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「け」


2008年鑑賞作品

ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌
2008年 115分 日本 カラー
監督:本木克英 脚本:沢村光彦
撮影:金子正人 音楽:高梨康治
出演:ウエンツ瑛士 北乃きい 田中麗奈 大泉洋 間寛平 室井滋柳沢慎吾(声のみ) 伊集院光(声のみ) 田の中勇(声のみ)河本準一 ブラザートム 星野亜希 上地雄輔 中川翔子 向井地美音 佐々木麻緒 荒木博斗 寺島しのぶ ソ・ジソブ 佐野史郎 笹野高史 萩原聖人 緒形拳 軽部真一 京極夏彦 津嘉山正種(声のみ) 梅津栄


2008/7/29/火 劇場(錦糸町楽天地シネマズ)
通常はシリーズになっちゃうと二作目移行は足が遠のいちゃうんだけど、そこはね、お察しの通り、大泉先生ご出演だから(笑)。まあそうじゃなくても、大泉先生始めとして、前作から続投のキャストはそれぞれ驚くべきハマリ役で、ガッカリする部分は少なかったから、確かに二作目はちょっと楽しみだったかも。
ま、猫娘はしょこたんにやってほしいと前作から思ってたけど、そのしょこたんも本作にはご登場なのだから!
やはりシリーズはキャストが続投しなければ白けてしまう。ま、「NANA」もそれがあるから(ま、アレはそれ以前の問題でもあるのだが……)足が向かなかったのもあるしさ。

しかし、話には聞いていたけど、随分とカラーを違えてきた。前作は、鬼太郎の有名なキャラクターは勿論、映画ならではの目新しいキャラをどこか賑々しく披露した、お祭り映画ってな感があり、ヒロインも、真央ちゃんは凄く陽性の感じがしたからさあ。
しかしふと思ったんだけど、一作ごとに鬼太郎とほのかな思いを通じさせる少女が出てくるっていうの、何となく寅さん的ね。ま、本作以降、シリーズがどうなるかは判らないけど。

でね、本作は、ダークなんだよね。ま、ありていに言ってしまえば暗いの。話も暗けりゃ画面も暗い。加えて言えば鬼太郎まで暗い(笑)。
まあ、鬼太郎はもともと明るいキャラって訳じゃないけど、人間を救うことへの苦悩に最初から暗い顔をしっぱなしなのだ。人間を救ったって、感謝されないし、妖怪界では白い目で見られる、っていうね。
あ、そういえば前作では助けた少女の記憶を消し去ったけど、本作にはそういう部分はなかったなあ?

でも、この鬼太郎が、人間と妖怪の間で板ばさみになる感じとか、あるいは青黒い感じの画面のダークさとか、ああ、これぞ子供の頃に夕方の再放送で見ていた鬼太郎の世界だなあって、前作よりずっとしっくりくる気がした。
あるいはもっと、原作の妖しさ、まがまがしさ、暗さにさえ、近いのかもしれない。

あ、そうだよ!だって本作、鬼太郎の誕生の場面をオープニングクレジットで描写してんだもん!ちょっとそれには、感激した。コミックスは読んだことないんだけど、この場面は有名でよく見かけていたからさあ。それが実写で動き出すんだもん。
墓場から泥だらけの姿で這い出す幼児姿の鬼太郎、うっそうと荒れ果てた墓場に、ミイラ状の哀れな姿で死んでいる鬼太郎の父、その見開いた目がポロリと地上に落ちて手足が生え、あの目玉の親父になる……ううう、なんか感激した。
しかもこのおどろおどろしい雰囲気!日本の怪奇モノって、深い世界観があって、もっと外に誇っていいべきものだと思うわ。

で、なかなか内容に進んでいけないけれども(爆)。まことしやかに囁かれている都市伝説が、女子高生のお喋りから流れ出す。小雨の降る夜に聞こえてくるかごめ歌、その歌を聞いたものは魂を取られて死んでしまう……。
冒頭、その話を実証する場面が用意されている。かすかに聞こえてくるかごめの歌。闇の中に浮かび上がる恨めしげな女の白い顔。悲鳴をあげる若い女は闇の中に消えてしまう。
そして、その話を友達から聞いた女子高生、楓もまた、毒牙にかかりそうになる。必死に逃げたけれど、その手には気味の悪いうろこが張り付いていた。

そこに行き会ったのが、我らが大泉先生演じるねずみ男。彼は相変わらず小ずるいヤツで、途中完全に鬼太郎たちの行動から離れてカネ稼ぎに奔走するんだけど、今回はそれをハッキリと糾弾される場面はなく、その浅はかな行動が結局底が見えちゃって、その途上に偶然、とらえられた猫娘を救出しちゃってぐずぐずに仲間に戻っちゃう。
前回が、裏切り者のねずみ男の印象が強烈だっただけにちょっと残念だったけど、今回はサブタイトルになっている濡れ女の話が大事だったから、まあ、仕方ないかな。

そうなの、いわば鬼太郎たちはそれを語るための狂言回しという雰囲気。でも本来、鬼太郎の世界って、そうだよね。一作目は鬼太郎たちの活躍こそがメインだったけど。
ま、もともと鬼太郎の世界は日本人に浸透しているから、それぞれのキャラの特性も判ってるし、それこそ寅さん的にこんな風に展開していくのが正しいやり方なんだろう。そうよ、それこそ松竹最後?のエリート、元木監督なんだもん。シリーズにすべきなのは「築地魚河岸三代目」じゃなくて、こっちなのかもってね!

しかしいくらキャラが判ってても、子泣き爺と砂かけ婆が、妙にラブラブなのにはええっ!と思ったが。二人で温泉旅行に出かけて、露天風呂に入った砂かけ婆に子泣き爺がかいがいしく酒を出しつつ、湯の中から「この干しブドウはなんじゃ?」とつまみ出すって、オイッ!
それに、濡れ女の怨念を封じ込めるための探索でも、この二人が組んで、ラブボートよろしく小船に揺られるしさ。遭難するけど(爆)。
それは、鬼太郎と毎回のヒロイン、あるいは猫娘とのちょっとしたラブに、ギャグとしてぶつける意図があったのかしらん?しかしこれが今後(があるとしたらだけど)続くとしたら、キツいな……。

あ、猫娘、猫娘よ。あーもう、前作でもそのズルい露出のなさのやり方にちっ、とか思ったけど、今回は更にヒドい。
タイツはきやがるなんてなんだよ!それとも冬(公開は夏でも、撮影時期と舞台設定は冬なのだ)仕様だからな訳?
せっかく猫娘はミニ丈のワンピースな設定なんだから、本作にも幻の楽器を手に入れるために踊りまくる場面もあるんだし、やはりそこはチラリズムを期待したいところだったのにさあー。

あ!でも!それを叶えてくれたのが、もう彼女こそにやっぱり猫娘をやってほしかったしょこたん。彼女は妖怪図書館の司書という、絶妙に萌え萌えな設定で登場。静かな図書館の、クレバーに資料を次々出してくる、有能な司書。ああ、萌えるわー。
しかもコスチュームもイイ。ふわりとかぶったオーガンジーに、長い袖はクラシカルなのに、しかしうっかり太もも出しちゃったりしてるのだ!
それが判るのは、目玉のおやじに「カモミールに草津の湯をブレンドしてみました。疲れ目にもバッチリですよ」と湯船茶碗に注ぐ場面。ほどよく生々しいムッチリ、いや、モッチリ加減の太ももが目にまぶしいのだ!しかも一瞬なのがいいのだ!
いやー、素晴らしい。しかもしょこたんが目玉のおやじと和む、こんな場面が用意されているのが素晴らしい。
それにやっぱり3Dの目玉のおやじは本当に愛らしくて、この入浴?場面の前に、アイボンで目を洗浄するのには、ヤラれてしまうのだ!いやー、なんという絶妙なスポンサーをつかまえたのだ。めっちゃステキ!

と、もうどこまでも本筋から離れていくんですけど(爆)。だから、濡れ女がメインなんだってば。
昔々、もう千年も前に、人間に恋したために非業の運命を辿った濡れ女=ナミ。まさに人魚姫伝説そのもの。それを演じているのが寺島しのぶなんだから、そりゃー、このダークな世界が決定され、彼女の物語の方にどっぷりシフトするだろうってなもんなんである。
んでもって、その彼女が恋した人間、純朴な漁師の海人に萩原聖人なんだから、そりゃー、ドシリアスになるのは当然ってなもんなんである。

あ、でもさ、あの人魚姫のはかない物語を知った時、人間の男の身勝手さに歯噛みし、人魚姫のその恋の思いさえ、ちりとなって消えてしまう残酷さにショックを受けたんだよね。
それを、魂や呪いの感情は生き続けるという、実に日本的な価値観によって救い出し、魂の救済という、一歩間違えれば危ない宗教的な解決を、しかし実に感動的に描いたのが、なかなか嬉しかったんだなあ。
だって、予想外に、泣いちゃったもん(爆。まあ私の落涙確率は、ビックリするぐらい高いのだが……)。

濡れ女は、海人と恋に落ち、人間となることを決意した。ナミとして生まれ変わり、子供ももうけ、幸せに暮らしていた。
それなのに、魚が捕れなくなったのは、バケモノを人間の世界に引き入れたせいだと責められ、海人と赤ちゃんは殺され、ナミは狂気に陥った村人たちからなぶられ、炎で焼かれ、石の中に封印される。

その濡れ女の怨念を利用したのがぬらりひょん。妖怪が人間によって陵辱され続けてきたことを長い長い年月、恨みに思ってきた。その恨みは既に激しさも消え、信念よりも強く固まってしまった。
鬼太郎のような青二才が、人間に加担するのが見ていられないし、許せない。何にも判ってないと思ってる。そして、鬼太郎に、彼の知らなかった事実を、目玉のおやじもまだ息子に言っていなかった事実を、告げてしまう。
鬼太郎の先祖、幽霊族が、人間によって滅ぼされたこと。
人間も妖怪も平等に考える、まっすぐな心の持ち主である鬼太郎は、当然、苦悩する。今、まさに人間の女の子を助けようとしているのに。

今回は、だから濡れ女のエピソードは勿論、鬼太郎側の話もかなり重いんだよね。それでも鬼太郎は人間を助けるのか、という葛藤がね、ある訳。
ただ、鬼太郎がその問題に直面する前から、もう登場から暗くってさ。冒頭、ねずみ男(こっちは下心アリアリ)と、人間界をパトロールしている鬼太郎なんだけど、全然やる気がない感じなんだよね。
それは最初からこの展開を見越しているようなキャラ作りにも思えて、後から考えるとちょっと違和感があるんだよなあ。
まあでもそれも、濡れ女のエピソードが本格化してくると、どーでもよくなるんだけど(爆)。
最初は、濡れ女の強い怨念が、人間の魂を次々に奪っているとされていた。だから、濡れ女が封印された時を再現すれば(あ、そこを決壊したのが、因業なねずみ男なわけね)、全てが解決すると思った。

でも濡れ女が悪い訳じゃない、悪いのは人間なのだと知ることで、事態はひっくり返る。
これがね、「妖映」という再現フィルムを塗り壁に映して鬼太郎たちが見るという趣向で、そのマークは松竹じゃなくて、東映にソックリなんですけど(笑)。
濡れ女さんは悪くないじゃないですか。悪いのは人間だ……と、今までは濡れ女の呪いによる死を恐れるばかりだった楓は苦悩する。

北乃きい演じる今回のヒロイン、楓は、鬼太郎たちに助けられるのを最初のうち拒絶っぽい反応してて、やはりこのキャラも暗いのだ。
しかも後に、濡れ女を封印した五つの和楽器のひとつ、篳篥(ひちりき)を所有している家柄だということも知れ、彼女はそれを勿論吹けるし(それが、ダイナミックで感動的なクライマックス!)、五つの楽器を借り受ける旅では、妖怪琵琶牧々を「おばあちゃんに習ったことがありますから」と、おずおずながら演奏し、「きもちイイーッ!やっぱ、白魚の手はサイコーだな」と悶えさせる(河本準一氏、ナマナマしすぎるっつーの)。
そんなバックグラウンドの持ち主ってのは、あくまでフツーの女の子だった真央ちゃんを思い浮かべると、やはりダークで深度が深いのよね。

ぬらりひょんは、濡れ女の怨み心を利用して、人間の魂をしこたま集めている。それを集めて、巨大なガイコツが形成されている様は、怖気のそそるブキミさ。
それが何の役に立つのかはいまいち判んないけど(爆)、演じる緒形拳の存在感が強烈過ぎるので、もうそんなこともどうでも良くなっちゃうっていうか。
人間の善意を信じると言い募る鬼太郎に、ならばその証しを見せてみろ、このウラミのかたまりのバケモノを倒してみろ、というんである。
ま、その前に、ぬらりひょん自身が濡れ女を裏切ったことで、彼女の怒りでぶっ飛ばされちゃうだけどさ。

しかしこの巨大ガイコツは、濡れ女の怨みを抱いたまま大暴れし始める。
鬼太郎の目の前で濡れ女に魂を取り込まれてしまった楓が、その中でナミに心を込めて聞かせる篳篥のかごめの歌。
そして、鬼太郎が母親の魂と引き換えに閻魔大王に交渉して連れてこさせた、海人の魂が、濡れ女、いや、ナミの心を彼と共に天上へと導かせるのだ。

という、このファンタジーの王道の泣きどころで、アッサリ私は陥落して落涙しているのだけど、もう、どこで書けばいいの!今回のニューキャラに、他の全てを食いまくる、美しきオノコが登場するのよ。
ま、前作と同様、客寄せっぽいゲスト的キャラは続々登場する。正直、その場では誰だか判んない人もいる。サトリを演じる上地君や、蛇骨婆を演じる佐野史郎と、井戸仙人の笹野高史は特に判んないよー。サトリが鬼太郎にウンコを撒き散らすシーンは、唯一のオコチャマギャグで、それは上地君らしい気もするけど……。

しかしその中で、すっきりとした美しい顔立ちはハッキリ見えているのに、誰だか判らなかった人がいる。「異国の妖怪」と皆に遠ざけられる夜叉。異国で、言葉も発しないし、多分ホントに日本人じゃないんだろうと思ったら、やっぱりそうだった。
んでね、正体が判んないことも手伝って、そして言葉を発しない美青年ということで、そのナゾな感じと艶やかな美しさで、すっかり食っちゃったのよ。だって鬼太郎=ウエンツ君は、もう最初から最後まで苦悩を引きずって暗いまんまで、せっかくのそのカワイさが活かしきれなかったんだもん。

しかもそのソ・ジソプ、装飾過多の胡弓をギターのように流麗に弾きこなし、流れ出るメロディもアリアとかでさ、美しいのよ、これが、悔しいほどに。
流線形の中華風コスチュームといい、王子系を際立たせる長髪も似合う。髪の長さは違うけど(夜叉は、艶やかに長い黒髪)、顔半分が隠れる形は鬼太郎とカブっててさ、余計に分が悪いんだよなあ。ちゃんちゃんこに半ズボンの鬼太郎じゃさ!(てゆーのは、大泉先生、もとい、ねずみ男が言ったんだよ!)

それでも、ラストは良かった。薄暮の、青みがかった雪山の中までもつれこんだ巨大ガイコツと人間の妄念のバトルが愛によって昇華される。(その後の、「まだ怨念がおんねん!(byねずみ男)」というアクション的くだりは、クドかったけど(爆))
そしてお約束どおり、鬼太郎とヒロインに別れが来る。見送られるのはイヤだからと、先に行くよう促がしながら、鬼太郎の背中に顔を埋める楓。切なかった。

更に、ラストクレジット後のワンシーンもいい。大抵こういう風におまけ的につけられるのは、コミカル系か、ネタ明かし系だけど、今回はじんわり系とでも言いたいラスト。しかも、本編中で重要なファクターで、気になっていた部分でもあって。
鬼太郎の、妖怪界での活躍が認められて、母親の魂と面会することが出来ることになった、その権利を、海人の魂を呼ぶことで使ってしまったこと。
もう二度と母親と会えないんだぞと閻魔様に言われても、鬼太郎はその選択に躊躇しなかったし、息子の決心に目玉のおやじも、お前の決めたことだからと、異を唱えなかった。

しかも、こう締めくくるのがいいんだよね。「(妖怪は死なないから)これからいくらでも時間がある。そのうち会えますよ」と。
それってある意味、閻魔様をナメてるとも?いやいやいや!閻魔様の、寛大な心を信じているんだよね。
中村中のラストソングもステキだったけど、その後に用意されたこのラストカットにはジーンときてしまった。

本当に妖怪がいそうなロケーションが素晴らしい。妖気漂う山、沖縄のロケとは信じられない、鬼気迫る海。ウエンツ君の年齢には限界があるけど(爆)、正直このままシリーズが続いてほしい。★★★☆☆


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