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多淫OL 朝まで抜かないで
2000年 63分 日本 カラー
監督:女池充 脚本:西田直子
撮影:伊藤寛 音楽:東佳樹
出演: 佐々木ユメカ 川瀬陽太 松島めぐり 河村栞 松原正隆 田中愛理
ピンクだからタイトルはほぼ意味ないのはそうなのだけれど、OL、という側面は冒頭の一瞬、塔子がオフィスでパソコンに向かっていたり、上司に書類を説明していたりの、本当にほんの一瞬だった。
かつての恋人、茂が彼女の会社の前の横断歩道の向こうで、立っていた。立ち尽くしていた。雨の日だった。傘を持っていない塔子は駆けだそうとして……彼に気が付き立ちすくみ、近寄ってきた彼に傘をさしかけられたのが、さしかけられてしまったのが、もう答えだったのだった。
自分との結婚から逃げ出した恋人なのだから、踵を返してもいい筈だった。今は同棲している恋人がいるのだから、なおさら。
OLという側面は、でも確かにその後、茂に向かって、会社に来ないでという台詞が繰り出されることからもそれなりには有効だけれど、同僚や上司にバレているとかいう描写はないし、塔子はただただ、茂に溺れていくのが怖くて、自分が勤め人という立場を弱々しく盾にしているだけだったのかもしれない。
塔子は同棲している恋人、芳久に女がいることは気づいていなかったけれど(それは後に、その女、恵子からの電話によって知ることになるから明らか)、でも、お互い、それなりに妥協している関係性だということは、判っていたんだろうと思う。
それは決して、悪いことじゃない。すべてが話し合えて、判り合えるのなら最高だけれど、そうもいかない。お互い、なんとなく飲み込んで、秘密の部分も目をつぶっていられるのなら、それはそれで、いい関係を築けるだろうと思う。
でも、それを他者から暴露されてしまったら。つまりそれは、その他者を、彼や彼女が、言い方悪いけど、なめてかかっていたということだ。
特に、恵子を芳久は、なめてかかっていた。束縛されるのがお前はキライなんだろ、と判ったように言いくさり、これからも俺たちこんな関係なんだろうな、だなどと断定しやがった。恵子からの問いに対して、あいつと結婚してやらなきゃ可哀想だなどとほざきやがった時点で、マジでこいつ死ねと思ったが、まだそんな台詞が男の口から出る時代なんだという懐かしさも感じたりした。
今なら絶対に考えられない。今なら、と言ったが、2000年代に突入し、ほんの20年ほどで、本当に、その価値観は大きく変わったと思う。変わったとは思うけれど、それでも急速に変わったから、今でもそう思っている男子はいるんだろうなぁ……。
塔子を演じるのが見た目もマニッシュでカッコイイユメカさんだから、余計になんでなんで?と、フェミニズム野郎の私は歯噛みしてしまうのだ。別にさ、カッコイイ女一人で生きていってほしいなんて言わないよ。イイ女なんだから、仕事にも、生き方にも、彼氏にも、フリーダムが似合ってるよ。
同棲相手の彼氏から、実家に一緒に帰らないかと言われて涙ぐむなんて、ちゃんとプロポーズの言葉を言ってほしいだなんて、まるで半世紀前のメロドラマみたい。ショートヘアでパンツスーツが似合うカッコイイ、OLなんて甘ったるい呼び方では言いたくない、一人生きている会社員として、素敵だと思うのに。
なんか、もやもやというか、いらだつ気持ちがあるのは、私がやっぱり、カッコイイ女子を求めるフェミニズム野郎だからなんだろうなぁ……。だって見た目はカッコイイ女、勤め人女性、なんだもの。同棲している芳久からは、てゆーか、彼が外の女、恵子にカッコつけて語って聞かせる塔子は、尽くす女なんだというのが、どうにも解せないんだもの。せいぜい食事を作ったり、気をきかせてサッカーの試合を録画したりの程度の描写しかなかったと思うのだが……。
確かに、食事を作る、っていうのは、昔の恋人と再会してやはりそういう場面があって、お前の作った食事、久しぶりだな、と言い、微笑み合うシーンなぞがあるんだけれど、ホント、ないわ、と思って。
今なら多分……ないと思う。いや、あってもいいんだけれど、この当時のこの感じ、最後の時代だからなのか、めちゃくちゃ記号的で、女が男に尽くすのは食事を作る、っていうのが判りやすく記号的で、だから……最後の消えかかった男女関係というか、結婚という決着がキーワードとなっていると余計にそれを感じてしまう。
ほんっとうにサイテーな契約要素だと思うし、でも確かにそれが長らく……しかもそれこそが愛とか、愛情表現の一つとして認定されていた時代があったんだということを、ほんの20年ほど前の、でもそれに疑問を持ち始めた女性たちの時代だったんだなぁと思うのは、フェミニズム野郎すぎるのかもしれないけれど。
茂にも恋人がいる。ちょっと少女のような幼さのユカは、鍋を用意して待っていたりする。でも茂はユカとは酔わなければセックスしないし、それをユカからとがめられ、愛していると言えるのかと責められても、何も言えないのだ……。
茂は塔子との結婚から逃げて、それまで固い勤め人だったらしい(ことは、塔子との会話で知れる)のも辞めて、今は日雇いと思しき作業服姿で、雨の日、横断歩道の向こう側で塔子を待っていた。とてもとても運命的なドラマティックな再会だったけれど、そして塔子も、キスした途端に彼の身体の重みまでも思い出してしまって、関係を持ってしまったけれど、愛しさも取り戻してしまったけれど、でも、そもそも別れたのは、その理由は、ということなのだった。
塔子が今、芳久と同棲しているのは、もう3年目になるけれど、まだ3年目とも言える。茂と別れてすぐにロックオンしたのはやっぱり、茂との別れの原因を取り戻したいがための、結婚が前提だとしか思えず、だからこそ、芳久から言わせれば、文句も言わず、嫉妬もせず、尽くす女、だと見えるのだろう。
でもなぁ……文句や嫉妬を我慢させるようなボロを芳久が見せる場面はないんだよな……だから、芳久が恵子に対してそんなことを言うのは、単なる睦言に過ぎないように思えるのだけれど……もちろん、それに嫉妬して恵子が、芳久にとっては彼女もまた都合のいい、束縛されたくない女として、いわばセフレとして付き合っていたのが、まさかの反駁を起こす、というのが、女としては溜飲が下がる、となるところなのだろうけれど……。つーか、芳久、恵子に中出しまでしちゃってるんだもん。これぐらいの攻撃喰らったってそらしゃーないわ。万一のこととか考えてないだけでサイテーなんだもの。
だから、恵子の苛立ちにシンクロはするけれど、そもそもの塔子の芳久への思いというか、関係性というか、生活の成り立ちというのが、芳久が言うほど尽くされてるとも、結婚してやらなきゃ可哀想とも思えなかったのが難しかった。
だから、恵子からの突然の愛人宣言ともいえる電話に、塔子が怒るのは当然だし、それ以上のことはないんちゃうと思っちゃったんだよね。芳久との別れ話に至る痴話げんかっつーか、突然レイプ気味に押し倒すとか、お互い様なのになんでおめーがキレてんのと、フェミニズム野郎は塔子にばかり肩入れしてしまう。
つーか、茂のことを言う必要はなかったんじゃないの。言わないと思うなぁ、女はしたたかだから、言う必要のない不利な情報はさ、言わんよ。だって、だから激高されてレイプされかけたんだから。
結婚が決着要素に据えられてて、でもそれは、女側にだけである。男側にとってそれは、避けて通りたいものであり、それは女に対する愛情とは別問題であるらしいんである。
そのどちらの価値観も、私はなんだかピンとこないし、そして、恐らく、この当時から24年経った今では、相当変わったんだと思うのだ。何度も言うけれども……本当に、ここ10数年で劇的に変わったから。
でもそれは……いいことばかりじゃ、ないんだけれど。結婚が幸せな着地点であれば良いのなら、それはとてもいい時代だったのかもしれないとは思う。男も女も、社会も、それで幸福で納得できるのならば。
でもそうじゃないのだもの。本作が作られた時は、次第にそのことに、疑問や問題点を感じ始めていた時だったと思う。OLという言葉が、本作のようなピンクでも、一般社会でも、腰かけめいたニュアンスを感じさせることに対して、違和感を感じ始めた時だったと思う。
本作の塔子、演じるユメカさんは、キャラクター的には揺れ動く、男におもねる、古風な部分がある女性だけれど、なんたってユメカ姐さんなんだから、見た目カッコイイし、見た目キャリアウーマンだし、見た目さっそうと一人生きていく女、なのだ。
でもすべては見た目であり……それは、それはさ、いつの時代も、男も女も、見た目のイメージと中身は、違うものなのだけれど……。
私は女だから、大抵劇中の男たちに対してはケッと思い理解する気もない身勝手なのさ(爆)。だから一方で、劇中の女性たちに対して……理解が及ばないというか、考えても、想像しても、追いつけない時が、動揺してしまう。そんなん、当り前なのに。ただ性が一緒なだけで、すべて人間は千差万別なのだから。
でも、でも……。塔子も、恵子も、ユカも、基本的に、男に対して聞き分け良すぎ!!といういら立ちがあった。
特に、ユカかなぁ。彼女に関しては、もっとキャラ書き込んでください!!と思っちゃったりして(爆)。恵子も突然豹変した感じで、彼女の気持ちはとてもよく判るけれど、それだけに、その我慢した女のため込んだ爆発力を物語のそれに使われるためのキャラにされた気もして、ちょっと納得いかなかったかなぁ。
もちろん、こんなクズ男に爆発するのはいくらでもOKなのだけれど、それを、今更聞き分けのない女かよみたいに処理されるのは、物語上もそう見えちゃうのは、そりゃさぁ、クズ男たちに対して女のこちとらは我慢ならんさぁ。
塔子は芳久に絶縁を叩きつける一方、茂に対しては、彼の元カノに遭遇し、なんだかモヤモヤして、衝動的に旅に出る。ゲリラ撮影な感じが、映り込むホームの乗客たちの表情でうかがえてドキドキする。海沿いの路線でぼんやりと車窓を眺めながら、手に握っていた合鍵を外に投げ捨てる。
それは……二人食事をとっていた時にうっかり合鍵で入ってきたユカがおいて行った鍵を、塔子がもらい受けたのだったけれど……これは、ないよね!この合鍵持っといてくれだなんて、その場で渡すだなんて、ヒドい、無神経に過ぎる。なんでこーゆことを、男は判らんのかっ。
だから遠くの海まで捨てに行ったのか、それはいくらなんでも……。冒頭で書いたように、なんとなくの決着にもやもやした部分があったから、その答えを探しながらの鑑賞だったのかもしれない。
だとすると、だとすると……この合鍵、塔子にとっては必要ない、彼に鍵を開けてもらって部屋に入りはするけれど、でも……ということ、なのか??あぁなかなかに、めんどくさい!!
ダブらせるような凝ったカッティング、前衛的な音楽、茂の住むシャッター商店の二階の倉庫室のような部屋、印象的な要素が詰まっていて、洗練された一作ではあった。ユメカさんの美しい薔薇のタトゥーにボカシが入れられていたっぽいのが気になっちゃったが……タトゥーがNGなのか、当時の画素の粗さのせいなのかも??★★★☆☆
ガラケーであるということが、その時代、という意味ではないような気がした。年代が判るような描写はないんだけれども、でも、どこからも救いようがない、浮き上がって息をすることも出来ない深い深い淵の底に沈んでいるような世界に生きている彼らの通信手段がスマホであっては、想像しただけであまりにも似つかわしくない。
スマホはまだ、外とつながれる可能性がある気がする。もちろん、その暴力的な外から殺されたりもするけれど。ガラケーが暗示しているのは、第三者の目という可能性を摘まれた世界。もうこの道しかない、この身内しかない、家族しかないという息苦しさ。
という、ループにはまる前に、アホな私は結構頭を悩ませていた。相関図が判らない、というか、自信が持てない。多分そうだろうな、と思うまでにさえ、かなり時間がかかった。
特に男子、出てくる全員がコワモテなもんだから、どこからどこまでが身内、組とかそういう間柄で、その外側はどこからかとか、今こうして書いている時点でも自信がない。マジで相関図、オフィシャルサイトに載せてくれよと思った(爆。確認が出来ないんだもの……)。
ヒロイン、葵のお姉ちゃんが主人公、辰巳の元カノであるということも、合鍵を持って入ってくる場面で知れるものの、特に前半の展開はかなり大忙しで、えっと、きっと、だよね??と頭の中で確認作業の繰り返しで、いやー、参った。
でも、そんなことは終わってしまえば、些末なことだったのだろうと思う。そもそもの冒頭、辰巳が弟と最期の哀しい大喧嘩をするあの冒頭で、すべてが決まっていたのだ。
弟が死んでしまったのは、確かに彼がヤク中で、もうどうしようもなかったからなのかもしれない。確かにそうなのかもしれない。でもこの時から、辰巳自身の死も透けて見えていた。
弟は、確かに甘えたちゃんだったのかもしれない。彼らの会話から、父親がいかにクズかが想像出来る。あんな奴になりたくないと思いながら、あんな奴から離れる方法が、深い淵の底に沈むしかなかった。
兄弟ともにそうだけれど、違ったのは、それを自覚して割り切って生きているかどうかだった。いやでもそれも、どうなのか。辰巳だって……そう、主人公なのに、死んでしまうのだから!!
おっと、またオチバレをしてしまった……ごめんなさい。本作はリアルな、リアルかどうかは実際を知らないんだから判る訳もないんだけれど、どうしようもなくキュウキュウの裏社会を描くのに、いくつかのキーワードがあり、それがリアルかもしれないリアリティたらしめているのが面白いんである。
先述したガラケー、非道の言い訳に金がないを連呼すること、そして最も個性的なのは、死体バラシ。つまり遺体の解体。
辰巳はその達人であることで、数々の遺体をバラすのに呼ばれるんである。難儀を解決するために呼ばれているのに、その難儀を起こした、つまり見境なく殺したアホに、よくそんなことが出来るな、とさげすまれるんである。
ああもう、そう、アホというかなんというか。このキャラ。このキャラこそが、本作の最大の成功であり、サイアクのクレイジー野郎。
上目づかいの目つき、常に半開きの口、イカれてる、と一瞬で判るサイコ野郎。こんなことを思っちゃいけないんだけれど、ここにいる誰もが、コイツをまず殺すべきだろと思ってるに違いないのに、なんでよ、と思っちゃう訳。
竜二を演じる倉本朋幸氏、誰誰誰、こんなすごい役者さん私知らない、キッショい、誰これ!!と思ったら、本業は役者ではなく、演出家さんなのだという。そらー知らんわ!てか、すげーこのキャスティング!!デビュー作で主演二人をスターダムにのしあげた監督の手腕がまたここに!!
そう……なんで彼を、最後まで、生かすのだと。そう観客に思わせたことが、最大の成功だったんだろうなぁと思わせるぐらい。
本作はね、とにかく理不尽な殺しが横行するのよ。私、頭をかすめたよ。これは「鎌倉殿の13人」か、って。スミマセン、入院時に一気見したんで、結構最近の記憶なもんで。
誰か一人の恐れや妄想で、次々に理不尽な殺しが繰り返される、強大な力によるものだから、止められない。まさに鎌倉殿。
でもその、強大な力っていうのが、果たしてあったのだろうか??ていうのが……。カネがない、貧乏組の中で起きた、シャブのかすめ取り事件。疑心暗鬼が跋扈し、明らかに頭のネジがぶっ飛んでいる竜二の欲望をいわば最優先しちまったってこと。
それが彼らの中で何度も、まるで確認事項のように言われた、家族だから、あんな奴でも身内だから、ということだったんであった。そんなアホの後始末を何度も何度もさせられた辰巳、つまりはバラシの達人だから、というシュールな設定が面白い、と言ったらアレだけれど、最終的に元カノ、そして今車に乗せているのがその妹、という狂ったロードムービーとなるじっくり後半戦につながっていく。
元カノの妹、葵を演じる森田想氏が、そうかそうか、「アイスと雨音」のあの子!もうほんっとに、メッチャあったまくるナマイキな子で、スクリーンの中に入っていって頭張り倒してやりたくなるぐらい。実際、いろいろ頭張り倒されているのに、そのふてぶてしさは全くぶれない。
そもそもが葵がシャブをちょろまかして金を稼いでいたのが原因だった、みたいな始まりになり、観客の心にも、このクッソナマイキ女!と刻まれちゃうんだけれど、だけれど……。
自信ないんで(爆)。えーと、彼女も確かにちょろまかしたけれど、それ以上に、山岡という男が、本格的にやらかしていた、ということ、よね?間違ってない?大丈夫??そして、その山岡の嫁さんが辰巳の元カノである京子、葵のお姉ちゃん、間違ってない??大丈夫??
京子が万札を輪ゴムでとめてジッパー袋に入れ、事務机の引き出しにしまっている後に、山岡がその形態のジッパー袋を冷凍室の中から取り出すという一連の描写、これはつまり、京子はダンナの悪事に加担していたということ、だよね??
山岡が狂った兄弟、竜二たちに殺された後、彼女もまた無残に殺されたのはキッツイ描写だし、葵がそのことで復讐を誓うのは当然すぎる流れだけれど、この点に関して……ああそうか、その点に関して、辰巳もまた、知る由もなかったということなのか。いや、違うか、竜二はそれを目撃していたんだから、辰巳も知っていたか。あー自信ない。
山岡の殺害現場に居合わせてしまって、葵が姉の京子を必死に救出した。重傷の京子を一目見ただけで辰巳は……百戦錬磨だから、もう助からないと判ってしまった。大丈夫、ゆっくり息をしろ、と声をかけながら、救急車なぞ呼ばなかったのは、そういうことだったのだった。
これで足がつくから見捨てたのかとも思ったが……まぁ正直本作の世界観は、そうした一般社会の助けが全く機能していないからそれもそうだったのかもしれないけれど、京子の死は、そのまま辰巳の死につながっていたのだった。
彼の言う通り、ゆっくりゆっくり息をしながら、それでも彼女は、ヤクザの元カノ、現カノであるから、自らの死を悟っていたのだろうと思う。ゆっくりゆっくり息をしながら、妹のほほに手を当てて、息をしなくなった。
あの場面、本当に人が死んでいく様を見せられている、それはぐっさぐっさナイフを刺して殺す場面よりもずっと辛かった。しかもそれが、辰巳自身の死のシーンに、まんま、まんま!跳ね返っていくんである。
辰巳が、そして彼が信奉していた兄貴、狂った兄弟が信じていた家族って、一体、何だったんだろう?マジに物理的に、ある?それ??と、感じ始めてくる。とにかく金がないんだと窮乏している時点でちょっとしたギャグにも思えてきていたし、組長どころか幹部すら出てこないし。
え、ひょっとして、兄貴と呼ばれているあの彼がトップなの??だとすれば甘すぎないか……狂った竜二を、名前を呼び掛けるだけで諫めるにとどめ、こんなヤツでも身内なんだから、判るだろ、と諭すなんて。それに屈する辰巳も辰巳だが……。
この矛盾、ではないけど、疑問に、少なくとも私自身、答えを出せたかは自信がない。従うべきものが見えていない彼らのために、少なくとも女たち、京子や葵が苦しめられ、その自覚が実はあったからこそ、死のリスクをもって、葵の復讐を遂げさせた辰巳、という図式なのかとも思うが、自信がない。
ぜっったいに、おかしい、任侠でも義侠心でもないおかしさなのに、兄貴から説き伏せられるとそうですねと言っちゃう辰巳。兄貴……このキャラもちょっと引っかかるところがあって。相関図で悩んでいろいろ検索していたら、この兄貴がゲイである描写があると。兄貴だけに!!
確かに竜二に強く出られて濃いめのハグされるところで、そんな感じはあったけれど、そもそも竜二は殺しの対象にそういういたぶりをする描写があって。それを、射精と殺しの快感は同じだとかレクチャーしていたのは兄貴だったか……そのあたりがどう解釈していいのか、すんごく難しいんだよなぁ!!
主人公はタイトルロールである辰巳=遠藤雄弥氏であったとは思うけれど、途中で死んじゃうのもあるけれど、やっぱり、葵を演じる森田想氏に持ってかれた、というか、彼女こそが主人公であったんだと思う。
ほんっとうに中盤までは、そのナマイキっぷりにハラ立つわー!!と思ったけれど、結局それって、男たちが彼女に対して思ったそれだと気づいてみれば、フェミニズム野郎としてみれば、間違ってました、すみません!!!とひれ伏すしかないんだよね。
しかも彼女は、お姉ちゃんラブで、表面上あんだけ大喧嘩していたのに、世界中で誰より愛しているのはお姉ちゃんであり、だからこそ復讐を誓うのだよ。最強のシスターフッドやないか。
だんだんと、葵に感情移入していく自分を押さえられなくなるのがちょっと悔しい(爆)。結局、男の主人公を死に追いやってまで、彼女はお姉ちゃんの仇を討ち、生き延びるのだ。最高中の最高じゃないの。
私の偏見で捻じ曲げた見解かもしれんが、一見して男くさいフィルムノワールと見えて、本作の決着点、最終ゴールは、シスターフッド、女子的に大満足と言っちゃっていいかもしれん。だって女子が生き残るのだもの。ありがとう、ありがとう。★★★☆☆
ヒロインの奔放な母が半年の不倫期間を告白するも、その後夫と別れているし、恋人や別れた夫がデリヘル嬢と遊んでいるとしたって、浮気であって不倫じゃないんだもの。
そして高校時代、お互いファーストキスを交わし合った二人は共に既婚者として再会するけれど、ギリギリのところまで行くけれど、実に彼女の妄想セックスで終わり、見事に不倫は回避されるのであった。
正直、ホッとした。このコミカルでハートウォーミングな物語の中に、そうした汚点は見たくなかったから。不思議。ピンクはそうした修羅場がなければ時に成り立たないのに。
そういう意味では実に、吉行監督は手練れである。彼女の作品はその安定感に常に安心して見ていられる。本作は、今までの吉行作品の中で一番好きかもしれないなぁ。ワレラ少女漫画で育ったトキメキを、見事にピンクといういわば修羅の中に落とし込んでくれて、もうドキドキが止まらないんである。
キャストみんな、芝居がしっかりしているのがまずいい。ピンクの女優さんは時々難しいことがあるから。まぁおひとり、デリヘル嬢リンリンを演じる吉岡沙華氏はちょこっとアレだったが、それもまた妙な味があって良かったし。
何より何より、ヒロイン、典子を演じる一ノ瀬恋氏よ。お顔の可愛らしさはもちろんのこと、そのマシュマロボディに劇中の男子はもちろん、同性であるこちとらもうっとりドキドキよ。
夫と実に3年のセックスレスである典子が、ヨガ教室で出会ったバーのママにピンチヒッターを頼まれ、急激にセクシーになっていく過程、それを夫が目撃してしまう場面、ソファにしどけなく居眠りしている彼女の、なんてことないのよ、ちょっと太ももがあらわになっているぐらいで。
でもそれが、夫が生唾を飲み込むのがそりゃそうさ!と思うほどに、可愛いのにヤバいほどに色っぽくて、よくぞ夫、襲わなかったなと思うんであった。
こんな可愛い奥さんを実に3年も不安な想いにさせてるなんて、しんじらんない!!後に夫は、激務のゆえか、彼女を満足させられないのではと思ったと吐露しているが、セックスだけじゃなく日常生活も明らかに冷たく接しているしさ!
まぁそれは作劇上の事情もあるさ。なんたって典子が再会した、高校時代ファーストキスを交わした成瀬君とのトキメキこそが、もう、元乙女どもの心を打ちぬくんだから、他のことはもう、どうでもいいのさ。
ファーストキスを交わした相手、としか言いようがないのは、彼が、正式に付き合った訳じゃない、と語るからである。典子はその言葉に軽くショックというか、正式に付き合った訳じゃなかったんだ、私たち、と問い返すが、そう彼が思った理由がまた、殺す気かテメー!!とゆーやつなんである。
だってあの時、がくがく震えていたじゃないか。それ以上何も言えなかった、と。キャー!!もうー!!判ってないな男子、バカやろー、それは拒否じゃないよ、嬉しさ爆発なんだよ、ばかやろー!!
……興奮しすぎて、いろいろすっ飛ばしてる。そもそも典子が成瀬君と再会したのは、ヨガ教室で出会ったバーのママ、理恵さんが店に招いてくれて、客として来ていた彼と再会したんである。
もうこの最初の邂逅のシーンから、二人の繊細な芝居に胸がときめきまくる。まさに、高校時代、キスだけを交わして淡い気持ちを残して今ここで再会した、空気が充満しまくるんである。
もうここで、典子が酒に弱いというか、どうやらやらかしちまうことを、ママとの饒舌な盛り上がり、ふらついた足取りで伏線を張っていることを後々気づき、さっすがぁと思う。とにかくいつでも、典子、演じる一ノ瀬恋氏はとっても可愛くってたまらんのである。
そして、成瀬君を演じる可児正光氏である。ここ数年のピンクでほんっとうに存在感を発揮している役者さんだが、これまた本作での彼がいっちばん、もう打ち抜かれてしまうんである。どこか宮沢氷魚氏を思わせる繊細な優しい面立ち。メチャクチャ素敵なのだ、もう。
典子の、つまりは妄想セックスでお呼ばれする彼の、昭和時代の少女漫画のソフトエロで育ったワレラ元乙女を充分満足させてくれる、優しい色気、あの手がヤバい!
てゆーか、吉行監督、マジで本気出してる!!最初の成瀬君との妄想セックス、彼の手よ、青い血管が美しく盛り上がった、白く美しい手が、あーやばい。そして彼女のマシュマロボディ。あーやばい。
ソフトフォーカスのやわらかなタッチ、ピンクのカラミによくある、がしがしとしたがっつきさが皆無。とにかくこんな美しいセックスシーンは観たことない。男子さんには物足りないかもしれんが、雰囲気重視の女子たちは、もうこういうの、これを欲していたの!!と思っちゃう。
そしてこの最初の妄想セックスは、夢の中で夫から「誰とセックスしてるんだ!!」と叱責されて目覚めるんである。
典子は母親に請われて、手作りジャムを届けたり、料理をしに行ったりしている。吉行監督自身が演じる母親はザ・奔放な女で、娘の手料理を恋人に、自分が作ったとウソをついているんである。その恋人っつーのが娘の高校時代の担任教師。複雑な想いを抱える典子。
ヨガ教室で出会ったバーのママが、愛人の出張に呼ばれて、典子に代理ママを頼んでくる。ここから急転直下になる。現代ではなかなか珍しい種族である専業主婦だった典子が、外の世界を知ることになる。
旦那は、好きなことをすればいいと常々言っていたけれど、まさか妻が、自分が囲っていると思っていた妻が、バーのママになるなんて思っていなかったんだろう。それこそ、せいぜい、今までやってきていた、ジャムやパン作り、ヨガ教室、そんな、彼にとっては、おままごととでも思っていたようなことしか想像していなかったんだろう。
だから、イキイキとしだし、急激に色っぽくなった妻に焦りを覚える。欲望を感じても、それまでの自分の身勝手さを顧みれば、そらぁおいそれと手は出せないさ。しかもその妻が、成瀬君、だなんて色っぽい寝言を言ったのだとしたら。
もはや典子の師匠となっているバー「アモーレ」のママ、理恵さんは、良かったんじゃないの、と笑い飛ばす。でもこの時点で典子にはまるで自信がない。夫は自分に興味がないと、思い込んでいる。
とんでもない。めっちゃ嫉妬して、自分の部下を客として送り込んで、浮気をしていないか、危ない相手がいたら妨害させるだなんてことまでやっていたのだ。あのアヤシイ外国人青年二人は、そーゆ―ことだったのか。フツーに楽しいワキキャラだと思っていたのに。
てゆーことが明らかになるまで、典子と成瀬君は、あの頃の、高校生時代を取り返すような、もうトキメキが燃え上がるんである。
それは、決して、典子の妄想だけではなかった。再会のシーンの、また今度、とちょっと肩を押されただけで、典子がきゅんと来るあの感じ。スローモーションを巧みに使い、ふらついた彼女を背中から脇に腕を入れて抱きかかえるあのドキドキ!
キスだけで終わったのを、正式に付き合ったんじゃなかったとか、中途半端で終わった関係だから忘れられないとか、否定的なカテゴライズをされることに対する違和感。
でも確かにそうだ、今は大人になり、結婚をし、その相手と今、上手くいってはいないけれど、愛しているし、元に戻りたいと思っている。
そう思っている同士が、初恋の相手として再開する。理想の相手だ。つまりは……セックスの欲望を、純愛の中に留めたまま終わった相手同士なのだから。
それを、典子、演じる一ノ瀬恋氏の可愛らしさ、マシュマロボディのチャームなエロで体現しまくる。ソフィスティケイトされまくりの最初の妄想シーンからヤバかったが、マジにヤッちまったか……と心配したまぁまぁリアルなセックスを描く第二の妄想シーンも、そうじゃなかった、あぁ安心しちゃった。
まぁまぁリアルだったから、それがそうじゃない、彼女の妄想だったんだ、と彼が告げる場面は、いやいやいや、卑怯者、嫁と関係修復するためにヤッてないと言い逃れするつもりか!!と憤ったが、落ち着いて聞いてみると、てゆーか、彼が語る典子の酒乱っぷりが、あまりにも可愛らしくて可笑しくて。
そしてそれは、先述したようにちゃんと伏線が張られており、ああ彼女は、お酒で楽しくなっちゃうタイプなんだと。代打ママをやっている場面でも、いやその前、理恵ママに最初に招かれて飲んでいる場面ですでに、缶詰のパイナップルがいつまでも後回しにされるのだという、結構シビアな話を、生のパイナップルをつまみながら笑顔で話しているシーンからきちんと描写されてたのよね。
で、そう、成瀬君が語る、「俺が知っていた山下(典子の旧姓)とのギャップがありすぎて」という、彼女の記憶していた彼とのセックスが夢の中だったという、その夢直前が最高すぎるんである。
素晴らしいコメディエンヌ。しかも、あっけらかんと脱ぎ捨てるミューズ。彼女自身、ヤリたい気持ちはマンマンな訳。その前に酒に飲まれてる、てゆーか、酒好きのイイ感じ。これは、酒好きとしては、擁護したいと思っちゃう。酔いに任せてえいこら!じゃなくって、酒ウマし、ああ楽し、もうヤッちゃいましょ!M字開脚ドーン!
セットアップの勝負ランジェリーなのにさ、おしゃれな厚底ミュールのままベッドにどーん!まではイケイケだったが、その直後爆睡!!可愛すぎる!!!ブラとショーツを次々脱ぎ捨てては投げるのを成瀬君が困った顔でぶつけられるのがサイコーでさ。
きっと、てか、確実に、彼だって彼女とヤるつもりだっただろうに。だからホテルに来ただろうに。なのに、気勢をそがれちゃう。すやすやと眠っちゃう典子に、そっとお布団をかけてあげちゃう。
それはきっと、大事な思い出を慈しんだのだろう。典子は大事な初恋の思い出の人。お布団をそっと、彼女にかけてあげたあの優しい感じが、それを語って余りある。
そして嫁と関係修復のチャンスを得て,典子に、お互いパートナーへの裏切りはなかったのだと告げる。
どこまでが、裏切りなのか、法に触れる上でのそれなのか。ピンクを見ていると、一般映画の価値観と照らし合わせて、それは、一般社会の価値観ともまた違って、考えてしまう。本当に、誰かに恋する焦がれた思いと、共に過ごすパートナーとしてのそれと。
アモーレのママ、理恵さんが、恋人と出張先の海外に出かけるけれども、一緒に暮らしてみれば、家政婦のように使われて幻滅してしまう。毎日一緒にいるとセックスも単調になってしまう。そう言って、予定を切り上げて帰ってくる。
典子の母親が、保守的な娘に対して、どうやらダンナ以外の恋を見つけたらしい娘を察知して、最初のセックスで決めるなよと言ったのだった。お腹が空いていたら、そりゃ美味しく感じるだろ、って。うっわ、めっちゃ名言、さっすが吉行監督と思った。
そして典子の夫がすべてを懺悔し、「さみしかった、もう少しで浮気するところだったんだから」と彼女も正直に告白。夫とのセックスも丁寧に描写して大団円のハッピーエンド。
思えば冒頭典子は、赤ちゃんが出来やすい日だからこの週末は、だなんて言っていたし、これから先の夫婦の未来が明るく幸せなものであってほしいと願うばかり。
典子が手作りジャムを母親に持っていく場面、そのジャムを入れているのがままどおるの紙袋で、そっかそうだそうだ、監督、福島出身だよね!と嬉しくなっちゃった。今度はままどおるを劇中に登場させてほしいなぁ。★★★★☆