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ナインスゲート/THE 9th GATE
1999年 133分 スペイン=フランス カラー
監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロマン・ポランスキー/アンリック・ユルビズー/ジョン・ブラウンジョン
撮影:ダリウス・コンディ 音楽:ヴォイチェック・キラール
出演:ジョニー・デップ/フランク・ランジェラ/エマニュエル・セイナー/レナ・オリン/バーバラ・ジェフォード/ジャック・テイラー/トニー・アモーニ/ジェームズ・ルッソ/ホセ・ロペス・ロデロ
本作に関しては、観ている間中シネマスクエアとうきゅうのイメージがとてもしていた。それは「私家版」のイメージ。あれはなんとフランス映画だったのね、英語劇だったけど。テレンス・スタンプ扮する主人公が、精巧な古い書物を偽造して、冷徹な復讐を遂げる物語。悪魔も何も出てこないけど、膨大な本につつまれた空気感、古い本の手触り、その静かで厳かな雰囲気、表面は冷たく、でも中はふつふつと煮えたぎっているような感覚……そうしたものがとても本作と共通しているように感じたから。なんといっても古い本のちょっとほこりっぽい、でも手にしっくりくる感じとか、丁寧な装丁、乾いたページの音、クラシックな活字などが私の心を否応なくくすぐってくるものだから……。
悪魔自身が書いた書、「ナインスゲート」の現存する三冊を探し、鑑定するように依頼された“本の探偵”コルソ(ジョニー・デップ)が、その行く先々で凄惨な殺人にでくわす。それはこの三冊のおのおの三枚、合計9枚の版画の挿し絵がヒントとなっているらしい。彼の傍らには謎のブロンド美女(ポランスキー監督作には外せないエマニュエル・セイナー)がおり、彼女はこの挿し絵の中に登場する女であることがラストに判る。ということは彼女は悪魔の使い?ラストカットで、コルソは導かれるように光りあふれる“9番目の扉”(?)に吸い込まれていく……。
暗い、黒い世界の中で次々と開く扉からスタッフ・キャストの名前が吐き出されるオープニングクレジットから雰囲気満点。ジョニー・デップは口髭とあごひげをたくわえ、眼鏡をかけて、少々白髪まじりの感じが実に実にダンディ。彼はなんだかどんどんイイ男になる。今が一番いい年頃なのかもしれないなあ。若い頃より、本当にハッとするほどハンサムで、そして渋味がある。本作のコルソ役は、極度の近眼で、眼鏡を外すと何も見えなくなってしまい、メガネ、メガネとさがしまわる様はまるで故・横山やすしの漫才のネタのようで、なんだか可愛らしい。大人の男、をひしひしと感じさせながらも、その実、自殺してしまった「ナインスゲート」の元の持ち主の妖艶な妻(レナ・オリン、ピッタリ)や先述のエマニュエル・セイナー扮する謎の女に翻弄される様もどこかキュートさを感じてしまうんである。
彼は最初に元々この本の出発点であるスペインに向い、どこか異様な兄弟編集者、セニサ兄弟に出会う。このスペインの砂が舞っているような乾いた、赤茶けた雰囲気がやたらとジョニー・デップにしっくりくる。彼はだって、ひょっとしたらこっち方面の血が入っているんじゃないの?と思えるようなエキゾチックな(特に瞳の濃さは!)お顔立ちだし(あ、でも実際は自分で監督をやった「ブレイブ」の通りネイティブ・アメリカンが入ってるのかなあ?)。それにしてもコルソさん、セニサ兄弟に言われるまでもなく、本の、しかも希少本を調べている時にタバコはイカンですよ。それだけじゃなく、コルソさんはやたらと酒もかっくらうし。でもこういうケシカラン態度が悪魔本と向かうキャラに似合ってるけど。
丁寧で緻密な版画の挿し絵は、まるで間違い探しゲームの様に所々少しずつ違っている。「LCF」……“ルシファー”の署名。それをじっくり詳細に見比べるコルソ。この挿し絵の細やかさといい、紙の色や乾いた音といい、ひたすら静かに黙々と指を当てて見比べるコルソといい……なんか、ああダメだわ、こういうのに私はヨワいんだ……図書室の静寂な空気とか、好きなんだよなあ。
彼の行く先々に現れる謎の女。エマニュエル・セイナーはこのつかみ所のなさがピタリ。豊かなブロンドにマッチしないような太い眉、地に足がついてないような浮遊した感覚。それは正解で、彼女は実際この世のものではないのであろうことが最後に示されるし、物語の途中でもコルソを助けるために羽があるような感じでフワリと落下してきたりするんだもの。まるでカラテの達人の様に大立ち回りをし、止まらない鼻血をそのままにコルソに謎の微笑を投げかけ、その血を彼の額に塗り付けたりする……それがチラシに使われてるジョニー・デップ。まさしく悪魔との取り引きの契りのような。
うーん、私はやっぱり好きだけどなあ、この世界。ジョニー・デップがとにかく魅力的だったのも大きいし。ストーリーを云々すると多少の陳腐さというか、ワザとらしさもあるかもしれないけど、闇の手触りや閉じられた本の中に潜む秘密や官能の匂いが醸す、まさしくデーモニッシュな感覚が心地いいほどに酔わせてくれる。★★★★☆
しかしあの辺の展開もよく判らなかったなあ。大体、古賀氏が何を思って愛八を旅に誘ったのか、奥さんのことはどう思ってたのか。しかもこの旅に出る前に親に売られて捨てられた少女、お雪を、立派な芸妓にすべく愛八は面倒を見ると決意していて、それでなんでこんな長い旅に出られるのだ??と首を傾げてしまう。私の見方が間違ってたかなあ?でも物語の展開の順番は確かににそうだった気がするのだけど。加えて二人が旅に出ている描写も、「ぶらぶら節」を探し当てる部分だけで、そんな長い間旅に出ているとはついぞ思わなかったのに、それから年月が経ち、愛八がその頃を思い出す段になって、二人が色んなところを回っている回想が出てきて、おいおい、何なんだよー、と戸惑ってしまう始末。私って頭悪い?愛八がレコードを出すのも(ま、あの岸部一徳演じる流行作詞家(作曲家?)が世話したんだろうけど)かなり唐突だし。
長崎の遊里、丸山でのあでやかな芸者たち、その芸とお遊びもタップリで、なかなか楽しませてくれる。たった二回の場面の出で、二回目にはいきなりいい人発言する町芸者の高島礼子には首をひねっちまったが、彼女はいかにもプライドの高い美しい町芸者が良く似合っている。一方で愛八の妹分である梅次を演じる原田知世はまさしく高島礼子とは対照的な芸者で、どこかいつまでも妹気質でおきゃんなところを残してて可愛らしい。本人が言うとおり、確かに今までは“血圧の低そうな”役ばかりだった気がするが、ベビーフェイスで声も可愛らしい彼女にはこうした役柄はとても似合っているのではないだろうか。それでいて歌を聴かせる場面ではまさしく本当の芸者さながらな、低く響く渋い歌声を聞かせてくれる。
しかし男性陣の脇役の方が面白かったかもしれない。愛八の弟で家をつぶしてしまった渡辺いっけい、栄光を勝ち取れなかった相撲取りの永島敏行など、どこか滑稽で哀切な男たち。永島氏はかなり面白かった。着物に詰め物して相撲取りになった登場場面で既に笑ってしまったが、それから落ちぶれて偶然愛八に発見され、思わず逃げだすシーンも笑える。彼は一人でコメディリリーフだったかも?
実際には大女で醜女だったという愛八、その方がよっぽどドラマを感じるなあ。だってどこか「ノートルダムの……」的な哀愁を感じるではないか(ちょっと言い過ぎかな)。これを永遠に可憐な女性である吉永小百合がやってしまうと、あまりに面白くない。年配者向けの映画としてはいいのかもしれないけど(……ちょっと差別発言かな)。例えば旅のさなかに、古賀に抱いて欲しくてむせび泣く場面なんかでも、実際の容貌である愛八だったならば、もっともっと胸に迫るものがあった気がするのだけど。渡氏もねー……今でもちょくちょく彼の若い頃の、ギラギラした魅力タップリの映画を観る機会があるものだから、そりゃ、あの頃の年じゃないんだし、仕方ないんだけど、何だかすっかり丸くなっちゃったよなーと嘆息してしまう。いやいや、年で計っちゃいかんよ。大体日本の男優はこういう末路をたどる人が多すぎる。勝新とか数少ない例外はいるものの、こういうところばかりは、リチャード・ギアだのショーン・コネリーだの、アラン・ドロンだのといった、いつまでもそうした魅力を失わない欧米の男優がうらやましくなってしまう。……三國連太郎みたいに、丸くはなってもまた違った色気を持つようになる人も(「虹の岬」を観よ!)いるけどね。
深町幸男監督はテレビ界の重鎮で、映画は初だという。結構見てる名前なのでちょっと意外だが、その演出はそつのないところ、逆に言えば今一つ遊びのないところが、良い意味悪い意味双方でテレビっぽいかなと思わなくもない。人の心というよりは作り込まれた世界の方を強く感じてしまったのは私だけだろうか。ただ一つ、大島ミチル氏の音楽はやっぱりバツグンに良かった。久石譲氏もどこか行き詰まった感がある今、一番手の映画音楽家かもしれない。★★☆☆☆
タイトルが「ナトゥ」というだけあって、オープニングでちゃんと「ムトゥ 踊るマハラジャ」のそれをパクッて「SUPER“NANAMI KYOYA”STAR」とクレジットされたのには大いに笑った!ナンチャンの、もみあげが長い南々見狂也メイクにヒゲまでつけさせられて、そのアヤシサがインド映画にピッタリ。一方でそのナトゥの妹役であるケディの何たる愛らしさ!これまたインド映画だからべっとりメイクを塗りたくられているんだけど、それをはねかえす清らかさである。冒頭、彼女は兄、ナトゥのためにラキ(腕に巻く装飾用の紐?)を買おうとするのだけれど貧しさ故に買えず、しょんぼり涙を落としている。そこに、ナトゥが帰ってきて彼女を慰めるために最初の歌&ダンスシーンが繰り広げられるのだが、この時のケディの泣き顔、ううッ、可愛すぎる!しかも泣きの演技もナカナカ上手いぞ、ケディ!
このシーンでは兄と妹の仲の良さを表すべくなダンス・シーンなんだけど、うーむ、ちょっとヤバいくらい仲がいいぞ!?そして昼夜を問わずに踊りまくる二人。ナンチャン、さすがにダンスが上手い。鋭角的なキレがあります。ケディも上手いし、一生懸命な感じがさらにケナゲでカワユイ。
そして唐突に転回点。悪徳大富豪、ラグーによって刑務所にほうり込まれるナトゥと、無理矢理ラグーの花嫁にさせられそうになるケディ。この刑務所でのシーンがイイ。そこのボスたる男をほとんど意味もなくナトゥが殴り、その男、怒るかと思いきや「俺を殴るとはいい度胸だ。気に入ったぜ」って、なんだそりゃ!?ちょっとジョージ・クルーニー入ってるこの男優、ほんと刑務所内のボスって感じのガタイのデカさもあわせてカッチョイイですわ。そしてここで見せる囚人たちの歌&ダンスシーンがまたカッコイイんだわ。インド映画のそれというと華やかなサリーを着て……というのが多いけれど、こういうのも画になるなあ。
囚人たちの協力であっさり脱獄に成功、ラグーの屋敷へと向かうナトゥ。結婚式に招待されていた王族兄妹に助けられ、しかもナトゥとケディは実は天涯孤独な身の上などではなく、高貴な王族の出だということが明らかにされ、しかもしかもそれぞれの兄妹が恋に落ちるって、そりゃあビックリな展開!?あっと、これを忘れちゃいけない、ナトゥとラグーの決闘シーンも見もの。香港アクションばりに見せるだけでなく、シコふんでツッパリツッパリって、そりゃやりすぎだよ、ナンチャン!しかもごていねいなことに懸賞金を受け取る時の手で「心」を書くのまでやるんだもんなあ、もう!
そしてあっというまにハッピーエンディング。二組の結婚式が華やかにとりおこなわれる。そしてダンス、ダンス、ダンス!色とりどりのインディアファッションの大群舞はこんな短編でも力抜いてない。そしてここでのダンスはまるで早回しかと思うほどのスピードで、特にちっちゃいケディがくるくるとカワイイです。
いやほんとにあっという間に終わっちゃった。起承転結というより、起転結って感じで。★★★☆☆
本作は、一気に普通の映画作品の上映時間になり、日本人監督、大森一樹監督の手に委ねられ、“ウリナリオールスターズ”が参加し、全国公開。前作に見られた、何の要素も残ってない。別にそんなもの残さなくてもいいんだけど、確かに。でもでも、インド映画の特有のハデなワザとらしさが思い切ってない感じだし、この上映時間を見せきる力に今一つ欠ける気がする。まあ、普通に面白いんだけど、前作からの飛躍がないのは、ちょっとツラい。
妹思いのナトゥと、お兄ちゃんを心配する妹という構図は前作から引き続いている。南々見狂也ことナンチャンとケディの仲良し兄弟の冒頭ミュージカルシーンは、ケディの可愛らしさが際立つ。彼女は、ラストの大群舞でも感じるけど、とてもダンスがはつらつとしてて、上手い。“お兄ちゃん思いの妹”というのがピッタリの泣き虫ケディは、成績が良く、大学進学を夢見ている。親がなく、兄弟二人っきりの生活、しがないペンキ職人のナトゥは彼女の可能性をかなえてやりたいがため、懸命に働いている。
大豪邸での壁塗りの仕事の時にスター、ミーナと出会うナトゥ。看板描きの時に夢見ていた彼女がそこにいる!ミーナを演じるネハ・ドゥピアは、輝くばかりの美しさ。彼女はその豪邸の主人に見初められているのだ。ひょんなことから彼女のボディガードを仰せつかったナトゥ。
彼女を襲う誘拐一味の出現、インド人の召使に変身していた謎のくノ一、彼女がナトゥを案内する謎のニンジャ村。これまた、きわめてシンプルな展開が魅力だった前作とは全く違う、バラエティ色の濃い展開へと発展していく。ナトゥはこのニンジャ村の出身だというのだ。証拠は腕に刻まれたカラフルな輪の並んだイレズミ。このあたりの“ナトゥに出生の秘密あり”という展開は“実は王族だった”という前作と共通してはいるけれど。ここでニンジャ修行をし、ニンジャフォースを身につけたナトゥはさらわれたミーナを救うべく謎の悪の一団のもとへ向かう……。
ナンチャンの自転車アクション、期待してたのに、ほんのちょっとだった。しかも“スタントなし”は確かにそうだけど、カット割でそうと見せるやり方ばっかりで、ガックリ。まあ、この手の映画にそんなものを本気で求めるつもりは、ないけど。大森一樹監督は、「ちんちろまい」に続いてのミュージカル作品、と言いつつ、どっちが先かは判らないんだけど、……ひょっとしたらこの映画の経験で「ちんちろまい」をミュージカルで撮ったのかもしれない。“ウリナリオールスターズ”総出演の故郷日本を思う、時代劇衣装をまとった珍妙な日本ミュージカル部分だけが妙にダレてはいるものの、さすが本場インドで撮られたミュージカル部分は、悪の一団のキレのいい迫力のあるダンスもカッコ良かったし、ラストの大群舞ではナンチャンもケディもとても良くこなしてて、なんといっても人数ときらびやかさな豪華絢爛さがスゴい。「ちんちろまい」からは引き続いて、しかも似たような役柄でシンシア・ラスターが登板し、千葉真一から、こんどは宍戸錠と共演とは!宍戸錠はナンチャンと「我が人生最悪の時」メンバーだもんなあ。
ウッチャンと千秋ちゃんの「パルプ・フィクション」コンビが楽しい。チョット出のビビアンがめっちゃ可愛くて。ナンチャンが繰り出す小ネタ、小ツッコミがなんか、気になった。まんまバラエティ番組、って感じで。それと!映画のサイトが有料だっていうのはあんまりだぞ! ★★☆☆☆