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「や」


2014年鑑賞作品

ヌイグルマーZ
2013年 99分 日本 カラー
監督:井口昇 脚本:井口昇 継田淳
撮影:村川聡 音楽:福田裕彦
出演:中川翔子 武田梨奈 市道真央 北原帆夏 高木古都 ジジ・ぶぅ 藤榮史哉 今泉ちえこ 八幡愛 高田莉沙 坂本亜里沙 平岩紙 斎藤工 猫ひろし 山寺宏一(声) 阿部サダヲ(声)


2014/2/19/水 劇場(新宿バルト9/モーニング)
井口監督ミーツしょこたん、き、キターッ!つーか、まあしょこたんの主演映画だから見とくか……え?初主演映画?「恋の正しい方法は本にも設計図にも載っていない」は元はケータイ配信ドラマだから映画にはならないのか……。
などとぶつぶつと思いながら足を運んだぐらいで、しかもおっと、もう公開から随分経ってる、いけないいけない、というぐらいのスタンスで、全然ホンキ度が薄かったのだが、監督の名前を見た途端に目が覚めた。

しょこたんミーツ井口監督!(あれ?逆にしただけか……)加えて原作大槻ケンヂ!なんてピッタリ過ぎなの!先に原作があったことが信じられないほど、まるで彼女に当て書きされたような企画!
つーか、原作、楽曲にインスパイアされた形で脚本を書き始めたのが井口監督、ということは、きっと最初から彼の頭の中にはしょこたんが浮かんでいたに違いない、とゆーか、ファンだったに違いないっ。いや、推測だけど(爆)。

でも、今まで気づかなかったのが不思議なほど、井口監督としょこたんは同じワールドの住人に違いなく、まさに今まで仕事をしてこなかったのが不思議なほど、なんである!!
しかも大槻ケンヂが創造主としてそこに加わると、更に見事な化学変化!あー、素晴らしい。
劇中でガンガンかかる音楽はどれも軒並みカッコイイが、特にラストクレジットにかかる、今回の映画化の経過をそのまま記したような歌詞が気になり過ぎる!ちゃんと読みたい!!

うー、興奮してしまった。ロリータファッションに身を包むしょこたんは、彼女のコスプレ傾向からはちょっと違うけれど、なんたって似合うし、彼女がまとうとファッションというよりやはり、ロリータコスプレに見えるから不思議である。
その後、ぬいぐるみと合体してヌイグルマーに変身する、というのはまさしくコスプレだが、それだけにそれが彼女自身じゃないところがかなり残念なところで……。

この設定、自分にコンプレックスを持つしょこたん=夢子=ダメ子が、ヌイグルマーとして変身できるその条件として、「あのお兄さん(実際はお姉さん)みたいな顔のパーツにして!」と言ったことから彼女自身じゃない、敵方のマニッシュなお姉さん、キルビリーを演じる武田梨奈嬢がヌイグルマーになって正義の鉄拳をゾンビたちに食い込ませる訳で。
まあそれはヤハリ、運動音痴で知られているしょこたんにこんなアクションが可能な筈はなく、スタンドインという形でもムリなぐらいしょこたんはやはりウンチな訳で。

あるいは逆に、スタンドインという形は使いたくない、アクション映画としてきちんと成立させたいという思いもあったのかもしれない。
たとえ世間からB級と呼ばれても、井口監督のスプラッタアクションワールドは、そのスリリングは、これぞ映画、映画のワクワクの原点を思い出させてくれるものなんだもの!

そういう意味ではゾンビというアイテムもまた、原点中の原点であり、次々、次々、次々に、無限に襲いかかるゾンビに対するアクションにスタンドインだなんて!やはり!!きっとそれは、しょこたん自身も、アクション映画を、B級映画を愛するしょこたん自身も納得の上でのことであろう。
ただ、しょこたんファンとしては、それほどまでにサブカルを愛してやまないしょこたんに、正義の味方のコスプレしての、アクションまでをもやらせてあげたいっ!と思っていたから劇中ずっとムズムズしていたのだが。

最後の最後、彼女の得意なヌンチャク、あの有名なしょこたん特製ピンクのふわふわヌンチャクを振り回し、「やっと自分のまま合体できた!」と彼女の顔でヌイグルマーになってくれた時には、ああこのカタルシスのために、あえて監督はとっておいてくれたのかもしれないっ、と胸が熱くなってしまった。
これはダメ子が、大好きな響子ちゃんの信頼を勝ち取るまでの成長物語でもあるのだからっ。

……興奮しすぎて、どんな話なのか全く判らない。つーか、判らなくてももはやいいような気がしてきたが(爆)、それじゃあんまりなので、最初から。
そもそもなんでヌイグルマーかってーと、いきなり舞台は宇宙にぶっ飛ぶ。銀河系の果てから脱出してきた綿状生命体が地球にたどり着き、それぞれピンクのテディベア、黒の編みぐるみの熊に縫い込まれる。
ピンクのテディベアは、しょこたん扮する夢子の姉が娘の誕生日のプレゼントに手作りしていたもの。

この姉、平岩紙嬢は哀れ、ゾンビたちを操る黒編みぐるみと合体したタケシの手下、片腕マシンガール(!これぞ、井口監督の代名詞よ!)に撃ち殺されてしまう。
暴力父から逃れてようやく離婚できた母親との二人暮らしの矢先、居候として転がり込んできた夢子がママを死なせたのだと、一人娘の響子は激しく夢子を憎んだまま幾数年が経つんである。

黒編みぐるみ、デパルザと合体して制服をもくろむタケシを演じるのは、猫ひろし。
一見、いかにもこーゆーB級映画のキャスティングのようだけれど、彼自身が内包する哀しみがじわりと染み出ていて、これがなかなかシリアスなんである。そういうところが、井口作品を単なるB級作品から頭一つ抜け出させているところだと思う。この感じはしょこたんもそうなんだもの。哀しみが、あるんだよね。

夢子は響子ちゃんを守るために、死んでもいいと思った。タケシの手下たちに追い詰められて、キルビリーに撃たれていったんは死んだ、のかもしれない、とキルビリー自身が言ったのだ。
そう、あの時いったん死んで、響子ちゃんを守るためにヌイグルマーとしてよみがえったのだ。そう考えると、なんと切ないことか。

しかも響子ちゃんはずっとずっとそれに気づかないまま、ヌイグルマーの姿がキルビリーの顔かたちであることも手伝って、敵方であるキルビリーに恋い焦がれるようにさえなって、切ないったらないのだ。
そしてそれは、響子ちゃんに好かれることで、タケシのしもべとして働いてきたキルビリーが、真の正義とはなんぞやと思い悩むことにもつながる。
そしてなんたってキルビリーはお兄さんのようなお姉さんなのだから、ビアンチックなこの世界観に萌え萌えなんである!!

背が低くて、皆にバカにされて、過去回想で好きな女の子に決死の覚悟で告白したのにフラれたばかりか、連れの男にバカにされる、といった屈辱のシーンも映し出されるタケシ=猫ひろしは、なんかこれがもう、なんとも身につまされるとゆーか、監督自身の実体験ちゃうのと思うとゆーか、こういう、青春をひっそりと負け組で過ごしてきた人たちには何とも心に響いて、だから、なんか、哀れなのよ、悪の化身となったタケシがさ……。
その力を得てくれたデパルザもまた、かつての同志の元に帰って行ってしまう訳だし。

なんてことをしんみりと考えてしまうんだけど、でもやっぱり、井口ワールドのいい意味でのくだらなさがバチバチに炸裂していて、嬉しくなってしまう!
まずはなんたって、基本のところ、ヌイグルマーなんだもの。ぬいぐるみ、しかもテディベアが喋るというのはヒット作「テッド」(未見だけど)をパロった部分は絶対あるだろうし、「テッド」のウリだった(であろう。未見だからな(爆))ぬいぐるみなのに邪悪、という部分をさらにスケールアップさせて、最高なのだっ。

このピンクのテディベア、ブースケに殴られて「この材質なのに、意外と痛い!」というしょこたんの台詞でまず笑わせる。
ピンクのテディベアが銃を構えるギャップ。敵に捕らえられ、キラキラのラインストーンで十字架にはりつけにされる妙に乙女チックな危機シーン。
いい気分になると邪悪な出っ歯がせり出る不条理さに(だって、ぬいぐるみなのに!)爆笑し、何よりそのボタンの瞳からだーだーと涙を流されると予想外に心を打たれてしまう。

そう、ボタンの瞳。「君を守る。ボタンの瞳にかけて!」打たれるわー!!
ブースケは響子ちゃんを姫と呼び、誰よりも大事に思い、その思いを夢子と共有するけれども、響子ちゃんは敵方のキルビリーに恋をし、彼女のまごころで敵から味方に、そしてそれ以上の存在に引きずり込む。そして響子ちゃんのために正義を貫いて死んだ彼……じゃなかった彼女の死に涙にくれるのだから、ブースケも夢子もある意味失恋した、みたいな……。

いや、夢子に関しては、実は響子ちゃんは本当は心の底で大好きで、仲良くなりたいと思ってて。
でも自分をかばって母親が死んだと思いたくなくて夢子のせいにしていたから……という葛藤がある訳で、実際にリアルに失恋したのはブースケだけだっていう切なさがある訳でさ。
そうそう、響子ちゃんが実は夢子のことが好きだという深層心理を、タケシの会社がやってるセミナーであぶりだされる場面、スクール水着で部屋の中でスイカ割りしている響子ちゃん、夢子と楽しそうにしている、という場面ではあるけど、アイテムが危なすぎる!いいのかー!!

あれ?なんか脱線した……言いたいことからずれたような。そうそう、くだらなさの面白さを言おうと思ってたんだった。
井口作品なら当然あるであろう、エロ要素も、ヤハリしょこたん主演ということで抑えられちゃうかな、と思ったが、まあ確かに抑えられてはいるのだが、そう思っていたところに待ってましたの、くだらなエロのクライマックスシーン!
タケシ様に忠誠を誓っていた片腕マシンガールのゴスロリ乙女が、彼から戦力外通告された超切ない場面のシリアスをかわすように、代わりに指名された純白レースロリ四人組が夢見る顔つきのまま戦闘へ。

いきなりもろはだぬぎ、しかしR指定ラインか、やはりしょこたん主演ということもあってか、乳首を光輪とゆー、宗教的アイテムで隠し、しかしそれが逆に脱力エロで(爆)。
あーん、恥ずかしい。この恥ずかしいエネルギーを高めましょうとか言って、あーん、あーんと身もだえして恥ずかしがりながら、上空までそのパワーで昇っていって、そのパワーでおっぱいビーム攻撃、爆破!な、な、なんじゃそりゃー!!!あー、最高!こういうの!!

夢子と響子ちゃんがお互いの思いを分かち合い、スパイダーマンか、いやそれ以上、もうどうなっているのかわからん、ミシン糸をくるくると解いて天空からつりさげた飛行シーン。
このワザとらしい、いやワザとに違いない、そりゃワザとだろっていう、ミニチュアの中をいかにも合成で飛んでいく、これぞB級スペクタクルにうっと涙腺がゆるみそうになってしまうバカ(爆)。
でもこういう映画に心をつかまれる幸福こそが、映画ファンの幸福だと思うっ。

これはね、孤独な子供時代を多少なりとも過ごした人には特にズンとくる、いや、そうじゃなくてもすべてのクダラナ映画ファンを満足させる秀作よ!
いや、クダラナなんて言っちゃ失礼だが、でも本作の、そして井口監督の、そしてそしてしょこたんの魅力はそこにこそあるのだよ!!

ああ、でもでも私、近年井口作品から離れていたことを、今になって知る。気づかないうちに、離れてた。悔しい。
しょこたんがそのことに気づかせてくれた。ヤバい。彼は間違いなく日本が誇る唯一無二の才能なのにっ。★★★★★


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