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「す」


2002年鑑賞作品

助太刀屋助六
2001年 分 日本 カラー
監督:岡本喜八 脚本:岡本喜八
撮影:加藤雄大 音楽:山下洋輔
出演:真田広之 鈴木京香 村田雄浩 仲代達矢 鶴見辰吾 風間トオル 本田博太郎


2002/3/4/月 劇場(有楽町スバル座)
なんつっても山下洋輔が音楽を担当すると、それだけでワクワクしてしまう。「荒野のダッチワイフ」は作品自体に圧倒されて音が小さく感じられたけど、「カンゾー先生」だ、そして同じ喜八監督の「ジャズ大名」だーッ!と思うと、もう胸が躍っちゃう。ジャズといえば、主演の真田広之は「真夜中まで」でジャズミュージシャンを演じたばかりだし、その辺の連鎖にもドキドキしちゃうんである。なんつったって、真田さんは日本で一番カッコいい男優だからねー!(ちなみに一番美しいのは田辺誠一。この二人はわたしの中での日本二大イイ男である。)「真夜中まで」でチラリと見せてくれ、「陰陽師」でチラチラリと見せてくれて復活の兆しが見えていた真田さんのアクションが本作でついに大復活の花開く!いやいや、まだまだ真田さんはこんなもんじゃないし、こうした殺陣アクションとはまた彼のものは別なのだが、とにかく、本格アクションをウリにしたという点ではかなり久しぶりである。しかもそのいでたち、あぶく銭で仕立てたとはいえ、粋な絹の着物を着崩し、さっそうとあらわにした盛り上がった筋肉でたくましく太い太ももが、ううッ、釘付けだわー!その上の××××のもりあがりは見ないようにして!?と、とにかくこれぞ大人の男が鍛えた筋肉って感じなのよ。実はちょっと「化粧師」で桔平ちゃん、やっぱりイイ男よね、などと思ったのだが、真田さんに比べたら彼もまーだまだヒヨッコ、積み上げられた役者の、そして男の素敵さには叶わんのよー!

それにしてもさあ、なんでまたスバル座なんかでやるわけよ!こんなとこに追いやらないでよう。日本の誇るスター男優の痛快娯楽作だっつーのに、ハリー・ポッターなんぞどこかに追いやってマリオンにかけてよッ!マリオンと日比谷映画街に挟まれた落ち所のようなスバル座は、今ひとつ集客力に欠けるんだもん。うー、何かくやしいよう。それにさあ、こういうのこそ海外に出したいと思う日本映画じゃない?主演スターが文句なくカッコよくて、日本の粋さが出てて、痛快で、って。それを「ハリー・ポッター」だの「オーシャンズ11」だの毛唐のかげに隠しやがって。許さーん!

実は、喜八監督作品とは、やはり真田さん主演の「EAST MEETS WEST」が初見という遅い出会いで、この「EAST……」が今ひとつピンとこなかったせいで、あまり心の片隅にも残らない監督のままになってたんだけど、また真田さんを起用したということもあるし(「EAST……」の一方の主役である竹中直人もしっかりチョイ出演!)今回のは何たって単純明快、難しいところがひとつもないという、今どき珍しい直球勝負がスカッとしてた。時代劇のこういう痛快さは、日本のひとつの文化よねッ!流れ者の助六がひょんなことから始めたあだ討ちの助太刀、これが病みつきになって、仇討ちがあると聞けば頼まれもしないのに助太刀を買って出る助六。ちょいとあぶく銭が出来たので、久しぶりに故郷に帰って母ちゃんの墓にお参りに行ってみると、息子の助六以外、親類縁者のいないはずの母ちゃんの墓に一輪の可憐な菊がそなえてある。はて……。

お察しの通り!この菊を供え、助六が遭遇する次の仇討ちの敵である片倉というお侍(仲代達矢)は、実は助六の父親であるという、ちょ〜う(超)ドラマチックな展開!彼に偶然?遭遇した助六は、敵討ちされるような悪人ヅラじゃねえなあ、と首を傾げる。いやいや、仲代達矢だったら充分悪人ヅラだと思うけど……(苦笑)。と、ともあれ、助六は一転、このお侍を逆に助太刀する気を起こすんだけど、行く手を阻まれ、阻まれ、そして助六が片倉こそが自分の実の父親だと知る頃には、片倉は敵の手におちてしまう。そして助六は父親のかたきを討つことを決意する……。

でも、こんな風に、例えば片倉が自分と自分の妻の分も戒名を用意してたりとか、助六が片倉こそが自分の父親だと気づくだとか、そうしたシリアスになりそうなところもホント一瞬だけで、なるたけ入り込まないところが、真田さんも言ってたけど、こういうのってついつい入り込みたくなっちゃうのが人情ってなもんだけど、ほんと、ドライなんだよね。父親のかたき討ちをすると決めた助六の描写にしたって、使う気もさらさらないからすっかり錆びきってさやから抜くのも四苦八苦(する真田さん、もとい助六の奮闘ぶりが最高!)する刀を両親の墓石!で研ぎだしたりする可笑しさでさあ。心配して助六の様子を覗き込む桶屋の主人と娘の方がよっぽどシリアス。あ、ところでこのタケノコと呼ばれている女の子が、時々劇団演技が入るものの、素直な感じでナカナカかわゆい。でも、このタケノコ、助六に小さな頃背負われていて、嫁にしてやるよ、なんて助六に言われ、くうーッ!ガキのくせに真田さんにそんなこと言われるなんてキィーッ、ナマイキ!と年甲斐もなく嫉妬をかきたてる!?実質的な相手役となる鈴木京香とより、ずっと心を通わせるシーンが多いんだもん、うらやましい!

何年前にはこうだった、とかいう、今や村の役人となったガキ大将仲間の太郎(村田雄浩)との会話などで、あれえ?一体幾つの設定なんだ?と思い、この仇討ちの検分役、つまりはこの仇討ちを影で仕組んだおエライさんに差し出すためにめかしつけているお仙(鈴木京香)がおぼこだとか言ったりして、ええッ!?鈴木京香が生娘の役うー!とびっくらしてたら、どうやら真田さん演じる助六は24歳、お仙はさらに若い設定!?うっそおー、いくらなんでもちょいとムリが……いやいや、でももしかしてホントに海外展開することがあったら、アジア人は若く見られるっていうから、このくらいがちょうどいい?で、でも10以上のサバ読みは……。

ラストのどんでん返し、火縄で撃たれたはずの助六が実は生きていた!ってのは、ちょっと読めちゃったかなあ。お仙がどの時点で気づいていたかは判んないけど、一人だけで助六の亡骸を埋めに行く、と馬に乗せ、町の人たちがにっくきお役人たちを総討ちにしたヒーローの悲劇の最期を泣きながら見送り、そしてこちらもすっかり騙されている太郎は、全てが終わったら久しぶりに一杯やる、という助六との約束を果たせず、一人涙と鼻水を(笑)流しながら杯を傾ける……。その頃助六は馬の上でお仙の足をスケベにまさぐり、その手をピシャリとお仙になぐられて、幸せな逃避行。ほとぼり冷めたらちゃんと太郎にも知らせてあげなきゃかわいそうだよー。

こういう、人情や友情に厚い役をやらせると、ほおんとよく似合う村田雄浩。そして仇討ちに隠された秘密に疑いを持ち、苦悩し、一人シリアスがなかなか泣かせる風間トオルは何だか最近とってもイイ役者っぷり。お役人の“おかず”になるのをイヤがるお仙のかわりに、遠くから望遠鏡で覗いているお役人に見せるため、赤いおベベを着て格子戸の内側をひらひら走り回る岸田今日子は、作品は後輩役者たちにすっかり任せて肩の力が抜けまくっているのがベテランの余裕で実に楽しい。ナレーターも兼任している彼女のそれも、あの独特のふよふよした喋り方が楽しげで、実に素敵。

国際映画祭を席巻している、俊英たちのとんがった日本映画ももちろん素晴らしいのだけど、本当はこういう映画こそ海外に出したいんだよねー、ホント。★★★☆☆


SPY_N雷霆戰警/CHINA STRIKE FORCE
2001年 91分 アメリカ=香港 カラー
監督:スタンリー・トン 脚本:スタンリー・トン/スティーヴン・ホイットニー
撮影:ジェフリー・G.ミガット 音楽:ネイザン・ウォン
出演:アーロン・クォック/藤原紀香/ワン・リーホン/クーリオ/マーク・ダカスコス/ルビー・リン/ラウ・シュミン/ロウ・ホイカン/ポール・チャン

2002/7/22/月 劇場(銀座シネパトス)
もちろん藤原紀香嬢の頑張りは素晴らしい。それは疑いもないところで、スクリーン映えするゴージャスな彼女をテレビだけにとどまらせるなんて犯罪に近く、それもこうしたハデハデの映画こそ似合うような、実に稀有な日本女優なわけで、彼女の活躍は本当に嬉しいんだけど、作品自体にノレるかというと?それに勿論日本では藤原紀香主演でバンバン売っているんだけど、クレジットは二番目で……この一番と二番の差というのはかなり大きく、ああ、アーロンの映画なんだなあ、という印象が強い。多分監督側としては、彼女がここまでスタントなしにこだわって頑張るとは思っていなかったんじゃないのかなあ。実際いくらなんでもムチャだもん、あのクライマックスは!しかしやはりやはりアーロン映画なわけで……期待するほど紀香嬢の登場場面が多くはなく、殆ど彼女をだけ観にきているようなこっちとしては待機時間がかなり多いという(笑)。

香港映画での吹き替え拒否といえば、常盤貴子の「もういちど逢いたくて/星月童話」の台詞でのそれを思い出すが、あれが思いっきり裏目に出て、しかも彼女の演技も壊滅的で惨憺たる結果に終わったのに対して、ここはさすがナニワのど根性、藤原紀香の面目躍如で、かなり成功している。ま、アクションじゃ水野美紀にかなやしないが(あー、なんで水野美紀が世界に出られないんだよう!)、何たって紀香嬢のゴージャスなこと!彼女自身が峰不二子を目標にしているというのが大納得のあの完璧なボディ!今までテレビに閉じ込めておいたのはホント、犯罪だよねー。思えばスクリーンに初めてお目見えした「CAT’S EYE」もそうした匂いを彷彿とするものだったけれど、どこかふんわかファンタジーに仕上がってて内田有紀嬢にヒロインを譲っていたような感のある「CAT’S……」でのウラミをはらすかのようなハリキリぶり。実際、彼女を湿度の高い日本映画で使いこなすなんてムリかも。もうバンバン海外出て行ってほしい。ちゃんと英語勉強してね。

彼女の役どころはインターポールのノリカ。しっかし、日本人でインターポールとか言われてもうっそお、と思うが、紀香嬢にそう言われると何となく納得してしまう?黒幕に近付くために全編お色気で迫る彼女は、大きく開いた背中をうなじに向かってカメラがずーっとナメていくシーンから始まり、振り向いてみればおお、ゴージャス紀香嬢で、銀白のドレスはダイナマイトな胸の谷間がアミアミになっている。ううッ、何か殆どギャグ並みのドレス。ロンチェンの顔役、マー師と観覧するファッションショーで殺人事件が起き、彼女は被害者の胸元からスッと一枚のフロッピーディスクを抜き取り、その豊かな胸元に隠す。それを見ているのが新人警官のアレックスで彼女のあとを追う。彼とコンビを組むダレン(アーロン・クウォック)の方は殺人犯人の方を追い、しかし双方ともにあと一歩のところで逃げられてしまう。

しっかし、今どきこんなスパイモノでフロッピーディスクなんてちょっとアナログじゃなかろうか。いや、ドクター中松にたてつく気はないけど(?)やっぱりここはCD−ROMかMOディスクぐらいにしといてほしいもんだね。しかもそのフロッピーを別の場面でノリカは風呂場?で投げてよこすんだから、おいおい、フロッピーは水に弱いんじゃなかったっけえ?さてさて、このチェイス場面からアーロン&ノリカは大活躍だが、クライマックスまではまだまだアーロンに軍配が上がるんだよね。だって、このカーチェイスのアーロンときたら、あんた死ぬでしょ!という凄まじさなんだもん。ラストクレジット前のNG集でももっぱら取り上げられているのはこのアーロンの頑張りばかりで、紀香嬢のが一つもない。ああ、やっぱりアーロン様サマの映画かい……。

紀香嬢初のアクション場面は、警官のタイをひっつかんで、手すりを乗り越え、下の階のフロアにふわりと飛び降りるもの。ウム、まさしく峰不二子である。冗談だろってぐらいのスタイルのよさ、足の長さでまったく見惚れるが、この場面からカットの多さが結構気 になってしまう。うーん、というかカット数で逃げ切るのは別にいいんだ。ただ、それならそれで最後までノセてくれよ、というのが正直なところで。実際、プロのスタントマンではないスターがノースタントでアクションをやる、という本作のような場合、ジャッキーのようにあまり長回しで撮れないのは当然であり、そこはカッティングで見せるべきで、まあ全般的に上手くいってはいるものの、なあんか時々、ダレたみたいにそのスピードが途絶えちゃう時があって、あら、あらららら?とこっちもダレちゃう。ほんの何箇所かのことなんだけど、正直展開も散漫だし(単純な話なんだけどなあ……それぞれのキャストに時間を割り振りすぎ?)余計に緊張感が薄れてしまう。うーん、ノースタントだという価値がどこまで通用するのかな、なんて思っちゃう。そう観客に思わせるのは、監督の落ち度だよなあ。

最初彼女は自らの素性を隠しており、しかも 彼女が近付いた麻薬密売人、クーリオ&トニーにハメられるドジを犯してしまって、マー殺害の被疑者として警察に引っ張られてしまう。その場面で以前からビュウチホウなノリカに釘付けだったダレンは、彼女とラブラブになる妄想(だよね。違った?)まで見てしまう……結果としてはギャグであるこの場面なのだが、アーロンってば彼女とのキスでしっかり舌入れてるし、もうノリノリ。四天王にのまれないだけのスター性はさすがは紀香さんよね。ヘンにいやらしくないお色気も魅力充分。いい太ももだわあ。

実はこの警官側、ダレン&アレックスが助けを仰いでいる側にこそ裏切り者がいて、長官がそうなんだけど、彼はノリカの素性をクーリオ&トニーにバラすことで自らの身を守ろうとするものの、非情なクーリオは迷いなくこの長官に銃を向ける。そしてそのとばっちりを受け、アレックスもまた銃弾に倒れてしまう。怒りを燃やしたダレンはヘリコプターで逃げようとするクーリオを猛然と追っかける!もちろんノリカはその前に追っかけてる!ヘリコプターにつながれた車にしがみつきながらクーリオを追跡する二人(確かに凄いシーンだが、このあたりもちょっとダレ気味)。しかし途中で建設中のビルに激突、三人は地上172メートルの高さから吊り下げられたバランスの悪いガラス板の上に投げ出される。シーソーのようにグラグラ揺れながら、あわや落ちそうに何度もなりながらその上でファイトを繰り広げる三人!

……などと感嘆符をつけてしまったけれども、このシーン、確かに恐怖感はものすごいのだが、ノースタントの三人の勇気も素晴らしいのだが、何せノースタントなので……目に映る感じとしては三人ともひたすら腰が引けている印象であり、ファイトシーンというよりも、落ちそう、落ちそう……というところにばかり目が行ってしまう。純粋に映画としての完成度を考えるなら、スタントやCGもある程度は使うべきだった?まあ、ここの場面はアーロン、紀香嬢、クーリオそれぞれのファンが固唾を飲んで見守る、ということに価値が置かれる場面であり、それぞれの国からトップスターを持ってきているから、意味のある場面では確かにあるんだけど。実際、紀香さんは世界にド根性をこれ以上なくアピールしたと思うしね……何たって紅一点なんだから。もう一人、アジアのスターとして出ているルビー・リンがひたすらにっこりのみのお嬢な役だから、余計に紀香さんの頑張りが光ってる。

ところで、このクライマックスで、爆発して上から落ちてきた車でガラスがこっぱみじんに割れてクーリオが落ち、そして落ちそうになったノリカをダレンがひしとひっつかんで、という場面でいきなりブラックアウトしちゃって、次の場面ではノリカを空港に迎えに行くダレン、に飛んじゃうんだけど、いやいやいや、あそこはまだ助かったって場面じゃあなかろうに?も、もんのすごいご都合主義……あ、でもどことなく「北北西に進路を取れ」風?なーんて。

アクションじゃ頭ひとつ抜けているであろうトニー役のマーク・ダカスコス活躍の場面が殆どなかったっていうのもナンだけど……。それと英語台詞をキメキメで喋る紀香さん、眉毛がすっごい大仰に動いちゃって、意味なくギャグ味をそそっちゃう。海外進出を考えている役者はやっぱり英語修得は必要だわねー。★★☆☆☆


スパイダーマンSPIDER MAN
2002年 分 アメリカ カラー
監督:サム・ライミ 脚本:デヴィッド・コープ
撮影: 音楽:ダニー・エルフマン
出演:トビー・マグワイア/ウィレム・デフォー/キルステン・ダンスト/ジェームズ・フランコ/ローズマリー・ハリス/J.K.シモンズ/クリフ・ロバートソン/

2002/5/26/日 劇場(錦糸町シネマ8楽天地)
こういう、伝統的ファンが根付いているコミックの映画化作品はやはりどことなく書きにくいものを覚えてしまう。うーん、私スパイダーマンのこと何も知らないからなあ。コミックは勿論、テレビ版になったものも全然観たことがない。本当に名前だけしか知らないんだよね。だったら何で観に行ったのかといえば、それを演じるのがトビー・マグワイアだったから、というのが大きいよなあ。無論、サム・ライミ監督というのも魅力で、彼は近年シリアスな作品も撮っているけれど、「キャプテン・スーパーマーケット」とかすっごく好きだったので(実はサム・ライミ監督の代表作たる「死霊のはらわた」あたりは観ていないんだけどね。でも「キャプテン……」は実は「死霊のはらわた」のパート3だということなんだけど)、スパイダーマンだったらそういうテイストのものを観られるんじゃないかなあといった期待もあった。

でもやっぱりトビー・マグワイア。この人のどこかキモチワルイ、何考えてんだか判んないような資質が、ふにゃふにゃとした自由自在な粘土のような感じで、さまざまな素材に柔軟に変化する。役へのすり寄り方がそんな感じで、役者として非常に面白い変化の仕方。しかしまあ今回は、スパイダーマンの前に基本としてあるキャラ、メガネにダサダサの超奥手、科学が得意で、叔父夫婦に育てられてる親思いならぬ叔父叔母思い(しかもこの叔父叔母、というのが祖父母を連想させる年老いた夫婦であるというのも、イメージなのよね)の優しい男の子というのが、そのふにゃふにゃした資質の中でも一番外見やイメージ的にピタリと合っており、変化する部分はやはりスパイダーマンとなってから、なのである。学校新聞のカメラマンというアクティブな面を持っているのは意外ではあるけれど、科学賞をとるとか、顕微鏡のことに詳しいとか、あ、何かすっごくトビーっぽいなあ、って感じ。いや、どちらかといえば文系タイプで「ワンダー・ボーイズ」の時の彼の方がドンピシャだった気もするけど、まあとにかく本や活字、知識が似合うのよね。そういう役者ってなかなかいない。

そのトビー、おっと、もといピーター・パーカーがスーパースパイダーに噛まれて(さされて?)スパイダーマンへと変身する。手足の粘着力が強くなり、反射神経が異常に鋭くなり、手首からは強力な糸が飛び出す……とここまでは何となく了解できるけど、怪力まで備わるのはこれいかに?クモって怪力だったっけ?……まあ改良されたスーパースパイダーだからなのかな。そうでなければこんなに強力な、ゴンドラまでもささえちゃうクモの糸だなんてちょっと出来すぎだもんね。しかし、この能力を身につけた直後のさまざまな場面はかなり、かーなりギャグ味がきいてたなあ。あっ、もうサム・ライミ監督だ!って嬉しくなっちゃう。食堂で足を滑らせたヒロイン、MJをとっさに抱きかかえて宙に放り投げられたトレイや食器まで完璧に受け止めちゃったり、クモの糸を飛ばして食事を“捕食”し、それを後ろにすわっていたMJの彼氏の悪ガキ(って年でもないけど、何かそんな感じ)にベシャとぶつけるとか、極めつけはそのあとのこの彼とのケンカで、相手の繰り出すパンチがピーターにはスローモーションで見えてしまうという(大笑)。

どうやら自分はクモの能力を身につけたらしい。そう悟って糸を飛ばす練習をし、街中をフライングしまくるピーター。ここから始まるスパイダーマンの素晴らしい跳躍シーンの数々は、やはりこの時代を待たなければいけなかったんだよねえ。しかしアレね。クモにかまれてこんな異常体質になったんなら病院行きなよ、とか思うのは反則なんですかね?だって気になるじゃない……いくらスーパーマン的な能力を身につけたからって、その代わりに毒素が入ったことで早死にしちゃうかもしれないとか考えないのかなあ、なーんて。ま、とにかくこの能力を身につけた最初のうちはそれを生かす術を知らず、ただただ有頂天になってプロレスラーに挑戦とかしちゃって、でもそうした自分の能力への過信が原因で愛する叔父さんを殺されてしまうことになっちゃう。しかもその犯人を憎しみから殺すも同然に死なせてしまい、あわれピーター君は深く苦悩することになる。最近のピーターを心配して最後に残した叔父さんの言葉、大いなる力には大いなる責任が伴う、というその言葉を彼は深く胸に刻み込む。

ここからが本当の意味でのスパイダーマン。進学のためニューヨークに出た彼は、正義の味方として街中の悪を倒すことに情熱を捧げる。ご自身の手作りっぽかった、Tシャツにジャージみたいなクモ人間スタイル(クモ人間と言い張ってたのも可愛かったよね。トビーぽくて)から、潜水スタイルみたいなスタイリッシュなスパイダーマンへと変身して。しかしさあ、この“衣裳”はまさか自分じゃ作れないよね?ということはどこかで作ってもらうってことで、そしたらスパイダーマンの正体なんてその筋から簡単にバレそうじゃない?……ああああ、私って何でこう、夢のないツッコミをしちゃうのかしらあ。で、でも気になっちゃうんだもん。こういう感じで……とか衣装のオーダーしてたり、あるいは実は服を作るのが超得意で、自分でミシン踏んだりしているピーターとか想像しちゃって(笑)。

ところで、ピーターには兄弟同様に育った幼なじみがいて、その子はピーターが太刀打ちできないお金持ちのハンサムのお坊ちゃま、ハリー。ピーターがうじうじしている間に好きな女の子もとられちゃう。しかしそのハリーのお父様、ノーマンが自らが作った会社から破門されるピンチになり、仕事に心血を注いでいた反動から精神が分裂しちゃったのか、ノーマンは自分では制御できないもう一人の自分を生み出し、それが悪の化身、グリーン・ゴブリンとなって暴れ回る。これがスパイダーマンの敵となるわけ。この役がウィレム・デフォー御大ですよ。地の顔からすでにコワいのに、メタルなよろいに身を包んで、顔も殆ど隠れちゃうにもかかわらず、やっぱりデフォーなんだな!さ、さすが……。結局ね、このゴブリン、もといノーマンとの死闘と彼の死に際の懇願で、“大いなる力には大いなる責任が伴う”スパイダーマンであるピーターは親友であるハリーから憎まれ、ヒロインのMJから夢だった愛の告白をされても退けなければならない。この実に苦いエンディングにかなり呆然としながらも、あ、でもこれって続編につながってく後味だよねえ、きっと。

大いなる力には大いなる責任が伴う、かあ。これって今のアメリカ自身にその意味するところをもっと深く考えてもらいたい言葉。無論、世界の大国であるアメリカが自身を意識して出た言葉だというのはそうなんだけど、もっともっと深く意味するところをね。だって今のアメリカってこの言葉を表層的に理解して、尊大なリーダーシップを振り回しているようにしか思えないんだもん。このピーター=スパイダーマンのように、自己の痛みをその代償として考えているとは到底思えないもんなあ。痛みを痛みとして投げ返しちゃってる感じ。あの事件があったニューヨークが生み出したスーパーヒーローで、予告編では、今はなき世界貿易センタービルにクモの巣を張っていたという因縁つきのこの作品、勧善懲悪だけの物語ではないんだから、やはりそこを深く汲み取ってもらいたいし、汲み取りたいよね。

ところで、クモってその属だけで他の生物からの関連や影響が全然ない、その種族だけで知恵と力を頼りに生き延びてきた、実に稀な生き物なんだって……というのはたまたま読んでた稲垣足穂からの孫引き知識だけど。このスパイダーマンの強さと孤独とピタリと合致するんだなあ。ふ、深い……。★★★☆☆


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