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僕のリビドー
2004年 27分 日本 カラー
監督:本間由人 脚本:本間由人
撮影:坂元鬼啓二 音楽:丸山力巨
出演:蛭田正継 蝦名清一 富永泉紀 まちゃまちゃ 小船統久
本間作品出ずっぱりの蛭田氏も、これが一番イイ。冴えない風体だけど、この彼は何というか……最も愛しく見える。
弟は優秀。いまやこの町が誇るスター。もうすぐ宇宙飛行士として宇宙に飛び立つ。美男子で、この田舎にずっと付き合ってきたカワイイ彼女もいて、モテモテ。でも兄は……まあ、まずブサイクである。漫画家志望だけど、この弟に「……だって兄さん、漫画ヘタじゃん」と言われてしまう程度の腕前である。でも漫画家に対して純粋なアコガレがあって、一週間各日かぶるベレー帽の色が違う(壁にずらりと並べてあるのかカワイイ)。そして、哀しいかな、童貞である……。
もうすぐ宇宙に旅立つその弟が、この町に帰ってくる。あるいは、弟が宇宙に飛び立つ様子も、兄はラジオで聞いている。テレビがない。つまり、弟が宇宙飛行士として活躍している画は、出てこないんである。全てが、この切ない四畳半と、閑散とした田舎町で描かれるんである。でも、弟は宇宙飛行士で、外に出て行けて、兄とは歴然とした差があるんである……こういう、“ここ”以外描かれないのに、“ここ”以外の世界を充分に感じさせるのは「ヤンキーエレジー」でもそうだったけれど、何たって本作での“ここ”以外は宇宙なんだから、凄いと思うんだなあ。逆にそれが、見せないことが、宇宙への(いい意味での)アナログな、ロマンティシズムをせつせつと感じさせてて。
だって、弟が宇宙飛行士になったのは、彼女が天体マニアだったからなのだ……弟と彼女とこの兄と三人で、よくプラネタリウムに出かけた。弟が帰ってくるまでの間、この俊子ちゃんと兄は一緒に天体写真を見ていて、カワイイ俊子ちゃんに岡惚れしていた兄は……畳に置いた小指をこっそりくっつけたりしながら、胸を高鳴らせていたのだ。叶わぬ恋。優秀でハンサムな弟に叶うわけもない。でも、そうしてこの俊子ちゃんのおかげで宇宙を目指した弟は、しかしそんな風にモテモテだからアメリカで新しいステディを作ってしまった。「訓練はタイヘンだから、息抜きが必要なんだよ」この場合、この弟の言う“息抜き”とはつまり、セックスのことである。それを責める兄に弟は「兄さんは童貞だから判らないんだよ」ひ、ヒドい。
この、“アメリカでの新しいステディ”というのは、弟の携帯電話にその彼女から電話がかかってくることで判明するのだけれど、この畳敷きの四畳半、まさにトキワ荘みたいな中で流暢でゴキゲンな英語が喋られるという突拍子もない違和感もまさしく、“宇宙”なんである。そして弟に捨てられる俊子ちゃんに告白しようと彼女を呼び出した兄、意を決して「第一印象から決めてました!」と手を差し出すそのさびれた喫茶店で、折りよく彼女にかかってきた携帯電話で彼女が喋るのも……流暢な英語。この違和感とこの“宇宙”。兄の知らない宇宙。時間が止まったかのようなこの町でも、時間が止まっているのは兄の中でだけ。弟はアメリカに行き、俊子はアメリカ人(多分)の恋人がいて、そして兄一人が童貞で残されちまったのだ(ああ、悲哀)。
気楽な弟から、「ぱーっとやんなよ」と言われた兄は考える。ぱーっとやる、ぱーっとやる……実に一ヶ月考える(笑。カワイイなあ……)。そして彼の「ぱーっと」は、童貞を捨てることであった。安っぽいエロチラシを目の前に、ダイヤル式の黒電話で緊張しながらかける。料金2万円。オバサンみたいな娼婦がやってきてつぶれた声で言う。「さっさとパンツ脱いで横になんな!」その上にスカートまくっていきなり座っちゃう。「ラジオがうるさいねえ」「……すみません。ラジオはつけたままで」そのラジオからは弟の宇宙への出発が中継放送されていた。娼婦の腰の動きにだんだんたまらなくなる兄は、小さく手を挙げて「……いきます」その時、弟も宇宙へ。そして兄も……違う意味だけど宇宙へと、飛び立った。
でも、笑っちゃうんだけど、この弟もおんなじ意味で、宇宙で「イッちゃった」のだ。半年間の禁欲生活に耐えられなくて、同僚の女宇宙飛行士に手を出してしまった。それが見つかってから宇宙への期間までスペースシャトルの中で軟禁状態。当然、宇宙飛行士の資格は剥奪され、日本のマスコミには騒がれ(というのは、兄のめくる週刊誌の見開きページでのみ示される)、ボロボロになった弟はこの田舎町に戻ってきた。あの時兄が責めた“息抜き”が弟の首を実際にしめてしまったのだ。しかしあの“ぱーっと”でひとつ大人になった兄は、兄によりかかってがっくりと膝を折る弟を抱きしめて言う。「セックスは気持ちいいから、仕方ないよ」
もう、これからどうしていいか判らないという弟に、兄はグッドアイディアを思いついた!とばかりに嬉しそうに言う。「保男(弟)が原作で、俺が漫画を描こう。今までにない漫画になるぞ!」そしてこのアイディアに胸を高鳴らせる。この漫画が当たった、という経緯が、本間監督自らの作詞のエンディングテーマ、佐藤歩のやわらかで湿度の高い歌声と、兄の漫画でゆっくりとつむぎ出される。弟はヘタだと言ったけど、線の細い、脱力気味の、そしてほんわかした兄の漫画世界は、味わいがあり、私はとてもとても好きだ。宇宙での、セックスの物語。弟が伝授してくれた無重力状態のセックス“フェニックス”。日本中の少年たちの心をつかみ、そしてある目的のためのお金がたまった時、一度連載を休載した。それは当然、そのお金でロケットを買って、兄弟で宇宙へ行くためだ。
漫画と歌声の静けさが、こういうの、日本のひとつの世界だなあ、と思うわけ。これは他の国じゃ絶対まねできないでしょっていうような。そこから宇宙という、もっとも静かな世界を見つめてて。そりゃこの話だってバカバカしいし、脱力系なんだけど、この中篇の中で、そういう細密さが凄く完成されてる。ホント、大好きだ。★★★★☆
ほんわかした童話を思わせるキャラの絵柄と、懐かしさたんまりの汽車の感じがたまらない。ま、この製作時点では“懐かしさ”ではなく、まさにその時の、男の子たちが憧れた最新の列車だったんだろうけれど。今のように何分おきに列車がバンバン走ってて、ダイヤが入り乱れに入り乱れまくる今では考えられない設定というか展開というか。ぽっぽやさんたちはみんな、目で列車を確認して、手動で駅を出発させるわけよね。でも何たってのんきさんたちだから、ウッカリ違う列車を発車させてしまう。このままでは向かいから来る別の列車と衝突してしまうッ!とぽっぽやさんたちは青くなるワケ。
いやー、だってノンキに仕事してるんだもん。列車到着の時間が迫っても気にせず仲間とのゲームに夢中だったり。それでも各々の仕事は結構詳細に描かれたりもしてるんだけど、でもハタ、とのんき駅長さんが気づいた時にはああッ!違う列車じゃないかア!と。あ、あり得ないなあ……絶対。そんで皆何とかサイアクの事態を防ぐため、奔走するのだ。トロッコに乗って向かう男たち!
こっちから来る列車と、あっちから来る列車。それぞれをスピード感あふれる描写で切り取り、せわしげなカッティングはやおらスリルを駆り立てる。こういうのは、アニメというより確かに映画!って感じするなあ。こんなほんわかした童話的アニメでそういうのはきっちり押さえているのは、さすが後の(っていうか、既にこの時からだったのね)アニメ大国日本だなあ、って思っちゃう。でも、絶対間に合うよね、と思ってたの。だあって、普通そうじゃない。働く大人を描いているんだからさあ、で、子供向けなワケでしょ?そういう教育的な部分があったら、絶対間に合って、ピンチを切り抜けるプロの男たち!みたいなことになると思ってたのよ。そしたら、何と!
衝突しちゃうんだもん!こんなの、アリ!?いやー、本気でビックリした。直前まで駅長さんたち、すっごい頑張ってたのよ。もう何とか止めようって、そうでなきゃ大惨事になるって。大惨事、はいなりましたともさ。列車はバッラバラに壊れまくって、現場に到着した駅長さんは埋もれて、ぷはあ!とばかり出した頭に列車の残骸がバラバラと降ってくるという……かなり、アゼン。ま、まあ、ナンセンスギャグとも言えるのかもしんないけど、それにしたってここまで引っぱっといて列車を衝突させちゃうなんて、キョーレツ!
案外、昔の作品の方が、やりたいことやっちゃえるのかもしんないなあ……ビックリ!★★★☆☆