home! |
リライト
2025年 127分 日本 カラー
監督:松居大悟 脚本:上田誠
撮影:塩谷大樹 音楽:森優太
出演:池田エライザ 阿達慶 久保田紗友 倉悠貴 山谷花純 大関れいか 森田想 福永朱梨 若林元太 池田永吉 晃平 八条院蔵人 篠原篤 前田旺志郎 長田庄平 マキタスポーツ 町田マリー 津田寛治 尾美としのり 石田ひかり 橋本愛
と、思ったのは、まだ何も始まっていない、サワリもサワリ(だというのはすべてが判ってから余計にそうと知れるのだけれど)の序盤で、積極的に笑いが起きていたから。後から考えれば完全に確信犯なベタな青春ラブストーリー、ひと夏のほろ苦い恋、を、本当に後から考えればかんっぜんに確信犯でうすっぺらに描いているサワリのサワリであんなに笑いが起きていたのは、そうか、君たちは知っていたからなのだね、クヤシーッ!
いやでも、本当に何も知らずにいたから、あのうすっぺらさが、そりゃそうだ、なんたって33回も続けることになる保彦なんだからと、すべてが判ってしまえばめちゃくちゃ腑に落ちちゃうんだもん。
おっと、おぉっと!オチバレ……そうね、この作品の性格上、オチバレは最も良くないことなのだが、まぁいつもここではオチバレではあるのだが……この33回が衝撃、いや笑撃であるのだし、ご丁寧にラストクレジットのテーマソングにそれが歌いこまれているんだもんなぁ。
日本映画の大王道、タイムリープものなんである。しかも、その始祖ともいえる、すべてのタイムリープものがオマージュをささげている(リメイクや別解釈も含め)と言っても過言ではなかろう、あの「時をかける少女」を、ちょっとおちょくってんのかい、と思えるほどの、コスり方なんである。
いや、そうじゃないな、上手く言えないけど、イジってるというか、いやそうじゃないな、それも、とにかく、「時をかける少女」がそれだけオールドクラシックとなって、超訳的なパロディ(とも違うのかもしれないけど)にさえなってしまうというのが、めちゃくちゃ面白いなと思って……。
だってまんまなんだもん。ミステリアスなイケメン転校生は未来人。三角フラスコが割れる、ラベンダーの香り、そして何より、何より何より、尾道!!
ここまでやるか!!と、尾道三部作、新尾道三部作のリアルタイムファン、大林信者である私はムネアツ中のムネアツ。大林監督に見せたかったなぁ……。
大林監督といえば、の尾美としのり氏が担任教師、私が最も心打たれた尾道映画「ふたり」のヒロイン、石田ひかり氏がヒロインの母親、まさに尾道の空気をまとって出演しているのももうムネアツどころじゃないんである。
「ふたり」に感動しまくって、唯一聖地めぐりしたのが尾道。「ふたり」での二人の関係性を思い起こしたりして、もう、泣きそうである。そしてマキタスポーツ氏の登場も心憎いんだよなぁ。タイムリープもの傑作、一番新しい記憶、「MONDAYS」の彼、だったから。
ヒロインは池田エライザ氏演じる美雪。現在小説家。高校生時代、転校生の保彦に出会って恋に落ちた。彼が300年後に旅してきたのは、骨董品屋で見つけた小説に憧れたから。その本を書いたのは君だと、僕が君に出会うために小説を書いてくれと言って保彦は未来に帰って行った。
その短い恋の期間は、半世紀前の少女漫画でもこれはないわと思うぐらいの甘ったるい薄っぺらさで、えぇ、これはどうなの……だって時をかける少女のまんま刷り直しに見えるし、いやでも、脚本があの上田氏と言うのはなぜか事前に知ってて、「ドロステのはてで僕ら」でタイムリープをやり倒したあのちょっとどうかしてる(爆)才能の持ち主だから、これはそんな筈ない、何かが起こる筈、と思っていたら、何かどころじゃなかった!!
入場特典で、ポストカードを頂いたのね。これが、美雪が保彦との日々を描いた小説の表紙カバーの画。この入場特典で、「時をかける少女」がパロディになっていることをうっすら知った上で鑑賞へと入る訳だが、それ以上の意味があった、この入場特典は秀逸だった。
保彦は、自分との物語を書いた小説のタイトルを別れ際に聞く。そう、もうめんどくさいから言っちゃう、クラスメイト33人全員に聞く。美雪が何人目だったかは判らないけれど、彼女の書いた小説のタイトルは、保彦が300年後に骨董品屋でゲットして読んだそれではなかったことが、後々明らかになるんである。
そう……もうめんどくさいから言っちゃうけど、美雪と同じように、自分だけが保彦との秘密を持っていたとクラスメイト全員が思ってて、そのことを知っているのはたった一人、クラス委員長なのか、タイムリープから抜け出せなくなって困った保彦が頼った、面倒見のいい茂なのであった。
茂は美雪が保彦とひと夏の恋を謳歌している時にも、絶妙に割り込んできて、保彦に耳打ちしたりして、なんだか事情を知っている風ではあったけれど、まさか33人全員が、美雪と同じ立場であったとは……。
いやいや、いやいやいや!その大オチに至るまでにはいろいろあるんだから、早すぎるって!!美雪が保彦からもらった、ほんの10秒だけ10年前に戻れる薬、地震による旧校舎の崩落事故で、保彦の身を案じた美雪以下、結局はクラスメイト全員が、10年後の自分なら、彼を救う手立てを知っているだろうと一斉にタイムリープし、いや、保彦は他の場所にいて無事だと知り安堵。
そしてその後、甘やかな別れが待っている、全員がたどるスタンスなのだが、だったら、10年後に当時の自分に会って保彦の無事を伝えなければいけない、という義務が生じる訳で。
恋した保彦との別れは辛かったけれど、それは良き思い出となり、このループを完成させるために必死に小説を書いて、作家となって、最初はボツをくらったその思い出を出版できるところまで来た美雪なのであった。
なのに、全く同じ内容の小説がかちあってトラブルになり、しかも10年前の自分は何故か来ないし、作家になったから今の夫と出会って結婚したのにと、美雪は戸惑う。
そして久しぶりに会ったクラスメイト達は、なんだかみんな不穏な疑心暗鬼な空気をぶつけてきて、なんだかみんな、保彦との思い出を美雪と同じように書き残すことに燃やしているらしく、やたら文筆業の仕事についていたりと……。
ここまではね、女子ばかりだったから、ミステリアスでイケメンな転校生との甘く苦い恋の思い出を、しかも文筆というアイデンティティが絡む問題、それを実に高校生の時から、しっかりした大人となった10年間醸成し続けて、ここにきたもんだからさぁ。
美雪が小説家として成功したのは、保彦との約束がなければ、果たせなかったと思う。本は好きだったけど、書く、というところにはこの時には至っていなかったと思う。
結果的に保彦が読んだ本は美雪のものではなかった。友恵の書いたものだった。保彦が現れるまでは、二人は親友と言っていい間だったと思う。本を介して、仲良くなった。でも……そうね、友恵は、33人目の友恵は、すべてを判っちゃったから、だから、美雪をいわば陥れることが出来た訳で。見本状態まで完成していた美雪の小説を、保彦が読んだものとして偽装工作した。
いやでも、それを判った上で美雪は10年前の自分に手渡した、というところまでがセットなのだから、うわあー、難しい。これ、あれこれツッコまれたら、全部説明できるのかな、心配になっちゃう……。
でも本作の魅力はそこじゃない。いわば大オチが明かされるところから、気持ち的には抱腹絶倒である。そうとは言い切れない、切ないあれこれもあるんだけれど、それにしても、ムチャな設定通したな!!という展開なんである。
確かにそれまで、見切れまくっていた茂を演じる倉悠貴君である。彼は吉沢亮、北村匠海、磯村勇斗の系譜を汲む、陰鬱さを本質に持ちつつも、正反対の喜劇にも才能を発揮するお人だと思う。
本作では、大オチが示されるまで、なんだかこの子、意味ありげに動いてるな、と思っていたら、すべての秘密をいわば背負っていたことが判って、なんか笑っちゃうけど、いい子で泣けちゃうのだ。
保彦が、タイムリープから抜け出せなくて、つまり本の書き手が見つからなくて、何人もの自分が存在している状態で茂に助けを求める。茂ならクラスの誰が小説を書きそうかと判るんじゃないかと言って。
つまり同じ時間軸で、何度も戻ってくる保彦、でも保彦はその都度、20日間を一人一人と真摯な関係を結び、同じ決め台詞で締めなければいけない拷問にさらされていた。違う書名を告げられるたび、絶望にさらされながら。
実に33人も続いてしまったのには訳がある。小説を書きそうな人は、最初からナンバーワンは判ってた。茂がそれを避けていたのは、無意識だったのかどうか。
友恵。見るからに文学少女。美雪と本でつながっていた親友と言っていい存在。その断絶も、保彦、そして茂が原因だったとも言える。
それ以上の苦しさがある。クラスのムードメーカーだった室井君が交通事故で亡くなっていることを、10年後のタイムリープを完結させるために久しぶりに帰省した美雪は知るんである。
それ以降、当時の同級生事情がなんだか不穏に描出され、出版間近の保彦との記憶を綴った本の出版が危うくなってくる。このあたりのシークエンスは、ホラーかミステリーかと思うようなハラハラさなんだけど、結果的には全くそうではなかったことに、なんだか安堵してしまう。その大オチが、めっちゃ笑える、でもじんとくるものなのだから。
予告編で示されている中オチでは、女子たち全員、途中で出てくる言い様、二股(どころじゃない訳だが)であることに殺伐とするのだけれど、タイムリープから抜け出せなくなった保彦が助けを求めた茂が10年越しに白状するところによると、「女子とは限らないな」と。
今の時代、そりゃそうだ、恋愛とも限らないし!!とも思うが、ふとっちょ男子が、オレのこともしかして?とかドキっとしてるらしいシークエンスとか可愛くて笑っちゃって、まぁ今の時代、多様性というのはあっても、それを間違って使っちゃうと危ないこともあるのでちょっとハラハラしたけど、でも、可愛かったなぁ。33人が狭い神社内でひしめき合う花火大会の日のシークエンス、めちゃ最高!
そんな心配を、いわば寄せ付けないスピードを心がけて、33人全員だったんだと、あっという間のスピードで明かして観客も、劇中のクラスメイト全員を唖然とさせる早業。まさにここが、驚かせるキモだったから、ヤラレた!と思ったなぁ。
橋本愛氏が演じる、つまり33人目、本命の友恵が、未来に帰る筈だった保彦を、どうやら今の時代に引き留めて、タイトルとなっているリライトして、今自分の夫となっているらしい示唆で終わる。
10代から20代の10年は、同じ役者で演じられるぐらい、若いうちには入るけれど、でも、最も内面の意識、いや、自意識ががらりと変わる10年でもあると思う。
だから、この10年を同じ本人で演じる意義があると思う。個人的には、自分が10年後死んでしまっていることを、タイムリープのタイミングでうっかり、しかも、遺影を見てしまって、死んだ直後の家族の感じを見てしまって、知ってしまった室井君が辛かった。
演じる旺志郎君が、だって彼は、まさに太陽のように明るいからさ。まず彼の、何かあったらしい事情が美雪、そして観客に明かされ、いわばそこから物語が始まった気がする。
10代の頃には、まさか10年後に自分が死んでるなんて思わない。想像するだけでゾッとする。時をかける少女イジリと思いつつ、これが今やスタンダード、自分の過去や未来を、考えるテキストである作品だと思う。★★★★★