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「う」


2019年鑑賞作品

WALKING MAN
2019年 95分 日本 カラー
監督:ANARCHY 脚本:梶原阿貴
撮影:芦澤明子 音楽:ハリマユウコ   K.A.N.T.A
出演: 野村周平 優希美青 柏原収史 伊藤ゆみ 冨樫真 星田英利 渡辺真起子 石橋蓮司


2019/10/14/月 劇場(新宿バルト9)
若手俳優を捕まえればとりあえずイケメンと言っとく風潮が私はガマンならず、野村周平は決してイケメンではないんだけどなぁ、そんな十把一絡げなお顔じゃないんだけどなあ、と思ってしまう。
彼の持つ何とも言えない土臭さ、“イケメン”なつるりがない、ざらりとした感じ、ひょうひょうとしているようで、狂気を冷静さで中に抑え込んでいる感じ。それはあの狂った監督、内藤作品に連投したというイメージが先入観としてついてしまっているせいなのかもしれんが、とにかく、タダモノではない。

本作はその成り立ちからしてかなり特殊で、人気ラッパーさんの企画が、企画だけならある話かもしれんがなんとメガフォンまでとり、自伝的な完全オリジナル、だなんて、よくぞまぁ完成までに至ったもんだと驚いてしまうぐらい。しかも結構なバジェットで!!
それには勿論、様々な苦難があったに違いないが、さてじゃあ、監督自身を反映されているとも思われるこの主人公を演じられる役者とは誰か。しかも“結構なバジェット”であるからには、それなりに名の通った役者で、となったなら、つるりとしたイケメン君にはそらー、任せる訳にはいかないんである。

野村君は監督さんとの面識というかつながりがあったということなんだろうけれど、でもやはりこれも運命というか、縁というか。
ラッパーさんの自伝的物語だけれど、その出発点に至るまでの七転八倒な物語であって、決してカッコよく、流暢にラップが出来てはいけない。

最終的に野村君はかなりグッとくるラップを聞かせてはくれるけれど、でもそれも、基本にぎこちなさを内包するが故の“グッとくる”なんである。
ステージに迷い込んだ最初は、ひとことも、どころかひと声も出せなかったことを考えるとラストの感動は言わずもがななのだが、でもぎこちないけれど魂に響くラップ、というのは、芝居としても技術としても、相当に難しいに違いなく。

今はかなり鋭角的なお顔になって、しゅっとした男臭さを醸し出している野村君であるが、本作の中の彼は、幼ささえ感じるおどおど感で、さまよっている。まず、吃音がある。そして性格的にもかなり内向性が強い。
母子家庭である。妹は高校生、母親の仕事も決して安定したそれという訳ではないことが何とはなしに知れる。契約社員、というところらしく、彼女が不慮の事故で意識不明が長く続いた時、健康保険を滞納していたせいで、保険証の期限が切れてしまっていることが明らかになる。

明らかに安アパートだし、きゅうきゅうに生活しているのは判ってはいただろうけれど、ことこういう事態になって一気に追い詰められると、自分たちが極貧であるということに、急に気づかされる、という感じ、いや……彼ら自身は、自覚はあったのか。
川崎、だったのか。この荒涼たる工業地帯は、なんとなく見覚えがあったような気もしたが、川崎は一方できれいな街というブランドも作り上げたから、それまでの歴史の、陰の部分、という感じもする。貧しい町、というのも……。

アトム自身は自分にできる仕事を淡々とこなす、という感じだったから多くは望まないままここまで来たのかもしれないが、思春期の妹は、こんな事態になるまでに、既に恥じるところがあったらしい。
夏も冬も同じシャツを洗いながら着るしかない。友達に恥ずかしい。輝ける女子高校生である自分にとって、ビンボーであることが不当なことであるとでもいうように、兄に向ってなんとかしてよと言い募り、修学旅行のおこずかいを求め、しまいにはコンビニで万引きして捕まっても、こんな目にあったせいだと言わんばかりに兄を小突き倒す。

ここ、このやろー、と思う。……正直、この妹の造形のみならず、「貧しいのは自己責任」と言い放つソーシャルワーカーや、吃音のアトムに対して「頭がおかしいのか?」と嘲笑する警官などなど、やばいんちゃう、という描写が目白押しである。
まぁその、コンプライアンスだのとつまらないことを言うつもりはないが、福祉の仕事をしている人たち、こうした取り締まりを地道にしている人たちは、サポートのために逆ギレされる立場だというのが本当のところじゃないかと思っちゃうから、こういう描写は、かなり前時代的じゃないのかなあと思っちゃうのだが、でも、監督さんの半自伝的物語だと言われちゃうと、強くは言えないっていうか……。

ところで、アトムの仕事は不用品回収業、ありていにいえば、事故物件を片付けるお仕事である。私も孤独死した暁にはお世話になるかもしれない(爆)。
初めて一人で任された一室で、アトムはラップに出会うんである。その部屋が、先輩が軽くひき逃げしたラッパーの部屋だというのもかなりアブないのだが……このラッパーの死因はなんとなくな感じで流されているが、ひょっとしたらこのひき逃げの後遺症が原因だった可能性もある訳でさ……。

しかして、そんなことが横行しそうな雰囲気がマンマンであるのがこの川崎の貧民街である。
アトムの理解ある先輩もまた、ヤバい筋から金を借りて締め上げられているし、アトムの妹、ウランも、彼女の場合は友達の手前の浅はかなプライドでこのヤバイ筋からヤバイ仕事をもらっちゃって、兄に更なるメーワクをかけるという図式。

まず、電気が止められてしまう。妹のウランは得手勝手に、友達の家にしばらく泊まりに行くから、と出て行ってしまっている。今から思えば友達ってのが、ホントに友達だったのかはアヤしいところである。
そんな真っ暗な中で、アトムは事故物件から失敬してきたラップのカセット、リリックを書きなぐったノートに触発されて、書き始める。追加の日雇いバイトで触れた、手持ちカウンターが思いがけず、吃音の自分がリズムを刻めることを発見する。

その前に、事故物件を掃除した時に見つけていたラップイベントのチラシをゴミための中からほじくり出して、アトムはライブハウスに行ったのだ。
何がそこまで、彼を触発したのか。ショーウインドウで見た、ラッパーファッション、ナイキのエアーなんたらだったのか。そんな無邪気な少年ぽさも、この時の野村君からは充分に感じさせる。

没交渉だった妹とある日ばったり出会った時、「何、そのカッコ、ラッパーにでもなるつもり」と棘いっぱいに投げつけられた時、アトムはそうだと、迷うことなく首肯したのだ。バッカじゃない、そりゃ妹はそう言うだろう。
でもそれまで、吃音もあって内向的な性格だったアトムが、揶揄たっぷりの妹の投げかけに、そのつもりだと、ラッパーになるんだと、そう決めたんだと、どもりながらも言ったあの時、それまでの彼を見ていながらも、観客でさえも、ハッとしたのだ。ラップというものが、音楽の一ジャンルではなく、彼に与えた大きさに、ようやく気付いたから。

周辺エピソードがね、ちょっと雑というか(爆)。特に、アトムが先輩と共に訪れる中華料理屋のシークエンスは、オーナーに石橋蓮司を配するというゴーカさだが、彼の風貌を生かしたテキトーな中国料理人キャラで、そこに勤める、アトムの先輩をひそかに恋していると思われる韓国人の女の子も、訛りのアクセントは中国人だったよなあと思うし。
そんで、ウラで危険ドラッグを製造してるとか、オーナーの奥さんがアトムの勤める会社の事務員さんで、地味なおばちゃんだったのが、ハデハデファッション&メイクで突然現れるとか、いやいや!!とツッコミどころですらない事態にボーゼンとしたりするんである。

危険ドラッグを手作り製造するというシークエンスは、それが何か大きな事件を巻き起こすという訳でもないし、なんだったんだ……単に石橋蓮司と渡辺真起子をオモシロにしたいがためじゃないのといぶかしんだが、ま、まさか、これも、監督さんの“自伝的”エピソード、なのか??……もしそうなら、もう、何も言うことはないのだが……。
ヤバイ筋から仕事をもらうためにがんじがらめになってしまった妹のために、この中華料理屋のオーナーから口止め料としてかなりの大金をかすめとって、妹を奪還する訳。
うーむ、リアリティがかなり薄まった気がしたが、これが実際にあることなんだと言われたらひとこともないんだけど(爆)。ワザと、フィクショナルにコミカルにしているんだと言われたら、それはそれで、確かに怖いわなぁ、どうなんだろう……。

ちょっと驚いたのが、脚本家さんの名前で。梶原阿貴氏が脚本家になってること、私知らなくて!!めっちゃ見たことある名前、てーか、私の大好きな映画、DVDで買ったよ、「苺の破片」!!と思って!!
……驚いたなあ。気づくのが遅かっただけ、キャリアを重ねてらっしゃるんだから今さら気づくのが失礼なだけなんだけど……。でも驚いた!!

もう目覚めないかと思っていた母親が、ワンイヤーレイターでいきなりフツーに戻ってて、妹もいきなりいい子に戻ってて、お兄ちゃんのライブに行ってくるねと。
……一年後、で一気に解決させちゃったなあ、で、お兄ちゃんのステージの生中継をスマホで見ている母親、先輩、そして実地で見ている妹がみんなしてカンドーしている。
かなーり、収束を急いだような感はあるが、ただね、ただただ……野村君がとにかく、センシティブ100%で、触れなば壊れる、しかして触れなばぶっ壊す、そんなアトムを疾走しててさ。やっぱりこの人はすげーなーと思ったなあ。 ★★★☆☆


海は狂っている
1959年 88分 日本 カラー
監督:古川卓巳 脚本:石原慎太郎  古川卓巳
撮影:岩佐一泉 音楽:小杉太一郎
出演:川地民夫 南田洋子 山崎雅美 清水まゆみ 二本柳寛 楠侑子 高野由美 西村晃 武藤章生 木浦佑三 波多野憲 高田保 市村博 鈴木俊子 内藤武敏 須藤孝 相原巨典 川村昌之

2019/8/6/火 国立映画アーカイブ
ある意味タイトルが既に示していたとも言えるのだけれど、あまりにぶった切ったラストにあぜん!えっ、えっ、これってどーゆーこと、やっぱりそーゆーこと??
確かに牧夫は愚かに転落していったから、堕落の先の絶望の結末として予測できなくはなかったけど、なんつーか、見た目の描写自体はあっけらかんとノンキな雰囲気があるので、まさかそんなことになろうなんて、思いもしなかった。

とゆーあたりは、演出の失敗なのか、それともさわやかボーイ、川地民夫を配したことの失敗なのか。
わっかりやすく商売女に溺れ、金のために汚い方法も使うようになる描写は確かにきちりと描いてはいるんだけど、あまりにも牧夫がさわやか青年の外見のまま、明るくテンポよく進んでいくもんだから、その重大さがなかなか伝わってこない。いやぁ……それは見てる私がノンキだったのかもしれないのだが……。

まず、ボートレースの場面から始まるので、牧夫がどういう立場で、このレースに参加しているのか、しばらくピンときていない。やけにバタくさいオーナーのボートに同乗してぶっちきりで優勝する。
しかも前半、私めっちゃ眠くて(爆)、夜中じゅうかけて航行するこのレース中、「絶対に、俺も自分のボートを買う!!」と牧夫に決心させる何かがあったらしいのだが……なんか調べてもアイマイだし……このオーナー夫妻のエッチなところを見ちゃったのかなと推測されるようなデータベースの解説もあったが、時にデータベースは全く違うことを書いていることもあるのでうーむうーむ。しかもこの夜のシーンはまぁ当たり前っちゃ当たり前だけど始終暗くて、人物の表情さえ判然としない。

まぁともかく、牧夫はまだまだ若いのに英語も操るこのオーナー(二世、ということらしい)に気に入られていて、勤めるヨットハーバーの仲間たちからも、羨望というか、嫉妬も混じった視線で見られている。
そうか、ヨットハーバーに勤めているのか、と思う。しかしその仕組み、というか、ヨットハーバーの経営の成り立ちというのがなかなか飲み込めなくて、これまたしばらく四苦八苦する。
遊覧客を乗せてボートを操縦したり、ヨットの施工、修理を請け負ったり、という感じらしい。牧夫は若いけれども身軽な彼だけしか出来ない、帆先によじ登っての修理なんかも頼まれるのだが、それがクライマックス、思いがけぬドラマを運んでくる。

今はこーゆーカッコ、小学生ですらお目にかかれないなあ。まさかの成年男子のショートパンツ姿!!ももの付け根まであらわに、目にまぶしい素足がすらりと伸びた川地民夫に、彼が仲間たちから坊や扱いされるのも判る気がする……とか思っちゃう。
でも彼には憎からず思っている相手がいる。てゆーか、その相手こそが、牧夫にご執心、ということなのかもしれない。ヨットハーバーの経理事務雑務一式担当している、紅一点スタッフ、初枝である。

演じる清水まゆみ、って私、初見かもしれない。ダンスパーティーのラブリーなドレス姿とか、めっちゃ可愛い。なんつーか、すっごい、わっかりやすく、あれは幼なじみなんだろうな、
牧夫のことをマキちゃーん!!と呼んで、少女漫画、いや、少年漫画における男子憧れのヒロイン100%という感じ。だからこそ、牧夫が溺れてしまう商売女が180度逆だから、太刀打ちできなくて、ただただ初枝は立ち尽くすばかりなんである。

牧夫はさ、素直な青年だし、そんな、道を踏み外すようには見えなかったのに、ヤハリ、私が見逃した(爆)魔の時間に見たものが大きかったのか。
少ないお給料を地道に貯金するところから始める。あれは、郵便局かなあ。ガシャンと貯金額を押す方式は、さすがの私も見たことがない。

しかしある日を境に、出金のガシャンがかさむようになる。仲間たちに連れていかれた、いわゆるそーゆー店である。一見してただのキャバレーかダンスホールにも見えるのだが、相手をしたホステスと部屋にしけこむという、そういうシステムである。
まあ、先輩たちは親切に、牧夫に筆おろしをさせたろうと思ったっつーことであろう。草食男子などという言葉さえ遠い昔である今は、そういう感覚も薄れているけれど、それでこそ一人前、という時代が長く続いていて、そのために存在する商売女と呼ばれるプロフェッショナルがいることも事実として、あった。

そして彼女たちが、のぼせあがるお客の彼らを、商売としてもてなすために、あなただけヨ、とか言うのは、お互い納得しあった上での取引なのだ。それが、牧夫には判らない。金を出さなければ会えないということは判っているのに、なぜそれが恋愛関係だと思えるのか、そのあたりが恐るべき若さ、いや、コドモである。
ヨットを買おうと貯金していた金もどんどん目減りしていくのが、彼女に費やした金であるせいなのは明らかなのに、牧夫を案じた先輩たちが、俺らの筆おろしも春子だったのになぁ、とウワサ話をしていたのを聞いて、牧夫は激昂する。

怒りの矛先が春子ではなく、先輩たちだというのが、コドモとゆーか、なんか女々しい。男女のもつれで、ウワキした当のあいかたにその想いをぶつけるのが男で、あいかたの浮気相手を恨むのが女、というのは、なんとなく昔から相場が決まっているからさ。
私はそれが、女の愚かさを示しているようで凄くイヤなんだけど……でもその女くささを、牧夫自身が発露しちゃうんだもんなあ。

牧夫はヨットを買うために金をためることに猛進し、かけごとや客からのピンハネ、脅迫までもしちゃう。そりゃ時には返り討ちに遭ってボッコボコにされ、初枝が心配したりも、するわけさ。でも最後まで初枝は、牧夫に何の影響も及ばさなかったなあ……。
牧夫が執心する商売女、春子が強烈過ぎたというのも、まああるかもしれない。南田洋子、だったのかあ!めっちゃ色っぽい、大人の女!

作品自体健全な明るさを不自然なまでに保つから(爆)、別に脱ぐわけでもなく、キスシーンだって唇が重なって見えるようにななめから、みたいなお約束なんだけど、川地民夫が筆おろしされちゃ、そらーもう、太刀打ちできない、清水まゆみのおぼこっぷりじゃ、そらーもう太刀打ちできない、身体ひとつで生き抜いている女、なんだもん。
いくらなじみになっても店外デートなんて言い出すだけヤボというのが、フツーに恋愛していると思い込んでいる牧夫には判らない。意気揚々と、購入したボートに乗せてやると強引に誘う。

そのボートだって、牧夫がムチャしているのを心配した、冒頭に出てきた二世オーナーが、知り合いに渡りをつけて安く買えるよう交渉してくれたものなのに、牧夫はそんな周囲の心配なぞヨソに、ヨットが手に入る、それを春子に見せたい、という、もう単純な男子的虚勢心にとらわれている。
あーもう、ほんっと、バカ!!いやさ、タッチの南ちゃん的存在の幼なじみ初枝があまりにも頼りないのもアレなんだけど、牧夫がバカすぎる!!

……本来は、そういう青年じゃなかった筈、なのだろう。両親を早くに亡くして、しかも最愛であったろう母親が病死によって死別した記憶は、かなり近いところにある。つまりはさー、まー男は皆そうだと言うが、マザコンだったっつーことだよね。
ことあるごとに、学生だった牧夫に、それで命を落としたであろう、手術前の母親の回想シーンが出てくる。もう死を覚悟した、母親の。これはマズいわ。母親が最上位にいると、幼馴染は太刀打ちできない。そらー、筆おろししてくれた年上の色っぽい女に参っちゃうのは、仕方ない。

しかしさぁ、牧夫はおばあちゃんと同居しているんだけど、本来ならきっと優しい性格の青年なんだろうけど、特に春子と出会ってからは、言葉上はとりつくろうけれど、孫を案じるおばあちゃんと向き合う場面がまるで、ないんだよね。
てゆーか、最初から最後まで、なかった。尺の問題もあろうが、そうかい、そうかい、としか言わないおばあちゃん、という描き方は、現代じゃなかなか通用しないだろうなあと思っちゃう。

ヨットを手に入れた牧夫だけど、それで余計にスッテンテンになって、おばあちゃんから金をかすめ取って春子に会いに行ったりしちゃう。でもそもそも百パーセント片想いさ。なのに先輩たちに逆恨みして、こともあろうに先輩たちがお客に届けるヨットのワイヤーに問題があったのを判っていたのに、そのままにする。
しかも台風が迫っている。ただ、気象情報はあいまいなアナウンスを繰り返し、そのまま大したことなく過ぎるだろう、と言っていたのが、結局は牧夫の心の中の言い訳に火をつけてしまって、取り返しのつかない事態を引き起こすのだ。

初枝の弟、時次がそのヨットに乗り込んでいたことが知れて、そうでなくても思いがけない台風が直撃して、仲間たちが行方不明になっていることに動揺していた牧夫は打ちのめされる。牧夫の唯一の後輩、先輩たちに子ども扱いされて悔しい思いをしていた牧夫にとって、唯一の心癒される弟のような存在。そして初枝の弟……。
ヨットを買おうと思っていることも、時次にだけは打ち明けていたぐらいの存在で、その時点でもう初枝は埒外というか、結局牧夫は子供のままで、セックスのショックで春子に執着していただけで、初枝よりも時次にこそ真の心を開いていた、というのが改めて判っちゃうから、なんかホント、残酷なんだけど。

赤いほっぺの時次は、古い言い方だけど、それこそ金魚のフンみたいに牧夫にくっついて、なつきまくりだった。牧夫の秘密も一番に聞かせてもらっていたし、ボートを買ったら一番に乗せる、という約束も果たしてもらうぐらいの。
……凄く痛ましいんだけど、先述したとおり、なんか全編、ノンキな明るさで進んでいくから、なんか実感できないの。それこそ時次は牧夫が賭け事=もめ事に巻き込まれることを凄く心配していて、時次までもがケンカに巻き込まれるんだけど、それこそ、これぞ日活!!って感じのケンカシーンで終わっちゃうからさ。うーん、なんつーか……。

時次がヨットに乗っていた、と知って、顔色を変えて荒海にムチャに乗り出す牧夫。見つかる筈はないし、その前に、彼らの決死の様子は描かれていて、……一人、海に投げ出されていた。
そして、牧夫が知ってて見逃したワイヤーが切れて、そして……。ラストシーンは、夜が明けて、赤く染まった海面に、呆然と漂う一艘のヨット、は、何も出来なかった牧夫なのか、なすすべもなかった彼らなのか。まさかのそこでのぶった切り。観客に投げかけるには、ランボー過ぎるよ!! ★★★☆☆


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