home!

「く」


2010年鑑賞作品

空想天国
1968年 84分 日本 カラー
監督:松森健 脚本:田波靖男
撮影:西垣六郎 音楽:萩原哲晶
出演:谷啓 京塚昌子 奈加英夫 酒井和歌子 宝田明 北あけみ 藤岡琢也 佐田豊 藤木悠 権藤幸彦 田中浩 木村博人 西岡慶子 中川さかゆ 矢野陽子 矢野間啓治 沢村いき雄 藤田まこと 頭師孝雄 中山豊 ハナ肇 桜井センリ 田崎潤 荒木保夫 ハンス・ホルネフ 奈加英夫とウルトラ・トリオ 小松政夫 豊浦美子 田辺和佳子


2010/12/22/水 劇場(銀座シネパトス/谷啓特集)
空想っていうか、絶対これ、妄想だろ(爆)。確かに昔はこういうことを空想って言ったかも(汗)。でも絶対、妄想だって(汗汗)。
主人公の田丸は、母親と二人暮し(だよな……多分。父親の姿は見えない)の独身サラリーマンってだけでちょっとイタいが、その母親をマミーと呼び(!)ぬいぐるみのカエル(ぴったんこカンカンのカエルみたい)をガマルと呼んで、空想の中ではガマルが人間サイズになって田丸を助け、アドヴァイスをくれたりする、なんてもう、かなりキている(汗)。

まあ自分でも空想癖があるってことは自覚しているんだろけれど……ガマルが決して本当に言葉を喋ったりはしないってことは自覚しているんだろうけれど……で、でも、自覚しているのか??かなりそのあたりはアヤしいかもしれない……ってあたりがドキドキする。
うーん、でも、谷啓の可愛らしさだから、ちょっと許せちゃう。なんか、無邪気な子供みたいでね!?
しかしその彼が同僚の色男と美女を取り合い、最後には産業スパイたちとドンパチやり、その功績を認められて美女と結婚するんだから、想像もつかない!

てか、もう最初から最後までずっと彼は空想、いや妄想しっぱなしだから、最初のうちはえっ?こんな展開?と驚くんだけど、途中から、あ、これは彼の妄想だ、どこから切り替わったのかな……などと先読みするようになっちゃうのね。
で、彼の妄想ってのが、当然、妄想というのはそういうもんだと思うけど、自分にとって都合のいいものだから、その先読みがしやすくって、当たっちゃうのよ、これが(爆)。
例えば、美女に追いかけられたり、悪人を自分の腕っ節でやっつけたり、自分の設計が認められたり、あり得ないことばかり(爆)。

しかし後半になると、産業スパイなんていう、それまでの平凡な生活(妄想以外は(爆))からは考えられないスペクタクルが現実として入ってくるから、これも彼の妄想と現実の境目があやふやになってくる。
設計を盗みに来たスパイに遭遇するところから妄想かと思ったら、それは現実で、その後、田丸が大活躍するところから妄想だったり(つまり、相手に一撃でやられてる……)。
産業スパイ相手に拳銃をぶっ放す、なんて絶対妄想に決まってる!大体いきなり拳銃って!と思ったら、見張りを倒した時に拳銃を手に入れたらしく、この場面はホンモノだったり。
後半はスッカリ妄想と現実が読めなくなるのが、ちょっとクヤしい(笑)。ま、ガマルが助けに来たりすれば、すぐに判るんだけどね(笑)。

おーっと。またしても何の話やらで、突っ走ってしまった(爆)。えーとね、設計、と言ったとおり、田丸が勤めているのは建設会社の設計部なのね。
いかにもウダツがあがらなそうだけど、実は設計の腕は結構なものらしい、のは、会社の機密である新素材を活かした設計を任されるくだりが出てくることで、明らかなんである。
しかしそこが妄想大爆発の田丸で、同僚から同時に頼まれた犬小屋の設計図と間違って破り捨ててしまい、犬小屋の設計図を上司に渡してしまう、という、もうお約束な(爆)。
でもここで、犬小屋の設計を、と近づいてきた秘書の美智子こそが産業スパイの手引きなんであって、隙あらば、と田丸が受け取った機密文書を狙っているんであった。

でね、この美智子に言い寄っているのが、田丸の同僚の前野。演じる宝田明がさあ、もうキモチワルイほどに超女好きのする男をネッチリと演じているもんだからさあ。
彼は顔も確かに端正だし、女の子の手を取ったり、さりげなくボディタッチする様が実に自然で、ていうか、自然だってのがキモチワルイんだけど(爆)、なんか、素じゃないの?ってぐらい、さらりとキモくてさ(爆爆)。
うう、ゴメン、だって、キャラとして必要なのは判ってるんだけど、ちょっとナイなあ、というぐらいネチネチしてるんだもん。
谷啓のキャラがまたぶっとんでるもんだから、そのライバルの彼のキャラとのギャップになんか、疲れちゃう(爆)。

まあでも、田丸は美智子に対しては何とも思ってないんだよね。だって彼は妄想族だから(爆)、妄想の中の女に恋する訳よ……って、それって大問題なんだけど!
それはね、彼の会社が設計を担当した高校の校舎が大地震によって崩れてしまい、現地調査へと飛んだ先に、てか、その飛んだ先を妄想した場面で現われた、この高校の校長の娘としてまず現われるんである。
彼女の父親は手抜き建築のために死んでしまった、という、妄想設定である。確かに手抜き建築だったんだけど、そもそも校長がそれによって死んでしまった、ということ自体が彼の妄想だけで終わる。

手抜きを行なった工事会社(設計自体に手抜きはない)とのバトルもあるにはあるけど、田丸が妄想の中で香港のアクションスターよろしく照明器具にぶらさがって連続キックして倒す、なんてことはあり得ない訳。
大体、妄想の中で相手になっている社員たちは、信号機みたいにやたらハデなアロハシャツ着てていかにもチンピラだけど、実際はフツーにワイシャツにネクタイだしさ。
妄想に引きずられて大事な設計図を持ってくるのさえ忘れ、グダグダになっている田丸を、前野が設計図を持って追いかけてきて万事が解決してしまう。歯噛みする田丸。

ところでさ、この場面でも、巧妙に妄想と現実の違いは示してるんだよね。巧妙まあ、駅で話しかけてくる校長の娘、が同じカッコしたおかめ顔の娘、というのはお約束だが(失礼だなー!!)田丸が乗ってくるのがレトロな蒸気機関車で、あら、この時代はまだこんなんあるのと思ったら、実際に乗ってくるのはフツーの列車なんだもん。巧妙こーゆーあたり、なかなか凝ってるのよね。

田丸が妄想した校長の娘は、酒井和歌子である。まー、カワイイったら、ないんである。妄想の中では「二十四の瞳」もかくやというような、清純なカッコで登場、いや、その後もずっと清純なんだけどね。巧妙その後、田丸が新素材での設計を任された時、この設計が上手く認められたら、社長の一人娘との縁談も……と妄想した彼がその妄想した中で、見合い写真に写っていたのがこの校長の娘、いや、酒井和歌子だったのだった(だったのだった?)。

ある意味田丸は純情一途?だってさ、彼女との結婚を妄想するあまり、彼女によく似たマネキンが飾ってあるショーウィンドーに釘づけになり、「あれください!中身もね!」と、そのマネキンを抱えて帰ってきちゃうんだもの!しかもそのマネキンがまとっているのはウェディングドレス……い、イタい……。
ガマルを擬人化するのも相当イタかったけど、マネキン抱えて帰ってくるのは相当……いや、でもこれって、私が萌え萌えになった「空気人形」「ラースと、その彼女」に通じるのかもしれないなあ……そうかも……。

というエピソードはどの時点だったか実は、正確に思い出せないんだけど(爆)。だって、完全に妄想の中の存在だと思っていたこの酒井和歌子が、実際に生身の女の子として出て来るんだもん!
あ、“だって”とはつながらないか(爆)。と、とにかくね、田丸は社長令嬢だと思い込んでる訳。妄想なのに(爆)。
新素材の設計図の件で失態を犯してしまった田丸は、目をかけてくれていた部長の近藤の面目を完全につぶしてしまって、ついに設計部も追い出されて守衛に降格になってしまうのね。

あ、ところでこの近藤部長を演じる藤岡琢也がまたサイコーでさ!まったく、ホンットに藤岡琢也!なのよね。「仁義なき戦い」のさ。
でも、若くてお肌がツヤッツヤなの。なんかもー、嬉しくなっちゃう。彼もまた田丸の妄想のエジキになって、社長となった田丸(妄想のね)にひざまずく。
階段上に社長の机があって、階段下でオロオロとひざまずく、ってのが、なんかヒラの妄想って感じでなんとも愛しいのよね。

で、また随分話が飛んじゃったが(爆)。でね、そうそう、守衛に降格しちゃったのよ。
美智子に頼まれた犬小屋の設計図と取り違えるくだりは、美智子に言い寄る前野がサッカーの試合に誘うところに、田丸の資料を盗みたい美智子が巻き込むんだけど、これ見よがしにキメキメのサッカーを見せつける前野がメッチャイラつく(爆)。
でも、この時代にサッカーってのも、新しいよね。それこそ釜本とかの時代かなあ。
ここにもまた田丸の妄想が入り込み、実際の前野よりも華麗にシュートを決める、のだが、実に巧みにカットを割ってそれらしく見せているのが逆に哀しい(爆)。
なんかここだけ、現代のカット割り技術にも通じるぐらい、自然で素晴らしい、だけに、哀しい(爆爆)。

飛んだと言っておきながら、更に飛んでますけど(爆)。
で、そうそう、社長令嬢だと田丸が思い込んでいた宏子(酒井和歌子)、守衛の仕事で社長と令嬢を車に案内した時、田丸は「これが社長の車か。いい車乗ってやがんな!」と後部座席に入り込んで葉巻を吹かしてたアリサマなんだけど!
しかしその令嬢を見て、「違うじゃないか。(令嬢だと言った)前野は何か、勘違いしてるんだな」と……うっ、空想癖の自覚、ないじゃんか、い、イタい……。

で、あの産業スパイの事件である。一発目で気を失って、その後が妄想だった田丸、助けに来てくれた宏子とようやく邂逅する。ていうか、田丸が妄想していたとおりの美女が実際に存在するってあたりが、奇跡なんだけど!
で、大怪我したのは宏子の父親の守衛責任者、山村の方なんである。一命は取り留めたものの、話の出来ない状態が続く。

美智子や社長令嬢にも色目を使っている前野が見舞いに訪れ「守衛の娘がこんなに美人だとは知らなかったな」とこれまた鼻の下を伸ばすもんだから、田丸は気が気ではない。
しかも、厳しく管理されている筈の鍵が流出していたらしいことで、守衛の田丸が疑われる、ていうのも、山村が倒れていたそばに落ちていた合い鍵を宏子が田丸に託していたのを、警察が田丸に事情を聞いている時というサイアクのタイミングで見つかっちゃったもんだから、そりゃあ、疑われるよなあ。

そっからは、まさにおっかけっこバトル!警察側の責任者にハナ肇がいるのが嬉しい。前野は美智子が自分をソデにするのを、自意識過剰な彼としては悔しくて後を追うんだけど、それでウッカリ一味の中に飛び込んでしまう。
囚われていた宏子に「助けに来ました」なんて言いやがるチャッカリさはムカつくが、しかし田丸があまりにも頼りないからなあ。
ちゃんと宏子がさらわれたのを目撃して追いかけたのに、鍵の件で嫌疑がかけられていたもんだから、彼の方が捕まり、逃げ出し、喜劇らしく剣道場に紛れ込んで一戦まじえてやられたり。
剣道着を脱ぎ捨ててランニングとブリーフ、じゃないや、トランクス姿だからなんとなくごまかしてマラソン大会に紛れ込んで騒動になったり、このあたりはキッチリ喜劇を抑えてくる。キッチリすぎて、それまでのシュールすぎることへの焦りを感じるぐらい(爆)。

で、そのマラソン大会がテレビ中継されていたもんだから、新素材を知っている彼は消さなければいけない、と産業スパイたちに捕まって、宏子と前野が囚われているところに放り込まれる訳。
で、先述した妄想かと思いきやのドンパチ!いや、ね。その前にさ、二人しか乗れないゴムボートに前野と宏子を乗せて送り出す、なんてカッコ良すぎる場面が用意されていたからさあ、もうてっきり、ここから田丸の妄想だとばかり思ってさ(爆)。
でもここも、妄想じゃなかったのね!!!シンジラレナイ!!!まあ、最初はそのボートに乗り込もうとしてどうしても沈んじゃう田丸=谷啓がやたら可愛かったんだけどね。

警察の応援が来て、カッコ良くキメキメだった田丸が一気に腰を抜かすのもカワイイ。
そしてカットが変わり、田丸は部長に昇格、田丸を押していてくれた部長はめでたく専務である。宏子は秘書に抜擢されている。
抜け目のない前野が社長令嬢と結婚したことで、田丸は宏子が彼のことが好きだったんではないかと思い、心配する。そんな約束してないもの、とふと視線を下げる宏子に、意を決して僕と結婚してくれないかと田丸は言う。
!!!さらりと見逃しそうだったけど、これって、スゲーじゃん!
でもね、宏子は、今の私ならカワイソウだからって思ってるの、と怒って、田丸の頬をビンタして拒否するのね。それは確かに当然な気持ちだなとは思うんだけれど……。

でもね、その後がイイの!前野の結婚式が終わり、悄然として家に帰る田丸。引き出物の赤飯をマミーに渡すと、私は赤飯を配る側に回りたいよ、と返され、俺は一生独身だよ!とヤケ気味に帰す。
部屋に入り、宏子にクリソツの例のマネキンに当たり散らす。アレ?でもウェディングドレス姿だったのに、フツーのカッコに前掛けしてるけど……。
右目からつつと涙を流すマネキンに向かって、頬を張る田丸。この時点では、涙を流すのも妄想だと思ったけど、妄想なら、マネキンからじゃなくて宏子の姿からだよな、とふと思ったら!マネキンかと思われたのが、宏子だったのだ!!

えー!これってホントに妄想じゃないの!でも、こういう時にはいつも擬人化するガマルが、ぬいぐるみのままで、田丸が「遠慮しろよ」と押し入れに隠すし。
宏子が「謝りたくて来たの。このマネキンを見て、嬉しかった」というからマジだよね!!てことは、このマネキンはホンットに宏子に、いやさ、酒井和歌子に似てたってことだよね!ていうか、実際ソックリだもん!!
でもさ、フツー、マネキンを部屋に引き入れてるってこの状況じゃ、嬉しいと言うより引くと思うけどなあ……まあそれだけ、宏子も田丸のことが好きだったってことだよね!!

ラストはめでたい田丸と宏子の結婚式。大丈夫?妄想じゃないよね??心配になっちゃう……。
ラストクレジットに重なる、ひょいひょいと飛び石を飛び越える谷啓に、ウエディングドレスの裾を摘み上げてそろそろと追いかけ、最後は飛び込んだ彼につられて、一瞬遅くドレスで池に飛び込む酒井和歌子、何とも幸福なラスト。

主題歌でもある「パパパパラダイス〜♪」てな谷啓ののどかな歌声にホンワカする。パンアメリカンの飛行機で新婚旅行に出かけたりする妄想?は、恐らくスポンサーだからだろうなあ(爆)。
だってさ、田丸の部屋にはパンアメリカンのハワイ旅行のセクシー女子のポスターが貼られているし、旅行場面のサーフィン、あるいは旅行場面でなくても、妄想場面での西部劇よろしい一騎打ちの場面でも、あれは明らかに日本じゃなくて、砂漠のロケーションに行ってるもん!ぜーたくー!!
しかもその場面、田丸が胸につけているバッヂには“ほあんかん”ひ、ひらがなかよ……。

当時の学生運動をほうふつとさせるリアルな映像から、核マルのヘルメットかぶった谷啓でまず脱力させ、クライマックスではリアルな爆撃シーン!
彼と共に玉砕を覚悟する酒井和歌子と抱き合うシーンまでもがあり、なんか戦争や争いと近しい時期にいるんだなあと感じてしまう。だけど、谷啓が「ふかしすぎの肉まん」(!!)と女子からガツンと言われてしまうことに平和を感じちゃうのだっ。★★★★☆


クレージーの怪盗ジバコ
1967年 110分 日本 カラー
監督:坪島孝 脚本:田波靖男 市川喜一
撮影:内海正治 音楽:宮川泰
出演:植木等 谷啓 犬塚弘 桜井センリ 石橋エータロー 安田伸 ハナ肇 アンドリュー・ヒューズ R・バルボン 浜美枝 豊浦美子 東野英治郎 進藤英太郎 柳谷寛 ハンス・ホルネフ 桐野洋雄 草川直也 左卜全 藤田まこと 安藤孝子 立川談志 山本リンダ 広瀬正一 佐田豊 宇野晃司 木の実ナナ 小川安三 鈴木和夫 加藤春哉 人見明 青島幸男

2010/3/26/金 劇場(銀座シネパトス)
怪盗ジバコ?ドクトルじゃなくて?と思ったら、ジバゴではなく、ジバ「コ」であった(爆)。つーか、これが北杜夫の原作が先にあるなんてことが信じられないほどにもー、クレージーのクレージーなハチャメチャさ全開!実際、劇中の子供たちに「クレージーだな」と言われる場面アリ!(意味合いは違うが)。
私、植木等の映画は観たことあったけど、それにもクレージーの他メンバーは出てはいたけど、いわゆるクレージーキャッツとしての映画はひょっとしたらこれが初見かもしれない?同時上映がドリフだったのだけれど、ドリフには失礼ながら、クレージーのメンメンの芝居のまー、達者なこと!もう植木等であり、ハナ肇であり、谷啓である、それぞれの役者の個性や魅力が満載なんだもん!

てかヤハリ植木等よねー。彼のクワカカカという、あのナナメに天を仰いで高笑いするアレよ。それをね、なんとまあ、7人がとこモノマネするんだから!
モノマネと言っちゃったらアレか。つまりね、植木等含め7人が植木等になる……ややこしいな。つまり(つまりが多いな)植木等扮する怪盗ジバコは変装の天才の大泥棒。彼に盗めないものはなく、しかしその国籍も年齢も性別さえも判らない。

そんな怪盗ジバコが日本にやってきた。ご丁寧に犯行予告までして!この日本でも彼は自由自在に変装を繰り返す。彼を追う警察たちを始め、闇の組織のメンバーやら、金満社長やらに次々に化ける。
つまりそれらを演じている役者たちが“中身は植木等”もとい、“中身は怪盗ジバコ”を演じるのね。あのクワカカカの高笑いを一番の“証拠”にして、7人の植木等、いや違った、怪盗ジバコが現われるという寸法なのよ!

このキャラってなんかルパン三世っぽいよなあ、とも思ったりもする。クライマックス、次々に顔のマスクがはがされるところなんかさ(ソックリマスクで変装するのはルパンのお得意だもん)。
でも、そこはもう中身、まんま植木等だからさ!彼がアヤしさ満点で空港に降り立っても「怪盗ジバコほどの存在は、いかにも怪しいはずがない」と最初は見過ごされてしまう。でもでも、見過ごしちゃダメだろ!てなアヤしさなんですけど!

このシーン、明智警部(ハナ肇)と鈴木刑事(谷啓)が「怪しいのが怪しくなくて、怪しくないのが怪しい」というのを問答しているうちに、ワケ判らなくなるのが可笑しい!このあたりはさすがプロフェッショナルって感じよねー。ベタだよなと思っても笑っちゃうんだもん。

さてさて。いかにも怪しく、満面のあの笑顔でどーもどーもと空港に降り立ったジバコ、ころりと転がり落ちた拳銃を見て、やはりジバコだ!と捜査陣は色めきたつ。結局その拳銃はオモチャだったんだけど、ジバコの持つ黄金の名刺が決め手になり、彼はアッサリつかまってしまう。ていうか、サラリと手の内を見せてしまうあたりが、いや……ジバコは自分に絶対の自信があるからだろうが、やっているのが植木等だからどうにも脱力しちゃう。

しかし彼はお決まりの「トイレに行きたい」お決まり過ぎるから当然却下されるも「ここで行かせなければ人権問題、コクサーイ問題になりますぞ」こ、コクサーイ問題……(うっかり笑ってしまった!)
それにつられてハナ肇、谷啓も、いや、明智警部に鈴木刑事も「コクサーイ問題……」「途中でもらされて、クサイのはゴメンですよ」というわけでトイレにお連れもうすも、そこでジバコは鈴木刑事に変装し、口先三寸で自分こそが鈴木本人だと信じ込ませ、まんまとその場を後にしたんであった。

そう、変装第一号が鈴木刑事、つまり谷啓でね、彼が“中身は植木等、ないしは怪盗ジバコ”になるケースが一番多いんだよね。鈴木刑事としては、谷啓そのものちょっとおどおどしてて、だけどちゃんとプライドがあって、でもイマイチ押しが弱くてソンな目を見て、憎めない、てなキャラなんだよね。
ハナ肇扮する明智から、いや、てかまんまハナ肇からバカバカ言われ続ける彼はカワイソウすぎる。しまいには、「バカのひとつ覚え」どころか「バカのみんな忘れ」とまで言われる。ヒ、ヒドイ……原因はジバコと、時には、というかしょっちゅう明智警部のせいでもあるのにい。

鈴木刑事が暮らすボロアパートに婚約者がいるんだけど、再三鈴木刑事に化けるジバコにこの婚約者はそりゃちょっとだけは騙されるものの、すぐに見抜くあたりが素晴らしい!愛の力ね!
鈴木刑事に化けたジバコが二人が隣同士に暮らすアパートに訪ねてくるシーン、ホンモノの鈴木刑事が帰ってきて、なら今私の部屋にいるのは誰?ということになり、鈴木刑事が自分の部屋にコッソリあけた覗き穴から隣りを覗くシーン「そうやって私の部屋を覗いていたのね!」カ、カワイイー!

谷啓はほおんと、可愛かったよなあ。何度も上司にジバコと間違えられてさ、拗ねちゃってさ、あげくの果てには完全に上司の過失なのに「お前がここで辞表を書いてくれれば、依願退職に出来る」なんてところまで追い詰められちゃってさ、メッチャ可哀想なんだけど、そのスネ具合が実に子供っぽくって、つまりあまり深刻じゃないところが救われるんだよね。
警察をクビになっても、自分だけでジバコを捕まえる!という正義感に燃えた彼の、そんな気持ちを見越してスカウトして来たのが、ジバコの女としてスキャンダルをすっぱ抜かれたコンパニオンを愛人に持つ金満社長。

しかし実はこれは、その金満社長に化けたジバコ(笑)。鈴木ごときに追われても何てことないと思ったからなのか?(ヒ、ヒドイ……)だけどね、確かにジバコがそんな風に思って、ていうか、不思議な同志関係を感じてね、鈴木刑事をそばに置く形にするのが判る気がするんだなあ!
ていうか、植木等と谷啓というコンビネーションが素晴らしすぎるからなんだけどさ。それにしても谷啓はほおんとにカワイイ!

さて、私本作がさ、ちょおっと尺が長いって気がしたんだけどさ……(爆)。
凄くね、社会問題にも言及しているんだよね。メインの流れは、世界中の文化遺産を守るという名目で実はすりかえて、莫大な富を得ようとしているWCWCなる団体(でも明らかに有名な美術品がどうやって売れるんだろう……いや、そういうものも欲しがるお金持ちが世界中にいるってことなんだろうか)との壮絶なバトルにあり、その中のアルカ・ホネやらレロレロ・ヘブンやらいう脱力極まりない役名の外国人キャストたちも植木等になりきって演じるあたりがかなりの見ものではあるのだが。
しかしこの役名はヤハリ当時のハヤリを示しているよねー。0011ナポレオン・ソロだのといったネタも出てくるしさ。

でね、ちょっと話がズレましたけれども、そう、尺が長いのはね、この作品、なんか使命感があるかごときに、すんごい社会問題に言及しているからなんだよね。
そもそも大前提であるこのテーマ自体がそうだったのかもしれない。文化遺産を日本がそれとして大事にせず、金持ち連中の自慢アイテムと化している、とかさ。でも本作が怪盗モノであり、そのチェイスに充分な面白さを提供しているにも関わらず、実は言いたかったのは 別のトコだったのかもしれない、ってのがさ。
そう、チェイスはほおんとに面白いのよ。これ、ホントルパン三世みたいなんだけど、ルパンの方が(テレビアニメに関しては)後なんだよね。でも、ホントに似てるんだよなあ。追いかける明智警部にジバコが再三変装して欺くあたり、ホントにルパン三世の銭形とのシーンみたいなんだもん!

で、別のトコってのはね……ジバコが黄色いマスクをしている子供たちに遭遇するのよ。彼らはスモッグを遮断するためなんだと言う。そんなことも知らないの、オジサン、と子供たちは別にこの事態を憂いている風もなく、ジバコだと言う彼を「うっそだあ、ジバコは外国人だもん」と無邪気に笑うんである。
ここでかの「クレージーだね」という台詞が子供から発せられるのだが……スモッグのせいで外で遊ぶことも出来ない子供たちを見て、ジバコがお高い文化遺産を所有して悦に入っていた金持ちを脅して、一日だけでいいからスモッグをなくせ、と脅すシーンは実に時代を象徴している、のよね。

かの怪盗ジバコでさえ、一日だけ、としか言えないのがさ……。それだけ光化学スモッグは当時の大問題であり、経済を重視するあまり健康なんぞニの次っていうのが、それに対して異を唱えるのは当時はどれぐらい大勢意見だったんだろう?などと思う。だって、一日だけとしか言えないんだよ……なんてさ。
勿論ソレに対する危惧があったからこそ、現代の東京は、まああんな奇妙なマスクをせずとも歩けるようになった訳だし。
でもこれをね、わざわざ娯楽映画でまで言わなきゃいけない!という使命感に駆られるっていうのが、そのために、二本立ての映画としてはかなり長めの尺になっているっていうのが、すごい危機感を感じちゃって……。

で、だから、ね。でもメインはあくまでWCWCとのチェイスなのよ。文化遺産を守るなんていう平和的目的はウソ八百、実は世界中の美術品を片っ端からニセものとすりかえている彼らをジバコは追っていたんである。
でも見た目とてもそうとは思えないグータラぶりでしかも女好き、WCWCを迎えるコンパニオンとして空港に居合わせ、ジバコに見初められた美女、ナナと絡んで話が大きくなってくる。

あ、ナナはコンパニオンじゃなくて、東西観光の社長秘書だって?そうだっけ。あ、すいません……(爆)。演じるのは浜美枝。さっすが、さっすがキッレイ!そうか、007ネタが出てきたのは、そのせいか!ナナという役名に「ゼロゼロ抜きのナナね」なんて、まんまやんか!
いやー、でも、ホンットに、ホンットに……キレーだなあー。確かにちょっと、日本人離れしてるよね。劇中でも外国人に見初められるっていう設定がね、ぽいしさ。ま、そのうちの一人、ジバコは外国人かどうかさえアヤしいけど(爆)。

ナナは野心満々でさ、「私はジバコの女」つって、大衆紙に売り込んじゃうのね。そのデートの場所が、「日本人の歌手なのに、なんで英語で歌うの?」「その方がカッコイイでしょ」という、ホントに日本じゃないみたいなオシャレな場所。
ステージがあって、彼だけはメッチャ日本人的な小松政夫がズッコケなMCをして(なんかホッとしちゃう)登場するのが木の実ナナ!そう、英語で歌う「恋のフーガ」!!超カッコイー!ダンスもイケてる!
いやー、本作で一番コーフンした場所かもしれない!さっすが、ナナ姉さんっすよ!浜美枝の役名がナナなのは、これもまた踏まえていたんじゃないかというカッコ良さっすよ!

で、なんかグダグダになっちゃったけど(爆)。えーと、えーと、なんだっけ(爆爆)。とにかくね、WCWCからホンモノを取り戻す。それにはほおんと大変で、鈴木の婚約者の洋子とナナまでも巻き込んであわや!というところまでいく。
クレージーであり、植木等なのに、最終的に本作では人が二人も死ぬんだよね……。死体を運ぶくだりはコミカルだけど、結構思い切ってるんだよなあ。
そして、WCWCの悪事は白日の元にさらされ、一日だけだけどスモッグのない日も得てさ、鈴木は婚約者とラブラブな日々を過ごしてる。日傘の下でチューなんかしてる風を示しつつ。
ジバコはどうかというと、あのナナと高飛びである。すっかりナナに骨抜きにされたらしいジバコは行きたい場所を彼女に問うと「だったら私、パリに行ってみたい」ギューンと旋回する飛行機。大団円??

とにかく、みんなが、外国人キャスト二人までもが植木等と化してしまう可笑しさ!それを凌駕する植木等の可笑しさ!
ソンな役回りがなんとも愛しい谷啓の可愛さ!
ボスの立場ながら焦りまくり、ドジリまくりの表情がたまらなくハナ肇なハナ肇!(なにそれ!)、クレージーはほおんと役者、だよなあ!

あ!青島幸男の名前がキャストにあったから、じりじりして待ち続けてたんだけど、ほおんと一瞬、ジバコを待ち構える検問の警官として登場。
彼の登場はホントに少ないんだけど、誰かの台詞の中で「都知事みたいなこと言わないで」なんていうのがあってさ!勿論、青島さんが都知事になるにはまだまだ時間があるんだけど、ミョーに喜んじゃった。
彼がずっと都知事だったら良かったのになあ……。ていうか、この台詞、当時の都知事がなんか言ったってことなのだろーか……。★★★★☆


トップに戻る