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「ち」


2001年鑑賞作品

チアーズ!BRING IT ON
2000年 100分 アメリカ カラー
監督:ペイトン・リード 脚本:ジェシカ・ベンディンジャー
撮影:ショーン・モーラー 音楽:クリストファー・ベック
出演:キルスティン・ダンスト/エリーザ・ヂュシュク/ジェシー・ブラットフォード/ガブリエル・ユニオン


2001/8/28/火 劇場(渋谷シネマライズ)
的確な邦題と、血が騒ぐ予告編で観たい気持ちをまずはぎゅーっと掴まれ、そして実際に観てみると、明快なキャラクターとストーリーで、久々に元気のいいアメリカのティーンムービーを観たなあ、という爽快さで、満足、満足。ドラッグだ、セックスだというティーン映画にウンザリ&ガッカリする昨今だから、こういう映画はやはり嬉しい。チアリーディングは、ちらりと見たことはあるし、話には聞いていたので、じっくり見てみたいという気持ちはあったけど、本当に、想像以上にアクロバティックで、華やかでショーアップされててカッコいい!びっくり!男の子がメンバーの半分を占めるというのも知らなかった。でもやっぱり女の子がメインなんだね。男の子が半分占めてて、でも女の子が完全にメインで主導権のスポーツ(だよね、やっぱり)って、珍しいんじゃないかなあ、そういう意味でも嬉しい。

キルスティン・ダンストというと、私の中ではいまだに「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の彼女であり、もちろん「ヴァージン・スーサイズ」はあったけど、あの時には五人の女の子の中の一人だから、あまり識別してどうこうという意識がなかったのだが、今回改めて彼女をじっくり見ると、うわー、大人になっちゃって、と驚いてしまう。キャラはみょーにキャンキャンしているんだけど、この子ってちょっと顔が怖いのよね……色の薄い眉と三白眼気味の目のせいかしら。どこかダリル・ハンナに通じるようなこの顔の怖さ。

新リーダー抜擢に浮かれて有頂天のトーランス(キルスティン・ダンスト)が、最初の練習で張り切りすぎて、メンバーの一人を負傷させてしまう。大会予選まで間もない中、オーディションを開催。自意識過剰な奇人変人大集合で、大いに笑わせてくれる場面。優雅なバレエを踊りだす男の子や、セクシーパフォーマンスで目の前にお尻を突き出す女の子に目を白黒させるメンバーたち。そんな中、非凡な才能を現した、体操少女の転校生、ミッシーが新加入。しかし彼女、トーランスたちの練習を一目見て、「これはパクリよ!」と爆弾発言。その証拠を見せてあげるとトーランスを連れて行った先は、チアリーディングでは無名の学校、クローヴァー。しかしそこで繰り広げられているパフォーマンスはまさしく今自分たちが練習しているものであり、しかもその技術は非常に高かったのだ。

というわけで、トーランス率いるトロスとこのクローヴァーズが宿命のライバルチームという展開になる。トロスは5年連続優勝に輝く伝統のチーム。そのプレッシャーがトーランスに重くのしかかるが、盗作演技を許すわけにもいかない。時間がない!一方のクローヴァーズは、今までトロスに受けた侮辱に対する反発も手伝って、今度こそというエネルギーがものすごく、しかも黒人特有の素晴らしいバネを存分に使ったパワフルな演技は、まさしく脅威のライバルチーム。困り果てたトーランスは卒業生のボーイフレンド(役名忘却)に救いを請い、振付家を紹介してもらうが、これがクネクネダンスを伝授するナルシスト野郎で、しかもとんでもないことにそいつはそのヘタレパフォーマンスを複数の学校に売りつけていたのだ。予選でそれが発覚し、トロスの、そしてトーランスのプライドはズタズタになる。しかし昨年の優勝校という特別枠で、本選には行けることになった。この短い時間の中で、新しいパフォーマンスを、しかもトーランスの名に恥じないような、クローヴァーズを打ち負かせるような斬新で完成度の高いものを考え出さなくてはならない。チーム内では分裂も始まってしまった。どうする、トーランス!

新メンバーの異端児、ミッシーが、このちょっと頼りない新キャプテンを何くれとカヴァーする親友となるのが頼もしい。最初にオーディションに現われた時、口さがない連中からレズだと揶揄されたのは、ぱっと一目見たときに、女の子がホレてしまいそうな、独特の力強さとセクシーさがあいまっていたから。腕に描いたタトゥーをぐいっとこすって落書きよ、と言い放つ挑戦的な登場シーンから、そのカリスマ性ともいえる強烈な個性がビシバシ。彼女はトーランスと自分の兄、クリフがちょっとイイ雰囲気になったのも敏感に察知し、トーランス本人よりも先に彼女の気持ちに気づき、そちらの面でも後押しする。見た目と違ってデリケートな気持ちも察知する、優しい女の子なのだ。

トーランスのボーイフレンドだった男は先般のアクシデントでトーランスを励ますどころか、君はリーダーに向いてないのかも、などとそれも心配しているような口調で諭す最低ヤローで、しかも大学に入ってからは浮気のし放題。トーランスもこの期に及んでようやくこいつの本性に気づき、そしてクリフへの恋心も自覚し、こいつとキッパリ別離。クリフにはまだ誤解されたままだけど、大会に向けて一直線に邁進する!

クリフは、ロックおたく(ファンというより、そういう感じだよな)の男の子。ちょっとシニカルで同級生をケムに巻くあたりはミッシーと兄妹だというのが納得できるような感じで、ノーテンキなアメリカンボーイだったトーランスの元カレとは随分違う。トーランスと妹のミッシーが情熱を傾けるチアリーディングに対しても、結構斜に構えて見ているのだけど、トーランスへの恋心と、この腕っぷしも鼻っ柱も強い妹に感化されて、次第に彼女たちの応援に熱が入る。トーランスに送った愛の告白のデモテープ、実に古典的で可愛らしい。しかもそのテープにノリノリで踊りまくる(だって、ノリノリのロックなんだもんね)トーランスもまた可愛い。

クライマックスの大会本選。控え室での、女の子たちの緊張の描写が、突然相手の顔に吐瀉しちゃうとかいう、トホホ笑いな点描も加えつつ、次第に本番に向けて気持ちが盛り上がってくる。直前まで資金不足で本選出場が危ぶまれたクローヴァーズは、トーランスの援助も拒絶して、自分たちの力でテレビ番組の援助を受け、優勝へと闘志を燃やす。トーランスと、クローヴァーズのリーダー、アイシス(ガブリエル・ユニオン)は互いにライバル光線バチバチながらも、お互いの弱点を指摘しあったりして、アイシス曰く「心が通じ合った」。そしていよいよ本番!お互いのチームのハイレベルさに目を見張るのも大納得の、迫力のパフォーマンス!陽気で楽しくて、パワフルで、なのに、なぜか、本当に判らないんだけど、涙が出てきちゃうんだよなー。何で、何で?

結末としては意外だけど、見ると納得のクローヴァーズの優勝。二位に名前を呼ばれて、トーランスは一瞬あっ、という顔をするものの、すぐに、二位なんてすごい!と飛び上がって喜び、チームのみんなも彼女の気持ちを汲んでキャーキャー叫んで喜ぶのがカワイイ。念願の初優勝を勝ち取り、感激のアイシスは、トーランスのもとへ行き、お互いをライバルとして称え合う。いやー、じっつにセイシュンだわッ、と単純ながらも涙してしまうのだー。いいね、イイネ!★★★☆☆


チェブラーシカCHEBURASHIKA
1969〜1974年 64分 ロシア カラー
監督:ロマン・カチャーノフ 脚本:
撮影: 音楽:
出演:

2001/9/4/火 劇場(渋谷ユーロスペース)
ぴあの読者の広場で、“可愛くて涙が出る”というお便りの大絶賛ぶりに惹かれて観に行った。チェブラーシカという名前の意味が、オレンジを食べ過ぎてすぐ倒れてしまう“ぱったりたおれ屋さん”という意味だというキュートさにまずクラッときて、“とぼとぼ”という言葉をそのまま形にしたようなチェブラーシカの造形と動きにクラクラッとくる。こういう可愛さは計算しては出来ないだろうな、という、ふんわりあったかな動きのパペットアニメーション。日本ではパペットアニメーションってあんまり聞かない(ひょっこりひょうたん島って、そういうのに入る?)のは、妙に器用に絵の上手い人が多いから、絵のアニメーションの方が発達してしまったせいかなあ?

1964年から1974年にかけて製作されたというから、まさしくロシアではなくて、まだソ連だった時代。こおんなカワユイキャラアニメがあの大国を席巻していたなんて、想像するのも楽しい。なんと言っても、このチェブちゃんは国民的キャラクターとして知られているぐらいだというんだから。果物屋さんのオレンジの箱から出てきたチェブラーシカは、正体不明の動物だということで動物園にも引き取ってもらえない。自分が何者なのか判らず、落ち込むチェブラーシカは、動物園でワニとして働く(笑)ゲーナの“友達募集”のチラシに誘われ、そこに集まった一人ぼっちの人たちみんなと出会う。友達を作りたい人たちが集まる家を建てようと、みんなで一致団結して頑張っているうちに、そんな建物など必要なくなるほどみんなと友達になれるんだけど、そう言われたチェブラーシカが、「じゃあ、これまで頑張ったことは無駄になるの?」とショボンとする様は、そのマトハズレな部分も含めてチェブラーシカの愛らしさを雄弁に象徴していて、思わず頭をなでたくなっちゃうんだなあー。

動物園でのお勤めが終わると、きちんとシャツとコートを着込んだ紳士然とした姿で帰宅するという設定が素敵過ぎるワニのゲーナ。盤をひっくり返しながら一人でチェスをしている孤独さがやたら似合っている彼。しかし、チェブラーシカと親友となった彼は、二人で子供の広場を作ったり、一緒に旅に出たり。そんな彼らを意味もなく邪魔するのが“悪いことをすれば有名になれる”と信じている、それが実に純粋に信じているので、何故だか憎めないシャパクリャクおばあさん。ハンドバッグの中にネズミを隠し持ってみんなを脅かし、旅に出たゲーナの切符を奪って彼らを戸惑わせたりするんだけど、人間の作ったワナに彼ら三人がハマってしまうと、「チェブラーシカをこんな目にあわせて!」なんて言って、そいつらをとっちめに行ったりと、あらららら、おばあさん、チェブちゃんが好きなんじゃん!と妙に可笑しい。

チェブの可愛さはもちろんだが、私はゲーナの哀愁にしびれたなあ。アコーディオンの名手というのも、その哀愁のあるロシア音楽がめちゃくちゃハマっているんだもん。わにさん、というのがぴったりの、大人びた可愛さのある造形で、そのいでたちもとてもダンディ。シャパクリャクおばあさんのネズミにおびえたり(ちなみにチェブラーシカは平気)、人間の子供たちのピオネール(ボーイスカウトみたい?)に入るためにぶきっちょに小鳥の巣を作ったりと、どこか子供っぽいところもありつつ、遊び場のない子供たちを危険から救ったり、その子供たちのために遊具を置いた遊び場を作ってあげたりと、とっても頼もしかったりするのが素敵なんだ。ピオネールのために鉄くずを拾うのに、海辺に停泊している船の碇を、そのバカ力で引きちぎってっちゃうのはやりすぎだが……(笑)。そうそう、この遊び場を作るためにコンプレッサーを持ち出していたゲーナに警官が質問するんだけど、はい、盗みました、とあっさり答えるゲーナに思わず目がテン!そこをすかさず親友のチェブラーシカが、これこれこういうわけで……と警官に説明すると(うーむ、かわゆい顔をして、フォローが上手いぜ)、そういうことならご心配なく。私がこれを戻しておきましょう、とこれまたあっさり不問に付すあたりが、好きだなー!

シャパクリャクおばあさんが途中で割り込んできたチェブラーシカとの旅の途中、川の汚染に出会い、それを速攻の行動力で解決するゲーナも素敵ッ!子供たちからプレゼントされると、「君たちにあげられるものを何も持ってない……」というゲーナに、子供たちは「どうして?きれいな川をくれたじゃない」とニッコリ。いい台詞だ!そして3人仲良く列車の屋根に座って、シャパクリャクおばあさんに請われてゲーナがアコーディオンを奏で、その哀愁のメロディとともに画面の奥へと消えていく。

紙や布のあったかい手触りで作られた、絶妙にシンプルな背景の中で、こうしたキャラたちが一生懸命動き回るのに、自然と笑みがこぼれてしまう。オフィシャルサイトのチェブラーシカが、サイト特有のそのぎこちない動きで、本当にチェブそのもので、むちゃくちゃカワイイ。キャラグッズがバカ売れして、品薄で追いつかないのも納得。チェブちゃんのぬいぐるみなら私も欲しいもんなあ。それもしょぼんとした顔のとかが欲しい……そんなの、作ってくれない?★★★☆☆


痴漢電車 さわってビックリ!
年 分 日本 カラー
監督:榎本敏郎 脚本:河本晃
撮影:中尾正人 音楽:
出演:川瀬陽太 麻田真夕 葉月螢 佐野和宏 十日市秀悦 あ子 鈴木敦子 泰国雄 小林節彦

2001/10/26/金 劇場(中野武蔵野ホール/P−1グランプリ)
全作品は観られなかったものの、観た中では相当気に入っていた田尻監督今岡監督の作品が負けてしまったことが残念だけれども、でもやっぱり決勝に残るものにはそれだけの力があるのね、と納得。この榎本監督の作品は、その私が一番好きだった今岡作品を破ったわけだが、今岡×瀬々の対決になっていたら、作品のカラーはどちらも重めだったから、瀬々作品より全くカラーの違う本作品が決勝に残ったのは、良かったのかもしれない。何にせよ、ピンクということに限定せずとも、こんなに胸キュンな映画を観たのは久しぶりだあ、って気がした。こういう映画に、私はコロリと弱い。大御所、瀬々作品の難解さよりも、こちらの可愛さ、胸キュンさを支持して榎本作品に一票を投じたけれど、王道な映画好きの方が数を占めていたと見えて、瀬々監督の勝利となってしまった。何となく予想はしていたけれど、やっぱり残念。瀬々作品は映画祭とか、映画賞とか、そういうのでは確かに支持されそうな意欲的な作品だったけれど、単純に、本当に心に響いて楽しめるという点では榎本作品の方が秀でていたような気がしたから……まあ、ただ単に私の好みに合致していただけかもしれないけど。

満員電車の中で誘いをかけて触らせ、その隙にスリを行う女の子、明日香。……という設定は、おお、黒木和雄監督の「スリ」と同じだあ、と嬉しくなる。そういう手合いは結構いるのかなあ。明日香は見るからにドンくさそうなサラリーマン、祐二からサイフを抜き取るものの、その明日香から同業者の梅田が彼女のサイフ(手帳?)をスり、祐二のポケットにそれを入れてしまう。ゆえに明日香は祐二をスリの手だれとカン違いし、彼の部屋に押しかけ、相棒になることを強要するんである。自分の働くコンビニをわざと襲わせたり、しかしそこの店長が金に困って店を畳もうとしていることを知ると、この店長を助けるため、今度はヤクザまがいの街金から金を強奪したり、かなりメチャクチャである。しかしメチャクチャなんだけど、必要な金以外は相手に返したりして、「こういう贅沢に慣れると、後が大変だよ、殺されるよ」と祐二を諭したりする。その妙なところでシッカリしているのも、カワイイんである。彼女は途中、祐二がスリではなかったことにも気づくんだけど、「コンビは信頼が大事なの」と気にする風もない。

強引で、メチャ明るくて、行動的なこの女の子、明日香がとにかく可愛い。演じる麻田真夕嬢はピンクは初出演だと言っていたけれど、演技経験はあったのかなあ、ちょっと驚くぐらい上手い。「(婚約者の)由実子さんにはナイショにしてやるよ」なんて男っぽく、いたずらっぽい物言いもチャーミングで、それだけではなく、彼女の孤独さをふっと感じさせる、時々見せる淋しげな表情が、えッ、と思うぐらい上手いのだ。例えば祖母を祐二に預けて一人しゃがみこんで遠くを見ている、ちょっと疲れたような表情とか、由実子が他の男と仲良さそうに歩いているのを見た時の複雑な表情とか。

明日香と祐二はお互い惹かれあっており、熱を出した明日香を祐二が看病した時に、ついに寝てしまう。しかしその後明日香が、由実子が男と歩いていたことを話すと、明日香が彼をつなぎとめるためのウソをついていると思った祐二がつい口をすべらせて「お前と寝て損したよ」なんて言っちゃう。彼はうろたえて謝るんだけど、明日香は毛布を引っかぶって彼を会社へ行くように促す。彼が出て行った後、その毛布からちらりと覗かせる哀しい、淋しい顔が、ドキッとさせるのだ。

しかしその後にはいつもの彼女に戻って、サボってた祐二にじょうろで水をふりかけ、由実子が男と歩いていたと言ったのはウソだと、それこそウソを言い、明るさを装って、もう一度だけコンビを組んでくれないかなあ、と言う。祖母の具合が悪くなったから、たった一人の身内である彼女が面倒を見るため、実家に帰らなければならないのだという。そのために、あちこちに作っている借金を清算するためにお金が必要なのだと。しかし祐二は、彼女に惹かれている自分を確信してしまったから、由実子への申し訳なさが先に立ってしまって、「由実子は俺を信じてくれてる。裏切れないんだ。ごめん!」と明日香に頭を下げる。「やだなあ、深刻にならないでよ」と明日香は笑って言い、水をまきながら去って行く。その後姿が、泣いているように思える。彼女がまく水が、涙のように思える。

明日香は梅田と組んで仕事をし、金を手に入れる。祐二が去ってしまったことでヤケになったのか、彼女は梅田を誘うけれども、「俺は仕事に私情は挟まない」と拒否する梅田。そして「あの素人の兄ちゃんにホレてるんだろ」と彼女の図星を突く。梅田を演じているのがかの佐野和宏氏なので、これまた上手いんだ。彼は彼女のために一肌脱いでやる。登場で祐二のポケットに明日香のサイフor手帳を入れた時のように、今度は彼女の出発する列車の時間を書いたハーモニカを祐二の内ポケットにぶつかりざま、忍び込ませるのである。その梅田の後ろから、滝刑事が追ってくる。見つかったかと逃げる梅田。しかし、そこで滝刑事が言った台詞は何と!「お前と一緒にいたかっただけなんだよー!」大爆笑!それに彼ったら、梅田の手をすりすりといとおしそうになでたりして、梅田は鳥肌状態!?ああ、でもさ、それこそ黒木監督の「スリ」の時にも、原田芳雄のスリを追う刑事の石橋蓮司の側にはそういう感情を感じたもんなあ。あるいはこういう場面を私も見たいと思ってたかもしれない!?

一方、このジッポを託された祐二は、見送りに行くのかと思いきやそうではなく、「神様、一度だけ俺をホンモノのスリにして下さい」とつぶやき、車から出てきたばかりの男にぶつかって見事にキーを手に入れる。何と何と!彼は彼女の田舎まで追いかけようっていうんである。きゃー!いいなあ、こんなことされてみたい!目にも柔らかい水田風景が続くおだやかな田舎道を、祐二はぶっ飛ばす。いかにも田舎の、小さな小さな駅に、2両編成ぐらいの小さな列車が到着し、そのホーム脇に祐二の乗った車が滑り込みセーフ!降りてきた明日香はそこに祐二がいるのにビックリして、「何やってんの!?会社は?ちゃんと休むって電話したの?」とこんな時まで妙なシッカリぶり。そんな彼女に近づき、キスをして「会いたかったんだ」と言う祐二に、明日香はこれ以上はないぐらいに嬉しそうな笑顔で「ばぁか」と答え、しっかりと、ぎゅうっと抱きしめあう。ああー、良かったあ、良かったねえ、明日香!と素直に思える可愛いハッピーエンド。心、ときめいちゃったなあ!

祐二を演じる川瀬陽太氏は、本当に数多くのピンクに出てて、今回のP−1作品でもしょっちゅう彼の姿をスクリーンに拝見したんだけど、例えばこの祐二役と、瀬々作品の役とも、全然雰囲気が違ってて、顔を覚えるのがもとより苦手な私は、しばらく別人物かと思ってたぐらい(……それもまた、私の識別能力にかなりの問題があるんだけどさ)。ほんとに、本作はキャスト全員がほんと上手くて、このテンポの良さが本作の小気味よさなんだけど、そのテンポの中にも、しっかり気持ちが入っているというところが素晴らしいんだ。役者の上手さと作品の良質さが、とても良く昇華された秀作!★★★★★


チキンランCHICKEN RUN
2000年 85分 イギリス カラー
監督:ピーター・ロード/ニック・パーク 脚本:ケイリー・カークパトリック
撮影:デイヴ・アレックス・リデット 音楽:ジョン・パウエル/ハリー・グレッグソン=ウィリアムス
声の出演:メル・ギブソン/ジュリア・サワラ/ジェーン・ホロックス/イメルダ・ストーントン/ベンジャミン・ウィットロウ/リン・ファーガソン/ミランダ・リチャードソン/トニー・ヘイガース/ティモシー・スポール/フィル・ダニエルズ

2001/4/19/水 劇場(みゆき座)
だーい好きなアードマンアニメーションの筈なのに、そして決して面白くなかったわけじゃない、ハラハラドキドキ、楽しかったのに、妙に冴えない点数なのは、ああ、一体何故??思えばシネ・ラ・セットの独占状態で、満杯の観客の歓声に包まれてたあの頃がウソみたいに、全国メジャー展開は嬉しいけど、逆にこの観客の少なさは、ああ、一体何故??アードマンアニメーションにはいまいちしっくり来ない宣伝展開で、日比谷の最後方のみゆき座なんぞに追いやられて、そりゃ劇場はおっきいけど、それじゃお客さんなんて入んないよー。ハリウッドと手を組んだ、数々の娯楽映画にオマージュが捧げられている、痛快なアクションとユーモア、そして感動。そんな視点でばかり宣伝されちゃさあ、やっぱり違うと思っちゃうよ。アードマンアニメーションの魅力はクレイアニメのあったかい動き、そのぬくもりのある可愛さ、そしてチクリとしたシニカルさ、そのギャップがますますカワユさを引き立てるという、そういう非常に繊細な部分がまずあって、その上でのこうした作品展開なんだし、それを全く取りこぼしたまま、アニメで、スケールで、とガンガン来られてもさあ……。

と、言ってはみたものの、ううッ、だって、キャラクターが、……あんま可愛くない。これは私にとってはかなりの致命的であった。ビデオを買うまでホレこんでしまった「ウォレスとグルミット」も、「快適な生活」や数々の短編、アニメーションも、アードマンの良さってなんともいいがたいキャラクターの可愛さがまずあったと思うんだよなー。喋んないグルミットにしても、あきらめの色濃いクマにしても、その静的可愛さ、そのキャラがまずは静のなかで微妙な表情を見せてて、ホントにそれは粘土ならではのやわらかい動きで、それにハートをぎゅっとつかまれたんだけど。それがあってこそ、グルミットがそれこそ勇猛果敢なパイロットになったりといった、豪快な展開になって拍手喝采、とこうなるわけだけど……本作、それがないとは言わないけど、でも、うーん、うーん……。正直言って、今までに感じられたほどのやわらかさがない。クレイアニメでこれほどの群像劇は確かに驚くべきことだけど、今までのようにひとつのキャラに愛着を持って見つめ続けることができない。もちろん、アードマンだからこうあるべき、なんて、そんなの一介の映画ファンが言えることじゃないわさあ。そんなことは判ってる、判ってはいるんだけど……。

そっか、私は喋んないキャラ=グルミットがもたらす、あの表情の豊かさにホレてたのか。喋んないのに、イギリス式シニカルユーモアさえも繰り出しちゃうその豊かさに。私の中にはアードマン=「ウォレスとグルミット」って図式がどうしても存在しちゃうからなあ。ナルホド本作がハリウッドものっていうのは、確かに実に正解だったんだ。なぜって、もうみんなしゃべくりキングなんだもん。もしかしてそのしゃべくりに気を取られて表情を見逃してたかもしれない?だってその上に常に動き回るアクションにつぐアクションでしょ?それこそがもちろん表情ではあるんだけど……。ほんとナットクなんだよね、ハリウッドでしゃべくりでアクションって。表情よりもセリフでドラマが展開してる。ヒロインチキンのジンジャーは、ただ玉子を産んでしまいには食べられちゃう、この監獄の養鶏場を逃げ出そう、自由を勝ち取るために、と主張、主張でみんなを先導してて、その“自由”のためならなんでもやっちゃう、ってあたりの思想はまさしくアメリカ的だし。あるいは、ウソつきではないけれど、本当のことを言わなかったお調子モンのヤンキー雄鶏、ロッキーなんて、しゃべくりアメリカンの、まさしく象徴だもんね。セクシーなお声のメル・ギブソンはあまりにもハマリ役だったが……ホント、彼以外のキャスティングはちょっと思いつかない。

しかし、アメリカ側のゲスト、メルもそうだけど、土台を固めるイギリス声優陣の、まあ見事なこと!ミランダ・リチャードソンに「リトル・ヴォイス」のジェイン・ホロックスなんて、ぜえんぜん知らずに観てたよ(笑)そのあたりは予備知識を得てから観ればよかったかなあ、残念。でもね、吹き替え版で観ればよかったかも。私は結構吹き替え版が好きなのだ。「トイ・ストーリー2」は、前作が字幕にジャマされて画面をとっくり堪能できなかったから、吹き替え版で観たのが大正解だった。主役二人の声も良かったしね。んで、オフィシャルサイトのBBSで、子供向けだから吹き替え版上映が多いのかとか、やたら憤ってる人とかいるんだけど、まあ、それはメルのファンだったりするせいかもしれないんだけど(笑)、それは違うよー。外国映画は字幕が優勢の日本は、オリジナルの声を重視するという意味で、それも含めてオリジナルだということで、確かに理解ある国だという見方もできるけど、その一方で、字幕が画面を汚しているのはやっぱり否定できないし、しかもセリフの一部しか伝えていないというのも真実だし。どちらがオリジナルを大切にしているかって言えば、それはどちらとも言えないというのが本当のところだもの。吹き替え版=子供向けという理解の仕方こそが、映画に対する、あるいは映画を送り出す側に対する無理解や思い込みだと思うんだけどなあ……“送り出す側”がどう考えてるかは知らないけど。

確かに言われりゃそうかと思う、チキンパイマシーンの中の痛快なアクションは「インディ・ジョーンズ」ばりの大迫力、コワい女主人の目を盗んでしこしこ手製の飛行機を作り、夜空へ羽ばたくのはなるほど「E.T.」なわけかあ。あのクライマックス場面で、ヒロインチキン、ジンジャーが、綱にぶら下がってくる女主人と格闘して、あわや、と思ったら、実は彼女の手元でもう綱がちょん切られてて、バーイ、てな感じで手を離すじゃない。あれって、あのジンジャーが女主人がぶら下がってる綱を片手(片羽?)で支えてたってことだよねえ、チキンが人間一人の重さの加わった綱を……えっらい馬鹿力のチキンだわなあ。

ニック・パークが「ウォレスとグルミット」の新作を用意しているという。初の長編らしい、というのがちょびっと今回のようなことになるのか、と不安だけど、でも、ああ、グルミットに会いたいッ!と本作を観てすっごく思ってしまった。★★★☆☆


父ありき
1942年 94分 日本 カラー
監督:小津安二郎 脚本:小津安二郎
撮影:厚田雄春 音楽:
出演:笠智衆 佐野周二 津田晴彦 佐分利信 坂本武 水戸光子

2001/3/23/金 東京国立近代美術館フィルムセンター
その昔、「東京物語」や「秋刀魚の味」などを観た時には、なんだかピンとこなくって、私は小津監督は苦手だなあ、などと正直思っていたんだけど……。ある程度映画を観る経験を積み重ねたことによって判ること、いや、それよりもなによりも、ある程度の年齢を積み重ねなければ判らないことっていうのが、確かに存在するのだ。名作や名匠の作品は、若いうちに観た方がいいと言うけれど、本当にそうだろうか。私は本作を観て、小津監督にはこの歳になってから出会いたかったな、と思った。きっと、10代の時には感じることの出来なかったことを全身で感じることが出来ただろう。苦手だと感じてしまっていたから、その時からほぼ10年という間、小津作品とはご無沙汰だったのだもの。そして、笠智衆、どこがいいんだか今ひとつわからなかっただなんて、やっぱり若さのせいだったのだ。笠智衆にホレこむなんて、なんて今更……。彼を見ているだけで、幸せな気分になって、涙が出てきそう。

妻を若くしてなくし、父一人息子一人で暮らす親子。信州の田舎町、父親は中学教師だが、修学旅行で生徒を溺死させてしまい、責任を感じて辞職。里に帰ってお役所づとめを始めるも、息子に充分な教育を施してやりたい一心から、そこの寄宿中学に息子を預けて東京に出る。一緒に暮らせる日を夢見ながらも、ずっと別々に暮らし続ける二人。かえるの子はかえるで、息子がやはり教員となり、しかし父親と暮らしたいと、その秋田での教員の職を辞して東京に出たいと言うのを父親は得た職の大切さを諭して断る。年に数度、温泉に出かけて、こうして会えればいいじゃないか、と。

若い時の父親も、歳を取ってからの父親も、ああ、これぞお父さん!と呼びたくなる笠智衆のなんという素晴らしさ。42年の作品だから、まだこの時には38歳かそこら(!)、だから。前半の若い父親は勿論違和感なく、しかし後半の歳をとった父親がなぜこうも、ああ、なぜこんなにも、しっかり“お父さん”なのか。修学旅行先で死なせてしまった生徒のことをずっと気にやんで毎年その家にお供物を送り、息子のことを心配し……。上京しているかつての教え子たちが、彼と、やはり東京に出てきていたもう一人のかつての同僚教師を招いてささやかな宴会を開く。もう二度と教師にはなりたくないと、人の子を預かることが恐ろしくなったと言っていた彼が、しかし、こうして教え子たちが立派な大人になり、中には4人の子持ちなんて者までおり(この告白場面は、爆笑!)、ああ、こんな風に幸福に思える時がくるのだと、万感の思いで杯を傾ける。同僚教師が、ほら、あなたが学校を辞めるとき、詩吟を聞かせてくれたでしょう、と、促し、彼はそれに応えてろうろうとのどを鳴らす。その教師は思わず涙を流し、教え子たちも神妙な様子でじっと彼の詩吟に聞き入っている。詩吟なんて全然判らないし、そこでうたわれているのがどういう内容なのかも判らないし、この教師のようにその時歌われた詩吟の場面を見ているわけでもないのに、なぜこんなにも胸に迫るのだろう。泣きそうになってしまうのだろう。

この時、息子が東京に徴兵検査に来ていて、しばらく滞在している。こんなにも長く二人で過ごせるのは、昔父親が教師をしていて一緒に暮らしていた頃以来だ。この幸せな同窓会から帰ってきた父親は息子に、あんなふうにして教師を辞めたけれども、あの時の子供たちが立派に成長しているのを見て、幸福に思えることもあるのだと、とか、そんな風に言って、とてもとても満足そう。徴兵検査で甲種になったお前のことを、皆も喜んでくれたよ、と。息子はニコニコとしていて、彼もまた本当に嬉しそう。父親はそこで唐突に、ところでお前、あの娘さん(同僚教師のお嬢さんのこと)をどう思う、あの娘なら、お前の嫁さんに申し分ない、と切り出す。テレながらはぐらかして読んでいる本に目を落とす息子に「本なら後でも読めるぞ」と言う父親に苦笑して顔を上げる息子(この場面も、爆笑モノ!)。まんざらでもない、と思っていたらしい彼は、お父さんにまかせますよ、と一言。それはいい、これで私も安心だ、と、さらに嬉しそうな父親。こういう風に、子供の縁談をまとめちゃうのは現代ではまずありえないだろうけれど、でもこれもイイなあ、と思ってしまうのは、やはり笠智衆ゆえだろうか。いやいや、このお父さんは、息子のことをしっかり見ているからこそ、その息子があのお嬢さんのことを憎からず思っていることにちゃんと気付いて、だからこんな風に水を向けたのであり、現代ではありえない、というのは、現代の親子関係が、これほど密接ではない、という意味でなのかもしれなくて。

翌朝、父親は動悸をおぼえて倒れてしまう。病院に運び込まれ、息子と同僚教師とそのお嬢さんが見守る中、「ああ、いい気持ちだ……」とつぶやきながら、コトリと息を引き取ってしまう。たまらずその場を辞して、廊下で慟哭する息子。同僚教師がその後を追い、泣くことはない、お父さんは、本当に立派な人だ、そして立派な最後だった、と慰めながらも、やはり涙を流す。息子は言う。「僕はずっとお父さんと一緒に暮らしたいと思っていた。このたった10日間だったけれど、お父さんと一緒に暮らせて、本当に嬉しかった、幸せだった」と。……あれ?それともこれは、このお嬢さんと共に秋田に帰る車中で言っていたんだったか……ともかく、この息子の言葉に、私はもうとにかく涙、涙で。哀しいけどなんという幸福感なのだろう!!

それにしても、日本人というのは、こんなにも所作が美しかったのだ、……ほんの、半世紀かそこらでそれがこんなにも失われてしまったのだ。戸の開け閉め、来客者に対するきちんと座ってする子供の挨拶(同僚教師の下の子供がチャッカリモノで、笑わせる場面もある)、お仏壇のご先祖様(ここでは母親)に手を合わせて報告する姿……ことにこの場面、徴兵検査で甲種になったことを報告する立派になった息子、佐野周二を、嬉しそうに見つめる父親、笠智衆の姿とのコントラストの、感動的な美しさは!

ややローアングルの、ちょっと見上げたカメラ位置や、顔アップの反復や、そうした小津監督独特の手法がもたらす効果とか、そういう専門的なことは判らないんだけど、でもこの歳になって、10代の時には絶対に判らなかった親のありがたみとか、ほんとに身に染みて良く判って、とてつもなく、親孝行しなければ、と思った。父親に会いたくなった。でも、本作を観て、やっぱり結婚しないのって、凄く親不孝なことなのかな、なんても思ってちょっぴり心が痛い気もしたのだけれど。★★★★★


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