home!

「せ」


2010年鑑賞作品

戦闘少女 血の鉄仮面伝説
2010年 90分 日本 カラー
監督:井口昇 西村喜廣 坂口拓 脚本:継田淳
撮影:百瀬修司 音楽:中川孝
出演:杉本有美 高山侑子 森田涼花 坂口拓 島津健太郎 亜紗美 川合千春 いとうまい子 津田寛治 竹中直人


2010/6/1/火 劇場(シアターN渋谷)
いやー、久々に井口作品を観たなあ。いや、正確には彼は共同監督の一人で、三つに分かれたチャプターの内の、一話の監督としてクレジットされているんだけれど、どうやらドラマパートとして総監督の位置にもいるらしい。
なるほど、三章をそれぞれ分けて監督を振り分けつつ、破綻がなくてちゃんと一貫した印象を与えるのはそういうことなのね。

しかし、そう、井口監督はもうホントに独自の道をまっしぐらで、もはやついていけないところまで、もとい、手が届かないところまで(爆)イッてしまった感があるけど(爆爆)。うーん、でも、ここまで自分の世界をぶれずに突き進んでいる監督さんというのも、実は意外になかなかいないかもしれない。確かにかなりついていけない感じにはなっているが、本当に尊敬する。
実際、最近あまり彼の映画に足を運んでない……「片腕マシンガール」あたりでようやくだったかなあ。なんか限定公開とか、レイトショーとか多い感じするしさ(爆)。

うーん、でも、「片腕マシンガール」や、私の観ていない作品から、本作には見事に連なっているんだなあ、と思う。つまり、人間(というか、美少女限定)の姿を基本に置きながら、そのどこかが武器になっている、言っちゃいけない言葉を言っちゃえば、いわば“かたわ”の、美しいものを異質なものが侵食した、“陵辱”という言葉も浮かぶような、倒錯的な感覚。そう、まさに、武器が美少女を“陵辱”したって姿、なのよね。

もともと美少女が血まみれになるのは私も好きで、古今東西ホラー映画なんてそういう楽しみが一方にあった訳だけど、井口監督はそれだけじゃ満足できなくて、美少女が血まみれになるだけじゃなく、どうせ血まみれになるのなら攻撃する方であり、そしてその攻撃する方ならただ強い美少女ではなく、そういう哀しみを背負った方が萌える、ということをよーく判っていらっしゃるのだよなあ。
しかもその“哀しみ”はメンタルの部分なんていう生ぬるい(映像的には)ことではなく、もう目に見えてハッキリと、カワイイ美少女を陵辱する鋼鉄の武器(鋼鉄も武器もイコールマッチョだわよね、ヤハリ)をもってして、ビジュアル的にもストレートに示しているのだよなあ。

身体のどこかが武器になる、年頃になるとそれに覚醒する、そうしたミュータントを、ヒルコと呼ぶ。
ヒルコって言えばもう、「妖怪ハンターヒルコ」を即座に思い出してしまうが、もともとは古事記に出てくるイザナギ、イザナミの間に生まれた不具の身体で生まれた神の名前。
そ、そうだっけ。日本文学専攻していたのにそんなことも判ってない……いや、私は近代専攻だからさ!(言い訳)。

でも、不具であるということ、そして国産みの際に生み出された最初の神の子であることを考えると、このヒルコという存在は確かに魅力的なのだよなあ。
身体の一部が様々な武器に変化したヒルコたちが一同に介し、今まで自分たちを虐げてきた人間どもに攻撃を仕掛け、征服を試みる、というのが物語の筋なんだけれども、そうしたあれこれを考えると、人間の傲慢やら、差別の問題やら、色々深遠なのよね、と思ったり。

まあ、観ている時にはそんなことまでは考えないんだけど(爆)。ヒロインの凛が学校でイジめられている描写は出てくるものの、それはこうした、後に変身を遂げる女の子モノにはよくある光景だしなあ。
まあそれに、そのイジメの描写も、いかにもブリブリな女の子を筆頭にした判りやすいトップグループによるそれで、先生までもがそのイジメっ子がいいとこのお嬢さんであることで口が出せないってあたりもギャグ的で、つまりはこれ以降の話のフリっていうか、道筋をつけるためのキッカケに過ぎない訳でさ。
まあ、凛がヒルコとして、人間をただ敵とみなして殺すだけでいいのか、と苦悩するところに、このいじめっ子が金持ち娘なもんだからパーティーなんぞに出席しててさ、凛の標的となって現われたりするんだけど。
その時だってこの子「こういうところじゃないと、カツ丼なんて(庶民の食べ物を)食べられないわ」とか言って丼抱えてたり、もうメッチャギャグなんだもおん。

てか、どういう話よ、これ(爆)。だからさー、凛はイジメられっ子だった訳。だけど16になって、なんか手に違和感を覚えててね、それを両親に告げると、双方メッチャ作り笑顔でニッコリ笑ってさ、今日は誕生日パーティーでサプライズもあるからね、なんて言う。
この両親を演じるツダカンといとうまい子が強烈でさー。あの作り笑顔からふっとマジ顔になるのも相当コワかったけど、その後、ツダカンが自分がヒルコだと娘に告白する場面の衝撃!

お父さんの身体をよく見てごらん、といきなり服を脱ぎだすと、両胸と股間から生々しい血の色をたたえた、ワキワキと動くなんだかよく判らない異物!
「ビックリしたか?チンチンじゃないんだぞ」ニコニコしながら言うギャグじゃないっつの!
「お父さんも16歳頃から乳首が固くなりだしてなあ」……下ネタにしすぎだっての!それにしてもツダカン、嬉しそうに演じてるよなあ……(爆)。
後に出てくる竹中直人のさすがの嬉しげさにはかなわないものの(この人はこーゆーの、好きすぎ!)生首ぶっとんでバースデーケーキに突っ込んだ後も自分の身体を遠隔操作するとか、インパクト強すぎ!

えーと、なぜ生首ぶっ飛んだかとゆーと(汗)、まあ、こういう事態を両親は想定していたんだろうなあ。変化を始めた娘を、ヒルコたちを目の仇にしている日本国家が狙っていることを。
その日本警察部隊は、顔に装着した連射装置から弾丸をぶっ飛ばすという凄まじさで、これリアルに考えるとかなり自身がコワイと思うのだが……暴発したらと考えたらさ!

あー、でも、井口監督(本作に関しては彼だけではないけれど……)は、こと頭が吹っ飛ぶ描写に関してはかなりのコダワリがある感じがするけど。やっぱり「恋する幼虫」の、頭がなくなってもフツーに生きている恋人、の描写は忘れられないし、それこそ先述した、父親の生首が自らの身体を遠隔操作もまさにそうだしさ。
そして生身の人間だった母親が、顔を吹っ飛ばされて即死するショック!!いとうまい子、これスゲー仕事だよ!このインパクトを最初に植え付けられちゃうから、この後いくら人の頭が飛んでも、爆発しても、そんなに驚かなくなっちゃう(爆)。

んなわけで、両親を無残に殺された凛は、しかも自らの戦闘能力にも目覚め、街をさまよい、彼女に立ち向かう人々を次々に血祭りにあげてしまう。
両親を殺されたからといって、まだヒルコ一団に迎えられて“洗脳”されてもいないのに、この殺戮描写はかなりキツいものの、さびれた田舎町、お寒い街角リポーター、街を牛耳っているオデブオバハンの中途半端なパワー(カッコつけてる間に、凛にぶっ殺されてしまう)といい、確信犯的にそうした生々しい残虐さを薄れさせてしまう。
とはいえ、凛、そして凛を演じる杉本有美の、もうどうでもいい、どうなってもいいんだという強烈なやるせなさでその鉄のツメを容赦なく立ち向かう人々に振り下ろしていく様は、美少女が血まみれになるという萌え以上の恐るべき気迫を感じさせる。ガリガリした感じのカメラワークも迫力満点。

そして凛はヒルコ一族を束ねるリーダー、如月に拾われ、能力を覚醒するまで鉄仮面をつけられる。杉本有美 タイトルになっているのはここなんだけど、割とその場面は短く終わってしまってしまうのよね。まあせいぜい「飲めない……」とペットボトル飲料をあおいでいるところに、佳恵がハイ!とストローを持って来るあたりが面白かったぐらい、かなあ。

この佳恵役の森田涼花嬢が一番可愛かったなあ。めっちゃ、ロリ顔でさ、しかも変身すると、顔の下半分がなんかゾウみたいになって、超絶ディープキッスを敵にかまし、それで窒息状態にさせるというタマラナイ?技を持ってる。
しかも両手がタコ足のようにブラーンと伸び、その手をズボッと男の股間に差し入れ、お尻を貫通してしまう!!!それをあの天使のようなロリ顔でニコニコしながらやっちゃうってんだから、そりゃー、男は昇天しちゃうでしょ!?
正直彼女に関しては美少女が陵辱される哀しい美しさ、なんてもんじゃなくて、もう相当ギャグ入ってんだけど、この開き直りさ加減がスバラシイんだよなあ!

って、思わず脱線してしまいましたが……で、どこまで行ったっけ?あ、そうそう、凛はね、同じ能力を持つ仲間たちと訓練を重ねながら能力を覚醒して、人間たちに攻撃を仕掛けることになるんだけど、次第に疑問を持ち始めるのね。
元々凛は、他の子たちよりずっと早く覚醒した。如月は、やはりあなたは特別だと喜んだ。凛はお父さんだけがヒルコで、人間のお母さんと恋をして仲間たちから裏切り者と呼ばれながら、一族と縁を切っていたのね。
人間の血が混じることで、他のヒルコとは違うパワーを身につけている凛を、自分の手の内にすることで、つまりは彼は世界征服をねらっていたんだろうなあ。

そんな如月を一途に慕い、彼が期待をかける凛を目のカタキにしている玲は、凛が人間とのハーフだと知ると、汚らしい、とはき捨て、凛が無意味な争いに異議を唱えると、これだから雑種は、とメチャメチャイヤな顔をする。
でも、最終的にはこの美少女三人が力を合わせて、私欲にまみれた如月に立ち向かうことになるのだ!

この如月を演じる坂口拓がキョーレツでさあ。私、彼はやはり「VERSUS」のイメージが強く、あの、どーにもオレサマな感じがぬぐえない北村監督の影を感じてしまっていたんだけれど、いつの間にやら彼も、井口監督同様かなり独自な道を(爆)。
彼が初監督した「魁!!男塾」は気になっていながらも見逃してしまったんだけれど、アクション一本道に邁進しているらしい彼は、まさに替えのきかないポジションに位置しているんだねえ。

思えばさ、ここに集められているヒルコたちは皆、女の子ばかりなのよ。巨乳からソード二本突き出したり、お尻からチェーンソーがバリバリ回転したりと、もうつまり、エロ前提だからさ(爆)。
お尻のチェーンソーなんて、バトルシーンはかなりやりづらそうで、不自然だし……ま、最終的に巨乳ソードとお尻チェーンソーが相打ちになって、チェーンソーが頭を割り、巨乳ソードが身体を貫くというシックスナインの姿勢ってのが、つまりあそこがオチになってるからこういうキャラ設定だったのかとも思うが(爆)。

ま、脱線したけど、ホント、女の子ばかりなんだよね。で、その子たちを束ねる如月は男性なんだけど……白塗りで真っ赤な口紅で、なんかモード系の和服スタイルで、アルフィーの高見沢さんを和風にしてオカマさんを混ぜたような、なんとも微妙に気色の悪いキャラなのよね。それがさ、坂口氏が割と端正な顔立ちの人だから、それなりに似合っちゃっているのが、更に気持ちが悪くて(爆)。
で、欲望が爆発する段に至っては、あの造形はマジ訳判らん……頭の上におっぱいしょって、そこから出る母乳攻撃?は強烈な酸かなんかなのか、足にかかると骨だけになっちゃったりして!

元から持ってる腹から出ている巨大な赤い舌は、しかしあまり力がなかったりして(爆)。あの赤い舌、刃物のような役割を持っているらしいんだけどさ、捕らえた人間の男たちを前に、勃起よろしくそそり立つも、直前でなえちゃったりして、あれはまさに、勃起が失敗した様だよなー!
思わず失笑してしまった男たちにキー!と逆上して、その自分の武器を使わずに、フツーに刀で振り下ろしちゃう……それじゃヒルコの意味がないじゃないじゃないですか……つまりこの如月は、実にヘタレな頭目な訳でさ、そのことに凛は気付いちゃうのだ。

如月が大きな標的としているのが、ヒルコを倒すマシンを開発して首相に取り入っている防衛省長官、小清水。演じるのが竹中直人で、もう彼が出るシーンはさらっちゃうのはマチガイナシでさあ!
正直、彼が出るとセットのチープさが殊更に判っちゃうんだけど(……だって、普段彼が出ているトコとやっぱ、違うんだもおん)、もう彼はそんなことおかまいナシ!
無意味に顔を引きつらせ、無意味に白目を向き、そして「あ、こんなところにカツ丼が!」と凛とのバトル途中でなぜか登場したカツ丼に心奪われ、しかし頭をカチ割られて血を吐き「せっかくのカツ丼が血まみれにー!!」いやいや、そういう問題じゃねーだろ!
しかも頭をカチ割られる直前、カツ丼のふたを嬉しそうに開けている時「中央線のね、高田馬場……」とか意味不明なことを口ずさむあたりもメッチャ竹中直人的でサイコー!

正直このシーンは完ッ全に竹中直人に食われてたよなあ……いや、このシーンに登場する、そのくだんの対ヒルコマシーンである雷電も面白いのよ。制作はあの(あの!)吉田ひでお氏!
てか、マシンっていいながら、めちゃめちゃ人間に銀粉塗っただけじゃないスかー!!!まあ一応、かぶりもの的なものは身にまとってるけど、凛に発射するコードの巻きつき方といい、ユルすぎる……いやいや、勿論確信犯であることは判っているのですよ!!!

それを思うと、人間との戦いはむしろ前フリであり、ヒルコ同士の壮絶な戦いの方が迫力があったのよね。
先述した巨乳ソードとお尻チェーンソーは勿論、如月が密かに開発していたキリストのようなカッコ(腰に布を巻きつけただけ)の中性的な少女が繰り出す、自傷攻撃(カッターで切りつけた手首や足を遠隔攻撃させる!!)は、武器に侵食された美少女たちとは違う、自滅に向かう圧倒的なマイナスパワー。
妙に唇の厚いインパクトのある顔立ちといい、その薄いおっぱいといい、女の子の匂いと言うより、ホント、死に瀕したキリストのような、凄まじいインパクトがあったなあ。

思えばキリストは処女懐妊で生まれたという時点で“かたわ”なのかもしれず、だからこそ、男性であるというのはカタチだけなのかもしれない。神であるっていうのは、やはり中性的であるべきだよね。
ヒルコが不具であるというのも、だからこそ神の中でも熱狂的な人気がある、つまり弱者(女も含め、ね。今はそうじゃないことを祈るけど)にとって、自分たちの気持ちが判るから、ってことなんだよね。
まあ、結局そうじゃないから……神も男だっていう認識から差別が起き、争いが起こる訳だけれど……。なんかそれをね、本作はいきなり茶化してくれた気がして、痛快だったんだなあ。

そして、如月に心酔していた玲を説得し、佳恵と共に彼を倒す。玲役の高山侑子の、クールながらも女の子の気持ちを捨てきれないアンバラスさも良かったなあ。
天使を思わせる白い戦闘スーツに身を包む彼女たちは、スウィートさとハードさをほどよく持ち合わせて、血まみれも、臓物まみれも、キャーとか叫ばず、ストイックで、スウィートさもしたたかで、とてもステキだった。

街の人々とのバトルの中でも、パン職人夫婦とのそれは超残酷ながらも大爆笑!てか、あまりに残酷すぎて笑ってOKなのかすら悩む!
血まみれの凛が乱入してきても怯えるどころか、私のパンをー!!と激怒し(それどころじゃないでしょーが!)ふん!とばかりに夫婦そろって型をキメる。
しかしそれは……夫が妻をヌンチャクよろしく身体の周りで振り回すだけで、いや確かにそれはスゴいとは思うが、凛がキン、キンとそれに合わせて鉄の爪を振りおろせば、鮮血が飛び散ってだんだん妻の体が小さくなっていき(!!!)ふと気づいたら……「妻が大好きなフランスパンにー!!!」

いやいやいや!……巨大なフランスパン型血まみれ奥さんの胴体を抱えて夫が絶叫って!
この台詞にはフリがあって、彼女がパンに並々ならぬ愛情を注ぎ「おまえは本当にパンが好きだな!」と夫が訳の判らんラブラブ突っ込みをするというところから始まっているのだが……のだが……もはや胴体というより内臓の状態にまでそがれてしまうって……笑えん!と思いながら笑ってしまう自分がコワすぎる!!! ★★★☆☆


トップに戻る