立し、先年妻にも先立たれ、そもそも一人は苦にならないタイプだという彼は、周囲の反対や感慨など意にも介さず、故郷へと帰ってゆく。一歩家から外に出れば釣り糸を垂れることが出来るぐらいの、釣り人垂涎の土地、安芸へ。そう彼は、我らが浜ちゃんが副会長をつとめるSFC(鈴木建設フィッシィングクラブ)の創設者であり会長であったのだ。

長い間誰も住んでおらず、すっかりボロのまま放置された本家。鍵穴は錆びつき、畳は抜け、障子は破れ、屋根瓦は落ちてくるという、ほとんどドリフ屋敷。しかし彼は心配してマンションに住んだら、という姪に、時間はいくらでもあるから、と、嬉々として家の修繕に精を出す。屋根から下りられなくなって消防車を呼んだり、などというヘマもするものの、自分の終の棲家を丁寧に繕っていく彼の姿に、素直にうらやましいと感じる。そしてこれが終われば、彼はアコガレの晴耕雨読の生活……晴れの日には釣りをし(ってことは、チョウは釣り?)雨の日には読書をし、夜には古くからの知己を呼んで酒を酌み交わし……という生活を送れる……ハズだった。

広島に建設するドームの現場視察に訪れたスーさんこと鈴木建設社長が、最後のあがきで高野が会社に戻る気はないかと(何と言っても、スーさんが後継者にと望んでいたのが彼だったのだ)口説こうと同行させたのが浜ちゃん。もう有給休暇など残っているはずもない浜ちゃんはかなり気味の悪いクネクネポーズで課長のハンコをもらうのに“強行突破”し(課長を演じる谷啓の目のしばたたかせ方がねー……ホント、こんな部下を持って気の毒、なんて同情しちゃう?)、社長の真剣な趣なんてどこ吹く風で、ただただ瀬戸内海で釣りができるというその喜びだけで安芸へと向かう。

しかし。彼らの前に姿をあらわした高野は病院のベッドの上の人だった。高野に娘のように育ててもらったという梢は口には出さないものの、彼の容態は思わしくないらしい。高野のために釣り上げたフグを「広島ではフクと言って、福を呼ぶ縁起物なんだ」と見事な薄作りにし(キモをつまんじゃったスーさんは舌がしびれて喋れなくなっちゃう(笑))、ナイショでワンカップ大関も差し入れちゃう浜ちゃん。夕暮れの差し込む病室で、浜ちゃんの好意に甘えて酒を呑みながら遠くを見つめるような高野の寂しげな姿……!!

案の定、次のカットでは高野の死亡の知らせが入っている。死のシーンを無粋に見せなかったあたりに、センスを感じさせる。相変わらず浜ちゃんは殆どアホってぐらいの(、まあそうなんだけど!?)パフォーマンスで、礼服とは言いながらその袴姿は結婚式に出るようなノリで思っきしバカなのだが、葬儀のシーンでの、部下が用意した原稿など見ようともせず、高野の遺影「君が晴耕雨読の生活を送りたいといったのを、正直うらやましいと思ったんだよ。でも死んでしまったら何にもならないじゃないか。人生って、なぜこんな風に上手くいかないものなんだろう?」と語りかけるスーさんの弔辞に素直に涙があふれる。この時に観客の涙の牽引役となる宮沢りえの涙が!う、美しい……。私、彼女の喪服姿、いっぺん見たいと思ってたんだよね。美女というのは、喪服が似合う……って、私ってば何か、AVビデオの企画みたいなこと言ってる?まあ、出来れば和服だったら更に良しだったけど……って、余計にそう?美少女の代名詞だった宮沢りえは、文句なしの美女に成長し、古い話だけど、ほおんと貴乃花なんぞと結婚しなくて、ほっんとに良かったよ。それに、海外の映画祭で女優賞取ったことで出演依頼が殺到しているなんて、てめーら何だよ今更!って感じ。この10年、彼女をろくに映画に出さなかったのはほんと、失敗だったと思うけど、今年が映画元年、として大いに飛躍してほしい。

青島幸男はホント、良かったよねー。知事やってた時には本当に苦しそうで、続けては欲しかったけど、辞めた後はそのイキイキを取り戻した感じで、絶対、こっちの方が似合ってるって!まあ、ご本人はまだ政治に未練があるみたいだけど……。でも、絶対、ホントにこっちの方がいいって!正直、ここまで好感度大とは思わなかったなあ。結構ナチュラルというか、天然!?っぽいところもまたいいんだよねー。それを言ったらこの青島幸男や宮沢りえを引き立てまくっている感じの西田敏行は殆ど狂言回し?でももともとこのシリーズはそういうところがあったりして?うーむ。

しかしさあ、大杉漣の出てくるエピソードは面白かったけど、今回の話にはあまりというか、ほとんど関係なかったよね、正直。師匠の前で急にあぶあぶ子供のようになっちゃう大杉氏は確かに愛しいのだが……。ウルトラスペシャルぐーたら社員の浜ちゃんにも鈴木建設にいる存在理由があるってこと……なのかなあ。だって、そうでもなければ、いくらお疲れ気味のサラリーマンに元気を与えるっていったからって、ロクに仕事もしないのにこんな大企業(のように見える)をクビにもならず、お気楽に世の中渡られちゃったら、逆にサラリーマン諸氏は怒るでしょうが。つまりは浜ちゃんにはちゃーんと会社にいられるだけの武器があって、それがあの強力な人脈だっていうこと?それは単に考えすぎで、浜ちゃんの見せ場を作りたかっただけかなあ、ヤハリ。

実はそろそろ、最近のシリーズをまかされている本木監督自身の脚本でひとつ、と思うのは、ムリかな?★★★☆☆


釣りバカ日誌13 ハマちゃん危機一髪!
2002年 分 日本 カラー
監督:元木克英 脚本:山田洋次 朝間義隆
撮影:花田三史 音楽:林哲司
出演:西田敏行 三國連太郎 浅田美代子 菅原隆一 奈良岡朋子 加藤武 鶴田忍 中村梅雀 小野寺昭 柴俊夫 谷啓 笹野高史 さとう珠緒 中本賢 杉浦直樹 鈴木京香 小澤征悦 パパイヤ鈴木 岡本信人 丹波哲郎

2002/8/10/土 劇場(有楽町丸の内プラゼール)
だーい好きなさとう珠緒ちゃんが釣りバカ出演!っつーことで、思わず初日観戦。し、しかし珠緒ちゃんてばどうしてこんなに登場場面が少ないのー?そ、そりゃ営業3課のOL、鯛子はもともと添えもの的なキャラではあるけどさ、本作は特に出番が少ないような気がする……しくしく。ま、いいけど、可愛かったから。しかし彼女の歳聞いてビックリしちゃった。私と2つしか違わないとは。もっとずっと若いかと思ったよ。このイヤミのない少女風味は実に彼女の持ち味よね。最初の頃こそちょっとその声が気になったけど、もはやそれもチャーミングに聞こえる。育ちが良さそう、性格バツグンに良さそう、という好感度は今んとこナンバーワンだもん、彼女。

珠緒ちゃん編終了。で、今回は監督の故郷である富山が舞台。ほほお、元木監督、富山出身だったんですか。故郷で映画を、それもこんな人気シリーズを撮れるなんて、まさしく故郷に錦を飾る、だね。しかも丹波哲郎御大を迎えてだなんて、こりゃ完璧に過ぎるんじゃないの。何つっても三國連太郎vs丹波哲郎、だなんて図はモノすご過ぎるって!ま、丹波さんは山田洋次監督「15才 学校W」からの流れだっていうのは容易に想像されるけど。実際、今回も山田洋次(と朝間義隆)脚本は変わらず、山田色は前作よりも濃く思える。と、いうのはこういうキャスティングのみならず、「学校W」からの流れが、ストーリーの面にも影響を及ぼしているからさ。ハマちゃんの今回の仕事の相棒であるミス・スズケン、桐山桂の弟クンがひきこもりだっていうのがね、あって。

まあ、でもこのくだりは実際なかなか良くはあったんだけど……。家族ともひと言も口を聞かずに過ごしているこの男の子が、訪ねてきたハマちゃんが携えてきたデッカイスズキを見て、いきなり釣りスタイルで現われ、皆の前に棒立ちになる。もともと小さい頃は釣り好きだった、というこの男の子。「今、今行くの?」と背広姿のハマちゃんはアセるものの、彼とともに釣りに出かける……お互いに肩を組んで!それを嬉しそうに見守るお姉さんの鈴木京香。このひと言も声を発しない男の子が実に絶妙で、一連の動きに独特のリズムがあるっていうか、今回のキャストの中で、もしかしたら一番オイシかったかもしれないのだ、これが。

しかし、物語のメインとはほとんど関係はないんだけど。だから、「学校W」を引きずっている感じがして、うーむ……と思ったんだけどね。本題は、ハマちゃんの釣り仲間、富山の老舗薬問屋の「天狗堂」の会長、黒部からの依頼で富山での美術館建設受注をめぐり、果ては桐山桂を嫁コさ欲しいべ騒動(おっと、東北弁じゃいけません)になるというもの。この天狗堂の会長が丹波哲郎御大。とんでもない幼稚な……おとと、奇抜なデザインのデッサンを送ってきて、これで建てろとムチャをおっしゃるのである。設計部のエース、桂はこんなものを建ててしまっては豊かな富山の景観をブチ壊しにし、引いては鈴木建設の名にも汚点がついてしまう、とこの仕事を仲介したハマちゃんとともに、黒部に直訴に向かうわけである。

ハマちゃんがどんなにサボり社員で、日頃まともに仕事もせずに釣りのことばっか考えていても、なぜクビにならないか……それはスーさんがハマちゃんの釣りの弟子だから、なわけでは実はないんだよね。実を言うと私ってばずーっとそう思っていたんだけど!?前作あたりからその考えを改め出した。でもそう思うのもムリないほどのヒドい展開の時もあって、かなり腹立たしかったこともあるんだもん。で、なんでかっていうと、ハマちゃんほど優秀な営業部員はいないってことなのよ。ハマちゃんの人脈の広さは尋常じゃなく、しかもそれがシュミの釣りでつながっているから相手に警戒心を与えることもなく(っていうか、本気で釣りのことが最優先だからな(笑))、しかもしかもその人脈は社長クラスが多いというオマケつき!んでこんな大きな仕事をもらってきちゃうんだから、いかに普段ダメダメ社員でも彼をクビにすることなんて絶対に考えられないんだな。

これって、ちょっと日本の会社社会に対する提言でもある。いや、今まではハマちゃんの生き方って、まずは好きな釣りのこと、そして愛する家族、仕事は、まあ、生活に困らない程度にテキトーにやっとけばいいのよ、みたいな部分での価値観で、世のあくせくサラリーマンたちをうらやましがらせていたわけでしょ。でも実際はちょっと違うんだよね。ハマちゃんは自分の才覚を最大限に利用して、優秀な成績を収めているエリートサラリーマンなのよ。その自覚がないだけで(笑)。うらやましがらなきゃいけないのは、そして見習わなきゃいけないのは、実はこの部分なんだよね!

黒部への直訴は成功。しかしこの場面はかなり笑える。日本刀コレクターでもある黒部に対してハマちゃんはもう及び腰も及び腰ですでに泣き出しそう(笑)。そんな中、毅然として黒部に自分のデザインを提案して、一歩も引かぬ桐山桂。と、黒部はスラリと日本刀を抜いて、ヤッとばかりに振りかざす!もう死にそうな顔のハマちゃん(大笑)。しかしその日本刀によってチリヂリにされたのは、黒部のデザイン画だった。桐山の的確なデザインを認め、さらに黒部は彼女自身も気に入って、ぜひ息子の嫁にと所望する。何とか頼むよ、ハマちゃん、ということになるわけだ。

黒部が、彼女を嫁に!と言った時は、ハマちゃんのみならず、こちらもてっきり黒部会長自身の嫁ってことかと思った。っていうか、その方が断然面白かったよねー。丹波さんだったらまだまだそういうのもイケるし、相手が鈴木京香だったらますます無理なくイケるし。そんでもって実際に恋に落ちちゃったりする展開だったら、キャー!これってかなり、面白くない?……いやでも、それじゃ別の話になっちゃうか。釣りバカじゃないやね、確かに。で、この息子っていうのが後に出てくるんだけどパパイヤ鈴木。な、なぜ丹波さんの父親からパパイヤ鈴木が生まれるんだあ……。それこそパパ、嫌ッ!(さむッ)ご登場のシーンでは、キレのいいダンスをご披露してくれて(ま、殆ど不必要なんだけどね)、面目躍如。結局この話は、その息子が父親の知らない間に結婚してて子供までいた、という展開でご破算になるんだけど、もはや見合いの席をセッティングしていた黒部会長が大激怒して息子を殴りまくり、次の場面、美術館建設のナントカ式の時にこのパパイヤ息子の満身創痍の姿がもう大爆笑なのよ。だって、あのアフロヘアが巻かれた包帯でホウキ状態になってんだもん!いやー、笑ったよ。しかし黒部はもうすっかり孫ぼんのうになっちゃって、手にはめた指人形で孫をあやしている……この妙にカワイイ指人形と丹波さんの取り合わせもやたらと可笑しい。うん、こっちの方が可笑しかったかも(笑)。

その間に桂さんの方には別の出会いがあるわけで。富山で彫刻作家をしている男性との出会いがね。最近やたらと人気者の小澤征悦。彼女より明らかに年下だけど、ああいう骨太なタイプだから、確かにこれがなかなかにお似合いなんだな。そう、確かにこのカップルは新鮮なんだけど……京香サンさあ、何というか不自然な年のとり方、してる?確かに美人なんだけど、あのホッペの不自然なゆがみ方が気になるんだよね……そういう人って確かに時々いるんだけど。佐伯日菜子ちゃんなんかもそうだし。でも京香サンの場合、最近になって特にそれが顕著になってきているような気がして、本作では本当にかなり気になってしまった。うーん、余計なお世話ではあるけれど?

ラストは、すっかり孫のことで頭がいっぱいになってしまった黒部が戦線離脱して、スーさんとハマちゃんのゴールデンコンビでの鯛釣りだあ!10キロに届かんばかりの立派な鯛をスーさん、ハマちゃん見事に釣り上げて、かたや京香&征悦のサワヤカカップルはスキー場で愛を囁く……いやー、ハハハちょっとハズかしくなっちゃうね。大団円の王道だあ!★★★☆☆


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