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「さ」


2004年鑑賞作品

殺人の追憶MEMORIES OF MURDER/
2003年 130分 韓国 カラー
監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ/シム・ソンボ
撮影:キム・ヒョング 音楽:岩代太郎
出演:ソン・ガンホ/キム・サンギョン/キム・レハ/ソン・ジェホ/ピョン・ヒボン/パク・ノシク/パク・ヘイル/チョン・ミソン


2004/3/22/月 試写会(霞ヶ関イイノホール)
長編デビュー作「ほえる犬は噛まない」で独自のブラックなオフビート感を満載させ、何て上手い人なの、憎らしいほど!と思っただけに、次にきた本作が大ヒットを記録したエンタメ系作品であるということが意外で、加えて少々、不安でもあった。でも“エンタメ系”というのは、あくまで一見、に過ぎなかったのだ。確かに前作とカラーは大分違えている。ある意味、万人受けする作品。でもその中に、その唸らされたオフビートなブラックユーモアをきっちり織り込んで、ヒット狙いを任された作品に仕上げるのではなく、まごうことなきこの人の作品に仕上げるのはさすが。

といいつつ、実は物語がググッと盛り上がってくる中盤以降に至るまでは、このギリギリラインのユーモアが、可笑しいんだけど結構リスキーだし、犯人探しの決定打が訪れるまではリズムも緩やかで、あ、ヤバ、ヘタするとこれ中だるみするかも……と思ってしまいそうになったのは事実。ただ、その思ってしまいそうになる、その尾っぽ尻をとらえるように、物語はどんどん加速をはじめる。まるで急な坂を転がり落ちるように、どんどんどんどん追い立てられる。このままじゃ、早すぎて足がもつれて転んじゃうよ!と思ったところで、ガツン!と結末に激突し、目が覚めた時にはまるでそれが悪い夢だったように、穏やかな時間が流れているのだ。しかし、その最後に提示されるのは、……突きつきられる、恐怖。

これはいわば犯人探しのサスペンスの趣を呈しているのに、宣伝の段階から既にオチバレである(だから私も安心して書ける(笑))。韓国で実際に起きた未解決の連続強姦殺人事件、という前提があり、未解決ということは犯人がつかまっていないということで、それが前もって判っているのは仕方ないとは思いつつ……でも本国なら仕方ないにしても日本で公開する時には別に伏せても良かったんじゃないのと思わなくもなかったんだけど……いや、それによって作品の力が失われるとかそういうことではなくて。逆に、オチが判っているのに、これだけ緊迫感を観客に与えられることが、本当に凄いと思って、最初からオチバレってことで観に来る興味をそがれてしまったら、それは本当にもったいないことだと思ったのだ。

このタイトルは、上手いと思う。“殺人”と“追憶”。後者の言葉はちょっと切ないような甘やかな過去への思慕を印象づけ、殺人、という恐ろしい言葉とは到底結びつきそうもない。でも、確かに追憶、なのだ。この犯人にとっては。真犯人は捕まっていない。彼は、今でもどこかで生きている。ラスト、刑事から足を洗ったパクさんがかつての殺人現場に足を運び、そこで通りすがりの女の子から自分と同じようにここを訪れた男のことを聞く。「昔、自分のしたことを思い出した」と言っていたその男は、間違いなく真犯人。パクさんの戦慄の表情をカメラはアップで捕らえ……そして穏やかな田園風景へとカットをかえる。その言葉。犯人にとって、それは“甘やかな過去への思慕”でしかないのだ。強姦が、殺人が、若かりし頃の自分の思い出でしかないのだ。自分が描かれているこの映画も、懐かしい思いを交えて観ているかもしれないのだ。そんな風に切り取る監督の犯人像が、一番、恐ろしいと思った。ここには、私が普段一生懸命信じている性善説のカケラもないのだ。犯人は思い出している。甘やかに。

完全犯罪があり得ない、だなんて誰が言ったんだろう。世の中にはこんなにも犯人を捕まえられずに被害者の無念を晴らせない事件が、あるじゃないか。

一見、そんな事件が起こるなんてとても信じられない、のどかな村。さわさわと稲穂がゆれ、ひろびろ空が広がっている。
しかしその空は、いつも不安げに雲が支配している。そしてその空が泣き出す時……事件が起こるのだ。
この猟奇事件を田舎の刑事だけでは解決しきれずに、大都会ソウルからエリート刑事、ソがやってくる。
ソはウソをつかない書類を何より重視し、合理的、科学的に捜査をすすめるクールな刑事。一方、この村の刑事、パクは足が大事、が口癖で、このエリート刑事を毛嫌いする。しかし困ったことにこのパク刑事、真実を追究することにはそれほど興味がなく、適当な容疑者を引っ張って、物証を平気で捏造し、ムチャなリンチで自白を誘導するんである。それを見て、眉をひそめるソ刑事。当然、二人はことあるごとに反発しあう。

そりゃあ、どう見たってソ刑事の方が道理だし、パク刑事に勝ち目があるとは思えないんだけど、面白いことに物語がクライマックスにさしかかると、刑事の成長物語、として、それは二人ともが、お互いのいい部分を吸収していくのだ。特に、クールなソ刑事がパク刑事に感化されて「拷問にかけても自白を」と言い出すのには驚き、そりゃダメよと思いつつも、それは文字通りの言葉ってことじゃなくて、ソ刑事にそういう勢いというか熱さというか、そういうのが備わったんだなと思い、ますますソ刑事ったら、カッコいいのだ。

このソ刑事を演じるキム・サンギョン、ありゃ、「気まぐれな唇」の時とはずいぶんと趣が違う!というか、「気まぐれな唇」の時と違ってカッコイイ!いやさ、「気まぐれな唇」でもハンサムと劇中では言われてたけど、私は、えー?どこが?などと思っていたのよ(笑)。でも、確かに、ホントに、イイ男なのよ。一緒に観に行った小鍛治さんは「トニー・レオンみたい!」とベタ惚れだったんだけど、うん、確かにそんな感じなんだな。いやー、作品によってこんなに変わるもんなのね。ビックリ。
でもこの人がすごくイイ男というのは、イイ男に徹しているだけに、ウラできっちりギャグになっているというのが、さすが監督のヌカリないところ。いや、勿論、彼自身がギャグになるわけじゃ、ないのよ。あまりにカッコイイ彼を見てパク刑事とコンビを組んでいる暴力刑事、チョが「……サマになってるなあ」とつぶやくのが、可笑しいわけ。しかもそこは、ヘンタイ男が女性の下着を地面に置いて、自身ヒラヒラの赤いレースのパンツ履いてシコシコやってる現場だってんだから、ソ刑事がカッコよければカッコいいほど、可笑しくなるというのが効いているのだ。あ、でもね、その男が逃げ込んだ工事現場で、たくさんの工夫の中から、その赤いレースのパンツがチラリとのぞいているのを見逃さずにひっ捕らえたパク刑事はちょっと、カッコよかったなあ。ソ刑事も思わず尊敬の表情を浮かべちゃったりして。でも結局その人も見当違いのシロだったから、おマヌケだったんだけど(笑)。

それにしても、相変わらずギャグのセンスは冴えている。のびきった麺料理は箸をさすと全部くっついてきちゃうし、刑事ドラマを一緒に見て口ずさむ刑事と容疑者なんてのも思わず吹き出しちゃう。事件の解決を占い師に求めて、くだらない儀式をひっそり深夜に執り行う脱力系ギャグも秀逸。一番可笑しかったのは、現場に陰毛ひとつ残さない犯人像をパク刑事が「無毛症だからだ」と断定し、しかし誰にも取り上げられなくて「経費が落ちないのに」と文句を言いながら銭湯に通うというくだり。毛がないのは当たり前の子供の股間にまでまじまじと視線を走らせるパク刑事にもう大爆笑!もう風呂に入るのはコリゴリだと嘆息するソン・ガンホのとぼけた味がたまらなくイイのだ。彼だからこそ、容疑者に対する拷問シーンがあっても引かないですむ。それは逆に、そんな場面でも笑ってしまうのはヤバイって気もするけど(笑)。

ま、拷問好きなのはコンビ組んでるチョ刑事の方だけど……。何かカンフーくずれみたいな顔した、すぐカッとなる単純な男で、まあよくこれで刑事になれたわねと思うぐらい。何回容疑者にドロップキックかましたか(笑)。しかしドロップキックってところが、これまた絶妙に重さ、シリアスさを回避するのだ。それも一回や二回じゃなくて、ドロップキックを四回、五回と繰り出されると、これが奇妙なことにだんだん可笑しくなってくる(笑)。人間の心理って、恐ろしいわあ、ホントに。
でもね、彼、可哀想なの、実は。容疑者の一人、クァンホに釘を刺されて破傷風になっちゃって、足を切断しなければならなくなる。身寄りのない彼は、パク刑事に付き添ってもらって手術を受けることに……哀しそうな視線をパク刑事に送る彼が、可哀想でさあ……。いやでも!当たり前だけど、もっともっと可哀想なのは、そのクァンホなんだった!最初の容疑者として引っ張られた彼。一度は釈放されたんだけど、彼こそが目撃者だということに気づいたソ刑事とパク刑事が訪れた時、怯えに怯えて逃げ出し……列車にはねられて死んでしまうのだ。

唯一の、目撃者だった。あの無理くり録られたと思われた自白テープはしかし、クァンホ自身がその目で見た事実を語っていたのだ。その時、確実にこいつが犯人に違いない!と思われる容疑者をひっ捕らえていた。しかし証拠がない。目撃者であるクァンホの証言が、ノドから手が出るほど欲しかった二人は容疑者の写真を手にクァンホに詰め寄る。お前が見たのはこの男じゃないかと。
突然、言動があさっての方向に行ってしまうクァンホ。それは彼が頭が弱いからというのではなく、何か……怯えているように見えた。
だって、その確実と思われた容疑者も、結局はDNA鑑定でシロだったから。つまりは、クァンホが見た犯人は彼ではなかったのだ。
でも、クァンホは、あの拷問そのものの取調べの時、散々な目にあった。迫る二人の刑事の目には、ここでそうだと言わなければ殺されそうな雰囲気があったのだ。でも、彼が見た犯人の顔とは、違うのだ。
ウソは言えなくて、しかし怖くて本当のことも言えなくて、彼は正気をなくしてしまった……そして列車にはねられた。

あの最後の容疑者。強姦殺人なんて出来そうにない、文学系の少年。でも、それだけに逆に何ともいえない不気味な信憑性があって、観客の私たちも、これは!と思った。
でも……これは未解決の事件なんだ。これだけ状況証拠が固まってる彼でもそうではないという事実が突きつけられる。それが判っていても……犯人を明らかにしてほしい、それこそが映画としての義務ではないか、なんて思っていた。
その状況証拠というのは、事件の起こる雨の晩直前には、必ずあるラジオ番組で同じリクエスト曲が流れるのだということである。それは別に大ヒットというわけでもなかった「憂鬱な手紙」という曲。
そのことに気づいた女性警官の指摘によって、ハガキを探しにラジオ局に行くも、もはやゴミへと。黒焦げになったゴミの山の上でぼうぜんとたたずむソ刑事の画が強烈。
その後、曲が流れた日に事前警戒を行ったのだけれど、まんまと犯人に出し抜かれて、被害者の数を重ねてしまった。

しかしそのリクエストハガキからたどって容疑者を突き止める。それがあの文学系少年、ヒョンギュだった。
「あんたたちは容疑者にリンチして自白をとってるんだろ」と言うヒョンギュの態度は挑戦的で、殺されるまでは至らなかった被害者の女性の証言どおり、女のように柔らかい手の持ち主であった。
しかし、待ちに待ち続けたDNA鑑定の結果、彼もまた犯人ではなかったのだ。
重要な容疑者であるヒョンギュを監視中、うっかり行方をくらまされてしまった間に、捜査に協力してくれた女学生を獲物にされたソ刑事は、ヒョンギュにやられたと思って乗り込み、暴力の限りをつくす。その時、やっとDNAの鑑定結果が届き、ヒョンギュが犯人ではないと判るのだが、それでも、何かの間違いだと、怒りを押さえられなくて、ヒョンギュに発砲する。
それを必死に取り押さえるのがパク刑事。まるで、今までと正反対だ……そして、ヒョンギュは憎しみを込めた目をこちらへと見据えたまま、暗いトンネルの中へと消えてゆく。
もの凄い、印象的な画だ。血走りそうなほどに力を込めた涙目で、ぶるぶる震えながらヒョンギュを見送る二人の刑事が、トンネルの中へと消えてゆく容疑者を見送る……。
それはそのまま、事件が闇の中へと消えてゆく象徴のように思えた。

この、ラジオ局へのリクエストというエピソードの部分は、フィクションなんだという。確かに、これが事実だったらあまりにもドラマティック。「憂鬱な手紙」がかかるたびに人が死ぬ、だなんて、なんか「暗い日曜日」みたい、なんて思ったりして……。
でもこの実に映画的なフィクションが、この映画の中で最も輝いている。実際の事件をもとにしていながら、フィクション部分が魅力的だというのは、映画として重要なことだと思う。
それこそが、映画としてのドラマティックや、ロマンティックや、タイトルから想起されるノスタルジックさをも喚起させるのだ。

この秀作に、作品のカラーを決定づける役割として、日本人の岩代太郎が音楽に参加しているのは、嬉しい。オフビートの方に行きそうな監督自身のカラーを重いシリアスにどっしり引き止めている。
で、最後にこんなこと言うのもなんなんですが……。
で、でもこれは、帰り、エレベーターの中で耳にしたことで、まあ私自身も思ったことではあるんだケド……。
ああいう事件が続いている中で、あんな人気のない暗い夜道を女一人で歩かないよね……?とゆー……。★★★★☆


日本むかしばなし さるかに
1972年 19分 日本 カラー
監督:岡本忠成 脚本:岡本忠成
撮影:吉岡謙 田村実 音楽:廣瀬量平
声の出演:入江洋佑 木村幌 新井和夫 大森孝 桜井ゆう子

2004/7/23/金 東京国立近代美術館フィルムセンター(日本アニメーション映画史)
この前に、1939年製作、つまりは日本アニメーション映画史の中でも最古期に当たる「マングワ 新猿蟹合戦」を観ていたものだから、比較としてかなり興味深く見られた。猿蟹合戦って、私の時代でもそれほどお話された覚えがなくて、今は何かすっかり聞かなくなっちゃったっていうイメージ。それがなぜなのか、この間観たのも合わせて、今回やけに得心がいったのであった。だってこれって、結構ザンコクな話だし、目には目を、みたいな陰惨な復讐物語なんだもん。

「マンガ日本むかしばなし」を人形で再現したような、懐かしさに胸をかきむしられる見事な人形アニメーション。クレイアニメともまた違って、細かいながらもカクカクとした動きが、何とも郷愁をかきたてるんである。
地方によってとかで違うせいなのかもしれないけど、1939年の「新猿蟹合戦」とはいくつかの点で相違が見られる。まず、これは時間や物語の進行上の問題であるんだろうけど、「新猿蟹合戦」では柿の実がなるところから始まっているのが、本作は、そもそもの原因であった米作りのところから始まっていること。そして、「新猿蟹合戦」ではおにぎりだったのが(私の記憶でもおにぎりのイメージ)本作ではおもちであり、何より本作では母親カニが横暴なサルによって殺されてしまうことが大きく違うのである。

結構、これにはビックリした。もともと素朴な中にも結構リアルな色使いのサルとカニだったけど、柿に潰されて死んじゃったカニさんってば、色までドス黒く変わっちゃってるんだもん。で、そこから這い出てきた子供たちが復讐を誓うわけ。蜂さんや栗さんや臼さんたちに協力してもらって。

ねえ、やっぱり、おサルのお尻がなぜ赤いかっていうのって、この「猿蟹合戦」がルーツになっているんだよね?カニの子供たちにハサミではさまれたからだよね?でさ、皆にやっつけられて、臼さんのどーん!でトドメをさされたこのサルさんが、苦しそうに目をギュッとつぶったまま動かないシーンから切り替わって、夕陽に皆で向かってやり遂げた……みたいな雰囲気で終わるんだけど、やはりアイマイにしているのかなあ。「新猿蟹合戦」では結構ハッキリと、サルさんは死んじゃったっていう描写にしてたけど、本作ではそれはどちらにもとれるようなつくりになってた。うーん……さすがに、やっぱりこれって子供が見るということが前提になっているから、そこまでハッキリさせるのはキツイというのがあったのかも。何にせよやっぱり……結構ザンコクな物語なのだ。

しかし、このサルの造形も、確かにそこまで憎ませるものにしているんだけどね。私ってばもういい大人のくせに、この人形アニメーションのサルに対して、何てヒドいヤツなんだ、許せん!とか本気で怒ってたもん(笑)。でもそんなにっくきサルだけど、殺しちゃうってなるとさすがにドキッとしちゃうんだ。復讐が殺すまで至るっていうのが……ま、殺されたんだからお互い様みたいな描写ではあるんだろうけれど。だからどっちにもとれるアイマイにしたんだろうな。

グリム童話がなんたらとか言われてるけど、日本の童話も結構コワいよね!?★★★☆☆


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