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「た」


2012年鑑賞作品

大拳銃
2008年 31分 日本 カラー
監督:大畑創 脚本:大畑創
撮影:梶田豊土 朴潤 岡安 音楽:長嶌寛幸
出演:小野孝弘 岡部尚 宮川ひろみ 三宅和樹 杉江義浩 小田篤


2012/3/22/木 劇場(シアターN渋谷)
ある意味、「男の子が作りたいと思うであろう映画」なのだけれど、それをこれだけ緻密に作り上げるとこんなにスゴい作品が出来る。
30分あまりという時間は決して長くはないけれど、ストーリーのシンプルさを思えば、その間観客をひきつけっぱなしにするのは容易ではないと思う。
ことに新人監督さんでは。などと言うのはツマラナイな。才能があれば新人だろうとベテランだろうと関係ないのだもの。

“男の子が作りたいと思うであろう”などと思ったのは、拳銃というアイテム、銃撃戦という二点で、そんなことを思う私の方が単純かもしれない。
その拳銃を調達するようヤクザ(多分)から依頼されるというのもありそうな話だけど、本作の最もオリジナリティのあるところであり、そのオリジナリティを丁寧に活写したからこそ成功したというのは、その拳銃が“手作り”である、ということなのよね!

それだけ聞くとなんとムチャな発想、それこそプラモデル作りの好きな男の子の発想だ、などと、またしても私は男の子気質のせいにしてしまうが、まあつまり、すぐ現実的になってしまう女の子気質から見てうらやましいということよ。
女の子気質がオバサン気質になると更に、その傾向は加速するから(爆)。

そのプラモデル的アイディアがリアルになってこその成功であり、それが緊迫感のある心理描写にも見事につながっていくんだから、感服せざるを得ない。
舞台は経営の傾きかけた工場で、兄弟でやっている郁夫と聡はもう閉鎖するしかないとあきらめかけている。
そこへ救いの手が。会話の感じからいうと後輩なのか、しかし何かナマイキな態度の霧島という男が、ポンとカネを渡してくれたばかりか、仕事の依頼までくれる。
ぽいと無造作に出された拳銃。このコピーを10丁作れれば、一丁につき50万、ボロ儲けだ。

考えてみりゃ、“銃の密造”という言葉で言えば、確かにこれもまたありそうな話なんだけど、なぜだかこの言葉が頭に上らなかった。
のは、この工場、腕のいい兄弟が操る旋盤機械、電動ドリルでミリ単位の削りを行い、鉄くずや火花が散る。そう、銃の密造というより、銃の手作りという方が本当に、しっくり来たから。

銃の密造っていうと、組織がらみ、きちんとした大きな工場で、秘密裏に大量に作られる、それこそヤクザの大仕事、あるいは軍事国家の大仕事、みたいなイメージがあるじゃない。
10丁っていうのがプラモデル的手作り感満載だし、実際、丁寧に手元を映し、試作品の試し撃ちを、引き金をひもで引いてみたら暴発してしまったとか、大体この個人持ちのひなびた町工場のロケーションもそうだし、すんごいリアリティがあるんだよね。

日本人の職人技術、世界のシェアを牽引しているのはこんな小さな町工場だったりする訳で。私の住んでる下町にも、こんな小さな家内制手工業みたいな町工場がいっぱいある。
なんか、そこで行われているかもしれない感がすごくリアルなのよ。ほこりっぽい雰囲気、鉄くず、使い込まれた機械、なんとも、イイのよ。

10丁の筈が、それでボロもうけの筈が、全てに不具合があったと言われて支払いはご破算、脅し同然に次の50丁を依頼される。霧島という男は、大丈夫、大丈夫とカルいけど、彼が最初から依頼した側のグルであることはみえみえである。
普通に考えれば判ることなのに、経営が傾きかけていること、ぽんとカネを差し出してくれたこと、とにかく拳銃を作ってしまったことで後戻りが出来ないこと等々があいまって、兄の郁夫は悔しがりながらも黙々と作り続ける。

しかし、そのウラで、兄弟たちは、密売に手を染める。町のチンピラたちに密かに売りつけようとする。反対にバカにされてやけっぱちにぶっ放したりする。
やはり霧島、あるいはそのバック、黒幕の橋詰という男が信用できなかったから。いやそれ以上に、このタイトルが示す大拳銃につながる、この拳銃作りに、郁夫が魅せられてしまったからかもしれない……。

そんな“勝手なこと”をやるから、郁夫の女房が激昂するのね。橋詰さんの言うとおりにすればいいのよ。今度は欠陥品なんか作らなければいいだけじゃないの、と。
最初はね、ぶつぶつ言いながら霧島ともども納期ギリギリの拳銃作りを手伝い、乳鉢で火薬をすりつぶす作業を、油断したら指が吹っ飛ぶかもしれないと言われて、「えーっ、そんなことやらせないでよ」とか憮然とするのがコミカルだったりもした。

でも……彼女も霧島、いやその奥の橋詰側についていたのかなあ。夫の作った拳銃を手に、勝手なことしないで、さっさと作りなさいよ、と脅しをかける。いや、単に、女の気質かもしれない。アンタが大人しく働けばいいのよ、みたいな……。
そう思えば、郁夫も郁夫の女房も、ベクトルは違うけどただただ、バカよね、愚かよね、と思うのだ。もしかしたら、女の方が、自分は現実的にものを考えているんだ、と思っているだけ、タチが悪いかもしれない。そう、女の現実的が、大人の賢い選択とは限らないのだ。

郁夫は女房から脅されなくったって、黙々と作業を続ける。兄を信じている聡も同様である。徹夜も続く。
出来上がった50丁を納める前に、橋詰に全て試し撃ちを見てもらいたいという。そりゃそうだ、一方的に不具合だとされて、報酬ももらえないまま次の50丁と言われたのだから。不信、というより明らかに騙されているよな、という気持ちである。
だから、奥さんの“現実”が愚かでバカなのよ。その中には、暴発するであろう不良品も含まれていて、それを郁夫は橋詰に撃たせようとする。さらりとかわされて、橋詰は聡にそれを手渡す。ヒヤリとする場面。
「これはもう試し済みでした」郁夫が割って入る。ああ、ビックリした……。いや、これがある程度の尺のある作品ならさ、切り抜けるだろうと思うけれど、短編だと判ってるから、結構ヒヤヒヤしちゃって……。

奥さんが銃を向けて脅す中、銃のメンテを行う兄弟。しかし密かに兄が製作を続けていた“大拳銃”、そのツメの作業に弟も関わり、ついに完成した!
大拳銃、というから、それこそ破天荒な、肩に乗せてドーン!みたいな、「DOA」みたいなノリなのかと思ったら、筒は確かに太くて長いけど、普通の拳銃のように構えられる程度のリアルさを持ち、つまり、カッコイイ!
正直、タイトルを聞いた時には、「大日本人」あたりのパロディかと思ったが(爆)。いや、製作年度的にも(爆爆)。

うたた寝してしまっていた奥さんがそれに気づき、何勝手なことしてんのよ!と自分が構えていた銃を発射!夫が止めるまもなく、その不具合の銃が暴発―!!!彼女の指が吹っ飛ばされ、ギャー!!!
……この後の橋詰たちとの銃撃戦でも、しっかりと防弾チョッキを着込んだ彼に“大拳銃”で大きな風穴を開け、ひき肉状態に盛り上がった風穴の周りの血肉(うげー)とか、実に緻密にリアル残酷なんだけど、その突破口となる奥さんの指ふっとばし!が一番衝撃的だったなあ……。
だってさ、そりゃ奥さんは愚かな現実的だったけど、まさかこんな目に彼女が遭うとは思ってなかった。橋詰たちはまあ、予測できないこともなかったけどさ。

しかもその奥さんを「これぐらいじゃ死なない」とその吹っ飛ばされた血だらけの手首をまずガムテでぐるぐる巻きにし(!)ギャーギャー騒ぐのを封じるために口にもガムテを貼り(!!)暴れないように足もガムテでぐるぐる巻き(!!!)にして放置(!!!!!!)
こ、怖い、怖い、怖いよー!!!失血死はまぬがれても、ショック死しちゃうよ、これじゃあ……怖すぎる!
もうすっかりこの衝撃にヤラれちゃったもんだから、その後の橋詰たちとの銃撃戦にはなかば放心状態で、どうでもいい感を抱えていたかも。いや、凄かったけどさ……。

何食わぬ顔で帰ってきた兄弟だけど、そこに警察が踏み込んできて、兄はお縄になり(古い言い方だな(爆))、放り出されていた奥さんも、結構普通な感じで救出される(衰弱していたのかもしれんが……フツーに車に乗った感じ)。
ここまで語ってきた以上のことを知らない、と兄は警察の追及に淡々とし、んん?と思っていたら、そうか、弟が、逃げおおせた。彼は“大拳銃”をバッグに収め、有楽町の新しくきれいになった駅前の雑踏に紛れていく。

そういやあ、お兄ちゃんを訪ねてくる、この工場から独立したけど失敗してしまったという青年のシークエンス、何か言いかけた彼、何かを言いたそうだったけど、何だったんだろう。霧島や橋詰たちと関係していたのかな?

この日のメインの作品「へんげ」で、この“マジな男の子感”の才能を存分に見せてくれた、最近なかなかない、この老成してない感じ(勿論、もっちろん、いい意味でよ!!)にメッチャ期待したい!!★★★☆☆


男痕 −THE MAN−
1998年 60分 日本 カラー
監督:園子温 脚本:園子温
撮影:安里竜之介 音楽:どばど
出演:伊藤猛 黒岩研嗣 掘祐輔 石川雄也

2012/6/20/水 劇場(銀座シネパトス/PINK FILM CHRONICLE 1962-2012/レイト)
最近飛ぶ鳥を落とす勢いの、園子温監督の軌跡を辿ることが出来る貴重な作品。ピンクを通ってくる才人監督は多いけど、園監督もその一人だというのは知らなかった。
まるで周防監督のように、かなりムチャクチャなことを一本だけやってスッと通り過ぎる、みたいな。しかもゲイ映画(というか、ピンクだから薔薇族映画と言うべきなのか)だし。

ゲイ映画なれど拳銃バンバン、雨がザーザー降りしきり、ロードムービーでしかも台詞一切ナシというあたり、どこのフランス映画の名作か、それともキタノかと思わせるような。
そういやあどこかで、3−4×10月を引き合いに出していたのをちらりと見たけど私アレ未見なんで(汗)。
私は本作の1シーンに「菊次郎の夏」で花畑(草原だったかなあ)の中をオバカに遊んでいる場面をちょっと思い出したんで、あ、やっぱりキタノというのはあるのかなとも思ったが、あの園子温がそんなヤボなことをやるとも思えんしなあ。

ていうか、台詞が一切ないので、殊更に察しの悪い私は、つまりは何が起こっているのかイマイチ判らない有様なのであった(汗)。
画的には確かに美しく魅力的だけど、え?伊藤猛扮する主人公はなぜあの二人を殺したのかとか、そもそも彼の行動目的はなんなのかとか、最終的になぜあの相棒の(というか恋人の)男の子に殺されちゃうのかとか、判んなくて(汗汗)。
結構焦ってあらすじ探してネットの海を泳いだが、ホントこういう作品はデータがない(爆)。むしろ、それをきちんと書いてる人が、なんで役名とか知ってるのか不思議(爆爆)。
へえ、伊藤猛はミツルっていうのか。で、あの相棒というか、恋人はタク。そんなこと、どこで判るんだろう……あ、なんかアレかな、公開当時の(ピンクとしてのではなく、企画上映でだろうな)チラシとかでかな。

イマイチ判らないながらも、主人公の伊藤猛はフィルムノワールの殺し屋(そう、殺し屋なんだよね、彼は、多分(爆)。そういうのも今ひとつ判らないからさ(汗))然としたストイックないでたちがかなり素敵である。
今まで見た彼の中で一番素敵かもしれない(爆)。いや、結構ダラッとした役ばかり見る機会があったからさ……。実はこんなに足が長くて、締まった身体してて、いい男なのよね、みたいな(照)。目の表情を映さない、サングラスもよく似合う。

それに彼の体育会的な(?)カラミは、腐女子が夢見る男同士のセックスの、ある種の理想の形……ある種の、ね。どちらかというとロマンチック好きだから腐女子は(爆)、この“ある種”はかなりハードコアだけど、彼の、容赦なく相手の男の子を組み伏せる感じが、かなり萌える(爆)。いやいや(汗)。
そうだよな、結構コミカルに3Pなんてシーンもあったりするのに、伊藤猛はどこまでも生真面目に一匹狼的スタイリッシュさを崩さない。

それは冒頭、彼の仕事に付き添ってきた恋人が流れ弾に当たって怪我をしてしまったのを、心配する風を見せながらもとりあえず土砂降りの中でむしゃぶりカラミ!という濃厚なシーンですら、そうなんである。ムダにカッコイイ(爆)伊藤猛。
彼の相手になるいわゆるネコたちが、やっぱりネコだけにしゃなりとしているコたちばかりだから、余計にそれが際立つ。

でもやっぱり、ちょっとしたコミカルなんだよね。恐らくどこかの組織か何かから依頼された四人の男女の殺害、恋人の男の子が持っている粗雑なコピーのような写真、黒人に見えるような男は実は墨を塗りたくったエセ黒人だったりする。
彼らがマージャンをしているところに二人で乗り込む。乗り込む、というほど攻撃的じゃない。すっと訪ねる、といった感じである。マージャンが自動卓だというのも何かオマヌケで、しかもそれがしっかり二回も繰り返されるんである。
そういやあ後に、どこから拾ってきたのかボーリングのピンをビルの屋上に並べて、これまた拾ってきたのかボーリングの球で遊ぶシーンが妙に無邪気に繰り返されてて。
それこそ……今は私、なんか全然見なくなっちゃったんだけど、ちょっと好きだった頃の、北野映画をやっぱりちょっと、思い出しちゃったかなあ。

怪我をした恋人の男の子を、置いて去っていく殺し屋。彼を愛していたであろう男の子は、泣きじゃくる。
その後、ヒッチハイクで拾ったゲイカップルと道行きを共にする殺し屋。そんな都合よくゲイカップルを拾うのもアレだし、行く先に困っていた彼らが足をゲットした途端、後部座席でイチャイチャ(というかまんまエッチ)しだすのもアレだが(爆)。
でも、アレだが、と思う観客の気持ちを整理させるかのように、横断歩道で立ち止まって車の中の出来事に気づいた女子高生がアゼンとした表情を見せ、ご丁寧に傘まで落とし、更にご丁寧にその傘を車で轢くショットまで見せるのは、なんか監督自身にちょこっと後ろめたい気分があったようにも感じたかも(爆)。

そういやあ、この日の二本立てはゲイの(多分)大木監督の、珍しく(唯一かも)ストレートピンク映画と、まあ普通に結婚もしたしストレートであろう園監督の唯一のゲイ映画という、面白い組み合わせ、なんだよね。
なんか双方共に生真面目に力が入っている感じは確かに、したかもしれない。いや、ことに薔薇族映画はほとんど見た経験がないんであんま判んないけど、なんとなくそんな感じがしたなあ。

まあそれはいいんだけど。で、この行きずりのカップルとは、まるで恋愛ごっこかと思うぐらい、一方だけを相手にして一方が拗ねると、後ろから抱きすくめたり、まあもちろんピンクだからその後には生々しい描写も待ってはいるけど(爆)、なんか妙にロマンティックなのよね。
その後、先述した3P場面も出てくるけれど、昼夜関係なく愛し合うこのカップルをただただ眺めているばかりの殺し屋が、もうタイクツしたんだよう、仲間に入れてよう、という雰囲気(を感じるのはおかしいだろうか……)でおもむろに参加してくる感じが妙に可愛いしさ。

まあだからこそ、いきなり彼らを花畑の中でたわむれのように撃ち殺す場面が衝撃なのだが……。花畑の中で、バーン、バーンと口で言いながら遊んでいる三人。
いつのまにか、殺し屋の手には本物の拳銃が握られていて、そのたわむれの流れのまま、二人の青年は次々に撃ち殺されてしまう。その唐突さこそ、フィルムノワール的。

彼がね、二人と愛し合った海岸で、ロボットのおもちゃを見つけるのよ。そこは、いかにも不法投棄のゴミが散乱した海岸。それともあれは、どこか遠い果てから打ち寄せられたものなのかもしれないと思うとちょっと切なくも感じる、とにかく荒れ果てた海岸。
そのゴミの中に、殺し屋はレトロなロボットを見つける。ぎー、がしゃん、みたいな、ロボコンチックな。
彼が見つけた時にはまだ上手く動いてない。それを彼は大事に手元にとっておく。あの愛しい恋人に再会するまで。

冒頭の“仕事”の時に始末しそこなったエセ黒人が可愛い男の子とヨロシくやっている現場に踏み込み、きっちりと仕事をこなす。
という“仕事”の部分は、醜く倒れたフガフガブリーフの男二人の血まみれ死体一発で示されるのみで、その前段階の、エセ黒人と男の子のSM(の立場が逆転することを楽しむプレイだわな)チックなカラミがしんねりと描かれ、結構このあたりになると疲労度が増してくるんである(爆)。
でもそれが“死体一発”で示されるあたりのある種のカタルシスが、キマジメにここまで仕事をしてきた監督の、観客と共有する気持ちを示しているのかもしれない??

いや、その後の、ラストの、クライマックスの、愛しい恋人との再会と、カラミまでもいかない切ない触れ合いこそがあるから、なのかもしれない。
先述したとおり察しの悪い私は、この展開がよく判らず、なぜこの青年がここにいるのか、まるで見つけてくれといわんばかりにワザとらしくおびえた声を出して殺し屋に見つかってしまうのかよく判らず……。
お互い誰かを判っていたのかどうかもよく判らず、シャワールームを隔てたカーテンをカッターで切り裂いてナニを突っ込んでフェラさせたり、唇だけを出してレロレロしたり、青年は怯えているのに判ってるんだか判ってないんだか、ほんと、判んない(爆)。

そのままカーテン越しにひとしきり濃厚にいろいろ(爆)やった後、抱き締め合った時に突き立てられたのは青年の持っていた刃物だった。
彼は、相手が、愛する彼だと、知っていたの?突然怯えたように泣き叫んだけど、判ってたの?なんか判んないんだよ、つまり青年は、ここで彼を殺さなきゃ自分が危ないとか、そういう判断だったのか、でもそれはなんでなのか、わっかんなくてさあ……。
ただ、このカーテン越しの様々(照)は、これまでのガッツリなカラミと違って何か、なあんか、まあつまり、ちょっと腐女子好み的な(爆)ものがあったから……。

それは、あのラストにつながるから余計にそう思うのかもしれない。青年は、彼がゲイカップルと過ごしていた廃墟の屋上を訪れる。そこにはあのレトロなロボットが転がっている。
殺し屋が見つけた時にはろくに動かなかったロボットが、あの愛しいぎこちない歩行を繰り出し、胴体を回転させ、しかも胸の扉がパカッと開くと、そこから光線か砲弾かを打ち出すような、小さな発射装置がそなえられいる。
でももちろん、こんな子供のおもちゃだから、そのプラスティックの筒から何も撃ち出される訳もない。胴体をくるくると回転させ、ぎー、がしゃん、とちっとも進まない歩行を繰り出すロボットを、眺める。眺め続ける。
殺し屋が眺めていた時の少年のような表情とは違って、ただ、哀しげに。

ラストシーンはこの青年が、新しい人生への出発よろしく去っていくのを見送るその手前で、このロボットにピントがしっかり合って、ぎー、がしゃん、ぎー、がしゃん、とちっとも進まず手足を繰り出すんである。
これを見ると、園監督はやっぱりロマンチストなのかもしれんなあ、と思う。昨今の、あの、暴力的な作風で名を馳せる彼だけど、このラストって、殺し屋が愛しい恋人を、もう自分では送り出せない恋人を、前途洋々、未来の光り輝く恋人を、見送ってる感じじゃん、めっちゃ、ラブ、プラトニックラブ(この時点ではね))だよなあ。 ★★★☆☆


団地妻 昼下りの情事
1971年 64分 日本 カラー
監督:西村昭五郎 脚本:西田一夫
撮影:安藤庄平 音楽:奥沢散作
出演:白川和子 浜口竜哉 南条マキ 関戸純方 美田陽子 前野霜一郎 大泉隆二 小泉郁之助

2012/10/14/日 劇場(銀座シネパトス/レイト)
記念すべきロマンポルノ第一作が本作だという。へーっ、そうなんだ、なんかこのタイトル、ものすごーく手垢のつきまくったありがちな感じがするけど(爆)。
検索すると、2010年の中原俊監督作品が最初にヒットするから、あらと思ったら、ロマンポルノのリメイク企画で本作を元に作られたのだという。
へーっ!中原監督のならば、ちょっと観てみたかったが。チェックしててもこのタイトルの平凡さで排除したか(爆)。

とはいえ、団地妻っていうとさ、ロマンポルノ、ピンク、アダルトのひとつの固定イメージ。それがロマンポルノ第一作に使われていると思うと、それはそれで意味深いものを感じなくもなかったりして。
ロマポルの前に既にピンクもあるし、エロものも存在するのだから、本作で“団地妻”が登場したんじゃないのかもしれないけど、それにしてもこれは秀逸な表現の言葉だと思う。

それこそ高度経済成長によって林立された団地、豊かさの象徴であり、そこに住めることへの優越感だってあった筈が、その豊かさを得るためにダンナはモーレツ社員になり、置き去りにされた妻はこの四角い箱の中にたった一人閉じ込められる。
いわゆるこうした集合住宅は、その後アパート、マンション、と言葉をレベルアップさせ、ラグジュアリーだのなんだのと豪華さを喧伝し、それだけで孤独や息苦しさを象徴するものでもなくなっていったけれど(ていうか、今や一軒家より集合住宅が普通になってしまったから)、この時には、この10数年の間は、団地妻、という言葉がエロさよりも、取り残された女の孤独、を凄く象徴していたと思うんだよなあ。

そう、もう時代が先送りされると、団地妻はイコール、エロいイメージでこびりついちゃうから(爆)。さすがロマポル第一作、団地妻、律子は、その純粋な孤独なイメージを見事にまとってた。
ダンナは絵に描いたようなモーレツ社員(というのも今は言わないよな(汗))で、“夜のお勤め”も自分だけお義理のようにすませて、「あなた……私まだなのよ」「カンベンしてくれよ、疲れてるんだ」おいおいおいおいー、世界一、宇宙一、勝手な言い草だぞ!
そーいやー、男女雇用機会均等法って、いつ施行されたんだっけ?そんなことをわざわざ持ち出さなくてはいけないほど、女は結婚して奥さんになり、ダンナが運んでくるお金で囲われているのが当たり前の時代。
これが“団地妻”じゃなかったら、彼女はそんなことに孤独や息苦しさや、ましてや疑問など持たなかったかもしれない。四角い窓からダンナを見送る毎日。まさに籠の鳥。

二人のキーマンが、律子の運命を変える。二人とも、かなりな非常識人である。でもってオチバレ承知で言っちゃうと、二人とも律子のせいで死んじまう。
いや、律子のせいなどと言ってしまっては彼女がキノドクかもしれない。ある意味二人とも自業自得だ……反社会的なこと(カタイ言い方だなー)を仕掛けてきたのだもの。

一人は律子とダンナの良平の、学生時代からの仲間である桐村。律子は当時男子たちのマドンナで、良平がそのマドンナを射止めたってんで、久しぶりに再会した桐村はジョーク半分で恨み言を口にする。
だって良平は、結婚して毎日顔をつき合わせてるとなあ、などとお決まりのゼイタクな愚痴を言い出すんだもの。いいとこのぼっちゃんで遊び人の桐村が、かつての憧れの人にちょいと手を出してみようと思ったって仕方なかろうが。

つーか、ホントに桐村はおぼっちゃん。いいとこのぼっちゃんだから素直に会社を継いでれば、いや継いでなくてブラブラしてても左団扇。
でも親がうるさいってんで、テキトーに会社起こして、ピンクテープなんぞを売って体裁を整えてる。ピンクテープ!これまた、話に聞いたことがあるだけの、アダルトグッズ創成期のシロモノだよなー。なんかキュンときちゃう??
しかしこのつながりも上手いのよね。このピンクテープからつながって、アダルトグッズを押し売りよろしく“団地妻”たちにセールスして歩く男が、売春組織の元締めなんだから。
演じる前野霜一郎氏、超、モンキッキー(元おさる)に似てると思うの、私だけ?観てる時には誰に似てるか思い出せなくて、あれ、これ昔の映画だよねえ??ってすんごい思っちゃったよーっ。

でね、もう一人はそのおさる……じゃなくて、モンキッキー……でもなくて、そうじゃなくて(汗)、この団地に住む奥様、そう、アナザー団地妻、陽子である。
設定としては、ダンナが海外での仕事が多くて、ヒマと欲望をもてあましてる、と(爆)。当時のハヤリ、いや、今も結構こういうメイクあるけど、ザ・ヤンキーって感じの細眉に、魔女かよ、ってパープルのシャドウ、コワい、コワすぎるわーっ。
いや実は、ヒロインの律子も大差ないんだよね。とりあえず、細眉コワい(爆)。男どもが、律子のダンナの良平や、遊び人設定の桐村でさえ七三分けなもんだから、はすっぱメイクの女たちのインパクトがちとスゴイ。団地妻の貞淑じゃないよなあ、律子も(爆)。

ま、そのあたりが時代ということなのだろうが。とにかくね、このもう一人のキーマン、細眉団地妻の陽子が、律子と桐村のウワキ現場をおさえて彼女を脅し、売春婦の道へと誘い込むんである。
うーむ、正直、陽子がこんなに執拗に律子を悪の道に誘い込む動機がイマイチ……。恐らく紹介料的なものをもらえるからってことなんだろうと思うけど、おさるがそのあたりの料金形態をハッキリ明示しているのに対して、陽子は自分のメリットは別に言わないからさあ。
もし紹介料も何もないのなら、自分の客を奪われる訳だから、ワリが合わないってことになるんじゃないのかなあ、などとソボクな疑問。つまんないこと言ってるかなあ?

まあそれこそそんなつまんないことはおいといて……。陽子に桐村との浮気現場を押さえられた(これも、偶然にしては出来すぎだが……だって律子は浮気しそうなネタはそこまでは全然なかったじゃない)律子は、コールガールへの道に足を踏み入れる。
コールガールって言い方自体がなんとも時代である。コトがバレた時にダンナも、「自分の女房がコールガールとは!」って言うもんね。なんか優雅な言葉だなあ(爆)。
律子が懇意にしている、お向かいの若くて可愛い奥さんまであっけらかんとその仕事に励んでいる様子を“見学”させられて、律子はボーゼンとなる。まあ、この“若くて可愛い奥さん”は多分にカラミ要員って感じもあるけど(爆)。
でも興味深いのは、この奥さんが、律子に買い物に付き合ってほしいというのが、「また新しい服を仕立てたい」というのがね。オーダーメードですよ!ブランドの高い服とかでゼイタクを表現するんじゃないんだよね。優雅だわあ。

律子はメッチャいやいやながらもコールガールの道に足を踏み入れるも、あまりにもカンタンに大金が手に入るもんだから、身の回りがハデになってきて、一度ダイヤの指輪をダンナに見つかって危ない場面になったりもするんである。
いや、それ以上にダンナとの“夜のお勤め”の場面、それまではいつも受身一方だった律子がうっかり上に乗っかっちゃったもんだから、それだけでダンナは「どうしたんだ!」と驚愕。えーっ、そ、それだけでかよ!
律子はハッとして、また受身の態勢に戻り「この人の前では、未熟な妻のままでなければいけない」とモノローグ。コールガールのお仕事で、急速に爛熟していったことを自覚している律子は、もうこの時点でかなりの転落人生さん。

しっかし、体位が上になっただけでねえ……というのはエロに毒されすぎ?(爆)。でもこれって今だって案外そうかも……男は保守的だからなあ。
桐村が律子を酔わせて強引にホテルに連れ込んだ時、彼は長年の憧れの相手と寝ることが出来たけれども、そのモノローグは「あんなに燃えていながら、テクニックは生娘みたいに未熟だった」と。そして律子の方は「同じ男なのにセックスが全然違う」と。
その下地がうっかり出来てしまったからこそ、脅されて売春の道に足を踏み入れてしまっても、その数々のセックスに学習能力を発揮しちゃった訳なんである。

実はさ、ダンナはわっかりやすく亭主関白……なんてエラいもんじゃないな、モーレツ社員の体裁を整えて、女房の前ではオレが食わせてやってるぐらいの態度だけど、課長に昇進するのには成績が悪すぎて、上司から叱責される毎日の体たらくなんである。
で、彼が思いついたのは海外企業の契約をとるために、アダルト接待をすること。その前にさ、桐村は律子がコールガールしてること、うっかり自分が客になりそうだったから知ってたのに、でもって良平からアダルト接待のつてを頼られた時に紹介したのは当然あの元締めモンキッキーでさ、ヘタしたらこーゆー事態になること、予測できた筈なのに。
え、これは脚本的不備?それともその事態を期待して紹介した?……そんな深い思惑があるようには見えなかったなあ。

まあともかく、律子はお仕事終えてチップをもらうのが、接待だからその相手ではなく接待を整えた会社の人間、つまりダンナと顔を合わせちゃう。
その場はなんとか取り繕うものの、でも部下にはすっかりバレてるし、ダンナは会社の昇進、女房は空虚な生活への不満、それぞれ全然ベクトルが違うから、お互いののしりあったって、もう交わりあうことなんて到底ムリそうなんである。

ケンカ別れしたところで訪ねてくる陽子。全部アンタのせいよ!とつかみかかる律子に、もうかる仕事を紹介してやったのに、割りにあわないわよ!と理不尽きわまりないことを自信満々に返す陽子。
どッたんばったんとやってるうちに、陽子はガン!と後頭部を家具にぶつけて目を見開いて死んでしまう。ええ、ええ、えええ!こんな、昔のマンガによくあったような展開ってマジにありかよ!
律子は動転して飛び出し、桐村の元に向かう。この日同時上映だった作品でも再三思ったが、無防備にドアの鍵開けときすぎだろ。フツーに入ってこれるって、今のマンション事情じゃ考えられないけど、当時はそんなもんだったのか??いやあ……。

律子は桐村に全てを打ち明け、桐村は一緒にどこか遠くに逃げようと言う。そして刹那的なセックス。
ずーっと思ってたけど、全てにおいて“昼下りの情事”じゃないよな、全然。あ、コールガールの仕事の時は、ホテルの中だから夜のような雰囲気だけど、実際は昼なのかな……。まあいいか、そんなことは(爆)。
とにかく、二人は車を走らせる。風光明媚な赤い橋。緑深い山をぐるぐると回る。そんな明らかに危ない山道なのに、二人はやけにイチャイチャしている。
いや、イチャイチャどころじゃなくて、二人ハダカになって(オイ)、律子は桐村のまたぐらに顔つっこんでる(オイオイ)。無粋にボカシ全開である(オイーッ)。

そういやさ、本作のカラミシーン、ダンナとの空虚なそれでは特に隠すトコもなかったけど、桐村との浮気シーンやコールガールの仕事シーンでは、下半身をさーっと光が掃くようなボカシで、あんなボカシ処理、初めて見た!
相手だけをシルエットにしてみたり、カラーバックにしてみたり、前衛的で、アーティスティック。なんか、鈴木清順みたい、なんて。やっぱこれも、第一作の気合い、かなあ。

でまあ、そう。ぐるぐるまわる山道でそんなことしてるもんだから、蛇行しまくり、今にも激突のスリリングを繰り返す。しかしご丁寧にちゃーんと桐村がイったところでガードレールを突っ切り、山肌を転げ落ち、更にご丁寧にドーン!と車が炎上したところでエンド。
二人で遠くに逃げて暮らすんじゃなかったのかよ、なんでこんな山道で車の中でマッパになってフェラするのか、そこを突っ込んだらどうしようもないのだが……。

大人のおもちゃの押し売りって、それこそピンクで久保新二氏がやってるの見たことあったが、ホントにあったのかな、やっぱり!……どーでもいいか。 ★★★☆☆


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