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ROBO☆ROCK
2007年 92分 日本 カラー
監督:須賀大観 脚本:竹内利光 渡辺雄介
撮影:末廣健治 音楽:日比野則彦
出演:塩谷瞬 中山祐一朗 美波 本多章一 鮎貝健 デニス・ガン 我修院達也 村松利史 佐伯新 山本浩司 岡田将生 うえだ峻 遠藤憲一
ところで、あまりの観客のいなさに驚いたけど(爆)、平日とはいえ、公開から4日しか経ってないのに、しかも夜の回で、10人切ってるんですけど!
しかし、予想外にヒロイモノだったので二度ビックリ。あれ私、何でこの作品を観ようと思ったんだっけ……などと。
確かにちょっと客層は絞れない感じはするよね。曰く、「「ブレイブ ストーリー」や「アフロサムライ」で気を吐くGONZOの技術を全面投下した、初の実写映画」ということだけど、かといってオタクさんたちを満足させるようなコアな内容には徹しきれてないし、キャストにアイドル路線を配しているわけでもない。
キャスティング、微妙なんだよな。イイ仕事を続けてはいるけど主役として彼一人で客を引っ張ってくるのには難しい(ゴメン)塩谷君、マンガチックで個性的なキャラが主演を食う勢いではあるけど(舞台調の、かなりやりたい放題の動き)、容姿的に多少地味な印象を与える中山君、そしてヒロインはこれまた昨今の有望株ではあるけど、「逃亡くそたわけ −21才の夏−」に続いてかなりキちゃっているヒロイン像が多少のウザさを禁じえない美波嬢、と。
最初は、なんてベタな話なんだ……と思ったもんだもんね。というか、冒頭、キャラの紹介クレジットなどにもやたらシャレた合成映像にこだわるのが、逆にサムくて。
というか、このタイトル、そして最終的には巨大ロボが登場すると判っていても、その予期を悪い意味で忘れ去らせるような、ベタな展開だった。
主人公のマサルは便利屋をやってる。便利屋といっても、彼一人で客をとっているわけではなくて、間に斡旋屋がいる。斡旋といっても、結局は体のいいヤクザと一緒で、彼は客からの依頼をテキトーな理由をつけてピンハネしている、ようにしか見えない。
と、明示しているわけではないんだけど、でも「熟女のパンツを盗んでこい」という依頼を、「これはパンツじゃない。パンティーだ」と、依頼人の我修院達也のマニアックな依頼を画面に再現させてみせて、成功すればゲットできた筈の70万をマサルから取り上げるのが、どうも彼がドジだというんじゃなく、単にだまされているんじゃないかと思えてならないのだ。
というのは、ラストにこの斡旋屋、イブセ(遠藤憲一)が別の悪徳斡旋屋、トム兄弟(ブラザートムってことか?)とグルになって、マサルとダチのコウを陥れる場面で確信することでもあるんだけど。
トム兄弟はコウに、恨みのある人の代わりに誰かを半殺しにするだの、新薬の人体実験の被験者だのとヤバイ仕事ばかりを回してくるんだけど、報酬はキッチリと支払う場面が用意されている。
一方で、良識のある斡旋屋であるという触れ込みのイブセは、マサルのドジを理由にマトモに金を支払う場面は一回も出てこないんだよね。
確かにマサルはこれまでのアルバイトもその超テキトーな性格で一回も上手く行かないようなヤツだけれど、それにしたって、30数回もドジを重ねる、と断定されるのはちょっと不自然なんだよな。
で、なんか話が違う方向に行ったけど……つまり、ヤクザに関わって身の破滅を招く若者(若者、って言い方がまず古いが)って展開が、なんっかベタというか古い気がしたんだよね。
特に前半はSFファンタジーの気配は微塵もなく、この刹那的な世界の描写に没頭するから。それでも主人公のマサルはまだいい。問題なのは彼の親友(と思っているのはマサルだけかもしれないけど)のコウ。
マサルの目から見れば、ヤバイ仕事ばかりを回してくる冷血斡旋屋であるトム兄弟からばかり仕事を請け負い、毎回命を賭しているコウを、彼は本当に心配しているのだ。観てるこっちは、そんなヒマあったら自分のことを心配しろ、とこのショボい主人公に逆に心配になったりするのだが。
こんな素直系(というか、バカ系?(爆))の塩谷君はちょっと意外だけど、案外イケる。彼はホント、個性的映画の、時には底辺で(爆爆)頑張っていると思うんだな。
しかしこの友人の存在感にいささか負けているのが、ちょっとキビしいような気もするのだが。非常に寡黙で本当に大切なことしか口にしないコウと、マサルは妙に気が合う……というか、マサルの方が一方的にこの寡黙な友人に好意を抱いているという感もなきにしもあらず。
コウは本当に天涯孤独、一匹狼のオーラを放っている。いや、だからといって他の登場人物に家族がどうこうという話が出てくるわけでもないんだけど、本当に、ただ一人、この世界で闘っているオーラを鋭角的に発しているのだ。
この刹那的な色気、なんか見たことあるなと思ったら、「闇打つ心臓」の彼だよね?てゆーか、他にも出演作品、結構観てるはずなのに、キライな作品が多くて(爆)主役級だったそれしか覚えてない。
かの作品では、相手役の強気な江口のりこにいささか持ってかれた感はあったけど、それだけに本作にも通じる彼の色気滴る無常感には、大いに打たれた覚えがあった。
しかも超純愛の設定など用意されちゃってて、……まあそれもベタなんだけど、彼のあまりといやー、あまりのストイックさに、もうそれが切ないんだな!
いつも通っている定食屋。そこで働いてる、まだ日本語のつたないペルーから来た女の子。なぜこの定食屋に彼は通っているのか、一緒にメシを食いにきたマサルはすぐにピンとくるんである。だってその女の子が「いつも食べに来てくれてありがとう、グラッツエ!」と話しかけるのだから。
彼ら以外に客が来ていることなど見たことのないショボい定食屋にコウが通いつめ、そして彼女と話したいがためにポルトガル語を習得しようと入門書を持ち歩いていたりするのが……これもホンットベタなんだけど、彼のストイックがあまりにも徹底しているので、なんか素直にグッときちゃうのだ。
で、コウの学んだポルトガル語が生かされる時が……と彼ラインで話をしていると、いつまでたってもこの物語のメインに行かないので、修正。
メインはこっちの方。マサルの前に突然現われるロボットオタク、ニラサワである。これを演じる中山祐一朗氏が、さすが阿佐ヶ谷スパイダースの気鋭、実に達者で。まあ裏返り気味の言い回しとかいささかワザとらしいんだけど、それもこのフィクショナルな世界の中では充分に有効で、最終的には彼がすべてをさらってしまうのね。
ま、巨大ロボットが地球を救う、というのが基本ラインなんだから、当然といえば当然なんだけど。
突然マサルに電話してきたニラサワ、最初からミョーに興奮気味である。んでもって会ってみると、いきなりマサルを自分の部屋に監禁するんである。逃げられたら困るからと。
そのテンションも異常だけど、ニラサワの言い出すこともかなり異常である。土星からの侵略が間近に迫っている。日本には地球を守るための迎撃型巨大ロボットがはるか昔から存在していて、自分はそれを偶然出会った老科学者から知らされた。その科学者が死んでしまった今、自分がそれを遂行しなければならない。
そのロボットは亡くなった科学者の声紋でしか動かない。同じ声紋を持つ人をやっと見つけた。それが君なんだ!と。
なぜニラサワがマサルの声を見つけたかっていうと、もともとマサルはロックシンガーになりたかったのだ。
レコード会社にデモテープを送ったけれど、ことごとくダメだった。ボーカルの歌唱力に疑問がある、とか壊滅的なコメントを返された。仲間も去っていき、マサルは夢を捨てた。ニラサワが発見したのは、ゴミ箱行きのグレートマサルバンドのデモテープだったのだ。
どう考えてもイッちゃってるとしか思えないニラサワ。しかしマサルの恋人である、これまたイッちゃってる美波嬢扮するキリコは、これぞ最高のカモ、こういうオタクは好きなことにはいくらでも金をつぎ込むんだから!と大乗り気なんである。
ちなみにキリコはたった一つの図柄しか彫れないのに、タトゥーショップを経営している、根拠なく自信マンマンな女の子。彼女の実験台になって、マサルの尻には多数のタトゥーが彫られているのだ。ま、確かにマサルはヒモ同然ではあるのだが……。
キリコが手を広げて示した金額に、500万と言うのか、と息を呑んだ(いや、ひょっとしたら50万と言う気だったのかも)マサルの予想に反して、ニラサワからうろたえ気味とはいえ返ってきた言葉は「5千万!?」であった。アホかー!
向こうから提示してきたんだから、と得々として頷いちゃうキリコに、マサルはさすがに動揺する。俺の声が5千万!?と。
しかもこのオタク、そのカネを稼ぐためにと、公務員の仕事の他にマサルと同じ便利屋稼業に乗り込んできた。お坊ちゃま育ちにそれはムリだと心配したのもつかの間、マサルよりもはるかに優れた能力を発揮、AV女優のスカウトに女の子が群がり、マサルには白けるばかりの介護の老人たちも、ニラサワはまとめて相手にしちゃう辣腕ぶり。
しかしニラサワはトム兄弟のヤバイ仕事にも手を出してしまって、入院の憂き目に。見舞いに来たマサルにニラサワは弱々しく笑い、「僕も信じられなくなることもあったけど、これを見るとそんな気持ちがどこかに行っちゃうんだ」と科学者からもらったランドツェッペリン(巨大ロボの名前ね)に使ったというネジを見せる。
「マサル君にもない?役に立たないのに、どうしても捨てられないもの」と言うニラサワの言葉に、マサルの脳裏に甦るのは、見ないフリしていつも見える場所に突っ込んであるギターピック。
しかしニラサワの入院もまた、卑怯な斡旋屋たちのワナだった。マサルが、これがトム兄弟との最後の仕事にしろ、とコウに約束させて共に請け負った、ジャニス・ジョプリンのレアレコードに見立てたドラッグ、通称ハープの運搬で、ワナにはめられてしまったのだ。
ニラサワの入院を見舞ったマサルの隙をついて、そのレコードがグルとなったトム兄弟とイブセによって奪われてしまった。
マサルとコウが南米のブローカーに配達した時、ジュラルミンケースの中からレコードが消えていて、これは絶対、この仕事のことをちょいと小耳に挟んでいたキリコの仕業だと思っていたんだけど、あら違ったわ、と思ったら、でもやっぱり半分ぐらいは加担してたのよね。
斡旋屋たちが奪った時にはもう、このバカ女によってすりかえられているんだもの。
なもんだから、せっかくコウが片思いしてる女の子のために覚えたポルトガル語によってブローカーたちとコミュニケートが取れて「話の判る相手だった」と一度は危機を脱したのに、結局はドンパチに巻き込まれて、死んじゃうのがあまりにも可哀想でさあ……。
しかもキリコ、最後までこのレコードの本当に意味するところを知らず、ただ単に運ぶだけで何百万っていうジャニスのレコードだから、売ればもっとカネになる、としか思ってなくて。
レコード屋に持ち込んで、ジャニスのレコードですらない(かけてみると、ヤクの使用法が吹き込まれている)ことを知ると、逆上して、叩き割ってしまうわけ!
で、まあそんなのはどーでもいい後日談な訳で……ほうほうの体でこの場から逃げ出したマサルとニラサワが助かったのは、当然巨大ロボット、ランドツェッペリンの起動に成功したからなんであった。
というか、どうしてニラサワがこの場面にいたかっていうと、ランドツェッペリンの居所を突き止めた!とマサルの元に喜び勇んで報告にきた所へ、ドンパチが始まっちゃったわけで。
マサルは勿論、観ているこっちでさえ、ランドツェッペリンの存在自体に懐疑的だった。
イブセとトム兄弟が追ってくる、絶体絶命の状態に追いつめられて、ニラサワが傷を負ったマサルを連れてきたのは、さびれた倉庫。意気揚々と案内した先はしかし、ニラサワがランドツェッペリンの証拠としてマサルに見せた写真が撮影されたスタジオだった。
ほこりのかぶったミニチュアのランドツェッペリンを目の前にして、ニラサワは呆然。マサルは、そらみたことか、という反応を示すけれど、ニラサワは諦めない。これは違う。模型なんだ。ランドツェッペリンは別の場所に眠っているんだと。
で、斡旋屋たちに追い詰められて、もう絶体絶命、殺される!という時に、ニラサワはマサルに、「お願いだから、「起動せよ、ランドツェッペリン」と言ってくれ!」と懇願する。イイカゲンにしろよ、というマサルを拝み倒して、お願いだから!と。
てゆーか、ニラサワ撃たれてるのになんで大丈夫だったかって、科学者からもらったバッチに銃弾がめり込んでた。なんてベタな……。
ここまできたら、もう同じく死ぬんだから、という思いだったんだろう。マサルは言う。起動せよ、レッドツェッペリン、と。もっと大きな声で!とうながされ、半ばヤケ気味に、「起動せよ、ランドツェッペリン!」
こっからは、この作品のウリであるロボットCGにひたすら移行。25メートル、420トンという設定の、ドイツの軍事機械をモチーフにしたというランドツェッペリンは、レトロで、重厚、しかも繊細で精密な、実にリアルなシロモノ。
もうこうなると、ホント、痛快。ニラサワがいちいち難しい専門用語を駆使した指示を飛ばし、それに対してどうやらバカなマサルが覚えられず、結局は単純な言葉で斡旋屋たちをロボットによってぶっとばしてしまう(ぶっ殺してしまう?)のも痛快。
かくして長年の夢を叶え、地球を救ったニラサワは大満足、マサルも定食屋のペルーガールにコウの思いを伝え、テレビのニュースは土星近くの爆発と謎の影の映像を伝えている。
頼んだ定食を、オバチャンごめん、やっぱいらないわ、とマサルは金を置いてきびすを返す。「魚はものを言わないから、ロックシンガーは魚を食べないんだ!」と。
ラストクレジット後、土星ニュースが登場。顔を青く塗った村松利史氏が、やたら笑顔で地球侵略を断念したことを伝えてる。
しかし、土星人の襲来に先制攻撃っつーのは、なんか根拠のない宣戦布告のようでアブなイ気もしたのだが、ファンタジーにそこまで言うのは、ヤボというものか。
監督、意外に若い……なんか、ニラサワに似てる。オタク??★★★☆☆