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「こ」


2016年鑑賞作品

高台家の人々
2016年 116分 日本 カラー
監督:土方政人 脚本:金子ありさ
撮影:大石弘宜 音楽:菅野祐悟
出演:綾瀬はるか 斎藤工 水原希子 間宮祥太朗 坂口健太郎 大野拓朗 塚地武雅 堀内敬子 夏帆 シャーロット・ケイト・フォックス 大地真央 市村正親 飯豊まりえ


2016/6/10/金 劇場(TOHOシネマズ錦糸町)
砂糖菓子みたいな映画で、うっわ、なんかメッチャフジテレビ制作で東宝で集英社だわ!!と思った。この三位一体はベクトルがハッキリと同じ方向を向いていて、そういう意味ではいいのかもしれない。
が、私のよーなお年頃になってくるとどうにもこうにも照れくさくて仕方ない。素直に笑ったり胸キュンしたりできたらばいいのだけれど……。
いや、恋愛映画は対象となっている年代に見ている側は関係ない筈、本来は。かつての思いを思い出したり、未来に背伸びしたりして、見られる筈。

だからこれは……そういうことではないんだろうなあと思う。綾瀬はるか嬢というだけで足を運んだが、そういう観客はけっこういると思うが、そして彼女は「海街diary」で大人のイイ女も出来るんだよ!ということを示した間口の広い女優さんだが、しかししかし……。
多分、コメディエンヌとしての彼女を見込んでの(勿論集客力もだが)キャスティングだったのだろうし、こういうこっぱずかしい役ものびのび演じる彼女はとてもチャーミングなのだけれど、その力だけではこの世界の照れくささを打破するのは難しいような。

ざざっと概略を示すと、こうよ。はるか嬢演じる木絵は地味で口下手のOL。妄想が趣味。彼女の上司である脇田課長(塚地さん)を様々なキャラクターに見立てて妄想しては楽しんでる。
友達いなさそう……と思ったのは観終わってからで、そういやー、彼女のことを気にかけている先輩はいるものの、友達、という感じの人物は出てこない。
まあそれは相手となる光正もそうではあるけれど、彼の場合は名家のおぼっちゃんであるということ、テレパスという能力が邪魔しているであろうことは容易に想像されるので……。

あ、でも考えてみれば、木絵と光正のみならず、登場人物たちが悩んでいるのはこと恋愛に関して、なのよね。高台家のきょうだい三人はみなテレパスの能力を持っているのだけれど、それによって恋愛がいつも上手くいかない、ということには悩んでいるけれど、友情だって同じことだと思うのだが、そういう話は一向に出てこないばかりか、友人は一人も出てこない。
まあ恋愛モノなんだから友情は別にいいのかもしれんが、優れた恋愛物語に魅力的な友人はつきものというもんである。あるいは、それを感じさせないほど恋愛や、他の社会との関係を密に描くモンである。没頭させてくれない物足りなさという原因をいろいろ考えていくと、そういうところに行き着く気がする。

概略を示すと言ったのに、脱線してしまった(爆)。で、そう、高台家のおぼっちゃん、光正というのが今飛ぶ鳥を落とす勢いの斎藤工氏。彼は確かに色気ダダ漏れ男だが(ちょっと唇が厚すぎるけど)、コメディはちょっと……難しい気がしてる。
いや、こーゆー役柄なんだから、そしてそれにピタリとはまる容姿なんだから、彼がコメディ演技をするという訳でもないし別にいいんだろうとは思うんだけれど、でも青い目のイケメンという、コミックの世界、その虚構から抜け出したような王子様なんだから、やっぱりそういうコメディセンスは必要なのかもしれない、と思うんである。
むずかしいよ、やっぱりコメディって。色男がそのまま色男を演じればいいってもんじゃないんだもの。

光正は木絵の妄想に噴き出し、彼女と一緒にいれば笑顔でいられる、と思う。社内外の女子社員から狙われまくっている彼だが、なんたってテレパスだからそうした汚い心が見えてしまう。
その中で木絵のとっぴな妄想と、お茶を淹れている時の細やかな心づかいの、その心が流れてきて、彼は木絵を見初めたのであった。

この図式ってはっきりと、シンデレラストーリーだよねと思う。誰にも注目されない女の子が、王子様によって拾い上げられるカタルシス。ありていに言ってしまえば、負け組が勝ち組になり、結婚すれば幸せになりメデタシメデタシ、という……。
いや、いくらなんでもそこまでは単純じゃなくって、昨今はそうしたおとぎ話の、結婚したら幸せになってオワリ、というのはどうか、みたいな議論がなされるからさ、本作でも結婚の時にはまだ屈託を抱えていて、時間と関係者とのやりとりがあって、ゴージャスなハッピーエンドじゃなくて、心を通わすハッピーエンドとなる訳だけど、でもやっぱり図式は同じよね、と思うんである。

それが悪い訳じゃないんだけど……。いや、久しぶりに見たな、と思ってさ。冴えない女の子が王子様に見初められて引き上げられる、っていう図式。
最近はようやく、日本の女性もそれが蔑視、あるいは卑下、だということに気づいてきたから、それこそはるか嬢の代表作のひとつ、「ホタルノヒカリ」だって、休日はダラダラしてるけど職場では案外デキル女だった訳だしさ。

でも木絵は……。仕事として出てくる描写はコピー取りとお茶くみと資料運び。しかも冒頭、風邪で仕事を休んで、「四日目は熱も下がって行こうと思えば行けたけど」休んで、妄想の中に遊んでくふふふ、と楽しんでいる、というんだもの。
久々にこういうOL見たなあ、と思って。実は、OLっていうのも、いつまでこの表現使うの、と思ってる。サラリーマンとOL。どちらも差別用語だと思う。だって公的な書類を書くのに、そうは書かないでしょ。会社員、って書くでしょ。これならまだ、往年のビジネスガール、BGの方が素敵だったと思うんだけどなあ。
で、四日目も悠々と休めて、特に誰も困らないこの年頃の“OL”……そのことに自己嫌悪を感じてほしいと思っちゃう。やたら大手風の会社に勤めているが、もうそれで、いいんだろうか……。

ああ、ヤだヤだ、フェミニズム野郎になっちゃう。でもさ、光正のお母さんに木絵を紹介した時も、彼女が気にしたのは名家として釣り合うかどうかのみであり、彼女の人柄どころか、仕事ぶりはどうかということさえ、触れなかったでしょ。人柄とか愛情とか、そういう部分を一切見ないことに光正やきょうだいたちは憤ったんだろうが、今の時代、お仕事は?という質問さえ出ないのは逆に差別だよ……。
そこで、地味な“OL”特に大きな仕事もしていないコピー取りとお茶くみの日々、だということに自己嫌悪を感じるんならまだしもさ!……って、こんな砂糖菓子みたいな作品でそれはムリというものか……。

ああ、どんどんフェミニズム野郎になっていく(爆)。でもこうして書いていると、なぜ私がいくらお気に入りのはるか嬢と言えども、この物語、ひいては木絵という女の子にシンクロできなかったのかがどんどん見えてきてしまう。
彼女は素直な女の子。だからこそ最初は、彼に心を読まれても、口下手な自分だからその方が安心する、と言えた。後に恋するが故のジレンマに陥って、名家のプレッシャーにも押しつぶされそうになって心を読まれたくない!とシャットアウトするようになるんだけれど、それは自分の汚い心を読まれたくない、というフツーの人間なら考えることではないんだよね。楽しい妄想も出来ない、それはイヤだ!みたいな……。

そりゃ光正が見初めただけあって、心のきれいな女の子だが、人間なんだからそりゃ計算も駆け引きもあるよ。それに対して一概に眉をひそめられてもさあ、と思っちゃう。
光正がヘキエキする社内の人間の愚痴や足の引っ張り合い、自分に対する女性の計算高さ、あるいは光正の妹の茂子が、好きな男子の恋敵から発せられる自分への嫌悪は、それこそが素直な人間の心、なんじゃないんですかい??
まるでそれを、人間の汚さ、こういう人間は選ばない、みたいに排除することの方こそ、心が狭いと思う。テレパスだからこそそうして理想も条件も高くなるのかもしれんが、じゃあ逆にあんたたちだったらそんな汚い心は持たないの?そうやって、こんな人間たちだからダメだ、という心を読まれたらどうするんだよ。

……なんてことを言ったら、この物語は成立しないんだけどさ。でも、この設定があるからこそ迎えられる人間たち、木絵や茂子の恋する浩平(坂口健太郎君)が心の中で思っていることが単純すぎて、ちょっとバカっぽく見えるというか……。これじゃ複雑なことは考えられない人間でなければ彼らのお相手にはなれないみたいじゃないのお。
もうそうなると、この設定自体を否定するような話になってしまうんだけれども……(爆)。やっぱり映画となるとさ、生身の人間が演じるから、あっさり表面だけで笑って過ごせなくなって、ついつい考えてしまう。
そこがコミックスを実写化する時の難しさだと思う。特に映画は尺が決まっている分、丁寧に掘り下げたり説明したりすることが難しい。表現方法をきちんとたがえていないと難しいと思うんだよなあ。

茂子が希子ちゃんだということを、キャストクレジットでそうか!!と……。いや、あの唇は正しく希子ちゃん以外にあり得ないのだが、髪を下ろすと印象が変わるというか……。
可愛いよねー、希子ちゃんは。弟君、和正が間宮祥太朗。あっ、あっ、「ライチ☆光クラブ」のジャイボ!!ライチ組はホント、活躍してるよねーっと思う。ひどくきれいな顔で、ちょっと唇厚すぎる(爆。しつこい)斉藤氏と違うタイプの美青年。
お兄ちゃんに恋する獣医の純ちゃん(夏帆ちゃん)に恋してるのに、その自分の気持ちを認めようとせず、小学生みたいに純ちゃんをからかいまくる。茂子も和正も恋する相手に自分の正体を明かすんだろうか??結局はそここそが大事なところだと思うんだけれど……。

でも、もう一つ、気になるところが。彼らは人の心を読める。それは読むのか、見えてしまうのか、自然に流れてくるとか、そういうことなのか。意識的に読まないとか、シャットアウトすることは出来ないのか。
彼らの能力に気づいてしまった木絵が、意識的に自分の中に関係ない映像を流して、心の中に何も思わないようにする、という描写があったが、その逆のこと、人の気持ちを読まないようにする、という、言ってしまえば最低限の礼儀が彼らには出来ないのか。

彼らはきょうだい同士ではすっかり信頼し合って、脳内会話すらしちゃうところだけれど、和正が純ちゃんに恋していることもダダ漏れなのは、彼にとってはどうなのか。そういうきょうだい間のプライバシーの配慮はないのか。そもそもこんな人の多い東京で、全ての人の心の中がただ流れ込んで来たら、精神分裂しそうな気がするが……。
そーゆーこと言うのはいかにも重箱隅つつきだとは思うが、でもテレパスとしての彼らの人物造形のちょっとした矛盾に気づいてしまうと、うわーっと矛盾がなだれこんできてしまうんだもの。
つまり、人として、人間として、納得できる造形がどういうことなのか、それだけのことで、それはとっても基本的なことなのだと思うのだけれど……。

そういやー、彼らの母親は一回、純ちゃんこそが光正の相手だとカン違いして、あなたならば、と好意的に迎えていたが、幼馴染ではあるけれど純ちゃんはしごくフツーの女の子で、母親が木絵に対する持つ違和感のような、いいとこのお嬢さんには見えないし、そういうところもつついてしまえば矛盾のひとつかなあ?

クライマックスは、まるで卒業の一人で逃げ出すバージョンのよう?に、木絵が牧師の前の誓いの場面から走って逃げて行ってしまうシーン。高台家に泥を塗る以前に、残された光正が気まずすぎるだろ……しかも周囲は彼がテレパスだなんてことは当然判っていないんだから、ただ嫁さんに(しかも彼らからすれば庶民から玉の輿に乗った娘に)逃げられただなんて、めっちゃ恥ずかしいやんか!!
んでもってその後行方不明、携帯にも出ず、というが、単に電話に出なかっただけで、隠れている場所が実家って!行方不明でもなんでもないやんか!!

しかもこの一件で会社を辞めている。実家に帰りゃ口に糊することが出来る。これが男だったら成立しない図式だよなーっ、と、またしてもフェミニズム野郎は思ってしまうんである。
間に、その能力どころか国境さえも飛び越えて運命の恋を実らせたおばあさまからの手紙という手助けがあったとしても、結局は海を渡って彼の腕に飛び込んで、つまりは結婚してハッピーエンドて!あ、ありえない。

しかも彼に会いに行くための妄想、「デンマーク人の熱血コーチ、イヤン・ヤッケ」による猛特訓の平泳ぎでドーバー海峡越え、があまりもハズかしくて、それまでも彼女の妄想は子供っぽくて(ああ、そうか……だからハズかしかったんだな)キツかったけど、せっかくのハッピーエンドのロマンチックをジャマするのには、ちょっとイラッときてしまったりして。
彼女が引っ込んでいた田舎の清冽な川の前でその妄想を前に決意するところで、そのギャグは終わってほしかったなあ。

空気の読めない高台家二代目、茂正jrを演じる市村正親の奔放さと、彼に嫁いでたたき上げの名門夫人になった由布子さんを演じる大地真央の、期待を裏切らない大げさな高慢さ。
こーゆーことをできてこその破天荒なコメディよね。彼らにはリアルと過剰のバランスが身体の中に出来上がっている。こういう時に舞台の人ってやっぱりすごいって、思っちゃう。★☆☆☆☆


後妻業の女
2016年 128分 日本 カラー
監督:鶴橋康夫 脚本:鶴橋康夫
撮影:柳島克己 音楽:羽岡佳
出演:大竹しのぶ 豊川悦司 尾野真千子 長谷川京子 水川あさみ 風間俊介 余貴美子 ミムラ 松尾諭 笑福亭鶴光 樋井明日香 梶原善 六平直政 森本レオ 伊武雅刀 泉谷しげる 柄本明 笑福亭鶴瓶 津川雅彦 永瀬正敏

2016/9/2/金 劇場(TOHOシネマズ錦糸町)
大竹しのぶがピッタリ過ぎる。そりゃあ彼女はどんな役もお茶のこの大女優には違いないが、しかしまるで、この小夜子という女がそのまま生きて、そこにいるみたい!!
確かにコメディ。個性的なキャラクターに大仰な芝居でガッハッハと笑えちゃう。でも不思議とフィクション臭さがなくってさ!

彼女は確かに女優さんで、同じ年頃の一般女性と比べればとてもキレイ、まさに小夜子というコケティッシュな女の魅力を存分にたたえている。
でもイイのは、ちゃんと年相応、というところなのよね。年相応に目じりのしわも、首の横しわも、ほうれい線もしっかりとたたえている。むしろだからこそチャーミングに映る。

20代の頃からの後妻業経歴を、ほんの瞬間ずつと言えど違和感なく乗り切って見せるのはさすが大竹さん……と半ばあぜんとする感じではあったが、もっともチャーミングなのが現在時点での小夜子=大竹氏、というのは、年を重ねてきた自分を受け入れ、自信がなければ出来ないことだと思う。時にロングヘアーに女らしさを未練たらしく求めている向きにもあっさりと背を向ける、彼女のシンボルともいえるベリーショートも含めて、ものすごくキュート。
そうか、きっとこのヘアスタイルも、詐欺的要素を担っているんだわ。女を武器になんかしてない、あっさりさっぱりした裏表のない女なのよ、と。実際は真逆どころか、裏返りまくって宇宙に飛んでっちゃうほどの“怪物”なのだけれど!!

監督さんは、なんか重鎮みたいに見えるけれど、実は映画はまだ三作目、なのね。いきなり愛ルケ がデビューだったのかと思うと、ドラマに疎いこちとらとしてはケッと思う気持ちもあるんだけれど(爆)、本作は、ああ確かにドラマで培われた演出力ってこういうことなのかもしれないと素直に思える面白さであった。
確かに原作は相当ボリュームがあったんだろうと思わせるハショリは感じる。つまり小夜子がどんどん資産のある高齢者の男性を食い物にしていった過程、である。

しかしそこを大竹氏の見事な変貌であんぐり口を開けている間に見せ切り、その過程の中の大事な部分……犯罪として暴かれる、つまり殺人の部分をとっておいて、後に探偵が追う形で徐々に全貌が明らかになる。
その方法で観客のドキドキを見事に引き出しながら見せていく、というのが上手いんで、そのハショリの感じをその時には忘れちゃうんである。ううむ、確かに上手い、上手いんだな!!

この小夜子のような女の事件は、近年記憶に新しいところにあるが、その事件で見えているのは当事者である女だけで、実際はこんな風に組織ぐるみというか、バックがついていたのかなあと思わせる。
それはともすると当事者の女だけがとんでもない魔女ではなく、本当に悪いのは黒幕だ、という風にみなされる恐れもあるんだけれど、本作はそこはハッキリと否定している。ビジネスライク、持ちつ持たれつ、あくまで保険としての安全をお互いに求めているパートナー。

それが結婚相談所の所長、柏木であり、演じる豊川悦司は監督さんの映画デビュー作、愛ルケの主演であったことを考えれば、かなりの信頼をもって臨んでいるのがうかがえる。
あの時の豊川氏はまさにトヨエツ的美しい男だったが、本作の彼は、小夜子役の大竹氏がそうであったように年相応の風貌をナマに出していておおっと思う。端的なのがお顔のシミである。えっ、あれってワザとつけている訳じゃないよね、と思ったりする。

シミがあるぐらいでイイ男が損なわれることはないし、確かにマヌケなところはあるにしても劇中、ぐんと若いホステスを二人も手玉に取るぐらいだからイイ男なのは間違いないのだが、でもあのシミだらけの顔には結構衝撃を受ける。
でも彼もああ見えて?役者バカな人だし、そんなこと全然気にしないんだろうな。彼の関西弁を聞いていると、ああホームに戻って来たなという感じがする。完璧なイイ男も勿論似合うが、関西弁のヌケ感のある彼は、やはり何とも魅力的なのだ。

結婚相談所の、いわば合コンの場を舞台に、小夜子は次々と男を、つーかじーさんを釣り上げていく。最初から本気で結婚相手を狙っている訳じゃないから、つまり柏木からターゲットを指示されているから、大きなサングラスかけてやる気なさげに浜辺で風に吹かれている様なんて、いかにも大竹しのぶって感じでサイコーである。
特にエピソードが詳しく描かれない“被害者”の男たちに、森本レオだの六平さんだの伊武雅刀だのといったツワモノが配置されるんだから、ゴーカすぎるんである。そしてメインとして描かれるターゲットは御大、津川雅彦!

その津川氏の娘たちがハセキョーとオノマチちゃん。あら、ハセキョーさん、ドラマを見ない私にとってはなんか久しぶりの感じだが(爆)、つるりとした完璧美人からイイ感じに人間臭さがついて、イイ女になった。
おっとりとした長女で、次女のオノマチちゃんが小夜子に食いついて真相を暴き出そうと暴れまわるのに比して目立たないような印象も最初与えるんだけれど、落ち着いて本質を見る目があるというか、今はもう死んでしまったお父さんの気持ちを慮る冷静さがあるのよね。
結果的には血気盛んな妹も、「お父さんが自分のお金をどうしたいかということ」という同じ結論に至る訳で、ともすればオノマチちゃんに飲み込まれてしまいそうなのに、不思議にしっかりとした存在感をつけているのが素敵だなあ、って。

一方のオノマチちゃんは期待にたがわぬ暴れっぷり、なんと大竹しのぶと取っ組み合いまで見せてくれるんだから手ぇ叩いて喜んじゃいたくなるんである。あの、やっすそうな焼肉屋でのケンカシーン、最後の方には二人ともくたびれて猫パンチ状態になっているのが何とも可笑しい。
この段に至るまでには、次女が同級生である弁護士に相談したことから、後妻業という疑惑が発覚、お抱え探偵が登場することになって事態が大きく動き始めている、という展開がある。
この探偵さんが永瀬正敏。永瀬正敏と大竹しのぶといえば、運命的な恋に落ちる逆年齢差の恋人同士を演じた昔を思い出して、二人が対峙するシーンはなんとはなしにドキドキとしてしまうんである。永瀬氏もイイ感じに枯れて、イイ感じにイイ男になった。まあ昔からイイ男ではあったけどさ。

この探偵さんはどこまで本気だったのだろう??最初に小夜子の“罪状”が予測の状態とはいえ弁護士事務所でつぶさに明らかになった時には、民事訴訟を起こすために動き始めるとはいえ、これは最終的には刑事事件として告発するところまでいくんじゃないかと(それこそ実際起こった事件のようにね!)思ったのに。

途中、探偵さんは当事者の小夜子や柏木に接触を試み、特に黒幕と断定した柏木に対しては直接交渉に出る訳さ。結果的には証拠となる取材メモは相手に渡さなかったが、奪い取った金は上下だけが見せ金で紙切れだった訳で、痛み分けではあったけれども、探偵さんは本当に寝返る気だったのか。
メモを渡さなかったことが、あの交渉に応じることでハッキリとクロだと断定させるつもりだったのかもとも思わせ、その上でしたたかに自分の報酬も確保する、みたいな。違うかな。ちょっとそのあたりは判然としなかった気はする。
永瀬氏はこのコメディタッチの中で、やはり彼は彼、謎めいたシリアスを崩さなかったからさ、余計判んないのよねえ。

柏木は探偵さんの追及を“本気”と感じ、しかし小夜子はそれを鼻であしらう。確かに小夜子は甘かったかもしれんが、このあたりになってくると、かつてのハッキリとした犯罪行為……ターゲットを事故と見せかけて崖から突き落とす、といった過去回想が小出しにされてくる。
現在の彼らはそんな危ない橋は渡らず、持病持ちの高齢者をあくまで自然死に見えるやり方を狡猾に遂行しているのだが、やはりその最初は若気の至り、というところだったのかもしれない。だからそのあたりを突かれると、実際に手を下した柏木がビビり出すのもまあ当然で……。

で、小夜子の息子登場。風間君ですかあ。このトンでも母に育てられた……という記憶もないであろう気の毒な一人息子ではあるが、“いきがってる息子”というのが、常に歯をかみ合わせていちゃもんつけまくる感じとか、凄くいっしょうけんめいキャラづくりで、なかなか見ているのがツラかったり(爆)。
上手く肩の力を抜いて笑わせてくるベテランたちの中で、さすがの彼も、なかなか闘いきれず、という感じだったかなあ、という気がしている。

母と取っ組み合いのケンカして、ちょっと気絶しただけなのに殺したとパニクって、ついでに柏木もパニクって(爆)、トランクで運び出そうとしたところに都合よく(ホント、都合よすぎる(爆))パトカー登場。
でも死んでなくて、パッカーンと登場した小夜子がいつもの小悪魔フェイスで「私、被害者ですねん」と困ったような顔をするのにはお約束だなー、と思うが笑ってしまう。

なんかもうこの時点で、何一つ解決はしてないけど、大団円だな、と思うのはあながち間違いでもなく、そこから時間が飛んで、ハセキョーオノマチちゃん姉妹が穏やかに暮らしているところに、仏壇の奥から突然“最新の遺言”が出てきて大騒ぎになる。
この最後の男だけは騙されていることが判っていたのだ。そしてそれを楽しみ、娘たちにはきちんと約束の分を残してくれた。

と、いう感じでいくと、面白いキャラを何人か取りこぼしてしまう。小夜子が夫の貯金を解約するためにだまくらかす銀行の行員、梶原善と菜葉菜嬢。特に梶原善はまるで三木のり平みたいなとぼけた感じがなんともイイ。
そして忘れてならない鶴瓶師匠。なんとあの怪物小夜子をトリコにした男。そもそも柏木が紹介する文言がイイ。「ホテイさんみたいなイケメンやで」一瞬、まさか布袋寅泰のことじゃないでしょうねと思ったりしたが、やはりそこはオオサカですから。
「通天閣、いやスカイツリーや!」と“サオ師”のコイツにすっかりヤラれるという下ネタ(爆)。しかしそれがしっくりきちゃうのが大竹しのぶであり、そのホテイさんなるお相手が鶴瓶師匠だというのも最高中の最高なんだもの!

小夜子は柏木が用意した偽ブランドに気づかず、無邪気に喜んだり高い金で買い取ったり。怪物だがなんていうか基本バカというか。
その魔力で男をトリコにするけれど、釣った魚にエサはやらない、というかそもそもそんな能力すらない、といった感じで、良き妻なぞ演じない。散らかりまくった部屋を見て柏木が眉を潜め、料理も作らないのか、飯もたかないのか、と言うと、コメをとぐなんて手が荒れるわ、とあっけらかん。

このあたりは詐欺商売とはいえ女の役割を古典的に押し付けるのか、というフェミニズム野郎の感覚がぴくぴく動くところでもあり、そういう意味では小夜子の態度は留飲を下げると言えなくもない。
でもプロの詐欺師、最後まで周囲も騙しきるというんなら、そのあたりも周到であるのがプロということなのかな、という気がしたりもし……だからこそコメディなんだろうけれどね。★★★★☆


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