「よ」

２００３年鑑賞作品

黄泉がえり
２００３年 126分日本カラー
監督：塩田明彦　脚本：犬童一心　斉藤ひろし　塩田明彦
撮影：喜久村徳章　音楽：千住明
出演：出演：草彅剛　竹内結子　石田ゆり子　哀川翔　山本圭壱　伊東美咲　忍足亜希子　東新良和　長澤まさみ　市原隼人　寺門ジモン　ＲＵＩ（柴咲コウ）　伊勢谷友介北林谷栄田中邦衛

２００３／１／21／火劇場（渋谷　渋東シネタワー）
スマップの草彅君、竹内結子というキラキラのテレビスターを迎えての塩田監督初メジャー作品。どうなるのかなあ、と思わず心配しちゃったけど、予想していたより失われるものは少なかった感じ……脚本の一人に犬童一心の名前があって（もうすっかり脚本家なのね。映画は撮らないの？）なるほどリリカルで切ない人間模様がとてもよく出ている。これだけたくさんの“黄泉がえり”たちが出てきて、それぞれの親子や夫婦や兄弟や恋人や友達といった人間関係がいくつも出てくるのに、ひとつひとつが薄すぎることなく、しつこすぎることなく、タイトにきちっとあふれる感情を描写できる手腕がやはり凄いと思う。

ただ、随分と音楽が饒舌だったんだけど……本当にこの甘美な音楽がうるさすぎるほどで。冒頭からすっごい推してくるし、役者の台詞を聞かせる場面、特に草彅君と極楽とんぼの山本君の会話の場面、とても良かったのに音楽が“手助け”しちゃって、思わずジャマ！うるさいよ！と言いたくなってしまった。どうしたのかなあ、これっていままでの塩田監督にはなかったこと。この物語は歌姫、Ｒｕｉがカギを握っており、クライマックスシーンでは彼女がシークレットライブで何と３曲も（多すぎ）フルコーラスで歌うという場面が用意されており、このＲｕｉというのはクレジットでも伏せているけどしっかり柴咲コウで、このテーマソングで同じＲｕｉという名前でＣＤを出すらしいのだ。……もしかして、この音楽先行型になっちゃっているのは、その辺とも関係があるんじゃないのか、と音楽業界に詳しい方（私のピアノの先生だ）が言っていたんだけれど。つまり、レコード会社とのタイアップということね。彼女の歌だけじゃなく、ゲキハンもバンバン流せと。確かにそうかもと納得できるぐらい、いつもの塩田監督作品とは打って変わって音楽バンバンなんだもん。ほとんど意味ないくらいに。うーん、メジャーってそういうところがあるのか……。

そういえば、メジャーってイヤね、と思ったことにはもうひとつあって。私はこのいくつかある黄泉がえりたちの中で一番心うたれ、思わず涙しちゃったのは、田中邦衛＆忍足亜希子＆伊東美咲の家族、なんだけど、つまりは忍足さん。あ、忍足さんだ！初メジャー映画だよね！と嬉しくなって、やっぱりキレイだなあ、演技も上手くなった……と感動して、自分の命に替えて子供の命を世に送り出した、という設定が彼女のデビュー作「アイ・ラヴ・ユー」での、完全に耳が聞こえなくなることと引き換えに子供を産んだ女性と重なって、しかもあのまさしく言葉なき言葉、手話の心通じる美しさになんとも涙しちゃったのだ。で、何がイヤねと思ったかっていうと、オフィシャルサイトのキャスト紹介でね、忍足さんがね、この家族の写真の一人としてのっかってるだけ、つまり写真と役名だけで、何のプロフィルも、彼女の名前すら載ってないことなの！ふっざけんなよお、これってどーゆーことよ！他の、いわゆるテレビやなんかで名の通った役者さんたち、そして、彼女の娘役の伊東美咲もしっかり載ってるのに。というか、伊東美咲なんかより彼女の方が映画デビューは先だし、なんたって主演デビューだったのに、本当にこれってどういうことよ！もう、マジで怒ったよ。こんなに忍足さん、素晴らしかったのに……もう！！！

と、怒ることになるのは、映画を観終わってからのことなので……（あー、でも、本当に腹がたつ）。実は、ひとつ心配だったのは、主演の一翼を担う竹内結子嬢のこと。彼女は私、「イノセント・ワールド」の不機嫌な少女が凄くいいなあ、と思って……もてあまし気味の感情がありあり、というのが彼女の身体から横溢してて、スクリーンの少女女優だわ！と嬉しくなったんだけど、彼女はそのすぐあとテレビの方に行き、行きっぱなしで全然帰ってこなくて……で、テレビでの彼女は、「イノセント・ワールド」の彼女がウソみたいに愛くるしい笑顔をふりまいてて、あ、彼女、こんなに可愛かったんだと驚かされたぐらいなんだけど、でもなんだかフクザツだったんだ。テレビの世界でどんどん“完成”されていく彼女が、もうワクがそんな風にきっちり決まっちゃって、あの横溢する感じがなくなっちゃうんじゃないかって。

で、久しぶりにスクリーンで観た彼女は、あ、この人ってこんなに上手かったんだ、ということ。軽さを感じさせる台詞とか表情とか、とても上手い。彼女演じる葵が幼なじみの平太と喋る時の、とてもリラックスしたその感じが、う、上手いなあ、と膝を打ちたくなるぐらいなのだ。そのいい軽さをクライマックスまでちゃんと持続してて、軽さのままふっとたまらず泣き顔になるところなんて、場面としてはとってもシンプルでベタなぐらいなんだけど、平太が葵に「ずっと好きだった」ってやっと告白して、葵が「何でもっと早く言わないんだよ」とからかうように言ったすぐあとにくしゃっと表情が泣き顔に崩れちゃう、っていう……ホント、こんなにシンプルな、どこかで聞いたような台詞の応酬だけど、やっぱり王道だから、それに丁寧に撮ってて竹内結子の表情がもう最高だから、泣いちゃうんだ。

でもやっぱり、完成されすぎている気はしちゃったな……。うーん、でもメイクとかのせいかもしれない。何かいかにも“芸能人”ッて感じで、ハミダシがないというか。何か、もったいないな。閉じ込められている気がして。彼女には一度、メジャーじゃない作品で、塩田監督と組んでほしいな……今の彼女の位置じゃ、ムリか……。彼女、インタビューでこんなこと語ってた。「自分の感情をなるべく作りこまないように心がけました。でもそれだと、自分としては抑揚のない、フラットな芝居になってしまっているようにも思える」って。ああ、何か監督の狙いみたいなものが感じられるなあ、と思う。生々しい演技って、演技らしい演技とはまったく別の地平にあると思うし。その演技らしい演技、というのは、つい言っちゃうけど、やっぱりテレビドラマにおけるそれだっていう気がするのね。フラットとか抑揚というのが、台詞的なことを想像させるでしょ。でも監督が欲しがったのは、そういう演技じゃないんじゃないのかって気がする。上手さも必要だけど、それを超えた何かが欲しかったんじゃないのかなって。

で、彼女に相対するこれが初主演という触れ込みの（……え？「メッセンジャー」は彼の主演じゃないの？飯島直子主演ってこと？）草彅君は、彼女がこんなふうに上手いので、すこうしソンな気もするけれど……。二人、２８歳の同い年という設定なんだけど、そうだよね、竹内結子はまだ全然若いんだよね！まだ２２歳だよ？それなのに、草彅君と同い年で違和感なく演じられるというのは、やはり彼女の上手さを感じる、よなあ……。で、草彅君、でも彼ってやっぱり変わった顔よね。決して、ジャニーズ系じゃない。スマップの中で塩田監督作品に呼ばれたのが彼だっていうのが、何か判る気がするというか。でも、彼がこんなにスタイルがいいとは気づかなかった。あの五人の中にいると、気づかないのかもしれない。ぽやーとした印象を先入観として持っているせいかもしれない。
幼なじみの葵に対して「お前、本当に色気ねえな」と言いながら、実は心の奥底でずっとずっと彼女のことを想っていた平太。俊介は大事な親友だけど、でも葵のことを愛しているから、彼に黄泉がえってほしくなかった。でもクライマックス、消えてしまう葵のために、嘘つきで終わりたくない、と彼は俊介を黄泉がえらせるために、走る。でも彼女が最後の瞬間に会いたかったのは、俊介じゃなかった。平太だったのだ。

私、劇中で真実が明かされるまで、葵もまた黄泉がえりだっていうことに、気づかなかった。後から考えると、何で気づかなかったんだろ、ホント私ってニブいよな、と苦笑してしまうぐらいなんだけど（ホント、だめなのよね。予測できなくて。ベタなミステリの落ちとかでも、いつも素直に驚いちゃうの（笑）。）、でも黄泉がえらせたのが、平太の想いだったっていうのは、ちょっとじんとくるものが、あったのだ。この黄泉がえり、という現象は、……結局何がどうしてそうなったのか、観終わってもピンとこなくて、森の中の巨大なクレーターから検出される微弱な重力異常とか、それをある方法で画像に転換すると心惹かれるものが出てくるとか（っていうのは、ちょっとカクッときた。だって、ある方法って……そんなアバウトな）なんか色々と科学的なことが提示されるものの、何かそういうことを操っているらしいＲｕｉの存在も、シーンの節目節目に顔を隠して妙に暗示的に示される割には、じゃあ一体彼女がどう関わっていたのかっていうのも全然判んなかったし。冒頭、何台も置かれたピアノの、そのうちのひとつを開けて彼女（と彼女が黄泉がえらせた彼）の手が鍵盤を鳴らすシーンから始まるんだけど、その音が、ゆがんでるのよね。多分調律できてなくて。何か不穏なものを感じるというか、ファンタジーというよりオカルトチックな暗示の仕方なんだけど、でも結局何を意味していたのか、彼らが何かを待ち続けているようで、何を待っていたのか、どうもよく判らなくてね。でも、まあ……実際は、そんなことはどうでもいいことなのかもしれないけれど。

つまりは、帰ってきてほしい、と想う気持ちが黄泉がえらせる、ということ。一応はそのエリア内に遺骨なり遺髪なりがなけりゃダメってことなんだけど。でも葵は、自分のことを黄泉がえりだって知らないから、何で私がこんなに想っているのに、俊介は帰ってこないんだろうって、この想いが弱いからなのかなってきっとそんな風に苦悩してて、で、やっぱり俊介のことを好きだった女の子のところに押しかけて、彼が帰ってきてるんでしょ、なんていう屈辱的なことまでしてしまう。自分の想いより強いのかもしれない、なんて思うなんて、これは逆説的に想像を絶するほどの想いの強さなのに……。そんな彼女に「お前が俊介をそれだけ愛してたかとか、俊介がお前をどれだけ愛してたかとか……そんなの、知るか！！！」と絶叫する平太があまりに切ないのね。このシーンでお互いに気持ちのもやもやをぶつけ合うように殴り、殴られというのも、その痛みがそのまま心の痛みにシンクロしてる。

他にもいろいろ心うたれる黄泉がえりたちはあって……そうそう、哀川翔、塩田監督と組むのは初だよね！で、彼が呼ばれたのは、妻である玲子。演じるのは石田ゆり子で、このコンビは「僕が地球を救う」ではないかい（笑）。この夫婦に、極楽とんぼの山本圭壱扮する英也と、彼が黄泉がえらせた兄が絡む。英也は玲子が切り盛りするラーメン屋の店員で、この未亡人に２年間ずっと心を寄せており、彼女もまた、心細い自分と幼い娘もなついている彼に信頼を寄せているんだけど、そんな時に死んだ筈の彼女の夫が帰ってくるわけで。で、英也のところにも、身寄りのない自分が幼い頃ずっと頼りにしていたお兄ちゃんが戻ってくる。

英也の兄は１４歳で亡くなってて、その時の年齢のまま帰ってきており、勿論弟である英也に、はるかに年を越されているんだけど、すごいな、ちゃんと二人、兄と弟に見えるの。しっかり者のお兄ちゃんと、甘えん坊の弟。こういうのって、本当、役者って凄いと思う。彼はまだたった１４歳なのに、やっぱりお兄ちゃんだから、弟のことがとってもよく判ってる。玲子が難病で倒れてしまい生死の境をさまよっている時、そして黄泉がえりたちの最後の時も迫っている時、玲子の夫、周平が英也に、玲子が息をふきかえしたら、彼女のことをよろしく頼む、と言うのね。戸惑って怒り出す英也に「お前なら大丈夫だよ、英也。周平さんは判っているからお前に玲子さんを頼むって言っているんだよ」って、１４歳のお兄ちゃんが、もう３０ぐらいの弟をさとすこの言葉がさあ……、それに周平もね。ああ、これよ、私の望んでいたものは！っていうのは、「ラスト・プレゼント」でさあ……こういう台詞が欲しかったんだよね。周平は自分がいなかった２年間、玲子のことを英也が支えてくれていたと知って、彼になら彼女をまかせられるって思って、託したんだ。泣かせるよね。これなのよ、ただ愛するだけじゃダメなのよ。愛する人が、自分亡き後、他に愛する人を作ってくれることこそを望むこと、ここまで出来なくっちゃね！このじんわり泣かせる感じも「ラスト・プレゼント」と両極でね、そうそうこれよ、と思う。……やっぱり私、日本人なんだなあ。

自殺したのに黄泉がえってしまった男の子の話も好きだった。演じるのは「リリイ・シュシュのすべて」で主演デビューした市原君。顔はそのままだけど、すらりと成長していた。やっぱり成長期なのね。でもナイーブな感じは変わらない。いじめを苦にして自殺した彼は黄泉がえり、自分をいじめていた子に「……ゴメンな。死んでみせるなんて言って」と言うと、そのいじめっこは絶句して頭を抱える。そりゃ、自分が殺したようなもんの子が生き返ってきてこんなことを言ったら……ちょっと想像を絶するな、彼の混乱は……。彼を黄泉がえらせたのは、彼のことを密かに想っていた女の子。彼と彼女のプラトニックな純愛が、いいんだ。二人手をつなぎあって、ぺたりと座り込んで、女の子は男の子の肩に自分の頭を乗せて……こういうのも王道だけど、とても好きだ。キスのひとつもしないけど、もうすぐ第二の別れがきてしまう彼らが、彼らの気持ちが、純粋な宝石の結晶みたいに、永遠に残っていく気がする。

彼女はね、黄泉がえりさせた中で一番若いんだけど、その若さで本能的にその意味（意義かな）を察知してて、その意味をつかめずに苦悩していた平太を救ってくれる。大切な人と一分でも一秒でも、本当に心が通い合った時間を持てた、そのことさえあれば、私は生きていける、って。あ……なーんか、これ思い出して書いたとたん、思わず涙が出てきちゃう。何のてらいもない言葉だけど、だからこそ、とてもいい言葉。この言葉で、この映画の全てが語られるんだろうな。★★★☆☆

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