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ボールド アズ、君。
2024年 82分 日本 カラー
監督:岡本崇 脚本:岡本崇
撮影:岡本崇 松本大樹 松本大樹 ましょ 坂厚人 ヨシナガコウイチ 片山大輔 汐華プリン 芦村真司 音楽:岡本崇
出演:伊集院香織 後藤まりこ おかき ぽてさらちゃん。 鈴木智久 下京慶子 岡本崇 daisuk スムルース P-90 アシガルユース 亀 鈴木大夢 愛田天麻 寺岡千紗 ひがし沙優 小島海音 園山敬介 篠田諒 牛丸亮 アール サンキュームービー テルテル坊主 刄田綴色 津田寛治
それこそ古い言い方で言えばロックミュージシャン、それだけが音楽そのものだと疑わなかった、悩める若き日を懐かしく思い出すような。
劇中繰り返し示される、この音楽、このミュージシャンによって勝手に救われているだけ。音楽が救ってくれているんじゃなくて、勝手に救われているだけ、という、いわば本作のテーマである言葉は、こうした、密にパフォーマーと観客が結びつく、バンドスタイルの音楽でしか、成立しないようにも感じる。
ちょいと人気が出たインディーズバンドに苦言を呈する形で、ファンのために音楽を作るなんてクソだと、クラプトンやジミー・ペイジが俺たちのために音楽を作ったのかとうがったことを言うスタッフと、イマイチ判っていないバンドマンたちのシークエンスはちょっと笑ってしまうが、でもそこに視点を落としたのは、ちょっとなかなかない、面白いと思う。
だってワレワレファンは、自分たちのために歌ってくれていると思いがちだもの。じっさいそうした“愚かな”ファンがステロタイプに登場し、それがダメなんだよ!!という雷が落ちるのだけれど、面白いなぁ。
だって、アイドルとファンの関係だったら、これでいい、それが正解なんだもの。音楽、という、その言葉だけではかなり大きく括った中で、特殊な狭い世界、熱くたぎった世界は、バンド、ロック、というジャンルが現れてから生み出されたものなのかもしれない。
だなんて、こねくり回してもしゃーない。本作は、ラストの圧巻のパフォーマンス、かなりの尺を割いて見せ切るその舞台に圧倒され、もうここだけでオッケー!と言いたくなるぐらい。
珠が憧れる「翳(かげ)ラズ」という、パンクなパフォーマンスをするバンドの、フロントマン、ボーカルの結衣子。演じる後藤まりこ氏に圧倒されまくる。いや……こんな凄い人を知らなかっただなんて罪だと思うぐらい。
慌てて調べてみると、しっかり有名な、しっかり実力のある、そして、なるほど、この結衣子を演じるだけのエキセントリックなパフォーマンスのカリスマ性を持っている人なんだと……。
昔と違って、エンタメ世界は多岐にわたり、知らない世界は本当に判らない。圧倒的な熱量のパフォーマンス、ボブカットを振り乱し、フリフリの甘めのファッション、目を奪われるカリスマ性、あれ、なんかちょっとあのちゃんみたい、後藤氏の名前で検索してたら、あのちゃんとのツーショットが出てきてビックリ。
思っていたよりずっとベテランのカリスマミュージシャンで、あのちゃんの憧れのおひとりだったということなんだろうなぁ。うわぁ、知らなかった、失礼極まりない、すみません。本当に破天荒なステージパフォーマンスで、カッコ良くて、危うくて、最高に素敵。
珠はいまで言うところの、コミュ障女子である。学校での様子が点描されるのだけれど、お弁当の時間、慈悲深きカースト上位の女子が一緒にお昼食べない?と声をかけてくれるも、タイミングよく返答できなくて、そのままである。
後に珠が結衣子に引き上げられてステージに立ち、超絶テクを披露した様子が広がると、この子私のクラスメイト、とか、それまで没交渉だったくせに、という描写があって、それはあるあるなんだけれど、でもそれを、珠が、あるいは作り手側が、苦々しく描くんじゃなくって、良かったね!認められたね!!みたいにポジティブに描くのが、えーっ……と思って……。
それは私がひがみ根性だからなのかしらん。こーゆー、カースト上位の女子が、慈悲深くお弁当一緒を誘ってくるとか、マジ胸クソ悪いと思っちゃったからさ。でも珠は、この時、一緒にお弁当したかったのに勇気を出せなかった自分、っていうスタンスだったもんで、えーっ、それはないよなぁと思っちゃって。
まぁいいや。それは置いといて。本作は、監督さん自身のパーソナリティー、バンドにおける音楽、それに捧げる人生、魂、な訳なのだけれど、なんたって本作は映画であり、そして、この監督さんは、映画というものにも出会ってしまった、ということらしいんである。
本作の舞台となっているのが大阪の第七藝術劇場、そしてラストに外観だけだけど象徴的に映し出されるのが、私が本作を鑑賞したK's cinema。
第七藝術劇場の支配人として登場するのがツダカン、珠は幼い頃からこのミニシアターに通ってきている。集客の悪いインディーズプログラムをかけているから赤字続きで、最終的には閉館に追い込まれるんである。
ミニシアターの立ち位置は、ここ20年ほどで大きく変わった。私はそれをつぶさに見た、ということが、切なくもあり、しっかりと記憶に刻まなければ、とも思う。
ステイタスであった、サブカルを守るオンリーワンであったところから、シネコンが登場し、ミニシアターでしかかけていなかった作品も、その圧倒的なスクリーン数でシネコンに流れていき、多くのミニシアターが消えていったのだった。
ちょっとインディーズであったって、客が呼べる役者が出ていたり、コアなファンを呼べる実績がある製作、配給であったり、最初はミニシアター一館公開でもそこで実績を積んだりすると、あっさりシネコンに移れる今の状況は、とても素敵だけれど、ちょっとビックリ、考えられなかったから、今までは。
さらに今は配信がプラスされ、過去作品を改めてプロモーションすることもできるし、もうホントに、判らない時代になった。それを改めて考えさせられたなぁと思って。
正直言うと、いわゆるドラマ部分は結構クサいっつーか(爆)、作り手側、まぁ監督さんが、音楽の虫だと、それをこそ描きたいのだと、後藤まりこ氏のパフォーマンスを見せたいんだろうというのが判っちゃうからさ。
劇場スタッフの、ホントテキトー男子が、可愛い珠にストーカーまがいの岡惚れ状態で一人バタバタしている感じ。珠はギターコンテストで優勝するほどの腕を磨いているから、地元のバンドマンからスカウトされたり引く手あまた。あるいは珠のバイト先の先輩女子とかね。そうした、珠に関わる、珠のことを心配して、珠のことを好いている人たちが登場するんだけれど……まぁなかなか、見ててツラいっつーか(爆)。
ここはまぁ、ビッグネームのツダカンだけが安心して見てられるかなぁという感じ。風前の灯のミニシアターの館長という役柄。ラストシークエンスでは、閉館後のスクリーンに翳ラズのパフォーマンスを映し出し、皆で見よう!ということになった筈だったんだけれど……。
閉館作業をしながら、珠たちをずっと待っていたのに、偽造チケットを転売から買ってしまって捕まってしまった珠とバイト先の先輩。このあたりはもうすっかりコント状態。さっすが、大阪っつー気持である。
そもそも本作は、がっつり大阪、珠が入り浸るミニシアター、第七藝術劇場から始まるんであって、私が観賞したK's cinemaを、第七を閉める決意をした支配人のツダカンが、次の仕事である配達の途中で見上げる、というラストなのだった。
もうホントに、今やミニシアターの存在意義は風前の灯で。小規模の製作会社、というだけなら、短期間ながらももうシネコンにかかっちゃう。本当の意味でのインディーズ、映倫も通らないほどのものがかかる映画館が新宿のK's cinemaであり、その後継続上映が決まった池袋のシネマロサであり。
この2館が東京では最後の砦と思っているんだけれど、それこそロサは、カメ止め、「侍タイムスリッパー」を一館上映でかけたことで名をはせてしまって、これが悪い方向にいかなければいいのだけれど、といらん心配をしてしまう。
とにかく後藤まりこ氏のパフォーマンス、たっぷり尺を取って、見せ切るこれがもう、本当に圧巻だった。監督さんはそもそもインディーズバンドのMVを数多く手がけているところからスタートしているというのが、ここで本領発揮。
ヒロインは珠を演じる伊集院香織氏ではあるんだけれど、後藤まりこという人の凄さをスクリーンで見せたいがため、とさえ思えてしまう。度肝を抜かれた!★★★☆☆