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WARU
2006年 123分 日本 カラー
監督:三池崇史 脚本:真樹日佐夫
撮影:田中一成 音楽:
出演:哀川翔 真樹日佐夫 袴田吉彦 萩原流行 吉野公佳 石橋凌 松坂慶子
しっかしこれ、Vシネ3本分ぐらいあるんじゃないの。なんでも最終章をそのまんま映画化したんだという。長いっ。いや映画としては決して長くはないんだけど、設定がVシネのノリだし、やっぱり3エピソードぐらい入ってるんだもん。それなりにつながってはいるけれど……。
もともとこういう組織、抗争モノは人名やら団体名やら肩書きやらバンバン出てきて、ちょっと苦手なのじゃ。しかも3エピソード分だぞお。死ぬっての。
そもそもこれ2週間だけの上映ってことは、定石どおり、ソフトになった時の、劇場公開作品、というハクを狙っているんだろうし、ということはつまり、これは完全に、このワルシリーズのファンに向けて作られてるっちゅーことで、だから気にもせず、クレジットも出さずに(ほら、ヤクザ映画とかって結構名前とか肩書きのクレジット出るじゃない)進んでいっちゃうんだろうなー。ちっくしょー。
そう、これ、シリーズなのよね。Vシネではさまざまな監督や役者のコンビで作られたシリーズ。名前だけは知ってた。
ワルを観に行く、と言ったら上司が、あ、あの背中から木刀出すやつね、と言ったもんなあ(笑)。
でも、哀川翔がこの氷室に扮するのは初めてなんだよね?他の観てないから知らんが、哀川翔が一番似合ってるに決まってる。こういう役の時の彼のカッコよさときたら尋常じゃない。こういう哀川翔を、ここ最近封印気味だったのが、もったいなくてならない。
最初のエピソードは、哀川翔がメインというより、原作者である真樹日佐夫がいいとこぶんどっちゃってるって趣である。
まあそもそも、この作品の企画、制作自体、この真樹氏なんだもん。彼が実兄、梶原一騎との日々を描いた映画、「すてごろ 梶原三兄弟激動昭和史」での縁で、哀川翔を指名したんじゃないかなーなどと妄想する。そして哀川翔が三池監督を紹介したとか。なんかそういうことを勝手に想像するとドキドキする(笑)。
んで、だから、この真樹氏扮する更級は、哀川翔ふんする氷室洋二と監獄時代に出会っているという設定である。氷室がどういう罪で刑に服したかはシリーズを観てない私は知らんが、とにかく更級の男気に惹かれ、出所後、彼が仕切る世直し組織“地平同”に参画することになるんである。
世直し組織、ねえ。よう判らんけど、やっぱり任侠道の世界のような気がする。世の中を良くしようとして動くのは警察と同じ(というのも微妙だが)でも、その方法を選ばない、ってことじゃないのかな。
そして、氷室は類まれなる剣の使い手である。飛び道具の替わりにいつも木刀を背中に隠し持っている。
うーん、さぞかし姿勢が良くなることであろう。
んで、なぜこの真樹氏がさらってしまうかといえば、実にカッコよく死んでしまうからなのよ。
なんか詳細は難しくて忘れたけど(爆)、とにかく不正を許せないこの地平同を、煙たく思う闇の組織が彼を消しにきたのね。それも新婚旅行中に。
お互い、一度結婚を経験し、女の方には小さな子供がいて、それでもお互い幸せになろうと決めた矢先だった。
しかし手下が周りにいない親子水入らずの新婚旅行が、格好のねらい目になるのも当たり前なわけで。
更級は、妻と子供を無事逃げ出させた後、まさに蜂の巣にされて殺されてしまう。
しっかしこれが、20数発銃弾撃ち込まれても死なないってんだから、ここまで行くとさすがにギャグなんだけど。だって最後の方になると馬場さんかってぐらい、スローモーになるのに、無数の敵どもは周囲にワラワラと群がっているだけなんだもん。
ひょっとしてあれは、彼の気迫に押されて手が出せないとかいうことだったのかしらん。それにはちょっと演技力が足りなかったようだが……。
ここで、更級と氷室を亡き者にしようとつけねらう、殺し屋が萩原流行なんである。
それにしても、萩原氏と哀川翔はもはや盟友だよな。「修羅がゆく」シリーズでは萩原氏のキョーレツさにさしもの哀川翔の存在感も時々危うかったもん。それにしてもこれだけ競演してても、二人が素で喋ってるところとか想像できないが……。
片目をぐりぐりくりぬかれて、残った片目を失いたくなかったら、更級と氷室を始末するんだ、と言われ、彼は暗躍している。
まあそんな具合に雇い主には弱い立場なんだけど、使っている手下にはひどく厳しく、失敗したら即消してしまう。しかし、合言葉に「白木」「みのる」と言ったり(ちょっと笑った)、中国マッサージを受けている時はご機嫌で失敗を大目に見ちゃったりと、なかなかにオチャメなんである。
オチャメといえば、あれ以上オチャメな場面はあるまい!更級を消した褒美にとS女を差し出された時、両手両足をおっぴろげに縛られて、「ここが痛いのよ」とキ○タマの後ろを極太の輪ゴムでバシバシやられるシーン!
うーん、これはさすがに哀川翔には出来まい……ちょっと見たい気もするけど(笑)。
でっ。なんといってもこの第一エピソードのクライマックス、二人がついに相対するシーン、モーターボート(っていうの?あれ)の立ち乗りで、逃げたコイツを氷室が追いかけてゆくシーンが最高にカッコイイんである。
あんなちょうどよくボートが置いてあるのもなんなんだけど……。
白いコートを翻した萩原流行と、黒いコートの哀川翔。あっ、哀川翔、カッコ良すぎ……もう宙返りとかしちゃう(ま、あれはスタントだろうが)、こんなカッコでモーターボートでおっかけっこだなんて、そんな画、想像もしたことなかったけど、これがメチャメチャカッコイイ!
ドスをきらめかせた萩原流行と、背中からスラリと木刀を出した哀川翔の一騎打ち!
そして萩原流行(いや、役名忘れたのよ)は哀れ湖底から遺体で発見され、氷室は遺体が見つからないまま死んだものと断定されて数年が過ぎる……。
はー、やっと第2エピソードに行けますか。あ、その前に、この作品の特異性について先に言っとこう。
画面がね、というか映像の色というか手触りが、非常に独特なの。古い刑事ドラマのような映像の手触り。クリアじゃなくて、曇ったようなつや消し。こういう画作りは他にも見たことがあったけど、ここまで徹底しているのは初めて。ピンボケの一歩手前ぐらいまで、クリアさを否定してる。
これがなんとも言えずカッコイイ。なんだろなあ、なんか不思議な寓話性を感じるのだ。その色が、まるでクレヨンで塗りつぶしたような柔らかな手触り。
そして、独特の台詞使い。徹底して述語が略される。誰の会話においても。
「失礼を(しました)」「そういったお考えで(ありますか)」みたいな感じ。これが、作品全体に流れるハードボイルド感と、奇妙な不安を同時にあおりたてる。
ところで、氷室は高校時代の恩師、美杉麗子と暮らしている。これが松坂慶子。んでっ、んでっ!二人はソウイウ関係なの!
氷室は高校時代、ワル四天王と呼ばれていた悪ガキたちと今も親交があるんだけど、彼らと集まる時は彼女もかつての先生として同席する。さながらプチ同窓会の趣である。
他の三人は、シャバの世界で名をなし、財を成した。その中で、氷室だけが裏社会にいる。
「そこに、俺ら小市民は憧れるんですよ」と他の三人は、氷室を別格とあがめているようである。
「ワルは最後までワルってことか」苦笑交じりに氷室はつぶやく。
ところで、哀川翔&松坂慶子だが、もおー、これが……ああ、もうドキドキで鼻血出る、マジで。
この二人が恋人同士なんて設定、想像したこともなかった。
今までの、こうしたアウトローな役の哀川翔の場合さ、とにかくストイックで女の影は殆どなかったし、彼に惚れる女や、ちょっと気になる女がいても総じて若いコだったのに、松坂慶子だぜっ!!!ああ!
これが、似合ってるの!姉さん女房って感じじゃなく、哀川翔があのアウトローのまんま、そして松坂慶子は日本女性の奥ゆかしさでかしずいて、ああもう!ステキ!
たとえば、こうよ。松坂慶子からビールを注いでもらう哀川翔。ぐっと飲み干し、グラスを置いてタバコにジッポで火をつけ、ふーっと吐き、やや斜め下を見やる……ああ、判るかなあ、この流れる動作のなんとゆー、カッコ良くセクシーなことよ!!そして彼は彼女のことを、麗子、と呼ぶのだ。ああ、もうステキすぎて死にそう。
極めつけはこれである。数年間、もちろん氷室は死んだわけではなく、この事件の時効を待っていた。
麗子とはひそかに連絡をとっていたのだけれど、ある日、宿敵の桜木刑事に電話をかけてくる。米大統領のファーストレディ誘拐事件の解決策を彼は持っているといって、それと引き換えに先の事件の正当防衛を認めてもらい、大手を振ってシャバに戻ってこれるように画策したのだ。
後半の事情を知らない麗子は、桜木刑事に電話をかけたことを知って、「時効を待つはずだったのに、どうして?」と問う。
すると氷室は一言。「お前に会いたくなってな」キャー!
これよ、男は寡黙で、言うべきときはここぞのひと言よ。それで女はついていくのさあ!
ああ、騒ぎすぎて疲れてしまった……でね、ファーストレディ誘拐事件の裏には、ある剣道場の跡継ぎ息子の影があった。裏社会にいながらも剣の道を愛する氷室は、絶えずその世界にも目を向けていた。
で、この息子の計画を阻止するも、メンツをつぶされてガマンならないこの跡継ぎ息子は、氷室に勝負を願い出る。しかし氷室の腕にかなうわけもなく、完敗、彼が更級から引き継いだ地平同の傘下に収まることになる。
しかしこの跡継ぎ息子の元恋人で、彼に男になってほしいと願っている女が、またしても無謀な計画を立てるのだ。
それを阻止し、彼に花を持たせるために、氷室は命を賭してしまうのである。
というところに至るまで、またひとくさり、ふたくさりあるのだった。えーとね、一番大きいのは小沢仁志扮するブラジリアン柔術の使い手との出会いである。ごめん、彼の役名もすっぽり忘れた。
この小沢氏は、自分を拾ってくれたある高名な男に忠義を誓って、彼の用心棒をしているのだが、この高名な男(えーと、どういう肩書きだったっけな)はただのMのホモ男であり、売れっ子オカマのアキラをムリヤリ自分のものにしようとして逆に合気道で投げられ、急所をグリグリ踏み潰されると恍惚の声を上げるよーなヤツなんである。
で、このアキラを助けようと飛び込んできたのが氷室で、小沢氏と哀川翔が柔術でくんずほぐれつするわけだ。
柔術だよー。これってきっと、「東京ゾンビ」の後だよね?哀川翔もキッチリ柔術使ってるもん。あのヒドイ映画でも、役に立つところはあったんだねー(失礼、失礼)。
かくしてすっかり哀川アニキに心酔した小沢氏は、続く難題、ジャパンアルカイダの本拠地にて共に玉砕するんである。
ジャパンアルカイダという設定には思わず笑っちまったんだけど、でも案外リアルな話だったりして……でも大学の理事長を隠れみのに、その大学を拠点としている首謀者が岡田真澄というのは出来すぎなぐらい似合ってて、逆にフィクションくささがぷんぷん。いや、フィクションなんだけどさ。
学内には、迷彩服を着た“兵士”たちが、二人を亡き者にせんと待ち構えている。
薄墨を流したような闇である。次々と向かってくる迷彩服の男たち。それをたった二人で迎え撃つ。いやムリだって!
壮絶な戦いの後、俯瞰で捉える画は、その闇の藍色の中、グラウンドいっぱいに散らばって倒れている迷彩服。その真ん中に、黒いシルエットで立ち尽くす勝者の二人がいるのだった……なんかゾクリとくる。一枚の、ルポ写真のよう。
しかし深手を負った小沢仁志は死んでしまうの。
血だらけで虫の息の彼を、ようよう理事長室まで肩を貸して運んでくる氷室。ソファに寝かせ、氷室はタバコに火をつける。ひと吸いし、彼の唇にくわえさせてやる。最後の一服を。彼、ようやっとという感じで目を開き、氷室の方を見る。見つめ返す氷室。
その、薄く笑みを含んだ哀川翔の表情の、ドアップの、こんな表情の哀川翔、見たことないよ!優しげで、柔らかで、うわー!うわー!うわー!!!
すっ、素敵過ぎる……(鼻血出過ぎで失血死)。
あの笑顔の意味は、俺もすぐに後から行くよってことだったのか。
先にぶん殴って気絶させといた、岡田真澄ふんする黒幕の理事長が目を覚ます。
氷室は、拝借していた銃を彼に返す。
もう、死ぬ覚悟は出来てるんだ。彼の銃弾の前に自ら身をさらす。更級は20数発浴びても死ななかったんだと、何発受けても倒れず、うおおーと低く唸って何度も彼に木刀を振り下ろす。
いや、ありえないって、とか思うし、ギャグになりかねない(いやもはやギャグのつもりで三池監督は演出してるのかも)んだけど、哀川翔があまりにカッコよすぎてツッコむ気にもならん。それに、哀川翔ならありえるかな、なんて思っちゃうもん、ついつい。
理事長は、恐怖を瞳にありありと浮かべて叫ぶ。
「バケモノ!」
氷室をずっと追い続けて来た因縁の刑事、桜木を演じているのが石橋凌で、彼とのコラボがまた、なんともいえずイイんである。
氷室に何かあると、彼は必ず麗子に知らせてくれるし。
そしてある日、氷室は桜木をドヤ街の屋台に呼び出す。
「20年以上の付き合いになるのに、一緒に酒を飲んだこともなかったからな」
二人黙ってコップ酒を飲む。桜木がコブつきだと知って笑う氷室。「刑事だって人の子だからな」と桜木。氷室のあの笑いには、自分は麗子とそういう人並みの幸せを築けなかった切なさがあったように思う。
氷室は桜木にすべてを託すのだ。自分がすべてカタをつける。その代わりに、ドヤ街の再開発の見直しと、そこの住民たちへの雇用確保を、と。
この寂れた街の、しかし人情を愛していた氷室は、それを排除する政策に疑問を感じてた。
あの、道場の跡継ぎ息子が、そんなレベルではなく、大きく世の中を変えることを考えないのかと問うた時、厳しい口調で、「世の中を良くすることにレベルなんてあるのか」と言い返した。
男、だったんだよなー、氷室は、真の。
最後の戦いに向かう時、氷室が麗子に黙って渡したのが、自分の名前を入れた婚姻届だったのには、もー、もー、この寡黙な男の愛に胸が熱くなるんである。
今度はいつ、と言いかけた麗子に、それに対する答えは返せなかった。だって自分は死ぬと覚悟していたから。
麗子は氷室麗子として、今度こそ本当に彼を弔う。
ラストクレジットの前、あれは天国なの?氷室と更級が相対する。正面を向いて歩いてくる氷室が、カットバックされる更級に向かって、上目遣いに軽く片手を片目にそえて、軽く笑みを浮かべる。うおおお、キメキメにかっこよすぎだぜ!しかもこの画だけはきちっとクリアーなのが、非常に印象的で。
ああ、カッコよかった……これで最終章なの?もいっかい最初から戻って哀川翔でシリーズ作り直してくんないかなっ。★★★★☆