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「た」


2018年鑑賞作品

脱獄囚
1957年 86分 日本 モノクロ
監督:鈴木英夫 脚本:村田武雄
撮影:玉井正夫 音楽:芥川也寸志
出演:池部良 草笛光子 佐藤允 尾上九朗右衛門 田島義文 藤田進 土屋嘉男 桜井巨郎 中北千枝子 家田佳子 氏家真紀 河内桃子 岸田翠 如月寛多


2018/1/31/水 劇場(神保町シアター)
池部良特集やっと三本目。今回の彼は警部である。寸分たがわぬカッコ良さ。三人の死刑囚が脱獄する。そのうちの一人が、池部良扮する星野警部が挙げた山下。ああ、山下、である。劇中何度も、山下、山下と池部良は呼びかけ、大人しく出てこい!とか言い、大人しく出て行きますぅー、と当方山下さんは胸の内でとろとろにつぶやくんである(爆)。
いやいやしかし、これがものすっごいドキドキの物語で、こーゆーのをスリラーというの?スリラーというと恐怖映画のようなイメージだが。

死刑囚、山下を演じるのはこれぞザ・コワモテ、佐藤允。本当にこの人は顔一発で凶悪犯である(爆)。いや、大好きな役者さんである。
捕まる前、彼には情婦がいた。しかもそのお腹には子供が宿っていた。山下が捕まり、死刑判決が下った後、彼女は絶望して鉄道に飛び込んだ。
そう、山下が捕まる時、彼は星野警部に懇願したのだ。見逃してくれと。背後には待ち合わせをしていたのか、頬を上気させた千代がいた。

あの時彼が言った見逃してくれという言葉は、今だけ見逃してくれということだったのか、いくらなんでもこのまま逃がしてくれということじゃムシが良すぎるもんなあ。
「あいつのお腹には子供がいるんだ」「お前がバラした人たちにも妻子がいた」そう言われてもふてぶてしい反抗顔を崩さなかった山下は、そらーちょっとめんどくさい自己中に違いないのだが。

それでも千代が自殺などしなかったら、勿論こんな愚行には及ばなかっただろう。惚れていたんだろうなあ。この千代を演じる岸田翠が、なんていうのかなぁ、ちらりと登場するだけなんだけど、天真爛漫というか、ちょっと頭が弱そうというか(爆)、恐らく彼だけが頼り、みたいな、そんな雰囲気を見た目一発で醸し出してて、その余韻が後後までずっと残るのよ。
ああ、彼女を失ったことで、山下はもうこれしかないと、思い詰めてしまったのだ、愛する女を失う辛さを思い知らせてやりたいと思う気持は、ある意味分かち合わなければ自分自身が立っていられないというほどのショックだったということなのかもしれない。つまりそれぐらい……弱い男、なのだ、犯罪を犯す男は。

三人の脱獄囚は行く方々で強盗したりひき逃げしたりしてどんどん人を殺しちゃう。死刑囚だからのやけっぱちにしても、あまりにもムチャである。だからあっさり二人までは捕まっちゃう。
しかしその間の対策本部から飛ぶ指示とそれを中継する無線のやり取りはさすがのドキドキである。

三人は隠し持っていた金と拳銃を山分けしたんだけれど、山下だけは、拳銃だけでいいと言った。金は要らないから、この拳銃を譲ってくれと。さすが一緒に逃げた三人だから、そのことも、その意味も当然分かっていたけれど、捕まっても口を割らなかった。
だからこそ最初の悲劇が起こる。死刑を求刑した検事の奥さんが殺された。これで山下の狙いはハッキリとした。恨みを抱く本人ではなく、その本人に死ぬ以上の苦しみを味わわせるために、その奥さんを殺す。……先述したけど、なんてオトメチックなヤツなんだろう(爆)。

そこで、星野警部の奥さんも狙われるだろうという話になるんである。この時に星野警部はまだまさかと思ってる。でも観客にはまさにその様子が示されるのである。
奥さん、草笛光子!!若い時を見る機会はなかったなぁ、少したれ目気味の目がすごくおっきくて、すらりと足が長くて(スカートの腰の位置の高さよ!)凄い美人!!なるほど、そのまま美しく年をとった姿があの彼女だとすんなりつながる美しさ。草笛光子が専業主婦というのもピンとこない感じがあるが、それはプロフェッショナル女優を脈々と続けてきた今のイメージがあるからか。

彼ら夫婦には子供がいない。結構いい年齢加減なのに。この前に観た「裸の町」でもそうだったし……何か、こんな美男美女の夫婦には子供がいるイメージは反って合わないのかも??いやいや……。
でもその分、ラブラブである。「裸の町」の二人のように若い恋人同士みたいにラブラブではなく、芯の深いところでつながっている感じである。大人である。

勿論、こんなことになってしまったから、つまりつまり、自分がおとりになることで山下を捕まえようというんだから、奥さんの節子は動揺する。凄く怖がる。そりゃ当然である。
でもその奥さんを諄々と諭す星野警部、池部良が、ああ、愛があふれて、勿論、自分の仕事、そしてここで逃がしたら第二第三の犠牲者が出るであろうこと、自分がついているから、離れないから、信じてほしい、と、必死に説得。

これはね、これは……自分が守るから、というんじゃなく、それ以上のこと、死ぬ時は自分も一緒に死ぬから、ってことだと思う!!
そこまで明確には言わなかったけど、彼は奥さんの命と自分の仕事は、同じく大事、こう言っちゃ語弊があるかな、つまりそれだけ、仕事にも奥さんにも自分の命を賭けているのだ。……という価値観は、今じゃ通用しないかなあ。

山下は電話帳で調べて電話をかけて、知り合いなので会いたいと言って、道順を聞くという、実に古典的な方法をとっている。だからこそこの包囲網が築けたわけだが、それをまたうまい具合に山下は利用する。
星野警部の隣家に奥さんと娘さんを人質にして様子をうかがっている山下は、そこから第三の標的、死刑を下した判事の家に電話をかける。「今から一時間後に行きます」つまり、星野警部たちが警戒しているこの東伏見には潜伏していないと思わせるためなんである。
東伏見!妙に遠い!!星野警部はもちろん、都心でバリバリに活躍する警部である。それが東伏見とは。「西武新宿線の東伏見の駅を出まして……」途中の道ののどかすぎること!「掲示板が出ているので、判ると思います。」掲示板で家が判っちゃうあまりにのどかな時代……。

ちょっと買い物に出かけるだけで、隣家に声をかけるそんな時代。ついでに頼まれる買い物、そうでなくても、「出かける時に、うちに言ってこないなんてことはないわ」と節子が言うように、この時代はほぉんとに幸せな時代だったのだ。
隣に訪ねて来た男に声をかけて「今、買い物に行っていますよ。言っておきますよ」だなんて、ありえない、あり得ない!!

この隣家の奥さんはもちろん、その娘、高校生ぐらいかな、はつらつとした俊子とも仲が良く、この日はワンピースを作るために夜うかがいますネと言っていたのだった。
だからさ、だから……自分が狙われている恐怖ってことは判るけど、夜訪ねてくるハズだったのに来ない、ってことに早く気づいてよーっ!と見てるこっちはかなーりヤキモキ。

結局、勇気ある俊子ちゃんがそのワンピースの生地を二階の窓から垂らして、脱出を図ろうとした、それを星野警部は奥さんに見せて「あのひものようなものは何だと思う?」「あれは、俊子ちゃんのワンピースの生地だわ。今夜来ることになっていたの」
いやいやいや!なんで突然、奥さんに意見を求める!まぁその後「ほかにいつもと変わったところはないか」と問うにしても、この状況は奥さんに聞くまでもなく明確だろ!それに節子さんもさー、今夜来ることになっていたの、なんて冷静に言うなよー、それにもっと早く気づいていればさぁ……そういえば!!ぐらいのオドロキを見せてほしかったなあ。

隣家から星野家を見張ろうと訪ねて来た刑事が捕らわれてしまう。彼は結局、殺されてしまったんだろう、か?「木崎刑事が危ない」という台詞のみで、応援を頼んで方々から駆けつけた刑事たちが、「お前は完全に包囲されている!!」というお決まりの台詞で追い詰めてからは、彼の消息は全く……。

この隣家、堀内家での、母と娘と山下との攻防こそがものすっごいスリリングで、娘の俊子ちゃんがね、なんといっても勇敢なのだもの。山下が二階の自室に上がってきた時寝たふりをしたり、ワンピースの生地を垂らして逃亡を図ろうとしたり、目を盗んで110番のダイアルを回したり(ダイアルだからね!戻る音をおさえながら回すドキドキは、この当時の電話機を知ってる人じゃないと判らんでしょ!!)木崎刑事の結束を解こうとしたり、ほんっとに、勇敢なお嬢さんなの!!
それを目顔で指示もするお母さんもだよなぁー。最後のクライマックスでは星野家での節子奥様と山下との暗闇でのドキドキがあるけれど、メインは堀内家だよなぁと思うぐらい!!

山下は、もうある意味追い詰められて、俊子お嬢ちゃんを使って節子をおびき出そうとする。夫である星野警部はそら断腸の思いだが、奥さんを信じて託すんである。
暗闇の中、声の掛け合いだけが響くこの場面から、山下がついに星野家に入り込み、堀内母子は無事逃げ出し、電気を落とした中で節子と山下がスレスレにすれ違う、それを夫の星野警部と駆けつけた応援部隊が息をつめて見守り、必死の誘導をし、ああ、この暗闇のスリリングよ!!
節子はさ、なんつーか、おっとりお嬢様系奥様な訳よ。今の草笛光子からはイメージわかないけど(爆)。夫の帰りを待ちながら夕食の準備をしたり、編み物をしたり。まー、今じゃあり得ない世界(爆)。

ついに、山下は追い詰められる。拳銃を捨てさせられ、玄関から出ろと指示される。確かに拳銃は捨てた。でも玄関に至るまでは……。ヤハリ思った通り、手の裏側に拳銃を忍ばせて、両手をあげて出てきた彼は、もう死ぬ気だったろう、包囲していた警察官たちに発砲した。
でも残り一発しかないことは判ってた。即座に反応する警察官たち。山下を貫いたのは……とっさの反応をしたのは星野警部と彼の上司だった。どっちがそうだったのか……星野警部、池部良のとっさのアクションのカッコ良さときたらなかったが(爆)、でも倒れた山下を皆でしずしずと取り囲んでのラストは、なんつーか、辛い。死んで当然の男、なんて簡単に言えればいいのだが……。

電話をチャッと受け取る池部良の、脂ののった警部のカッコ良さにとにかくドキドキ。奥さんを守る気概が渋く伝わるのがこれまた、キャーッ!て感じなんだよなあ。★★★★☆


たまゆら
2017年 80分 日本 カラー
監督:土田ひろかず 脚本:土田ひろかず
撮影:鈴木慎二 音楽:岡出莉菜
出演:久保陽香 岡部尚 辰巳蒼生 裴ジョンミョン 笠原紳司 森田ガンツ 川村亮介 村松和輝 ちはる 谷川昭一朗 駿河太郎

2018/3/5/月 劇場(渋谷ユーロスペース)
官僚が決める医療法、現場にそぐわない医師の数の決定方法に警鐘を鳴らしている部分が、作劇にしてはやけに実感こもった緻密さだなと思ったら、なんと本作の監督さんは実際のお医者さんだという。なるほど!と思うとともにオドロキ!
医師が映画監督なんて、聞いたことない、初めてのことじゃないだろうか!!しかもイメージフォーラム映像研究所でしっかり技術を学んだその腕は、決して映画少年が夢をかなえたとか、仕事の合間の片手間とか、そんなことを感じさせない力作。ちょっと、驚いてしまった。

慢性的な医師不足に悩んでいて、現場の医師教育にも力を入れたい、とキャビンアテンダントをしていた高杉和代がスカウトされる。
物語の冒頭は、彼女が自分勝手なことを言う乗客に毅然とした態度で接する場面で、その様子を見て白羽の矢が立ったのか判らないが、この転職はかなり面白い設定だなと思う。本作は実際に起きた事件を元にしているというけれど、この部分はどうなのだろうか。

だってちょっと思いつかない設定だよねと思う。肩書としては医療秘書。中規模程度の総合病院、大城病院で院長が倒れ、ピンチヒッターで院長をつとめる峰山が彼女を熱心に口説く。
この気さくな新院長を演じるのが駿河太郎氏で、彼の人懐こいキャラクターが存分に生かされていて楽しい。最終的にはものすごいシリアスな展開になるんだけれど、彼の明るさで救われている感がとてもある。

実際の事件、という部分は当然、免許を持っていないのに医療行為をした、医師法違反、というところであろう。大城病院では近々査察が入る。その時に病床数や患者数に照らし合わせて医師が足りないと、最悪の場合病院がつぶれかねない。そのためにあやしげな業者に高い仲介料を払って、尊大な態度の若い医師、平岡を雇い入れなければならないハメになったりする。
一方で和代は自身がぶつかられて開放骨折してしまった時に助けてくれた白鳥なる医師の真摯な態度が忘れられず、彼を自らスカウトする。平岡が患者からもスタッフからも嫌われている一方で、白鳥は患者を思いやる誠実な診療で、揺るぎない信頼を獲得していく。

面白いのは、明らかに悪役、というか、金を稼ぐことだけが目的で入り込んできた平岡医師が、白鳥と和代から、「根はいい人」であると評価を受けていることなんである。
平岡を演じる「ジョンミョン氏が、まー、クッソイラつかせる芝居で見事体現しているんだけれど、同時に入って来たいわば善役である白鳥から「僕なんかよりずっといい医者になれますよ」と言われて心打たれちゃった顔をしたり、和代に叱られて「平手打ちを受けたような気分ですよ」と言って、自分が我慢の効かない性格であることを告白したり、思いがけない素直さというか、ちょっと、心引き寄せられてしまうのだ。

単純に考えれば、平岡医師はこの業者と結託して医師不足に悩む病院に短期間入り込んでは高い給料と手数料をむさぼりとることを繰り返すという、悪しき存在であろう。これもまた実際に医師不足に悩む現場に起こっていることなのであろう。
でもその彼を悪役にせず、短期間に金を稼がなければならない理由が父親の入院にあったりとか、彼をいわば利用して高額の手数料を稼ぐ業者の方を全き悪役として描きながらも、それもまたちょっとマンガチックに描いたりして、そこんところが作り手の、本当に悪い原因は他にある、という主張を凄く感じるというか、ね。

そう、医療制度。現場を知らずに単純な数の論理で決める法律というもの。そしてそれは……これはかなり大きく踏み込んだなと思った。医師国家試験に受かれば医者になれる。つまり、偏差値が高ければ医者になれる。そのことに対して、大城病院に勤める以前は厚労省にいた経験を持つ寺井が大きな疑問を呈する、っていうのが、これこそが、作り手側が言いたいことだったんじゃないかと、思うんである。
医師法違反、無免許医師。ブラックジャックを思い起こしちゃうのはいけないかしらん(爆)。でも思えばブラックジャックもまた、見栄とプライドで患者を置き去りにする当時の日本の医療制度に真っ向から批判を投げかけていた作品であった。

白鳥、ではないんである。彼は。本当の名前は白森。和代とイイ仲になった彼が、街中でほろよい気分の後輩に声をかけられる場面がある。しらもり、とハッキリと言っていたけれど、酔ってろれつが回っていなかったのか、あだ名かなにかなのか、と思わせるような雰囲気ではあった。
本当の白鳥は白森の親友。彼もまた日本の医療現場に限界を感じ、国境なき医師団に身を投じる。その決意の場面が後に回想として描かれる。和代に親友の話をちらりと漏らした、それがこの白鳥だったんだろう。

身寄りがなく、白森がただ一人の親友、心の支え。白森が和代に話した、何度も国家試験に落ちた、というのは、受かった、という部分を外しては同じだったんだろう。
つまり、受かれず、親友がソマリアに行くために用意していた医師免許のコピー、何枚かのうち一つをつい、ついつい、抜き取ってしまった。それを、酔って眠り込んでしまったように見えた白鳥は、気づいていたのだ。「あれ、使っていいよ」実際は、心を許したかなり南訛りの言い方で、彼らの会話シーンは心に迫る。

白鳥、いやさ白森が、友人がソマリアで撃たれて重傷を負ったという新聞記事にショックを受けて飛び出した後、和代はその新聞記事を見て、事実を知っちゃう訳なんである。今ここで新聞記事を読んでいた人と同じ名前、そんな筈はない。つまり……ということで。
医師免許のコピーだけで、医師として渡り歩いていたということ、だよね。なるほど、と納得しそうにもなるけれど、実際にはそんなことって可能なのかなあと思わなくもない。給料の振込先とか、なんかいろいろ勤める際にはあるじゃない。

そーいやー最近、そうした身分詐称の映画「嘘を愛する女」でもそうした違和感を感じたことがあった。現代社会で、友人の医師免許のコピーひとつで、本当に渡り歩けるのかなあ。いや、それぐらい、本当に、医師不足というのが深刻なのか。
今回は大城病院が査察に入られる状況だということで、医師免許の原本を求められて、白森は姿を消すしかなくなった。平岡医師に息子の診察をテキトーにされたことでイカった刑事に、ちょっと逆恨みっぽい感じで、白森の医師法違反と共に、院長の隠匿罪まで告発されてしまう。
そりゃないよなー。危ない状態に陥った息子を救ったのは白森さんなのにさ。いや、この時は白鳥と名乗っていた訳だが。

白鳥、いやさ白森、もーどーでもいいが、演じる岡部尚に心惹かれる。見たことある……そらま、フィルモグラフィーを見ればそうなんだけれど、こうしてメインで見るのは初めてな気がする。えー、えー、CMかなんかで、それこそお医者さん役とかやってなかった??と思うのは、それぐらい信頼ある医師姿がキマっていたということだろうか。後から思い出した!ナイトスクープにいつも流れてる富士住建のCM、あの彼かー!!
地味だけれど優し気な風貌、背があんまり高くないところもイイ。お互いなんとなく気になっていた和代と初めて食事、つーか、居酒屋に飲みに行ったシーンがイイ。酔ってちょっと無防備になった感じの和代=久保陽香嬢が絶妙で、「いつもと感じが変わりますね。カワイイ……いや」と照れる白鳥(この時はね、まだ。)医師がまた何とも初々しい。

白鳥、いやもう、白森と言うべきだろう、姿を消してしまう。警察が踏み込み、院長が逮捕され、白森は全国指名手配される。和代は必死で行方を追う。白森もまた、自身の指名手配は仕方ないとしても、お世話になった院長が逮捕されたことをニュースで知って動揺する。
そして……自分が医師であるということを、国家試験には受かれなかったけれど、苦しんでいる人を見捨てられないのだといことを、捨てきれないのだ。逃亡中、突然倒れて心臓が止まりそうになっている人を、見捨てられなかった。応急処置をしている途中、救急車が到着、自分は医師だと、まるで自らに言い聞かせるように強く告げて、次々と的確な指示と処置を施し、そして去っていく。

出頭する直前に和代に対する想いは本物だったと告げた白森、署内で解放された院長に肩をポンポン叩かれ、「待ってるから」と言われ、泣き崩れる白森。そう、待ってるから、なんである。落ち続けた医師国家試験だけど、また挑戦して受かればいいのだ。
そんなことカンタンに言うべきじゃないと思ったけれど、それが実際に叶えられたラストに遭遇すると、シンプルに感動する。前にいた病院から、そして本当の白鳥氏からの嘆願書が効いて、彼は執行猶予がついた。
大城病院でも信頼が厚かった彼のそのニュースは、喜びをもって伝えられた。彼によって心入れ替えた平岡も、もう詐欺まがいの仲介をはねつけて生きていくことを決意した。

その後、5年後というクレジットが挟まれ、院長として若き医師たちに心得を教えている白森に深く感動するんである。きっときっと、ここまでが事件の先の真実の物語だったんだろう、と思うし、思いたいし。
実際の医師である監督さんの想いが凄く伝わるし、各地から公開のオファー受けまくりだというのが何よりの証拠。で、監督さん、68歳って!えーっ!なんという情熱!!それでちゃんと研究所で勉強して、ここまでの作品を作り上げて、デビューとは!!映画って、映画愛って、素晴らしいな……。★★★★☆


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