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セブンティーン、北杜 夏
2017年 71分 日本 カラー
監督:冨樫森 脚本:公文辰也
撮影:鈴木周一郎 音楽:石塚徹
出演:堀春菜 本間淳志 斎藤歩 角替和枝 大寶智子 関めぐみ 岩瀬亮 寺田農 後東ようこ 太田唯 キム・セイル 渡辺樹里 柳内佑介 森羅万象
主人公の二人は二人とも、新人さんなのだという。ヒロインの女の子はなんたってセブンティーン、なのだから新人さんはおかしくはないが、彼女を助けるオッサンと呼ばれる青年(せいぜい30そこそこでオッサンとは……いくら高校生の時でも、そんな風には思ってなかったけどなあ)が新人さんというのにはちょっと驚く。
今はいろんな方面から役者さんが誕生するもんだと思う。富樫監督が作品を発表する場である映画24区というところは、こういう様々があって、なんだか面白い。
しかしヒロインの子はあんまり可愛くなかったけどね(爆)。ある意味珍しい気がする。17歳の女子高生、主役、で美少女じゃないというのも(失礼……)。
まるでかつての大林映画を思わせるような、元気いっぱい、猪突猛進な女の子像に、時々、うわーっ、ハズカシー!!と絶叫しそうになる(爆)。こんな芝居をよくつけたなと(爆)。決して繊細な演技を要求できるタイプの子じゃないし、ホント今時珍しいよなあ、と思う。いや、クサしてる訳じゃないが(爆爆)。
ヒロイン、川口彩未は17歳。家は豆腐屋をいとなんでいる。この北杜は太郎水と呼ばれる湧水のある地なんである。豆腐も当然そうだし、物語の大きな舞台となる酒造会社だって、その水の恩恵を受けている。それだけじゃなく、市民に広く還元されている、なんとも贅沢な地なんである。
その水を、その酒造会社、杉田酒造の新社長が独り占めして海外展開してボロもうけしようとたくらんでいる。独り占め、ボロもうけ、ってあたりが、ちょっとね、先述したような、判りやすい子供向け作劇の大人の悪役像のように感じるんである。
彩未が配達を頼まれる場面から物語は動き出す。届けた先がその杉田酒造。彩未をご指名だというんである。杉田のじいちゃんと呼ばれるそこの老社長がまさに、今救急車で運ばれるところ。
その後新社長に就任する鈴木から手渡された、豆腐の代金とは思えぬ万札入った封筒には別に、遺言書が入っていた、のだよね、後から思えば。鈴木に悪用されるのを阻止するために、水源の相続人を赤の他人である彩未に託した遺言書。しっかし危ないよなー、この時鈴木が中をあらためたら最後だったやんか。そーゆーところが子供向けっぽいと感じるような甘さなのだよな……。
彩未は映画の冒頭で片思いの相手に、好きでっす!付き合ってください!!と朝っぱらから元気いっぱい告白して無視されてしまうという、まー、ほっぺたが赤くなるような勢いのある女の子なんである。
その後、弓道部の練習中に友人から、「またフラれたって?これで四連敗!」とからかわれるところから見ると、この友人の言うとおりまだまだ恋に恋する女の子、ちょいとホレっぽいところがあるのかも、しれない。結果的にあのオッサンに恋しちゃうのもその延長線上ではあるのだが。
鈴木が突然、彩未の登校するところに押しかけてくる。遺言書を持ってないかと、言うんである。自分に相続させてもらえなければ、海外提携も準備した大事業がおじゃんになってしまう。
杉田社長は鈴木の黒い腹に晩年ようやく気付いて、遺言書を書き換え、きっとあの日、彩未に直接渡すつもりだったのだろう。彩未が持っていると確信しているが、まだ彼女は気づいていない段階で、鈴木は校門前で強引に彼女を拉致しようとする。
乱暴だなー、こんなこと学校の敷地でやったら、フツーに通報されるだろ。生徒が遠巻きに見てすらいない、というあたりの作劇の貧困さがかなーり、気になる。だから子供番組っぽいと思ってしまうのよ(しつこい)。
そこへ実に都合よく飛び込んできたのが、彩未が配達から引き返す途中に大衝突してしまった藤本であり、彼はかつて杉田酒造の従業員だった過去があるんである。
後に元カノである地元テレビのレポーター、美夏によると、杉田酒造を辞めた後は杉田社長の世話によって豆腐作りにも従事していたという。しかしなんでも長く続かない彼は、今もその通り、風来坊ってな感じである。
杉田社長の死後、鈴木の強硬な独占に怒る藤本。葬式の席で、古株っぽい従業員が鈴木から遺言書のありかを責め立てられ、ヤクザを使って滅多打ちにされたのを目撃したからなのであった。
しかしさ、もうこの時点で恐喝、暴行、なのだからフツーに通報すれば……と思っちゃうのがまたイタい訳。だって通報できない理由はないでしょ。痛い腹はあっちにしかなくて、こちら側には全くない筈なんだからさ。だからそういうところがね……(もういいって)。
なんてな訳で、藤本は彩未を守るような役割になるんである。遺言書の存在に気付いた(気づくの、遅っ!)彩未は、なぜ自分にといぶかしがる。藤本は、おまわりさんに届けなさいと、子供を諭すように彼女を交番の前に送り届ける。
ここで届けてた方が話も早いと思ったが、そこに友人が合流してラーメン食べちゃう。イヤーな予感がしたら案の定、ラーメン屋のテレビで杉田酒造の新事業が発表される。黙っていられなくなった彩未は、友人もバッグも支払いも(爆)残して、遺言書をたもとに入れたまま店を飛び出すんである。
鈴木と刺し違える覚悟で記者会見会場をウロウロしていた藤本の制止も振り切って、会見に乗り込んでしまう。「この人は間違っています!私が遺言書で正式な相続人にされてます!!」
生中継されているその映像に、昼ご飯を食べながらテレビを見ていた彩未の母はブー!と噴き出す。祖母は何故か心得顔で、「孫の代まで、面倒かけるねえ」とつぶやき、かなたを見上げるんである。
なぜ、赤の他人である彩未に相続されたのか。後に明かされるところによると、彩未の祖母にホレてフラれて、そのまま独身で通して身寄りのないまま大きな会社を経営していたから、こんなお家騒動になった訳で。つまり彼は、実に50年、片思いを続けていた、訳なんである!!
えー、角替さん、そんなおばあちゃんじゃないよねと思うが……でももう、そういうお年、なのかなあ。きれいなシルバーの髪で可愛らしくも元気闊達、ヤクザに豆腐包丁を向けて啖呵を切るおばあちゃんは、確かにその血を娘につないでいる感がするのだよなあ。
この会見場で、彩未が踊り込んでくる前に既に、ズバリ核心に斬り込む質問をしていたのが美夏。関めぐみ、ああ、なんとまあ、イイ女になっちゃって!その美しいストレートヘアーは変わらずそのまま、スレンダーなパンツスタイル、細い手首に光る腕時計、なんともはや、デキるイイ女、なんである。
肩書はテレビレポーターになってるけど、キャスターと言ってもいいんじゃないかと思う、切れ味鋭い彼女は、会見に踊り込んできた彩未をたかが女子高生のたわごとと一蹴しようとする鈴木に、ズバリ、ズバリと斬り込んでいくんである。いやー、カッコイイ関めぐみである。
実は藤本の元カノである彼女に、助けてくれた感謝とカッコ良さに惹かれつつも、何かモヤモヤとしている様が隠せないのを、美夏は見事に見通して、からかっちゃう。あんな男にホレちゃだめだよ、とか言って。
鈴木の仕向けるヤクザから逃れるために、藤本と彩未は夜の学校に忍び込む。彩未が「正面から向き合いなよ」と強引に豆腐作りをやらせるんである。杉田社長が可愛がっていた藤本に豆腐作りをやらせたのは当然、彩未の祖母にホレていたからってことなんだろうが、この時にはイマイチピンと来ていなかったからなあ。
あ、そうそう、その事実が明かされた時、彩未の母が「なんで!玉の輿に乗れたのに」と驚いたのに対して、「だって、ウチのお父さんの方にホレてたんだもん」と言ってのける角替さんのカワイさ、カッコ良さにはズドーン!ときちゃうんであった。お母さんも、そうかぁ……と天を仰ぐ。だってだからこそ今自分はここにいて、彩未もここにいるのだからさ!
で、この夜の調理実習室、それまでは美夏や友人からからかわれても、藤本はただのオッサンだからと否定し続けていた彩未だけれど、すげー迫っちゃう。そしてやたら暴れまわる(爆)。ティーンの情緒不安定というには突然の不条理な感情の爆発である。まぁ正直、この辺にもちょーっと脚本の弱さは感じるかなあ。
その彩未の勢いに押されるように、藤本は鈴木との対決を決意する。それまではどこまでもついていったすっぽんのようにしつこい彩未だったのに、この時は、決意を秘めてどこかに行ってしまう藤本を、まるで子供の様なべそかき顔で追いかけられずに見送ってしまう。
んで、なぜ、鈴木と落ち合う場所が判ったのだろー、あんな何にもないような、草原と木々の場所に、ちょっとまったー!!みたいにさ、ど、どうなの(汗)。
鈴木は海外資本提携者から、あの子を消すのが手っ取り早いだろ、とナイフを手渡されていた。そ、そんな乱暴な、つーか、なんと幼稚な手段(爆)。
そりゃ“年間行方不明者がどれだけいるか”ってのはその通りだが、こんな渦中で彩未が“行方不明”になったら、当然疑われるのは鈴木だろ……それでなくても世間の逆風によって事態が進展しないのに、これはないやなー、だから子供番組の……(もういいか)。
そのナイフによって藤本は負傷する。そこへ駆けつけた彩未がなんとまあ、弓道の防具を身に着けて弓を携えて来たことにはアゼンとする。イヤイヤイヤ!藤本への想いが跳ね返される形で泣きながら道場に入っていった彩未だったが、まさかこんな行動をとるとは。
そしてへたっくそな彩未がこの一番に見事な腕前を見せて、鈴木が腰が引けて逃げ出す、っていうのも、そ、そんな簡単な。だって目の前の木に刺さっただけじゃん。確かに見事だったけど、他に矢は持ってきてないしさ(爆)。
鈴木は逮捕され、事態は収束する。彩未がどこかウキウキと藤本を見舞いに訪れると、もうベッドはカラである。美夏が言ったように、彼はひとところにとどまる男ではないのだろう。ふっと、いなくなってしまう。
それまでは、恋に恋する少女、でもそこで彼女は、確かにひとつ、大人の階段を上ったのかもしれない。皆がつまらないギャグで大笑いして写真におさまった中で、一人神妙な顔をしている彩未は、その長かった髪をボブ程度に切りそろえている。それでちょっと顔が大きく見えちゃってザンネンなんだけどね(爆)。★★☆☆☆
とさらりと思うこっちを見透かすように、実録風を装いながら、完璧にエンタテインメントを目指す、いい意味でのフザけ加減がすっきりと風通しよく映る。
ほほぉ、とっても若い監督さんをまさに抜擢した、製作サイドの打って出る気概が感じられる企画という訳。いいねいいね。そーゆーの好きよ。才能は年齢には関係ないもんね!当然!!
しかして、年若い監督さんだが、なんとなく懐かしいというか、昭和のエンタメ暴力映画のような雰囲気を感じたのは、そのポスターをいかにもな日活アクション風に仕立て上げていたのを目にしてしまったからなのかしらん。でもこの頭の悪い一家のバカさ加減をドーッ!と勢いだけで(いい意味でね!)見せ切っていく感じ、ヤボくささ泥臭さが昭和っぽい感じがしたんだよなあ。
やたらとスタイリッシュという言葉だけで片付けちゃうような昨今の暴力映画とは違って、確かにメッチャ残酷描写満載なんだけど、クスリクスリと笑って観ちゃうの。
座席がねー、すんごい見にくくて、スクリーンひし形(爆)。それでなくてもかなりカッティングがアグレッシブだから、今何が起こっているのかと一生懸命ついていく感じだった。ああ年寄り(爆)。
ところでこれが間宮君の初主演になるの?おまグンより先だったのか、あれはドラマ扱いなのだろーか。おまグンはちょっとスベった感じだったので、本作の間宮君は、バッチリなんである。
彼はこういう、ハードでちょっと横にそれていて、壊れていく美しき肉体を持つ男が、もうもう、バッチリ似合い過ぎなんである。こーゆー役者さんは案外お目にかかれない。イケメン(も乱発しすぎだが)かそうじゃないかのどちらかって感じだから。
彼はとても端正な顔立ちなんだけど、狂気が似合う、似合い過ぎるのよねー。そしてそれが自分で支えきれなくて破滅に向かう愚かさが似合う、似合い過ぎるのよねー。ほぉんとに、こういう役者さんは案外いないと思う。端正なお顔をしていてインディーズが似合うのよ。
で、家族全員死刑になった、凶悪連続殺人の話なのだが、まー、なんていうか、動機も経過も結末もお粗末、ただただおバカなヤクザ一家の物語、っていうのが何より本作の大きな前提であって。
ヤクザ一家、なんだよね?ものすごい訛りで展開していくから(福岡なの?遠州とかかと思った……)よく話が把握できなくて(爆爆)。
間宮君演じる次男のタカノリは、もう物語冒頭に「跡取りだけん、男になってほしいら」という両親の身勝手な指示によって身代わり出頭。てか、長男が「自分は少年院にいたから、ここで出頭したらどうなるか……」とか拒んで、もう弟が後に引けないって感じになっちゃう訳。
このお兄ちゃん、サトシは万事こんな調子で、お兄ちゃんの威厳と弟想いっつーキャラをかさにして、弟のタカノリに全部おっかぶせさぁ。つまり、この次男君は最終的にすべての実行犯になっちゃう訳で、家族全員死刑になったとはいえ、一番分が悪い、気の毒なヤツなんだよな。まぁバカだからそうなっちゃったんだけど(爆)。
見事なチンピラフェイスのサトシを演じる毎熊氏は、言われてみれば「ケンとカズ」の彼かぁ!とピンとくる。映画自体はかなり??だったが、ピンとくるほど、役者は印象が強かった。あの時もまさにのチンピラフェイスでスクリーンを焼きつけていたなあ(爆)。
「俺、父親になるんだけん」という理由で殺人の手を染めるのを弟に押し付ける場面にはアゼン!でもそれを受けてタカノリが「それ、俺が父親かもしれんて」と言うのにもアゼン!「バカ、お前の女はカオリだろうが」と受けるサトシ、弟の台詞の真意が判ってないバカさにアゼン!!
いや……ここはさらっとスルーしちゃったから実際どーゆー意味だったのか……え??私の聴き間違いじゃないよねーっ??
このヤクザ一家はとにかくビンボーなんである。男になって戻って来た筈のタカノリが直面したのは、上納金もままならぬ借金まみれの家族の姿、なんである。
舎弟である筈の兄弟のいる一家から、金を借りており、両親はこいつらを殺して金庫の中にある何千万もの金を盗もうと計画する。金庫の中に何千万も金をおいたりせんだろと、フツーの感覚を持ってれば判るもんである。大体どこからその情報を得たのかも不明なんである。
会話から察するに、サトシとタカノリの兄弟は血がつながってない、らしい。そこが、この傍若無人お兄ちゃんがワガママを言う基盤になっているのか。
その割には年若い母親のナオミは、このお兄ちゃんこそを溺愛しているようにも見える。感情の起伏が激しすぎるナオミお母ちゃんこそが、キーマンというか、爆弾女、なんである。どーやら金を借りていた家族の次男(かなーり、若い。学生さんみたい)とヤッてたらしいし。おいおいおいー。
そしてお父さんは六平さん。ああ、ビンボーなヤクザが凄く似合う(爆)。金庫の中の何千万っつー、あやふやな情報を強いれたのもこのアホなお父さんなんだろう、そして一家皆殺しして、「いつかギラギラする日みたいに車を沈めて」なんて考えたのもそうなんだろう。バカ、バカ、バカだなー!!
最終的に全員ぶっ殺して家探しして、何にも出てこなくて、肩を落として何にもない、何にもない……とつぶやくこのお父さんにはアゼン呆然とするしかないのだ。そして銃で自殺未遂をするも、それは頭蓋骨をぐるっと回って命をとりとめちゃう、実際に事実だってんだから、ホントにアゼンさ!!
タカノリには、カオリという恋人がいる。こんなおバカさんを、だから心配して、始終怒っている美少女である。全身キッツいタトゥーを入れたタカノリ(間宮君、超似合う……)とのカラミは、いや、女の子のハダカは拝めないが(爆)、彼のごつい身体なのに、彼女の方の上位加減が垣間見えて萌え萌えなんである。
タカノリが兄、いや、家族全員からムチャぶりをされて右往左往している間に、カオリはプリプリ怒りながらもけなげに待っているんである。そしてその待っている場所に、小人症の友人が、なんのことでか(言ってたと思うけど、聞き取れなかった(爆))全身包帯姿で寝たきりになってて、言ってることも字幕にされるほど(苦笑)かなりな扱い。
こーゆーあたりもかなりのチャレンジングだと思う。好き好き、こーゆーの好きよ。それでなくても日本はハンディキャップを隠し、出す時には感動ポルノ。こーゆー、フリークス的な挑戦的な不遜な(いい意味でのね!しつこいけど)大好きよ!マメ山田以外で、そして若い小人症の役者さんを見るのは初めてだなあ。
フツーの仲間として、でもちゃんと(だからいい意味でね!!しつこい)イロモノ的扱いで笑いをとり、物語を動かしていく。いいねいいね、こーゆーの好きよ!!カオリとエロい感じになるの、イイよイイよ!全身包帯だらけの小人症の男の子に、ヒマと怒りを持て余した女の子がのしかかっていく、なんて、なんてアブなくてステキなのっ。
それに嫉妬するヒマもなく、自分勝手な家族たちにすっかり実行犯にされまくっていくタカノリが、愛と絆を胸に刻みながら、恋人に謝りまくりながら、泥沼に落ち込んでいく彼が、気の毒でたまらない。
正直何でか判らないが、この愚行を彼は、恋人への愛と家族の絆のためと、心に刻んでいるのだ。後者に関してはヤクザ一家への忠誠という、どこか洗脳めいたものがあるから判らなくもないが、この連続殺人が彼女への愛のためというのは、その思想は、追い詰められているというよりただ単にバカなのだとしか思えず(爆)、最後の最後に、冗談めかして兄に銃を突きつけるタカノリが、いやそれ、本気だったんでしょと思って、……哀しいんだよなあ。
そうそう、先述したような、私みたいなバカな観客向けなのでもなかろーが、その愛と絆をもとに展開を解説する説明文が、折々に差し挟まれる訳よ。おかげでなんとか物語についていけたという部分はあるし(恥)、その夜露死苦!的な字面も昭和的で楽しかったが、ちょっと勢いをそがれた感はあったかなあ。
それこそ、作劇だけではムリがあって、説明のために挿入している、という感じがした。勢いこそが魅力だったんだもの。判んなくてもいいから突っ走る!!みたいなさ。
殺される一家の奥さん、なんとまぁ、鳥居みゆき!こんな強烈なキャラクターをスクリーンで見ることになるとは、思わなかった!ザ・鳥居みゆきよ。そのまま!強烈!!
女くさくてがめつくて、なかなか死ななくて、最高!あんな怪しげなカラフルふりかけに気づかずに、相手が出してきた貧乏くさい弁当食べるなんて、あり得ないだろ!!
そう、なかなか死なないんだよね……。最終的にこの母親と長男と、巻き込まれた友人を一度に殺しちゃう場面……いや、その前にサトシ兄ちゃんが両親にいいとこ見せたくてフライングして次男を殺しちゃった……タカノリに殺させた時もなかなか、死ななかった。
首を絞めて絞めて……。胸でぜろぜろ息しているのをのぞき込んで、まだ生きてるな、と言って、アイスピックで心臓を刺す。あぁ、もう……。基本的に残酷ながらもおバカ家族のコメディと思うのだが、それだけにスマートに殺せない(とゆーのもヘンな表現だが)ゆえの見てられない残酷さが、実はそーゆーとこもクリエイターとして見せたい部分なのかなっ、と思ったりして。
いやー、いいよいいよ、間宮君。大人しくイケメン枠に収まらず、若い才能、刺激的な企画にどんどん呼ばれてほしい才能。★★★☆☆
いや、そんなことはどーでもいい。このヘンリ・ミトワという奇妙キテレツな人物なんである。奇妙キテレツなんて思うのは、晩年の彼の断片的ドキュメンタリーにおける姿と、彼を証言する、特に忌み嫌っている次女の言葉から思うことなんだけれど。
本作は細かいチャプターに分かれてそれぞれにテーマとなるタイトルが付され、更にドキュメンタリー映像とヘンリ氏の青年時代を描くドラマ部分とか入れ子構造となっている。それはほぼ半々といったところである。
2時間ちょっとの尺でそうなのだから、ドキュメンタリーの部分は決して多くはない。正直言えば、もう少しこの奇人、ヘンリ・ミトワが日常何をやっているのか、何を考えているのか、禅僧としてどういう生活を送っているのか、もっと突っ込んで見たかったようにも思う。
物理的に、出来なかったのかもしれない、という雰囲気も漂う。主人公なのになんと、ヘンリ氏は後半、その天寿を全うしてしまうんである。そしてその後半は撮影隊との関係もあまりよくなくて、彼の回想録を撮りたいのに、ヘンリ氏はまさに気難しい老人のワガママと化してしまって、むくれまくってしまうんである。
このあたりは確かにドキュメンタリーの面白さでもあり、家族との関係もケンアクになるのをつぶさに見せるのも面白いのだけれど、ヘンリ・ミトワという人を突っ込んで見たいと思うから、ちょっと物足りない気持ちもある。
少し、構成が分裂気味な気持ちもするんだよね。ドラマ部分とドキュメンタリー部分が、というより、ヘンリ氏が情熱を燃やした、赤い靴はいてた女の子の映画製作に関して。
ヘンリ氏はかつて舛田利雄監督の「動天」という映画に参加して、映画製作の夢に目覚めた。デジタルカメラを携えてドキュメンタリー“映画”を撮っている、自分の孫ほどの年(よりもっと、若いかもしれない)の監督に、映画はフィルムじゃなきゃあかん、とあやしげな関西弁で薫陶をたれる。
自身は一度も映画を撮ってないのに……などとも思うが、そのレトロなフィルムカメラは、愛する家族の日常を刻んできたものなのだ。ヘンリ氏の父親が映画会社に勤めていたということもあるのかもしれないが、なんていうか、勝手なイメージで、ああアメリカやなぁ、と思うのだ。アメリカの、平和な家族にきっとある、こんな幸せなフィルムの数々。
いやでも……それは、ただ断片を切り取ったに過ぎない。まさに、ヘンリ氏の晩年を一瞬切り取られたにすぎないように、そこに真実など実は、ありはしないのだ。
お人形のように大事に育てられたという次女がフィルムの中では愛そのものしか知らないように育っているのに、今現在の彼女は、亡くなってしまってもなお、父親を深く憎んでいる。憎しみは愛情の裏返しだとも思うが、そう簡単に言ってしまうのもはばかられるほど、彼女の言葉は厳しい。
映画が幻であるように、現実の幸せのように錯覚してしまう家族フィルムもまた、幻に過ぎない。
若干脱線したけれども(爆)、赤い靴はいてた女の子の映画製作への情熱は、それこそ一本の映画になりうるほどの話だったので、これだけに焦点を当てたら良かったんじゃん、何もドラマパートまで作って彼の人生を回想せんでも、こんな有名俳優集めちゃったら、そっちがメインにどうしてもなっちゃうじゃん、という歯がゆさを感じてしまったのであった。
ただ劇中、ヘンリ氏に過去を回想してもらおうとするのが先述のように老人性ワガママ??で失敗に終わっているのを見ると、ひょっとしてやむを得ない選択だったのかも……などと勝手な想像をしたりするんである。
映画ファンとしてひどく自戒してしまうが、一本の映画を企画し、資金を集め、制作するというのがどれだけ大変なことか、それなのに得手勝手な文句ばかりつけて、ああごめんなさい!!
……でもそれだけ、映画というのは特別なものなのだ。言ってしまえば、“映画”として作られてしまえば、映画史の一端には、残るものなのだもの。
本作は、赤い靴伝説(と言っていいよね。ただひとつの童謡に過ぎなかったのが、様々な都市伝説が生まれたのだから)を検証しながら、ヘンリ氏がなぜそれに魅せられたのかに肉薄していく。
こんなに各地に赤い靴はいてた女の子の銅像があるとは知らなかった。観光事業=もうかるってな、目配せをめっちゃ感じちゃうなあと苦笑せざるを得ない。
横浜にあるのはまあ判るにしても、北海道にもあるってのは、知らなかった。モデルではないかと言われた実在の女の子が、北海道にいたからだという。
でも、異人さんに連れられて、船には乗ってないのだ。ヘンリ氏はその謎とき自体にはさほど興味がないというか、世の定説に合致しなくなったら特に頓着せず、自分だけの物語に落とし込んでいく。それは自身が異邦人だったこともあり、母親と引き離される物語に自らの母への想いを重ねたのであり。
彼自身は別に、母親と引き離された訳ではなく、自らアメリカへと渡ったんである。このあたりはドラマパートのウエンツ君と母親役の余さんがシリアスな演技で見せてくれる。あ、お兄ちゃん役のチャド・マレーンも良かった!
日本でもアメリカでも敵性外国人とかスパイだとか目されて、居心地がすこぶるよくないヘンリ青年。いや、アメリカに行けば、その息苦しさから解放されるんじゃないかって、思っていた。
日本で生まれ育ったのに、その白い肌と青い目で、特高警察から追い回される日々。彼が得意とする手先の器用さでラジオを作る会社で働いていたのも良くなかった。
闇ドルを取引する男と接触し、危ない橋を渡って渡航費用を手に入れてアメリカに渡っても、事態は同じだった。激しく差別されていた日系人は、強制収容所にぶち込まれる。戦争が終結するまで、何年もの間、自由を奪われた。
日本ではアメリカ人、アメリカでは日本人と思われるのだ。こういう時代だから仕方なかったというのは簡単だが、次第に自分のアイデンティティをどこに置けばいいのか混乱し、疲弊していくヘンリ氏の足跡を見るにつけ、こういう境遇を想像も出来ない自分に、苛立ちさえ感じてしまう。
彼らの子供たちはその点はあまり悩んでいるようには見えない。いや、無論、この勝手気ままな父親に翻弄されて、アメリカだ日本だと振り回されたのだから大変だったに違いないのだが。強制収容所の中で産まれたということさえ、彼らの記憶にないとなるとそういうことになるのか。
特に次女は、私はアメリカに残りたかったとハッキリと口にする。
長男は米軍に従事していた関係上日本に渡ることはなく、劇中、三人のきょうだいたちの中で唯一、英語しか喋らないのが妙に印象に残るんである。長男は、自分に日本のルーツがあることをあまり自覚していないように感じるというか。
長女は最も厳しい状況に置かれたと思しき、いきなりアメリカから単身、日本の女子高校に転校させられ、高校生活の印象はほとんどない、と述懐するんである。
仏教に帰依し、茶道に深く傾倒した父親を助け、そのまま茶道の仕事についた彼女は、どうやら独身……?苗字はそのままだし、生活感がない、というか……。
長女はスラリとしてカッコイイけど、でっぷりと太って父親への文句ばかりタラタラ言う次女より幸せかというのなら、それは、判らないなあ……幸せなんて、単純な定義で人生ははかれないけど……。
自分は専業主婦だから、時間があるから、と自嘲気味に言いながら年老いた両親の面倒を見ているのは次女なんである。なのに、というか、だからこそ、というべきか、衝突するのが、なんとも哀しいんである。愛憎は表裏一体、本当にそう思う。
ヘンリ氏が後年突然情熱を傾けた映画製作のごたごたにも、当然家族は巻き込まれている訳だが、その文句は次女からしか出ないし、実際どんなふうに巻き込まれたかもよく判らないのはちょっともどかしいかな、と思う。本作の分裂感は、そういうところなんだよな、と思う。
タイトルは禅と骨。禅は当然、禅宗の禅だが、骨は、なんつーか、本当に、そのまんま、即物的な?それとして、特にラストシークエンスに印象的に結実されるんである。
ヘンリ氏は実に多趣味な人で、仏教さえもその一つであったんじゃないかと思うぐらい。絵を描くことも得意で、これは単にスケベ心ちゃうんと思う裸婦画が無数に出てくる。
茶道、華道、焼き物、そして当然、映画。まるでそれにつながるように、コレクターのひとつでもあるかのように、狭い自室に集められた家族、縁戚たちの遺骨。
自分が死ぬ時には一つにまとめてほしいというのは彼自身の肉声で残されたことではあったが、実際に本作の完成を待たずに彼が亡くなり、その遺志が叶えられることになると、まあこれが、なんとまあ、ざっくりとした……。
ヘンリ氏の遺体や、荼毘に付された遺骨までもが赤裸々に映し出されるから、その先のそんな描写にはもはや驚かなくなってはいるものの、ざらざらと全ての粉っぽい遺骨が一緒にされちゃうのにはさ!
アメリカの遺骨の収められた箱が日本とは形式が違い、開けるのに苦労するとか、なんか、はーやれやれ、みたいな感慨のなさに衝撃を受けるのだ。ザッ、ザッ、ザーーーッ!!みたいな。
ああ、死んでしまえばそんなもの。いくら朝晩手を合わせた遺骨でも、ザザザーッ!てなもんよ。死んだらそれまでよ、なのよ。
「ヨコハマメリー」の監督さんなんだよね。スリリングなフィクショナルな感じが、あの時もそうだった、感じがする。本当は、もっともっとミトワ氏に迫ってほしかったけれど。
彼が亡くなった後の尺もかなりのものがある。長女が自分が産まれた場所を訪ねていくとか。でもそれって、なんつーか、NHKのドキュメンタリーぽいというか(爆)。
このキテレツな人に興味を持っただけに、なんていうか、もどかしい。でもそれこそが、何が起こるか判らないドキュメンタリー、主人公が死んじゃうことだってあるだなんて、ドキュメンタリーでしか起こらない。★★★☆☆